『さあ、カロスリーグ五日目! 今日はなんと! 前半には二回戦も終わり、後半から準々決勝が始まります!』
今日は午前の部でルミと俺がそれぞれバトルし、午後から午前の部の勝者を含めた準々決勝進出者でシャッフルバトルを行う。ここで勝てば準決勝からはチャンピオンも加わり頂点を決めていくことになる。
ただまあ、そんなことがどうでもよくなるくらいには懸念事項がたくさんあり、内心落ち着かない。
『さあ、まずは本日の一戦目! オニゴーリの圧倒的な一撃必殺で駒を進めたルミ選手対ホウエン地方のバーサークトレーナーミツル選手!』
紹介が二人して凄いな。
まあ、ルミは本戦出場選手の中では最年少だろうし、そいつが一撃必殺を連発してたらこんな紹介になってしまうか。
それに対して、相手選手。バーサークトレーナーってどういうことだってばよ。俺バトル見てないから何とも言えないんだけど。
取り敢えず、ルミルミピンチだったりするのか?
「あ、ルミちゃん出てきた!」
「ルミー、がんばれー!」
盛り上がってますな。
ま、お手並み拝見といこうか。
「両者、準備はっ?」
「いつでも」
「大丈夫です!」
ホウエン地方のトレーナーとか言ってたよな?
やっぱり使って来るのもホウエン地方に生息するポケモンなのかね。
「それでは! バトル始め!」
「いくよ、ロゼリア!」
「ポワルン、いくよ」
ルミはポワルンか。んで、相手はロゼリア。
小さいポケモン同士だな。
「あられ」
「相手はポワルン。ルビーさんのPOPOと同じポケモン。特徴としては天気を操ることに長けているということ。そして、その天気に応じたタイプに変化すること。あられならこおりタイプ」
おおう、なんかぶつぶつと言っているけど聞かなかったことにした方がいいのか?
「ウェザーボール」
「ロゼリア、くさぶえ!」
霰の影響を受け、作り出したウェザーボールが凍りついていく。
その間にロゼリアが草を口に当てて音色を奏でた。
だが、霰によって草の音色はかき消されてしまった。
「ロゼリア、マジカルリーフ!」
技が失敗したと分かればすぐに技を切り替えてきた。対処が早く正確だ。
氷の球に向けて無数の葉が飛んでいく。マジカルというだけあって外れることはない。
「戻って、ポワルン」
『おおっと、ここでルミ選手! 交代を選択しました! あられによりポワルンが有利になった筈なのに、一体どういうことだっ!?』
『何か、彼女に考えがあるのでしょう』
『それは?』
『さあ、そこまでは。私も彼女のバトルはあまり知りませんし』
あられを放って攻めに転じたかと思ったタイミングでの交代か。
これは恐らく相手トレーナーへの揺さぶりだろうな。
「オニゴーリ、ふぶき!」
うわっ…………、鬼畜にも程があるだろ…………。
妙なタイミングでの交代で危機感を覚えていたとしても、これは対処のしようがない。
「ロゼリア!?」
案の定、ロゼリアは猛吹雪に呑まれた。
効果は抜群。
「………出てきて………………一瞬…………!」
会場が息を飲んだ。
さっきまでの騒がしさが嘘のようである。
「ロゼリア、戦闘不能!」
『な、何ということでしょう!! ルミ選手の交代に警戒を示したミツル選手を、圧倒的な力でねじ伏せました!!』
『………彼女、上手いわね』
『ええ』
『これは意外な展開になってきそうだなー』
プラターヌ博士の意外な展開というのは、ルミが優勝してしまうことなのだろう。
いや、あり得ない話じゃない。
俺だって、トレーナーになったルミの実力を知らない。今こうして見せているのなんて、ほんの一部なのかもしれない。俺の予想を凌駕している可能性だって大いにある。
伝説のポケモンに魅入られたその実力・資質は天性の、本物だろう。
「戻れロゼリア」
早くも一体を失ってしまったホウエンのバーサークトレーナーは相当悔しそうだ。
ま、そこでポケモンのせいにしないだけ真っ当なトレーナーである。
「いくよ、ジバコイル!」
二体目はジバコイルか。
ザイモクザのポケモンでもあるが、でんき・はがねタイプ。特徴として浮いているのがポイントだ。特性が浮遊とかでもない。電気と磁気による影響なんだとか。
「オニゴーリの弱点を突いてきたか」
「でも大丈夫よ、ルミなら。あの校長に勝ったんだもの」
「それはそうですけど…………」
どうやらユイは何か釈然としないものがあるようだ。
ほんと、そういうとこまで頭が回るようになっちゃって………。あんなアホの子だった奴にどんな教育をすればここまで育つのだろうか。教えて、ユキノ先生!
