「あー、すまんユキノ。このまま支えててくれ。緊張が一気に解けて身体中に力が入らん」
「分かってるわよ」
「ん」
いやー、キツい。
ほんとこれどうにかならないかね。
「シャア」
「おう、リザードンお疲れ」
帰って来たリザードンに労いの言葉と拳を突き出すと、リザードンも拳を突き出し合わせて来た。
「あ………」
と、気づいた時にはリザードンの首から丸い石が落ちた。メガストーンーーリザードナイトXだ。
落ちたメガストーンは、あろうことか割れた。
「え、割れるのん?」
あれ?
これヤバくね?
ってかマジで割れるんだ。ハチマン超ビックリ。頭が真っ白になるくらいには超ビックリ。
「ふはははははっ!」
「な、何だよ。ビビるから急に笑い出すのやめてくれる?」
「さすがオレが見込んだだけのことはある。よもや『レッドプラン』と『プロジェクトM's』の力を棄て去るとは」
「はっ? どゆこと?」
棄て去る?
俺たちあの力棄てたのん?
「『レッドプラン』及び『プロジェクトM's』。この計画を最終段階に移行する上で最悪のシナリオというものがあった」
「………最悪のシナリオねぇ」
「力と力の反発、具体的にはトレーナー側とポケモン側の力の乱れ。それによる暴走。そんなところかしら?」
「………気づいていたか。ふん、まあいい。お前の言う通りだ。力と力の反発、拒絶反応。そこから引き起こされる暴走と崩壊。ハチマン、お前はそれを乗り越えてあの力をモノにしたのだ」
力の反発ねぇ。
反発というかすれ違いって言い方の方がしっくりくるんだが。
「だが、お前はオレの予想の斜め下に行き、あの力を棄て去った。その証拠にメガストーンが割れただろう? あの力はメガストーンを通じて引き起こされていた。石に高エネルギーが集まれば内部爆発し四散。それが割れた一抹だろう」
「つまり、これでハチマンはあの力に振り回されることはないということかしら?」
「恐らくな。ただし、あの計画により体内に必要素材は残ったままだ。条件が揃えば再び発動する可能性もある」
………可能性の話の一つとしておこう。
要するに俺たちはメガシンカのエネルギーすらあの攻撃に入れていたってことなのだろう。そのせいで石のエネルギーはなくなり砕け散った。キーストーンに影響がないのはエネルギーの種類が違うってことか? あ、だとすると俺たちじゃなくてリザードンが、になるか。ま、細かいことはどうでもいいな。
「こいつらはもらっていく」
「はっ? いやいや、それはこっちの仕事だ。お前らに渡すとか」
「履き違えるなよ、ハチマン。これは正当な報酬だ。お前の面倒を見てやったな」
ヤバい、眼孔が光ってるよ。
「………脅しか?」
「好きに受け止めろ。リョウ、ケン、ハリー!」
リョウ、ケン、ハリー?
「ハッ!」
「ネオ・フレア団を回収しろ。一人残らずな」
「承知致しました!」
他にもロケット団の奴がいたのかよ。
今の俺たちじゃ相手取るのはどっちにしようが無理だったな。
「礼を言うぞ、ハチマン。お前のおかけで貴重なデータが取れた。これで我がロケット団の再興も完遂する」
抜け目のない奴だ。
こんな時でも何かしらの収穫を得ていく。貪欲というか何というか。まあ、それは対象が人それぞれなだけで人間誰しもが持っているものだろう。俺だってこの右手で抱きしめている奴を始めとした大切なものをくれてやる気はない。
「レインボーロケット団。今より我らはそう名乗ることにしよう。ハチマン、いずれお前たちの前に現れるやもしれんその名をよく頭に焼き付けておくことだ」
拘束した元フレア団の連中をロケット団の下っ端たちが連れ去っていく。
「………ハチマン、テメェは一体ナニモンなんだ」
「俺単体でいえばクチバ生まれクチバ育ち最初のジムはクチバジムのクチバ大好きポケモントレーナー」
「く、はは、まあいいそういうことにしといてやるよ」
そういうことってどういうことなんだろうか。一体マチスは何を納得したのだろう。
「オレは腹括ったぜ。テメェがオレたちを捕まえるってんなら相手になってやる」
「あ、そう」
捕まる覚悟とかしてたのん?
