『さあ、Cブロック二戦目! 次はどんなバトルが見られるのかっ! それでは登場していただきましょう! カワサキサキ! アーンド、プロゴルファーカヒリ!!』
本日二戦目。
何気に一撃必殺やZ技を使いこなすカワサキの登場。
一見強そうなトレーナーに見えない(睨むと怖いけど)が、恐らくキーストーンとメガストーンを渡せばすぐに使いこなし、一撃必殺、メガシンカ、Z技とあらゆる方面から高い実力を発揮してくる奴だ。
もしかするとユキノよりも、ハルノさんよりも強いかもしれない。
………そりゃ言い過ぎか。
『まさか世界で活躍するプロゴルファーが出てくるとはね』
『カルネさん、彼女のこと知っているのですか?』
『ええ、彼女はアローラ地方出身のプロゴルファーです。しかし同時にバトルの腕前も一流だという噂があるんですよ。こういう公の場でバトルをすることはなかったのですが………、これはとても貴重なバトルが見られることでしょう』
『アローラ地方ですか。昨日のリュウキ選手もアローラ地方で登録されたポケモンを使っていましたね。カヒリ選手もアローラのポケモンやリージョンフォームを出してくるかもしれませんよ』
ほんと、リージョンフォームとかやめてほしい。昨日ナッシーといい、訳が分からなくなる。
というか純粋なカロス出身の選手って何人出てるんだ? 四天王以外全員外から来た奴とかいうオチか? ………よし、コマチたち三人はカロスでトレーナーデビューしたから、カロス出身ということにしておこう。
『自分の知らないポケモンが出てくるとタイプが分からないことがあります。トレーナーの知識と経験が試される場面になるでしょう』
「おりょ、カヒリさんだ」
「コマチ、知ってるのか?」
「知ってるもなにもコマチにZ技を教えてくれた張本人だよ」
ん?
「ん? ちょっと待て。それはアレか? 修行をつけてもらったって人か?」
「そうそう」
………………。
実は妹の師匠でした、ってオチかよ。
おいこら、世間ってのはどうなってやがんだ。狭すぎるだろ。
「カヒリさんはすっごく強いよ。サキさんでも勝てるか分かんない」
「そこまでか…………」
そんな強い相手なのか。
「それではバトルを始めたいと思います! 双方、準備はよろしいですか?」
「「いつでも」」
「では、バトル始め!」
さて、バトル開始か。
まずは誰が出てくるのやら。
「エアームド」
「いきな、ハハコモリ」
カワサキはハハコモリで相手はエアームドか。相性から見て分が悪いな。
『サキ選手、始めから油断できないカードになってしまった!』
「ドリルくちばし!」
「ほごしょく!」
ま、それは織り込み済みだよな。
むしとくさの組み合わせとか、弱点を突かれまくるだけだし。さっさとタイプを変えた方が安全である。
『本戦に出てくる以上、しっかりと対策を立てて来ているわね。ほごしょくで一旦消え、次に出て来た時には違うタイプになっている。この場合、フィールドが砂地だからじめんタイプかしら』
チャンピオンの言うように、ハハコモリはほごしょくで周りと同化し、エアームドの突撃を躱すと、相手選手の前に現れた。フィールドを半周したみたいだな。
『これはまた面白いバトルになりそうだ。まだ彼女のバトルは見たことがないからね』
『彼女は強いですよ。バトルシャトーでダッチェスの爵位をもらったらしいですし』
『あら、それは楽しみね』
そういえば、そんなことも言っていた気がする。まだバトルシャトーに通ってたのかよって感想を抱いた覚えがあるわ。
「いとをはく!」
「はがねのつばさで斬り裂いて!」
さて、カワサキの狙いはなんだろうな。白い糸を吐いてもエアームドの鋼の翼で裂かれて効力を失い、宙にヒラヒラと舞っているだけだし。
「連続でいとをはく!」
「こちらもはがねのつばさで斬り裂き続けなさい」
確かに距離が縮まればエアームドの方に斬り裂くスピードが要されるが、果たして上手くいくのだろうか。
