アブソリュート・デュオ 《二人目の異能(セカンド・イレギュラー)》※作者就活のため休止   作:真実の月

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後編

それはいつものようにデータをまとめる作業をしていた時だった

一本の電話が部屋備付けの電話機を鳴らす。特段珍しいことでもない、良くある事だったために何も考えず受話器を取った

 

「どうした?」

 

『お孫様が来ておりますが……』

 

受付嬢が

 

「それは伝えなくてもいいと言わんかったか?」

 

『いえ、今日は妹のほうだけが来て……かなり慌ててるんです。お兄ちゃんがって』

 

後ろから「おじいちゃんなの?」とかなり慌てた朔夜の声が受話器に入り込んでくる。

本当に何か起こったのかも知れない。パソコンをスリープにし、必要な物だけ持って立ち上がる

 

「……分かった、すぐに受付に向かう。待つように伝えてくれ」

 

受話器を置き、走って受付に向かう。

部下に何度もぶつかりそうになりながらもロビーに着くと、すぐに朔夜の姿が目に入った。言っていたように風麗がいない。

予想以上に重大な事かもしれないと、嫌な予感が頭に過ぎった

 

「朔夜!」

 

「おじいちゃん!お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!」

 

「風麗がどうした?熱を出したか?」

 

できれば病気くらいで済んでほしいと私は願う

 

「そうじゃないの!お父さんに連れていかれたの!」

 

しかし、その願いは打ち砕かれた。考えうるかぎりの最悪の事態だ。

 

「なに!?」

 

「これで俺の実験が完成するって言って、ダメって言ったら私まで連れていかれそうなったんだけどお兄ちゃんが逃がしてくれておじいちゃんを呼んでって!」

 

「分かった、ここまで大変だったな。おい、この子を私の研究室に連れていってくれ」

 

「しかしそれは」

 

「大丈夫、三國に詳しく事情を聞いてもらうだけだ。知らない場所で知らない大人に聞かれるよりは話しやすいだろう」

 

「分かりました」

 

朔夜は今の会話で理解したのか素直に受付嬢について行った

そして私はPHSを取りだし私設武装部隊に連絡をとる。三回のコールで内線は繋がった

 

「緊急事態だ。《原初の焔牙(オリジナル・ブレイズ)》が誘拐された。犯人は元ドーン機関研究員。二週間前に追放された奴だ。犯人については追放以前に《禁忌》の実験をおこなっていたこともあり対象が危険な状況と予想される、至急捜索をお願いしたい」

 

『了解、AからFの6チームを捜索に当てる』

 

「救出前には私を呼んでほしい。後、部屋の捜索に解析チームを回してくれ」

 

『了解、すぐに宿舎へ向かわせる』

 

「頼んだ」

 

PHSを白衣のポケットに押し込むように入れ、私は施設の外に出、宿舎に向かう。

息子ーー今は元が付くが追放された後、孫達は安全のため敷地内にある職員宿舎に入ることになった。そこは登録された人間を除いた部外者の侵入が出来ないよう、網膜認証等のバイオメトリクス認証をはじめとした高いレベルのセキュリティが設置されている。

もし誘拐された場所が外だとしても、かなりの数の警備員に加え、訓練中のドーン機関の部隊が通りかかることもあれば防犯カメラもある。警備員の報告が無かったことから、発生場所は十中八九宿舎だ。

 

「あれ?フレイのおじい様?」

 

「リーリスか」

 

宿舎のロビーに入ると、ちょうど目の前からリーリスがエレベーターから降りた所だった

彼女は《黎明の星紋(ルキフル)》の実験の最初の被験者で、良いところのお嬢様らしい。向こうの思惑も合わさり二つ返事で預けてもらえたのはラッキーだったが、初期型《黎明の星紋(ルキフル)》の不具合か《焔牙(ブレイズ)》が今だ形を作らないため、2年に渡ってこの宿舎に入っている。そのせいか孫達ととても仲が良い

