カロスポケモン協会理事 ハチマン   作:八橋夏目

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9話

「すまん、コマチ」

「な、なんでお兄ちゃんが謝るのさ」

「や、だって、俺がもっとしっかりお前のことを見てやっていれば。そのためについてきてたんだし。当初の目的を忘れちまってた。悪かった」

 

 デンリュウも戦闘不能になったことでバトルは終了。

 コマチの勝ちということなった。

 

「だ、だからそれはコマチが未熟だったからで、それにいろはさんも。ありがとうございました」

「さすがに次がないことを祈るよ。先輩がいなかったらできない駆け引きだったし」

「はい、気をつけます」

 

 コマチもようやくイロハの掌で踊らされていたことに気づいたようだ。

 じゃなきゃ、イロハがあんな一方的な負け方をするわけがないからな。

 

「みなさんも、ご迷惑おかけしました」

「大丈夫よ」

「うん、大丈夫だよ。ちゃんとヒッキーが解決してくれたし」

 

 なんでそこで嬉しそうな顔をしてるんだよ。

 なに? 何を期待されちゃってんの?

 怖いよ怖い。あと怖い。

 

「ま、とにかくあれだな。コマチは究極技をコントロールできるようになってからメガシンカに挑戦した方がいいだろうな」

「………だよね。やっぱり焦ってたのかなー」

「いや、焦りもするだろ。周りにチャンピオン経験者が三人もいるんだし」

「そうね。他のトレーナーからすれば羨ましい環境かもしれないけれど、身の回りに強い人たちがいることはプレッシャーになることもあるわ」

 

 俺はそんな経験が全くないから頭の片隅にもなかったがな。

 やはり、コマチやユイ、イロハには俺たちがプレッシャーになっているのかもしれない。本人も自覚がないくらい気にも留めてなかったのだから、無意識下での出来事なのだろう。

 いやはや、無意識ほど怖いものはないな。

 

「………経験者は語る、か」

「そうね。私も二人ばかり強い人はいたもの」

「そこで俺を見るのやめい。もう一人がそこにいるだろ。つか、記憶がない」

 

 どうしていつもこういう時って俺を見てくるんでしょうね。もう一人がすげぇニヤニヤ顔してるってのに。

 ほら、期待の眼差しに切り替わったぞ。

 

「はあ………当の本人は最近こればかりね。ずるいわ」

 

 あ、なんかシュンとなった。そんなに相手にして欲しかったのかよ。どんだけシスコンをこじらせてるんだよ。や、俺も人のこと言えないけどさ。

 

「ヒキガヤ、お前はあれだな。暴走を止めるのが習慣になってるな」

「はい? ………ああ、オーダイルの話ですか」

 

 ねぇ、過去にオーダイルの暴走を止めたからって、それを習慣としないでくれます?

 別に好きでこんなことしてるわけじゃないし。時たまにそういう場面に遭遇するってだけで、専門でやってるわけじゃない。何ならあんたら散々俺のことを見てきたでしょうに。

 

「二度目の暴走の時、暴走してもおかしくはないと分かってはいたのに私は動けなかった。君を守ることができなかった」

「や、覚えてないし。………まあ、どうせあれでしょ? 俺とバトルした時に暴走したから、俺がそのまま止めに入ったとか」

 

 覚えてないが、どうせこんな展開だったのだろう。じゃなきゃ、俺が動くはずがない。

 

「思い出したのか………?」

「いえ全くこれぽっちも」

「当てずっぽうか」

「そうでもないですよ。記憶はなくても俺は俺。自分の身の危険を感じなきゃ、動かないでしょ」

「………そうだったな。君は昔からそういう奴だった」

「それにオーダイルの暴走がなければ、ここにこうして俺たちは集まっていないまでありますよ。だから思い出して申し訳なさそうな顔してんじゃねぇよ」

 

 ま、だからと言ってオーダイルの暴走が俺に悪影響を与えたかといえば、この目の濁り以外は特にないらしい。この目で苦労したことも今じゃ忘れちまってるし、もう何もきにすることなんて俺の中には残っちゃいない。

 残ったといえば、ずっと俺を追いかけていたユキノに出会い、ユイとも再会し、イロハも加わってきた。

 交わることのない糸がオーダイルの暴走を気に絡み合った、そんな気がするのだ。だから、あの暴走の件に抱く俺の感情といえば、感謝くらいだろう。

 なのにこいつとくれば………。

 

「あう………」

 

 やれ自分が悪かった、罰をくれと何度も何度も。

 あーもー、罰と髪をくしゃくしゃにしてやる!

