がっこうぐらし!―Raging World―   作:Moltetra

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10.再会

 「この部屋に入れ、鍵は掛けろよ。イツキ、絶対に胡桃を護れ。俺は少し様子を見てくる」

 

「馬鹿! 何言ってるんだ! お前絶対戦いに行く気だろ!?」

 

大声を出す胡桃を睨んで制すると、一瞬の隙を突いて身を引く。この状況で全員がこの部屋に入って隠れても、見つかった時に打つ手がない。

 それなら、少しでも傷を負わせるか数を減らすか……いっそ明後日の方向まで引っ張る必要がある。その為に今一番使える人材は……俺だ。

 

「雅さん、俺なら狙撃できます。俺に行かせてください! 片手しかない雅さんに無理は―――」

 

「500m狙撃が確実にできるようになったら任せよう。今は無理だ、子供らしく影で震えてろ」

 

「絶対駄目だ、行かせるなイツキ! 今までは運が良かったんだよ! 次は絶対に……」

 

「胡桃、この世に絶対はない。俺が合図するか、安全だと確認できるまで移動は禁じる。安全が確認できたら真っ先に車に戻って移動しろ、悠里達も危ない」

 

「ダメッ! 行くな雅っ!!」

 

「……また戻ってくる、約束しよう。どんな姿になっても、“絶対”会いに行くよ」

 

 2人を突き飛ばして扉を無理矢理閉めると、ノブを斧で打って少しだけ歪ませる。これで少し開けにくくなるだろう……中からも同様だが、胡桃の力なら開けられるはずだ。

どうして今こうやって逃走を図っているのか……それは俺達が銃砲店から出て30分もしない頃の事だ。

 俺達は浮かれていた。絶大と言える火力を持つ銃の入手、そして弾薬も豊富に入手し、当分困らない戦力を得た。

俺自身も白鞘の日本刀を手に入れ、仲間達の護身用ナイフも手に入れて装備は潤沢になった……俺達、『学園生活部』の戦闘力は格段に向上し、生半可な脅威など跳ね退けられるようになったと。

 しかし、帰路の途中俺達はある一団と出逢ったのだ。

 

「武器を置いて、持っている物を全て渡して貰おう」

 

金髪に染めた男は明らかに安物のクロスボウを手に、他に3人の生存者を連れて俺達の前に立っていた。

 

「断る、と言えば?」

 

 見る限り飛び道具を持つのはあの金髪だけ。他は皆木刀や工具で武装している。クロスボウを持つ男の腰には矢筒が提げられ、5本のボルトが入っている。今装填されているのも含めて、装弾数は6発。

 取り回しの良い武器であれば、最初の1発さえ無力化できれば押し勝てる。それこそ、何人かは―――いやあいつら全員が死ぬ事にはなるが。

 

「誰か1人死ぬ事になるな。おっと、馬鹿な真似はするなよ? 俺は今まで狙いを外した事がないんだ。一瞬で頭に穴が開くぞ」

 

「ほう、触れる距離で撃ったのかな? それなら当然だな」

 

「……ふざけるなよ、薄汚い恰好の癖に大口叩いてんじゃねえぞ」

 

 リーダーは思いの外気が短かった。片手でクロスボウを格好良く構えているつもりだろうが、その構えは腰が入っていなければ照準さえ覗いていない。その状態で当てられるならやってみろ、と言いたいくらいの馬鹿な格好だ。

 

「あぁ、イツキ。持っている物を置いて、本物の構えを見せてやれ」

 

「了解」

 

小声で発砲を許可すると伝えると、イツキは微かに頷いた。左側に立っていた胡桃を数歩下がらせ、斧の刃に近い部分を持って重心を調整する。

 あのクロスボウ、よく見れば弦はワイヤーではない。ならパラコードかと思えば、そうでもないのだ。なら何か? スリングショットなんかで使うゴムだ。そんなものでいくらか重量のあるボルトは飛ばせない。弾速も玩具(おもちゃ)も同然だろう。

 イツキはゆっくりと手に持っていた袋やらを地面に置くと、瞬時に右肩に掛けてあったM700を腰だめに構える。そして一瞬でボルトを引いて装填すると、肩に付けてしゃがむと同時にスコープを覗き、照準する。

 

「っ!? それ銃―――」

 

「目標、金髪の右手。撃て」

 

「了解! 撃ちます!」

 

 乾いた音と同時に、目前では血飛沫が舞っていた。俺の言った通りに、金髪の男の右手は弾けクロスボウを落とす。すぐに装填音が聞こえ、直後に空薬莢が転がるいい音が聞こえた。

 

「これ以上痛い思いをしたくなければ退いて貰おう。利き手が潰れるのはさぞ不便だろうが……まあ俺には関係のない事だ。次は殺す、だが楽に死ねるとは思うな」

 

持っていた斧の刃を返して威圧してやると、チンピラ共は容易く恐慌状態に陥ってくれた。敵部隊の戦意喪失、この勝負は俺達が勝った。後は報復されないよう入り組んだ道を通り、車へと帰るだけだ。

 

