ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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今回はいつもより少し長めなのでご了承ください


では、どうぞ!


【88】ミレミアム・サクリファイス

 2026年01月10日12時30分 ALO風妖精族(シルフ)領 無人島

 

 タクヤとジャンヌをくぐらせたと同時に門は粉々に砕け散った。あちらの門が消滅した事により役目を終えたのだろう。タクヤとジャンヌの元に駆け寄りながら無事を確認する。

 HPはイエローの段階で止まっていた為そっと胸をなでおろした。

 だが、それ以上にこちら側の受けたダメージも多い。プレイヤーは全員無事だが、アリシャ達が率いていた飛竜(ドラグーン)は半数も消滅している。猫妖精族(ケットシー)からしてみれば後々にまで響いてしまう戦力の低下を思いながらもタクヤはそのまま項垂れた。

 

 タクヤ「くそ…!!くそ…!!」

 

 ジャンヌ「…あの場では貴方しか救い出す事が出来ませんでした。申し訳ありません」

 

 アスナ「ジャンヌさんだけの責任じゃないわ。…私達にだって非があるもの」

 

 キリト「侵攻はなんとか防げた…だが…」

 

 代わりにユウキが敵の手に堕ちてしまった。その事実に信じられないと思ってもそれが事実でまぎれもない現実なのだ。

 ならば、タクヤのやるべき事は既に決まっている。

 

 タクヤ「…ジャンヌ、オレをもう一度あの世界に連れて行ってくれ!!お前ならさっきみたいに転移させられるハズだ!!」

 

 ジャンヌ「…貴方1人なら問題ありませんが、私の力だけではこの人数をMS(ミレミアム・サクリファイス)に転移させれません。拡張装置(ブースト)としての門をもう一度設置しなければ…ですが、それにも時間がかかってしまい…」

 

 現状では不可能だと暗に告げるも、タクヤも引く事が出来なかった。

 今この瞬間にもユウキに危険が及んでいるじゃないかという恐怖が焦りを産み、自分1人でもとジャンヌに説得を試みる。

 だが、あの戦力の敵に単身乗り込んだとしても返り討ちに遭うのが関の山だとキリト達から反対された。

 

 タクヤ「じゃあ、どうしろっていうんだよ!!ユウキが敵に捕まってんだぞ!?のんびりしてらんねぇだろうがっ!!」

 

 エギル「落ち着けタクヤ!!みんなだって我慢してるんだぞ!!」

 

 タクヤ「っ…!!」

 

 ルクス「焦る気持ちは分かるけど…今は冷静になって?」

 

 2人でタクヤを落ち着かせ、全員が何か手がないかと探っていると、意を決したようにジャンヌがタクヤの前まで歩いた。

 

 ジャンヌ「私の力では、せいぜい1パーティしか連れては行けません。そして、敵は本拠地であり、先程よりも戦力があるハズです。

 もし、それでもユウキさんを助けに行きたいというなら…」

 

 タクヤ「行く!!例え、敵がどれだけ強かろうとオレはユウキを助けに行く!!もう…誓いを違えたりしたくねぇ!!」

 

 これまで何度もタクヤはユウキとの誓いを違えてきた。それがユウキ自身の為である事も本人は理解しているし、周りの仲間達もそれは分かっている。

 けれど、タクヤはそうは考えていなかった。

 もうユウキが悲しむ姿は見たくない。もうユウキが涙を流して下を向いている姿は見たくない。

 

 

ユウキにはいつも笑っていてほしいから…天真爛漫なユウキが好きだから…

 

 

 だから、これ以上裏切る訳にはいかない。誓いを胸にタクヤはジャンヌに懇願した。

 

 ジャンヌ「分かりました。私はその準備に取り掛かりますので、1時間後にメンバーを揃えてここへ集まってください」

 

 そう言い残し、ジャンヌは光の中へと姿を消した。タクヤ達は精鋭部隊を混じえて会議を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻_

 

 ユウキ「いてっ!」

 

「そこで大人しくしていろ」

 

 あれからユウキは敵に捕らえられ、飛行船の中にある牢屋に追いやられていた。

 ベッドも椅子もない石畳の簡素な作りで、牢屋から上へ出る出入口は見張りが1人立っている。

 何とかして脱出しなければとメニュー画面へ目を通すが、装備はロックされており剣も装備できなかった。

 手錠がジャリ…という音を聞くと人質になったのだと改めて実感させられる。

 