逆にすごいわ。
「ハルノ、また会いましょう」
「嫌よ、あなたになんか絶対会いたくないわ」
あっちはあっちでやってるし。
「レインボーロケット団、か」
「今度は何を企んでいるのやら…………」
「考えても仕方ないだろ。あの男はああいう奴だし、今は止める余力がない」
去っていくロケット団の背中を眺めながら、未来でやってくるであろう事件に心の中で溜め息を吐いた。
「…………はぁ、にしてもやっぱ目先の力は充てにならんな。結局、メガシンカの所為で振り回されてたってことだろ」
見下ろすとそこには砕け散ったメガストーンのカケラが。
ま、変に障害が残るよりは断然いい。メガストーン一つで済んだのなら儲けもんと思ってもいいくらいだ。
それくらいあの力は強力で、常識から逸脱していた。
「みたいね」
「リザードン、どうやら俺たちは元あった姿に戻って来ただけらしいぞ」
「シャアッ!」
あー、こいつ割と清々してるみたいだわ。
俺もだけど、やっぱり身体が軽くなった感じなのかね。
「そうか。ま、これが本来の俺たちだしな。メガシンカは捨てていつもの戦い方に戻すか」
「シャア!」
メガシンカに頼らなくても強くなる方法なんざいくらでもある。元々はそうやって俺たちは強くなってきたんだし、いつも通りに戻るだけだ。
いいね、いつも通りって響き。平和を実感できるわ。
「ゆきのーん!」
「せんぱーい!」
とか何とか二人(三人?)でしみじみしていると、我が愛しのお団子と後輩が飛びかかってきた。文字通りに。
「あ、ちょっ?!」
「ぐぇっ!?」
ねぇ、両側からいきなり抱きつくのやめない?
危うく俺たち転けるとこだったぞ?
「ゆきのんゆきのんゆきのーん!」
「………もう。ユイは相変わらずね」
「だってだってだってぇ! ゆきのんが死んじゃったかと思ったからーっ!」
ま、それも今は無理だろうな。
ユイは自分を守って命を落としたユキノがこうして自分の脚で立っているなんて奇跡を感じているだろうし。
イロハの場合は数日俺たちと会ってないし、そのまま単独で戦場行きになったんだ。感謝こそあれど文句は出てこないな。
「大丈夫よ。私は生きているわ。クレセリアのおかげでね」
「ふぇ?」
「クレセリアは自分を使って私を生き返らせたのよ」
「………じゃあクレセリアは………っ」
「ダークライ共々ギラティナの世話になってるよ」
「うぇ?! ダークライ、もですか?」
「あいつ、最後の力を俺に託してな。だからこうしてここに来れたんだ」
「「うぅ、そんなぁ………」」
二体とも俺たちに力を与えて消えていったなんて、どこの小説だよって言いたいが。けど、今回はあいつらのおかげで助かったのだ。悲しんでやるより感謝を述べてやった方があいつらのためだと俺は思う。
「あ、でも先輩があの黒い穴を開けてくれれば探しにいけるんじゃないですか?」
「残念だが、それは無理だ。あの力はもうない。託してくれた力はもう全部使い切ってしまった。それにあっちに行ったところで帰って来れない可能性の方が高いんだ。下手に行かない方がいい」
「………そう。寂しくなるわね」
「まあな。けど、あいつらがそう決めたんだ。俺たちはそれに応えていくしかないだろ」
「そうね」
俺たちはまだまだやることが山積みである。
まずはこの街の復旧をしなきゃならんし、ミアレの方もどうなっているやら。
「ヒキガヤ、やっぱり君は特別なんだな」
うおっ?!
一瞬ミイラかと思ったじゃねぇか。
そんな血だらけの姿で話かけてくんなよ。ミウラに肩を借りてまで話すことなのか?
