カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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お久しぶりでございます。
積もる話はありますが、まずは本編をどうぞ。


〜35話

 ドラセナさんに負けて、みんなに合わせる顔がなくて飛び出し………。

 カロスで一番高い山にいる変わったポケモンのところに身を寄せたわけだけど。

 それも数日前の話である。

 今私は何故か先輩のゲッコウガに連れられて、ヒャッコクシティに来ていた。もちろん変わったポケモンーーボルケニオンも一緒に。

 

「やらなきゃやられることって、何が起きるっていうんだろ」

『さあな。ゲッコウガの話じゃ、世界の終わりだとか言ってるがオレ様にはさっぱりだぜ』

 

 ちなみにボルケニオンはテレパシーで会話が可能だ。

 それともう一人。本当にポケモンなのかと問いただしたくなるのが目の前にいる。

 ポケモンでありながら、他のポケモンをボールに収め、しかも会話もできるようになった。

 ほんと何なんだろう、先輩のゲッコウガって。

 すごいとかすごくないとか、そういう次元の話じゃないと思う。新しい神話や伝説が出来上がっていくような感じだ。

 私のマフォクシーは兄のように慕っている。素直じゃないけど、ゲッコウガには見え見えらしい。

 

『ッ?! あのバカ、無茶しやがって』

 

 先を行くゲッコウガが足を止めた。

 

「ゲッコウガ、どうかしたの?」

『デオキシスとギラティナがミアレに現れた。ハチが何とか対処したが、デオキシスはネオ・フレア団とかいう奴らの手に渡ってしまったようだ。そして、ハチが随分と衰弱している』

「なっ!?」

 

 また………また先輩は無茶、したんですかっ!

 みんなを護らなきゃってのは分かるけど、もっと自分の身体も大事にして下さいよ!

 

『それで? ヒャッコクに来た意味は?』

『………デオキシスの狙いは日時計だ』

 

 日時計………。

 宇宙から来たオーパーツとかって噂があるやつだよね。

 あんなデッカいのをどうにかしようっていうの?

 

「ねぇ、そのデオキシスってのは何?」

『グラン・メテオってのは知ってるか?』

「えっと………、確かホウエン地方を中心に降り注いだ隕石のことだよね」

『ああ、デオキシスってのはその隕石に張り付いてきた、宇宙からの訪問者ってわけだ』

「宇宙からの訪問者…………」

 

 …………宇宙から来たポケモン………?

 宇宙にもポケモンっているんだ。

 

「フォック!」

「ちょ、どうしたの、マフォクシー…………って、あー…………」

 

 急に怒り始めたマフォクシーに、私も驚いてしまったが、何のことはない。ここ数日のいつものやりとりである。

 

「みゅーみゅーっ」

 

 原因はゲッコウガが助けたらしいあの変わったハクリュー。でも本人はハクリューを助けたのは事実だがこのハクリューではない、のだとか。わけ分かんないや。

 それにこのハクリュー、時折別のポケモンに姿を変える類い稀な能力を持っているのだ。ハクリューってそんなことできたっけ………?

 まあ、そんなことはマフォクシーにはどうだっていいことだけど。それよりも気に入らないのは、そのハクリュー擬きがゲッコウガにべったりと引っ付いていることらしい。

 私だって先輩に変な虫が纏わり付いたら快く思わない。

 今でも充分にたらし込んでいるっていうのに…………。

 

「それで、先輩の様子は?」

『柔肌が眠らせた』

 

 ………ん?

 

「………今なんて?」

 

 聞き間違いだよね?

 

『あの柔肌が眠らせた』

 

 あ、聞き間違いじゃなかった…………。それってユイ先輩、のことだよね…………。

 え、ゲッコウガってユイ先輩のことそんな風に呼んでたの?!