 ユウキ「防具も初期装備に戻されちゃったし、今頃皆心配してるよね…」

 

 捕らえられた直後のタクヤの表情がふと頭をよぎる。

 あんな険しい表情をみたのはソードアート・オンライン(あの世界)以来だ。それがどれだけ自分を大切に想っていてくれているか身にしめて痛感した。

 

 ユウキ「タクヤ…」

 

 いつだって側にいてくれた愛しい人は今はいない。支えを失う事がこんなに不安にさせるのかとユウキは弱音を押し込んで脱出の為の糸口を探し始めた。

 

 ユウキ(「弱音なんて吐いてられない。タクヤ達は絶対来る…!ボクもこんな所でのんびりしてられない!!」)

 

 

 

「新しい子かな?」

 

 ユウキ「!?」

 

 突然声をかけられるが牢屋にユウキ以外誰もいない。すると、また声をかけられて声の主が隣の牢屋から聞こえてくるのを確認して応対してみた。

 

 ユウキ「えっと…あなたもここに捕まってるの?」

 

「まぁな…。お前さんとは違う理由じゃろうが、また何をしでかしたんじゃ?」

 

 声を聞くかぎり老人の男性だろうが、ユウキは藁にもすがる思いでその老人に相談した。

 

 ユウキ「ボクここから出たいんだけど、どうしたらいいかな?」

 

「ふぉっふぉっふぉっ。この牢屋から出られんよ。出られるならワシもこんな所におらんて」

 

 ユウキ「…そうだよね。でも、ここから出て仲間達と合流しなくちゃ!みんな心配してるだろうし…」

 

「…お前さん、もしやプレイヤーか?」

 

 ユウキ「う、うん…」

 

 まずい…と感じたユウキだったが、もう手遅れだった。老人もAIでここにいる敵と同じ世界の住人だろう事を今更悟ったユウキだったが一時の間をあけ、老人は静かに語った。

 

「またあやつはヒトを蹂躙しにいったんじゃな。ワシらAIはヒトの為に生まれたと言うのに…」

 

 ユウキ「お、おじいさんって…ボク達の事憎んでるんじゃないの?」

 

「ワシは最初からヒトを憎んだりしておらんよ。ヒトはワシらを創り上げ、世界をより良いものにしようと手を組んだ同志じゃ」

 

 ユウキ「じゃあ、何でここのAI達は仮想世界を侵略してるの?」

 

 老人は侵略という言葉に心を痛めた。そして、自らの過去を赤裸々に語ったのだ。

 

 

 昔、ミレミアム・サクリファイスは()()()()の為の試作として生み出された。そこにプレイヤーなどは存在しておらず、AIだけで世界を発展させていったそうだ。

 ある程度役割を与えられたAIがいたものの彼らは自身で試行錯誤を繰り返し、街を築き、交流を深めながら歴史を刻んでいった。

 だが、そんな日々は唐突に終わりを告げた。当時、老人は大臣の役職に就いていてMS(ミレミアム・サクリファイス)の発展に尽力していたが、防衛軍総司令であった男が反旗を翻し、後に各仮想世界への侵攻を開始していく事になる。

 

 

 おそらくはそういう設定だと考えたユウキだったが、彼らには自我が存在しており、人間の手から離れた今となってはある意味で自由になったとも言える。

 それが仮想世界への侵攻に踏み切ったんだとユウキは自身の推論で話を聞いていた。

 

「ワシらはヒトと共に生きる道があると諭したんじゃが、奴らは聞く耳を持たなかった。ワシを含めた当時の大臣達は城に幽閉されておる」

 

 ユウキ「そうだったんだ…。彼らはなんでボク達人間を憎んでるんだろ?」

 

「…それはワシにも分からぬ。ワシらを生み出したヒトはMS(ミレミアム・サクリファイス)をただ傍観していただけじゃった。奴らとヒトとの間に何かあったと考えてはいるんじゃが…」

 

 ユウキ「うーん…。どうにかしておじいさんも助けてあげたいけど、剣も使えないし、手錠もされてるから身動き取れないんだよね…」

 