「くそぉ!!」

 

 ―――だが、予測は外れたのだ。

 

「――!? まずいっ、胡桃!!」

 

「雅さんっ!?」

 

 

パァンッ。

 

 

 息が切れる程に走る。アパートに2人を押し込み、俺は追っ手を振り切る為あえて囮となった。車とは正反対に走り、拳銃を装備するあのチンピラ共……どこかの大学か、それとも自発的に組織した何かなのかはわからないが、若いメンツばかりで体力がある。逃げ切るのは難しかった。

 

「いたぞ!!」

 

「クソッ」

 

 度重なる銃声。幸いにも被弾はなく、あの時背中に食らった1発のみに留まっている。だが最初は良かったものの、出血は路面に痕を残す。この丈の長いコートを伝うとなると、それなりの量だ。早い所止血しなければ血が足りなくなる。

―――が、止血するにはまず隠れる必要がある。その為には痕を残してはならない。どこかに立て籠もるのもありだが、救援はこないんだからな。

背後で響く銃声に怯え、柄にもなく前進を震わせる。なんと無様な……どんな時でも余裕を見せて、どんな相手でも圧倒するのが信条だが、応戦出来ない以上逃げに徹する他ない。

 クソッ、だからと言ってこのまま逃げ続けるにも限度がある。体力も限界、止血もしなければならないし敵の数は増えていくばかり。もしかしなくてもこれはピンチというものではなかろうか。

いやこれは明らかにピンチだろう? 状況的に不利は確定で死にかけている、確実にピンチだ、間違いない。

 途中にあった路地を曲がり、近くにあったゴミ箱を倒して先に進む。自分では完全に避けたつもりだったが、目測が甘かったのか蹴ってしまった。

 

「追えぇっ!」

 

音で居場所を感知され、甘い狙いの「.38Spl」が肩を掠める。アドレナリンで抑制された痛みがズンと伝わってくるものの、特に意識する事もなく全速力で次の角を曲がった。

 

「悪く思うなよ……」

 

角を曲がってすぐの場所にあった家屋の玄関が破壊されてる事に気付き、中に入る。少し古いが曇りガラスの玄関を閉じると、すぐ外で何者かが走り去っていく足音が聞こえた。

 だがこちらには気付かなかったらしく、幸いにも足音は段々遠くなっていく。

 

「……っはぁ、はぁ」

 

気付かない内に息を止めていたらしい。安心して死臭と生モノが腐った空気を吸い込むと、改めて気を引き締めて中の探索に移る。

 中には珍しく感染者の気配はなかった。平屋建てらしく、どこを探しても感染者の姿はない。ただ死臭だけが辺りに立ち込めているが、見た限りその原因となる物はどこにもなかった。

しめた、と少し奥まった位置にある居間でバッグを床に降ろし、テープとッ包帯を取り出す。見れば、偶然中にあった双眼鏡の一部を貫いて弾丸は背中に着弾したらしかった。

 

「はぁ、また医療品が減るのか……」

 

 愚痴を垂れ流しながら、包帯を巻く為にバッグのベルトを締めて巻く補助をしながら手当を行う。ガーゼの位置は適当だったが、違和感の位置と大体重なってるから大丈夫だろう。仮に外れてたとしても、包帯は必ず当たる位置に撒いておいた。

 時折外の物音に注意しながら、なんとか止血……もとい時間稼ぎを終わらせる。

これで当分は血液がガーゼか包帯に吸われて地面には落ちない筈だ。どちらにしろ、腰に布を1枚挟んでおいたから数十分は持つ。だとしても見つかれば全てが水の泡だ、これらは一層発見されない様に注意しなければならない。

 それはともかくとして、奴らの戦力を再評価する必要がある。最たる使用武器は主に木刀や鉄パイプ、自動車に使う工具だが、何かの拍子に銃を使う奴がいる。

恰好や装備的にある程度階級が物が高い者に限定されるようだが、リボルバー式の拳銃を使用するらしい。……この国で手に入るリボルバーとすれば、警察で採用されているS&WのM60、それかM360J――サクラ。

 どちらも装弾数5発で使用弾薬は「.38SP」弾。.38口径の比較的小口径な部類に入る拳銃弾だ。以前はそんな小さな口径で大丈夫なのか、とも思ったが……今となっちゃ、.45ACPとかでなくてよかったと心から思う。

発砲音の軽さから見ても間違いないだろう。現に、脳内物質で抑制された俺でも冷静に止血できている。車に戻れば、彼女達が卒倒する傷ではあるが……死なないだけ幸運だ。

 

「止血は完了した。後は敵を撒いて戻る事だが……いかんせん数が多い。例え見敵必殺と心掛けたとして……」

 

 自分に言い聞かせる為にも、あえて独り言を漏らす。ある程度落ち着いてはいるが……あまり意味はなかったらしい。これもアドレナリンのおかげだな。

 

「まずは敵対勢力から逃げ切る事。敵の所属を聞く暇はない……胡桃達の為にも、まずはあのアパートに戻る必要がある」

 

