カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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いやー、大変遅くなりました。
本当は昨日のうちに投稿したかったんですがね。
休むつもりもなかったので、今日この時間に投稿することにしました。
来週も不定期になるかもしれませんが、お許しを。


5話

「たっだいまっ……ぁ……?」

「……ねえ、コマチちゃん。これは夢かな?」

「ヒッキーが………ヒッキーが………」

 

 くそっ、急に仕事が増えたな。まあ、ようやく細かいところが決まってきたってことなんだろうけど。にしてもこっちも決めることが多いとかマジでしんどいんですけど。ハルノさんが上手くフレア団についていたスポンサーから金を巻き上げてきてくれたから、金に関しては困らないし、バトル会場もユキノシタ建設が全面的に動いてやってくれているから、俺がどうこう言うようなことはないのだが。いかんせん、これは客商売。観客の安全面も考慮しないといけないわ、何かあった時にはすぐに対処できるようにしておかないといけないわ、俺が今まで考えたこともないようなことが次々と出てきて嫌になる。

 誰か代わってくれー。

 

「「「仕事してる!!?」」」

「ユキノ、避難経路の図面はどうなった?」

「警察の方で作ってもらっているわ」

 

 警察、というとあの人たちかね。うわ、不安しかない。何が不安って俺を捕まえたあの人だよ。また引っ掻き回してないといいんだけど。

 

「ねえ、ちょっと! 無視しないで!」

「コマチだよ?! コマチが帰ってきたんだよ!? いつものお兄ちゃんならすぐに寄ってくるのにどうしちゃったのさ!?」

「先輩! 仕事と私達とどっちが大事なんですか!?」

「あ? ん? ああ、お前ら帰ってきてたのか」

 

 なんかさっきからいろんな声が聞こえると思ったら、いつの間にかコマチたちが帰ってきていた。

 

「ハルノさん、本戦開始の一ヶ月前くらいにはグッズの展開ができるように促しておいてください」

「はいはーいっ」

 

 さて、これは一大イベントだからな。謳い文句もカントーを絡ませている。それに加えて三冠王の参加。大会一ヶ月くらい前には遅くともグッズを揃えておいた方がいいだろう。それでも品切れになるかもしれない。量産やニーズの把握の仕方も体制を整え解かなければな。

 

「なっ?! それだけですか!?」

「ヒッキー!? 頭大丈夫なの?! 何か変なものでも食べた?!」

「食ってねぇよ。見りゃ分かるだろ。忙しいんだよ。ディアンシー、取り敢えずあいつらの相手しておいてくれ。もう少しで手が開けられそうだから頼む」

 

 何なら、飯食った記憶がない。や、多分食べてるとは思うが、忙しすぎて何を食べたのかもどんな味だったのかも覚えてないのだ。うわっ、何これ。絶賛社畜じゃん。超社畜じゃん。

 

『了解しました。みなさん、ソファーにおかけになってお待ちください。今お茶を淹れますわ』

 

 俺のメイドと化しているディアンシーに三人の相手を頼むと快く引き受けてくれた。

 くそぅ、こんな時に帰ってくるなよ。コマチを堪能できないだろうが。

 

「え、あ、うん。なんか、ごめんね」

『いえいえ、これもわたくしのお仕事ですので』

「着実に調教されてる………」

「おいイロハ。人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ」

 

 一度認識すると不思議なことに聞いていなくても聞こえてくるみたいだ。しかも言葉を理解できちまうんだから、俺のスペックが高いってことだろう。うわっ、こんなの口に出したら袋叩きにされそうだ。危険だな、考えるのもやめよう。

 

「あ、メグリ先輩、これ出来上がりましたんで、警察の方に渡してきてもらえますか? あと、本戦中の警備態勢の体系図も手に入れられるようならもらってきてください」

「はーい、分かったよ。ヒキガヤ理事」

「こらこら茶化さないでください。あそこの三人がギョッとした目で見てるじゃないですか」

「ふふふ、ヒキガヤ君のこんな姿誰も見たことないからねー。珍しいんだよ」

「そりゃそうでしょ。自分でも珍しすぎて気持ち悪いくらいなんですから。っと、すんません。電話ですわ」

 

 誰だよ、こんなクソ忙しい時に。

 って、オリモトか………。何かあったのか?