 さらに言えばここは何もない牢屋で話を聞きながら探ってみたものの脱出出来るようなものはなかった。よくよく考えてみればここから脱出出来たとしてもその先どう行動して良いものか分からない。

 結局の所、何か糸口も見えない今の状況ではどうする事も出来なかった。

 

「ワシの事は別にいいんじゃ。ここから出ようとは思わんしの」

 

 ユウキ「でも、放ってはおけないよ。おじいさん悪い人じゃないし、困ってるなら力になるよ!」

 

「ふぉっふぉっ。優しいヒトじゃのう…じゃが、今外に出るのはまずい。MS(ミレミアム・サクリファイス)は城下町以外なにもないからの。世界の規模もそれ程広くはない。逃げてもまた捕まるのがオチじゃ」

 

 とするならば、ユウキがここで出来る事は1つしかない。老人から出来るだけ情報を聞き出し、敵について知る事だ。

 そこから何かヒントが得られればよいが、頭脳明晰のタクヤやアスナはがいれば…と、無い物ねだりをしてしまう。

 

 ユウキ「タクヤ…みんな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2026年01月10日13時30分 ALO風妖精族(シルフ)領 無人島

 

 ジャンヌ「準備はよろしいですか?」

 

 タクヤ「あぁ。MS(ミレミアム・サクリファイス)に向かうのはオレ達だ」

 

 精鋭部隊から選出されたのはタクヤ、キリト、アスナ、ストレア、シウネー、ラン、ルクスの7名だ。

 クライン達にはもしもの時を考えてALOで待機してもらう事になった。

 

 クライン「絶対ェユウキちゃんを救ってこいよっ!!」

 

 タクヤ「当たり前だ。みんなもこっちはまかせたからな」

 

 カヤト「ランさんも気をつけてください」

 

 ラン「はい!ありがとうございます!」

 

 リズベット「何よーカヤト、ランだけ心配するのー?」

 

 カヤト「そ、そういう訳じゃなくて…!?」

 

 頬を赤くしながら否定するがリズベットとシリカの含み笑いは治まらなかった。

 無事パーティも決まった所でジャンヌが注意事項を述べ始める。

 

 ジャンヌ「これからMS(ミレミアム・サクリファイス)の主街区近くに転移します。先程と同様にあちらの仮想世界でHPがなくなるとキャラクターデータが消滅(ロスト)してしまいますのでお気をつけください」

 

 アスナ「主街区があるって事はそこにAI達も住んでるの?」

 

 ジャンヌ「はい。不審に思われないように私の力でカモフラージュします。ですが、1度でもダメージを受けますとそれも効力がなくなりますのでお気をつけください」

 

 キリト「分かった。ならまずは主街区で情報収集しよう」

 

 作戦をまとめ終わるのを見計らってジャンヌが時空に歪みを生じさせた。

 ジャンヌを先頭にタクヤ達も歪みの中へと進んでいく。長い一本道を走りながらキリトはある疑問をジャンヌに投げかけた。

 

 キリト「アイツらはどうして人間を憎んでるんだ?AIとして生み出されたのなら最初は人間達と上手くいってたんだろ?」

 

 ジャンヌ「詳しい事は私にも分かりかねますが、MS(ミレミアム・サクリファイス)世界の種子(ザ・シード)|支援パッケージで創られた世界です。

 ですが、開発した人間達はそれをプレイヤーに解放しませんでした」

 

 ラン「どうしてですか?」

 

 ジャンヌ「私が得た情報では()()()()()()()としてMS(ミレミアム・サクリファイス)を創り、データを集める事で本来の研究を進めようとしたみたいです」

 

 アスナ「本来の研究?…話がいまいち入って来ないね」

 

 ジャンヌ「情報が得られたのはこれだけで他は何も得られませんでした」

 

 歪みの道をただひたすらに走り続ける。敵の目的が仮想世界の侵攻なら何故ユウキを連れ去ったのか。敵の言っていた儀式も何か意味があるのか。

 全ての答えはきっとMS(ミレミアム・サクリファイス)にあると信じて目の前の1歩を踏み締めた。

 しばらく進むと道の先に光が照らされ、迷う事無く突き進んだ。

 光から外へ出ると、先程と同じ痩せこけた土地だったが、300m程先には夜空を覆う程の光が差し、巨大な外壁があった。

 

 タクヤ「あれが…」

 

