ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

63 / 88
新年明けましておめでとうございます!
ということで63話目になります!
これからやるべき事、見つけるべき答えを求め、苦悩し、それでも前に進んでいく少年少女達の姿をお楽しみください!


では、どうぞ!


【63】Bullet of Bullets

 2025年12月03日17時00分 グロッケン ガンショップ

 

 ユウヤ「BoB(バレット·オブ·バレッツ)?」

 

 シノン「前に一度話したわよね?」

 

 ガンショップで弾薬の補充をしていると、シノンから次のBoBに一緒に出ないかとユウヤを誘った。

 

 シノン「20人いるプレイヤーの総当たり戦。最後の1人になるまで大会は終わらないし、自発的ログアウトも出来ないの」

 

 ユウヤ「へぇ…面白そうだな」

 

 シノン「アンタももうステータス的にも問題ないだろうし、腕試しと思って出てみたら?」

 

 ここ数日でモンスターやプレイヤーを相手にしてきてユウヤのステータスはシノンに負けじと劣らない程になっている。シノンがそれを知った時は本当に悔しそうな表情をしていたが、実力的には大会に出ても恥をかかないぐらいにはなっているとシノンは目測を立てた。

 

 ユウヤ(「もしかしたら…その大会に死銃が出場するかもしれねぇな」)

 

 菊岡から仕事を受けて以降、街にいるプレイヤーから死銃について聞き込みを続けたが、日頃からログインしていないのか街中で目撃したプレイヤーはいなかった。完全に手詰まり状態の所にシノンから誘いが来てチャンスだと思った。GGOでの最強を決める大会なら死銃が標的にしているプレイヤーも出てくるハズだ。ならば、死銃がそのプレイヤーを殺害する前に捕まえればいい。仮想世界(こちら)捕まえれば後は菊岡が運営に問い合せて現実世界での居所も見つかる。

 ユウヤはシノンの誘いを受ける事にして今日の所はここで解散する事になった。

 

 拓哉「…ん…」

 

 現実世界へと帰ってきた拓哉は軽く腕を伸ばし、硬直している筋肉を解す。すると、隣で拓哉をモニタリングしていた倉橋がクスッと笑いながら拓哉の体についている電極を外していく。

 

 拓哉「?…どうかしました?」

 

 倉橋「いえ…この頃拓哉君の顔色や表情が柔らかくなったなと思いまして…。久しぶりにここに来た時はげっそりしてましたから」

 

 拓哉「そんなに変わりましたかね…?」

 

 倉橋「えぇ。…やっぱり男の子はこれぐらい元気がないといけません。筋肉も満遍なくついているみたいですし、彼女の木綿季君は良い人を見つけたもんですよ」

 

 拓哉「…」

 

 拓哉は無言のままシャツを着て上着を羽織る。倉橋に一言だけ言って病室を後にした。院内をゆっくり出口まで歩いている途中、先程言われた倉橋の言葉が脳裏に甦ってきた。

 

 拓哉(「オレは…良い人なんかじゃない…。木綿季には…ふさわしくない…」)

 

 最後まで考えてしまう前に思考を遮断して出口に行き着いた。外は真冬の風が拓哉を襲い、体温が徐々に奪われていくのを感じて早く帰ろうとバイクのエンジンをかけた。

 

 拓哉(「…夕飯…何にすっかな…」)

 

 帰りに食材を調達しなければと気づいた拓哉はバイクを湯島に走らせた。その途中でSAO帰還者学校の最寄り駅の近くを通るのだが、拓哉はこの時が一番不安になる。

 もし、ここで誰かに見つかったらと思うと怖くなって逃げ出してしまうだろう。誰にも会わないようにと願いながら進んでいると信号機の前で待っていた黒髪で中肉中背の男子高生に目が止まった。

 信号が青になる直前でその男子高生と目が合ってしまい、顔を背いてバイクを発進させた。

 

「!!?まっ─」

 

 何か言いかけたようにも聞こえたが、拓哉は気にする事なく湯島へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月03日18時00分 埼玉県川越市 桐ヶ谷邸

 

 ガララと玄関から物音が聞こえたのでこの家の娘である桐ヶ谷直葉が玄関まで走った。

 

 直葉「お兄ちゃんおかえり!」

 