 

「ちょ、ハチマ……ぁぅ………」

「記憶はなくてもメモ帳という俺史にはちゃんと書かれている。何なら、お前に罰ゲームも与えただろうが、ユキノ」

「………あんなの罰に入らないわよ」

「………ほう」

 

 また言い出した。

 これはあれだな。最上級のお仕置きが必要だな。

 

「先輩、なんですか、その目。ヤバいです、超ヤバいです」

「お、おおおお兄ちゃん?! いいい今何考えたのさっ!」

「ドMなヒロインの躾け方」

「なっ!? だだだ誰がドMよっ!」

 

 顔真っ赤にして、喜んでるのん?

 

「や、罰が欲しいとか自分から入ってくる時点で、ただのドMだろ」

「ちなみに何するの?」

「何もしませんよ」

「えっ?」

「ん?」

 

 なんだよ、聞いてきたのはハルノさんの方だろうが。なんで驚いてるんだよ。

 何もしないって言ってるんだから、妹が守られて嬉しんだろうが。

 

「何もしないの?」

「何もしませんよ?」

「放置プレイ? レベル高いね」

 

 それとも何か? 放置プレイをやってほしいのか?

 この人の方こそ、ただの変態じゃないでしょうか。

 

「や、どうしてそうなるんですか。単に何もしないだけですって」

「………意味が分からないわ」

 

 考えてみたようだが、ユキノには通じてないようだ。

 

「はあ……、君は悪い奴だな」

 

 だというのに、なにゆえこの元教師には通じてしまったようだ。

 

「なんで俺が悪者なんですか。そこは人が悪いって表現が飛んでくるところでしょう」

「それを自覚してるから悪い奴なのだよ」

「ひでぇ………」

「しないの?」

「えっ? なに? マジでして欲しかったの? 俺にはちょっとハードル高すぎるんですけど。というかマジでドMなのん? 怖いよ怖い。マジで怖い。あと怖い。イロハの十八番が乗り移っちまうくらい怖いわごめんなさい」

「うわっ………、地味に似てるのやめてくださいキモいですごめんなさい」

「………ほんとだ。似てる………」

 

 こてんと小首を傾げるユキノにちょっとときめいたが、ぞわっと背筋に電気が走ったことで正気を保てた。なに、この子。かわいすぎだろ………。

 かわいすぎてマジでドMだったらどうしようかとか色々考えちゃったじゃん。しかも一瞬で。

 

「あ、じゃあお姉ちゃんが「遠慮しておくわ」………まだ何も言ってないのに。ユキノちゃんのドM! 変態!」

「あ、こら、そんなこと言ったら逆に喜ぶでしょうが!」

 

 この人はどうしてこうすぐにご褒美を………。

 

「………誰がドMの変態なのかしら? 私たち姉妹の唇を奪ってなお後輩の唇まで奪ったスケコマシガヤ君? それと夜中に夜這いをかけて失敗した日には自分で火照った体を沈めている姉さんに言われたくないわ」

 

 あ…………。

 

 

 この日、氷の女王に凍らされて夜まで動けませんでした、まる。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「あの、コマチ………さん?」

 

 晩飯前に氷漬け(首から下)から解放された俺とハルノさんは山のようにたまった仕事に追われていた。

 そして今、それが終わってみるとなんとすでに日付が変わっているではありませんか。

 だというのに、えっ? なに? この状況。

 寝ようと思ったらコマチがやってきて、迫られてるんですけど。

 

「お兄ちゃん………」

 

 や、だからなんでそんな切なそうな声を出してるのん?

 なまじこの状態の女の子を知らないわけじゃないから余計に困る。

 俺たち兄妹だぞ? 血の繋がった兄妹だぞ?

 つか、どこだ? どこでフラグを建てやがった?

 

「コマチ………コマチ、もう我慢できないよ」

 

 いや、我慢しろよ。

 というかなんだよ我慢って。いろいろと危ない状態じゃねぇか。

 何をしようとしている。や、言うな。言ってしまえばもっと危険なことになる。

 

「お兄、ちゃん………」

 

 うがぁぁぁ、誰か止めてぇぇぇ。

 教えて、ユキペディア!

 

『あら、シスコンのあなたには本望でしょ?』

 

 だぁぁぁ、全く止める気がしねぇ!