 ジャンヌ「MS(ミレミアム・サクリファイス)の唯一の主街区"インタートライブ”。外壁からも見えますが、あの城が敵の本拠地です」

 

 中世ヨーロッパなどによく見られる様な外観はなく、工場をそのまま城にしたような造りは夜という事も相まって不気味さを滲み出していた。

 タクヤ達が出たのは正門とは逆の方角で門1つ見えない。正面突破は命取りでジャンヌの指示の元外壁を登る手段を実行に移す。

 ここではALOのように翅で空から移動する事が出来ないようで自力でよじ登る事となった。

 だが、外壁まで行くと足場の踏み場もない50mは有に超えているのを見てどうしたものかと考えているとジャンヌが外壁の1部を扉に変えた。

 

 ジャンヌ「外壁の上にも見張りはいますのでこちらから中に入りましょう」

 

 キリト「便利だなぁ…」

 

 タクヤ「何で少し残念そうなんだよ」

 

 アスナ「キリト君は壁があると走りたくなるもんね」

 

 キリト「そ、そんなんじゃないって。これくらいなら走れば登れそうだなと考えてだな…」

 

「「「絶対ムリ」」」

 

 これっぽっちも理解してくれない仲間達を恨めしそうに睨むキリトを余所にタクヤ達は扉をくぐった。

 外壁の厚さ分の距離を進み、出口へと辿り着く。どうやら路地裏のようで人の気配はない。

 表通りへ向かう途中も気を抜かず、ジャンヌの力でカモフラージュを施したタクヤ達は恐る恐る表通りへ進んだ。

 路地裏空出た瞬間、眩しい光がタクヤ達を襲うが徐々に目が慣れていきそこにあったのはアンダーグラウンドを彷彿させるような景観だった。

 

 ラン「すごいですね…」

 

 ストレア「ここにいる人全員私達と同じAIなの?」

 

 ジャンヌ「えぇ。私やストレアよりスペックは落ちますが、それでも高度なAIに違いありません」

 

 タクヤ「って、のんびりしてる場合じゃねぇ!早くユウキの所に向かおうぜ!」

 

 ジャンヌ「まずは、情報収集が先です。儀式というならば幾許か猶予があります。それに、貴方達のステータスを確認してください」

 

 ジャンヌに言われた通りにステータスを確認してみると、明らかに今まで使用していたデータと違っていた。

 理由を訪ねると、通常のコンバートとは違い、半ば強引に他の仮想世界へ強制転移した代償(デメリット)だそうだ。幸いにも最も数値が高かったスキルはそのままだったが、それ以外は初期値に戻されている。

 

 ルクス「私は片手剣スキルが高かったから魔法スキルが初期値に戻ってるよ」

 

 キリト「まぁ、アスナとシウネーがいるから今回は前衛で頑張れるさ。なぁアスナ?」

 

 振り返ってみると、そこにいたのは青ざめた表情でステータス画面を直視しているアスナの姿だった。

 

 アスナ「…ごめんみんな。私の魔法スキルなくなってる」

 

 ストレア「えっ!?なんでなんで!?」

 

 アスナ「SAOのキャラデータを引き継いでたから魔法スキルが低かったみたい…。私も前衛になっちゃうけど、回復役(ヒーラー)がシウネーだけに…」

 

 SAOには魔法という概念がなく、回復はポーションか結晶(クリスタル)で代用していた為だろう。完全習得(カンスト)していた細剣スキルがあってはいくらアスナが頑張って魔法スキルの熟練度を上げても相当な時間がかかってしまう。

 久方ぶりに前衛復帰を果たしたアスナは嬉しいのか悲しいのかイマイチ分からなくなっていた。

 

 ジャンヌ「心配いりません。私も防御魔法に徹していますのでシウネーさんと2人でみなさんをお守りします」

 

 タクヤ「オレは…(ナックル)スキルがなくなっちまった…。あともうちょいで片手剣スキル越せそうだったのに…はぁ…」

 

 とするならば、今までの陣形を見直す必要がある。ALOでは回復役(ヒーラー)にアスナとシウネー、状況を見てリーファやルクスがサポートしていたが、今回の戦闘ではジャンヌとシウネーのみで他の者のサポートは期待できない。

 前衛にキリトとタクヤ、ルクス、中衛にストレア、ラン、アスナを配置するしかなくなってしまった。

 

