ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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久しぶりの更新ですが、今回ベルはでません。申し訳ない。


第39話 ベルを探しに行くと………

 ベル達がアイズと会いロキ・ファミリアのキャンプに向かってる頃、ベルを救出するというお題で集まった救出部隊はというと…………。

 

「どうせ無事なんだからもう帰ろうよ……っていうか、か・え・せ!! 僕は明日早いんだぞ!」

 

 ヘルメスによって米俵のように抱えられているヘスティア。そんな彼女の喚きを聞き流しながらダンジョンを進んで行く一同の姿がそこにあった。

 今回の事の発端を言えばタケミカヅチ・ファミリアの子供達がベルに怪物進呈をしたのが原因であり、その罪滅ぼしというべきなのかこのようにベル達の救出を買って出た。それにどういうわけかやってきたヘルメスとその眷属であるアスフィ・アンドロメダがベルに用があると言うことで参加。そこに戦力増強ということでヘルメスの知り合いらしい冒険者を一名加えての作戦開始となった。

 皆やる気を見せているようだが、ここでやる気が全くない者が二人………それはベルの主神であるヘスティアと参加を決めたくせに顔を真っ青にして怯えているヘルメスだ。

 普通に考えれば眷属の窮地に心配しないなんておかしいと言われそうなものだが、ヘスティアはベルが『冒険者に収まらない戦狂い(薩摩兵子)』であることを知っているので寧ろ心配する方がおかしいと達観している。今回だって行く気は全くないのにヘルメスの所為で強制的に連れてこられたに過ぎない。

 そしてヘルメスが何故こうも怯えているのかといえば、彼はこの中で唯一『ベルの師匠と会った』ことがあるからだ。その結果、薩摩兵子の恐怖を徹底的に叩き込まれてしまい神すら震え上がらせることに。つまりヘルメスは純度100%の薩摩節をくらい魂がへし折られた。そういうことである。そんな恐怖の対象からベルの様子を見てくるよう頼まれた。虚偽の類いはどういうわけか一切通用せずに見破られ刀の錆になりかけたのだからその恐怖は凄まじく、本人からしたらやりたくないがやらなければ見破られて命の危機という状況に。結果やけくそ気味にヘスティアを拉致同然に引っ張り込んで参加を決めたのだ。

 以上、やる気などまったくないヘスティアと自暴自棄になっているヘルメス。そんな二人と共にやる気に満ちた救出部隊一同。その道中にモンスターに出くわすことが何回かあり、そこでアスフィと助っ人の冒険者の強さを披露されることに。助っ人がレベル4並の強さがあるとタケミカヅチ・ファミリアの者達は興奮気味であったが、ベルの暴れっぷりを見たことがあるヘスティアからすれば可愛いものである。寧ろ生々しさがないだけに微笑ましいと感じてしまうのは彼女の精神が摩耗し末期に差し掛かっているからなのかも知れない。

 そんな感じで進んでいくわけだが、ベル達の痕跡はまったく見えない。遺体があるわけでも血の跡があるわけでもない。怪物進呈された場所に到達してみれば、あるのはかなり大暴れした後の荒れた地面くらいなものである。

 

「この感じからして無事………ですね」

 

 助っ人がそう漏らし、それに同意するアスフィ。レベル4の冒険者になれば戦った跡からある程度の戦況が分かるらしい。それを聞いて少しばかりホッと胸を撫で下ろすタケミカヅチ・ファミリア達。自分達の所為とはいえ無事ということがわかり若干落ち着いたらしい。

 そんな冒険者達と違い『薩摩兵子』を知っているヘスティアとヘルメスは疲れた溜息を吐いた。

 

「だから言ったじゃないか、ベル君ならまず大丈夫だって。だってアレだぜ、手柄があれば喜んでモンスターの群に飛び込んでいくようなタイプなんだからさ。この程度で死んでるならまだ良心的だよ」

「言うなよヘスティア、俺だってそれは分かってる。だって俺はそのベル君の『お師匠』に会ってるんだぜ? 俺が知る限りあれは人間じゃなくて化け物だよ。恩恵なんてないのに暴れてる姿を見ればあれはアスフィ以上だぜ。アレは所謂太古の英雄とかそんな部類に違いない。生憎英雄なんて格好いいもんじゃなかったが………。そんな化け物の弟子だ、この程度なら余裕でクリアしてるだろうよ」