「はっ? んなことねぇだろ。俺よりすげぇ奴なんてそこにもいるだろ。あいつ何なの? 会話出来るし、こんな時でも芸を入れるし、何よりトレーナーになってるし」
ほら、あんだけ活躍してたってのに全く疲れを見せないうちのボケガエルは、抱きつくマフォクシーを引き剥がそうとしてるくらいピンピンしてるぞ。
しかも背中にはミュウが抱きついてるし。
いやほんと何でいるのん?
「はははっ、流石に俺も驚いたよ」
「でもまあ、これもあいつなりの俺の手助けなんだろうな。一人で抱え込むなっていう」
「…………」
「何だよ」
「まさか君の口からそんな言葉が聞けるなんて」
「………変わったってか? それなら全部こいつらのおかげだ。こんな俺でも愛してくれて、傷つけられることを恐れなくて、信じてぶつかって来てくれたんだからな」
俺は別に変わったつもりはない。自分が無意識にかけていた嘘という名の呪いを解いただけだ。
変わったというのであればそれは俺を好きだと言ってくれたこいつらのおかげでしかない。
「…………俺も同じだよ」
「はっ?」
「俺も、ユミコがいなかったらユキノちゃんに執着するあまり君を殺して、止めようとする奴もみんな殺して独りになっていただろうからな」
「サラッと恐ろしいこと言うなよ。何なのお前。殺人鬼なの?」
「今は違うよ。いつの間にかユミコに塗り換えられてしまったさ」
「ちょ?! そういうのいいから! 恥ずいし………」
イケメンの何気ない一言で赤面しているあーしさん。
うーん、ミウラのこういう面を見るのは新鮮だな。好意に素直なハヤマはキモいけど。俺が言えたことじゃないか。
「よかったわ。どうやら吹っ切れたようね」
「お陰様でね。過去を忘れることはできないけど、今の俺があるのもあの件のお陰だって思えるようになったよ」
「そ。なら許してあげるわ。あなたのこれまでの行い」
「ありがとう………」
人の繋がりとは不思議なものである。
何だかんだあった関係でもこうして修復ができてしまう。さすがに以前のように、とはならなくてもそれぞれの方向からお互いを見られるようになるのだから。
「てかハヤマ先輩、大丈夫なんですか?」
「止血はしたけど早く病院に連れて行きたいし」
「デスヨネー」
「ならさっさと行って来なさい。回復したらこき使ってあげるから」
「そうだね。治ったら手伝うよ」
「あー、ハヤマ」
「ん? 何だい?」
「俺が言うのもアレだけどよ………人間、意外と一人にはなれないみたいだぞ」
「奇遇だな。俺もそれを実感してるよ」
「チッ、やっぱお前嫌いだわ」
「安心してくれ。俺も君が嫌いだ」
俺もお前も、結局は同じところにいたんだろうな。程度の違いはあれど。だからこそ、俺たちはお互いが嫌いなんだろう。同族嫌悪というやつかもしれない。
ミウラに支えられてながらトボトボと歩いていくハヤマの背中を見て何となくそう思った。
「ハチマン、あれどうするの?」
「アレ?」
くいくいとシャツの袖を引っ張られたのでそちらを見るとルミルミが見上げていた。彼女の指差す方には………あー思いっきり忘れていた。そういやアレどうしようか。
「…………マジでどうしよう」
アレとは草でぐるぐる巻きになっている十字架ーーもといデオキシスである。結局、脱出とかもしなかったんだな。
「……………飾っておくわけにもいかないよなー」
「アレ飾っとくのはちょっとまずいんじゃない?」
「だよなー………」
ほんとどうしようか。
「ゲッコウガ」
『………断る』
「まだ何も言ってないだろうが」
『どうせ中身を確認しろとでも言うんだろ』
「よく分かったな」
言葉で意思疎通ができるのってほんと便利よね。余計に憎たらしく感じるが。
『…………せい!』
「あ、こら! 何しやがる!」
黙って俺を見てたかと思ったら、いきなりハイパーボールを投げやがった。
『アレもポケモンだろ。ならボールに入れとけば何とかなるだろ』
「えー………」
あーあ、吸い込まれちゃったよ。
「えー……………」
しかもカチッて音したよ?
マジで?
ヤバくね?