「併せてドリルくちばし!」
翼で足りなければ嘴もってか。
「回転!」
そして身体全体を回転させて、ローリングで白い糸を弾き飛ばし始めた。
「ハハコモリ、躱して!」
止まる気配のないエアームドの突撃を引きつけるだけ引きつけてから身体を反らして躱した。
エアームドの通過した後には白い糸が風に煽られ、エアームドを追いかけていく。
『一体何が狙いなのか、サキ選手! エアームド、油断できない状況です!』
『彼女の狙い、何だと思う?』
『さあ、分かりません。ただあの糸に何か仕掛けがあるのでしょう』
『そうね、でもあのエアームドはそう簡単にかかるかしら』
カワサキが何を仕掛けてくるかによるだろうな。
「エアームド、ドリルくちばし!」
「いとをはく!」
二度目の攻防が始まるもカワサキは一貫して白い糸を出すばかり。一つ違うのは、向かってくるエアームドに対して飛ばすのではなく、地面に突き刺したり、アーチ型にしたりと突撃までの数秒の間に仕掛けを施したのだった。
『ああーっと、今度はハハコモリ! エアームドのドリルくちばしを躱せなかったぁぁぁああああああっっ!! サキ選手、万事休すかっ!?』
ま、おかけで躱す時間がなかったんだけどな。
「ハハコモリ、エレキネット!」
攻撃を食らいながらも、必死に耐えたハハコモリはアーチ型に地面に突き刺した白い糸を軸に、宙を舞う糸屑を連結させ、巨大な球体型の檻を作り上げた。中にはすでにエアームドが放り込まれている。
なるほど、攻撃を受けたのは相手の隙を作るためと直接エアームドに触るためだったか。
『な、なんだこれはっ?! サキ選手、いきなりとんでもないものを作り上げてしまったぞ!!』
『………以前はこんな技の使い方をしていなかったと思うのだけれど』
『周りの環境がそうさせたんじゃない?』
『はあ………、何だかスクールで習ってきたことが悉く壊されていく気分です』
基本は基本。あくまでも基本だ。
だがあの球体は基本ができて初めて完成する応用だ。エレキネットは網目状に練られた糸に電気を走らせている、という技そのものを理解していなければ、いとをはくで出される糸に仕掛けをするなんて発想すら思いつかないだろう。だから基本は何も壊れちゃいない。
まあ、ユキノが言いたいのは時代の流れとともにバトルも進化していて、スクールで習ってきたことが必ずしも活かせるとは限らないってことだろう。
………絶対誰も分からんわ。
『確かにこういう技の使い方を何度も見せられちゃうと、スクールの改編が必要になってくるわね』
うわっ、さすがチャンピオン。
しっかり拾いやがった。
『これは忙しくなりそうだね、ポケモン協会も』
『監修として博士に協力要請がくるでしょうね』
『ははは、………あり得そうだね………』
自分で話を振って、その返しで仕事が確定とか可哀想な人だな。まあ、働いてもらうけど。
「ハハコモリ、圧縮!」
カワサキの言葉にハハコモリは宙に浮かぶ監獄エレキネットを圧縮していき、じわじわとエアームドに痺れを与えていくつもりらしい。
「がんせきふうじで身を固めて!」
対するエアームドは岩石で身を固め、網目状の糸から身を守る態勢に入った。エレキネットはそのまま岩石にへばり付き、電気をバチバチ弾かせながら岩にヒビを入れていく。
「エアームド、開放!」
プロゴルファーの合図でエアームドは岩石を弾き飛ばし、エレキネットを撃ち抜いた。
「ハハコモリ!」
「ハハーリー」
だが、カワサキたちに動揺は見られない。ハハコモリはアーチ型に地面に設置した糸を使い、いつの間にか弾丸状にしていた白い糸をパチンコの要領で撃ち放った。白い弾丸は岩の隙間を掻い潜り、エアームドにヒットすると身体中に伸びていき、翼の自由を奪って、地面に落とした。
はがねのつばさで回転し、糸を絶つということもできただろうが、岩を飛ばすのに力を使い、トレーナー共々対処が間に合わなかったのだろう。
「しぜんのちから!」