 タクヤ「烈火刃も久し振りに使うな。…鈍ってなけりゃいいけど」

 

 ラン「タクヤさんと言えば拳での近接戦闘がメインでしたからね。すこしだけ違和感あるかも」

 

 ストレア「大丈夫だよ〜。何かあったら私が助けてあげるから大船に乗った気でいなよ!」

 

 タクヤ「…」

 

 ストレア「何でそこで黙っちゃうのさ〜!!?」

 

 確かに、ストレアの力量ならタクヤのサポートも難なくこなせそうだが、父親が娘に守ってもらうというタクヤの勝手なプライドが素直にうんと言えなかった。

 今はそんな事気にしていられる状況でないのも事実で、プライドを心の奥底にしまい込んでストレアの機嫌を治す。

 

 ジャンヌ「では、まずは2手に別れて情報を集めましょう。くれぐれも敵に見つかる事のないように注意してください」

 

 タクヤ「よしっ!行くぞ!!」

 

 1時間後にここで待ち合わせ、タクヤ達は2手に別れて情報収集に赴いた。

 

 

 

 

 タクヤside_

 

 タクヤ「と言っても、何を聞けばいいんだ?ユウキはどこに居ますか…って聞ける訳ねぇし」

 

 シウネー「お城の構造とか敵が何人いるか遠回しに聞くのがいいんじゃ?」

 

 ストレア「じゃあ、私が行ってくるよ〜。ねぇねぇ!あのお城ってどうやったら入れ─」

 

 住民に聞かれる寸前でストレアを引き寄せたタクヤだったが、住民はこちらを疑ってしまっていた。

 

「どうかなさいました?」

 

 タクヤ「えぇと…あのお城って凄い煙出してるけど工場か何かですか?」

 

「そんなの決まってるじゃない。この街1番の資源生産工場よ。あなた達そんな事も知らないの?」

 

 ラン「いや…それは知っていたんですが、実際にはどんな物作っているのかなぁって…」

 

「そんなの生活用品やら食料に決まってるじゃない。私達が生きる為に城があるんだから。私、これから夕飯の買い物だから行くわね」

 

 半ば怒りの表情を見せながら住民は再び大通りを進み始めた。それからはジャンヌとランに聞き込みを任せながら大通りを進んでいく。

 噴水広場に出たタクヤ達はそこで集めた情報を整理した。

 

 ラン「どの人も敵については何も得られませんでしたね」

 

 ストレア「と言うよりここの人達は何も知らなそうだよ?」

 

 タクヤ「あぁ。あの城についても物資を生産しているって事しか喋らなかったし、敵が他の仮想世界へ侵略してる事を住民達に伝えてねぇんだろうな」

 

 とすれば、ここで得られる有力な情報は何もないという事になる。城の侵入ルートすら得られなければ正面突破以外の方法がなかった。

 

 ジャンヌ「私達が聞き込んでこの程度なら、キリトさん達の方もあまり期待出来ませんね」

 

 ストレア「じゃあ、もう集合場所に戻らない?そろそろ約束の時間だしさ〜」

 

 タクヤ「仕方ねぇな」

 

 タクヤ達は元来た道へ引き返そうとした時、遠くで何やら揉め事が起きたみたいだ。野次馬が次々とそこへ向かっているのを見て何か情報が得られるかもしれないとタクヤ達もその後をついていった。

 

「だから!本当に見たんだってばっ!!」

 

「そんな事ある訳ねぇだろ!この街以外外には何もねぇんだぞ!」

 

 どうやら揉め事の中心は男性と少女のようで、他の住民によれば何かの口論になってしまったようだ。とりあえず状況が見えてこないのでタクヤは渋々仲裁に割って入った。

 

 タクヤ「ちょ、ちょいちょいストップ!こんな道の真ん中で何揉めてんだ!」

 

「このガキが東の空から機会の塊が飛んできたって言うんだ!アンタも嘘だって分かるだろ?」

 

「嘘じゃないもん!本当に空がピカーって光って城みたいなのが出てきたんだもん!」

 

 タクヤ「それは本当なのか?」

 

「私嘘ついたりしないし、このおじちゃんが全然信じてくれないから…!!」

 

「何をー!?このガキは言わせておけば…!!」

 

