アブソリュート・デュオ 《二人目の異能(セカンド・イレギュラー)》※作者就活のため休止 作:真実の月
外に出ると、まず目を見張ったのは広場に設置されたバーベキューコンロの数だ。
コンロ一つに分校の生徒が数人集まってこの後の夕食の準備を急ぎ、20以上はあるであろうコンロからは強い熱気が伝わって来る。広場の端に無造作に置かれたテントらしき物も相まって集団でキャンプに来たような気分にもなる
「お!風麗!」
声をかけられ、振り向くとそこには透流とユリエさんがいた。二人もやられることなく俺達の前に着いていたらしい
「何処にも見当たらなかったから心配したぜ」
「いろいろあって最後に着いたんだよ」
「相手が強い方だったのですか?」
襲撃の事情については知っているみたいだ。誰と戦ったかは分からないが、この二人が最後の前ということはそれなりに強い相手と戦ったのだろう
「強いも何も、《
「同学年で同じ《
「当然、私達は《
「うわぁっ!?誰だ!?」
何処からともなくカナさんが現れ、透流が大げさに驚く。そしてカナさんは頭を下げてから口を開く
「私はカナ。《
「同じ《
まさかの《
「例の負けかけた相手の片方よ」
「ユリエ・シグトゥーナです。よろしくお願いします」
「……あ、ユリエの《
「よろしく」
突然の登場にも平然としていたユリエさんが自己紹介をし、慌てて透流が続く。カナさんは先ほどと変わらず淡々と返した。
「ところでここで何をしているんだ?他の分校組はあそこでいろいろやってるみたいだけど」
「出し物の準備。内容は秘密」
そう言われて周りをもう一度よく見ると、アンプや何か楽器のような物など、いろいろな機材を運んでいる生徒もいることに気づいた。
ライブでもやるのだろうか。もしカラオケ大会だったら俺は絶対に出たくない。一度休みの日にクラスメイトの男子に誘われて行ったら俺だけ唯一の70点台という醜態を晒したからだ
「おーい!カナ!何処だー!」
「優が呼んでる。それじゃあまた後で」
「ああ、また後でな」
カナさんは走って機材運びのグループへと向かって行く。それと殆ど同時に分校生の中から代表が一人近づいて来る
「ようこそ、昊陵学園分校へ!入学式やら今日のことやらいろいろあったけど、その辺りは水に流すというか食べ物と一緒に飲み込んで、今日から一週間よろしくお願いします!」
「というわけで、今日は夕食兼進行を深めるバーベキューだよ、みんなー♪」
「月見先生何やってんだーーですか!」
「見てのとーりお肉を焼いてるんだよー♪」
そんなことを言いながら焼けた肉が刺さった串を掲げる
「ちょっと、月見先生でしたよね?まだ乾杯してないんですよ!?」
「気にしちゃダメだよ、しっぽちゃん」
慌てる分校代表とマイペース過ぎる月見に本校組は苦笑し、俺を含む数人は呆れ、その間に紙皿と箸、紙コップが全員に配られる。そして分校組がジュースを持って周り、やがて全員のコップに飲み物を注ぎ終わる
「さて、もう既に肉を焼いている先生もいらっしゃいますが、親睦会を始めましょう!それではーー乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
一口飲むと、広場は途端に騒がしくなった
それから数分後。目の前のコンロでは肉の争奪戦が起きていた。その中には見覚えのある顔もいる。向こうも気づいたようで、近くに行くと
「何だ、無事に着いていたのか」
開口一番に飛んできたのは到着が遅かったことに対する皮肉だった
「ああ、最後だったけどな」
停船の後から今この時まで会えなかったトラとタツ、橘さんと穂高さんにようやく会えた。四人も襲い掛かってきた分校組を倒して、かなり早い段階でここに到着していたらしい
ちなみに、タツに関しては器用に紙皿と箸を持ったままポージングをしていた。無駄にバランスが良いのがむかつく
「同じ条件だとするとかなり早いな。一体どんなからくりを使ったんだ?」
「なんてことは無い、トラ達と協力して退けて来たのさ」
「トラと……協力だと……!?ちなみにどっちから?」
「トラ達の方だ」
「……トラ、海に飛び込んだ時船体に頭を打ったりとか木から落ちて頭を打ったりとかしたのか?」
「そんなわけあるかっ!!鈍臭いのが怪我でもしたら自分がいればなどと言い出す奴がいて鬱陶しくなるだろうと思ったから提案したまでだ」
「う……鈍臭くてごめんなさい……だけど、ありがとう、トラくん」
「べ、別に礼などいらん!」
こいつ、照れてるな
「ま、確かにあいつならそういうだろうな。お、この肉もらいっ!」
「な、貴様!抜け駆けとは卑怯な!」
焼き上がった肉をひょいと皿に取り、トラがそれに抗議する。狙っていたんだろうが、ここは既にバーベキューという名の戦場と化していることを忘れてはならない
「早いもん勝ちだぜ?お、それも!」
「ああー!俺が狙ってたのが!?」
「わりぃな!」
《
「おい、風麗」
「何?」
振り向くと橘さんが般若の形相で立っていた。隣に立つトラは何か察したような顔をしている。
なーんかとっても嫌な感じがしてきた。
「君も透流と同じか」
「えーっと、どういうことでしょう?」
「よし、私が野菜をとってやるから君はそこに座れ」
逆らったら殺されそうなオーラに負けて、俺は逆らうことなく座る。5分後、手元に帰ってきた皿の上には山のように野菜が積まれていた。今度から橘さんの前ではバランス良く食べようと心に決めた。別にいなかったら肉ばかり食べるというわけでもないが。
そんなこんなでさらに30分が経って、生徒はみんな食べるペースが落ちてきた頃。今の今まで気付かなかったが、分校の校舎を背に、ステージが設置されていて、その左端にコスプレをした女子生徒が出てくる
ちなみにコスプレは某艦隊収集ゲームの川内型とかいう軽巡洋艦のものである。一体何処で調達したのだろうか
「さてさて!皆さん盛り上がっているところですが!これよりステージにて、我が分校のバンドチームがライブをしてくれます!司会は私、分校のパパラッチこと中田結衣です!よろしくね!」
とんでもない司会だな
「今はまだ準備中のようなので!ある先生にインタビューをしたいと思います!ということでどうぞ!」
その言葉に分校組はおおっ!と声を上げるが、本校の生徒は全員こう考えたという。
「絶対あの人だ」と。
「やっほー!お肉はたくさん食べたかな?ウサ先生こと月見璃兎先生だよ♪」
期待を裏切らない月見の登場によって、主に分校の生徒を中心に盛り上がる
「さてさて、準備ができるまでの間に、月見先生!いくつかお聞きしたいことがあるんですがいいですか?」
「いいよいいよー!何でも聞いて!」
「では先生!彼氏はいますか?」
「早速聞くねぇ~!今はいないよ!」
「では気になる人は?」
「まだいないよ!」
「おお~。ならどんな人がタイプですか?」
「私より強い人だね!」
時々楽器の音が混ざりながらもこんなやり取りが5分ほど続いた。パパラッチと自称しているだけあってただのインタビューでも会場をさらに盛り上げ、会場のボルテージが最高潮の状態で準備のできたバンドへと引き継ぐ
「準備ができたとのことなのでインタビューはここで終わりまして、バンドの演奏に入ってもらいたいと思います!月見先生ありがとうございました!」
そしてバンドの演奏が始まる。本校も分校も関係無しに会場はさらに熱気に包まれ、その興奮覚めやまぬまま親睦会は夜中の2時まで続いた