あのアパートからは―――色々道を曲がったりはしたが、少なくとも1kmは移動している。今まで隠れ潜んできたイツキもいるし、隠密性は申し分ないだろう。なら一度

あの部屋に戻り、2人の所在を確認してから悠里の元へと戻るべきだ。

 

「よし……!」

 

 自分の頬を叩き、気合を入れる。大丈夫だ。いつもより慎重に……人が通るとは思えない場所を時間を掛けてでも通れば、必ず帰れる。

相手は素人だ。特に専門的な訓練を積んだ訳でも―――それこそ本格的な射撃訓練を何十回とした訳でもない。それは今までの命中率が物語っている。

 だからここは―――本格的な知識を取り入れた俺こそが……俺が有利となる戦場だ。

 

 玄関ではなく、縁側にあったガラス戸を開けて外へ出る。手入れをされず荒れた外垣の僅かな隙間を見つけて隣の敷地へと入り込み、死角を利用して次々と移動していく。

流石に家を1軒1軒調べてはいない様で、奴らは今も道路を駆けずり回っているに違いない。ただ気まぐれで……特に察しのいい輩が調べに回ってくる事も意識せねばならない。

 

 1時間近く掛けて2人と離れたアパート近くに戻ると、もう追っ手の姿はなかった。幸運ではあるが、それはほぼ全員に情報が渡っている証ともなる。30分みすればほぼ全員に場所が割れるとして……その時間のロスは有効活用する手立てにもなりえるな。

3階建てのアパートの201号室の扉を3回ノックする。しかし返事はなく、試しにノブを捻ってみると容易く開いてしまった。

 流石に移動したか。一応中に入ってみると、名kには何もない。ただ廊下には感染者の死体が1つ転がっており、大きな血溜りの先に足跡はなかった。

俺なら、少し凝った場所に痕跡を残すだろう。そう思って玄関のすぐ傍にある靴箱を開けてみると、1枚のメモが見つかる。

 

 ―――捜索する人数も減ってきたので先に車へ戻ります。2時間後に午前中に相談していた場所に移動します。

 

 午前中? 今日の午前中に話したのは食料と燃料の調達について……その目途を立てたのは、銃砲店から北に約2kmのスーパーだ。30分歩いたとしてそのペースは少々早め、間違いなく1kmは移動している。だとすると、目的地は3番目に近い業務用スーパーだ。

 中々、頭のいい少年だ。1番近くではなく、3番目を選ぶところが用意周到さを感じられる。雑談の途中に捻じ込んだ事も、しっかり覚えていたか。

メモをライターで灰にすると、斧を持ち直して部屋を出る。追っ手はほぼいなくなった。しばらくすれば捜索範囲を拡げるだろうが、その前に圏外へ出れば問題ない。もし見つかったとしても……

 

「3人程度なら……抹殺してやればいい」

 

既に慣れ切り震えなくなった手で斧を握りしめる。―――いつかその報いがくるとしても、今だけは。この先もそう思うかもしれないが、いつしか本当に1人になった時に受けよう。せめて彼女達と一緒に居る時だけは……それは、欲張り過ぎか。

 荒田案気持ちを胸に磔にするような形で扉を開ける。廊下に出て左右と眼下に広がる道を見渡すが、相変わらず追っ手はいなかった。

 

 よし、人目はない。この隙に乗じて少しでも距離を離せれば―――いや、ここは時間が掛かっても慎重に行くべきか。途中の住宅地を梯子しながら、適度に索敵を噛ましつつ移動しよう。そうすればいつかきっと……

 

 

 

 その頃。無事車へと戻ったイツキと胡桃は悠里達に事の顛末を話していた。厄介な生存者に出くわした事、そして雅が―――背に1発受けながら囮を引き受けた事を。

 

「……まさか、そんな」

 

「本当です。雅さんは……僕たちを逃がす為に体を張って――」

 

「……考え得る、いえ、もう既に考えられた行動ね。あの人なら、自分を犠牲にしてでも逃がしてもおかしくない……」

 

 冷や汗を一筋流した悠里は、肩で息をする2人を前に顎に手を当てて必死に考える。彼を助ける方法……しかし生半可な手段を取れば……彼の事だ、きっと常人では考えない行動をしている。素人考えでは却って邪魔をするかもしれない。

とは言っても何もしないと言う訳にはいかない。捜索隊を出そうにも、私達は素人だ。唯一銃を扱えるイツキ君でも―――以前彼が言った様に、1人にするのは危ない。

 

「待ちましょう。イツキ君が書置きをしたスーパーの裏に車を停めるわ」

 

「救援に行かないんですか!? せめてこの近くの家に伏兵を―――」

 

「それが外れたらどうするの? 彼が戻れば、待ち伏せに出たあなたを呼び戻しにまた出て行ってしまうわ。ここは合流地点に……雅さんを信じて行動するべきよ」

 

 短い付き合いではあるが、イツキは反論できなかった。殆ど戦闘や戦術の知識がない彼女達でも雅の行動倫理はある程度理解している。それがある程度理解の及ぶイツキなら尚更だった。