「ジバコイル、ラスターカノン!」
「躱して、ぜったいれいど!」
一直線の攻撃を身軽に躱し、ジバコイルを氷の世界へと誘った。
パキンッ! と氷が弾ける音がしたが、ジバコイルは浮いている。
浮いている?
………うん、浮いている。
「な、なんで………っ?!」
「うん、その反応を待ってたよ。ジバコイル、エレキネット!」
ジバコイル。
奴の特性にはがんじょうというものがある。体力が満タンの時、つまり初撃でリタイアになることはないということ。
そして、それが意味する果てには、これがある。
一撃必殺では倒れない。
「オニゴーリ?!」
無傷のジバコイルが放った電気の網に囚われたオニゴーリ。その身体は無惨にも地面に転がっている。
「ラスターカノン!」
初めて見せたルミの動揺はオニゴーリがやられるまでの時間を稼いでしまっていた。
気づいた時にはオニゴーリは戦闘不能に…………なっていないだと!?
「ギリギリ耐えた…………のか?」
「ヒッキー、あれ!」
ユイの指し示す方を見るとオニゴーリに霰が降り注ぎ、傷が塞がっていくのが見えた。
これは………。
「アイスボディだね」
「回復していたからギリギリ耐えたってのか」
『い、一撃必殺を防いだぁぁぁあああああああああっっ!! 一体何をしたというのでしょうかっ!!』
『ポケモンのレベル差の問題か、あるいは』
『ジバコイルの特性、ですね』
『うん、僕はこっちが強いと思うね。ジバコイルの特性にはじりょくとがんじょう、そして稀にアナライズがある。あのジバコイルの特性はがんじょうだろうね』
『攻撃を誘った、というわけですか』
『ええ、彼も彼でかなりやり手ですよ』
「オニゴーリ、ジャイロボール!」
耐えたからには反撃に出る。
まず、ジャイロ回転で電気の網をぶった切り。
「ジバコイル、もう一度エレキネット!」
「ふぶき!」
ジバコイルは再度電気の網を飛ばし、オニゴーリを捕獲しにかかるも、吹雪によって押し返されていく。
「でんじほう!」
だが、それらすべてがブラインドとなって、電撃の一閃を描かれてしまった。
「オニゴーリ!?」
またもやピンチ!
というかあのジバコイル、オニゴーリに対しての相性が良すぎる。
「これで今度こそ、動けないかな。ジバコイル、ラスターカノン!」
でんじほうは受ければ最後必ず麻痺する効果を持っている。直撃したオニゴーリも例に違わず痺れをもらっていた。
「ぜったいれいど」
おい、待てルミ!
がんじょうの相手に一撃必殺は………!
「ラスターカノンが…………」
「凍りついた……………?」
オニゴーリに直撃する寸でのところで、鋼の光線は凍りついていた。
「ふぶき!」
つーか、なぜ動ける?!
痺れはどうした?!