 

「はい、なんか用か?」

『あ、ヒキガヤー? ………なんか怒ってる?』

「怒ってねぇよ。なんか急に忙しくなってよ。超疲れてる」

 

 やべ、ちょっと声が低かったか?

 疲れてるとそこまで気が回せなくなるな。ま、元々電話で気なんか遣ったことないが。そもそもが電話なんかしないんだし。かかってきても気違うような奴らじゃないし。

 

『へー、ヒキガヤが仕事してるなんてウケる!』

「用がないなら切るぞ。こっちは忙しいんだ」

『あ、マジで忙しんだ。あー、ひとまず開拓の方は終わったからさー。確認してくれないかなー、って思ったり思わなかったり』

 

 なんかオリモトに遠慮気味に話されると逆に気持ち悪いな。

 えっ? つか、なに? もうできたの?

 

「えっ? もうできたのか? 俺が行ったのほんの数日前だろ? あの時全くのようにできてなかったってのに」

『そうそう、ドクロッグがほとんどやっちゃった』

「あいつ何なの? 訳分からんわ」

 

 ほんと何なんだ、あのドクロッグは。変にスペックが高いんだけど。振り切れてるまであるぞ。そんなのがサガミを気にいるとかほんともう訳が分からん。

 

『ご主人様想いだよねー。いやー、おかげで暇んなっちゃった』

「あー、ならしばらく自分たちのポケモン相手に育て屋というものをやってみろ。基本的に自分たちがしてる世話の仕方になるだろうけど、改めてポケモンをじっくり観察するのも大事だぞ。建物の方はこっちで話を回しとく。そのうちユキノシタ建設が来るだろうから、そん時は対応よろしく」

『はーい、ってこれミナミの仕事じゃん』

 

 今気づいたのかよ。

 

「そもそも報告をあいつがするべきだと思うけどな」

『ミナミちゃんはヒキガヤ相手に上手く話せないのでーす』

『ちょ、カオリちゃん!? 何変なこと口走ってんの?! ちがうから、ちがうからね! 勘違いすんじゃないわよ! ヒキガヤ!』

 

 ぎえっ?!

 耳いてぇ………。

 なんでマイクに近づけて叫ぶかな。キーンってなったぞ、キーンって。

 

「はいはい、分かった分かった。分かったからマイクに話しかけんな。おかげでほら」

『うわー、みんな変な目で見てるねー。怖い怖い』

 

 うるさいからお茶を飲んでいた三人にもまる聞こえというね。目が怖いよ、君たち。

 

「お前、絶対楽しんでるだろ」

『あっはっはっはっ、みんな元気ー? 昨日ぶりー』

 

 ホロキャスターを回してオリモトたちにも見えるようすると普通に挨拶しだした。

 怖いもの知らずめ。危ない橋を渡ろうとするんじゃありません。最悪戦争だぞ。

 

「えっ、お前ら昨日行ったの?」

『そうだよー。三人とも来たよー』

 

 結局行ったんだ。

 

「ああ、そう………。ま、つーわけだからそっちはよろしく」

『はいはーい、ヒキガヤもちゃんとみんなの相手してあげないとダメだよー。ただでさえこっちにも不貞腐れちゃってるのがいるんだから』

『だからうちは不貞腐れてなんかいないから!』

 

 あ、サガミが切りやがった。

 ま、切れたならそれでいい。こっちはまだすることがあるんだ。

 

「つーわけで、ユキノ。家の方に」

「分かったわ。メールで場所と要件を伝えておくわ」

 

 よし、これで育て屋の方は何とかなるだろう。

 

「おう、頼む。げっ、セキュリティーもか…………。よし、ミアレのジムリーダーに投げよう。俺にはさっぱり分からん」

 

 くそ、また訳分からんもん出てきやがった。

 知るか、セキュリティーなんて。俺にはそんな知識はない。こんなのはシステム関係が得意と豪語していたミアレのジムリーダーに投げるのがうってつけだ。自分から使ってくれって言ってたんだし、思う存分使ってやろうじゃねぇか。

 

「やっぱり、そこはお兄ちゃんだったか………」

「ヒッキーがこんなに仕事ができるなんて…………」

「よし、今日はもういい。疲れた」

 

 もう知らん。

 今日は疲れた。今からコマチに癒してもらう!