『フン、営業時間終了』
「お前って奴は………」
まさかデオキシスをゲットしたのがゲッコウガとか、これどう説明すればいいんだよ。ゲッコウガだけでも色々と異常なのに、さらにデオキシスとかどうしろっていうんだ。
もう俺の手には負えないレベル。
「みゅうみゅう」
『え? なに? 帰るの? あ、そう。じゃあまたな』
うわっ、軽っ!?
ミュウが帰るみたいだけど、ゲッコウガの塩対応に泣けてきた。
「軽すぎだろ………」
『その内また来るらしい』
「ああそう………相当懐かれてるのね…………」
ゲッコウガさん、ミュウとお友達になりました。
俺ですらミュウに会ったのこれが初めてなのに。確かにセレビィには過去二回程会ってるよ? でも別に友達になった覚えはない。そんな軽くなれるもんじゃないし、会えるだけでも奇跡に近い。
なのにこいつと来たら………。
いっそ同格なんじゃないかと思えてきたわ。伝説のポケモン、ゲッコウガ。うん、もうこの方がしっくり来るまであるな。
「………私は今夢を見ているのかしら」
「大丈夫ですよカルネさん。私たちも同じですから………」
ほら、チャンピオンとメグリ先輩がドン引きしてるぞ。
「………姉さん、ヒャッコクシティの対処はお願いできるかしら」
「ミアレはユキノちゃんの方でやる?」
「ええ、ハチマンを病院に括りつけたらね」
「え? お前まだ働くのん? てか、俺も事後処理しなきゃならん立場じゃね?」
括りつけるってどゆこと?
まさか俺もデオキシスみたいにされるってこと?
「取り敢えず、あなたは寝なさい。私も最低限のことはやってしっかり睡眠を取るつもりよ。いくらクレセリアのおかげで綺麗さっぱりになっているとはいっても披露は蓄積しているわ」
「そうそう、コマチたちも手伝うからさ! お兄ちゃんはまずその身体を何とかしないと」
「そうね、ハチマンは帰って寝なさい。これはお姉さん命令よ」
「はいはい、お言葉に甘えさせてもらいますよ。けど、人選どうすんの? 二手に分けるにしても………」
何だろう、この三人から立て続けに言われると反論の余地もなくなってしまう。有無を言わさない何かを纏ってる時あるよね。
「そこは大丈夫。あっちにはシズカちゃんや四天王もいることだし、こっちはメグリとハヤトと………そうねユイちゃんとコマチちゃん、それからカルネさんをもらおうかしら」
「それじゃハヤマがあんな状態だしザイモクザもおいてくわ。コマチ、しっかりザイモクザをこき使ってやってくれ」
「あいあいさー!」
「は、ハチマン! その扱いはあんまりではっ?!」
いや、ミアレに行ったらユキノにこき使われる未来しか見えねぇぞ。それでもいいなら連れて帰るけどよ。
「ばっかばか、お前ミアレに行っても役割一緒だぞ。それに、お前のポケモンたちには無理をさせたんだ。さっさと回復してやれ」
「う、うむ、そうであるな………いやしかし………」
仕方ない。唯一の話し相手を送り込んでやろうじゃないか。頑張ったお前のポケモンたちの顔を立てて。
「あっちに帰ったらトツカを派遣してやる」
「まあそこまで言うなら致し方あるまい」
くそっ、現金な奴め。
「ネイティオ、ハチマンたちをミアレまで送ってあげて」
ハルノの申し出によりネイティオのテレポートで送ってもらうことになった。先にミアレに帰るのは俺とユキノとイロハとそのポケモンたち。全員一度ボールに戻したのだが奴だけはボールから出したままにした。というかもうボールに入れられないような気がしてきた。や、だってこいつが連れてるポケモンたちはどうなるんだよって話だぞ。怖くて試すことすらできんわ。
「ティオ」
何の前ぶれもなく一瞬で景色が変わってしまった。
やるなら合図くらいくれよ。
風景が似てるから一瞬分からなかったぞ。
「うわ………こりゃ、また酷ぇな」
「凄いことになってますね………」
「ヒャッコクは全壊が多かったから瓦礫を除去した後は建て直すだけでいいけれど、こっちは半壊ね。壊すところから始める必要があるわ」
「だな」
ミアレに戻ってきたらこりゃまた酷い惨状だった。被害がヒャッコクシティ程ではないにしても建物の倒壊半壊がそこら中にある。ただこっちは半壊の方が多いのが問題だ。倒壊なら全部ぐしゃって倒れているから瓦礫を片付けることから始めればいいが、半壊だと建物の解体から始めなければならない。その分時間と労力が余計にかかってしまうため、ミアレの方が骨が折れそうだ。