 そうだ、ユイなら………。

 

『ぶー、まだちゃんとキスしてもらったことないのにー。コマチちゃんだけずるい!』

 

 だはっ?!

 あのお団子頭もコマチには甘かった………。

 はっ、そうだ、イロハ! イロハなら。

 

『せんぱーい。やっちゃえ☆』

 

 あ、ダメだ。一番アウトだった。

 なに? なんなの? みんな止める気なさすぎるでしょ。

 や、まあ、俺の妄想でしかないけど。俺の中のあいつらって………。

 

「おい、コマチ。落ち着け」

「お兄ちゃん」

 

 ぐはっ?!

 ヤバい、おでこを俺の胸にグリグリと押し付けてくるんでけど。何この子、超かわいい。

 

「………コマチにみんなと同じ接し方しちゃダメだよ………ずるいよ、あんなの………」

 

 えーっと。

 つまりはあれか? 今朝のことか?

 や、だって一大事だったんだから仕方ないだろ。取り乱したコマチを落ち着かせるのにも………そういや今も落ち着かせたいんだったな。

 あ、今ここで今朝と同じようにしたら歯止めが効かなくなりそう。主にコマチが。

 なるほど、妹であれど女の子。優しさは時として毒となるのか。そして解毒作用を使うとループに陥ると。

 

「コマチ、お前は何か勘違いをしている。今朝のが影響してるってんなら、あれは吊り橋効果だ」

「………ちがうもん。コマチは、コマチはずっと前から我慢してたもん」

「はっ?」

「お兄ちゃんが、旅に出て、急に音信不通になって、帰ってきた時には嬉しいのと寂しかったのとでお兄ちゃんに、抱きつきたかったのに。我慢してたんだからぁ………」

 

 えー。

 なんかだいぶ遡っちゃってるよー?

 

「なのに、なのに………あんなことされたら、もう、もう………」

 

 あ、ヤバい。

 目がもうアウトだ。アウトな目をしている。

 というかマウントとられた。

 

「お兄ちゃん…………」

 

 さて、どうする?

 俺はどうするべきだ?

 まず一番危険なのはここで拒否することだ。や、拒否するべきなのだろうが、今のコマチは不安に駆られている結果だ。暴走のせいで、怖くなっているのだ。そこに俺という安心材料から拒絶でもされてみろ。どう転ぶかなんて目に見えている。

 

「キス……うひゃっ!?」

 

 危ないことを吐かす前に俺の上に覆いかぶさるコマチの腕を掴み、支えを奪って抱きしめた。

 抵抗はない。というか望んでいたかのようにゆっくりと腕を背中に回してくる。

 

「今日はこれで勘弁してくれ」

「………うん、分かった。でもね」

「なんだよ」

「コマチはお兄ちゃんが好き。好き………だよ…………」

 

 ぎゅうっと。

 強く強く、なのにどこか弱々しく抱きしめ返してきた。

 やっぱり不安に駆られていただけだろう。明日にはいつも通りケロっと。

 

「初めては………お兄ちゃん、が……いい、なー………」

 

 前言撤回。

 こいつもユキノたちと同じ発情期を迎えたようだ。

 ダメだ、こうなったら俺にはどうしようもない。

 や、でもマジで? 兄妹だぞ?

 

「どこでそんな殺し文句覚えてきたんだよ………」

 

 まあ、なんであれ。

 明日からどうなるかすげぇ心配。当の本人はすでに俺の腕の中で寝息を多々ているけど。

 でもあれな。俺の行動一つでこんなにも女の子たちが心を傾けちまうってすごいことだよな。ありがたいと思うし感謝もしている。

 

「だからこそ、どれも失いたくないんだよな…………」

 

 選べばきっと失うものが出てくる。だけど、いつかは選ばなければならない。

 みんなもそう。いつかきっと誰かを選ぶ時が来る、そう思っているはずだ。だから不安にもなるだろうに、あいつらときたらそれを全く感じさせない。

 すげぇな。マジで。俺はもういっぱいいっぱいだってのに。

 

「いっそ、全員俺のものにできればいいのになー………」

 

 無理だな。即あの警察共に逮捕されるわ。

 もう寝よ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

『起きなさい、ハチマン。一大事よ』

 

 朝。

 扉の向こうからの声に目が覚めた。

 覚めたはいいが、やはりというか。俺の腕の中にはコマチがぐっすりと………眠ってなかった。目が覚めたならさっさと起きなさいよ。なんでそのままでいるんだよ。

 

「えへへ〜、おはよ、お兄ちゃん!」

「………」

「あれ? 反応なし? 寝ぼけてるの?」

『起きなさいハチマン! 私たちの両親がもうすぐ来るわ!』

 

 ……………はい?

