ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で67話目更新しました。
毎日寒い日が続きますが体調に気をつけてお過ごしください。
ちなみに私はインフルにかかりました。
つらい…


では、どうぞ!


【67】本戦開始

 2025年12月14日17時00分 BoB本戦 ISLラグナロク

 

 BoB本戦が行われるのは首都グロッケンから遠く離れた孤島ラグナロクと呼ばれる場所で、直径10kmと広大なバトルフィールドとなっている。

 ラグナロクには山、森、砂漠、廃墟都市と4つに区分されており、本戦出場者である30名のプレイヤーはランダムでフィールドに転移される。

 森に分類される田園エリアに転移されたシノンは辺りを警戒しながらも前へと進み始めた。

 各プレイヤーは最低でも500mは離れている為、開始早々に倒される事はないが、今大会優勝候補の闇風はAGIを極限にまで高め、"ランガン”の異名を持つ事で有名だ。

 異名の通り、走りながら銃を撃つスタイルで弾道予測線で捉えようとしても中々そうはいかない。

 前大会優勝者であるゼクシードが不参加しているという事もあり、闇風に観客が大金を注ぎ込んでいるのは当然と言えよう。

 それよりも気になったのがベテラン狙撃手で名が通っているシノンよりユウヤとキリトにレートが高い事だ。

 プレイヤーが勝手に賭けているだけなのだが、初心者より賭け率が低いのはそれなりに苛立つものがあった。

 

 シノン「フン…」

 

 必ず見返してやると気合を入れて田園エリアから山フィールドに入っていく。狙撃手であるシノンはまず初めに絶好の狙撃ポイントを見つけなくてはいけない。

 そこからプレイヤーを撃ち抜くというシノンのスタイルは割とオーソドックスなものだ。

 

 シノン「…あそこね」

 

 狙撃地点に目ぼしい場所を見つけるが15分が過ぎようとするのを確認してシノンは()()()()()()()()()()()()

 BoBの本戦では15分に1度だけ"サテライトスキャン”と呼ばれる位置情報を生き残っているプレイヤーに専用の端末で知らせるルールがある。

 全フィールドのマップが表示され、マーカーをタップすればプレイヤー名が表れ、その場所を確認出来るのだ。

 シノンが狙撃ねの離れたのは狙撃中に他のプレイヤーから狙われるのを防ぐ為であり、田園エリアに戻ってスキャンされる。

 無意識にユウヤとキリトの名前を探すが近くにはいないようだ。2人共名前がない為、洞窟内に身を寄せているのだろう。

 これで他のプレイヤーからはシノンが田園エリアで待機しているのが伝わっているハズだ。

 再度、山フィールドに向かい、狙撃地点に定めた山を登っていく。

 狙撃地点の真下からは大きな橋が架かっており、そこから廃墟都市や砂漠フィールドに向かう事が出来る。逆に言えば他のフィールドに移動する時はこの橋を渡る以外に道はない。

 

 シノン(「ここからなら身を隠すスペースはないから絶好のポイントね」)

 

 橋の下は当然川も流れてはいるが、川を泳ごうものなら装備を全て外さなければならない。

 だが、そうするとプレイヤーとの遭遇時において大きなアドバンテージを生んでしまい、そんな馬鹿な事をする者はいないだろう。

 すると、向こう岸に1人のプレイヤーがこちらに来るのが確認出来た。

 素顔をアイシールドで多い、淡い迷彩柄の装備が特徴のプレイヤーは動きを見る限りAGI特化型だろう。

 先程サテライトスキャンで確認した限りでは、おそらく【ペイルライダー】である事が予想出来る。

 その時、山から真下から現れたカウボーイ姿の男がペイルライダーと相対した。

 カウボーイ姿の男…ダインは愛銃の銃口をペイルライダーに向ける。

 

 ダイン「行くぞぉゴラァっ!!」

 

 シノン(「わざわざ叫ばなくてもいいのに…。それに、いつだってシックスセンスよ…ダイン」)

 

 スコープでダインの後ろ姿を捉え、着弾範囲(バレットサークル)を後頭部に合わせる。

 ダインはペイルライダーに集中している為、シノンが背後から狙撃しているのには気づいていない。シノンの最初の犠牲者がダインに決まりかけたその時、背後に感じた凍るような視線に気づいた。

 

 シノン「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「待った!!君を斬るつもりはない!!」

 

