ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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リアルで移動やら応援やらで仕事が忙しすぎてしんどく、スランプから抜け出せない………。


第13話 ベルはサポーターを雇う。

 彼女はこれから行う行動に対し、内心は冷や汗が噴き出していた。

いつもの彼女ならまず取らないであろう行為。リスクとリターンを天秤にかけ、必ず安全策をとっていた彼女にとってまずあり得ない暴挙。

明らかにいつもの自分とは違う矛盾に苛立ちが収まらなくなるのを堪える。

本来ならこんな危ない橋は絶対に渡らない。

だが彼女は最近焦っていた。これまでのように行動していては間に合わないと。

最近自分のことを嗅ぎ回っている人達がいることに気付いた。それが同じファミリアの人間であることも。そして隠れてその者達のことを見て確信した。

 

あぁ、こいつらは自分の金を奪おうとしていると。

 

どこで自分がそれなりの金を集めていることを知ったのかは知らない。

だが、連中の卑しいニヤケ面ともう金を手に入れたかのように愉快げに話す様子を見て確信した。

だからこそ急がなくてはならない。

実に不本意ながら、自分ではどう足掻いても彼等には敵わないことは分かっている。身体能力では勝ち目など絶対にない。だが、悪知恵ならば負けはしないと彼女は考える。

連中がこちらの金を奪う前に、こちらが持つ金を別の場所に移さなければならない。その為にはまた別に金がかかるのだ。金を隠す為に金がかかるというのは何という皮肉かと思うが、それでも自分の持つ全財産を奪われるよりは断然マシだ。

そのためにも金が急務であり、より稼ぐには『お宝』を持っているであろう冒険者から奪うのが一番だ。

そういった事を考え、最近噂に名高い『彼』に目を付けたのだ。

噂は眉唾な物もあるが、彼がどうであれ強いというのは皆の噂の中心になっているのだ。二つ名も出てこない不気味な人物ではあるが、それだけ強いのには『ナニカ』あるんじゃないかと疑うのは当然であった。それがどのようなものであれお宝なのならば途轍もない価値が付くはずだと彼女は踏んだ。

だからこそ、彼女はこうして賭けにでたのだ。自分の未来のために…………。

 

 

 その日もベルはいつも通りであった。

ダンジョンで手柄を立てるべく、いつもと同じ『冒険者としては常識外に他ならない』格好で緊張のきの字もなく、まるで散歩に出かけるかのように軽快に歩く。

命がいつ消えてもおかしくない場所にこれから向かうにしてはあまりにも落ち着きすぎでいるだろう。普通の冒険者ならこうもリラックスしてはいない。それもソロなら尚更気を引き締めているはずだ。

だがベルはそんなことにはならない。

死ぬかもしれないことは当たり前だからこそ、それを普通に考え受け入れている。潔いのではない。それが普通だというだけ。いつ死んでもおかしくないのが普通。その精神はまさに異常という他ない。

だが………だからこそ、ベルはベルなのだ。戦に手柄を求める功名餓鬼とは、戦で死ぬことすら厭わぬ薩摩兵子とは、そういうものだから。

だから彼に気負いというものは皆無。その心はいつもと変わらず『常在戦場』である。戦うことが常日頃当たり前……まさに戦狂いに他ならない。

 手柄を立てることが楽しみで仕方ない様子は子共のようで可愛らしさすら感じさせる。端から見たらそのように見えるが、まさか考えていることが物騒極まりない事を誰が知ることができようか。

知らぬが幸せという他ないベルの思考に振り回される二人の女性の頭痛と胃痛など知らぬベルは実に楽しそうだ。

そんなベルに向かって声が掛けられた。

 

「おにーさん……そこのおにーさん!」

 

それは耳に心地よい幼い声。まるで幼子が年上の男を兄と慕うかのような、そんな声。

それがベルに向けられているとは本人は思わなかったのかもしくは聞こえていないのか、ベルは止まらずに歩き続ける。

止まらないベルにその声の主は焦ったのか、より大きな声でベルを呼んだ。

 