「ジバコイル、ほうでん!」
地面に転がったまま吹雪を放つオニゴーリ。
ジバコイルはそれを放電し、溶かすことで防御に専念している。いや、攻撃も見越した戦法だった。
乱れ打ちに放たれる電撃がオニゴーリへと突き刺さったのだ。
「オニゴーリ、戦闘不能!」
『まさかまさかの一撃必殺を防ぎ、反撃も許さなかったぁぁぁあああああああああっっ!! オニゴーリ、戦闘不能! 一体何があったのでしょう!』
『やはり最初の一撃必殺を防いだのが大きい。アレで流れを全て持っていかれていたよ』
『ですね』
ああ、やり手だな。
バーサークトレーナーと呼ばれる所以は分からないが、少なくとも実力者ではある。
『ですが、オニゴーリも奮闘してましたね』
『ええ、特性を活用し、技で技を破り反撃の狼煙を上げた。こっちも中々手強いですよ』
「先生、どこが大丈夫なんですか! オニゴーリ、やられちゃいましたよっ!」
ルミが対処できないで、オニゴーリが戦闘不能になったことにユイは危機感を覚えたようだ。
「先生、いくらスイクンがいるからって侮ってはいけませんよ。スイクンもポケモンなんで」
「うっ…………」
図星かよ。
しかもスイクンいることを否定しないし。
スイクンも危機を予感してるってことなのかね………。
「がんじょう………、最低二発は当てないと倒せない。だったら、ラグラージ!」
タイプ相性ではこれほどない確実な選択である。ジバコイルの電気技は無効、はがねタイプの技も効果はいまひとつ。逆にラグラージの地面技は効果抜群だ。
「マッドショット!」
「ジバコイル、戻って!」
だが、バーサークトレーナーは対処が早かった。
土玉が届く前にジバコイルをボールに戻した。
「ラグラージはルビーさんのZUZUで痛いほど勉強したからね。ジバコイルでどうにかできるなんて考えは持たないよ。ノクタス、ニードルアーム!」
ルビー………?
あのバカップルの彼氏の方のことか?
あのバーサークトレーナーはバカップル彼氏の知り合いなのか?
「ラグラージ、躱してれいとうパンチ!」
そうこうしてる間に、緑サボテンの攻撃を流して氷の拳で突き飛ばした。
「もう一度れいとうパンチ!」
「すなあらし!」
追い討ちを掛けにノクタスへと飛び込んでいくが、ノクタスを中心に砂嵐が巻き起こった。
それだけならじめんタイプを持つラグラージには対処出来ただろうが、砂嵐の直後にノクタスの姿が消えたとあっては為す術もなかった。
「ッ?! 消えたっ!?」
これにはルミも驚きを隠せず、叫んでいる。
「ギガドレイン!」
そうこうしている内にノクタスはラグラージの背後に回り込んだらしく、無防備な状態のラグラージから体力を吸い上げ始めた。
「マッドショット!」
あいつタフだな。
体力をごっそり奪われているってのに、一回転して土玉を投げていった。
「あれで倒れないのか。でも、後ろがガラ空きだよ。ノクタス、だましうち!」
くさタイプの技を受けてもなお立っているラグラージは初めて見た。どんな育て方をすればここまで育つんだよ。しかも仲間にして半年も経ってないんだろ?
これはアレか? 仲間にした時には既に優秀な奴らばっかだったとか?