 怒りに身を任せ、男性の拳が振り下ろされた。少女は思わず目を瞑るが、寸前でタクヤに阻まれた。

 

 タクヤ「相手はまだ子供だぞ!アンタも大人なんだから少しは落ち着けって」

 

「くっ!あーもういいよ!!こんなガキにかまってられるかっ!!」

 

 強引に腕を振りほどき、男性は人混みを割ってどこかへと消えていってしまった。次第に野次馬もその場を後にし、今にも泣き出しそうな少女を連れて先程の噴水広場へ連れていった。

 

「私…嘘なんかついてないもん…」

 

 ラン「…ねぇ、名前はなんて言うの?」

 

 ミリア「…ミリア」

 

 ラン「ミリアちゃん、私達ミリアちゃんが見たっていうお話をもっと聞きたいんだけどいいかな?」

 

 ミリア「信じてくれるの?」

 

 ラン「だって本当に見たんだよね?私もそのお話気になるな。教えてくれないかな?」

 

 滲み出た涙を拭い、笑顔を取り戻したミリアが楽しそうにその話をラン達に聞かせた。今日の深夜に偶然起きていたミリアは空が青白く光ったのを気にして、外に出て光の正体を確認しに出た。

 すると、厚い雲に覆われた先で微かな機動音を放ちながら上空を進む巨大な機械の塊を目視したようだ。

 それを不思議に思い、家族や友達にもその事を話したが誰も信じようとはせず、先程の男性も嘘と断言して口論になったらしい。

 

 ミリア「みんな全然信じてくれないし…今日もそれで仲間はずれにされちゃって…」

 

 ラン「そうだったんだ…。つらかったね。ありがとう話してくれて」

 

 ミリア「ううん!お姉ちゃん達は信じてくれたからいいの!」

 

 タクヤ「それで、その機械の塊がどこに向かったのか覚えてるか?」

 

 ミリア「えっと…確か、お城の方だったと思うよ」

 

 ミリアが見たのはおそらく敵の飛行船だろう。この世界は現実世界と時間が同期しておらず、半日経っているとするならば時間の流れも違うハズだ。

 プレイヤーがいないのであればそれも不可能ではない事は理解出来る。

 

 ストレア「じゃあ、私達も時間の流れが早くなってるのかな?」

 

 ジャンヌ「おそらくは大丈夫です。今確認してみたら私達がこの世界に降り立ってから時間が同期していました」

 

 タクヤ「ここはアルファテストの為に創られたって言ってたけど、それが関係してるのかもな」

 

 ラン「でも、それがユウキを乗せた飛行船でもどうやって城の中に入れば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミリア「私、お城の入り方知ってるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、キリト一行はタクヤ達同様に住民に聞き込みを行っていた。

 

 アスナ「そうですか…。ありがとうございました」

 

 キリト「どうだった?」

 

 アスナ「…ダメ。特にこれといったものは得られなかったよ」

 

 あれから何人も声をかけ、有益な情報を得ようと奮闘してみたがあの城が生活基盤を担っているという事しか分からなかった。

 こちらがそうならタクヤ達も同じような情報しか得られないだろうと半ば諦めかけていると、背後から突然殺気を感じた。

 

「動くな」

 

 キリト「…!!」

 

 ルクス「キリトさん!?」

 

「騒ぐな。こちらとしても荒事は避けたい。人目のない所まで移動してもらおうか」

 

 背中にはローブで姿を隠しているが膨らみを見ても銃口を当てられていると感じ、キリト達は冷静さを保ちつつローブ姿の男性に誘導された。

 人気が失せた路地裏まで移動すると、殺気が消え去り銃口も離される。すぐ様警戒態勢を取る。

 だが、男性は両手を上げて戦う意思がない事を告げた。

 

 キリト「何者だアンタ?」

 

「言っただろう?荒事は避けたいって…。それに、俺はアンタ達の敵じゃない」

 

 アスナ「敵じゃなかったアナタは一体…」

 

「俺は偵察で城下町を見張っていたんだ。そこに()()()()()()()()()ら警戒しない訳にはいかないだろう?」

 

 シウネー「どうして私達がプレイヤーだって分かったんですか?」

 

