体に力が入らない。記憶喪失の俺、『木村 攻斗(きむら こうと)はベッドの上にいた。 ...え?また?全然覚えてないんだけ...ど?ベッドの横に視線を向ける。
俺のベッドの横には『邪堂 心(じゃどう こころ)』が座っていた。心は本を読んでいて俺には気付いていないようだ。
回想中...
お、思い出した。確か瞬が心のビックスクーターを薙刀でぶっ刺して、なんだかんだで全部俺のせいになって近くにあった手頃な石で心に頭を殴打されたんだった。...恐っ!!!
なんでこの娘、あたかも看病してるかの様に横に座ってるの?恐っ!!!
心がこちらに気付き野太い声で一言。「良かった、無事で」いや、お前が言うな!なにをさらっと言ってんだ!
続ける心。「意識が戻ったんですね。攻斗さん。大丈夫ですか?わたしのことわかりますか?」わかるに決まっている。『修羅』だろ?ていうかあなたが俺を気絶させたんでしょ?取り敢えず質問に答えよう。
「修羅?」すかさずアイアンクローが飛んで来る。痛い。俺いくらなんでも散々すぎるだろ?さすがに怒るよ?
「いや、心ちゃんが石で殴ったからこうなったんじゃん!」迫真。
「石?」疑問の表情を浮かべる心。え?覚えてないの?恐っ!
続ける心。「攻斗さん、覚えてないんですか!?攻斗さんはわたしが殺る前に突然倒れたんですよ?」もう『殺る』って字がおかしいじゃん。あれ?じゃあ俺なんで倒れたんだ?
心に尋ねる。「じゃあ、俺なんで倒れたの?」
「さあ?」まあ、そりゃそうか。...ん?なんか後頭部に違和感がある。ていうか後頭部が痛い、ヤ
バイ尋常じゃないくらい痛い。なんで?後頭部に手をあて確認してみる。
...な、なんか刺さってるー!!!しかもそこそこ大きい物体が。なにこれっ!?痛い!痛い!マジ痛い!つーか、ベッドに寝かせる前にまず抜いて手当てしてくれよ!
「心ちゃん!俺の後頭部、なんか刺さってるよね!?」涙目で訴えかける。
「え?」俺の後頭部を確認する心。気付いてなかったのマジで?いや、まさかね。
「あ、本当だ」気付いてなかったんかい!ところでなにが刺さってんの?滅茶苦茶痛いんだけど!
「心ちゃん、俺の頭に刺さってるのなに!?早く抜いて!」
「カブトムシ」と心。
すまない。よく聞こえなかった。
「...はい?」聞き直す。
「カブトムシ。あ!オスのほうです」
いや、オスかメスかなんてのはどうでもいいんだよ。なんで俺の頭にカブトムシが突き刺さってるの?ていうか俺の頭にカブトムシ刺さってるのにそれに気付かなかったって心ちゃんすごいな!ところで頭にカブトムシが突き刺さってるってなに?もう!涙美も瞬も見当たらないし、怖いから触れないでいたけども七面(はと)も見当たらないし。この状況はなに!?わからん、わからんよくわからん全然意味がわからん。パニックだ。で、なんで心ちゃんはカブトムシを抜いてくれないの?
ガラガラッ!
俺がパニックになっていると部屋の扉が勢いよく開いた。
姿を見せたのは涙美と瞬だ。七面(はと)は?
ん?後ろにもう一人いる。見たところ普通の男子高校生か。なんかどっかで見たことある気がするか気のせいだろう。もう、なんでもいいから俺の後頭部にいるのを誰か抜いてくれ。
するとその高校生が俺を見て一言。
「すみません、まさかこんなことになるなんて...」
...いや、まず君は誰?
つづく