 

「やっぱりヒッキーだった………」

「そうね、そろそろ休憩しましょうか。休めるうちに休まないといつ仕事が入ってくるかも分からないもの」

「だな。マジで鬼畜だわ。誰か後継現れないかなー」

 

 もうね、なんでこんな面倒なことをやっちゃったかなーって後悔してるわ。はあ、働きたくない………。

 

「なったばかりでしょうに。早くも理事交代だなんて大問題よ?」

「へーへー、分かってますよー」

『マスター、お茶ですわ』

「おう、サンキュー。…………ふぃー、生き返るー」

「オヤジ臭いわよ」

「社畜ってのは年齢より歳を重ねてしまうもんなんじゃね?」

 

 ユキノのツッコミに適当に答えているとバタンと部屋の扉が開かれた。

 

「はーちゃん!」

「おお、けーちゃん。おかえり」

 

 たたたっ、と入ってきたのはけーちゃんだった。ということはさーちゃんもいるということか。

 

「えっ? 誰………?」

「えっ、先輩、まさか幼女にまで………」

「あ、あの子どこかで」

「あたしの妹」

 

 ぬっと現れたさーちゃんにイロハが無言で驚いている。というか顔が引きつっている。うん、まあ目つきが鋭いからね。俺と一緒で色々と損してるよね。

 

「あ、サキさん!」

「ん」

 

 コマチは平然としてるけど。まあ、兄が困難だし慣れてるのかもね。

 

「はーちゃん! あのねあのね!」

 

 事務椅子に座る俺の膝に飛び乗ってきたけーちゃんを抱えると、ずいっと身を寄せてきた。

 にこぱーと笑うその笑みは太陽のように眩しい。

 

「なんですか、あの笑顔。気持ち悪いくらいいい笑顔ですよ」

 

 誰のことを言ってるんでしょうかねー。

 

「ダメだ………、あれには勝てない…………」

「く、私の年下キャラが………」

 

 なんか視界の端で崩折れるのが見えたが気のせいだろう。

 

「おう、何でも言ってみろ」

「さーちゃんとバトルして!」

 

 おう?

 

「ちょ、けーちゃん?!」

 

 バトルとな?

 ふむ、ケイカもバトルに関心を持つようになったのか。うんうん、今からいろんなバトルを見ておくのも大事だろう。

 

「おー、いいぞー。さーちゃんがやってくれるならだけど」

 

 それにこの眩しい笑顔。崩すわけにもいかないだろ。

 

「だからさーちゃん言うな!」

 

 あ、やっぱりダメ?

 

「けど、どうしたんだ。帰ってきて早々バトルだなんて」

「バトルシャトーでいろんなバトル見て感化されたみたい」

「ああ………、こりゃ将来に期待できそうだな」

 

 なるほど、バトルシャトーに行くとか言ってたもんな。

 そこでいろんなバトルを見てきて刺激を受けたってわけだ。この時でバトルを楽しめるとは大したもんだな。

 

「バトルー」

「はいはい、カワサキいけるか?」

「あんたこそ。今まで事務仕事してたんじゃないの?」

「だから体を動かすんだよ」

「お、お兄ちゃんが………」

「あのヒッキーが………」

「働かない宣言をしていたあの先輩が………」

 

 はあ、ずっと同じ体勢で仕事してたからな。丁度いい、軽く動くことにしよう。

 

「「「知らない間にまっとうな人間になってる………!?」」」

 

 なんて考えてたら、三人に盛大に驚かれてしまった。

 

「あら、久しぶりにハチマンのバトルが見られるのね。審判は私がやるわ」

 

 バカ言え。俺は最初から超真っ当な人間だろうが。こんな薄汚れた裏社会を見てきてもなお、普通に過ごしてるんだぞ。真っ当以外の何者でもないだろ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「さて、誰で行こうかね」

「カイッ!」

 

 どんなバトルにするか決めてすらない。

 カワサキとは一度バトルをしているし、お互いの強さも把握しているつもりだ。だがあっちはバトルシャトーで鍛えまくってるし、こっちはまだ見せていないポケモンたちがいる。今回もどう転ぶか分からないな。

 

「お、ジュカイン。やるか?」

「カイカイ」

 

 そんな中で勝手にボールから出てきたジュカイン。

 ま、自分からやる気を見せてきたんだからジュカインで行くしかないでしょ。

 

「ふーん、ジュカインか。あんたのポケモンじゃ初めて見る顔だね。ならあたしはこの子でいこうかな。ハハコモリ!」

 