 振り返ると黒い長髪を靡かせながらキリトがいた。

 すぐ様腰に携えたハンドガンに手をかけようとするが、キリトにそれを制され、絶体絶命の状況に陥った。

 

 シノン「っ!?…アンタっ!!」

 

 キリト「頼む!!あの戦いを見たいんだ!!それが済んだら君との約束に応じる!!だから、待ってくれ!!」

 

 シノン「…!!…約束よ!!」

 

 キリト「あぁ…!!」

 

 ほんの一時の協定を結んだキリトは双眼鏡を取り出し、ダインとペイルライダーの戦いに集中する。その隙だらけの状態に毒気が抜かれたシノンは黙ってスコープを覗き込む。

 一触即発の空気を帯びながら、両者共互いの動きに神経を研ぎらせている。

 だが、ここから2人を狙撃するなどシノンからしてみれば屑籠にゴミを放り込む事と変わらない。ここで2人を倒しておけばこの先の戦闘も楽になるだろうが、キリトが何故この戦闘に興味を示しているのか分からない。

 そんな事を考えていた時、痺れを切らしたダインが先行した。

 携えたアサルトライフルがペイルライダーに火を吹く。距離は300m…ペイルライダーが弾道予測線を視認するだけの余裕がある距離でダインは浅はかな行動に出た。

 ペイルライダーは銃弾を見事な身のこなしで回避していく。ダインはペイルライダーを追うが極限にまで高められたAGIと合わせてスキルの1つである"アクロバット”がそれを嘲笑うかのように回避していった。

 

 キリト「すごいな…あの動き」

 

 シノン「"アクロバット”スキル持ちじゃ、ダインのビルドからして劣勢ね」

 

 ダイン「くそぉぉっ!!!」

 

 柱と柱の間を縦横無尽に駆けるペイルライダーはホワイトフレームでコーティングした銃を抜き、回避しながらダインに放った。

 捉える事に必死のダインにはこれを避ける術はない。弾道予測線を捉えても体は動かず、4発もの弾丸が貫いた。

 

 ダイン「ぐおっ!!?」

 

 思わず地面に膝をついてしまったダインが咄嗟に顔を上げると、眼前に銃口を突き出したペイルライダーが立っていた。

 トリガーに指をかけ、ペイルライダーの視界に着弾範囲が出現する。

 この距離で外す事は万が一にもなく、余裕を失ったダインのメンタルを尽く砕いていった。

 

 ダイン「くそっ…!!」

 

 それがダインの最後の言葉であった。

 弾丸は眉間を貫き、ダインのアバターは空に向かって大の字に倒れる。アバターからdeadの表示が浮かび、BoBから脱落した。

 

 シノン「…もういいわよね?アイツ、撃つからね?」

 

 キリト「あぁ…分かった」

 

 スコープでペイルライダーを捕捉し着弾範囲を広げる。

 瞬間、ペイルライダーがスコープから忽然と姿を消した。

 

 シノン「え?」

 

 すぐ様ペイルライダーの後を追うと、隣にいたキリトがペイルライダーが突然倒れた事を知らせた。

 

 キリト「あれは…撃たれたのか?胸に電流のようなものが見えるけど…」

 

 シノン「電流?…麻痺弾?でも、一体どこから…?」

 

 ここに来る前にサテライトスキャンで周囲にいるプレイヤーを確認したが、今倒されたダインとペイルライダー以外には誰もいなかったハズだ。

 すると、ここで新たな疑問が生まれた。

 シノンの隣でペイルライダーを観察しているキリトは一体どこから現れたのか。

 

 シノン「そう言えば、アンタは何でここにいるのよ?サテライトスキャンには映らなかったけど…」

 

 キリト「え?あぁ、川に潜ってたからかな?」

 

 シノン「川って…もしかして装備を全部外して?」

 

 キリト「一旦ストレージに全部戻してハンドガン1丁で川に飛び込んだ」

 

 シノン(「本当にそんな事する奴いたんだ…」)

 

 半ば呆れながらスコープでペイルライダーの周囲を確認する。

 すると、橋の影から1人のプレイヤーが汚らしいマントを翻しながら不気味な空気を漂わせペイルライダーに近づいていく。

 

 キリト&シノン「「!!?」」

 

 