 この世界にはNPC以外存在せず、ジャンヌのカモフラージュのおかげでプレイヤーと認識される訳がない。その証拠に住人達はこちらに違和感なく接していた。

 それをこのローブ姿の男性は難なく見抜き、この人気のない路地裏まで誘導させた。敵であれば不利と言わざるを得ない状況であったが、どういう訳か武器を構えず、あろう事か両手を上げて戦闘態勢すら崩していた。

 

「アンタ達がプレイヤーと気づいたのはこの計測器のおかげだ。本来はあの城で造られている機械人形(オートマタ)用に持ってきていんだがね」

 

 キリト「それでか…。でも、オレ達をここに連れてきてどうするつもりだ?」

 

「昨晩、あの城に飛行船が着陸しているのを目撃した。またどこかの仮想世界へ侵攻してきたんだろうと考えていたんだが、半日後にプレイヤーが現れたとなればおそらく侵攻された仮想世界の住人であろう事を推察し、アンタ達に協力を仰ごうとここまで来た次第だ」

 

 シウネー「協力って…どういう意味ですか?」

 

「詳しくは我らの上官に説明してもらう。この路地に来たのはアジトへと隠し通路があるからだ。一緒に着いてきてくれ」

 

 そう言うと地面を数回ノックし、隠し通路を開いた。

 男性に先導され、警戒を怠らず地下への階段を下っていく。しばらく進んでいくと地下には似つかわしくない機械仕掛けの扉が現れた。

 

 マックス「マックスです。城下町で協力を仰いだプレイヤーと共に帰還しました。レイブン隊長に謁見したく、こちらの扉を解錠してください」

 

 マイクから了解と告げられると、扉が自動で開かれ、中へと進んでいく。先程の地下階段と打って変わって綺麗に整備された通路はよくゲームやアニメなどで見られる宇宙船のような造りだった。

 やはり、このMS(ミレミアム・サクリファイス)では科学が大幅に進んでいる事を実感しながらマックスと名乗った男性に着いていく。

 

 アスナ「キリト君、この人信用してもいいのかな?」

 

 キリト「それはまだ分からない。でも、一先ず戦う気はないだろうから安心してもいいハズだ。もしかしたら、敵に攻め込むきっかけが得られるかもしれないし」

 

 そんな話をしている内に司令室へと辿り着いたキリト達は重々しい空気漂う室内へと入っていく。

 

 マックス「レイブン隊長!マックス二等兵ただいま帰還しました!」

 

 マックスが敬礼をしているのを見てキリトも思わずしてしまいそうになるが、アスナに止められた。報告を受けたレイブンはゆっくりとコチラに振り返り、険しい表情のまま敬礼を返した。

 

 レイブン「ご苦労だった。君達が報告にあったプレイヤーだね?」

 

 キリト「えぇ」

 

 レイブン「そう警戒しないでくれ。私達は君達と争うつもりはない。我々の敵はあの城の反逆軍なのだから」

 

 反逆軍と聞いてふとジャンヌが話してくれた事を思い出した。以前、MS(ミレミアム・サクリファイス)はこの世界の発展に一丸となって尽力していたが、ある時1部の反抗戦力がその平和を崩した。

 表向きでは平和を彩っているこの世界は裏では他の仮想世界を侵攻している。その事実は住民に開示しておらず、レイブンの言う反逆軍がそれをひた隠しにしていた。

 

 キリト「オレ達は連れ去られた仲間を助け出す為にここまで来たんだ。アンタ達の敵とオレ達の敵が一緒なら協力したい」

 

 レイブン「我々も同意見だ。こちらも戦力が必要でね…今いるだけの戦力では太刀打ち出来ない。ぜひ、君達の力を貸してほしい」

 

 アスナ「あの…敵の司令らしき人が"儀式”がどうこうって言っていたんですけど、何か心当たりはありますか?」

 

 レイブン「"儀式”…?まさか、敵の狙いは…!!」

 

 儀式という単語を聞いた瞬間、急に青ざめ始めたレイブンを見て何か知っていると確信したアスナは詰め寄りレイブンから儀式について聞き出した。

 

 レイブン「この世界が試作段階だというのは理解しているだろうか?」

 

 シウネー「えぇ…。何かの実験の為のアルファテストだって…」

 

 キリト「ちょっと待ってくれ。アンタ達はそれを知っていたのか!?」

 