 ハハコモリか。

 相性で言えばこっちに勝ち目がないな。

 だがここはジュカイン。どうにかなるだろ。

 

「くさ対くさ……」

「いえ、ハハコモリの方にはむしタイプもあります。タイプ相性はハハコモリの方が有利です」

 

 ほう、ちゃんと復習してるようだな。関心関心。

 

「ルールはどうするのかしら?」

「好きに決めていいぞ」

「けーちゃんどうする?」

「ゴウカザル見たい!」

「うーん、じゃあ三対三くらいでどう?」

「いいぞ」

 

 無邪気な一声でルールが決まるとか、どんなバトルになるんだろうな。まあ、バトルをするのは俺たちだから何も変わらんけど。

 

「あんたのポケモンを全員出させられるように頑張るよ」

 

 そうだな、俺のポケモンを全員出せたらそりゃもうすごいことだな。

 

「それでは、バトル始め!」

「ハハコモリ、いとをはく!」

「マジカルリーフ」

 

 まずは吐き出された白い糸を葉で切り裂いていく。

 

「シザークロス」

「こっちもシザークロスだよ」

 

 今度はこっちから仕掛けると、同じ技で受け止めてきた。

 両者、ともに態勢を崩そうと力の出入を行う。

 

「しぜんのちから!」

 

 ハハコモリが足を地面に突き刺すと、地面がうなりを上げ出す。かと思うとジュカインの足元が盛り上がってくる。

 

「こうそういどうで躱せ」

「エレキネット!」

 

 今日はやけに糸を出してくるな。

 逃すまいと電気の通った糸がジュカインの頭上から降ってきやがった。間一髪で躱したものの、それだけではすまない。

 

「はっぱカッター!」

 

  その間にもハハコモリが無数の葉を飛ばしてきた。

 

「おいおい………」

 

 なのに、葉はジュカインを焦点に定めていない様子。狙ってきたかと思えば、通り過ぎていくのだ。変な緊張感だけが俺たちに押し寄せてくる。

 何を狙っているのか見守っていると、葉は電気の通った糸に絡みついた。あの葉って切れ味いいんじゃないのか?

 

「ハハコモリ!」

「なるほど、そうきたか」

 

 狙いは葉にエレキネットを付着させ、ドーム型に広げてジュカインの動きを封じること。イロハの部屋作りに似ているな。

 

「ジュカイン、メガシンカ」

 

 ま、でんきタイプの技だしね。特性ひらいしんをうまく利用しないと。

 

「早速来たね、メガシンカ。ジュカインもメガシンカできることには驚きだけど、止まったら終わりだよ」

 

 キーストーンとメガストーンの共鳴により姿を変えたジュカインは、頭上から降り注ぐエレキネットにつかまった。だが、糸はジュカインに吸収されていく。

 

「えっ?」

 

 カワサキでも理解が追い付いていないようだ。まあ、メガシンカについては研究中だしな。

 

「ドラゴンクロー」

 

 メガシンカとその前のこうそくいどうで素早さが格段に上がったジュカインは一瞬でハハコモリの背後を取った。そして、両腕に竜の気をまとい、詰めを作り出すと、大きく切り裂いた。

 

「くさむすび」

「躱して、シザークロス!」

 

 立て続けに命令を出すと、ようやく戻ってきたカワサキにより命令が出される。

 ハハコモリの足元から伸びてきた草を腕の葉で切り裂き、削ぎ落としていく。

 

「ジュカイン、白い刀をイメージしろ。お前のスピードを最大限に生かせるように細く、それでいて固くするんだ」

「ハハコモリ、何か来るよ。はっぱカッターで身を隠して!」

 

 身を隠しても無駄だ。こいつは密林の王。草木をかき分けて獲物を捕らえることに長けた生き物だ。

 

「ーーーつばめがえし」

 

 ほんの一瞬。

 それで勝負は決した。

 

「ハハコモリ、戦闘不能。相変わらずチートよね」

 

 初めて使う技でもすんなりと完成させ、一瞬でハハコモリの懐に飛び込んだジュカインが下から上からハハコモリを切り裂いた。

 効果抜群の技にハハコモリは何もできないでいた。というか攻撃を食らったことへの反応が一瞬なかったような気がする。

 それだけジュカインの動きが早かったというわけだ。

 

「くっ……、やっぱり強いね、あんたは」

「そりゃどうも。けど、強いのは俺じゃない。こいつらだ」

 