 

 薩摩兵子という常識外を身をもって知っている二人からすればこの程度は朝飯前だろうという感想しか出ない。二人は知らないがベルはレベル7のオッタルとぶつかり合う程の実力があるのだ。この階層のこの程度の怪物進呈なぞ戯れにしかならないだろう。

 

「ねぇ、ヘルメス。僕、もう帰っていい? この場でベル君が無事ならもう大丈夫でしょ」

 

 ベルが死んでないのは一応眷属として契約しているので分かってるヘスティアはもう帰りたいと問いかける。正直ベルの所為で振り回されるのは懲り懲りなのであった。

 そんなヘスティアにヘルメスは泣きつきながら担いでいる手にギュッと力を込めた。

 

「いや、無理だから。ここまで来て帰るとかないからな、ヘスティア。ベル君が無事なんていうのはあの師匠をみてれば即分かることだから。俺がしなきゃならないのはベル君の様子を見てくることだから、彼に会うまで帰れないんだって。ここでバックれたら絶対にバレて斬られちまうよ。お前は俺の地獄への道連れだ」

「こいつ、ついに隠す気もなくなったよ、チクショーめ!」

 

 自暴自棄になっているヘルメスにとってヘスティアは自身の精神安定剤替わりらしい。ヘスティアからしたら御免被りたいが、同じ認識を持つ者同士としては一人よりも二人の方がマシなんだとか。とんだとばっちりだとヘスティアはヘルメスを罵るが、ヘルメスはそれを聞き流す。自分のプライドより命の方が大切。ある意味神よりも人間していた。

 さて、そこからが問題であった。

怪物進呈をした場所から無事であるのなら、無事の可能性がデカいということ。そこから移動したのなら、今度はどこに向かうのか? 行方が分からない以上、そこから先にどう動くのかが予想出来ないのであった。

 

「普通に考えれば上層に上がり帰還してるはず」

「でも未だに見つかってないし、ここまで来る間にくまなく探したけど見つかってないよ」

「だったら………まさか下に!?」

 

タケミカヅチ・ファミリアの面々からそんな感想が出ており、それを聞いたアスフィと助っ人は可能性を含めて考える。

 

「もしかしたらパーティに怪我人がでたのかもしれない。そうなった場合なら下手にダンジョン内を彷徨うより下の安全地帯である18階層に向かったのかも知れない」

「その方が効率がいい。どれだけの怪我かは分からないけど、その方が生存するための可能性が高い」

 

 実に冒険者らしい考え方にヘスティアは聞いていて寧ろ微笑ましさすら感じてしまった。

 

(あぁ、これが本当の冒険者ってやつなんだなぁ………それに比べてベル君は…………)

 

 冒険者なんて存在の在り方からぶっ飛びすぎた眷属にヘスティアは胃が痛くなり手で擦り始めた。

 どうやら冒険者の常識から考えるとパーティー内で何かしら問題が起き、その為少しでも生存率を高める為に安全地帯である18階層に向かったらしい。普通ならそうらしい。

 だが待ってもらいたい。あの『薩摩兵子』であるベルがそんな事を考えるだろうか? 紳士な時ならいざ知らず、戦闘時は安全なんて言葉をゴミ箱に捨てるようなあの『薩摩兵子』である。生存率を高めるなんて理由で逃げるかのように安全地帯に向かうだろうか? 答えは否である。薩摩兵子は戦狂い。手柄を立てる為なら自分の怪我なんて無視して暴れ回る化け物である。

 故にそれを知っている………身をもって刻まれてしまっているヘスティアとヘルメスは自分達の体験から考えることにした。

 

「ベル君のことだから、どうせ怪物進呈された後に更に昂ぶってモンスターの首を狩りに行ったんじゃないかな。手柄だ手柄だって殺しまくってる姿が目に浮かぶ………」

「薩摩の人ってのは相手の首印が手柄だって言ってたからなぁ。それも相手がより強くて上の奴なら尚更手柄らしい。量か質か、ってやつらしいけど………」

 

 そこで考えられるのがパーティーに問題があるのではなく、ベルが更に猛って下の階層に向かったのではないかということ。

して下に向かう理由に更に何かないかとヘルメスはアスフィに問いかけた。

 