雅は……何かあれば率先して向かっていく。例えそれが自らを死に追いやる選択だとしても。それは、1発背に銃弾を受けていても尚囮を引き受けたのが何よりの証拠だ。

 

「……雅さん」

 

 イツキを含め、その場にいた全員が息を飲んだ。雅が銃弾を食らっていた事。多数の敵に追われている事。あらゆる要因を含め、元からある信頼も重なり、平常心を奪うには十分だった。

 

 

 

 

 「あそこだ!」

 

「動くな!」

 

予測は甘かったと言える。創作地点を大幅にずらしたと思っていたが、少数は元の地点に残っていた。この組織を管理する指揮官は余程有能化、運がいい。

 

「――はぁっ!」

 

 銃を持つ敵を優先的に攻撃しながら、俺は度重なる戦闘を乗り切っていた。殺す訳ではない。出来る限り気絶や捻挫、酷くても骨折に努め殺すのは最小限に留める。それでも危ない時は図らずとも死者が出る。

いつもよりも気を張り、隠密性も捨てて息の上がった状態で斧を振るう。その度に昔習った剣道と同じ掛け声が出ていた。

 

「退け、お前では相手にならん」

 

 近接武器を持つ敵は戦意を喪失するとは言え、生きて返す以上情報は漏れる。見敵必殺と心掛けたのに出来る限り不殺を心掛けるのは情けか、己の甘えか。どちらにしろ不利な事に変わりはない。

報告される前にその場を移動しようとすると新たな敵に発見され、戦闘になる。それに逃げる為にまた殺さず……繰り返しだ。

 敵は常に2人で行動している。編成は必ず拳銃と近接武器。発砲前に警告は欠かさず、静止してないと確認を取ってからハンマーを上げる。……明らかに統率されている。それも、かなり影響力の高い人物だ。

 

「はぁ、厄介な」

 

 上手く統率しているヤツが上に居る限り、部下もレベルが高くなる。上には必ず幹部が付き、下っ端に命令が行くまでに図らずとも命令は簡略化、もとい修正される。

だからこそ、こいつらは行動こそ少しだけ先回りする事が出来る。道なき道を行く、その手段は潰された。道と家屋の壁を抜ける方法を失った今、残るは……

 

「屋根か、地中か。この地域は地下鉄がないから、残るは屋根……難しい」

 

 生憎俺は極端な高所恐怖症だ。自分の身長を含め3mでも恐怖を感じる。もっと言えば、2mの時点で微かに跳ぶのも躊躇われるのだ。自分の身長+30cm……なんとも言えないボーダーに屋根を伝う手段は途切れる。そもそも屋根を使えば降りる場所や発見される確率も上がる。特に今回は避けた方が良い。

 適度にルートを変えながら目的地まで進もうとするが、その途中まで前とは違いことごとく発見されてしまう。まるでいちいち民家の庭に人を置いている様な、そんな錯覚をするくらいの頻度だ。

 

「ほ、本当にきた!」

 

「動くなよ!! ゆっくり立って武器を捨てろ!」

 

 諦めて投降する姿勢を見せながら、隙を見て拳銃を持つ人員の腕や手首を叩いて回る。銃器をすべて回収していたら今頃どうなっていたか……今更損得勘定なんてしたくないが、余裕のある時に何発か抜き取ってはいる。大元となる銃器も1丁はバッグに仕込んではいるが、これ以上は重量の関係から難しい。

必死に命乞いをする敵に蹴りを入れて気絶させると、そのまま逃走する。

 今手元にある「.38Spl」弾は20発ちょっと……本体に装填されている分も含めて人間を相手にする余裕はある。ただ片手と、全く扱った事のない銃というハンデが大きい。

それに何より、武器で人を打った感触もないまま人を殺す事に慣れてしまったら……俺はただの殺人鬼か殺しを楽しむ狂人になってしまうんじゃないかと思う。

 ここは少し無茶をしても枷を嵌めなければならない。俺に何十発と撃ってきたこいつらでさえ、人を撃つ事には躊躇って見えた。だからこそ俺はこうして生きている訳だが……そんな甘さも、捨てるべきなのかどうか悩む。

 

「うわあっ!? で、出たっ!?」

 

「騒ぐな」

 

 道に出た瞬間1人の男と遭遇し、逃げられる前に柄で足を払い転倒させる。周囲に人影はなく、はぐれてしまったのかこいつは1人で移動していたらしい。

ぶつけた後頭部をおさえて悶える男の足を掴み近くの建物の影に引きずり込むと、斧からナイフに持ち替えて首筋に突きつけた。

 

「1人か? お前達は何故そこまでして俺を追う。心当たりがない訳じゃないが、流石にやり過ぎだろう」

 

「ひ、1人じゃない! 近くに仲間が沢山いる!」

 

今にも死にそうな顔で答える男は目を見なくても虚勢だとわかった。こいつがどんな動きをしていたのかはわからない、だがあそこまで2人組にさせていたのに、こいつだけ1人で行動しているのはどう見ても異質だ。