 お兄ちゃんと呼ばれたのは漆黒と言っていい程の黒髪と瞳を宿した少年だった。彼…桐ヶ谷和人は妹である直葉に生返事をして自室のある2階にへと上がっていってしまった。

 

 直葉「…お兄ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 side和人_

 

 

 自室の扉を開け、ベッドの上に鞄を放り投げる。綺麗にしてあったシーツにシワがよるのを気にする事なく、椅子にもたれ掛かったオレはハァと息を吐いた。

 

 和人(「あのバイク…。オレに気づいたら逃げるようにして走っていった…。あれは…」)

 

 先程の下校風景を出来るだけ具体的に思い出しながらその時の状況を整理する。あれはほぼ間違いなくオレ達がずっと探している茅場拓哉本人であろう。すぐに追いかけようとしたが、バイクに適う訳もなく逃げられてしまった。その後も悶々とした気持ちがオレの中に生まれて一向に晴れてはくれない。

 

 和人(「木綿季に伝えるか?…いや、ぬか喜びさせても悪いしな…。まだ、あれが拓哉だっていう確証もないんだ。誰にも言わない方がいい…」)

 

 だが、あれが本当に拓哉だったならば、今頃になって何故あんな場所にいたのか。学校近くは拓哉を探し出したその日に隈無く探して、以降毎日のように拓哉の姿を目で追った。結果としては今日まで見つけきれていないのだが、それならばとやはり疑問が出てしまう。

 

 和人「…あの方角って確か…」

 

 制服からスマホを取り出して地図アプリを起動する、先程までいた駅からあのバイクが来た方向に絞って探していると、やはりオレの記憶通り横浜大学附属病院がある。

 そして、またしても更なる疑問が浮上してきた。

 

 和人(「何でアイツ…病院に…?いや、聞けば早いか」)

 

 すぐさまその病院で勤務している倉橋医師に電話をかけた。しかし、何回コールしても出てはくれず、次は病院に電話をかけた。

 2回コールが耳元で鳴り響くとガチャっという音と共に女性の声がスマホから聴こえてきた。

 

 和人「もしもし、そこは横浜大学附属病院でよかったですか?」

 

「はい、そうですが。どのようなご用件でしょう?」

 

 和人「あの、そちらに倉橋先生が勤務していると思うんですが…」

 

「倉橋は今別件により長期不在中です。伝言などがあればお伺いしますが?」

 

 和人「あっ、いや、大丈夫です。…ありがとうございました」

 

 これ以上は何も得られない事が得られた所でスマホからユイを呼び出す。

 ふぁぁ…と欠伸をしながら現れたユイにある頼み事をした。

 

 和人「ユイ。悪いんだけど、この画像データに写ってるバイクを探せたりするか?」

 

 ユイ「はい。狭い範囲でよかったら大丈夫です!パパ!!」

 

 和人「じゃあ、頼んだよ。終わったら知らせてくれ」

 

 ユイに周辺の監視カメラを調べてもらっている間、何もやる事がなくなったオレはネットサーフィンをする事にした。

 すると、ネットニュースのトピックにふと気になる物があった。

 

 和人「心停止?…アミュスフィアで?」

 

 そこに書かれていた内容は先月に2人の男性がアミュスフィアをつけたまま遺体として発見されたようだ。警察も事件性などなく、事故死として進めている。死因は心停止らしいが、オレにはその死因に違和感を感じた。

 

 和人(「アミュスフィアで心臓が止まる程の出力…あるいは感覚は感じられない。…なら、外部からの犯行になるだろうけど…」)

 

 さらに下へと記事をスクロールさせていくと、文末にあるリンクが貼られている。何かこの事故と関係があるのだろうとマウスを動かしてクリックした。

 どうやらALOとは違ったVRMMOゲームの掲示板のようだが、そこに数秒の音声データアップロードされている。ヘッドフォンを装着し、その音声データを再生した。

 

 

『ゼクシード…偽りの勝利者よ。だが、俺には本当の力、本物の強さがある!!者共!!この名を恐怖と共に刻め!!俺とこの銃の名は…死銃だ!!!』

 

 

 和人「…」

 