 どこから現れた?と言うよりどこに隠れていた。キリトは川に潜っていた為にサテライトスキャンから逃れたが、今ペイルライダーに近づくプレイヤーはここにいるハズがないのだ。

 周囲の川にも注意をかけていたが、波紋も音もしなかった。

 サテライトスキャンから逃れられる洞窟などもないこのフィールドであのプレイヤーがサテライトスキャンを逃れる術はない。

 

 シノン「何…アイツ…?」

 

 キリト「…撃て」

 

 シノン「え?」

 

 キリト「撃ってくれ!!早くあのボロマントの男を!!早くしないとペイルライダーが殺られる!!」

 

 シノン「殺られるって…大会なんだから当たり前でしょ?」

 

 キリト「違うんだ!!アイツは…あの死銃は()()()()()()()()()!!」

 

 シノン「!!」

 

 キリトから顔を逸らし、再度あのボロマントに視線を移す。

 あれが今密かに噂されている"死銃”だと言うのか。全優勝者ゼクシードを死に至らしめた謎のプレイヤーがいると聞いていたが、シノンはそれを信じようとはしなかった。

 第一、仮想世界にいる者がどうやって現実世界で横たわっている人間を殺す事が出来ようか。

 それを面白がってネットに上げていた音声データも眉唾物と言わざるを得ない。

 だが、キリトの剣幕な表情を思い出し、信じていなかった噂に疑心感が生まれてきた。

 

 シノン「死銃…って、あの妙な噂の…?」

 

 キリト「あぁ。実際ゼクシードだった奴も現実世界で心不全で死んでいる。他にも1人心不全で死んでいる。

 オレはそれを調査しにこの世界に来たんだ。…と言っても、それはついでみたいなものだけど…」

 

 シノン「ついでって?」

 

 キリト「そんな事より早く!!」

 

 瞬間、銃の発砲音が響き渡った。

 ハンドガンで狙撃されたペイルライダーの体が一瞬浮き上がり、そのまま地面につく。

 HPは1割にも満たないダメージを負ったが、キリトとシノンは疑問を抱いた。

 何故、肩に携えているスナイパーライフルで仕留めなかったのか。

 距離が近いとはいえ、ペイルライダーは麻痺で動けないのだから距離を開けて撃てば確実に倒していたハズ。

 だが、死銃はそれをせず、十字のジェスチャーを行ってから腰に携えていたハンドガンを1発だけ撃ち、それをホルスターにしまった。

 

 シノン「何やってるのよアイツ」

 

 キリト「…」

 

 それ以降何かする素振りなどはない。一体何がやりたかったのか不思議に思っていると、ペイルライダーの麻痺が効果を失くし、起き上がりざまに銃口を向けた。

 肩に力が入っているのが遠くから見ているシノンとキリトですら分かるが、この距離で外す事はない。

 形勢逆転したかと思われた次の瞬間、それは起きた。

 

 キリト&シノン「「!!?」」

 

 ペイルライダー「っ…!!?」

 

 ペイルライダーはトリガーを引かず、左手で自身の胸を強く握った。

 体を微かに震わせ、耐え切れずに地面に膝をつく。右手から銃を落とし、息を荒くしながら地面に倒れた。

 

 シノン「どうしたの?」

 

 キリト「…まさか!?」

 

 そのまま大の字に空を見上げた状態でペイルライダーは何もなかったかのように動かなくなってしまった。

 

 死銃「…見たか。俺には…本当の力…本物の強さが…ある!!まだ…この中にも…復讐を…果たさなければ…ならない奴が…いる…!!もう…誰にも…俺は…止められない…!!…It’s show time…」

 

 すると、アバターが砕け散り、ポリゴン片と回線切断の表記だけがその場に残された。

 

 シノン「回線切断?…アイツ、何したの?」

 

 キリト「…おそらく、ペイルライダーの現実の肉体が機能を停止…つまり、死んだんだと思う」

 

 シノン「そんな噂信じられる訳ないじゃない!