「これ、直るの?」
「どうにかして直す。時間はかかるだろうがな」
ルミが心配そうに見てくるので頭を撫でて答えてやった。
まあ、俺もこんな状態の街を見るのは初めてだからな。不安になるのも分かるぞ。
「ん?」
取り敢えず、俺が寝かされていた病院に向けて歩いていると瓦礫と化した建物の一角にラルトスが倒れているのを見つけた。
「ユキノ」
「ええ」
側に寄ってみても反応がない。
「おい、大丈夫か? …………体温はあるか。なら意識を失ってるだけだな」
「ラルトスね」
「ああ、周りには仲間がいる気配もないしこのまま連れていくしかないな」
「分かりました」
仲間と逸れて逃げ遅れたんだろう。
このままここに置いておくのはそれこそ死に値する。手当てする必要もあるみたいだし連れていくしかあるまい。
俺はイロハにラルトスを託し、また街の様子を確認しながら研究所へと向かった。
その間、誰にも会わないからちょっと不安になったのは言うまでもない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
デオキシス襲来後、一週間明けてポケモンリーグを再開することになった。ただ、金もなければ時間もない。ミアレスタジアムは半壊し、使える状況じゃなければ一週間で元に戻せるわけでもなかった。外観はどうにかなっても安全面では論外という結論が出されたのだ。そこで代替案として用意していたシャラシティとヒャッコクシティのどちらかに移動することになったのだが、後者はミアレと同じような状態であることから消去法でシャラシティでの再開が決定した。それからはユキノシタ建設によるバトルフィールド作成が始まり、場所は元マスタータワーがあった所である。しかし、再開まで一週間しかないため観客席は設置不可とのこと。天井もない。本当にただのバトルフィールドのみである。
いやー、あの時はマジで目の前真っ暗になるかと思ったね。だがどうにか乗り切ることが出来たわけだ。ハルノの一声で。
幸いマスタータワーが有った所は一帯が海に面している。そして何より観客の移動も考えなければならなかったので、その二つを一緒にしてしまえばいいと言い出したのだ。つまるところ船を使おうと。ミアレシティにいる観客をヒヨクシティまでバスで移動させ、ヒヨクシティからは船でシャラシティへと向かうというものだった。ちょっとした観光である。この計画にはカントーのポケモン協会でも賛成となり、資金はあちらさんで出してくれることになった。ほんと女神が来たと思ったぞ。
そして次は選手の方。これがまた面倒だった。取り敢えず俺とサカキとのバトルはサカキの棄権(というかどっか行ってしまったため再戦すら叶わない)という判断になり、俺が三回戦出場となったまではいいのだ。だが、先に出場を決めていたエックスが疲れたという理由で棄権。よってユキノVSガンピ、エックスVSズミ、俺VSルミとなるところ、ズミさんだけが不戦勝で準決勝進出になってしまったのだ。つまりこの時点で一般参加はルミだけとなってしまったのだが、そのルミもポケモンたちが疲弊しており参加が難しかった。本人は出ると言い張ったのだが、スイクンも自分の役目を終えたらしく、エンテイと共にどこかに旅立ってしまい、他のポケモンたちも急な出来事で日が経ってから疲れが一気に出てきていたのだ。流石に無理はさせられないので、俺たちで説得し棄権扱いにしたのだった。ただその原理でいくなら、一週間病院のベットで過ごした俺も棄権扱いにして欲しかった。みんな働いている中、一人だけベットの上って結構申し訳なくて居た堪れないんだぞ。仕事はしていたけども。ユキノもハルノもみんなして心配性すぎでしょ。
まあその結果、四天王三人と三冠王、準決勝から参加する予定だったチャンピオンだけが出場するという何とも言葉にし難い再開になってしまったのだ。
というわけで、どうせこの面子なら三冠王のチャレンジ劇にしてみないかという話になり(提案はもちろんハルノ)、ユキノがハルノの挑発に呆気なく乗り三冠王のチャンピオン・四天王攻略が決定した。
………うん、俺も止めようとはしたんだぞ?