 音声データはそこで終了していたが、その下には音声データに関してのコメントが寄せられている。どうやらそのVRMMOゲームをプレイしているプレイヤーが書いているようで、その音声が録音されていた時にあるプレイヤーが生番組中に回線切断してしまい、以降そのゲームにログインしなくなってしまった。

 

 和人「確か、このゲームってプロがいる…」

 

 そのVRMMOゲームの名はGGO(ガンゲイル·オンライン)。ゲーム通貨現実還元システムを採用している"ザスカー”なる企業が運営しているそのゲームではALOとは比較にならない程に競争率が激しく、殺伐とした世界観が巷で密かに注目を浴びていた。

 

 和人「…」

 

 事故死…GGO…死銃…。これらに何かしらの違和感を感じたオレはこの事に熟知しているであろう人物に電話をかける。

 

 菊岡「もしもし?」

 

 和人「菊岡さんか?ちょっと聞きたい事があるんだけど…」

 

 電話に出た菊岡はしばらく…と言っても一瞬ともとれる間を開けてオレの質問に答える。

 

 和人「最近VRMMOゲームで死んだ人がいるってニュースにあったけど…()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 菊岡「…()()()()()()()。僕は今立て込んでるからこれで切らせてもらうよ」

 

 そう言って数十秒の電話は菊岡から切られ、オレはパソコンのモニターに視線を移す。

 

 和人「答えられない…か」

 

 菊岡の事だ。関与してないならそう答えるハズだろうが、答えられないと答えたという事は仮想課でもこの案件に目をつけているという事。

 ならば、このGGOの中から調査をする必要があるハズだ。その任務に相応しい人材と言えば…。

 

 和人「…そこにいるのか?…拓哉」

 

 パソコンの電源を消してユイの帰りを待つ事にした。

 しばらくしてユイがオレのスマホに戻ってきたが、あのバイクを見つけるには至らなかった。だが、横浜市立大学附属病院から出てきた所を発見しただけでも収穫だろう。

 

 和人「明日にでも行ってみるか」

 

 明日は学校があるが、欠席して朝から病院に張り付いていれば拓哉だと思われる人物を見つけられるだろう。この事は明日奈だけでも知らせておいた方がよさそうだな。

 今の時間なら明日奈もALOに来れるだろうと時間を確認した後、アミュスフィアを装着したオレは音声コマンドを入力した。

 

 和人「リンクスタート!!」

 

 視界がクリアになり、感覚が仮想世界に接続されるのを感じながら見慣れたログハウスのリビングで目を開けた。

 すると、予想通りと言うほどにアスナがお茶を嗜んでいる最中だった。

 

 アスナ「キリト君!今日はインするの遅かったね」

 

 キリト「あぁ。ちょっと調べ物しててな。ユイ、出ておいで」

 

 胸ポケットから小妖精(ピクシー)姿のユイが現れ、アスナの横に元の姿に戻って腰をかけた。

 

 ユイ「ママ!おかえりなさい」

 

 アスナ「ただいまユイちゃん。今、お茶淹れてあげるね」

 

 ユイのティーカップを用意したアスナが慣れた手つきで手早くお茶を淹れていく。もちろんユイの横に腰を落ち着かせたオレの分も淹れてくれた。

 

 ユイ「ありがとうございますママ!!」

 

 キリト「ありがとうアスナ…」

 

 アスナ「どういたしまして」

 

 口の中に程よい温度のお茶がフルーティな味がこれまた程よい癒しをオレに与えてくれた。

 だが、今日はお茶を楽しみに来たのではない。いや、アスナの淹れるお茶は美味しいのだが。

 

 キリト「アスナ、ユイ。オレ…ちょっと他のゲームにコンバートしようかって思ってるんだ」

 

 ユイ「え?」

 

 アスナ「き、キリト君!?ALOやめちゃうの!!?」

 

 キリト「ち、違うよ!?ちょっと気になる事があって…それが終わったらちゃんとここに帰ってくるよ」

 

 アスナ「気になる事?」

 

 オレはアスナとユイに今日あった事、今ニュースになっているGGOの事、そして拓哉らしき人物に会った事を包み隠さず話した。

 アスナも驚いた表情をしていたが、次第に納得してくれたようでGGOへのコンバートを了承してくれた。

 

 アスナ「事情は分かったわ。それなら私も一緒に行った方がいいんじゃない?」

 