「お~に~い~さ~ん~! そこの白い髪のおにーさん!!」

 

自身の特徴である白髪を言われ、どうやら自分の事を呼んでいるとやっと理解したベルは声がした方へと顔を向けた。

その方向にいたのは小さな女の子。その小さな身体にはあまりにも似合わないほどの大きなバックパックを背負っていた。

 

「初めまして、おにーさん」

 

まるで砂糖みたいな甘い声でベルに話しかける少女。そんな少女を見てベルはあっと内心思った。見覚えがあるのだ………それもごく最近……正確には昨夜に。

だからベルは普通に話しかける。

 

「あぁ、昨日の子か。あれから大丈夫だった?」

 

普通の対応。そんな対応に対し、少女は何もしらないといった様子で首を傾げた。

 

「何を言ってるんですか? リリは初めておにーさんと会ったんですよ? 混乱してるんですか? そんなことよりおにーさん、今の状況は簡単ですよ。 冒険者さんのお零れに預かりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」

 

自身のことをそう語る少女。どうやら彼女は『サポーター』らしい。

サポーターというのは冒険者をサポートする存在で有り、魔石やドロップアイテムなどの収集を手伝ったり荷物持ちをするのが主な仕事である。基本冒険者に向かない者や、ファミリアの下の団員がやったりしている。冒険者と違い職としての認識は低い。

彼女の言葉の通り自分を売り込みに来たらしい。

そんな彼女を見てベルはやはりと思った。その存在感が少しおかしいと。

何故分かるのかなど言われても言葉では説明しづらい。勘としか言い様がないが、それでもベルは自分が感じ取ったものを信じた。

そしてもう一度確認する。

 

「いや、そうじゃなくて……やっぱり君、昨日の小人族の女の子だよね?」

 

ベルのその問いかけに少女は不思議そうに首を傾げた。

 

「小人族? リリは獣人、犬人なんですが?」

 

そう答えると少女はそれまで被っていたフードを外した。

そこから出てきたのはぼさぼさとした栗色の髪と、そしてその髪が覆う頭にちょこんと生えた犬の耳。それにだめ押しだと言わんばかりに彼女の尻辺りで尻尾がふりふりと揺れた。

確かに見覚えのある少女ではあるが、種族が違えば流石に別人だろう。

そう誰もが思うのが当たり前である。

ここで本来の道筋を辿るはずだったベルなら、その少女の犬耳を確認のために触り、その所為で少女が幼い見た目に反し艶やかな喘ぎ声を出すという思春期の男には多少刺激が強いイベントが起こるのだが……………。

 

この男に限ってそれは絶対にない。

 

この男はそんなことに興味など示さない。

この男は人を見た目で判断しない。例え種族が違うとしても、そこで彼は人を見ない。

ベルはそう答える少女の顔にそっと両手を添える。

 

「え? えぇ!?」

 

一気に近づいたベルの顔と顔に添えられた両手の感触に少女は困惑すると共に顔が熱くなるのを感じた。これまでの人生色々あった彼女ではあるが、流石に同じくらいの年頃の異性の顔がここまで近くにあるのは初めてであり、それ故に年相応に混乱したのだ。

そんな彼女のドキドキとした思春期らしい困惑などまったく気付かないベルは彼女の顔………正確には彼女の見開かれた目をじっと見つめる。

全てを見抜くかのように真摯に、それでいて絶対に逃さないというような鷹のような目をして。

その時間がどの程度であったのか彼女にはわからない。見つめられている間はまるで時間が止まったように感じられて、一時間にも二時間にも感じられた。

そんな風に思っている彼女にベルは全てを見切ったかのように彼女に話しかける。

 

「君は嘘をついている。君はやっぱり昨日あった女の子だ」

 

確信を持ってそう間近で言われた彼女はドキドキが止まらないどころか言い当てられたことに別の意味でのドキドキも重なって心臓がどうにかなりそうだと思いつつも何とか言葉を振り絞る。