 俺は別にこいつらが上手く立ち回れるようにサポートをしているにしか過ぎない。

 

「そんな力を使いこなせる時点で、あんたの能力が高いってことでしょ」

「はーちゃん、つよーいっ!」

「ふっ、当然」

「あ、ナルだ」

「ナルね」

「ナルですね」

「お兄ちゃんがナルシストだったなんて………ちょっとその傾向あったからあんまり驚かないや」

「ひでぇ………」

 

 いいだろ、ちょっとはかっこよくありたいじゃん。ケイカも喜んでるんだからそれでいいじゃん。

 

「あんたも相変わらずだね」

「何を言う。少しは変わったぞ」

「そうだね。知らない間に名前で呼び合ってるもんね」

 

 なんかちょっと棘のある言い方だな。なんというか不機嫌なユイみたいな感じか。

 

「なんだ、嫉妬か?」

「ううううるさい! 次いくよ!」

 

 さすがさーちゃん、期待通りの反応をしてくれる。

 で、出してきたのはニドクイン。

 あれー、弱点ばっか突いてくるねー。まあ、そんなポケモンばかりいるから仕方ないけど。

 

「んじゃ、準備運動もできただろ? 好きに暴れていいぞ」

「カイッ!」

 

 いい具合に走り回ったからな。気合は十分そうだ。

 

「ニドクイン、すなあらし!」

「くっ、マジか………」

 

 うわぁぁぁ、目が、目がぁぁぁぁ!

 とザイモクザよろしく目を抑えてみる。まあ抑えないとマジで目に入ってくるから嫌な技だ。トレーナーにも被害が出る技とかやめていただきたい。

 

「ヘドロばくだん!」

「ジュカイン、スピードスター!」

 

 ジュカインは尻尾を振りまき、星型のエネルギー弾を撃ち飛ばした。ヘドロとぶつかると弾けて四散していく。

 

「タネばくだん!」

 

 そこにさらに爆弾を投入。

 

「く、ニドクイン、ストーンエッジ!」

 

 生み出された爆炎の中、地面から岩が這い上がってきた。

 

「躱して、タネマシンガン!」

 

 ま、ジュカインには効きませんけど。もっと絡め手を使わないとジュカインの動きは止められないぞ。

 

「なっ………」

「くさむすび」

 

 タネマシンガンによりニドクインの体から芽が出てきた。伸びるに伸びて身動きを封じていく。地面からも草が伸び、ニドクインを絡め取った。勢いがすごかったのか、砂嵐も収まってしまった。

 

「ハードプラント!」

「ニドクイン、じわれ!」

 

 だが、ニドクインは身をよじって強引に蔓をぶった切り、究極技を止めようと地割れを起こしてきた。普通に一撃必殺を使ってくるから怖いよね。イロハにしてみてれば、カワサキの位置付けがユキノよりも上に来てることだろう。

 太い根は地割れに呑まれて逆に足場となってしまう。

 そこに二ドクインがすかさず走りこんできた。

 

「つのドリル!」

「ギガドレイン!」

 

 恐らくこれが最後の攻防だろう。究極技の反動で動きが鈍くなっているジュカインには躱すこともできない。だったら、奪える体力を根こそぎ奪っておいてもいいだろう。さっき種も植えつけたことだし。

 それでも二ドクインの足が止まることはない。

 

「ニドクイン………」

「いや、こっちもだ」

 

 やるな、ニドクイン。最後の最後に角の先を当てやがった。というか一撃必殺の連撃ってマジか………。

 

「ニドクイン、ジュカイン、ともに戦闘不能!」

 

 ジュカインのメガシンカも解け、どさっとその場に倒れこんだ。

 一撃必殺にはどうしようもないからな。

 

「お疲れさん」

「よくやったよ、ニドクイン」

 

 お互いポケモンをボールに戻し、次のボールへと手をかける。

 ………次、誰で行こうか。

 

「コウガ」

「あ、今度はお前なのね」

 

 どうやら俺に選ぶ権利はないらしい。

 こいつら自分たちで出る順番とか決めてたりしねぇよな?

 うわっ、なんか考えたら有りえそうで怖いんだけど。

 

「ゲッコウガ………コロコロタイプが変わる奴だったね。ゴウカザル!」

 

 ゴウカザルとな?

 タイプの相性からは分が悪いと思うが。かくとうタイプで見ればそりゃ有利だけどさ。基本的にこいつら炎と水だぞ?

