アブソリュート・デュオ 《二人目の異能(セカンド・イレギュラー)》※作者就活のため休止   作:真実の月

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エピローグ 先生サイド

「……とまあ、報告は以上だぜ」

 

風麗とは別の病室

ベッドに座るのは肩に重症の火傷を負った璃兎。その横に朔夜と、風麗達の副担任である三國が立つ。

病室備え付けのモニターには、倒れ伏す風麗と右肩に火傷を負っている璃兎、風麗が倒れ伏す原因となった朔夜の三人が映っているところで止まっている

 

「やはり……と言ったところですわね」

 

「やはり?どういうことだ理事長?」

 

「月見!」

 

前に乗り出す三國を朔夜は無言で右手を前に出して制する

 

「璃兎があの姿を見てしまった以上、話す必要がありますわ。それよりも彼の様子は?」

 

「先ほど目が覚めて現在診察中のようです」

 

「ではそちらに向かってくださいな。異常があればすぐに報告を」

 

「わかりました。失礼します」

 

三國が出ていき、病室に二人が取り残される。朔夜は近くの椅子に座り、璃兎の方を向く。

 

「行かせて良かったのか?」

 

「ええ。一応、彼も狙われている身でもありますから……」

 

「なぁ理事長、アイツはいったいなんなんだ?」

 

璃兎は狙われている「彼」は多分《二人目の異能(セカンド・イレギュラー)》のことだろうと予想したうえで、質問をなげかけ、朔夜は深呼吸をして口を開く

 

「誰にも話さない、と約束できますか?」

 

璃兎は無言でうなずき

 

「なら話しましょう」

 

一息おいて、朔夜は話を始めた

 

「《焔牙(ブレイズ)》の存在が表に出てすぐの頃ですわ。ある一人の研究者がある可能性を示し、無断で実験を始めました。その実験プロジェクトの名は『《醒を超えし者(オーバー・エル・アウェイク)》』。適合者に《黎明の星紋(ルキフル)》を多重投与して《超えし者(イクシード)》のオリジナルである《醒なる者(エル・アウェイク)》を超えようと言うものですわ」

 

「《醒なる者(エル・アウェイク)》を超えるんだったら《黎明の星紋(ルキフル)》のリミッターをはずせばいいだろ?多重投与する必要なんてねぇんじゃねえか?」

 

「いい質問ですわ。当時の《黎明の星紋(ルキフル)》はまだリミッターの無い《試作品(プロトタイプ)》の段階、昇華の際もリミッターの解除ではなく一度前のものを除去し、次の《黎明の星紋(ルキフル)》を投与する方法でしていましたわ。では話を戻しましょう。その研究者は試作型《黎明の星紋(ルキフル)》除去前の9人の被験者を集め、それぞれに同《位階(レベル)》の試作型《黎明の星紋(ルキフル)》の追加投与を行いましたわ。結果は失敗、被験者の内6人が実験直後に死亡、残る3人も1ヶ月以内に亡くなるとなる最悪の事件となりましたわ」

 

「……アイツについての説明になってねぇぞ」

 

「ええ、なぜならここまでが前提ですもの」

 

「ここまでが前提?結構な長さだな」

 

朔夜は一息おいて口を開く

 

「では続きを話しましょう。この事件が発覚し、研究者は追放処分となり研究から外されましたわ。しかし、彼は誘拐した適合者に最後の実験を行っていたのですわ。その時の被験者がつく……荒巻風麗ですわ。調査チームがその事実に気付いたときにはもう遅く、彼は暴走し、隠されていた研究施設は火の海になっていたのですわ。幸い彼の暴走は鎮圧部隊によってすぐに鎮圧出来たのですが、目を覚ました彼は記憶を失い、魂も崩壊寸前でその影響か多重人格に。原因となった《黎明の星紋(ルキフル)》を除去しようにも、特殊な加工が施されいて2つの内1つは心臓、1つは脳に定着してしまい除去は不可能。そのときは安定していたのですが、ある日再び原因不明の暴走を起こしたため、暴走対策として、制御ナノマシンを使いあるキーワードで《黎明の星紋(ルキフル)》を一時的に停止できるように処置がされましたの」

 

「じゃあアイツの体内には今も……」

 

「2つの《黎明の星紋(ルキフル)》が存在していますわ。今はまだ制御できてはいますが……このままだと、いずれは……」

 

朔夜は両手を握りしめながら呟くように言う

 

「なあ理事長、さっきアイツのことを九十九って言いかけただろ?まさかと思うが……アイツは」

 

「それ以上は言わないでくださいな。」

 

璃兎はその言葉だけで察してベッドに横になる

 

「ならよぉ、アイツの《位階(レベル)》はどうなってんだ?」

 

「実験を行った研究者の理論通りならば、制限をすべて外した状態でレベル25ですわ。現在は最大まで制限をかけてレベル1と同等にしていますわ」

 

「はぁ!?あぐッ!」

 

飛び跳ねるように起き上がった璃兎の肩を痛みが襲う

璃兎が驚くのも無理はない。通常《位階(レベル)》が一つ上がっただけで数倍の能力超化がされるが、レベル25となると、肉体超化が1レベルごとに2倍と仮定しても2の25乗分の超化が施されていることになる

……実際はどれほど超化されているかは不明だが、少なくとも異常なことだけは確かである。

 

「ど、どんな理論なんだよ!まさかと思うが同《位階(レベル)》の《黎明の星紋(ルキフル)》2つで《位階(レベル)》が二乗とか言わねぇよな!?」

 

「まさにその通りですわ。では、私はそろそろお暇致しましょう……。璃兎、この話を聞いたからには、貴女には学園に残ってもらいますわよ?」

 

「は、わかってんよ。それに、今の立場も結構面白いしな、もとよりそのつもりだぜ」

 

「それならよかったですわ。では、早く治して授業の再開前には復帰してくださいな。それでは、お邪魔いたしましたわ」

 

そう言って朔夜は病室を出ていった

残された璃兎は、退屈そうにベッドに寝転がりテレビを見始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……月見が単純で助かりましたわ」

 

理事長室。病室から戻ってきた朔夜は呟く。

 

「まだ前のクライアントと繋がっているかも知れませんが大丈夫なのですか?」

 

三國がその呟きを拾う。

 

「念のため、事実と嘘を交えましたわ。それで?彼の体調は?」

 

「先ほど目覚めたようです。現在は《異能(イレギュラー)》が見舞いに」

 

「そうですか。では、予定通りに彼女……《特別(エクセプション)》を招きましょう。手筈の方は?」

 

「すでに準備はできております」

 

「ではお願いしますわ」

 

「承知しました。ですが一つ報告が」

 

「どうしましたの?」

 

「教員の中に、スパイが居る可能性があります」

 

「……何故ですか?」

 

「校外に知られていないはずの行事日程が漏れています。狙いは恐らく《異能(イレギュラー)》もしくは《二人目の異能(セカンド・イレギュラー)》でしょう……。どうぞ。」

 

会話の合間に作ったアイスカフェオレが朔夜の机に置かれる。

 

「実施までの間にスパイをあぶり出してくださいな」

 

「承知しました」

 

三國は部屋を出る。残された朔夜は机の引き出しを開け、そこから写真立てを取り出す。精巧な装飾が施されたそれに入っている写真を彼女は眺める

そしてため息をついた

 

「何か、良い影響があれば嬉しいのですが……」

 

そう呟いて、写真立てを元の場所に戻す。

カーテンの隙間から入り込んだ光に照らされたその写真には、歳の離れた兄妹と金髪の少女が花畑を背に写っていた


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