 キリト「いや、まだ確証もないしそれに…ユイを1人には出来ないだろ?大丈夫だよ。何もなかったらすぐに帰ってくる。拓哉がいたなら連れて帰ってくるよ」

 

 アスナ「うん…分かった」

 

 キリト「それと、この事は他のみんなには黙っててくれ。特にユウキにはこれ以上心配をかけるのは精神的にきついだろうから」

 

 アスナ「分かった。みんなには他のゲームのリサーチとでも言っておくよ。キリト君も無茶はしないでね」

 

 アスナの了承も得た所でこの日は解散し、オレは明日に備える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月04日07時30分 横浜市立大学附属病院

 

 まだ外が薄暗く夜明けを迎えたばかりの朝、オレは一時期世話になっていた病院の駐輪場にバイクを止め、人気の少ないベンチに腰をかけていた。

 正門前の警備員には知人の見舞いに来たと伝えて中に入ると、やはりと言うべきか院内や周辺の外には病院関係者以外誰もいない。

 当たり前だが、見舞い客もいるハズもなく拓哉らしき人物が来るまで待機を余儀なくされた。

 病院が開くのが朝の9時なので、まだ2時間もの間ここで待っていなければならない。冬の朝は体温を急激に奪い、自販機で買ったコーヒーでなんとか体温を保つ。

 

 和人「少し早すぎたな…」

 

 普段よりも早起きをしたオレは時折表れる睡魔と戦いながらも病院の正面玄関を見張った。正門の監視カメラにはユイが待機しており、昨日見たバイクが通過すればオレにすぐに報告して身を隠す算段だ。

 

 和人「…寒い」

 

 最早缶コーヒーの温もりでは自分の体温が維持出来ない所まで粘っていると、遠くから微かにバイクのエンジン音が響いてきた。

 

 ユイ『パパ!後、15秒後に目標のバイクが正門を通過します』

 

 和人「了解。こっちも見つからない所に隠れてるよ」

 

 駐輪場からオレが今いるベンチは目と鼻の先にある為、鉢合わせて逃げれる訳にもいかない。オレはベンチから離れて近くにあった植え込みに隙間に隠れた。エンジン音が次第に大きくなっていくと駐輪場付近で切られ、コツコツと足音が響く。植え込みの隙間から覗いてみると、昨日見たバイクとその持ち主がバイクを押しながら駐輪場にやって来た。

 

 和人(「やっぱりあのバイクだ…。まさか、初日で見つかるとはラッキーだぜ」)

 

 そして、バイクを駐輪場に停め、ヘルメットに手をかけた。そこにいたのはオレのよく見知った親友がいた。

 

 和人(「拓哉…!!」)

 

 忘れられる訳がない。数々の死線を共にくぐり抜け、命を救ってもらった大恩人であり親友の拓哉がそこにいた。やっと見つけたという達成感が早く連れ戻したいという行動を邪魔するが、まだ終わった訳ではない。

 何故、病院にいるのか。何故、オレ達の前から姿を消したのか。何故、木綿季に別れを告げたのか…洗いざらい吐いてもらわなければ気が済まない。植え込みから颯爽と飛び出し、拓哉の背中へと歩を進める。

 しかし、その際に音が鳴り、拓哉が不意にこちらを振り向いてしまった。

 

 拓哉「!!?」

 

 瞬間、完全に目と目が合った。こちらを振り向くや否や拓哉は咄嗟に向き直り院内へと走り出した。

 

 和人「っ!!?拓哉っ!!!」

 

 名前を呼んでも拓哉が足を止める素振りはない。こうなれば、拓哉に追いついてこの手で捕まえるしか拓哉を止める術はない。

 全速力で拓哉を追いかけるが、拓哉も負けじと全速力で逃げ切ろうと走る。

 

 拓哉「ハァ…ハァ…なんで…ここにっ!!?」

 

 和人「お前を…ずっと…探してたんだっ!!!」

 

 息を切らしながら走り続けているオレ達は徐々に縮まっていく距離に期待と不安を抱えながら会話をする。風が吹き抜いて正確には聞き取れないが、それでも言葉を紡ぎたかった。

 

 和人「帰ろう…!!ハァ…ハァ…木綿季だって待ってるんだぞっ…!!?」

 

