終末の夜にヒトは笑い   作:ARice アリス

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前回の彼の行動にはそれなりの間が空いています

内容がちょっと少ないけど

2018.8/11
当時サイバーパンクに挑戦


ボクは思い出の敗者 -ニンフはみずぞこにいざない 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い月が薄く人工の光のなくなった街を照らしている

 

 

 

もちろん、彼の下にも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、先程までの騒ぎが嘘のようだ…」

 

白衣の男性が筒状の金属製の何かを押しながら一人廃墟となった病院玄関ホールを進む

 

 

其処ら中に包帯や血で塗れた担架、沢山の何かと争った形跡

 

 

白衣の男性は監視カメラに向かい左耳元のイヤホンマイクに接触しながら何処かに語り掛けている

 

「調整係員だ、当施設の巡回予定に入っている筈だが」

 

 

 

 

『確認シマシタ、医師ノ到着ヲ歓迎イタシマス。』

 

 

 

「ご苦労」

 

病院システムの確認が取れ

 

 

 

全高5メートルの六足の『軍事拠点攻勢防衛ドロイド』が一基

 

光学迷彩で偽装し、崩壊していた壁面から現れる

 

 

 

 

「『弓矢』の最終段階の時間稼ぎにはなるな…」

 

軍人位しかお目見えすることのない機能美と合理性を兼ね備えた巨大ドロイド

 

 

話には聞いていた彼の同僚の作品に"類似している"のには驚いたが

 

 

白衣の男性は誘導灯のガイドに従いエレベーターに搭乗し階下へと降っていく

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

丘に聳える巨塔の病院の麓そこに

 

 

 

 

異形の女子高生がそこにいた

 

 

黒いセーラー服をしたたる血に紅く染め

 

 

拳銃弾使用の短機関銃と牛刀のような刃渡り2メートルの巨大な刃物を片手に持ち

 

 

 

 

何より、月光に煌めく黒髪、その妖艶な貌

 

 

 

 

神に愛されし美貌であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、血の跡はここまで、更に抵抗は激しくなるわね」

 

甘い声で

 

ため息一つ漏らす

 

 

 

 

 

 

『名無ノ丘中央総合病院』

 

 

看板の前には真っ二つの装甲車二台に無数の機械の残骸と頸のない重武装の兵士の遺体が転がっていた

 

 

 

 

 

彼女は歩き出す。もちろん、この要塞の目標物の為だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【地下29階  『第三隔離施術室』】

 

 

到着後三時間五十分

 

 

一人の検体の人物が数多の半透明な糸の様な細い機械腕により手術は操作され

腹部に何か機器を埋め込まれている

 

 

 

それを施術室の術式は殆どオートだが管制室に待機している白衣の調整員は

 

 

『最終チェック…ヲ始メマス、近隣ノ…関係者各員ハ厳重ナ防護体制ニ入ッテクダサイ』

 

 

「39%…動力炉試験始動開始…」

 

 

 

 

「よし、行けるぞ…!」

 

 

 

彼は最後のチャンスである被験者に賭けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…残念、ここで終わり」

 

 

だが、無情にも"彼女"が到着してしまったようだ

 

 

 

 

「よ~うこそ、『企業』の最深部へ」

 

たった一人のテロリスト ……「レイセン」

 

大振りに手を振り、白衣の男性はゆっくりと振り返り歓迎するよ、と告げる

 

 

 

 

 

「このコーヒーくらいは飲ませてもらっても?」

 

 

管制室の操作盤の上に置かれた赤いマグカップを右手で持ち上げる

 

 

 

「いいえ、聞きたいことはたくさんあるのよ」

 

易く否定する彼女

冷たくも見惚れる笑顔、これが平時であったなら、誰もが悔やむだろう

 

 

 

ゆっくりとマグカップを置いた

 

 

 

 

 

 

「まず、そこの男と何故私の顔が同じなのでしょうね?」

 

 

 

 

単刀直入

 

 

 

 

その侵入者の彼女と同じ顔、しかし髪色は銀髪だ

 

 

 

 

「んふふ、コイツが…?」

 

冷静な彼は吹き出すのを抑えたが笑いが漏れた

 

 

「何が可笑しいのかしら?」

 

 

 

「では三つの点を上げよう」

 

彼は眼前に手を掲げた

 

 

 

ひとーつ

中指を折る

 

「まず、コイツは性別の区別は無い」

 

 

ふたつ

 

薬指

 

「彼は君をまねたのではなく、キミが似ているだけさ」

 

 

 

人差し指を伸ばし

 

 

 『彼』を指す

 

 

「そして、みっつ、"現在の地球上、近隣の星々の生命体の括りには収まらない"のさ」

 

 

親指を折った二つの指に付け、キツネのポーズ

 

周りの機器は盛大な稼働音を挙げた

 

 

 

 

『シーケンス繰リ上ゲ、確認 99%』

 

 

一瞬にして胸を貫かれた調整員は苦しそうに喘ぎながら最後に告げる

 

「これは、こいつは、『レイセン』…お前の…のっ…」

 

吐血し息絶えた

 

 

刃を振り払い骸を壁に薙げる。血のシミが壁一面に広がった

 

 

施術室を見やると

 

起き上がった彼と目が合い

 

 

 

その純粋な金色の瞳で首を傾げた

 

 

 

 

 

 

 

 

「地盤沈下は然程酷く無いわね」

 

 

 

「んー?」

 

 

 

 

 

ハンガーに掛けてあった白衣を着せた未熟な身体の『レイセン』

 

 

 

 

 

「気にしなくていいわ…キミは今日から弟だもの」

 

 

 

 

家族なんだから、と微笑む彼女『姉』は

 

 

 

仲の良い本当の家族のように

 

 

然も自然に活発で新鮮な死体や生物兵器が闊歩する都心へ向かっていった

 

 

彼女たちを青い月が照らしていた

 

 

 

 

 

 

『弟君、私の名前はね』

 

 

 

 

 

 

手をつないだ月夜の廃墟から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今やカートの上の人

 

 

 

 

 

「夕方になったねえ」

 

 

「う。」

 

あれから歩き続けて、『ヒトだった者』あふれる住宅街をスラスラ抜け

 

 

突き当りに現れた湖畔を半周すれば拠点に到着というところで

 

 

「この紙に書いてある薬剤だと…肥料…で大丈夫なの?」

 

 

「う。」

 

肯く彼女に救出した本人は恐る恐る尋ねるがやはり拙い

 

彼女は自分たちと同じ如何に見ても人間だ

 

 

「ホームセンター…寄ろっか」

 

 

「ん」

 

 

 

 

カートを押す彼女はそういえば、と名前を聞く

 

 

「ん。」

 

 

「零…レイ?」

 

 

「ぜろ」

 

 

「変わった名前だね」

 

 

 

 

 

「私はね『犬養 ゆい』って言います」

 

 

 

 

 

よろしくね

 

「…妹ちゃんっ!」

 

 

 

零は目を見開いた

 

 

 

 

 

 

なんと感じたのか彼女は

 

 

 

 

 

「家族なんだから当然でしょ?」

 

 

 

感じる筈のない既視感に涙が頬を伝った

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご拝読有難うございました

折を見てちょくちょく更新します

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