 そりゃ、ケロマツの頃からユイ先輩には懐いてたけどさ………………。

 私も抱きついてみようかなー……………。

 

「………先輩も好きだもんねー」

 

 ポケモンはトレーナーに似るってよく言うけど、この二人は似過ぎている。

 

「仕草から捻くれ方まで似てるとか、先輩がポケモンになった気分だよ」

 

 でも、ゲッコウガはゲッコウガで先輩は先輩。似てはいてもこれだけは一緒にならない。

 

「先輩は、人間だってこと、自覚してるのかな………」

 

 自覚はしてると思う。

 だけど、有事の時はそういうのを後回しにするタイプだから厄介だ。

 

「心配、だなー………」

『ハチの心配もいいが、自分の心配もしておくことだな』

「分かってるよ………」

 

 ゲッコウガと会話ができるようになって思ったけど、先輩よりも捻くれてるかも………………。

 でも行動力はスイッチが入った時の先輩にそっくりだ。

 

「ああそっか。マフォクシーと私も似た者同士なんだ………」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 小さく寝息を立てているヒッキーがあたしの胸に完全に寄りかかってきた。普段はやる気なさげにだらーっとしているのに、スイッチが入れば途端にカッコよくなる。でもこうして寝ている時は、なんかかわいい。思わず頭撫でちゃうくらいにはかわいい。

 ふらふらなヒッキーを見て、ゆきのんとコマチちゃんとでヒッキーをどうにかして休ませようと目配せしたけど、どうやらうまくいったみたい。

 

「………初めてですね、お兄ちゃんが弱音を吐くなんて」

「それだけ無理してたんだよ、やっぱり。身体的にも精神的にも」

「これからどうするんですか? お兄ちゃんは使えませんよ?」

「大丈夫! あたしに任せて!」

 

 ヒッキーはこれまでずっとあたしたちのために頑張ってくれてたんだ! だから今度はあたしたちがやる番!

 

「ねぇ、ヒッキーが危ない目に遭うのって、あなたたちロケット団のせいなんでしょ?」

「………何を言い出すかと思えば。それがどうした。オレを倒して敵討ちでもするつもりか?」

「あなたを倒したところで何も解決しないし、それを決めるのはヒッキーだから。そこはあたしが割り込んでいい話じゃない、です。それよりもあなたには最前線で戦ってもらいます」

「フン、断ると言ったら?」

「拒否権は、ありませんよ」

 

 シュウには既にサカキの背後に回ってもらっていた。

 こうでもしないとこの人との賭けは成立しない。よく分からないけど、ヒッキーなら多分こうしていたはずだ。

 

「ほう」

「あたしはあなたたちを許すつもりも好きにさせるつもりもない。知ってること全部話して下さい」

 

 今のあたしを見ればあたしらしくない、なんて言うかもしれない。

 けど、それでもいい。今はそれよりも大事なことがあるんだから。

 

「………ぼっちぼっち言ってる割には仲間がいるではないか。………ナツメ」

「いいんですか………?」

「構わん」

 

 どうやら上手くいったみたい。

 シュウも状況を察してサカキから距離を取った。

 

「………ロケット団の最初の目的は、最強のポケモンを創り出すことだったわ。最強というからにはどんな戦いにも順応し、勝てる強さが必要。だからベースとなるポケモンはそこら中にいるポケモンでは意味がなかったの」

「幻のポケモン、ミュウね」

「ええ、ミュウは全てのポケモンの遺伝子を持つとされているわ。採取したミュウのまつ毛から確証も得ている」

 

 幻のポケモン、ミュウ。

 以前ヒッキーが連れていたミュウツーの元になったポケモンだっけ?

 

「そして立ち上がったのが、ミュウツー計画だ」

「カツラ、フジ、イッシキ。三人の科学者を軸に計画は進んでいたわ。けれど、計画は破綻した」

 

 はじょう?

 計画が潰れたってことかな?