 拓哉「…もうオレには…ハァ…ハァ…関係…ねぇだろっ!!!これ以上オレに…関わるなっ!!!」

 

 流れ込むように院内へと入っていくと、看護師が慌てた様子でオレと拓哉に注意を促すが、オレ達はそれを無視して院内を駆け抜ける。

 

 拓哉(「くそっ…!!まさか、和人にまで追いつかれる程体力がねぇなんて…!!」)

 

 和人(「そろそろ体力的に限界だが、拓哉を捕まえるまで諦めてたまるかっ!!!」)

 

 だが、拓哉は迷路のような院内に熟知している為か、通路を右往左往しながらオレを撒いてくる。オレもそれに食らいつくのが必死で今まで来た道順は全く頭に入ってはいなかった。

 すると、右に曲がった拓哉を追いかけてオレも右に曲がると拓哉の姿を見失ってしまった。

 

 和人「こっちか…!!?」

 

 すぐ近くに左へと曲がる通路があった為、そちらに逃げたのだと予想したオレはすぐにまた走り出した。

 何度も何度も曲がっていると、拓哉の姿はおろか今自分がどの棟にいるのかすら分からなくなってしまった。

 

 和人「ユイ!!院内に拓哉がどこにいるか探せるか!?」

 

 ユイ『ダメですパパ!!病院のサーバーには何重にもプロテクトが施されて私では突破出来ません!!』

 

 和人「っ!!?」

 

 完全に手詰まりのこの状況で頼れるものが何もない。

 仕方なくエントランスに戻り、受付で拓哉の居場所を聞く。

 

「すみません。その方についてはお教え出来ません」

 

 和人「何でっ!!?この病院にずっと来てるのは分かってるんですよ!!なら、居場所だって分かるハズだ!!」

 

「そう申されましてもこちらでは対応しかねます」

 

 和人「なら、拓哉の担当医だった倉橋先生を呼んでください!!長期不在中って言ってましたがいるんですよね!!?」

 

「そちらも対応しかねます」

 

 和人「っ!!?」

 

 これ以上は何を聞いても口を割る事はないだろう。ならば、病院内を足を使って探すしかない。オレが即行動に移ろうとすると、看護師が数人オレの前に立ちふさがった。

 

 和人「どいてください!何も教えてくれないなら院内を隈無く探します!!」

 

「困ります!他の患者様もいらっしゃるんですよ!?」

 

 和人「なら、拓哉の居場所を教えてくれ!!」

 

「それは…」

 

 この状況でも口を割らないという事は上層部から口止めをされているか、もっと別の巨大な権力に圧力をかけられているかだが、この場合なら後者が正しいだろう。

 総務省からの圧力ならこの病院の人間全員を黙らせる事だって出来るハズだ。

 

 和人「くそっ!!」

 

 強引に看護師の壁を破ろうとするも、中々前に進ませてくれない。手を挙げる訳にもいかず、上手く立ち回れない状態が続いた。

 

 和人(「…拓哉!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideout_

 

 

 拓哉「ハァ…ハァ…」

 

 息を切らしながら病室のソファーにもたれ掛かる拓哉は息を落ち着かせ、今の状況を冷静に整理した。

 

 拓哉(「何で和人がここに…?もしかして、この前すれ違っただけでここにたどり着いたのか…?」)

 

 それならば、最早探偵の域に達しているが、今はそんな事を感心している場合ではない。和人がここの事を木綿季達に伝えれば、全員で押し寄せて来る事も予想出来る。

 菊岡に警戒を促せばある程度は大丈夫だろうが、それでも買いくぐれるだけの力が木綿季達にはある。

 

 拓哉「…」

 

 そんな事を考えていると、病室に倉橋が入って来た。拓哉の異様な汗の量を見て倉橋は心配していたが、何でもないと拓哉はシラを切った。

 すると、倉橋の携帯電話に内線が入り、一旦病室を出て応対している。数分経って再び病室に入ると、倉橋は拓哉の正面のソファーに腰を落とした。

 

 倉橋「今、受付から電話がありました。エントランスに和人君が来てますよ?」

 

 拓哉「…」

 

 倉橋「その顔はもう会ったみたいですね」

 