 服装を見ても代わり映えもしなければどこか洒落てる部分もなく、寒さを凌げれば何でもいいという恰好だ。右腕には色落ちして最早元は何色だったのかわからない腕章。

 俺ですらある程度地味な色合いにしているとは言え趣味でコートを着ているが……こいつ、さてはカーストが低いな。

 

「じゃあ急がせて貰う。もう一度だけ聞く、何故こうまで必死に追い掛ける」

 

ナイフの側面を首に当ててやると、びくっと震えてからゆっくりと口を開き……話し始める雰囲気になる。

 

「お、お前が……感染者だから。片腕で斧を持ったコートの男、俺達がずっとそいつを探してた……」

 

「……何故俺が感染してると」

 

「お前から話したんじゃないのか? 避難所に受け入れて貰えず、お前は行方を眩ませた。でもその後、ランダルの社章を付けた研究員がきて……過去に噛まれても生き残っている奴がいれば、差し出せって」

 

「見返りは?」

 

「もっと安全な場所と、食料の提供……」

 

 ―――なるほど。だから躍起になって俺を追うのか。統率された男達も異常とも言える先回りも、それを成す士気もこれで納得できる。だが、問題はこの追跡力の高さだ。最初は痕跡も残さない様に移動していたのに、奴らはほぼピンポイントで網を張ってきた。それを可能とするのは……

 

「どうやって俺の動向を掴んでいる」

 

「……お前の事をよく知ってるヤツが、参謀だからだ」

 

「――なに? ……まさか」

 

 俺の事をよく知る人物。それだけでほぼ特定できる情報は、なんとも信じ難いものだった。……俺は昔から人と関わる事を苦手としていた。引っ越しや転校も多く、深い所まで知り合った仲はそうそういない。

そして俺の行動を戦術的に先読みする程の理解と、拳銃の使用許可まで出し2人組を徹底させる用意周到さ。……間違いない。

 

「……まさか、“忍”(シノ)?」

 

「そうだよ……! お前のその腕をぶった切った奴だ! 恨んでるんだろ? 噛まれたから、腕を切り落とされたんだろ? 麻酔も無しで!!」

 

「恨んでなんかいない、むしろ罪悪感すら感じる。腕を切断しろと言ったのは俺自身だ――ちょっと位置はズレたが、今も感謝している」

 

 恨むものか。あいつには辛い思いを散々させてしまったが挙句、果てには俺が死んだと嘘を伝えて去ったのだ。……と言う事は、伝言係はきちんと仕事をしなかったか。事後の守秘義務までが嘘の伝言の要だと言うのに。

 

「なるほど、大体わかった。最後にお前がどういう役割なのか。ついでに俺の動向をどこまで掴んでいるか教えてほしい」

 

「お、お前が他の生存者と一緒にいるという事はわかってる……車のある場所も。今頃別動隊が確保しに行ってるよ……」

 

「ほう、一応聞くが車の場所は河川敷近くの空き地か」

 

 男は小さく何度も頷くと、冷たい殺意から逃れようと身をよじる。あぁ、こいつがどういう役割なのか聞いてないが……まあいいだろう。

瞬時にナイフを逆手に持ち替え、ガラスブレイカーとしての役割も持つ柄で顎を打つ。ちょっと強くやり過ぎた感じもするが、狙い通り白目を剥いて眠ってくれた。

 起きない内に上着のポケットを漁ると、中からじゃらじゃらと弾丸が出てくる。だがその弾はどれも一見「.45ACP」に似ているが、そのどれもが一回り小さい。

 

「……? なんだこの弾?」

 

底部を見ると、少々汚れているが.32……と刻印されているのが見える。そこでやっと「.32ACP」弾だと気付いた。もしやと思い男の腰にあるポーチを漁ると、金属質の物が触れる。

 それをゆっくり引き出してみれば―――黒星か? 後ろ側が丸みを帯びた特徴的なフォルム。でもフロントを見るときゅっと引き締まっていて、いかにもガバメントだと言える形状ではない。

頭の中で知り得るすべての拳銃を思い出していくが全く心当たりがない。観念して銃本体の刻印を見ると、ブローニングと刻まれている。

 ああ、昔警察が採用していたM1910だ。今じゃ殆どスクラップになっていると思ってたが、運よく免れたのか、予備役として保管されていたのか。どちらにしろ今の俺には大変ありがたい自動拳銃だ。

 

 少し時間を食うのを承知でバッグから銃撃で穴の開いた缶詰や工具、その他あまり必要じゃない物を切り捨ててポーチからバッグへと荷物を移すと、すぐ抜ける位置に銃をしまう。マガジンは3本……予備弾薬は30発以上。これだけでも大漁と言える。

問題はこの後撃ちまくる状況になるかもしれない事だが、流石に自動拳銃を向けたら投降してくれるだろうか? ……流石にそんな甘い状況はないか。

 

「うーん……」

 

 痣になった部分を押さえながら悶える男。俺はすぐさまその場を去り、3本道を横断してまた家屋の敷地を乗り越えていったり潜ったりしていく。流石にブロックを変えれば対応できないのか、待ち伏せどころか巡回すら遭遇する事はなかった。

