この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
その日、日本で起きた衝撃と混乱は瞬く間に世界中に拡散していった。そしてそれに引き摺られる形で世界は等しく、それらの渦に巻き込まれた。
「日本からの船が出ないだと!?」
「日本への出航が出来ないの!?」
日本は突如発生したとしか思えない未確認生物により、安全確保のために国内あるいは国外とを結ぶ全ての交通便を、貨客問わず、運休や欠航を決めていた。各国の空港や港湾には日本行きのキャンセル等々の手続きにより、長蛇の列が出来上がる。また逆に、
「何としても日本まで飛行機を飛ばしてくれ!」
「あるいは釜山まで飛ばせませんか!? あとは船をチャーターするか泳ぐから! だから何とか日本かあるいは釜山までのチケットを売ってください!!」
といった輩もおり、それらも含めて空と船のターミナルは大混乱だった。
そして飛行機、あるいは船が出ないということは日本と各国との物流が止まるということを意味する。
今の時代どの国もグローバル化が進展し、製造業等のその国の技術の基幹産業となるもののほぼ全ては原料を海外から輸入し製造、輸出し、あるいは海外で製造されたものを輸入し、販売するという経済活動が行われている。日本も当然そのブロックに組み込まれており、そしてこの場合仇となってしまったのが、日本国内にはそういった分野で知名度は低いが、世界シェア断トツの1位を突っ走っている企業が数多く存在しているのだ。
つまり、これらの生産物の物流が滞るということは、世界的な経済活動の停滞を引き起こすことになる。
「なんだこの株価の乱高下は!?」
「こんなのは『
「いや、あのときは下がるばかりだったが、今回は突如予想もしないものも上がったりもしている。まあそれもすぐ下がるようだが」
「とにかくこうも乱高下していてはマズイ! 顧客に説明がつかないぞ! 予測はどうなっている!?」
「ダメです! 何度やっても毎回違う結果が出てきます!」
「クソがッ!」
そうなればこのような事態に発展し、リーマンショック以上の混乱が世界中に波及する。
「為替相場も無茶苦茶だ! どうする!? いつもの日本円買いか!?」
「いや、ここはアメリカドルだろ!?」
「いや、地理的にも貿易規模的にもここはユーロ一択じゃないか!?」
「終わった……。全財産融けた……」
経済活動停滞、下落傾向の強い不安定株価と来れば、為替相場も当然乱れ始める。しかも今回に限っては何かあったときの
そして各国の物流、株価、為替の乱れは各国の経済政策にも大きな影響を及ぼす。現在、どこの国も中央銀行総裁も交えた金融・財政政策会合を行っている。しかし、未だ解決策の目処は立たない。
日本は世界第3位の経済立国。その一国が盛大に躓く、いや、転倒したのだ。こうなってしまうのは宜なるかなということだろう。
そんなときに日本の総理である瑞樹が発表した内容。
「我々はこの不思議な不思議な生き物を
ポケットモンスター、縮めて ポケモン
そのように呼称することを決定しました」
当初は「名前何てどうだっていいだろ」という言論が流れたが、少しして詳細な内容が入ってくると、
「新生物なのにもうここまで内容がわかったのか」
「『詳細を知る人物』っていったい誰なんだ?」
「ミズキ総理はいったいどうやってそんな人物を見つけ出したんだ?」
といった具合に瑞樹無能論は近隣のほんの一部の国と特定野党を除いて吹き飛んだ。
そして彼らは思った。
「ミズキなら何かしら対策を講じられるのでは?」
と。
すると、株価に関してはほんの気持ち復調傾向が見られ始めたのだ。
正直そんな思いは憶測に過ぎないが、株価はその憶測に基づいて動く
それに極めて緩くだが比例して、世界的に暗い雰囲気から徐々に脱却していくものと思われた。
ある二国が日本の領海や排他的経済水域で問題を起こすまでは。
そして以後、各国の首脳陣を筆頭に新生物自体に注目の視線が注がれ始めることになっていく。
そういった世界の混乱とは無縁のところもまた存在する。
・Anonymous
ひゃっはー! ニッポンはファンタジーだぜ! Foooooooooooo!!!!
その一例が日本に旅行に来ている外国人たちだ。
彼らは現状、自国に自由に帰れない状態であり、そのことにはやや悲嘆にくれていたが、それ以上の不思議生物の発生に沸き立っていた。外国人御用達の掲示板を始め、ツィッターやフェイストーンブック、イスタグラム等のSNSにも画像や動画がアップされるようになる。
そうなれば今世界がより一層の関心を寄せる日本での出来事。更には日常では絶対にお目にかかれない摩訶不思議な光景に普段よりも一段と早いレスポンスがつく。
・Anonymous(アメリカ)
えっ、えっ、なにこれナニコレなにこれーーーーーーーー!!???