 拓哉「…倉橋先生、和人を病院から出してください。アイツはここに…オレに会いに来ちゃダメなんだよ。アイツらにはもう危険な目には合わせられない」

 

 倉橋「…実は拓哉君がSAOで行ってきた事は全て菊岡という役人から聞いています。…君の殺人歴も」

 

 拓哉「…そうですか。なら、オレがアイツらに会わない理由も分かるでしょ?」

 

 巻き込みたくないから距離を置いた。危険に合わせたくないから1人になった。拓哉の気持ちには倉橋も気づいているし、そんな重たい物を背負っているからこそ、今の拓哉が心配で仕方ない。

 倉橋にかける言葉が見つからなかった時、拓哉は扉の方へと歩を進ませる。

 

 倉橋「拓哉君!」

 

 拓哉「今日の所は帰ります。和人もオレがいない事が分かれば、ここを離れるハズです。迷惑かけてすみませんでした」

 

 それだけを言い残して拓哉は病室を後にし、裏口から病院を後にした。

 すると、再び倉橋の携帯電話が鳴り、応対すると和人がまだエントランスで暴れているとの事だった。しばらく考え、倉橋は電話を切って病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月04日08時00分 横浜市立大学附属病院 エントランス

 

 次第に看護師の数が増え始めて完璧に四方を塞がれた和人は行き場を失くしながらこの後の事を考える。すると、看護師が徐々に和人から離れていき、奥の通路から倉橋が現れた。

 

 和人「…やっぱりいるじゃないですか」

 

 倉橋「もうすぐ一般の方もいらっしゃいますのでこちらにどうぞ」

 

 和人「…」

 

 倉橋に招かれるがまま和人は2階のエントランスのテーブルにやってきた。受付の看護師にコーヒーを出され、倉橋が眼鏡をクイっと上げながら喋り始める。

 

 倉橋「和人君は拓哉君に会いに来たんですね?」

 

 和人「…はい。拓哉がここにいるのは分かってるんです!!拓哉に会わせてください!!」

 

 倉橋「それは出来ません」

 

 和人「倉橋先生っ!!」

 

 バンとテーブルを叩きながら立ち上がり、声を荒らげた和人は鬼の形相で倉橋を睨みつける。だが、倉橋は動じる事なく和人を見つめ返した。そんな倉橋の誠意とでも呼ぶべきものが和人の荒ぶった感情を落ち着かせた。

 

 倉橋「…今の彼は…迷っているんです」

 

 和人「迷ってる…?」

 

 倉橋「自分が出した答えが本当は間違っているんじゃないか…、自分が動いた結果が最悪の事態にならないか…。

 彼の心は非常に不安定で繊細です。そんな状況で周りからの声が耳に入る度に彼は深く暗い闇の底へと追い込んでしまう…」

 

 自分の道が正しいと信じているからこそ、他の道を指し示された時の不安は当人にしか理解出来ない。あちらが正解でもしかしたらこちらが不正解だという脅迫概念に囚われ、自らの決断を誤ってしまう。

 拓哉は今まさにその胸中でどれが正解なのかを模索してしまっているのだ。

 

 倉橋「今の彼には時間が必要です。1人になる時間が…。それは例え、友人である君や恋人である木綿季君が踏み入っていい場所ではありません」

 

 和人「じゃあ…拓哉をこのまま放っておけって言うんですか?それじゃああまりにも拓哉が辛すぎる…。誰にも頼らないで生きていくなんて絶対に無理だ。オレ達はあの世界でそれを嫌という程思い知らされたんだ」

 

 倉橋「そうは言っていません。先程も言ったように拓哉君には時間が必要です。彼が自分の力と心で進むべき道を見つけるまで…。和人君達はその時、拓哉君の為に何が出来るかを考えておいてください。

 大丈夫ですよ。拓哉君ならきっと答えを見つけて君達の所に帰ってきます」

 

 和人「…はい」

 

 その日の朝は倉橋と看護師に謝罪して和人はバイクで自宅へと向かった。

 答えが見つかるまで待つ…と倉橋は言ったが、やはり待っているだけじゃいけないような気がすると和人の気持ちが表れたのか、バイクはエンジン音を轟かせながら走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月04日16時00分 東京都文京区湯島 某アパート

 

 拓哉「…」

 