でもな、超のつく負けず嫌いなユキノが話を聞くと思うか?
ユイなんかユキノもポケモンたちも疲れてるんだから無理はダメってユキノに抗ったっていうのに聞きやしない。
因みに試合順はドラセナさんは既に倒しているのでカットし、最初は三回戦での対戦予定だったガンピさん、その次がズミさん。最後の四天王が俺で、倒せばチャンピオンとバトルという中々ハードなものだ。
ま、結果は俺がユキノに負けるわけもなく三冠王のチャレンジは失敗に終わったんだけどな。その後何故かチャンピオンとバトルさせられたのは解せん。もちろん勝ってやったわ。ガハハ。
観客たちにも受けはよかったようで収益は思った程下がらなかったのはマジで嬉しかった。働いた甲斐があるってもんだ。というかゲッコウガがだけど。何なのあいつの人気っぷり。確かに初めて観客たちに見せたことにはなるけど。その後のグッズの売れ行きが一気に伸びたぞ。四天王三人とカルネさんの人気は元々あった。当然彼らのポケモンたちの人気も絶大だ。なのにその三倍くらいは稼いだからなあいつ。
最終的な大会収益は半分を復興資金に回すことにした。残り半分はポケモン協会運営費ということで残した。まあ、それでも足りないので俺も貯金の半分以上を募金として投入したのだが、おかげで育て屋が運営出来なくなった。出来ないというよりは向こう三ヶ月は持ちそうだがその先が全く見えなくなったと言った方が正しいな。そこで管轄をカロスポケモン協会に移行し、個人有用が出来なくなったため被災者のポケモンたちの一時預所として再開することにした。サガミから仕事を増やすなと抗議されたのは想像に容易いだろう。給料をアップしてやったんだから許せ。その内人も増やすから。
スポンサーへの損害賠償は保険でどうにか賄えたのがせめてもの救いだったな。
そして無事リーグ戦も終了。民衆の間では今でも初めて出したゲッコウガの商品がバカみたいに売れている。プラターヌ博士の話じゃ、ケロマツを最初のポケモンに選ぶ男子が増えているんだとか。
ただ、今回の件に関して協会側に賠償責任の話もあったりした。だが、何故かリーグ戦終了後にはその声もなくなってしまっていた。理由は恐らく協会理事と四天王の誰かさんが同一人物ということを公表したからだろう。ハルノのおかげというか所為というか。それからの俺は巷で『大魔王』なんて称号をもらってしまった。何だよ大魔王って。ハルノの方が魔王感あるじゃねぇか。
今じゃカロスの顔はチャンピオン、カロスポケモン協会の顔はユキノシタ姉妹、カロスのドンは俺らしい。
ドンって何だよ。首領とでも書くのか? どこのサカキ様だよ。大魔王だからそれ以上だな。
その首領絡みでも事件はあった。意識不明の昏睡状態だったフラダリとパキラが姿を消したのだ。もちろん俺が預かっていたポケモンたちも。襲撃に遭った育て屋ではオリモトが敵はロケット団だったと言っている。この一連の騒動はクセロシキたちを回収して行ったサカキによるものだろう。だから深追いはしない。現状では何も手掛かりもないし、無作為にいけば返り討ちに遭うだけだ。
レインボーロケット団。次は何を企んでるんだ?