 

「だが、それで終わるロケット団ではないわ。ミュウツーがダメならば、今いるポケモンの最強を創り出すことにしたのよ。イッシキ博士のミュウツー計画を元に『プロジェクトM's』をね」

「『プロジェクトM's』………」

「リザードンの奴だ…………」

「あら、知ってたのね」

 

 知ってるも何も、ヒッキーが教えてくれたから。

 ヒッキーの大事な過去を教えてくれたから、あたしはちゃんと覚えてる。

 つまり、ここからはヒッキーから聞いた話と同じ内容ってことだ。

 

「ようやく実験に堪えたヒトカゲが脱走するなんて、誰も想像してなかったでしょうね」

 

 これはヒッキーのリザードン。

 あのまま実験を行っていたらどこかで命を落としていたかもしれない。

 

「その後、私が入って来たってことね」

「そうよ。あなたのお陰で、脱走したヒトカゲがトレーナーを見つけた場合を想定することができたわ」

 

 ハルノさんがロケット団に入ったのはその後なんだ………。

 でも、そのおかけでヒッキーもリザードンも今がある。

 

「『レッドプラン』………」

「これがなかったら、今頃共倒れになってたでしょうね」

 

 ハルノさんがしたことは許せることじゃないけど。それはあたしたちからしてみればの話。ヒッキーは逆に感謝してるくらいだった。

 こんな酷い目に遭っているのに感謝だなんて、やっぱりヒッキーはすごいかも。

 

「それは違うわ。確かに『レッドプラン』は必要だった。けど、それだけじゃない。ハチマンにはダークライがいたから何とかなっているのよ」

「それはどういうことかしら?」

「ダークライはハチマンとリザードンーーヒトカゲの記憶を食べて、暴走を起こさないようにしていたのよ。だからこそ鍵を作ることにも成功したわ」

 

 あれ? そうなの?

 そんな話聞いてないんだけど。

 ヒッキーも把握してないってことなのかな。

 

「鍵………?」

「ええ、鍵よ。ハチマンの傍らにいて、唯一暴走を止められる存在」

「それって………」

「ユキノさんのことですよね………」

「そうよ、満月島に落ちていた羽を使ってユキノちゃんを鍵としたのよ」

 

 鍵………。

 ゆきのんも同じことをされているとか言ってたっけ。

 

「自分でも試したのではなかったのか?」

「その羽はね、人を選ぶのよ。見つけた時は光っていたのに、私が拾うと光が弱まったわ。対して、ユキノちゃんに近づいただけで光を発して、離れたら光は弱まったの。こんなの羽がユキノちゃんを選んだとしか言いようがなかったわ」

 

 ヒラツカ先生の問いにハルノさんが答えた。

 羽って何の羽なんだろう。

 

「だが、それ以前にハルノは自分を実験台にしていたのではないのか?」

「ええ、してたわよ。でも足りなかったのよ。だからこそあの羽を使おうと考えた。その結果、ユキノちゃんに責任を押し付けることになっちゃったけどね」

 

 ヒッキーとゆきのん。

 なんだかんだで結ばれてるんだよね。

 あたしももっとヒッキーと結ばれたいな。

 

「クレセリアがユキノちゃんを選んだ理由なんて、本人は知らないでしょうね」

「人をバカにするのはいい加減やめてくれないかしら」

 

 あ、…………。

 

「ゆきのん!」

 

 戻ってこないかと思ってたけど、ちゃんと戻ってきてくれたんだ。

 

「ごめんねゆきのん。嫌な役させちゃって」

「気にしてないわ。私も感情に任せて言わなくていいことも言っちゃったもの」

 

 咄嗟だったからゆきのんには嫌な役させちゃったよね。

 事前決めていればあたしがその役をやってたのに。

あたしにはそういうところでしか二人の、みんなの役には立てないんだし。

 

「ごめんなさい、あまりにも無理をしているあなたの感情を爆発させようと思ったのだけれど、私も感情を抑えられなくなってしまったわ」

 