捥がくエアームドの地面が割れ、爆発的なエネルギーが噴き出した。恐らくだいちのちからだろう。しぜんのちからという技はその地形に合わせて出てくる技が変化する特殊な技。だから今回はだいちのちからになったってわけだ。何気、ほごしょくでタイプも変えて、タイプ一致にしているのはさすがである。
「エアームド、こごえるかぜ!」
「なっ、あれでまだ倒れないの?! ハハコモリ!」
打ち上げられたエアームドは煙の中から羽搏き、冷たい風を送りつけてきた。
頑丈な身体はあの程度では倒れないらしい。
「くっ」
何かしようにも冷風に煽られ、動けないハハコモリ。ほごしょくのタイプ変化でじめんタイプになっている今、効果抜群である。
「そうだ、ほごしょく!」
そして動けなくても使える技といえば、一旦姿を消すこの技くらいだろう。
「エアームド、とどめのはがねのつばさ」
だが、読んでいたのかすぐさま距離を詰めてきた。
先にハハコモリが姿を消せたが、エアームドが地面を蹴り上げて切り返し、左の裏翼で逃げるハハコモリを捉えた。翼はそのままハハコモリを地面に叩きつけ、右翼でのしかかる。
「ハハコモリ!」
「………ハハコモリ、戦闘不能!」
『糸を使った仕掛けでエアームドを翻弄したハハコモリ、ここでダウン! 先取ポイントを獲得したのはカヒリ選手だっ!』
まずは相手が先取ポイント獲得か。
まあ、元々の相性を見れば当然ではある。逆にハハコモリでよく追い込んだものだ。
「お疲れ、ハハコモリ。アンタの仇はちゃんと取るから」
さてさて、次は何を出してくるのやら。
「ガルーラ、一発で仕留めるよ。はかいこうせん!」
おうふ、出て来て早々、はかいこうせんかよ。さすがのエアームドも驚いて反応が遅れてるぞ。
「エアームド!」
『な、なんと! ガルーラ、初めから大技を繰り出してきたぁぁぁあああっ!! 反応が遅れてたエアームド、躱すことが出来ずクリーンヒット!』
初手で撃ち落とされたエアームドは動かない。
「エアームド、戦闘不能!」
『決まったぁぁぁああああああっっ!! サキ選手、一撃で流れを引き戻しましたっ!!』
たった一撃でイーブンへ。
交代の間に硬直も抜けることだろう。
「戻りなさい、エアームド」
エアームドをボールへと戻すプロゴルファー。
次は誰が出てくるのだろうか。アローラのポケモンか、はたまた俺たちでも知っているポケモンか。
「クロバット、あなたのスピードで翻弄しなさい」
二体目はクロバットか。
トツカも連れているどく・ひこうタイプのポケモンだ。注意するならあの素早い身のこなしと毒を使った攻撃だろう。毒状態になってしまっては動きは鈍るは体力は奪われるわ、負のスパイラルの始まりである。
「ガルーラ、一旦交代。いきな、ザングース!」
おっとカワサキも交代か。
カワサキの三体目はザングース。どくタイプのハブネークとは因縁のあるポケモンか。毒に免疫があるため、交代させたのだろう。
「クロバット、エアスラッシュ!」
「ザングース、ブレイククロー!」
クロバットが無数の空気の刃を作り出し、それをザングースが爪を伸ばして全て叩き落としていく。
何とも激しい攻防である。
「走りながらつるぎのまい!」
「ヘドロばくだん!」
自分の周りに剣を並べ、自在に剣を合わせていく。そこへヘドロが吐き出され、ザングースに当たると爆発した。ザングースの足は止まり………。
「ザングース、からげんき!」
いや、止まっていなかった。爆風の中、紫色の目をしたザングースが飛び出てきて、勢いよくジャンプするとクロバットに体当たりをかました。
「あれ? ザングースの目ってさっきまで赤くなかった?」
「あ、確かに………」
ユイの言う通りザングースの目は普段は赤い。なのに、今は紫色の状態だ。これが意味するのは…………。
『おお、これは珍しい! どくぼうそうじゃないか! こんなレアなザングースを連れていたなんて驚いたなぁ!』
どくぼうそう?
特性か?