まあ、アレだ。トレーナーでもないのにスイクンに選ばれてるんだから、優秀なポケモンたちがトレーナーを選んだって言われても納得がいく。というか、そっちの方だと思いたい。
よもやルミルミに『育てる者』なんて二つ名が付いた日には俺は泣くぞ。
「ニードルアーム!」
「カウンター!」
だましうちによる死角からの攻撃を受けたラグラージに、追い討ちを掛けるようにトゲトゲした腕が突き出された。
だが、ラグラージはノクタスの腕を既に掴んでいた。
そして背負い投げで地面へと叩きつける。
ドシンッ! という痛々しい音が会場を包み込んだ。
「姿が見えなくても、直接攻撃の時なら捕まえることはできる。ラグラージ、れいとうパンチ!」
背中へのダメージにより起き上がれないでいるノクタスの腹に容赦なく氷の拳が叩きつけられた。
「ノクタス?!」
ノクタスの周りはクレーターと化し、当のノクタスは凍りついて動かない。
「ノクタス、戦闘不能!」
審判により判定が下された。
これで再びルミが一歩リード。
「カウンター、覚えてるんだ……………」
「一撃必殺も使えるし、メガシンカも普通に使ってくる。ほんと強いなー」
ユイもコマチもルミのトレーナーとしての資質が相当なものだということを改めて思い知らされた、という顔をしている。
「…………ねぇ、ヒキガヤ君」
「はい? なんすか?」
「アレ、誰?」
「誰って、先生の娘でしょうに」
「私とバトルする時、ラグラージにあんな戦法取らせたことないんだけど…………」
「それは時と場合によるんじゃないですか? 先生とバトルする時は回復される前に徹底的に潰すってのがセオリーでしょうし、今のバトルは相手の動きを伺って文字通りカウンターを仕掛けた。………案外、ミラーコートも覚えてるんじゃないですか?」
丁度師となるポケモンを連れてるわけだし。
ソーナンスとかいう返し技のプロフェッサーが身近にいれば、自分のポケモンに覚えさせていても何ら不思議ではない。何ならスクールの特例試験で先生のポケモンを使ってるんだろうし、トレーナーとして技を出すタイミングも既に掴んでいる筈だ。
だから出来た。それだけのことである。
「強いな、ほんと」
「そうですね、さすがスイクンが選んだだけのことはありますよ」
俺ですら伝説に名を残すポケモンに出会ったのはトレーナーになってからだ。もうこの時点でルミは異例中の異例である。
「見えなくても直接攻撃の瞬間、か。だったらこっちの見えない攻撃はどうかな。出番だよ、カクレオン!」
また面倒なポケモンを連れてるな。
カクレオンは特徴として体色を変化させて、周りと同化する能力を持っている。
つまり、すなあらしによるすながくれで姿を隠す以上に見えないということだ。
「ラグラージ、あなたはしばらく休んでて。出番はまだあるから」
「ラグ!」
ルミはラグラージを交代か。
今のバトルで役割を果たしたしな。下手に連戦させるよりは賢い判断だ。
「いくよ、ルンパッパ」
交代先はルンパッパか。
まずはこの砂嵐をどうにかするだろうな。
「あまごい!」
「させないよ! カクレオン、きりさく!」
「ルンパパ、ルンパパ、ルンパッパ!」
や、今の踊りいらないでしょ。
「パパンッ?!」
って、攻撃受けてるし。あまごいは成功したけどもそこは躱せよ。
つーか、今の踊りがあまごいとかいうんじゃないだろうな。
「ルンパッパ!」
「ルンルンルンッパ!」
あ、あいつ痛み感じないアホの子だったわ。
なんで普通に起き上がったんの?
そんなに威力がなかったわけないよね?
「ん? 回復した………?」
今ルンパッパが回復しなかったか?
「あめうけざらか」
「あめうけざら?」
「雨が降っている状態だと回復する特性だ。この特性が最初に発見されたのはハスボーとその進化形であるハスブレロ、ルンパッパだと言われている。今では稀に他のポケモンでもこの特性を発見するようになってはいるがな」
「ほえー、先生物知りですね」
「や、先生だからな」
コマチ、お前はアホか。
ヒラツカ先生は元教師だぞ?
