明けて翌日。今日は日曜日。窓の外の天気は昨日に引き続いての晴れである。
「ラル!」
「カゲ!」
「モッグ!」
隣にはもう起きていたのか3匹の僕のポケモンたちがいた。
「みんな、おはよう!」
そうして挨拶を返してくる3匹を見ながら、ふと思った。
(そういや、ポケモンが出現し始めたのは昨日からだし、こいつらとギャラドスの4人も昨日たった1日でゲットしたんだよなー)
ゲームならいざ知らず、まさか現実でこんなハイペースで捕まえていくことになるとは思いもよらなかった。
(陛下がトップだとしても僕って結構トップクラス走ってたりして)
少なくとも知識的にはトップ大独走は間違いない。
ただ――
(やっぱり名実ともに1位ってのには憧れるよなぁ)
前のときゲームではどんなに頑張っても対戦レートでトップに立つことは出来なかった。ただここでは周りのレベルが低くなったとはいえ、それを狙うには十分な圏内にいると思う。
(ま、それはひとまず置いといて、とりあえずトイレ行ってこいつらの朝飯を――)
そうしてスマホを持って立ち上がったところで。
ピンポーン
そんな寝起きの時に鳴らされた呼び鈴。
今時計を確認したら、まだ朝の6時半過ぎだった。
「ったく誰だよ、こんな朝っぱらから」
今日は、創造神と会うために総理らのスケジュール、ヘリや人員の手配その他諸々の件で休みをもらった。で、それを隣で聞いていた神定さんに「(今日の)用事に付き合ってください」と言われていたので、今日は彼女と、あとは表で見張っている公安さんとも一緒に出かけることになっている。
とりあえず、まだそんな時間だから彼女が来るはずもないと思うのだが、相変わらずピンポンピンポン鳴り続けるので、「ちょっと待ってて」とポケモンたちに断ってから、仕方なしに玄関の扉を開けた。
「おはようございます」
そこにはまさかの、昨日と同じくレディーススーツに身を包んで背中に大きめのリュック、手にビニール袋を下げた神定さんがいた。
「ああ、えーと、おはようございます。てかなんでこんな朝早くに?」
「はい。いえ、とりあえずその前に確認したいのですが、お付き合いされている女性はいませんね?」
(オイ、なんで確認口調なんだよ? そこは疑問調で聞けよ)
「いや、まあいないけど」
「では問題ありませんね。朝ご飯まだなので上がらせてください」
「いや帰れよ」
「大丈夫です。私が食べる分は持ってきましたから。何だったら、御子神さんの分もありますよ?」
とりあえず、こんな朝っぱらから入れて入れないで押し問答しても仕方ない上、自分の分があるというならと、結局仕方なしに上げて、2人と3匹で朝食を食べることになった。
ちなみに神定さんの朝食だった、フルーツグラノーラヨーグルト和えには3匹全員興味津々だった。とりあえずギャラドスは大きすぎるので、あとでご飯(あ、みんなポケモンフーズです)あげることにしよう。
「で、こんな朝早くからいったいどうしたんです?」
一応お客様なんおで、食後の一服で濃いめの緑茶を出しながら聞いてみる。
「はい。実は今日は御子神さんに私のポケモンを一緒にゲットしていただきたくて」
「でも、そのために今日予定を空けてたでしょう? もっと後から来ても良かったのでは?」
「そうですね。しかし、折角ポケモンをゲットするわけですから――」
そう言って彼女はリュックの中から小型のノートパソコンを取り出した。
「以後私は御子神さんの補佐といいますか、秘書的な立場に付きます。で、御子神さんは内閣官房参与ポケットモンスター担当官です。近日中に役職名は変わるそうですが。それで、ポケモンに詳しい方の秘書がポケモンに無知では話になりません。いえ、仮に話になったとしても、私の矜持がそれを許しません。ですので、私がポケモンをゲットするのと同時に、私にその知識をご教授いただきたく、このような朝から参りました」
あれ、なんだろう。
非常識というか変人だけど出来る人ってイメージだったんだけど、なんか実は結構真摯な人なんだろうか。いや、不良が猫救っているところを見て「実はいい人」と勘違いするってのと同じ感覚、なんだろうか。ちょっとわからない。ただ、すっごい目力を感じるから真剣なことに間違いはないだろう。
「……。わかりました。とりあえずある程度の基礎と思われるものについては話しておきましょう。で、その後は」
「はい! 念願のポケモンゲットです!」
というわけで、ポケモンとはどういう存在かから始まり、タイプ、相性、ステータス、性格、特性、技、アイテムなどの知識をこれでもかと詰め込んだ。
尤も、途中で時間が全然足りなくなって一旦保留になったのはある意味必然だったが。
「ギャウギャアーウ♪」
御子神さんの講義はひとまず置いておいて、今我々は車で15分近く走ったところにある公園に来ています。公園と言っても、ここは平田川という荒川水系の一級河川の調節池を元に緑地整備された公園なので、大きな貯水池が複数存在しています(ちなみにフィールドワークのようなものですので、スニーカーにパンツに上は寒さ対策もかねたパーカーと動きやすい服装を選んで意識しています)。