 

「なにこれ。どゆこと?」

「なんかねー、ユキノさんたちのご両親がやってくるんだって。もうすぐ着くみたいだよ」

「マジ………?」

 

 色々とマジ? って寝覚めだが、一番のマジ? だわ。

 なに? いつの間にそんな日程が組み込まれてたの?

 今の状況をユキノシタ家の両親に見られたら、さぞ引かれる。何なら娘をすぐにでも連れて帰るとか言い出しそう。うわっ、なにこれ。早速ラスボス登場じゃねぇか。

 

「俺、寝てていい?」

「あ、じゃあコマチも寝るー」

 

 もう色々と突っ込みたいことだらけだが。

 それでもまずはこれか。

 

「お前、一晩で俺のこと好きになりすぎでしょ」

「えへへ〜」

 

 ダメだ。

 この天使には勝てない。

 

『ハチマン、起きなさい! 今すぐ起きないと凍りつかせるわよ』

 

 はい!

 ただいま!

 

「あ、お兄ちゃん………」

「おいこら、なんでそこで切ない声を出す。やめい、俺に実の妹とどうこうなる気はないぞ」

「ないの?」

「ない」

「いいよ。コマチはそうでもないから」

「だから抱きつくな。色々と………はあ…………。ほんと、法律とかなくなればいいのに」

 

 あ、目が光った。ヤマピカリャー。

 

「お兄ちゃん!」

「メノメノ〜」

「なあ、コマチ。そろそろ限界だぞ。あそこに氷の女王がいる」

「えへへへ〜」

「ダメだこりゃ」

 

 いつの間に入ってきたのか、ユキメノコが俺の背中に抱きついてきた。目の前には笑顔なのに目が笑っていない凍てつく空気を放つ氷の女王様がいた。

 あー、これマジで大ピンチなのね。

 

「お前んとこのご両親、何しにくんの?」

「知らないわ。昨日のメールの返事が今朝来ていて、もうすぐ空港に着くみたいよ。大方、あなたの品定め、といったところかしら」

「マジか………。これ詰んだくね?」

「だからこそ、あなたには頑張ってもらわないといけないわ。今、姉さんが迎えに行く準備をしているから。その間に身だしなみを整えておきなさい」

「へいへい」

 

 言うだけ言って行ってしまった。

 あの………ユキメノコは………連れて行かないのん?

 

「はあ………だる………」

 

 何言われるんだろうか。

 まあ、まずはこの目か。

 こればっかりは俺にもどうしようもないし。

 というか、マジで何しに来たのん?

 や、ポケモン協会のバックアップ、というかスポンサー、それも他の企業とは違い全体の半分くらいを出資している頭の上がらない取引先だけどさ。挨拶の一つはや二つ、しておくのが礼儀と言えばそれまでなのだが、急に来ることもなかろうに。

 多忙だとは聞くが、急に日程に空きができたからとかで決めたんだろうか。

 はあ………、何にしても今日は荒れそうだ。

 

「お兄ちゃん、目がヤバいことになってるよ」

「何を言われるのかを今から考えるだけで、目が腐るっての」

 

 仕方がないので準備を始める。

 着替えて顔洗って頭セットして、飯食って。

 ユイやイロハもソワソワしてるし、何故かヒラツカ先生まで落ち着きがない。というかナチュラルにいるよねこの人。暇なの? 研究の手伝いはどうしたよ。

 ハルノさんが迎えに行ってくると出かけてからは、そりゃもう心臓がばっくんばっくん。何を話したらいいのかも分からないし、何をすればいいのかすら分からない。

 胃が痛い。

 ディアンシーがお茶を用意してくれるが、悲しいかな、味が分からない。

 いやー、ここまで緊張したのって何年ぶりだろうか。記憶がないから分かんねぇや。まあ一つ言えるのはフレア団との戦いの方がよっぽど落ち着いていたってことだな。

 

「………先輩、書類逆さまですよ」

「あ………」

 

 応接室でみんなとハルノさんの帰りを待っている間、仕事を少しでも進めておこうと書類を幾つか持ち出してきたが。全く内容が入ってこないと思ったら、そもそも読めてなかった。うわっ……、緊張しすぎだろ。仕事が全くに手に付かんとか。重症すぎる。

