がっこうぐらし!―Raging World― 作:Moltetra
過去に投稿した初期の方や中期と比べて大分文体が変わったなと思います。
今現在の文体も前話より少し変わった印象もありますが、それが出てくるのは多分次からになるでしょうね……
「―――信用できるとは言えない」
俺の言葉は3人にとって、余程驚くべきものだったんだろう。全員が狐に摘まれたか化かされたか、はたまた供えようとしていた油揚げをトンビに強奪されたような顔をしている。
「……え、聞いといてなんだけど。一応仲間、だったんだよな?」
「仲間だな」
「3人で生き残ってたんですよね……?」
「そうだな」
「そんな簡単に……疑っちゃってもいいの?」
「え、逆に疑わねえの……?」
胡桃、飛鳥、悠里の順に聞いてきたかと思えば、なんてこったと各々頭を抱えたり腕を組んだり栗の様な口をしていたり。
「とりあえず、1階の尊さん以外を集めてくれ。イツキと坂上は俺が呼ぶ。それと胡桃、大きめの皿と紐を調達してほしい」
「何に使うんだそんなもの……」
「鳴子トラップだが?」
「罠好きだよな……」
「真のハンターはまず足元を警戒するように、罠ってのは効率とコスパに優れた無人兵器だからな」
胡桃はニヤリと笑った俺に呆れると、残りを呼ぶ為に悠里を連れて部屋を出ようとする。だが―――
「その子は……大丈夫なの? 一応忍さん達と追って来てたのよね?」
「なんだ、解放したのは悠里達じゃないのか?」
「それは……2人が危なかったから……」
今更疑われた飛鳥はまるで干からびたミミズでも見るかの様な目で悠里を捉える。怖すぎるだろ、そのなんの感情も籠ってない目。全く興味はないけど邪魔なら殺そっかな、とか考えていそうなもんだが……案外ああいう目をしている奴はそんな思考すらせず殺すんだ。無意識に飛んできた羽虫を払い除けるかの如く。
弓や双剣は使わないがとりあえずスタミナライチュウあるし食べとこうみたいなレベルでさっとやってしまうに違いない。そして後続の弓使いに諌められるまでがテンプレだ。
「まあ大丈夫だ、こいつは今や俺のだからな」
その瞬間、場の空気がただ1人を除いて凍り付く。
「……今、なんて?」
俺も口に出してから全身が凍る、というより石化した。呼吸も忘れ、首を回そうとすればバキッと音を立ててもげるのでは? そんな錯覚すら覚える程の恐怖心。生まれて初めて体感した、人の感情が爆発を通り越して静寂となり果てた一瞬を……俺は絶対に忘れないだろう。それか、これが最期の記憶になる可能性だってある。いや多分そうなる。
「その子が―――雅“の”、何?」
「………え」
今度は悠里と胡桃が
一方飛鳥は背景に花でも舞ってそうだ。両手で顔を隠してキャーハズカシーしている。そして俺は死ぬ。
「いやぁ、ねぇ? ……飛鳥に血を飲まれて、俺も成り行きで飛鳥の血を飲んじゃってぇ………それってまあもしかすれば互いの組織を取り込んだわけだからほぼ同一個体って事になるのでは?」
「いやそうはならんやろ」
苦し紛れのよくわからない文句にお決まりでド正論の突っ込みが飛んでくる。ガチガチに固まったどころか、最早時空が停滞して身動きが取れないのではと超次元的な発想に至りつつあったこの場の空気はものの見事に打ち砕かれた。
「なっとるやろがい!」
「いやなってねえよ?」
最初の突っ込みは先程俺がプチ村八分状態にしようとした尊さん。飛鳥はテンプレで返すが、すかさず俺が燃料を投下してこの-196度の部屋を積極的に温暖化させようとしている。
が、悠里と胡桃の目からは変わらずハイライトが消えたままのミミズ目だ。それどころかあの2人だけ氷河期に取り残されている、アイスウーマンにでもなっているのか。
「シノさんが戻ってこないけど……なにかあったのかな?」
いつも通りの微笑みを張り付けて、尊さんは少しだけ首を傾げながら聞いてくる。だがその瞳に映る感情は穏やかではなかった。
「襲撃を掛けてきた敵の中に知り合いがいたらしくて。降伏したそうなので対応を任せています」
「ふむ、じゃあなんで鍵を閉めてるのかな?」
「……? おかしいですか? 降伏したとは言え、拘束はしてないので。気が変わってシノが無力化された時なだれ込まれたら面倒でしょ?」
一理ある。尊さんもそう考えているのか全面的には反対しない。ただ少し不満がある……というよりも、俺を信じ切れていないといった所か。
まあ俺も隠し事は日常茶飯事だったし当たり前か。でもその瞳は違う。ほんの少し思う所がありますって感じじゃない。薄くではあるものの、敵意すら感じる。
「それで……なんで飛鳥ちゃんがここに?」
「襲撃してきた奴らのリーダーですけど、こいつは今の所気が変わる可能性はゼロなのでね」
「………まあ、そうかもしれないけどね。でもね、ミヤちゃん。その子が屋内にいるなら他の人もいれなきゃフェアじゃないんじゃない?」
「仮に入れた所で定員オーバーです。それに、このご時世美人を前にして抑えが利く男がどれだけいるでしょうね? 少なくともお近づきになろうと面倒事は起こす気がしますけど」
