この紅魔の幼女に聖剣を!   作:海洋竹林

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この素晴らしい転生にチートを!

 どうやら、自分は死んだようだ。

 

「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神。××××さん、あなたは本日午後19時37分に亡くなりました。辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」

 

 ここはひたすらに暗い空間で、目の前には女神を名乗るどう見てもパッドの女性がいる。普通ならパッドの女性の頭を疑うところだが、実際自分には死んだときの記憶が残っているのだ。

 

 

 

 それは、主観的にはつい数分前の出来事だった。

 取引先の無茶な注文とそれによって発生したデスマーチによる三徹によって意識が朦朧としていた自分は、眠気に耐えかねて屋上の自販機で買ったブラックコーヒーを飲んでいた。

 

「眠い……。ああ、しっかりしなくては。」

 

頬を叩いて眠気を払った自分は、飲み終わったコーヒー缶をごみ箱に捨てると階段を降りようとしたのだ。

 

 しかし、どうやら自分の肉体はその無茶に耐えてはくれなかったらしい。鈍い鈍痛とともに視界が揺れ、見えるのは迫るリノリウムの床。あの階段は施設管理部に相談が行くほど急な階段であり、たとえ即死を免れ病院に運び込まれたとしてもあの時の体力からすると、頭部に損傷を負った自分は目覚めることはないだろう。そのことを思い出せば、このパッドの女性の言にも信憑性が出るというものだ。

 

 いや、たとえ女神とはいえ自分の体形をパッドで誤魔化すような奴の言葉を信用してもいいのか?

 

「信用しても大丈夫です!というかさっきからパッドパッドと、あまり連呼しないでください!!」

 

 女性はそういうとパッド、いや胸を自分の視線から隠すようにして抱いた。

 

 いや、でもパッドだしなあ。

 

「パッド差別はいい加減にしてください!!」

 

 さっきからそうだが、私は口に出していないはず。やはり女神だけあって、心を読むとか楽勝なのだろうか。自分の薄っぺらな精神なんてシースルーレベルで丸裸だったりするのだろうか。

 

「全部口に出してます!というか、今まで無意識だったんですが!?」

 

 元気のいい人だ。何かいいことでもあったのだろうか。しかし、今まで考えたことすべてが口に出ていたというのなら、やはり謝らなくてはいけないだろう。あんなに巨乳に見えるパッドをつける女性なのだ。さぞかし自分の体形に自信がないのだろう。そんな虚乳、いや貧乳であろう彼女に対し、自分はパッドと連呼してしまった。

 

 なんてことだ………!これではまるでクズではないか!!私はクズにはなりたくない。やっぱり謝っておくべきだろう。そうと気まれば早速!早急に!!謝ろうではないか!!!

 

「すまん!パッドの女性!!」

 

どうだ……?

 

「もういいですからその呼び方やめてください!!無意識とか関係なかったんですねその呼称!……もう、私はエリス。幸運の女神エリスといいます。そう呼んでくださいね。」

 

幸運の女神エリスは快く許していた。やはり女神か……!

 

「それで、どうして自分はここにいるのだろうか。」

 

幸運の女神が死者を担当するなんて、神の世界も人手不足なのか……。

 

「違います。というか、また口に出てますし。」

 

おっと失敬。しかし人手不足ではないとすると、なぜ彼女が自分を呼んだのだろうか。死者何千億人目記念とかで異世界転生でもさせてくれるのか……?そう聞いてみると幸運の女神エリスは少し驚いたような顔をして、

 

「そんな愉快な企画ではないですが、異世界転生というのはその通りです。××××さん、死んだあなたには三つの選択肢が与えられます。一つは、天国で老人のように穏やかな生活をすること。二つ目は、記憶を消してまた新しい人生を赤ん坊から生きなおすこと。そして最後は、私が担当する世界に記憶とチートをもって転生することです。」

 

 

 

 チート転生。それは男の夢であり、厨二病を患ったことのあるものなら誰もが一度は妄想するもの。かく言う自分もその口であり、異世界転生という選択肢にはすぐに飛びついた。

 

「なるほど。自分の世界に転生してくれる人間を見に来ていたということか。勤勉だな。」

「いえ、ただ単に地球担当の先輩が仕事を貯めて手伝わされているだけなんです。」

 

照れたのか顔を赤く染めて白状する幸運の女神エリス。神の世界、天界にも上下関係は存在するらしい。確かに自分も学生時代には先輩に理不尽な命令を出されたこともある。

 

 大変だな……!

 

「そ、そんな同情の視線で見つめないでください。それで本当にいいんですか!?まだ説明の途中だったんですけど。」

 

それもそうか、確かに説明はすべて聞かないといけないな。

 

「それでは聞いてやろう。その世界の感動的かつ深刻で重要な事情とやらを!!」

「ハードルを上げないでください!!」

 

涙目で怒られた、解せぬ。

 

 

 

 なるほど、魔王軍が強すぎてあんな過酷な世界に生まれなおすなんて嫌だという軟弱な魂が増えて世界全体の人口が緩やかにだが下がりつつあると。昔から転生者をチート付きで送り込むことはしていたらしいが、最近の人口減少によって何百年か前からかずうちゃ当たる方式でチート持ちを送り込み続けていると。

 

「しかし、その間誰も魔王を討伐できなかったのか?」

「ええ、私たち女神が世界に干渉できるレベルでは倒せないほど魔王は強く、いまだ魔王討伐に至った人は数人しかいません。」

 

それは転生者が弱いのか、チートといってもあまり理不尽な物は送れないのか。

 

「どちらかといえば後者ですね。転生者の方はこの世界の一般的な人よりも才能がありますが、魔王はそれ以上の強さを持っています。」

 

一つ、思いついた。

 

「なあ、制限をつけて限定的な状況でしか全力を発揮できないようにすれば、強力なチートを送れるのではないか?」

「なるほど……!!」

 

どうやら考えたこともなかったらしく、すごい驚かれた。

 

「じゃあそんな感じのチートをくれ。」

「えっと……、今まで誰も考えたことがなかったので在庫にないんです。」

 

結局一緒に内容を考えることになった。

 

 

 

 決まった……!いや、本当に長かった……!結局話し合いは長時間にわたって行われ、ようやくいくつかのチートがまとまった。

 

「ありがとうございます。まさか、他のチートも考えてくださるなんて……。」

 

幸運の女神エリスからの感謝を受け取りつつ。自分は最初に決めたチートをもって転生することを伝えた。

 

「そうですか……。本当にありがとうございました。なにかお礼ができればいいんですが……。」

 

それならと、一つ頼みごとをしてみた。

 

「えっ!そんなことでいいんですか?大丈夫ですけど……。」

 

自分と同じ頼みごとをしてきた転生者はあまりいなかったらしく、幸運の女神エリスは大変驚いていた。それでもそれがいいと言うと、幸運の女神エリスは珍しがりながらも納得してくれた。

 

「それでは××××さん、これより転生を始めます。あなたによき人生を。」

幸運の女神エリスの笑顔とその言葉とともに、自分は異世界へと転生した。




エリス様可愛い。原作読んでなきゃ初登場でパッドだとはわからなかったね。

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