 あれから8時間以上の時間が流れた。帰宅するや否や拓哉はベッドに体を沈ませ、頭の中を整理していく。和人が拓哉の居場所を見つけて追いかけてきた。撒こうとしても食らいついて放そうとはしなかった。

 自分はそれだけ思われるような器じゃない。好きなものにしか興味がなく、それ以外はどうなろうと知った事ではなかった。

 だから、この手で他人に手をかけられた。そう思っているからこそ、この手で天秤にかけてしまった。

 夕焼けに部屋の中が染められ、天井に手を掲げた。紅に染まった手は今の自分には合っていると自虐気味に笑った。

 

 拓哉「…なんで…オレなんかの為に…」

 

 和人が…木綿季が…自分なんかの為にどこまでも追いかけてくれる。どれだけ突き放したつもりでも、しがみついて絶対に離そうとはしない。

 けれど、それが鬱陶しくて、煩わしくて、正直もううんざりだ。

 

 拓哉(「オレはもう戻らない…。アイツらが何と言おうとも…、どれだけ思っていてくれても…オレはアイツらの為に…戻らない…」)

 

 傷1つつけさせない。例え、どれだけ木綿季達から罵倒されても、どれだけ傷つかれようとも、どれだけ拒絶されようとも、拓哉は拓哉の愛する者達が傷つく事は許さない。

 それが自分がたどり着いた答え…"この身を犠牲にしようとも愛した者達を守り抜く”

 

 拓哉(「だから、もう…馬鹿な事はやめてくれ…」)

 

 瞼を閉じて深い闇の中へと沈む。何もない、何も見えないここは今の拓哉を落ち着かせられる唯一の場所だ。寝ている時だけはこんな事を考えなくてもいい。あと少しで完全に沈められると思った時、不意に玄関からインターフォンが鳴った。

 

 詩乃「ねぇ、拓哉!!いるんでしょ!?約束の時間過ぎてるわよ!?早くインしなさいよ!!」

 

 どうやらそれだけを言い残して詩乃は自宅へと戻っていったようだ。

 停止しかけた脳を働かせ、重たい足取りでインスタントコーヒーを手に取る。お湯を湧かし、マグカップに注ぎ、コーヒーを一口含んだ。

 閉じかけた瞼は見開き、脳も冴え渡っている感覚が拓哉に押し寄せて来る。

 ベッドへと戻り、時計に目をやれば詩乃と約束した17時を優に40分も遅れてしまっていた。詩乃が痺れを切らして怒鳴りきたのも納得のいく所だ。アミュスフィアを装着し、詩乃がいるガンショップへ向かうべく音声コマンドを入力した。

 

 拓哉「リンクスタート!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月04日17時50分 GGOグロッケン ガンショップ

 

 シノン「やっと来たわね」

 

 ユウヤ「悪ぃ…寝坊した…」

 

 ガンショップに遅れながらやってきたユウヤは待ち合わせをしていたシノンに冷たい視線を送られる。これにはユウヤも何も言い返せず、シノンの後を静かについていった。

 やってきたのはガンショップの地下10階にあるトレーニングスペースだ。閑散とした空間が直径1kmまど広がっており、壁に制限時間を示す1時間が刻まれている。

 

 シノン「アンタのせいで貴重な時間が1時間も無駄になったわ」

 

 ユウヤ「…すみません」

 

 シノン「…まぁいいわ。1時間でもそれなりの経験にはなるし、無駄にした分はまた今度返してくれればいいしね」

 

 ユウヤ「それで?ここで何するんだよ?」

 

 シノン「ここは対人戦をイメージしたシミュレーションステージよ。制限時間内を自由に使って、トレーニングなりBoBに向けての調整が出来るわ。本来なら大会前は予約が殺到するけど、2ヶ月前から予約してたのに…それをアンタが…」

 

 ユウヤ「もう勘弁してください…」

 

 フゥ…とため息を吐きながらもシノンがシステムウィンドウを操作して無機質な部屋を広大な砂漠へと書き換えた。

 2人は武器の調整が終わりに室内のどこかへと転移する。

 まずは互いの居場所を見つけ出して、先手を打たねばならない。そう考えると、接近戦のユウヤと違って遠距離に特化したシノンは狙撃地点を探す為、砂漠にある高い場所を目指す。