教師が知らなくてどうするよ。
「あめうけざらで回復か。そりゃピンピンしてるわけだ」
ルンパッパがアホの子だったわけじゃないんだな。
「ルンパッパ、なみのり!」
「ルンルンパッ!」
ルンパッパが両手を上にかざし、雨を集め水玉を作っていく。
「カクレオン、したでなめる!」
ビヨーンと長い舌だけが伸びてきて、ルンパッパに絡みついた。
あれ、べっとり舐め回すタイプだな。
「パパンッ!」
あ、気にせず水玉を地面に叩きつけて、波を起こしやがった。
カクレオンは波に呑まれてしまったようで、絡みついた舌も離してしまった。
「あまり気にしてないみたいだね」
「この子、頭のネジ緩いから」
「でも、麻痺は成功だね」
頭のネジが緩いのは合ってたのか。
「頭のネジが緩いのは時にすごい力を発揮してくれる。こんな感じに」
はい?
何するのん?
「ルンパッパ!」
「ルンパッパァァァアアアアアアッ!」
麻痺してるくせに立ち上がった。
え? なに?
あの痺れが気持ちいいとか、そういうこと?
「やどりきのタネ!」
「しまっ?!」
フィールド一帯に種を蒔き、宿り木を作り出した。
「カクレオン、隠れて!」
これで下手にフィールドの端には寄れなくなってしまったな。
さて、カクレオンはどう攻撃してくるか。
「かげうち!」
「ルンパッパ、後ろ!」
「パパンッ!?」
やっぱり麻痺はしてるんだな。
ちょっと焦った。頭のネジが緩いとか言い出すし。
さっきのは気合いでどうにかしたってことなのだろう。
「続けてきりさく!」
それにしても気づかないものなのだろうか。
カクレオンって腹の模様だけ隠せないらしいぞ?今実物見て確認できたわ。
「したでなめる!」
「ルンパッパ、掴んで!」
「パーパンッ!」
カクレオンが姿を隠してから一切攻撃を指示してなかったが、ようやくここで反撃に出た。
まずは絡みついた舌を掴み、身体を回してカクレオンを振り回していく。そして、勢いのついたところで、手を離した。
向かう先は宿り木。ルミはこの状況を作り出すために、敢えて攻撃を受け続けていたのだろうな。
宿り木に身体を打ち付けたカクレオンは木から伸びてくる草蔓に絡みつかれて、がんじがらめになっている。
「ルンパッパ、トドメだよ。ギガドレイン!」
あ、だから別に攻撃を受けてもあまり気にしてないのか。どっちにしろ回復できるし。
「カクレオン?!」
「カクレオン、戦闘不能!」
『カクレオン、戦闘不能だぁぁぁああああああっっ!!』
『ルンパッパはお互いの特性を上手く利用していましたね』
『ええ、あまごいで自身の特性あめうけざらを発動さて、同時にみずタイプの技の威力も底上げ。そしてカクレオンの特性へんしょくに対しみずタイプの技で攻めた後にくさタイプの技を使った。しかもそれはこちらが回復できる技』
結局、ルンパッパは振り出しに戻したのだ。ジバコイルへの仕返しなのかもしれない。
「ルミは、これをずっと待ってたのか…………?」
「あの子、ホウエンを旅してたんでしょ」
「ああ」
「なら相手は気の毒だね。この勝負、意外性がない限りあの子が勝つと思う。バトルを見る限り、知識もバトルセンスも高い。しかも一度旅した土地出身のトレーナーが相手。勝手が分かってるからあの子にしたらやり易いだろうね」
「意外性、か……………」
オニゴーリが倒されたのは特性を上手くミットさせてきたから。だけど、オニゴーリ以外は相手は倒せていない。
確かに意外性がなきゃこっちの勝ちかもな。
「ま、油断はできないが」
「いくよ、フライゴン!」
相手の五体目はフライゴンか。くさタイプ二体にドラゴンが一体。弱点が偏り過ぎてるな。フルバトルのパーティーとしては危うい。