取り敢えず、最後に全員の近況をまとめておこう。
まず俺は、相も変わらず社畜っている。リーグ大会が終わったから大仕事ってのはなくなったが、代わりに残されたミアレとヒャッコクの復旧作業でそれなりに忙しなく動いている。そして四天王は退いた。理由は強すぎるため。チャンピオンの座を掛けたバトルではなかったがカルネさんに勝ってしまっては致し方がない。今は空席となっている。そもそもようやくジムに挑むトレーナーが増えたばかりなのだ。四天王が必要となってくるのはまだまだ先のことだろう。ちなみにネット上では挑んだが最後生きて帰られないだとか、死ぬより恐怖を与えてくる魔王だとか、チャンピオンを圧倒したことでサカキに並ぶ魔王様とか言われている。多分ここら辺から『大魔王』なんて称号が出来上がったんだろうな。それと仲間が増えた。ミアレに帰って来た時に拾ったラルトスが正式に俺のポケモンとなった。俺が入院生活している間ずっと側におり懐かれてしまったのだ。今ではキルリアへと進化し、俺の仕事を手伝ってくれている。加えて群れのボスだったボスゴドラも戻ってきた。どうやら新たなボスゴドラが誕生し、群れのボスを譲ったらしい。まあ、俺のポケモンたちは出入りが激しかったからな。ダークライは消えたし、エンテイもスイクンと旅に出た。フラダリとパキラのポケモンは盗まれたし、ディアンシーもサガミのところへ行っちまったから内心嬉しかったのは言うまでもない。そういえばゲッコウガがボールに入れてしまったデオキシスはツワブキダイゴという超イケメンの御曹司に託した。デボン・コーポレーションでしっかり管理してくれるんだそうだ。これには俺もゲッコウガも肩を撫で下ろした。いてもどうしようもない奴だったからな。ゲッコウガもその時まで一度もボールから出していなかったみたいだし。
次にユキノだが、いつも通り俺のサポートをしてくれている。大会後はメディアへの露出も増え、公私共に俺を支えてくれている。出来た嫁だ。最近はこおりタイプに興味を持ったようで時間を見つけてはこおりタイプの技について調べている。なんだかんだで彼女のポケモンはマニューラ、ユキノオー、ユキメノコとこおりタイプが三体もおり、さらにいつの間にかウリムーを捕まえて来ていた。実は新たな四天王を目指しているとかないよな? 専門タイプはこおりとかで。
そして姉のハルノの方はこれまた今まで築いてきたパイプを活かして復旧活動を進めてくれている。俺がカロスのドンなんて言われているが、ハルノの方がよっぽどドンだと声を大にして言いたい。もうね、俺の知らない間に協力者が増える増える。しかも結構な有名人から。例としてはデボン・コーポレーションとか。ポケナビには大変お世話になりました。イケメン御曹司が来た時には実際にお礼も言っておいた。
ユイはコルニのもとでジムトレーナーをしている。挑戦者が増えたがために選別する必要があり、ジムトレーナーという壁を用意した。だが、ジムトレーナーのくせにメガシンカしてくるため、ユイは最後の砦になっているらしい。そのおかけでポケモンリーグ挑戦者が現れず四天王の出番がないんだが。女優やシェフはまだいいがあのおばさんと甲冑男は普段何してるんだろうな。
これまではエイセツジムが最難関ジムだったらしいが、今ではシャラジムがトレーナーの足止めをしている。しかもジムトレーナーが止めているため実質ジムリーダーは暇。だからなのかしょっちゅうミアレまでやってくる。その度に頭を撫でろだの抱きつくなどするのはやめていただきたい。ユキノとたまに一緒に来るユイの目が怖ぇんだよ。
イロハはドラセナさん経由で四天王三人に可愛がられているらしい。あの三人としてはイロハを次の四天王にしようとしている節が無きにしも非ずって感じだ。それほどまでにあいつの才能は評価されている。三人からそれぞれポケモンのタマゴをもらったらしく、ドラセナさんからのはチゴラス。ズミさんからのはタッツー。そしてガンピさんからのはココドラが孵った。最終進化すればドラゴンタイプが二体増えることになり、メガデンリュウも合わせればいよいよ持ってドラゴンタイプ専門トレーナーの仲間入りを果たせそうだ。おばさん、引退とか考えてたりするのだろうか。しかもデンリュウ、チゴラス、タッツーに加えフライゴンとガブリアス、ラプラスがげきりんを使えるようになったんだとか。おいこら、マジで引退考えてるだろ。ちなみにココドラはドラゴンダイブを覚えたらしい。他にもみずタイプ、はがねタイプの技も覚える奴には覚えさせたようだ。まあ、それは後日披露してもらうことになっている。