 

「な、何言ってるんですか? さっきも言いましたけど、リリは犬人ですよ。おにーさんが言ってる人は小人族なんですよね。だったら別人ですよ」

 

彼女はそう答える。それが当たり前で有り当然の答えである。

それが世界の常識だと言っても十分通用するレベルの話。

だが、ベルはそれを真正面から否定した。

 

「何で君の種族が違ってるのかなんて知らない。僕は魔法とか魔道具とかそういうのは全然知らないから、もしかしたらそういう風に格好を変える物もあるかもしれない。だけどそうじゃない…………その目だ。その目は昨日見たものとまったく同じだ」

 

目を見つめられながらそう言われた彼女はぞくりと背筋が凍りつくような感触を感じつつも小さく漏らす。

 

「目………ですか?」

「あぁ、そうだよ。君のその目だ。それは何か追われている者の目だ。そしてそれに恐れと怒りを抱いている、そんな目だ。そんな目をした人物に早々出会う事はない。それも同じ見た目で……何よりも同じ気配をしている人なら尚更に。いくら見た目を変えようと駄目だ。その目が、その瞳が物語っている。昨日あった小人族の女の子が君だってことを」

 

確信をもったまっすぐな瞳。

それに全てを見透かされ、彼女は逃げることが出来なくなった。

その目をみれば分かる。あれは絶対に逃さないし見誤らない。ただ真実だけを見抜くのだと。

だからこそ、これ以上隠せないと彼女は思った。思ってしまった。隠そうとしても絶対に無駄だと。

そして同時に失敗したと思った。やはり賭けに出るんじゃなかったと、後悔が心を占めていく。

何故ベルが強いのかは分からない。でも、彼女の『これ』を一目で見抜いたのはベルが初めてだった。そんな凄い相手に自分は騙せるなどと思い上がったのは明らかな失敗だ。

だからもうベルと関わるのは止めて急いで逃げようと、彼女はそう思う。

見抜かれてしまった以上、下手に彼を騙せばどうなるかわからない。最悪彼女の『これ』が暴かれて今までやってきた悪事が露呈する恐れがある。そうなったらもうおしまいだ。今まで騙してきた冒険者達が挙って彼女に仕返ししに来るだろう。そうなったら、死ぬことすら生ぬるい凄く酷い目に遭うに違いないと。

その事が頭に過ぎり彼女は恐怖に身体を震わせた。

そうならないためにもこの場でベルに謝罪し逃げなくては…………。

彼女はそう考え口に出そうとしたが、それよりも先にベルが口を開いた。

 

「君の名前は?」

 

突如そう聞かれ、それまであった思考もあって彼女は困惑を隠しきれずに答えてしまう。

 

「り、リリです……リリルカ・アーデ………」

「そうか、リリルカさんか」

 

ベルは彼女の名を聞いてそう呟くと、再び彼女の目を見つめた。

 

「君がどうしてそんな目をしているのか僕は知らないし、君も知られたくはないみたいだからこれ以上は何も言わない。だけど………せっかくこうして会えたんだ。そのままお別れというのは少し寂しいかな」

 

苦笑交じりにそう言うベルの顔は少し悲しそうで、そんな事を言われてしまった少女………リリルカはとくんと心臓が高鳴った。初めての事に彼女自身戸惑ってしまい何故だかベルから目が離せなくなる。

 

「あ、その…………」

 

上手く言葉が出ない。

そんな彼女にベルはニッコリと笑いかけた。

 

「だからさ、さっきの話を受けようと思う。サポーターがいた方が僕も戦いやすいからね。まずは今日一日だけでいいからさ」

 

こうしてリリルカは思惑通りといかずとも、何でか知らないがベルと一日サポーターとして契約することになった。

胸のドキドキは未だに収まらないが、何故かそれが心地よかった。

 

 

 

 

「その首をっっっっっっ置いてけぇえええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッ!!」

 

早速後悔し始めた。


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