いつもと変わらない姿で安心したが、その手には何かを持っている

 

「それは?」

 

「あ、ちょうど渡しに行くところだったの。はい」

 

リーリスから紙を受けとる。

折り畳まれたそれを開くと、「台場の倉庫にて待つ」と書かれていた。ご丁寧に地図までつけられている

 

「宣戦布告のつもりかッ!」

 

「おじい様?」

 

「リーリス、私の研究室で朔夜と待っていろ!」

 

「え、何?どうしたの?」

 

「ちょっと出てくるだけだ」

 

そういい残して、私は車へ向かいながらもう一度部隊に連絡をとる。今度は1コールで繋がった。

 

「場所が分かった。台場の倉庫だ」

 

「了解。Fチームがそちらの近くにいるがどうしますか?」

 

「不要だ。先行し待機していてくれ」

 

「了解。現地で待機させます。これ以降は傍受される可能性もあるので無線封鎖を行います」

 

「分かった」

 

電話は切られる。

私は急いで車に乗り込み、指定された場所へ向かう。

法定速度も無視して走らせ、30分もすると現地に到着した。既に部隊は展開し終えて、指示を待っている。

 

「準備は出来ているな?」

 

車を下りながら無線で指示を出す人間に確認をとる

返答は「いつでも行けます」。私は作戦開始を告げ、突撃部隊の後ろをついていき、倉庫に入る

倉庫の中は水銀灯で照らされ、一番奥に二人は居た

 

「ああ、来てくれたんだ」

 

「今ならまだ間に合う、おとなしく投降するんだ」

 

「答えはNOだよ。後少しで完成するんだ。……ところで、なぜ私が風麗と名付けたか分かるか、親父?」

 

「……質問の意図が分からんな。時間稼ぎのつもりか?」

 

「いや違う。この実験において1番重要な点さ」

 

一呼吸おいて続けられる

 

「『魔力』は聞いたことがあるだろう?『魔力』ってのは素質さえあれば誰でも使える……ってのは言う必要も無かったな。だが、ある条件を満たせば素質がなくてもある程度なら魔力を保有することができるってのは知っていたか?」

 

「条件……?名前か?」

 

「そうだよ。こいつの場合、北欧神話の神フレイから名前をつけている。そしてその魔力を《焔牙(ブレイズ)》の力と組み合わせ、強化を図る。今まで実験してきた九人は、魔力と《焔牙(ブレイズ)》の力を組み合わせるナノマシン、 《薄暮の月紋(コンバーター)》 の実験台さ」

 

無針注射器を持ち、ベッドに寝かせられている風麗に元息子が歩み寄る

 

「後はこの完成版を打ち込むだけ……」

 

「くそ!」

 

私は元息子に飛び掛かり、取っ組み合う。が、予想以上に力が強く、注射器は奪えず投げ飛ばされた。

 

「奴を取り押さえろ!」

 

「もう遅い!」

 

バシュッ!という音と同時にあの時とは比較にならないほどの焔が舞い始めた。

 

「ッーーーーーー!」

 

「くはッ!これだ!この圧倒的な力!実験は成功だァァァッ!!!!」

 

風麗は声にならぬ悲鳴を上げ、焔が周囲の物を破壊していく。その様を見て、元息子は歓喜の声を上げる

 

「全員待避だ!巻き込まれるぞ!所長も早く!」

 

「先に逃げておけ!後から行く!」

 

この状況に呆然としていた武装部隊は部隊長の叫びに反応し走って倉庫の外に出ていく。が、私は残る。目の前の愚か者にケジメつけさせなければいけないから

 

「貴様……自分が何をしたのか分かっているのか!」

 

「実験って言ってるだろう?その対象がたまたま息子だっただけだ」

 

「ふざけるなァァァッ!」

 