「なぁ、アスフィ。ここから18階層までの間にかなり強いモンスターかレアなモンスターっていたっけ?」

「強いモンスターとかですか? でしたら17階層『嘆きの大壁』に『迷宮の孤王』であるゴライアスがいますけど………でも少し前にロキ・ファミリアが遠征に出ているという情報がありますし、既に倒されているはず…………」

 

 そう答えるアスフィだが、ロキ・ファミリアの遠征の情報から考えてもしかしたら復活しているかもしれないと考え始めた。時期的にギリギリ復活してもおかしくないらしい。だとしたらこのままこのパーティーで行くのは危険かも知れないと。

 だが、それを聞いたヘルメスは確実に確信するためにヘスティアに話しかける。

 

「ヘスティア、どうやらこの先に『薩摩兵子』でいう『大将首』らしいモンスターがいるらしいんだが………逝ってると思うか?」

 

 その問いかけにヘスティアは疲れ切った溜息を吐きながら答えた。

 

「確実に逝ってるでしょ、それ。あのベル君が大手柄を前にして待つわけがない。決まりだね」

「あぁ、そうだな………これだから『薩摩兵子』ってやつは………はぁ」

 

 互いに心底疲れ切った溜息を漏らす二人。そしてヘルメスはアスフィに話しかけた。

 

「アスフィ、ベル君達は確実に17階層に向かった。きっとそのゴライアスと殺りあっているはずだ」

「なっ!? いくら何でもそれは……………レベル2に到達したばかりとはいえ流石に危険過ぎます。ゴライアスはレベル4の冒険者でも複数で挑まなければまず勝てない相手ですよ! それに挑もうとするなんて………無謀としか言い様がない!」

 

 アスフィの反応の尤もな話であり、それが冒険者の常識。端から聞けばレベルアップで調子に乗った間抜けが無謀にも蛮勇を示しにいったようにしか聞こえない。まず犬死にまっしぐらな案件である。

 だが、それはあくまで『冒険者らしい常識』だ。

冒険者の常識からぶっ飛んでる『薩摩兵子』からすれば寧ろ逆。目の前に大手柄がいるのだ。取らずにはいられない。

 そうと決まれば簡単だとヘルメスは皆に声をかける。

 

「ベル君が下の17階層に向かったのは確定だ。早く向かおう」

 

その言葉にタケミカヅチ・ファミリアには激震が走り、そして急いで向かおうと早足になった。そんな彼等を見ながらヘルメスやヘスティアは思う。

 

((あんな風に焦れればなぁ………まだ可愛げがあるもんだ))

 

 そんなわけで救出部隊一同は17階層に向かうことになり、そして……………。

 

 

 

 

『なんだ………………………これ……………!?』

 

 一同は目の前の状況に驚愕し息を飲んだ。

あの『嘆きの大壁』が酷いことになっていたからだ。基本、この階層は広い空間でそこまで岩が出ていない比較的平坦な空間なのだ。

 だというのに、彼等の目の前にあるのは『酷く荒れ果てた荒れ地』であった。

地面は砕けて陥没しクレーターをいくつも作り、代名詞である大壁もかなりひび割れ砕けていた。まるでゴライアスが暴れ回ったような感じであり、きっとそうなのであろう。一部では大きな拳の後がくっきりと残っている。

 そうなれば当然ベルの安否を気にするのが救出部隊というものだが、それはヘルメスが見つけたものによって確定した。

 

「あぁ、やっぱりというべきか流石はあの人の弟子というべきか………こりゃ神々と冒険者に真っ向から喧嘩うってるんじゃないか? ほら、これ見てみなよ」

 

ヘルメスが指した先にあるのは何か巨大なものを引き摺った跡。それはこの階層の出口、すなわち18階層に向かって伸びている。

そこから推察される答えを先にヘスティアが口にした。

 

「どうやらベル君が暴れて勝ったらしいね。その戦利品の魔石が引き摺られた跡って所じゃないかな、これ」

「だろうね。それに周りを見ても血の跡とかが見えない辺り、案外余裕で勝ったんじゃないか? つくづく化け物というべきか………薩摩兵子は人間辞めてるんじゃないか?」

「それは僕も同意だよ」

 

神二人の疲れ切った溜息に救出部隊が言葉を失っていた。

 

 

 こうしてベルが18階層に向かったのは明白であり、そしてこの後一同は直ぐにベルと合流することになるのであった。


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