まあ、それ言ったらユキノのパーティーもこおりタイプが多くて偏ってるけどな。
ただ、あいつらは偏ったタイプを専門としている節もあるからな。ヒラツカ先生がそのいい例だ。かくとうタイプばかりのパーティーだが、逆に精通し過ぎていて強い。
弱点対策もばっちりである。
「ルンパッパ、やどりぎのタネ!」
「フライゴン、そらをとぶ!」
ルミから仕掛けにいったが、フライゴンに空に逃げられ躱された。タネはそのまま地面へと吸収されていく。
「ルンパッパ、あまごい!」
いつの間にか上がっていた雨をもう一度降らしにかかった。その間に、空からフライゴンが一直線に堕ちてくる。
「パパンッ!?」
雨雲を呼んだところで攻撃を受けた。
「フライゴン、すなじごく!」
続けて足下を狙われ、砂地獄へと呑み込まれていく。
「なみのり!」
ルンパッパは降ってきた雨を掻き集め、それを足下へと叩きつけ、波を起こして砂を流した。
「ドラゴンダイブ!」
だが、空からの攻撃は全く止む気配がない。
赤と青の竜を纏ったフライゴンが急降下してくる。
「ルンパッパ!」
「ルン、パッ、パッ!」
「ッ?!」
ルンパッパが下から上に伸びるような動きをすると、突如として草蔓が伸び始めた。
「これは………」
「宿り木ですね。最初に外した種は雨と波により水分を与えられ、急成長を遂げたということでしょう」
「ルミちゃんすごっ………!」
普通はこんな発想に至らない。くさタイプを専門に扱っていれば多少可能性として挙げられるだろうが、それでも試そうとまではいかないだろう。
「これでまた、流れが変わる」
一瞬、フライゴンに主導権を奪われたかのように見えていたが、ルンパッパの反撃により握り返した。
「フライゴン!」
宿り木は幾重にも重なり、フライゴンを受け止めている。背後からはさらに草蔓が伸び絡みついていく。
「ルンパッパ、交代だよ」
おい、ここでまた交代させるのかよ。
一体何を企んでいるんだ?
「ラグラージ! メガシンカ!」
ルンパッパと交代で再度出てきたラグラージはそのまま白い光に包まれた。
「メガシンカ………、でも負けない! フライゴン、ドラゴンダイーーー」
「れいとうパンチ」
気づけば背後にラグラージがいた。一瞬前とか白い光に包まれていたはずなのに、氷の拳で殴っていた。
「実の娘のはずなのに………………お母さん、悲しい………」
ちょっとー?
やめてくれますー?
後ろから黒いオーラ出さないでもらえますかねー。
何なの、この教師ども。負のオーラのスイッチ表に出し過ぎでしょ。
「ねえ、お兄ちゃん。なんでツルミ先生、現実逃避してるの?」
「そりゃ、子供の成長についていけない親の典型例だからじゃね?」
「ヒキガヤ、ヒドいっ。ウケるんですけどっ!」
「ウケねぇよ」
あ、フライゴンがやられた。
一発で終わっちまったよ。
「フライゴン、戦闘不能!」
「…………フライゴン、戻って」
言葉が出てこない、そんな感じだろう。
無理もない。
通常で手を焼いていたのに、メガシンカして手のつけようがなくなってしまったのだから。
心が折れるのもそう遠くないだろう。
「あ、ヒキガヤくーん! 次出番だよー!」
こ、この声はっ?!
「メグリ先輩、お疲れ様です」
「うんうん、いいのいいの。私よりもはるさんの方が大変だから」
メグリ先輩がこっちに来たってことはハルノがサカキの元へ行ったのだろう。責任感というか義務感というか、そういうのにまだ引き摺られているんだろうな。俺もそういうタイプの人間だし、分からなくもない。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ハルノ?
声を荒げてどうしたんだ?