で、御子神さんはそこの一つで今、昨日ゲットしたギャラドスを出してあげてポケモンフーズとやらをギャラドスに食べさせています。ポケモンフーズとはどうやらペットフードに似たようなものらしく、いろいろな種類があるそうですね。御子神さん自身もどれくらいの数や種類があるのかは把握していないそうですが。
「で、とりあえずどういった系をゲットしたいんです?」
他にも3匹のポケモンを出して遊ばせていた御子神さんが聞いてきましたが、やはり思います、『御子神さんの話、聞いておいて良かった』、と。
なんでもポケモンには必ずタイプというものがあるそうですね。水辺に生息するから水タイプ、空を飛ぶから飛行タイプ、炎を吐くから炎タイプなどなど。タイプがないポケモンはないと言っても過言ではなく、どれか1つ乃至2つのタイプを持っているとか。
そして、それぞれのタイプには相性というものがあり、得意とするものもあれば苦手なものもある。そしてトレーナーはポケモンを数匹持ち歩くと。要はパーティを組めるというわけですね。
ならば、例えばドラゴン○エストやファイナル○ァンタジーでパーティを組む場合、同じタイプで固めるのではなく、バラバラのタイプで組み合わせますが、ポケモンにもそれと同じ事が言えるのではないでしょうか。つまり、なるべくならばタイプをばらけさせた方がいい。しかも、2タイプずつ持つポケモンで組めれば、より多くのタイプに対抗出来るのではないでしょうか。
「そうですねぇ」
加えて出来ればかわいい系か美しいあるいはかっこいい系でもいい。これらのポケモンがいれば最高です。例えば水に関係する――!!
「あれ! あれがいいです!!」
大きいけど小さいという、我ながら結構器用な声でアピール。
何あの黄色いモモンガっぽいのちょーかわいい! 絶対ゲットしちゃる! フンスッ!
「うわぁ。お目々グルグルだー。あーはいはい。エモンガね」
なるほどなるほどエモンガちゃん。今の水を飲んでる姿もめっちゃキュート! 安心してください、今すぐお迎えに行きますからね! 大丈夫! ガチャは出るまで回すから外れなんてないんです! それに私って自慢ですが、運もいいんですよ!
「で、神定さんはポケモン持ってます?」
「ええ。ええ。持ってますよ!」
昨日公安さんに手を回して1匹頂戴したポケモン。これで、あのエモンガちゃんをゲットですよ!
「おいでませ、My Steady アシマリちゃん!」
「えっ、ちょ」
ということで飛び出したるはアシマリちゃん。アシカっぽいのですが、ピンク色の丸鼻と首元がとってもチャーミングなポケモンです。これであの子もゲットしますよ!
「神定さん、アシマリでエモンガにはちょっと「さあ、御子神さん! 確か最初は攻撃して弱らせるんでしたよね!」いやまあそうなんですが「ならばいきますよアシマリちゃん! エモンガちゃんに向かってみずでっぽうです!」ダメだ。目がハートでグルグルだから全然聞いてない」
何か言ってますが、よく聞き取れなかったので、このままいっちゃいましょう。
アシマリちゃんのみずでっぽうが先制でエモンガちゃんに当たりました。ジャストミートです。エモンガちゃんはようやっとこちらに気がついたようで、頬をプクーッと膨らませて臨戦態勢に入りました。両腕と両脚をつなぐ黄色い飛膜のある両手を握りしめるその怒っている姿もやっぱりかわいいですね。
「しかし! 動かないのであればチャンスですよ! アシマリちゃん、もう一回みずでっぽう!」
「え、ちょあれって」
そしてもう一度みずでっぽうが当たりました。これは提出された千鳥ヶ淵の映像通りにいい感じにゲット出来そうです!
「エンモ~~~~!!」
と、ここで思わぬ反撃が! エモンガちゃんの大きな黄色い攻撃がアシマリちゃんへすごいスピードで向かっていきました!?
「あsysysysyシャマママママmっmmm!? ……マ……」
「アシマリちゃん!?」
その攻撃が当たるとアシマリちゃんは黒焦げになって倒れ込んでしまいました!?
「エモ! エーモ!」
その隙にエモンガちゃんは飛膜を使って飛び去ってしまいました……。
「じゅうでんからのでんげきはなんて、低レベルの水ポケモンじゃ、そりゃ耐えられんわなぁ」
こうして私のポケモン初ゲットは失敗に終わりました…………。
「ラルー♪」
「カゲ! カゲッポゥ♪」
「モーグ♪」
「ギャオギュウウオ♪」
4匹のポケモンが水辺で遊んでいる。といっても、赤いギャラドスの頭に青いラルトスと、通常色のヒトカゲ、モグリューが乗って水面をスイスイと進んでいただけだが。しかし、それでも5匹は楽しそうに遊んでいた。
ん?
「ラルーラ♪」
いつの間にか4匹が5匹になって彼らは水面をスイスイと進む遊びを楽しんでいた。
「ラルラ。ラ、ラルーラルート♪」
だけどもたまにゃ ありゃ?
うっかり すっかり がっくり
なかま逃ゲーット!