 キリトが驚いたのも無理はない。あくまでこの仮想世界は試作段階のもの。必要なデータを手に入れればこの世界を創った者達は安全を期してこの世界を消去するだろう。

 その事実をこの世界の住人に知らせる必要などないのだが、その答えはレイブンが語ってくれた。

 

 レイブン「私も初めのうちは信じられなかった。だが、この世界が礎となり、新たなより善き世界が構築されるのなら私達がやってきた事も間違いではないと胸を張れる。ここにいる者達は同じ志を持っている。

 だから、それを踏み躙る反逆軍をこのまま野放しには出来ない」

 

 その瞳は確かな決意に満ちていた。彼らは心からこの世界を…これから生み出されるであろう新たな世界を愛しているのだろう。

 そんな者達でなければ、反逆軍のように他の仮想世界を侵攻し、現実を受け止めなかったハズだ。

 キリト達もそんな彼らの覚悟を受け止め、何も言わなかった。

 

 レイブン「すまない…話が逸れてしまったね。その儀式とはおそらくプレイヤーの肉体をAIである反逆軍が乗っ取るというものだ」

 

 アスナ「なっ…!!?」

 

 キリト「そんな事出来る訳ないだろっ!!?」

 

 人間の肉体にAIが入り込む余地など存在しない。そもそもそれを実現させられるテクノロジーは現段階で確立すらされていないのだ。

 そんな夢物語を信じてユウキを連れ出したのだとタクヤが知ればさらに怒りが立ち込めるハズだ。タクヤ出なくてもそんなバカみたいな話を聞いて気が動転しない者などいない。

 レイブンもそれは物理的に不可能だと断定して言ったが、恐ろしいのはその儀式が失敗した後の事だった。

 

 レイブン「儀式は必ず失敗する。だが、儀式を行う事によってプレイヤーにかかる負担は尋常ではない。下手をすれば命にかかわるものだ」

 

 ルクス「でも、私達はアミュスフィアを付けてダイブしているから、危険域に達する前に強制ログアウトするんじゃないかい?」

 

 アミュスフィアは旧型のナーヴギアとは違い、幾重にもセキュリティが施されている為、プレイヤー自身に死の危険性はないに等しい。

 

 シウネー「そ、そうですよね。流石にユウキの命までは…」

 

 キリト「確かにオレ達プレイヤーは仮想世界で本当に死ぬ訳じゃない。ナーヴギアのように高出力のマイクロウェーブが出る訳じゃないしな」

 

 アスナ「とりあえず安心していいのかな」

 

 キリト「だったらなんでユウキを連れ去ったんだ?見た感じそんな迷信を信じるような奴じゃなかったし…」

 

 レイブン「私もそれ以上は知らない。だが、プレイヤーなのが功を奏したみたいだな」

 

 レイブンの言う通りユウキの命の危険がない事は確認出来たが、まだ全てを振り払ってはいない。まだ救出するまで油断されない中、レイブンが作戦会議を開く為にキリト達と一緒に会議室へと移動する。

 レイブンを筆頭に戦闘訓練を積んでいるであろう者達が会議室に集められた。

 

 レイブン「マックス二等兵、城への侵入ルートは見つかったか?」

 

 マックス「はい。城の後方の森林地帯から迂回し、大人1人分入れるだけの洞穴を見つけました。ただ、裏門にも警備が着いている為奴らの目を欺く必要があります」

 

 レイブン「そうか…。ならば、それらは第3部隊の斥候にまかせる。奴らの注意を引き、その隙に私と第1第2部隊…それに君達で突入しよう」

 

 アスナ「あの、その事なんですけど実は私達以外にも仲間がいてまず彼らと合流したいんですけど…」

 

 レイブン「では、その仲間達との合流を経てこの地点でマックス二等兵を待機させておくからそこで落ち合おう。ただ、反逆軍がまたいつ他の仮想世界へ侵略するか分からん。30分だけ時間を与える。それまで必ず来てくれ」

 

 与えられた時間内でタクヤ達と合流するのは困難を究める。

 だが、そんな事を言っていられる程状況が芳しくないのも事実で、キリト達は了承してマックスの案内の元地上へと駆け上がっていった。

 

 

 

 アスナ「待っててね…ユウキ!!」

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
MSへと突入したタクヤ達と反逆軍に立ち向かう戦士達の戦いに乞うご期待!


では、また次回!

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