 ゆきのんはあたしの膝を枕にして寝ているヒッキーの顔に手を当てた。ゆきのんの顔、すごく申し訳なさそうだ。

 

「姉さん、改めて言っておくけれど、私は姉さんを恨んでなんかいないし、責任を押し付けられただなんて思ってもいないわ」

 

 鋭い目でハルノさんを見たかと思えば、こう言い放った。

 ほんとヒッキーといい、すごいよね。

 

「私は弱い。だからオーダイルを暴走させたり、ハチマンを追いかけても追いつかない。ずっと隣に立つことも出来なかった。けど、姉さんのおかけで私はハチマンの唯一になれたのよ。感謝こそすれ、恨むなんてバカげた話だわ」

 

 そして愛もすごい。

 ゆきのんはずっとヒッキーの横に立ちたいって思ってたんだもんね。それに比べてあたしなんかボーっと生きてただけで、また会えたらなーなんて自分では動こうともしなかった。

 だからゆきのんはすごいっ!

 

「ユキノちゃん………」

 

 でもゆきのんがここまでハルノさんに言えるようになったのもやっぱりヒッキーのおかげなんだよね。否定するだろうけど。

 

「それにクレセリアが私を選んだ理由は彼がダークライといたからよ。あの時の私はハチマンを追いかけることに必死だった。言い換えればハチマンに遭遇する確率が一番高かったのが私ってことよ。そしてもう一つ。まるで自分たちを見ているようだったかららしいわ」

 

 ゆきのんとヒッキーが自分たちそっくり………?

 ………それってつまり………。

 

「案外クレセリアとダークライもそういう関係なのかもしれないわね」

 

 そういうことってあるのかな………。

 ううん、あるんだよきっと。あるからこそ、こうやって二人に力を貸しているんだもん。

 

「………そっか。そういうことだったのね」

「姉さん?」

 

 ハルノさん?

 どうしたんだろう、いきなり一人で納得しちゃったみたいだけど。

 

「最初から違ったのね。私に足りているとか足りていないとかの問題じゃなくて、クレセリアが自らユキノちゃんを選んだのね。あの羽はユキノちゃんを探すためにあったものだった…………。はぁ………なんだかなー」

「一人で納得しているところ悪いのだけれど、別に姉さんの行動が無駄だったわけじゃないわ」

「はぁ………ハチマンみたいなこと言うようになっちゃって………」

 

 えっと、結局どういうことなんだろ。

 

「ユイ!」

「え? ユミコ?!」

 

 え? ユミコ? なんでいるの?

 

「何でカロスに?!」

「イッシキに呼ばれたからハヤトと駆けつけただけだし。つーか、イッシキは?」

 

 イロハちゃんに呼ばれて………?

 イロハちゃん、何かあったのかな………。

 

「イロハちゃん? イロハちゃんなら数日前に修行に行ったっきり、帰ってきてないよ?」

「イッシキがハヤトにアンタたちを助けてくれって言ってきたくせに………。当の本人がいないってどういうことだし!」

「まあまあ、ユミコ。落ち着いて」

「あ、ハヤト君!」

 

 あ、やっぱりユミコだけじゃなかったか。まあそうだよね。イロハちゃんが直接ユミコに連絡いれるとも思えないし。

 

「………やあ、ユイ。これはどういう状況なんだ? こっちに着いたらいきなり街中逃げ回る人々で埋め尽くされるし、ここには………ロケット団のボス、サカキもいるようだし」

「んと、それが………」

「それにヒキガヤはどうした? あいつがこんな騒ぎを放っておくはずがないと思うんだが」

「ハヤマ君、質問は一つずつにしてくれないかしら? ユイがパンクしているわ」

「ユキノちゃん!? そっか、君は無事だったみたいだね」

「ええ、そうね。理事長様自ら的確な対処をしてくれたもの」

 