…とりあえず、アイツを狙うからね」

 

 スコープで死銃を捉え、トリガーを引いた。

 弾丸は真っ直ぐ死銃の眉間に突き進み、確実に倒したとシノンは笑みを零す。

 瞬間、死銃は1歩後ろに下がりシノンの銃弾を躱した。

 そして、その弾道を追ってスコープ越しだが、死銃と目が合ってしまった。

 

 シノン「!!…アイツ、どこかで私を視認してたのね?でも、それでも優勢なのは変わらないわ!!」

 

 キリト「ダメだやめろ!!!」

 

 シノン「何言ってるのよ!!今がアイツを倒す絶好のチャンス─」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「そこまでだぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 キリト&シノン「「!!?」」

 

 2人の真下の道から死銃に向かって叫びながら走ってきたのはサブマシンガンを2丁携えたユウヤであった。

 

 死銃「…」

 

 ユウヤ「見つけたぞ…!!死銃…!!!」

 

 キリト「ユウヤ…?」

 

 シノン「アイツがどうして…!?」

 

 息を切らしながらも橋へとたどり着いたユウヤは剣幕な表情で死銃を睨みつける。その様子を慌てる素振りを見せずに死銃は静かに立っていた。

 

 ユウヤ「…ペイルライダーをどうした?」

 

 死銃「…お前には…分かって…いるだろう…?」

 

 それは暗にペイルライダーは既に仮想世界からも現実世界からも消滅した事を意味している。それを理解したユウヤは苦渋の表情でペイルライダーがいた場所を眺める。

 また、罪のない人間が殺されてしまった。助ける事が出来なかった事に自分を憎みながらもそれ以上に目の前にいる死銃を憎んだ。

 

 ユウヤ「…くそっ!!」

 

 死銃「今…ここで…お前を…殺しても…いいが…余計な…者が…いるな…」

 

 そう言いながら死銃は橋の陰へと隠れた。

 おそらく、装備を全て外してサテライトスキャンの届かない川の中に潜るつもりだろう。そうはさせまいとユウヤは隠れた陰からサブマシンガンをリロードした弾薬が尽きるまで川に放った。

 水面が弾丸で波紋を作りながらも死銃が上がってくる事はなかった。

 完全に逃がした事を悟りながら、荒くなった息を落ち着かせ、ホルスターにサブマシンガンを納める。

 

 ユウヤ「…」

 

 キリト「オレ達もいこう…!」

 

 シノン「え、えぇ…」

 

 キリトとシノンは狙撃地点から下山し、ユウヤの元へと急いだ。

 

 キリト「ユウヤ!!」

 

 ユウヤ「!!…何でこんな所にいやがる?」

 

 シノン「私達もあのボロマントを狙撃してたの。そうしてたら、ユウヤがボロマントに勝負をかけてたのが見えたから…」

 

 ユウヤ「死銃を?…お前達はアイツにだけは近づくな」

 

 キリト「その口ぶりだと死銃の正体を知って…いや、そんな事はない。…だってアイツはあの世界にいた…!!…まさか…お前…!!」

 

 死銃はSAOに実在した笑う棺桶(ラフィン·コフィン)の構成員の1人である事は分かっている。その事を知っているのは死銃を追っていたキリトしか知らないハズだ。

 いや、もう1人だけ…キリトよりも前から死銃を追っていた者がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「タクヤ…なのか…?」

 

 

 シノン「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「…あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日17時17分 イグシティ キリトのホーム

 

 ユウキ「キリト全然映らないね」

 

 アスナ「まだ大会も始まったばっかりだし仕方ないよ」

 

 BoBの本戦はGGOだけでなく、ネットや他のゲームにも中継されており、キリトの応援に集まっているみんなはその姿すら見られていない。

 

 ユイ「パパの事ですから、敵の背後からガンガン攻めます!」

 

 アスナ「キリト君でもそれはないんじゃないかなー…」

 

 リズベット「はははっ!しかも、ガンゲーなのに剣とか使ってそうだよねー」

 

 ISLラグナロク内には選手の数だけの中継カメラがあり、戦闘を行っているプレイヤーに集まりやすい。

 モニターにキリトの姿がない事から、まだ戦闘には及んでない事が予想される。

 今、モニターでピックアップされているのはカウボーイ姿の男性プレイヤーとフルフェイスで顔を隠した迷彩服のプレイヤーだ。

 

 カヤト「…あのプレイヤーすごいですね」

 

 ラン「本当ですね。翅もないのに飛んで回って…」

 

 ストレア「あっ!カウボーイがやられたよ〜」

 

 カウボーイ…ダインはフルフェイスのプレイヤー…ペイルライダーに敗れてしまった。近くに敵プレイヤーがいない事を確認してその場を後にしようとすると、突然モニターから消えてしまった。