『………博士、そのどくぼうそうというのは………?』
『ああ、ごめんごめん。どくぼうそうというのは特性のことだよ。毒状態の時に攻撃力が増すんだけど、この特性を持つのは今のところザングースのみ。しかもザングースの中でも非常に珍しい特性なんだよ。いやー、資料で見たことはあったけど、実際に見れるなんて思っていなかったなー』
『毒状態の時に………、なるほど、だからからげんきですか』
『でしょうね。状態異常の時に威力の上がる技だもの。ヘドロばくだんをまともに受けて毒状態となり、特性と技の効果を一度に発動させてくるなんて、狙ってやったのかしら?』
『少なくとも視野には入っていたでしょうね』
どくぼうそうという特性があるのか。しかもそれを持ち合わせているのはザングースだけであり、それも珍しい特性の部類。超レアな特性といっても過言ではないな。そんな特性を持ったザングースを捕まえていたとは………。
「クロバット、戦闘不能!」
ま、そうだよな。つるぎのまい経て特性発動からのからげんきを耐えられる奴がいるわけがない。
『ザングース、クロバットを一撃で落としたぁぁぁああああああっっ!! レアな特性を持つザングース、クロバットの攻撃をフルに生かしたバトルを組み立ててきています!』
だが、忘れてはいけない。
ザングースは毒状態である。特性が発動しようが、からげんきをフルに活かそうが、毒による体力の消耗は避けられない。
ザングースが長く居座れる確率は今も減り続けている一方である。
「戻りなさい、クロバット。こちらの技を逆手にとってくるとは、あなた腕の確かなトレーナーね」
「そりゃ、どうも」
「あ、エックスお帰りー!」
「エックス、まずは一勝だね!」
「エッP、おめでとう!」
「さて、次行きましょうか。アーケオス!」
プロゴルファーの三体目は…………知らん。
知ってそうなカワサキはフィールドにいるし………誰か知ってる奴はいないかしら?
「………無理だな。よし、ザイモクザ。あのポケモンを検索だ。確かアーケオスとか言ってたはずだ」
「うむ、心得た」
誰も無理そうなので、ネットに頼ることにしよう。
「アーケオス………、ザングース、いわなだれ!」
「でんこうせっかで躱しなさい!」
目が紫色のザングースがアーケオス? の頭上に岩を作り出し、雪崩れ込むように落とし始める。それを隙間を縫うようにして切り抜けると、ザングース目掛けて一直線に突っ込んできた。
「からげんき!」
ある意味暴走状態のザングースはフルパワーのからげんきで迎え撃ち、結果アーケオスの方を押し返した。だが、少し下がっただけですぐに体勢を戻し、再度突っ込んでくる。
「がむしゃら!」
………どうやらさっきの突撃は囮みたいだな。
本命はこっち。さっきの突撃で態と攻撃を受け、体力を減らし、それでも体勢を立て直して切り抜ける力だけは残してからの我武者羅な攻撃。技を出し切ったザングースは躱すタイミングを失っている。
「む、あったぞ。アーケオス、さいこどりポケモン。いわ・ひこうタイプ。………どうやら化石から復活したポケモンのようだ。古代イッシュ地方を主な生息地としていたポケモンらしい」
「いわとひこうか。なるほど、からげんきを耐えてもおかしくはないな」
いわタイプにはノーマルタイプの技とされるからげんきは効果いまひとつである。いくらつるぎのまいと特性を上乗せしていたとしても耐える可能性は大いにある。現にアーケオスは耐えた。
「ザングース、翼を掴んで!」
腹にアーケオスの頭突きを食らったザングースが、それでも足掻き、両翼を掴んだ。
「回転して振り落としなさい!」
だが、掴まれたのを逆手に取り、ローリングでザングースを振り回していく。あれ、絶対毒の周りが早くなってると思うぞ。
最後には地面に叩きつけるように拭い落とし、旋回して距離をとった。
「とどめのアクロバット!」
くるくると後転しながら後退して、勢いをつけると一気にザングースへと降り注いだ。当のザングースは振り回されたことで足元が覚束なくなり、ふらふらとバランスを崩している。
「ザングース! からげんき!」
迎え撃つ準備をさせるも、やはりアーケオスの方が力押しで勝ち、踏ん張りの利かなかったザングースを突き飛ばした。白い体は隔壁へと打ち付けられ、クレーターを作っていた。
「………アーケオス、羽を休めて少し休憩よ」
「………ザングース、戦闘不能!」
『猛威を振るっていたザングース、ここで戦闘不能! 両者一歩も引かない戦いとなってきたぁぁぁああああああっっ!!』
「お疲れ様、ザングース。アンタの仇はきちんと取るよ」
カワサキはザングースに声をかけながらボールへと戻した。
これで両者またしてもイーブン。
「いきな、ニドクイン」
だが、ニドクインを出したことで手の内を一枚多く明かしたことになる。
「アーケオス、バトル再開よ」
「アーッ!」
「アクロバット!」
翼をはためかせ空に飛んでいくと再びくるくると後転しながら後退し、勢い良く降り注いできた。
だが、先ほどのような危険を匂わす空気はカワサキから感じられない。
「つのドリル」
逆にこの冷たい一言で、会場一帯を凍りつかせた。アーケオスの突撃の直前、回転していた角を突き刺し、アーケオスの体を突き上げた。無残にもドサっと地面に落ちたアーケオスの顔が痛々しい。
『………い、い、い、一撃必殺ッッ!! ニドクインのつのドリルが決まったぁぁぁああああああっっ!! サキ選手、一撃必殺を使いこなすとんでもない選手だった!! このバトル、全く先が読めません!』
なに? サキと先とかけたのん?