・Anonymous(フィンランド)
ひょわーーーー!!メッチャかわいいいいい!キューーートじゃない!!
・Anonymous(スペイン)
待て!いろいろ待て!これが今の日本なのか!?
・Anonymous(カナダ)
なんだこの生き物!?今まで見たことないぞ!新種か!?
現実での混乱は、このネットの一部とでは隔離されていた。ほとんどがその物語然とした、しかし、現実の出来事に心踊らせる。
・Anonymous
見てみろよ、コイツを!
ゲットしちまったぜ~!!
そんな最中に投稿される1レス。画像も併せてアップされたそこには、灰色の厳つい鎧のような皮膚を纏ったサイのようなポケモン、サイホーンとそれに跨がった白人男性の姿があった。
・Anonymous(アメリカ)
SUGEEEEEEEEEEEE!!!!
・Anonymous(ドイツ)
やばっっ!ナニソレ!?アンタCOOLすぎんぜ!!
・Anonymous
メチャクチャかっこいいいいいいいいいいああああああああああああ
とこのようにお祭り騒ぎ。
・Anonymous
それだけじゃないわよ!私のも見て!
そしてそのサイホーンに跨がった一人を皮切りに次々とポケモンと写った外国人の姿がアップされていく。手乗りのポッポやムックルから子馬の火の馬ポニータ、肩乗りイーブイやププリン、パチリス、胸の前に抱えたロコンやガーディ、ウパーなどカッコいい系からカワイイ系まで様々だ。
ちなみに特に好評だったのが、この2つの動画だ。
・Anonymous
イヤッハー!ボクってば宙に浮かんでるよ!メチャクチャ感激だ!!!
黒人の男性がユニランのサイコパワーにより空中浮遊している動画。
・Anonymous
見て見て!キレイでしょ!?
アジア系の女性がリージョンフォームロコンに白く輝く息(こなゆき)を吐かせている動画。
これらは、前者は人類の夢と呼ぶべきことを機械の助けもなしに成し遂げたこと、後者は見栄えが非常に美しいことから大きな反響を巻き起こしていた。
そしてゲットした様子をアップしていることから当然御子神や新出の動画も貼られており、そしてそれをもとにゲットを実践した動画をアップするヨウツベバーも現れ、活況に満ち満ちたカオスな状況に陥っていた。いわゆる『祭り』というやつである。
・Anonymous(ブラジル)
うっはー!ちょー日本行きてーーーーーーーーーー!!!
・Anonymous(ニュージーランド)
何で日本行きの船も飛行機も動いてないのよぉぉぉぉぉ!!!
・Anonymous
理由は理解できるよ?でもさぁ、何とかしてくれよ!
そうして日本に行けない彼らは液晶画面の前で大いに地団駄を踏んでいた。
そして世界は、ポケモン出現による影響は混乱だけでなく、希望の光をもたらすことにも気づき始めた。
「なんてすごい! こいつは素晴らしいぞ!!」
彼はフランスのとある大学病院の勤務医である。
彼の受け持つ患者の中には現代医療では治療が厳しい患者もいた。彼はその若い命の灯火を絶やさぬために日夜研究論文を漁り、適用可能な治療法を模索していた。そして、そんな彼の同類は世界中におり、絶えず連絡を取り合っていた。そんな中、日本にいる仲間からのメールが届いた。その内容は簡潔にこう書かれていた。
『我々の追い求めて止まなかった治療法
それが見つかった!!