その分、また別の脅威と鉢合わせる事にはなるが……銃を持っているかよりはマシだ。最近は俺も気配を消すのに慣れたのか、感知される前に潰せるようになってきたしな。

 

 

 

 悠里達はいくらか時間を掛けて、待ち合わせ場所であるスーパーに到着した。決して目立つ場所ではなく、いくつか車が放置されている区画に車を停めて近くにあったボロボロのブルーシートをフロントに被せると、胡桃はスコップを、イツキは銃を持ってそれぞれ周囲の警戒へ出た。

 

「……悠里先輩、雅さん撃たれてるって、言ってましたよね?」

 

「ええ、言ってたわ。走れるなら大丈夫だとは思うけど……もしかすれば」

 

「そう、ですよね。出血が多ければ……雅さんならそのくらいわかってるでしょうけど、追われてる身じゃ」

 

 イツキが持ち帰った折り畳み式のナイフを手に、悠里は入口の近くにある椅子で顔を伏せていた。美紀の声も、由紀のすすり泣く声も、どこか上の空で……必ず生きて帰ってくると思いながらも不安になってしまう。

 信じていない訳じゃない。それどころか今までの誰よりも強くて、堂々とした人だと思う。それが表面上の、取り繕ったモノでも……そうあろうとすることに意味があると思う。

でもそんな人でも限界はある。刃物で切れば怪我をするし、血が出る。血が沢山流れれば貧血にもなるし、いつか死んでしまう。

 

「……ちゃんと、止血してるわ」

 

「はい……ライターで炙って無理矢理止血したりしてそうですけど……背中じゃ無理ですよね」

 

「火は……あの人火は怖がってたから。もう――覚えてないでしょうけど」

 

 いくらか短い時間でも、すごく濃密な過ごし方をしていた。それなのに、彼は殆ど覚えていない。兆候はあった……つい昨日のことまで忘れていた日もあった。その度に、私達は彼に合わせていた。

原因はわからない。もしかすれば由紀ちゃんみたいに、何かから逃げているのかもしれない。……でも、忘れがちになったのは確実に“あの日”からだ。

 あの日、遠藤と出逢った彼は……あの男の最期の言葉で我を失った。私も人の事は言えないけど……私自身の行動も引き金になったのだろう。でもああしなければ、あの男は彼を殺していたかもしれない。

 結局とどめを刺したのは彼だけど、あの感覚は今もこの手に残っている。引き抜く時の柔らかさと言い、流れる血の温かさは……少しだけ―――

 

 その先が頭の中に現れる瞬間、扉が勢いよく開け放たれる。彼が帰ってきたとすぐさま頭を上げるが、車内に入ってきたのは見た事もない男の人だ。

 

「……どうも、ちょいと邪魔するぞ。俺は“忍”、以前雅と一緒に行動していた―――まあ、親友、って言えばいいか? とにかく元仲間の1人だ」

 

「雅……さんの?」

 

あの人と同じく灰色のコートを着たその男は、彼の物より綺麗なコートのポケットから煙草を1本取り出すと、昔ながらのライターで火を点ける。そして深く息を吸うと、白く煙たい息を車内に充満させた。

 

「あ、此処禁煙か? 禁煙なら悪い、この1本だけ吸わせてくれ。朝から吸えてなくてイラつき始めてたとこなんだよ」

 

「仲間って、本当ですか」

 

 美紀がナイフを手に一歩前へ出ると、忍と名乗った男は眉を寄せる。……仕草や話し方が少し似て……似てるどころか、殆ど共通している気がする。掴み所のない雰囲気とか、視線の動かし方。でも一番はその背にある武器。

 

「ああそうだ、あいつは俺と同じく元々この街の住人じゃない。あの時偶然旅行にきてたんだ。他にももう1人連れてな」

 

「……そのもう1人は今どこに?」

 

「避難所にいるよ。定員間近で不要人員の切り捨てが始まっててな、でもあの人はすごいデキる人だからそうそう切り捨てられないだろうけど。ま、とにかく元気でやってる」

 

「じゃああなたは……何をしにきたんですか」

 

「あいつを連れ戻しに来た。感染してもなお、理性を保ち”成らない”人間。いわゆる『抗体持ち』でなぁ……今の人類には必要不可欠なんだよ」

 

 ならない? 聞き慣れない言葉を聞いて、どこにも主語がない事に疑問を抱く。そういえば、彼も私達と会った時に言っていた気がする。……次に会う時は、なった時かもな、とか。

なる、というのがそもそも何なのか。言葉の前後からゾンビ化だとはわかるけど……もしかして彼らはあのゾンビの事を深くまで解明しているんだろうか。

 そう考えてもおかしくはない。なんせ感染法から進行の症状まで事細かに研究していた人の仲間だ。どんな実験や観察をしていたかはわからないけど、人より多く知っていたとしても特別驚かない。

 

「抗体……?」

 

「あいつはゾンビ化のウイルスに対して抗体を持っている。……ワクチンを手に入れ、接種したからな」

 

「え!?」

 