シズカさんはこっちでのトレーナーズスクールについて模索している。既にあるにはあるが物足りないらしく、臨時教師としてカロス中を飛び回っており、よく長文のメールが送られてくるのだ。読むだけで一苦労なのに返信も必ずしないと拗ねるから困ったもんだ。
サガミとオリモトとナカマチさんは仕事の増えた育て屋を切り盛り。相変わらずサガミがドクロッグの尻に敷かれている。それとさっき言ったがディアンシーの意向で正式にサガミのポケモンになった。地味に幻のポケモンを手にしたサガミさん。大丈夫かしら。
ルミルミはスイクンが旅に出たため新しいポケモンを探しにアローラ地方へと向かった。リーグ大会終了の翌日、あの上半身裸に白衣の博士たちとともに、だ。止めたけどついでだからと彼女に上目遣いをされては返す言葉もなく、仕方なく見送った。あっちに着いた第一報でアシマリとかいう初心者向けのみずタイプのポケモンを博士からもらったという話があったぞ。あいつそういうところは抜け目ないよな。ただアローラでは大変な事態になっていたらしい。怪物たちの楽園と化していたとか。俺たちも行こうかと聞いてみたが断られてしまった。ハチマンはカロスの復旧っていうお仕事があるでしょって怒られたのだ。それなら他の誰かを送るかと聞いてもそれもお断り。仕方がないので怪我だけはするなよとだけ言って任せてみることにした。これはアレかな? 一人で何でもやりたいお年頃ってやつかな。ああ、因みに母親は大会が終わってからカントーに帰ったぞ。
カワサキ姉弟もカントーに帰った。なんだかんだ稼げたらしい。別れ際にけーちゃんがゴーストとカゲボウズとボクレー(しかも色違い)をボールに入れていた。仲良くなったから連れて帰るんだとか。けーちゃんがトレーナーになる日が楽しみだ。
同じくハヤマとミウラもカントーに帰り、………結婚したらしい。うん、なんかすげぇ驚いた。急だな、と。だがどうやらデオキシス襲撃事件で片時も離したくないとか思っちゃったらしい。お前の恋バナとか聞きたくねぇっつの! だから手紙を寄越すな! しかも結婚祝いにスクールの校長に就任しやがった。あのじじい適当過ぎだろ。いいのかよ、そんな理由で後継ぎ決めて。あと暇になったからってこっちに来るんじゃねぇよ。俺に介護しろってか。ヤドキングがいるだろうが。仕方ないので育て屋を手伝ってもらうことにし、その知識と技術を大いに役立たせている。サガミからは文句が少なくなったのは言うまでもない。
結婚と言えばもう一組。ザクロさんとビオラさんが結婚した。写真付きの手紙を送りつけて来やがった。しかもご丁寧に俺だけに宛てた別通まで用意して。そこには『NTR成功!』とだけ書かれていた。何の嫌がらせだよ。寝取られたとかそもそも思わないから。まずビオラさんの中での俺はアイドルのようなもんだったはずだし。意外と憧れと恋人は別ってのは多いらしいからね。
あとは…………コマチとトツカか。あの二人なら昨日ガラル地方へと向かったぞ。コマチが新しいところを旅したいと言い出して、俺が一人は危険だなんて言ったら、トツカが一緒に行くと言い出して…………。ああ、俺の癒しは遠く離れてしまったなー………。
……………ザイモクザ? あいつはなんかパンジーさんに拾われて雑誌記事を作っているぞ。その傍らでミアレジムに入り浸っているようだが詳しくは知らん。
デオキシス襲撃事件から四ヶ月。俺たちがカロス地方に来て一年が経った。ミアレシティ及びヒャッコクシティの復旧は順調に進んでいる。
前作からご愛読いただきましてありがとうごさいます。
当作品はこれにて完結とさせていただきます。
途中、色々ありましたが何とか完結までたどり着くことができました。これも読者の皆様のおかげです。
今後は思いつきで後日談的なものを書いていこうと思っています。エピローグがあんな形で凝縮していますので、私自身何となく物足りなさを感じました。内容は主にバトル中心になることでしょう。
では、今後ともよろしくお願いいたします。