 助かったよ、ゆきのん。

 あたしには説明しようにも上手く伝えられるとは思えないし。

 

「ヒキガヤ?! ………だ、誰かにやられたのかい?」

「んーん、また無茶してたから仕方なく眠ってもらったの。今回はヒッキーが狙われてるから………」

「ヒキオが………?」

「あいつらにかい?」

「近いようで遠いわね。彼らはハチマンが狙われる原因を作った人たちですもの」

「原因を作った………?」

 

 ハヤト君たちはヒッキーの事情知らないんだ。

 打ち明けたのもあたしたちが初めてなんだね。

 

「ハヤト、今は説明している暇はないわ。すぐに作戦会議を開きます。本当は頼りたくないけれど、…………あなたたちも来て」

 

 また話が逆戻りしそうだったのをハルノさんが仕切ってスタジアムの会議室へと移動していく。

 これで何とかみんな動けるよね。ヒッキーを寝かせちゃった分、あたしたちで何とかしないとだもんね。

 あたしは先にユミコと一緒にヒッキーを病院に連れていくことにした。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「日時計が狙いと聞いて、一つ思い当たることがあります」

 

 避難して人がほとんど空になったスタジアムの会議室。

 私たちはここで作戦会議を開いていた。

 参加者は私と姉さん。イロハから呼ばれて飛んで来たというハヤマ君。それにヒラツカ先生とチャンピオンとプラターヌ博士。あとククイ博士という人とその相方さん? それからロケット団の三人。あとの人たちには外で待機してもらっている。もし私たちがこうしている間に外で動きがあったら対処できないもの。

 

「半年前のフレア団騒動後、カロス各地である現象が起きているんです」

 

 そして今はプラターヌ博士が可能性の説明をしている。

 今回の事件は相手がデオキシスという宇宙から来たポケモンであること。そしてそれをネオ・フレア団なるフレア団の生き残り軍が狙っているということが重要だ。あとハチマンを狙ってギラティナが襲いかかってくることもだわ。

 今の話の軸はそもそものデオキシスがカロスにやって来た理由。その仮説を立てているところである。

 

「日時計………というと夜8時から9時の間、日時計が発光し、それに呼応するかのようにキーストーンとメガストーンが光を発し始めるってやつですか」

「ええ、私も調査に出向いたところ、キーストーンとメガストーンを発見するに至りました」

「………決まりだな。奴らの狙いはこの時間、その日時計とやらが力を発している時を狙って、デオキシスに吸収されるつもりなのだろう」

「つまり、まだ時間的猶予があるってわけだぜ」

 

 デオキシスを使ってカントーで事件を起こしているロケット団は日時計を狙っているという線が濃厚なようね。

 まあ、私も誠に遺憾ながら同意見だわ。カロスで唯一宇宙関連のものといえば日時計だもの。本当は化石研究所に巨大隕石グラン・メテオの破片が展示してあったらしいけれど、それはもうデオキシスに回収されてしまっている。隕石の破片が目的ならばさっさと帰っているだろう。というよりそもそもの話、カロスを狙うよりもホウエン地方に赴いた方が高エネルギーの隕石片を回収することもできたはずだ。だから他に目的があるとするならば、日時計に考えが至ってしまう。

 でも、そうなると一つの懸念が生まれてくる。正直知らないでいて欲しい。そう思っている私がいる。

 

「…………プラターヌ博士、彼にこのことは………?」

「当然知ってるよ。彼には実際に使う者としてのデータや意見をもらってるからね」

「そう、ですか………………」

 

 けど、現実はそういうものよね。

 彼は博士の研究データを共有していた。

 つまり、あそこで私たちが止めなければ彼は無理をしてでもデオキシスを止めに行っただろう。それが、彼だから。

 

「今はそんなことを考えている時ではないわ。まずはネオ・フレア団とやらを倒すことを考えましょう」

 