 私と美紀は同時に驚きの声を上げていた。……彼が、ワクチンを打っている。それがもし胡桃が打った物と同じだとしたら……抗体を持つ人間を狙うこの人達にとって狙いは雅さんだけじゃない。もし胡桃が状況を見て、打開する為に突入して来たら……取り押さえられたらきっと身体検査も受ける。右腕の傷は一瞬でバレるてしまう。

 

「あいつが今どこにいるかわかるか?」

 

 落ちそうになった灰を慌てて携帯灰皿に落としながら聞いてくる男に対して、私達は首を横に振った。

 

「……そうか。なら少し待たせて貰ってもいいだろうか? どうせこの場所も知らせてるんだろう、あの怖いお子さんもそこそこ頭が良いらしいしな」

 

「まさか、イツキ君を……」

 

「捕縛した。かなり物騒な物も持ってたからな。……ったく、雅も馬鹿やるなぁ。聞けば銃相手に格闘戦挑んだらしいじゃないか……流石にヒヤッとしたね、死なれたら困るのに」

 

「そんな彼を撃ったのでしょう?」

 

「当てるな、とは言ってたんだけどね。まあ人間ミスは付きものさ、あいつも9ミリ弾で死ぬタマじゃないだろ」

 

 へらへらと笑う男には、信頼かただの楽観視かわからない意思があった。やがて火を消した吸殻を灰皿に入れてまたポケットに突っ込むと、その際にちらりとコートの下にある物体に悠里が気付く。

 

 ……あれは、もしかして銃? 雅さんなら今の一瞬でもどういう銃なのか判別できるんだろうけど、私じゃさっぱりわからない。でも相手が銃を持っているのなら……今の私達じゃ分が悪い。散弾銃もイツキ君が持ってたし、距離が近くても外にもいっぱい人がいるかもしれない。

 

「無理言うけど、怖がらないでくれると嬉しいね。俺も雅さえ連れ戻せばすぐに帰るよ」

 

「……みゃーくんは、連れてかせない」

 

 私達の寝室から由紀の声がした。涙ぐんだか弱い声に、目の前の男も特に警戒する事なく見やる。

 

「はっ!? バカッ!!」

 

すると男は瞬時に横っ飛びで車の外へ飛び出すと同時に、周囲に居たらしい人達を集め始める。

 何事かと思い由紀ちゃんを見ると―――その手には大きな拳銃が握られていた。

 

「由紀先輩!? いつの間にそんな物……」

 

「みゃーくんに教わったの、銃の撃ち方と、人に向ける時の方法」

 

「ダメよ由紀ちゃん! 銃を置いて!」

 

「いやだっ! みゃーくんと胡桃ちゃんがいなくなったら、私がみんなを護るんだって……約束したから! ………でも、これほら。オモチャだから」

 

 最後だけ小声で銃を軽く振って見せた由紀ちゃんは、指で大きな回転部を小突く。するとそこからはなんとも安っぽいプラスチックの音がして、明らかにオモチャの銃だとわかった。

 

「……え?」

 

「……これも教わったんだよ。銃の事知ってる人はこれを見せると逃げるんだって」

 

「そ、そう……なんだ」

 

満面の笑みで銃を構えて見せる由紀を前に、2人はただ唖然とするしかなかった。

 

 

 その頃、雅は目下女性陣の救出任務に掛かっていた。水面下で遂行されているその作戦は、由紀に合図を出す事から始まる。時刻は午後4時近く、陽は段々沈み始めている。それを利用して、車内で見知らぬ男の登場で戸惑い偶然外を覗いた由紀にペンライトで信号を送ったのだ。

 

―――ガンバレ、ナントカナカニイルヤツヲソトニダセ。

 

(……チカチカしてる。はっ、これはモールス信号!? すごい、みゃーくんモールス信号もできるんだ! でも私よくわかんないや、胡桃ちゃんならわかるかもしれないけど……いないし)

 

由紀はさっぱり理解せぬまま、小さく指でまるを示す。

 俺はそれに対し渾身のグッジョブを送ると、そのまま次の行動へと移っていた。

 

 イツキは捕まっている。見張りは2人……どれもサクラで武装してはいるがアーマーは着ていない。しかしどいつも黄色い腕章を着けてるな……何か他とは違うのか?

胡桃がどこにいるかわからないが……車の中かもしれない。けどイツキだけ外で監視してたのか? あり得るっちゃ断然あり得るが、別れ際のあの調子だと胡桃も外に出てる気がする。

 まあどちらにせよ銃を持った相手にシャベル1本で突っ込ませる気もないし、むしろいなくて好都合か。まずは見つからずにイツキを解放してサクラを持たせて、なんとか戦意を削げば勝てる。ただ問題は忍がこの追跡部隊を率いてる事だが……まさかここにはいないよな?