焔が舞う中、私は元息子に向けて護身用の拳銃を3発放った。心臓目掛けて放たれた弾丸は、まるで守るように落ちてきた水銀灯に当たり、火花を散らした。

 

「はっ!お前の時代は終わったんだよクソジジイ!」

 

「ガハァ……ッ!」

 

腹に強い衝撃が走り、よろけた拍子に工具棚にぶつかってそれが倒れ凄まじい音が倉庫に響く

その間も焔はさらに破壊を進めていく。

 

「さぁて、この研究結果を嫌と言うほどに見せつけてやるよ。手始めに外の蛆虫どもをなぎ払え!」

 

「う……アアァ……!!」

 

焔は舞い上がり、形を取りはじめる。しかし半分まで形が出来たところで銃声と共に焔が消えた。

 

「何!?」

 

「誰だ!?」

 

銃声がした方を見ると、さきほどまで舞っていた焔には見劣りするものの力強い焔が舞い、その中に銃を持つ人影が立っていた。

背の高さとそのたたずまいからその人物がリーリスだという事を見抜いた。

 

「リーリス!?なぜここに!」

 

「三國に無理言って連れて来てもらったの!」

 

焔牙(ブレイズ)》の銃を持つ少女は、崩壊寸前の倉庫の中で、たった一人笑顔を見せる。

さすがはブリストル家の御令嬢と言ったところだが、それどころではない状況だった事を思い出し、銃を構え直す。

 

「……チッ、分が悪いな」

 

「おとなしく投降しろ……さもなくば、お前を殺すことになる」

 

「答えはNOだ。私を必要としてくれる場所があるからな!」

 

ゴトンという音の直後、倉庫は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、そこは武装部隊の車両の中だった

 

「十六夜博士!」

 

救護の隊員の状態チェックを受け、私はゆっくり起き上がる

 

「……逃げられたか」

 

「はい。所属不明のヘリに乗り、逃走しました」

 

「風麗とリーリスは?」

 

「《原初の焔牙(オリジナル・ブレイズ)》は一足先にヘリで研究所に移送、《特別(エクセプション)》は世話役の車で我々と共に研究所へ移動中です」

 

「そうか。無事なら良い」

 

私はもう一度横になる。

目を覚ましたのが研究所の近くだったのか、5分程で研究所に到着した。気絶していた事もあり、念のため敷地内の医療施設で検査を受け、経過を見るために一日入院することになった。

そして一通りの検査が終わった後、私は三國とリーリス、そして朔夜を呼び出した。

三人はすぐに病室へとやってきた

 

「良く来た。まあそこに座りなさい」

 

病室に戻ったときに看護士に用意してもらった椅子に三人を座らせ、話を切り出す

 

「いくらか言いたいこともあるが先ずは、皆無事でよかった」

 

「申し訳ありません」

 

「無事ならば良い。が、あんなことになった以上、お前達も巻き込まれることになる。リーリスと三國は当分風麗と一緒に居てもらいたい。無論、護衛はつける」

 

「了解しました」

 

「朔夜。お前には、私にもしもの事があったとき、私の研究を引き継いでもらいたい」

 

「研究を……?」

 

「うむ。ああなった以上、奴は私に報復しようとする可能性もある。私にもしもの事があって研究が続行不能になってはここにいる研究員達にも迷惑がかかる。しかし、この研究を深く知っているのは私以外では三國とお前だけだ」

 

「何で三國さんじゃないの?」

 

「三國は元々研究者ではないし、今度設立される学校に教員として配属される予定だ。それに、お前でなくてはいけない理由もあるのだが……それはいずれ分かることだ。5歳のお前に引き継ぐというのも気が引けるが……どうか、お願いしたい」

 

「……分かった。私頑張る!」

 

「ありがとう。話は以上だ。部屋に戻って休みなさい」

 

三人は立ち上がり、病室を出ていく

 

「嫌な予感ほど良くあたるが……」

 

私は空を見上げて呟く。

この1年後、この予感は見事にあたる事になる……


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