 

 シノン(「ランダムとは言え…クジ運が悪かったわね」)

 

 しばらく進むと、程よい高さの山を見つけ、周囲を警戒しながら登った。

 この高さなら全体と言わずとも300mならスコープ越しで視認できる。

 遮蔽物の少ない砂漠フィールドでは隠れながら移動する事が出来ない為、狙撃手(スナイパー)のシノンでも有利に運べる仕様になっていた。

 

 シノン「さて…アイツは…」

 

 相棒であるヘカートIIのスコープで周囲の状況を確認する。すると、一瞬見間違いとも取れたが再び目を見開いて確認すると、1箇所だけ土煙を纏いながら何かがこちらに迫ってきていた。

 

 シノン(「何よアレっ!?あんなのわざわざ見つけてくださいって言ってるようなものじゃない!!?」)

 

 その距離は200m。ヘカートIIの射程距離内におそらくユウヤであろう影は入っている為、撃とうとも思えばすぐ様撃てる。

 だが、土煙の大きさは目安で確認しても直径5mもあり、撃ったとしても致命傷にはならず、下手すればこちらの居場所が分かってしまうリスクがあった。

 さらに不規則な動きでこちらに隙を伺う時間を与えてはくれない。

 

 シノン(「こうなったら1発牽制して、2発目で決めてやるっ!!」)

 

 引き金に指を構えて弾道範囲(バレットサークル)を土煙の真ん中に固定させる。おそらくはサブマシンガンで自身の足元の砂を舞い上がらせ、視認を困難にしているのであろうが、ユウヤがどの位置にいるのかは正確には分かっているつもりだ。

 

 シノン(「真ん中っ!!!」)

 

 ヘカートIIは獲物を撃ち貫く為に銃口から銃弾を放った。真っ直ぐにと土煙の中心の射抜き、同時に土煙が消滅した。

 

 シノン「…やったか?」

 

 土煙の中からは誰も現れず、砂を舞い上がらせている砂漠が表れた。

 

 シノン「…まだまだ─」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「チェックメイトだな」

 

 シノン「!!?」

 

 今、確実に動けば頭はサブマシンガンで蜂の巣にされるだろう。冷たい感触が首元に伝わってひんやりと冷や汗が流れ始めた。

 

 シノン「どうして…こんなに早く私の居場所が…?」

 

 ユウヤ「それはお前のライフルのスコープがキラキラと光ってたからな。視認したら弾道予測線(バレットライン)も見えるし、サブマシンガンで砂煙を巻き起こしながら進んで、シノンが撃つのと同時にこのフックで山に滑り込んで、裏から回った…とまぁ、こんな所だな」

 

 シノン「…呆れた。そんな馬鹿みたいな作戦を成功させちゃうなんて」

 

 ユウヤ「褒め言葉として受け取っとくよ」

 

 あっさりと終わってしまった模擬戦の後も2人は大会に向けての準備に入った。武器の調整に、ステータスとレベリング、補充物資の調達と目前に迫ったBoBはGGOのプレイヤーだけでなく、ネット中継されるとの事で、その他のVRMMOゲームのプレイヤーを賑やかせた。

 

 シノン「ユウヤ。本戦に必ず出場しなさいよ!今度は絶対に負けないわ!」

 

 ユウヤ「あぁ、お招きとあらば参上しない訳にはいかねぇな!」

 

 ログアウト前に互いの拳を合わせ、本戦での再戦を誓った2人は別々の道を歩み始めた。

 

 ユウヤ(「この大会に死銃も必ずやってくる。アイツのやっている事は間違ってる。絶対に止めねぇと…!!」)

 

 そして、それを成し遂げれば自分の選んだ道が正解であると証明出来る気がする。自分が犠牲になれば、もう辛い思いをする仲間がいなくなるんだと心に言い聞かせながらユウヤは宿屋でログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時間は経ち…第3回BoB(バレット·オブ·バレッツ)予選当日を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
ついに和人が拓哉を発見してしまいましたが、これから先どうなっていくのか…
BoBの予選を控えた少年少女は一体何を考えながら戦場を駆けるか…
それはぜひみなさん自身の目で確認してください!

評価、感想などお待ちしております!


では、また次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。