 

 シリカ「あれ?」

 

 中継カメラも反応し切れず、すぐ様ズームアウトしてペイルライダーを追った。

 すると、ペイルライダーは橋の上で倒れ、そのまま動こうとはしなかった。中継カメラもペイルライダーに近づき、胸に撃たれた針のようなものに焦点を当てる。

 

 クライン「すぐやられちまったじゃねぇかっ!?」

 

 ユウキ「何だろうあれ?」

 

 ユイ「おそらく、プレイヤーを一定時間麻痺させるものと思います」

 

 針から微量の電流が見て取れたユイはユウキに説明する。

 

 リーファ「まるで風魔法の"サンダーウェブ”みたい…」

 

 アスナ「見て!!柱の陰に誰かいるよ!!」

 

 中継カメラもその存在に気づき、柱へとズームアップする。

 そこにいたのは不気味なマスクをボロボロに裂かれたマントで隠した男性プレイヤーだった。

 その姿を目にしたユウキ達に恐怖が植え付けられる。シリカとランは恐怖のあまりに目を逸らしていた。

 さらに、ボロマントの男は肩に担いだライフルではなく、腰に携えていたハンドガンでペイルライダーに1発放った。

 だが、ハンドガン1発ではHPが全損出来る訳もなく、麻痺が切れたペイルライダーが銃口をボロマントの男に向ける。

 脳天に定められたボロマントの男は避ける事もなく、ペイルライダーを見下ろしている。

 勝負がついたかと思われたその時、ペイルライダーは急に苦しみ始め、その場に倒れてしまった。

 

 リズベット「え?なになに?」

 

 状況が飲み込めないまま、ペイルライダーはそのままアバターを消滅させる。

 そして、その場には回線切断の表記だけが残されていた。

 

 ユウキ「回線切断?」

 

 

『…見たか。俺には…本当の力…本物の強さが…ある!!まだ…この中にも…復讐を…果たさなければ…ならない奴が…いる…!!もう…誰にも…俺は…止められない…!!…It’s show time…_』

 

 

 復讐と口にしたボロマントの男は中継カメラに弾丸を撃ち込み、カメラを破壊した。その場の中継が途切れたのと同時にカウンター席の方から何かが割れた音がホーム内に響いた。

 

 リズベット「ちょっと、どうしたのよ?」

 

 クライン「あ…いや…」

 

 ストレア「クライン?」

 

 クラインの顔色がみるみる青ざめていく。それはストレアの隣にいるアスナもそうだ。

 

 クライン「いや…そんなハズはねぇ…。だって…奴は…」

 

 ユウキ「クライン…あのボロマントの事…知ってるの?」

 

 クライン「…奴は…()()()()の元メンバーだ…」

 

 リズベット&シリカ&アスナ&ユウキ「「!!?」」

 

 カヤト「ラフコフ?」

 

 リーファ「ってなんですか?」

 

 カヤトやリーファが知らないのも無理はない。

 正式名称"笑う棺桶(ラフィン·コフィン)”はSAOに存在した殺人(レッド)ギルドだ。

 

 アスナ「アイツはまさか…!!あの包丁使いの…!!」

 

 クライン「いや、Pohじゃねぇ…。でも、アイツが言った"It’s show time”ってのはPohの決めゼリフだ。ラフコフでも上の…幹部クラスだと思う…」

 

 ユウキ「アイツが…ラフコフの…!!」

 

 その事をタクヤは知っているのだろうか。いや、知ってしまったからこそGGOに向かったのかもしれない。

 かつて、タクヤが全ての罪を背負ってしまった元凶である笑う棺桶(ラフィン·コフィン)の残党がGGOで人を殺している…その噂だけでも、タクヤからしてみれば確かめざるを得ないだろう。

 

 ユウキ「タクヤ…!!」

 

 リズベット「ちょ、ちょっと待って!!さっきの話ってあくまで可能性の話なんじゃないの!!?」

 

 クライン「あのボロマントがラフコフのメンバーだったと分かっちまうと、まんざら聞き流せなくなった…。でも、何で…またアイツは…!!」

 

 悔しがるクラインの気持ちはユウキやアスナにも分かる。

 キリトだって噂程度にしか考えてはいなかった。タクヤを見つける事を最優先したのもそれが理由だ。

 けれど、タクヤは噂でもそれを潰しにいく。過去を断ち切ろうとする為に。

 