 

「もう少し落ち着いてもらえないかしら? そんな状態だとまともに会話もできないと思うのだけれど」

「や、だ、だって、ききき緊張もするだろ」

「うわっ、なんかキモいです噛み噛みでキモいです」

「ねえ、なんでそこで二回も言う必要があるの? 今日はさすがにメンタル崩壊起こしちゃうよ?」

「ひ、ヒッキーがすでに弱気だ!?」

 

 げっ、下から物音が。

 絶対帰ってきたな。

 やだなー。ラスボスの登場かー。怖いなー、布団に潜りたいなー。

 

「居留守使っていいか?」

「諦めろ。わわわ私も久々に会うから緊張してるんだ」

 

 先生が震えだした。

 えーっ、今から会う人ってそんな震えあがるような人たちなのー?

 

「さあ、入って」

 

 ガチャっと扉が開かれた。

 ハルノさんの声に促されて入ってきたのは、スーツ姿の中年のおじさんとエンジュの舞妓はんが来ているような振袖? を着たマダム。

 うん、ユキノやハルノさんに似ている。これがママのんか。

 で、こっちのおじさんがパパのんね。

 

「初めまして。君がヒキガヤハチマン君かね?」

「は、はひっ! ひ、ヒキガヤハチマンでしゅ!」

 

 噛んだ。

 盛大に噛んだ。

 ユキノとイロハが笑いを堪えるのに必死だが、完全に漏れている。

 覚えてろよ、お前ら。

 

「あら、ユキノ。元気そうね」

「母さん………」

 

 ん?

 なんだ?

 さっきまでの威勢はどうしたんだ?

 

「色々話はあるのだが、まずは君の実力を見せてもらえないだろうか」

 

 すっとモンスターボールを見せてくる。

 ああ、バトルしろとね。

 なんかこっちが緊張してるの超バレバレな感じだ。

 

「……分かりました」

「あ、だが、君は強いと聞く。私と妻の二対一でも構わんかね?」

 

 二対一か。

 まあ、大丈夫だろ。

 

「構いませんけど」

「手加減はなしでよろしく頼む」

 

 手加減なしか。

 言い換えれば本気を出せと。

 

「では遠慮なくバトルさせていただきますよ」

 

 というわけで。

 挨拶がてらのバトルが決まった。

 ………一体ハルノさんは何を吹き込んだのだろうか。

 

「では、これよりヒキガヤとユキノシタのご両親とのバトルを始めます! ルールは二対一。先に全て戦闘不能になった方の負け。技の使用制限はありません。双方、準備は?」

「いつでも」

「構いませんわ」

 

 うわ、なんか先生が畏まってると違和感が半端ない。

 いつもの男らしい先生はどこへ行ってしまったのだろうか。

 

「それではバトル始め!」

「ゆけぃ、ローブシン!」

「行きなさい、ロズレイド」

 

 本気を出せということなので。

 地面を足で叩き、黒いのを呼びつける。

 

「えっ? ここでダークライ?!」

「ガチの本気だ………」

 

 すっと黒い影から出てくるダークライ。

 ユキノシタのご両親は目を見開いている。

 

「これがハルノたちが言っていた………。ローブシン、アームハンマー!」

「ロズレイド、マジカルリーフ」

 

 ローブシンが腕を振り上げ、突っ込んでくる。それを手助けするように隙間から草を操って飛ばしてきた。さすが夫婦。いいコンビネーションだ。

 だが、甘い。

 

「ダークホール」

 

 目の前に腕を振り下ろすローブシンを黒い影の中へと吸い込む。

 あの重たい体で押しつぶすためにも出口をロズレイドの真上に指定。

 だが、出てきたローブシンをギリギリ躱しやがった。

 

「あくのはどう」

 

 今度は飛びのいた先に黒いオーラを送り込み、ロズレイドを囲い尽くす。

 

「ロズレイド、はなびらのまい」

 

 動揺を一切見せないママのんが逆に怖い。

 なにあの人。魔王よりも怖いんだけど。

 

「起きろ、ローブシン!」

 

 一方で、眠ったままのローブシンにパパのんが声をかけるが起きる気配がない。

 

「ダークホール」

 

 そんなこんなしてる内に、ロズレイドの足元に黒い影を作り出し、吸い込んでいく。

 ローブシンの隣に吐き出し、仲良く眠りにつかせる。

 