「「「「ッ?!」」」」
って、アンタかよ。
「何の用だ、サカキ」
「フン、調子はどうかと思ってな」
漆黒のスーツに黒いハットで顔を隠したサカキがやってきた。その後ろからはハルノが慌てて追いかけてきている。
「そうだな、久しぶりに気兼ねなく『本気』を出せるんだから悪くない」
「ほう、それはこいつが無くてもか?」
「……………俺たちは元々そいつの存在を知らなかったんだ。あろうがなかろうが大したことじゃない」
「なら、こいつが今までお前たちの力を抑えてきたと言ったらどうする?」
「同じことだ。それがあったところで力のコントロールはできない。それよりも俺たちの鍵はあいつだ」
「フン、ハルノの力作か」
「その言い方はやめろ。あいつは俺の大事な奴だ。手出したら殺す」
「ふっ、血気盛んなのはいいが…………呑まれるなよ」
「安心しろ。呑まれた時は真っ先にアンタを喰らいに行ってやるよ」
あれ?
いつの間にか、チルタリスが出てるし。
まあ、メガシンカしたラグラージの相手ではないな。
「チルタリス、コットンガード!」
「ラグラージ、れいとうパンチ」
あーあ、あのもふもふも意味を成してないぞ。
「呑まれないもん!」
ッ?!
ユイ………?
どうした、声を荒げて。
「ハッチーは誰よりも強いもん! あたしやみんなのことを何度も助けてくれて、あたしたちのヒーローだもん! だからハッチーは!」
「フン、たかだかヒーロー気取りが力に呑まれないなんて保障はない。理由を挙げるならもっと理路整然としたものにするんだな」
ああ、言い返せなくて涙目になってるよ。
仕方ない、撫でておこう。
「例え呑まれたとしても、ユキノちゃんがいるわ」
「ハルノさん………」
と思ったら、ハルノに先を越された。
くそ、ここでお姉ちゃんスキル出してくるんじゃねぇよ。
「確かにあの娘は切り札だろう。だが、その力が及ぶのも直接触れるしかない。暴走状態のハチマンに近づけなければないも同然だ」
「貴様、さっきから何を証拠に!」
「ふっ、証拠ならこの目で見ている。他の者も見ている。その二つで共通しているのが、『鍵』がこいつの前に現れた時に暴走が治る、だ」
「ハルノ、どうなんだ?」
「……………サカキの言っている通りよ。暴走している時、ユキノちゃんの声だけは聞こえてるみたい」
いや、別に声は結構聞こえてますから。
ただなんかユキノが側に来ると力が抜けるだけだから。
「お兄ちゃん、どんだけユキノさんのこと好きなのさ」
「ばっかばか、当時はストーカーくらいにしか思ってなかったわっ」
「ふむ、あれ程の登場の仕方をしておって、何をぬけぬけと」
「中二、その登場の仕方ってどんななの?」
「そこのサカキに促され、ロケット団討伐部隊を組んだ張本人が部隊にいないと思ったら、ミュウツーに襲われている我らの前に現れたのだ。こうバサっとマントを翻して」
そういやいたんだったな、こいつも。
やめろ、思い出すんじゃねぇ!そして再現するな!
「しかもその姿は我らとチームを組んでいた忠犬ハチ公であったのだ。そして、極め付けにはマントをユキノシタ嬢に被せて視界を奪い、我にテレポートさせて安全地帯へと送り込む始末! なかなかにうらやまけしからんラブコメ展開であったな」
ぐふっ?!