 

「で、今日の一発芸はあるのか?」

「コウガ」

「そうか、なら見せてみ」

「コウガ」

 

 ゲッコウガは軽く首を縦に振ると一気に駆け出した。

 

「ゴウカザル、マッハパンチ!」

 

 あっちも最初から飛ばしてきたか。ま、それだけゲッコウガを警戒してるということだろう。

 

「ゲッコウガ、グロウパンチ!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、ギチギチと嫌な音が鳴る。

 

「みずしゅりけん!」

 

 空いた左手で水でできた手裏剣を作り出し、ゴウカザルの顔面めがけて投げた。

 

「躱しな!」

 

 咄嗟に身をよじり、ゴウカザルは手裏剣を躱す。それと同時にゲッコウガからも距離を取った。

 

「じしん!」

 

 拳を地面に叩きつけ、激しい振動を送りつけてくる。

 

「ゲッコウガ!」

 

 そろそろだろう。

 今日の一発芸を見せてもらおうじゃないか。

 

「コウ、ガ!!」

 

 水を波導で操り足場にすると、浮上し出した。

 そして、一拍手。

 水がゲッコウガを覆い、形を変え始める。腕が伸び、脚が伸びていく。頭にはゆらゆらと揺れる水が。

 

「まさか………ゴウカザル………」

 

 カワサキの言う通り。ゲッコウガは水で一回り大きいゴウカザルを作りあげ、身に纏っていた。

 

「コウ」

 

 着地したところにゴウカザルが走り込んでくる。

 

「ゴウカザル、かみなりパンチ!」

 

 なら、もう一つ。

 驚いてもらおうか。

 

「めざめるパワー」

「なっ?!炎!?」

 

 ゲッコウガの内なる力が放出し、炎へと変わった。

 炎はゴウカザルを覆い尽くし、動きを封じる。

 

「ゴウカザル!」

 

 すると一瞬にしてゲッコウガの背後に現れた。

 前に一度、この感覚を味わったことがあるぞ。しかも同じゴウカザルに。

 

「みがわりか」

「ストーンエッジ!」

 

 ゴウカザルは地面を叩きつけ、岩を突き上げてきた。

 めざめるパワーでほのおタイプになったと認識してるのだろう。

 ………カワサキにはアレを説明してなかったっけ?

 

「ゲッコウガ、ハイドロポンプ!」

 

 突き出る岩を一掃すべく水砲撃を撃ち放つ。

 

「インファイト!」

 

 だが、まさかの両手両足で水砲撃を攻撃し、四散させてしまった。

 うえぇー………。

 

「かみなりパンチ!」

 

 そのままゴウカザルが突っ込んでくる。

 さて、あの水のゴウカザルをどう使ったものか。

 

「ゲッコウガ、掴め!」

「コウガ!」

 

 ほう、さすがゲッコウガさん。器用に水を操り腕の部分でゴウカザルの拳を受け止めやがった。

 

「けたぐりで薙ぎ払え!」

 

 長い足を活かしてゴウカザルの両足を薙ぎ払い、バランスを崩させる。

 倒れるゴウカザルは踏ん張ろうをあたふたしているが、中々体勢が整わないみたいだ。

 

「ぶんまわす!」

「ゴウカザル、フレアドライブ!」

 

 未だゴウカザルの拳を掴んだ状態であるのをいいことに、目一杯振り回してやる。

 途中からゴウカザルが燃え始めたのでゲッコウガの方から吹き飛ばしたみたいだな。

 

「腕が蒸発したか」

 

 今ので水でできたゴウカザルの腕が蒸発し、なくなってしまった。腕のないゴウカザルって何か違和感を感じるな。

 

「ゲッコウガ、いつものだ!」

「コウガ!」

 

 今日の一発芸も観れたことだし、そろそろ締めにかかろう。

 ゲッコウガも気が済んだみたいで、本気を出してきた。水でできたゴウカザルが解け、ただの水となり、ゲッコウガを包み込む。

 

「な、何………?」

 

 うんうん、ちゃんと驚いてくれてるな。

 

「メガシンカ」

「はっ?!」

 

 水のベールに包まれたゲッコウガがみるみるうちに姿を変えていく。背中には八枚刃の手裏剣を担ぎ、青と赤と黒が特徴的な頭部にはどこぞの誰かさんのような濁ったような目が、体全体に至っては八枚刃の模様の手裏剣が至る所に施されている。