とまあ、実況の洒落はどうでもいいとして。
ついにカワサキが本気を出してきた。
このまま、バンバン一撃必殺で攻めていくつもりなのだろう。だが、果たしてそう簡単に事が運ぶとは思えない。なんせここまで相手が使ってきたポケモンはひこうタイプばかりである。あんな離れた位置から攻撃されてきたら、一撃必殺を当てる事は難しい。ましてやじわれを使おうとすれば、まずは相手を地面に固定させておかなければならない。
「………まさか一撃必殺が出てくるとは……想像以上だわ」
アーケオスをボールに戻しながら、そう呟いた。
「オドリドリ、いきなさい」
え、何だって? オドリドリ? 踊る鳥なのん?
「ザイモクザ、もういっちょ検索」
「相分かった」
出てきたのは赤い鳥。
今まで出てきた彼女のポケモンの中では一番小さいと思われる。
「フラフラダンス!」
ふらふら〜と踊り出した赤い鳥ポケモン。
不規則な動きにニドクインの視線が奪われていく。
「ニドクイン、目を閉じて!」
ああ、ダメそうだな。
一緒に踊り始めたぞ。
「エアスラッシュ!」
つられて変な踊りをしているニドクインに空気の刃が突き刺さる。前方後方いたるところから切り付けられた。
「ニドクイン、交代だよ。ガルーラ、さっさと仕留めるよ」
たまらずニドクインを交代。代わりに出てきたのはガルーラだった。
「10まんボルト!」
出て来て早々、雷撃を撃ち落とした。
「躱して、エアスラッシュ!」
だがオドリドりは小さくて身軽な体を活かして雷撃を躱すと、空気を叩き刃に変えて、ガルーラに向けて飛ばしてくる。
「ブレイククロー!」
「むっ、あったぞ。あれはオドリドリというポケモンらしいが、どうやら四種類確認されているみたいであるな。あの赤いフォルムはめらめらスタイルというほのお・ひこうタイプのフォルムらしい。他にもぱちぱちスタイル、ふらふらスタイル、まいまいスタイルとあるらしいが、どれもアローラ地方にある各島で作られる密によって変化するらしいぞ」
「アローラ四島に対応したフォルムチェンジか。また珍しいフォルムチェンジだな」
「スタイルの名前が違うということはタイプも違ったりするのか?」
「うむ、ヒラツカ女史の言う通り、各スタイルごとにタイプが変化する。これもまたアローラ四島の気候に合わせたものなのだろう」
ザイモクザによるオドリドリの説明の間に、ガルーラは空気の刃を両爪で弾き落としていた。
「10まんボルト!」
そしてすかさず反撃に移る。
「上昇!」
だがそれをオドリドリは急上昇し、躱していった。
「フェザーダンス!」
オドリドリは上空から羽を撒き散らし、ガルーラの意識が無数の羽に向いてしまう。
フェザーダンスによる羽は当たってしまえば攻撃力が極端に下げられてしまう効果があり、ガルーラにとっては痛手となってしまうだろう。
「もう一度、10まんボルト!」
「オドリドリ、めざめるダンス!」
羽を撒き散らしたオドリドリは空中で身軽ルナステップを踏みながら、時折翼を叩いて音を出し、決めポーズを挟んでいる。
その間にガルーラは電撃を飛ばし、空中で舞うオドリドリを狙って攻撃を仕掛けるが、いかんせん羽が多く、電撃は羽に当たって屈折し、思うようにオドリドリへ飛んで行かなかった。
まさかこんな方法で身を守ってくるとはな………。攻撃技でも防御技でもない、一般的に変化技と分類される技で防御をしてくるなんて俺も発想がなかったわ。基本的に変化技なんて使わないし。リザードンがりゅうのまいを使うくらいじゃないか? あとはやどりぎのタネ………ああ、意外と使ってるな。
「ガルーラ!?」
電撃は防がれ、代わりにオドリドリが全力で踊って貯めたパワーで作り出した炎に包まれてしまった。宙を舞っていた無数の羽も一緒に萌えてしまった。
「ッ!?」
なんだッ!?