 ユウキ「…SAOには暗黙の了解としてHPの全損だけは絶対にしないって区分率があった。

 でも、ラフコフのメンバーはそれを無視して自分達の利益の為に、色んなPK手段を編み出していった…。

 そして…タクヤもボク達を守る為にラフコフに入っちゃった…。人殺しを強要されたタクヤは…3人の命を絶たせてしまった…」

 

 シリカ「そんな…!!私達を守る為に…!!」

 

 リズベット「やっぱり…本当の事だったのね…」

 

 ユウキ「…ボク、菊岡さんに現実世界(あっち)で連絡を取ってくる!!ユイちゃんとストレアはあのボロマントについて何でもいいから情報を集めてくれる?」

 

 ユイ&ストレア「「了解!!」」

 

 そして、ユウキは現実世界に戻る為、キリトのホームからログアウトしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日17時30分 ISLラグナロク 山エリア

 

 キリト「やっと…見つけたぞ…!!」

 

 シノン「タクヤって…アナタ、現実世界(リアル)でユウヤと知り合いなの?」

 

 ユウヤ「…」

 

 橋の上に吹く風が普段より冷たく感じる。

 ふと、シノンは1ヶ月前の出来事を思い出していた。

 普段利用しない駅の近くにある広場で茅場拓哉を探している高校生の集団がいた。その中の1人の少女からビラを貰った事があった。

 黒の長髪に赤のバンダナが似合った少女の表情は今でもよく憶えている。

 それを見ただけで拓哉の事をどんなに大事に想っているのか、どんなに会いたいのか、シノン/詩乃も見ていて胸が苦しくなった。

 

 キリト「やっぱり、お前は死銃を追ってたんだな…」

 

 ユウヤ「…」

 

 キリト「アイツがラフコフのメンバーだったのは…知ってるんだろ?」

 

 ユウヤ「…」

 

 ユウヤは黙ったままキリトを見つめる。キリトの質問に応える訳でもなく、ただジッと見つめ返す。

 

 キリト「アイツはラフコフの誰なんだ?見当はついてるのか?応えてくれタクヤ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「…お前には関係ねぇって言ったハズだぞ?」

 

 キリト「!!?」

 

 ユウヤ「こうも言ったハズだ。…本戦には出るな、出たなら真っ先に殺すって…」

 

 あくまで淡々と言葉を紡ぐユウヤにキリトも困惑しているようで言葉を返せないでいる。

 すると、横からシノンが会話に入ってきた。

 

 シノン「ちょ、ちょっと!…今はそんな事言ってる場合じゃ…」

 

 キリト「何でだ!!何でお前はそうやって1人で抱え込もうとするんだ!!何でオレやユウキ達に頼ってくれないんだよ!!オレ達は仲間だろ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「仲間じゃねぇよ」

 

 

 キリト「え?」

 

 ユウヤ「お前達との関係は断ち切った。オレには関わるなとも言ったハズだ。…お前らはもう…仲間じゃねぇよ」

 

 冷徹に言葉を吐き捨てたユウヤにキリトは怒りを露わにして胸ぐらに掴みかかる。

 

 キリト「お前…!!ユウキがどんな想いでお前を探してると思ってるんだ!!毎日毎日お前を想って、寝る暇も惜しんで、ボロボロになりながら探してるんだぞ!!!」

 

 ユウヤ「…誰がそんな事頼んだんだよ?」

 

 キリト「!!!」

 

 ユウヤ「オレが一体いつそんな事を頼んだ?ユウキにも別れは告げてる。そこで話は終わってるんだよ。もうオレには関係ないし、会う気もない」

 

 瞬間、キリトの拳がユウヤの頬を捉えた。

 鈍い音と共にユウヤは3m程飛び、地面に倒される。

 

 キリト「ふざけるな…!!なんでそうなるんだよ!!なんでそこまで自分を追い込むんだよ!!」

 

 ユウヤ「…」

 

 シノン「…」

 

 端から2人のやりとりを眺めるだけしか出来ないシノンは歯噛みをする。

 ユウヤ/拓哉は一体どれだけ重いものを背負っているのか。

 それを知る術などシノンにはないが、キリトの表情を見る限り事の深刻さが分かってしまう。

 