 

「………また、メガシンカ………なの? あんた、一体どんだけキーストーンを………」

「いや、これはメガシンカであってメガシンカではない」

「………意味分かんないんだけど」

「こいつは特別仕様でな。メガシンカの工程を特性として取り入れやがったんだよ」

「やっぱり意味分かんない………」

 

 ふむ、やはりこいつは規格外のポケモンってことなんだな。どうにも誰もすんなりとは受け入れられないらしい。

 

「ま、お前ならやばいってことくらいは分かるだろ」

「それは十二分に。ゴウカザル、こっちもいくよ!」

「ゴウガァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 おいおい、ゴウカザルも炎のベールに包まれやがったぞ。

 あ、や、まあこれはあれなんだろうけど。このタイミングでやるとか紛らわしいっつの。

 

「……もうかですね。特性が発動するくらい、すでにダメージを受けていたってことですか」

「多分、インファイトの後にけたぐりを受けたからでしょうねー」

「あ、え、そ、そうなんだ………」

 

 ちょっとー、そこのユイさーん。あなたユキノにしこたま扱かれてるんじゃなかったのー?

 

「ゴウカザル、これで決めるよ。ほのおのパンチとブレイズキックでインファイト!!」

 

 はい?

 急に何を言いだしてんだ?

 まさかの合体技なのん?

 

「ゲッコウガ、こっちもいくぞ。みずしゅりけん!」

「コウ、ガァァァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 背中の八枚刃の手裏剣を抜き取り、頭上に掲げる。するとくるくると回転し始め、熱を持ち出したのかオレンジ色に染まり始めた。回転しながら段々と巨大化もしている。

 その間にもゴウカザルは拳に炎を、足にも炎を纏い、突っ込んでくる。気づけばもう目の前だ。

 

「ゲッコウガ!」

 

 拳を振り上げたゴウカザルに巨大なみずしゅりけんを真上から突き落とした。

 爆発とともに両者の姿が見えなくなる。

 だが、所々で衝撃波が飛んできているので、ゴウカザルが暴れまくっているのだろう。

 

「って、おいおいマジかよ………」

 

 インファイト恐るべし。

 強大なみずしゅりけんを砕きやがった。

 

「ゴウカザル、きあいだま!」

 

 さすがだカワサキ。

 やはりお前を俺の部下にして良かったと思うわ。

 

「押し返せ、グロウパンチ!」

 

 拳をエネルギー弾に叩きつけ、勢いを武器に押し返した。

 

「マッハパンチ!」

 

 それを素早い身のこなしで躱すとゴウカザルがゲッコウガの懐へと飛び込んでくる。

 

「ゲッコウガ、ずっと命令したことなかったが、とうの昔にこれを使えてるんだろ?」

 

 あ、こいつ今鼻で笑いやがったな。

 

「あくのはどう」

 

 一度見た技を覚えてしまうこいつのことだ。俺と出会ってから何度も見てきているこの技くらい朝飯前だろう。

 ゲッコウガの体から発せられた黒い波導が爆発するように発せられ、衝撃を生む。ゴウカザルは目の前で衝撃波に呑まれて、後ろの木へと吹っ飛んで行った。

 

「ハイドロ………いや、追撃はなしだ」

 

 見ればゴウカザルはすでに意識を失っていた。

 これにはカワサキも固まってしまっている。反応すらできなかったようだ。

 

「ゴウカザル、戦闘不能」

「はっ、ご、ゴウカザル!」

「はあ、結局いつも通りね。ハチマンの勝ち」

 

 ゴウカザルに駆け寄るカワサキを見ながら、俺の勝利を宣言してきた。ただその声は呆れているような感じもする。

 

「なんか文句でもあるのか?」

「ないわよ。ただ、何気にカワサキさんが一撃必殺を使えていて、それでもあなたに勝てなかったっていうのだから、ため息しか出てこないわ」

「さいですか………」

 

 まあ、そう言われるとな。

 イロハたちん方も同じ反応をしているし。

 もう少し喜んでくれてもいいじゃね? って思わなくもないが。

 

「はーちゃん、すっごく強い!」

「ま、今日はこの声でよしとするか」

 

 今日の一番の褒め言葉はこれだからな。

 けーちゃんが喜んでくれたならそれでいいさ。

 


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