この背筋が凍りつくような感覚は………?
なんか、見られている………。
誰だ? サカキか? いや、サカキならもっと殺気立っているはずだ。
これは殺気というよりかはじっと見つめられているような………、殺気よりも気味が悪い感じである。
「はーちゃん、どうしたの?」
「……………」
どうする………?
この得体の知れない何かをこのまま見過ごすか?
「なっ………!? 空が………」
破れたッ!?
「ハチマン?」
不気味な視線を感じる背後ーー南の空を見上げると、空に亀裂が入っていた。今にも何か出てきそうな隙間が開いている。
「………すまん、ルミ。ちょっと仕事入ったみたいだわ。ジュカイン、上に登って見張っててくれ」
「カイッ!」
ボールからジュカインを出すと素早い身のこなしで、会場の柱をよじ登っていった。
「おい、タイシ。ケイカのことは任せた」
「あ、は、はいっす!」
膝の上にいたケイカをタイシに預けるとケイカが寂しそうな顔で手を伸ばしてくる。
「はーちゃん、どこかいっちゃうの?」
「ごめんな、けーちゃん。はーちゃんは今からちょっとお仕事しないといけないみたいなんだ。さーちゃんが戻ってくるまでタイシと大人しく待っていられるよな?」
「うん! けーか、おるすばんできる!」
頭を撫でながら諭すと、ケイカは元気よく手を挙げてきた。
「よし、いい子だ」
「えっ、ちょ、お兄ちゃん?!」
「ヒッキー!? 一体何があったの?!」
立ち上がった俺に気づくとコマチとユイがギョッとした顔で見返してきた。
「俺にも分からん。ただ何が起きているのかを確かめないことには対処すらできそうにないんでな」
「………無茶だけはするなよ。君はもう、独りじゃない」
「分かってますよ。俺がこのままむざむざとやられて帰ってきたらあの姉妹は特に責任を感じるでしょうし」
「まったく、君の周りはトラブルが絶えないなー」
「トラブルを持ち込んできた人に言われたくないですよ。んじゃ、行ってきます」
先生二人にも挨拶をして、客席の階段を駆け上がっていく。すると同じく階段を駆け上がってきたエックスとばったり。どうやらこいつも空の亀裂に気付いたらしい。
俺たちは無言で頷き合い、会場の出口へと走り出した。
「あなた、ハチマンって人ですよね」
道中、エックスがポツリと呟いてきた。
俺と会話するのは初めてだと思うんだが、俺って名前を知られるほど有名だったっけ?
「………誰から聞いた」
「初代図鑑所有者の、グリーンさん、から。それに、コルニさんもよく、話題に出して、いました」
「あいつら…………」
なんとなく分かってはいたが、あの二人が原因かよ。
グリーンは何だ? また何か面倒ごとを押し付けてきたとかか?