 ユウヤ「…何と言われてもオレは戻るつもりはない。今は死銃が先だ。

 もうこれ以上オレに関わろうなんて思うな。これはオレの問題で、お前には関係ない事だ」

 

 そう言い残しユウヤは死銃が川で泳いでいったであろう廃墟都市フィールドへと走っていった。

 それを追いかける事なくキリトはその場に立ち尽くしている。

 シノンもこれからの行動に迷いが生じ、キリトの隣で止まっていた。

 

 キリト「…」

 

 シノン「どう…するの…?」

 

 キリト「…変な事に巻き込んで悪かった。オレはタクヤを追うよ。あ…その前に約束があったな。どうする?前みたいに決闘スタイルで決着をつけようか?」

 

 シノン「…いいわよ。今は他にやる事があるでしょ?それに、私も行くわ。死銃の話が本当ならどこにいても危険なのは変わらないし…ユウヤにも文句言わないと気が済まないわ。

 言いたい事だけ言って、約束を守らないし、すぐにいなくなろうとするし、それに…─」

 

 キリト「シノンはタクヤの事をよく見てるんだな。…ユウキとの約束も破ったままだし、オレもユウキにタクヤを連れて帰るって約束したんだ。

 だから、オレは諦めたりはしない!」

 

 ユウキの為に…みんなの為にタクヤを連れて帰る。

 また、あの楽しかった日常を取り戻す為に、タクヤを連れて帰って死銃の野望を打ち砕かなければいけない。

 

 キリト「行こう!!タクヤを追いかけて死銃を倒すんだ!!」

 

 シノン「えぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2015年12月14日17時35分 ISLラグナロク 森林エリア

 

 川沿いに死銃を追うユウヤは川に注意しながら走り続ける。

 2回目のサテライトスキャンには脱落したプレイヤーとペイルライダーを除いても数が合わない。つまり、まだ死銃は川の中を泳いでいるという事だ。

 

 ユウヤ「ちっ!!」

 

 そして、サテライトスキャンにはユウヤの後を追ってキリトとシノンがこちらに移動しているのも分かった。

 あれだけ言ってまだ追いかけようとする事は薄々予想していたが、それを裏切ってほしかった。

 もう自分の事は諦めて元の世界に帰ってほしい。みんなと一緒に幸せな日常に戻ってほしい。

 それだけが今のユウヤが抱く幸せの形だ。

 だが、それは叶わないであろう事を理解してしまったのだ。

 だから、これ以上は望まない。望んで届かないなら諦める。自身を捨て、全てを怒りに委ねる。

 かつて、あの世界で怒りの化身としてユウヤと共に戦った狂戦士のように…。

 

「その首もらったァァ!!」

 

 草陰から突如現れたプレイヤーが前方でサブマシンガンを乱射させる。弾道予測線がユウヤの体の至る所に貫き、銃弾が放たれる。

 それでも致命傷になる箇所を瞬時に見極めたユウヤはそれ以外の銃弾を無視してプレイヤーに特攻をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「邪魔だァァァァァァっ!!!!」

 

 腰に吊るされたフォトン·ソードを起動させ、突進している状態から水平にプレイヤーの胴に斬りかかった。

 

 

 片手用直剣ソードスキル"スラント”

 

 

 腹を抉りながら前へ進もうとすると、火花を散らせながらプレイヤーの上半身と下半身は宙に舞った。

 

「なっ…!!?」

 

 何も出来ずにそのプレイヤーはHPを全損させたが、ユウヤはそれを気にする事なく先へと進んでいく。

 

 ユウヤ(「もっと…もっと…怒りを…憎しみを…力に変えて…!!!」)

 

 

 

 それはかつて嫌悪した力。

 それはかつて憎悪した心。

 瞳は真紅に染まり、もう死銃の事しか考えていない。

 死銃をこの世界…この世から消す事しか考えていない。

 もう誰にもユウヤを止める事は出来ないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は再び"修羅”として仮想世界を駆けるのだから…。

 

 




いかがだったでしょうか?
ついにGGOでタクヤを見つけたキリト。
繋がりを断ち切ったタクヤにキリトはどんな行動をとるのか。
死銃を追って1人先に進んだユウヤに待ち受けているものは。
そして、シノンはこの事件の中で何を見出すのか。
次回はそれらに視点を当てていきたいと思います!


評価、感想などお待ちしております!


では、また次回!

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