 あいつなら絶対戦意を失ったりはしない。それどころか俺の行動なんて筒抜けもいい所だ。……あいつの腕前的にも、距離が近ければ人質を取っても狙撃されかねない。

 

「バカッ!!」

 

「!?」

 

茂みからじっと機を伺っていた所に、車内から見覚えのある声を上げて1人の男が飛び出してくる。

 

「全員車を囲め!」

 

 その号令と共に周囲を見張っていた全ての人員が慌てふためきながらキャンピングカーを囲い始め、イツキの見張りについていた2人も例外なくその包囲に加わった。

何が起きたかは知らないが、これは間違いなくチャンスだ。今の内にイツキを解放して……解放して、どうしようか。

 と言っても車に銃を向けて包囲しているこの状況がずっと続くとは思えない。長くても5分であの男……よく見れば、あれは間違いなく忍だ。あの銃の構え方、基本とも言える構えを踏襲したあの構えは―――昔と全く変わっていない。

 

 音もなく移動し、スーパーの敷地をぐるっと回りイツキの捕まっている正面にある植え込みに辿り着く。舌打ちして注意を引くと、ちらりと顔を覗かせてイツキと目を合わせた。

 

「雅さん……っ!」

 

「静かにしろ、今拘束を解く。……自由になったら店に駆け込んでくれるか? 上手く注意を引いてくれれば後は俺がやる」

 

「で、でも銃を取られて……」

 

「大丈夫だ、替えは持ってきた」

 

 視線が完全に逸れているのを見計らい、木陰からイツキの手足を縛る結束バンドを切る。そして自由になった所で、バッグからサクラと10発程予備弾薬を持たせた。

 

「出来る限り殺すなよ。……行け」

 

「はいっ……」

 

 俺が完全に木陰に隠れたのを見計らうと、イツキはわざと音を立ててスーパーの中へと走っていく。それに気付き、1人が警告もなしに発砲した。

 

「許可なしにぶっ放すな!!」

 

忍が頭をはたいて止めさせる。幸いにも命中弾にはならなかったようで、弾は向かい側のコンクリ塀にめり込んでいた。ただ偏差がもう少し精確だったなら……もしかすれば死んでいたかもしれないが。

 

「2チームで捜索に当たれ、残りはここを制圧す―――」

 

 命令の途中で申し訳ないが、どちらにも行かせる訳にはいかない。とっておいた.308Win弾の薬莢をスナップを利かせて明後日の方向に飛ばすと、ほぼ駐車場の反対側だというのにここまで気持ちいい金属音が聞こえてくる。

 

「薬莢……7.62か?」

 

聞き覚えがあるだろう音に忍が振り返った瞬間―――俺は走り出す。誰よりも速く、静かに……ほぼ直角の位置からも同タイミングで胡桃も走り出しており、途中で目が合う。

 

「忍っ!!」

 

 胡桃に気付き銃を構えようとする忍に声を掛けて、少しでも思考を乱そうと足掻く。迷え、お前ら「色持ち」も、忍も。

何の意図か、ルーマニアの国旗と同じ配色をした腕章をする忍は俺に銃を向ける。……だが、案の定引き金は引かれず、そのまま俺のラリアットを食らい地面に倒れた。

 

「全員動くな!! 銃をゆっくり地面に置け、変な動きを見せればこの足元に転がってる奴が死ぬぞ。勿論俺を撃てば、さっき逃げた奴が撃つ。銃はもう渡してあるからな」

 

「相変わらずだな、雅……でも下が硬い場所でラリアットはやめてくれ」

 

「受け身取れただろ、訓練の成果だな」

 

「背中いてぇんだよ」

 

「俺だっていてぇよ撃たれてんだぞこっちは。まだマシだろ、湿布でも貼っとけ」

 

「はい、全員武装解除で。雅がハンドガン持ったら例えショットガン持っても勝てないから」

 

 他ならぬ忍が銃を置いて両手を上げると、その場にいた色持ち達も続々と武装解除していく。

 

「はぁ……じゃあ、話聞かせて貰おうか。周りのは抜きでな」

 

「……そうだな、久し振りに―――」

 

 ゆっくりと起き上がった忍は、銃をホルスターにしまうと痛むらしい背中をさする。

 

「―――昔話でも、しようか」




通常より1.5倍の文字数でお送りしました11話です。今日から手放せない要件がいくつか重なり、いつもより駆け足で更に駄文が加速しています。

急に出てきた以前の仲間。そしてその仲間だった忍が率いる銃を多数所持する一団は思いの外話の通じる相手だったようです。

さて、ここで今作のどこかでまた登場するかもしれない「色持ち」について適当に書こうかと思います。

元々雅が率いていたグループは個人ごとに色を持ち、それを尊重していました。待ち合わせ場所や暗号など、それぞれの色を使って誰のモノかを示していたのです。
そこから雅は特に自分の色や固有の特徴を持つ人間には親身になったり興味を示すようになっています。
スコップや帽子、スカートの下に覗く挑戦的な紐とかカーディガンだとか。

そんな学園生活部だからこそ、魅力的な風貌も含めて彼の興味を惹いたのかもしれません。

みーくんのアレは初見は引くレベルで驚いた。そんな大人びた女子高生なんかいるかよ、と。でもよくよく考えてみれば、アレよりもっとすごいのは他にいっぱいいました。我妻さんとか。

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