ハチマンの体力はマイナスへ達した。
「うわー、超捻デレ」
「愛されすぎだよ、ゆきのん…………」
「…………へぇ、あの姿で。へぇ………」
怖い。
怖いよ、はるのん。
俺、視線だけで射殺されちゃう。
「ほう、ようやく合点がいった。何故お前とあいつが顔見知りなのか、ずっと気になっていたが、そういうことか」
「ま、まあ、あの暴君様を説得したのはリザードンだがな。同じロケット団に造られた存在として認めてくれたらしい」
今思うとリザードンも度胸あるよね。
暴君様を説得しちゃうんだから。トレーナーの俺はバトルで手一杯だったってのに。
「ラグラージ、マッドショット!」
「ジバコイル!?」
「ジバコイル、戦闘不能! よって勝者、ツルミルミ!」
『決まったぁぁぁああああああああああああっっ!!! 準々決勝に駒を進めたのはツルミルミ選手!! 本戦出場最年少でありながら、圧倒的なバトルを見せてくれました!! まさに圧巻です!』
『マーベラス! 見事という他ない!』
『ええ、素晴らしいわ。将来がとても楽しみね』
『それに彼女はまだ全ての手持ちを出したわけじゃありません。上手く使用カードをコントロールできています』
結局ルミが今回出したのってポワルン、オニゴーリ、ルンパッパ、ラグラージの四体。その内二体はメガシンカ可能であることを見せている。
あと二体何がいるのか、そうでなくてもどちらをメガシンカさせてくるのか、相手にとっては相当プレッシャーがかかることだろう。
ま、言っても残ってるのってユキノとか四天王くらいだしな。
それよりも………今気にしなきゃいけないのは。
「これ、間に合わなくね?」
サカキのせいでスタンバイできてないという。
このまま両者不在で不戦敗ってことになり兼ねない。
ただ、走っても大分距離がある。というか階段がキツい。
「別にこのバトル大会での勝利に興味も何もない。ただ一つ。これだけの力がぶつかりあえば、奴らが来る材料になる。それだけだ」
うわ………、さすが悪の親玉。
考えることがえげつない。
「うーん、いっそここから行ったら? 二人揃ってるし」
おいハルノ。
何てこと言い出してんの?
「トリのパフォーマンスというわけか。面白い」
そんなパフォーマンス、用意してなかったんだけどなー。そんなパフォーマンス、用意してなかったんだけどなー。
それにこれが今日の災難でした、ってんなら何と嬉しいことやら。
ま、ないだろうけど。今さっきサカキが言ったところだし。奴らはまた来るだろう。
「何でもいいさ。リザードン、仕事だ」
「ふっ、出てこいスピアー」
やっぱりスピアーか。
俺たちを暴走させる気満々だな。
「ふん」
「………何の真似だ?」
暴走させられないように気を引き締めていこうと思った矢先、サカキがメガストーンを投げてきた。
ヒラツカ先生の教育のおかげか、こう投げつけられても取り損なうことはなくなった。超どうでもいいな。
「返してやる。お前の本気を下して、オレの従順な部下に仕立ててやろう」
「………俺はアンタの部下になるつもりはない」
まあ、使えってんなら、遠慮なく使ってやるよ。
「「メガシンカ!」」
行間(使用ポケモン)
ツルミルミ 持ち物:とうめいなスズ(ミナキからの借り物) キーストーン
・ラグラージ ♂
持ち物:ラグラージナイト
特性???←→すいすい
覚えてる技:アームハンマー、まもる、マッドショット、れいとうパンチ、カウンター
・オニゴーリ ♂
持ち物:オニゴーリナイト
特性:アイスボディ←→???
覚えてる技:ぜったいれいど、フリーズドライ、ジャイロボール、かげぶんしん、ふぶき
・ルンパッパ ♂
特性:あめうけざら
覚えてる技:なみのり、ギガドレイン、あまごい、やどりぎのタネ
・ポワルン ♀
特性:てんきや
覚えてる技:ウェザーボール、あられ
ミツル
・カクレオン
特性:へんしょく
覚えてる技:きりさく、したでなめる、かげうち
・ロゼリア
覚えてる技:マジカルリーフ、くさぶえ
・ノクタス
特性:すながくれ
覚えてる技:ニードルアーム、ギガドレイン、だましうち、すなあらし
・フライゴン ♂
特性:ふゆう
覚えてる技:そらをとぶ、すなじごく、ドラゴンダイブ
・チルタリス
覚えてる技:コットンガード
・ジバコイル
特性:がんじょう
覚えてる技:ラスターカノン、エレキネット、でんじほう、ほうでん