 そうね、姉さんの言う通りだわ。

 

「そうだね。ヒキガヤに頼れない今、俺たちでやるしかない」

 

 イロハは一体どこまで先を読んでいたのかしら。ハチマンがこうなることを見越してハヤマ君たちを………いえ、きっと念には念をということかもしれないわ。何せイッシキイロハだもの。

 

「あの、一つ聞かせてもらいたいのだが」

「シズカちゃん………?」

「サカキ、お前はどうしてヒキガヤに肩入れする。お前はロケット団の首領なのだぞ? いずれ敵に回ることが分かっているのに、何故そこまでヒキガヤのために動くのだ」

 

 そういえば考えたこともなかったわね。ハチマンとサカキはずっと敵対し、利用し利用されの関係しか見て来なかったもの。

 …………本当のところはどうなのでしょうね。サカキにとってハチマンは言わば巻き込まれただけの存在。なのにハチマンのために生きる術を与えていたり、確か技も教えたとか言ってたかしら。ロケット団の部下よりも手厚いサポートをしているのは事実。その先の見返りが大きいというのなら理解できるのだけれど、そういうわけでもない。ハチマンが強くなればなるほど敵戦力が大きくなっていくだけでしかない。つまりはリターンは愚かリスクしかない。なのにハチマンに拘る理由って一体………。

 

「それを貴様らに話す義務はない」

 

 でしょうね。私たちも聞いたところで納得するとも思えないし、今更って話だわ。

 ただ………。

 

「………ハチマンはあなたたちを捕らえるつもりはなさそうよ。口では色々言っているけれど」

「それはどうかな」

「いえ事実よ。彼はあなたを、あなたたちを利用しているもの」

「利用? されている方ではなくてか?」

「ええ、彼は知っているもの。ロケット団が世界に与える影響というものを」

 

 サカキがどう思っているかなんてのは知らない。けれど、ハチマンはサカキに対して、ロケット団に対して捕まえようとはしていないのが事実。口では絶対捕まえるとか言っているけれど、それは恐らく『個人的に』というもので、公に晒すつもりはない。そうすればどうなるか分かっているから。

 

「………何が言いたい」

「必要悪」

「必要悪?」

「ええ、ロケット団という巨大な悪がなければ、その他の悪党が無作法に活動しているでしょう。そうでなくとも各地方に悪巧みをしている悪党がいるのが現状。ハチマンはその抑制力としてロケット団をそのままにしているのよ」

 

 いくら自分たちを研究の被験体にしてしまった存在でも、利用できるものは利用するのがハチマン。何故かそう割り切ってしまうのだ。

 別にそれはそれでいい。それが最善策であるのは事実だから。

 ………だけどね、ハチマン。あなたが傷付いていることに自分が目を背けるのは間違ってるわ。

 

「なるほど、あいつが考えそうなことではあるな」

「それにハチマンの地位ならポケモン協会を動かそうと思えば動かせるものね」

「……………悪を悪で制す、か」

 

 まあ、言っても聞きはしないでしょうし、だから今回はあんな方法をユイと一緒に取ったのだけれど。

 悪く思わないでね。あなたは今回護られる側の人間なのよ。

 

「取り敢えず話を戻しましょう、姉さん。この話は終わってからでもできるわ」

「そうね。それじゃ博士の仮説を前提に作戦と戦力の配置決めと行きましょうか」

 

 いつまでも護られる側にいるのは性に合わないの。

 今度は私が命懸けであなたを護るわ。




改めてお久しぶりです。
ようやく検査等が終わり、筆を取る余裕が出来ました。
この作品もいよいよ終盤というところでの発病でしたので、書けない間は大変心苦しい思いでした。
病気の方は身体的異常は見当たらず、恐らくストレスによるものだと思っています。

恐らくこの作品はあと1話、2話で完結となります。
次話を近い内に投稿すると思いますので最後までよろしくお願いいたします。

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