うん、納得いってないようだ。尊さんの言い分もわかるがそこまでして面倒を見てやる義理もない。例え忍の知り合いだろうと、恩人だろうと、俺には関係あっても悠里達は無関係だ。
全く関係のない誰かが不快になる可能性がある限り、赤の他人を近付ける気はない。……そもそも、あいつらは本来全員死ぬはずだった。ついでに一度でも寝返った人間を容易く信じる訳がない。どれだけ綺麗事や道徳を並べようと、そんなものは俺には全く響かない。
―――相手の意見を一部肯定はすれど、まず自分が間違っているとは全く思わないからだ。
「じゃあ仲間になった人達はこれからどこで寝るのかな?」
「仲間じゃないですけど」
「……んー?」
「尊さん、今の俺達の食糧事情……知ってます?」
「人数がいればそれだけ物資も集めやすいんじゃない?」
確かにそうだろう。大人数で行動すれば荷物も多く運べるが、逆に無駄に見つかりやすく消費も増える。利が10あったとしても、害は15あるレベルだ。流石にそんな事、尊さんなら一瞬で考え付きそうなものだが。
「回りくどい事してないで本心を言え、誰かの指金か、単に可哀想だと思ってやってるなら言う相手間違ってんぞ」
こういうビジネストークみたいな会話は、俺には似合わなかった。すぐさま遠慮がちな表情からいつものゴミを見下す顔に戻すと、本心にあった感情を何に包むでもなくぶつける。
「……俺は単にミヤちゃんの贔屓が気に入らないだけだよ、大切にしたいのはわかるけどね。だからと言って他の人をないがしろにするのは間違ってる」
「なるほど?」
「ち、ちょっと……2人共落ち着いてください!」
一気に険悪なムードになってきたと思えば、悠里が慌てて俺と尊さんの間に入る。だが2人共、という割には俺に向いて立ち塞がってるな。どちらかと言えば尊さんの意見に賛同なのか?
「お2人の言う事はどっちも正しいと思います……でも今は争ってる時じゃ……」
「そうですかぁ? 私は雅さんが正しいと思いますけど」
制止を無視して飛鳥がナパームを投下していく。尊さんも流石に癪に障ったのか、いつもよりも厳しい目付きで一瞥した。しかしその程度で怖がるなら元からしゃしゃり出てくる筈もなく、挑発するように鼻で笑って俺の横で前髪を弄り始める。うん、これはウザい。
「まあ、ここで2人で決めたって意味がないんすよ。お互いに譲らないなら第3者を交えた方がいいでしょう?」
「じゃあここの人間の中でミヤちゃんの息が掛かってないのは誰かいるのかな?」
「息が掛かる……どういう意味ですか」
険悪を通り越して1秒毎にスリップダメージを負う様な空気。俺の返答に尊さんは答えず、続くであろう言葉を待っている様にも見える。
流石の悠里もこの雰囲気には付いてこれないのか、俺達2人を交互に見つつ口を出すかどうか決めかねている。
「……お互い冷静になれないみたいですね。ここは一度頭を冷やすべきでは?」
周囲の反応も鑑みて、一時休戦を提案する。
「冷静っていうのは、君の考えに付いてくる人の事を言うのかな? だとしたら間違ってると思うけど」
それも一蹴され、尊さんも割と本気なのか簡単には引き下がらない。
確かにこの寒さの中外で野宿するのは命の危険すらあるだろう、尊さんの要望は寝返った人員が凍えない事……とは言ってもこの家や敷地は元々あの子の物だ。俺の判断で今までのメンバーに余計な心配も掛けたくない。
何のロスも考えないのなら……ここで忍と尊さん達を切り捨てるのも視野に入る。今まで生き延びてきた人達を簡単に見捨てる、そんな見方も出来てしまう。
もしかすれば次は自分だと考えた悠里達が離れていく可能性すらある。これは絶対に避けたい、今の俺は“学園生活部”というグループに所属する1人の男なんだから。
「……とりあえず出てってください。外の人員に関しては1階でのみ活動範囲を許します。絶対に汚すな、壊すな、騒ぐなとだけ伝えといてください。それ以外は追って決めます」
「……わかった。それが君の最大限の譲歩みたいだしね」
尊さんは若干苛立ちを見せた足取りで部屋を出ていく。
「はぁー」
大きな溜息を吐いてベッドに寝転ぶ俺に、飛鳥が隣に添い寝するかの様に擦り付いてきた。無視してみれば悠里と胡桃から視線が飛んでくるし、今後の課題は山積みだ。
「……少し休む。1人にさせてくれないか。あと今までのメンバーは基本的に2階にいる様にして、俺が起きるまでイツキと坂上で見張りをしろって言っといてくれ」
それぞれ頷くなり返事をするなりをすると、横に居た飛鳥も空気を読んで部屋から出ていく。
天井に空いた穴からは隙間風が吹き込み、同時に周辺から様々な音が流れ込んでくる。もし尊さんの行動が全て計算されたものなら―――
もしそうなら、俺達は終わりだ。
今後の事や今までの経緯を考えている内にどんどん眠くなってくる。知らぬ間に睡魔に足を掬われ、着の身着のままで泥の様に眠っていた。