コルニは俺のことをバカだのアホだの言ってたんだろう。
「他には?」
「このリーグ戦では、四天王として参戦、というのをコルニさんから、グリーンさんからは、何かあればそいつを頼れって、言われました」
「ああ、そう………」
あのイケメン。立ち去り方もイケメンだな。おかげでこうしてエックスと面会する機会ができたぜ。
「で、どうだ? お前から見て、あの空は」
「分からない。ただ、何か得体の知れない、奇妙な気配を、感じました」
「俺もそんな感じだ。急ぐか」
「無理」
「だよな………。俺もこれが全速力だ」
ああ………、きつッ………。
最近、運営の準備ばかりしていて運動という運動をしていなかったからな。全然足が動かん。昔からではあるが、やはり走るのは苦手だ。
「これ以上ペースを上げても、いざ戦闘になったら、はあ、はあ、息切れをしていて太刀打ちできない、なんてことになっても嫌ですし」
「ま、取り敢えず今、俺のポケモンが、見張りについている。くっ、何かあっても、俺たちが到着するまでの時間は、稼げるはずだ」
「随分と手際がいいですね。もしかしてあなたがすべての仕掛け人、なんてこともあるんじゃないですか?」
「お前な………、ほんといい性格してるよな」
「人のことを、散々、はあ、はあ、調べ上げといてよく、人に、言えますね………」
お互いに段々息が上がり始めてきた。
これ以上はさすがに飛ばせない。
「やっと、出口か………」
「避難とか、いいんですか?」
「大丈夫だ。その辺の段取りは、大会前から、付けてある………くはっ」
「だったら、もっと最短ルートを、確保しておいて欲しかったですね」
「すまん、そこまで考えが、及んでいなかったわ」
最短ルートか。
確かにあったら実に動きやすくなるが………、無理だろ。
どこで何が起きるか分からんのに、最初からそこへの最短ルートなんて作れるわけがない。まあ、そんなルートが作れたら実に対処が早くできるだろうよ。
「サラメ!」
「リザードン!」
外へと出ると、周りなど気にせずボールからリザードンを出した。エックスもリザードンを選んだようだ。お互い自分のポケモンに乗ると、勢いよく南の空へと上昇。会場の屋根にはジュカインが南の空を戦闘モードの状態で睨みつけていた。
「あれは………」
「ジュカインだ。ホウエン地方で登録されたポケモンだな」
ジュカインを見るのは初めてらしい。
まあ、そりゃそうだろうと思う。だって、引きこもりだったんだし、そもそもカロスのポケモンじゃないんだし。生息すらしていないんだから知らなくても当然である。
「まだ………」
「ああ、破れてるな」
俺たちが到着するまでの数分の間に、空が閉じるかもと思ったりしていたが、その気配は全くなさそうだ。でもだからと言って中から何かが出てくる気配も感じられない。
それよりもこの鋭い視線。今度は殺気も感じ…………。
「ふん、仲良くリザードンでご登場か」
「ッ!?」
この声。
今日は堂々と出てきやがったか。
「何の用だ、サカキ」
振り向けばパルシェンに乗った黒スーツ姿のサカキがいた。
そして………。
「いや、ロケット団」
その後ろにはジバコイルたちの電磁場を足場にしている金髪ジムリーダーマチスとバリヤードのひかりのかべを足場にしている黒髪ジムリーダーナツメの姿もあった。
行間(使用ポケモン)
カワサキサキ
・ニドクイン ♀
特性:どくのトゲ
覚えてる技:ポイズンテール、つのドリル、ばかぢから、ヘドロばくだん、ストーンエッジ、じわれ、すなあらし
・ガルーラ ♀
覚えてる技:みずのはどう、10まんボルト、ブレイククロー、はかいこうせん
・ハハコモリ ♀
覚えてる技:リーフブレード、リーフストーム、しぜんのちから、ほごしょく、こうそくいどう、シザークロス、はっぱカッター、いとをはく、エレキネット
・ザングース ♂
特性:どくぼうそう
覚えてる技:ブレイククロー、からげんき、いわなだれ、つるぎのまい
カヒリ
・エアームド ♂
特性:がんじょう
覚えてる技:ドリルくちばし、はがねのつばさ、がんせきふうじ、こごえるかぜ
・クロバット ♂
覚えてる技:エアスラッシュ、ヘドロばくだん
・アーケオス ♂
覚えてる技:でんこうせっか、がむしゃら、アクロバット、はねやすめ
・オドリドリ(めらめらスタイル) ♀
覚えてる技:エアスラッシュ、めざめるダンス、フラフラダンス、フェザーダンス