しかも、
この闘い、我々の勝利だ!!! 』
最初にその文言をみたときはただただ頭が真っ白だった。やがてそれの理解が及んでくると、疑問が湯水のごとく溢れ出てくる。
詳しく問いただそうとしたとき、新しいメールが届く。あの日本にいる仲間からのそれだ。内容は動画ファイルがいくつかと電子カルテを共有ネットワークに鍵付きであげたから確認しろとのことだ。
まず動画ファイルの方を見てみれば、ほぼほぼベッドの上で寝たきり一歩手前だったはずの患者が上体を起こして会話をしている。痩せ細っているが至って元気そうだ。
「まっ、まさか……!」
彼は震える手でマウスを動かし、電子カルテを解錠する。
そこにはまだ途中経過でしかないものも多いが、一般の人間と代わりないバイタルが記録されていた。
「ほ、本当に……!?」
続けてメールが入る。今度はどうやらそこに至るまで過程のことが書かれていた。
「……なんて……なんてことだ……!」
遠い日本のことはニュースで聞き及んでいた、不思議な生物が出現したと。
そのときは「へー、そう」と思っていただけで彼自身は流していただけだったが、その後、彼らに関係する道具とやらが人間にも効果があるらしいと判明。仲間は家族の了解を得て、その道具の使用を試みた。するとどうだろうか。見る間に血色が良くなり、回復していったという。
「ははっ……なんて……なんてこった!」
彼は歓喜の渦に包まれていた。
一刻も早く
何でもその薬は日本にのみ出現したホログラムでしか手に入らないらしい。
「…………クソッ! 何としても日本に行かなくては!」
すぐさま日本行きを手配しようしたが、現在日本と世界を結ぶ全ての交通手段が運休している状況。それはつまり貨物輸送も滞っているということだ。
「送ってもらうってのもダメなのか、クソッ!」
彼はその状況に項垂れてしまった。デスクに叩きつけた握り拳の痛みも今は気にならない。
「あー! 日本に行きたい!!」
「なんだと!?」
彼はアメリカにあるとある大手流通宅配便会社の社長。代替わりして間もないが、その確かな戦略眼とともに打たれる一手により、社長就任前より会社規模拡大に大きく貢献してきたことから、社内では先代以上のやり手、社外では今最も勢いのある社長の一人とマスメディア等に目されていた。
「なんたることか……! いやしかし……!」
彼は、今このときが会社存続の岐路に立たされていると感じていた。
「またしても、『ポケモン』か」
彼は今日一日頭を悩まされていた。日本国がポケモンの影響により、日本国外との交通手段が全てシャットアウトされてしまい、大手取引先の一つである日本国内との流通取引が出来なくなったのだ。
まだ24時間も経過していないが、すでに大きな損失額が発生している。しかもこれが何日続くかもわからないのだ。先の見えない下降要因に加え今回判明したコト――
「まさかスマートフォンのやり取りのみで物品の交換が可能、それもノータイムでとは」
通常こうした小口の商流貨物の輸送便は荷主の戸口から届け先の戸口までの迅速な配達を謳い、その対価を受け取ることで成り立つ業種だ。しかし、今回のコレは――
「何とかしなければ、我々のような業種は消滅もあり得るぞ!」
タダでそれまで以上のサービスを使えるのならいったい誰が既存のそれを利用するというのか。
そんなものは火を見るよりも明らかである。
「いや、まだ手はあるハズだ」
そして彼の優れたところは、これをピンチと捉えると同時にチャンスとも捉えているところだ。
「聞けばポケモン関係のものだけで他が送れるかはわからない。いや、そもそも本当に物品を送れているのかも確かめないことには……」
通信交換(改)とやらの機能の仕様を現地からの報告でなく、彼自身で体感、現地での指示出しが必要であるとの思いに到り始める。
「よし! 何としても日本に行くぞ!」
こうして日本行きを希望する人間が現れるのである。
そしてこのようなことは医療・福祉・流通に限らず、直接あるいは間接でも
そしてそれはポケモンに関する情報量が増えていく度に加速度的に増えていく。そして多くがポケモンという存在に価値を希求していく。渡航乃至はポケモンの情報を請う声は加速度的に増していった。それは何も民間ばかりではなく政府としてもだ。
『日本にはポケモンに関するあらゆる情報を開示することを要請したい』
早いところでは政府首脳がそのように公の場で発言し、またそれ以外でも様々な形での対応が取られた。
そして極めつけが尖閣諸島とオホーツク海沖での出来事だった。
当初は原因不明とされたが、米軍等の解析により、それはどうやら生物が原因であるとわかったのだ。
それに世界は衝撃だった。何せ生身の生物が現代兵器の最先端をいく産物を鎧袖一触にしたのだ。
突如発生した生物とそれを行った正体不明の生物がニアリーがつけど、イコールとして結び付くのに時間はいらなかった。
『ヤスヒロ(ミズキ)が話してくれることを願うばかりだね』
日本の一番の同盟国の大統領もSNSでの発信を行い、それらのうねりは見えない圧力となって押し寄せていた。
そしてそれに対するある種の返答。
それが日本国の官房長官から発信された。
【今からお話することについて、多くの疑問があるかと思われます。しかし、これらは『そういうもの』と認識して聞いていただきたく思います】
その会見内容は第二次ポケモンショックというべきに、世界中を駆け巡った。
ちなみに世界中で宗教関係者が荒ぶったのは言うまでもない。
航空機と船舶の往来が再開したらたぶん日本行きのチケットは超プレミアになりそうですね。
Youは何しに~~は「ポケモン捕まえに来た!」が大多数を占めることになりそう。
なお、この時点で日本にいる外国人はいつも以上にハッスルしすぎている模様。
ちなみに邪な考えを持つ人間に対してポケモンも塩対応になるんじゃないかな。
一応ポケモンの『故郷』は日本なので、郷里を荒らすつもりがある人間に対してはそれはまぁ……ね