「ゆめくい」

 

 これでとどめである。

 徐々に回復しているらしいダークライの力を復活させるためにも夢を食させる。これで俺の記憶も戻ってくるといいんだけど。

 

「ろ、ローブシン、ロズレイド、共に戦闘不能! よって勝者、ヒキガヤハチマン!」

 

 はい終わり。

 いやー、やっぱこいつチートだわ。眠らせるという行動不能に陥らせ、夢を食うだけで相手を倒すとか。

 

「も、もう、終わった………」

「先輩、本気出しすぎです」

「はあ………、まったく。いつ見ても反則だわ」

 

 あ、みんなして酷くね?

 手加減なしとかいう相手には本気を出すのが筋だろうが。というか礼儀だろうが。

 

「戻れ、ローブシン。いやはや強いな君は。娘二人が気に入るのもよく分かった」

 

 カカカと高笑い。

 手も足も出ない負け方をするといっそすがすがしいらしい。

 

「では、色々と話をしようか」

 

 ちょ、和やかになったと思ったら、なんなのこのプレッシャー。

 怖いよ怖い。

 あなたがたの娘たちはこんな環境で育ったんですね。そりゃ、ああもなりますわ。

 

 

 それから色々言われた。

 娘をよろしくだとか、仕事の方でもしっかりと支えていきたいとか、娘をよろしくだとか、俺はどうして強いのかとか、娘をよろしくだとか。

 どんだけ娘が心配なんだよ。

 終始ママのんは口を開かなかったが、帰り際に一言。『娘は私のものよ』だそうだ。なんだろう、すごい嫉妬の念を感じた。

 で、二人は帰った。

 帰ったはいいが、それから二週間後くらいに、今度はガハマ夫婦がやってきた。

 こちらもまた娘をよろしくだとか、ヒッキーくんかわいいとか、息子が欲しいだとか。ねえ、ここの家庭はどうして見た目と歳がかけ離れてるのん? それと胸。超遺伝だった。

 それから一ヶ月後くらいにはイッシキ家が。

 一番まともだった。特に印象がないくらいにはまともだった。なのに、どうして娘はああなってしまったのか甚だ疑問である。

 そんなこんなしてる内に、あっという間に半年が経ち、リーグ戦の予選が始まった。それまでの間にユイの誕生日や俺の誕生日がやってきたりしたが、その度に旅からみんな帰ってくるというね。しかも俺の誕生日には重大発表なんてものが行われた。ユイがコルニのところで特訓することになり、コマチが旅の途中で出会ったカヒリというプロゴルファーに勧誘され、イロハはハクダンシティとエイセツシティの間にある巨大な山にこもるとか言い出したのだ。

 止める理由もなかったので、好きにさせてみた。

 そんな彼女たちもあと一ヶ月後には本戦に顔を揃えていることだろう。

 ん? ユキノか?

 ユキノも残り一ヶ月になるやフロストケイブに向かったぞ。山ごもりをするらしい。

 で、残された俺とハルノさんとメグリ先輩でぼちぼちと仕事をしているというね。

 

 いよいよポケモンリーグの開催である。

 さてさて、どうなることやら。

 

 

 本戦出場者

 Aブロック

 

 ・ユキノシタユキノ

 ・リュウキ

 

 ・四天王

 ・イッシキイロハ

 

 Bブロック

 

 ・ヒキガヤコマチ

 ・ヒラツカシズカ

 

 ・四天王

 ・電気の船乗り(仮名称)

 

 Cブロック

 

 ・ポケウッドの名女優(仮名称)

 ・エックス

 

 ・カワサキサキ

 ・カヒリ

 

 Dブロック

 

 ・ロイヤルマスク(仮名称)

 ・お花屋さん(仮名称)

 

 ・四天王

 ・トツカサイカ

 

 Eブロック

 

 ・カワサキタイシ

 ・ツルミルミ

 

 ・ミツル

 ・ダイチ

 

 Fブロック

 

 ・パパだよ(仮名称)

 ・Saque(仮名称)

 

 ・ユイガハマユイ

 ・四天王

 

 

 え?

 なにこの仮名称の人たち。すげぇ怪しいんだけど。つか、誰だよ、仮名称でも登録可能にしたやつ。

 ったく、なにも問題が起きませんように。




追記:今週は土日が両方仕事で書いている暇がありませんでした。次回は来週更新します。

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