ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で60話目になります。
今回は主にユウキサイドの展開になっていきます。
暗い話が続いているので明るくとは言えませんがドキドキさせる話に仕上がっていると思います。


では、どうぞ!


【60】培われたもの

 2025年11月15日 07時40分 東京都文京区湯島 某アパート

 

 あの騒動から約3週間が過ぎた。拓哉は今の生活にも慣れていき、この日は珍しく隣人の朝田詩乃と共にゴミ捨て場へと向かった。

 外の並木はすっかり葉を落とし、地面では落ち葉が風に吹かれて彼方へと飛び去っていく。

 

 詩乃「すっかり冬ね」

 

 拓哉「あぁ」

 

 指定ゴミを捨て終わり、拓哉が自宅へ戻ろうとするとふいに詩乃が拓哉に尋ねた。

 

 詩乃「前から気になってたけど…アナタ、学校は?」

 

 拓哉「…」

 

 詩乃「あっ、ごめん。…聞いちゃいけなかったわよね」

 

 振り向いて通学路へと戻っていく詩乃をただジッと眺める。

 あんな風に学校に通いたいと思う。だけど、それはもう出来ない。してはならない。あそこにオレは必要ないから…。

 

 詩乃とはアパートに住み始めた日の夜から仲であり、度々夕食のおかずをお裾分けしてもらった。

 拓哉はそれを受け取ると詩乃は小走りで自室へと戻っていったが、拓哉は何故か詩乃から貰った料理に箸をつけようとはしなかった。

 それは単にもう誰とも関わらないように生きていこうと決めたからである。

 自分と関わったせいで詩乃にあらぬ迷惑が降りかかるかもしれない。

 それは何としてでも避けなければならない。もうそんな事は絶対に起こさない。

 そう決意したのも束の間、タイミングが良いのか悪いのか外出する度に詩乃と出くわす為、中々に厳しい状態であった。

 けれど、心配はないだろう。たかが、1回会っただけで知り合いという程の仲でもなく、強いて言えば顔見知り程度だ。

 詩乃からの挨拶を無視していけば、詩乃も拓哉への認識を改めるだろうと即実行に移したのだが、無視した瞬間に襟首を締めあげられてしまった。

 

 詩乃「なんでシカトするんですか?」

 

 拓哉「いや…近所付き合いはしない主義で…」

 

 その場は難を逃れたのだが、その日から会う度に何度もしつこく挨拶を交わしてきた。詩乃からしてみれば、挨拶しているのに無視するのはおかしい…との事で、拓哉も何度もやられれば決意を折りたくもなる。

 2週間経った頃には挨拶を交わす仲までになり、敬語も取れ、今ではたまにゴミ捨てへと一緒に行く時もある。

 だが、互いに互いの事を知っている訳ではない。拓哉は詩乃については女子学生程度にしか考えておらず、詩乃に至っては拓哉の事は何も知らない。

 

 

 拓哉「…このまま─」

 

 

 

 

 何も進展しないように…─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side詩乃_

 

 

 2025年11月15日07時50分 東京都台東区 某高等学校通学路

 

 朝から少しだけムカついた。理由は分かっている…。つい最近、隣に引っ越してきたあの青年だ。初めて会ったのは私の部屋の中。

 その時は気が動転していたけど、よく見ていれば気を失っていた私を看病してくれていたのは一目瞭然だった。

 初めて会った人に看病してもらったのはこれが最初で最後だろう。

 そんな機会は滅多に起こり得ないし、起こりたくないと感じてしまう。

 彼が善人だったから良かったものの、普通なら警戒して当たり前で身の危険を感じたらすぐに通報する。私だってそう思って警戒は解かなかった。

 だが、あの青年からまったく何も感じなかった。雰囲気も感情も…個を形成するにあたって必要なものを感じる事が出来なかった。

 簡単に言えば、"外組はあるけど中身が空っぽ”と言った具合だろうか。

 人間観察は得意分野ではないが、それでも彼には何もなかった…と、同時に私の中で密かに嬉しく思った事を憶えている。

 

 詩乃(「彼も…何かを捨ててしまったのね…」)

 

 断ち切りたい。封殺したい。思い出したくない。そんな事を考えるだけでも嫌なのに、()()()()がそれを許してくれないのだ。

 自分が弱いから…。どんな障害でも容易く超えられるだけの強さが必要だと思った。弱いままじゃいつか私は自分の手で命を断つ事になるだろう。

 

 詩乃「…1ヶ月もないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side木綿季_

 

 

 2025年11月15日10時40分 横浜市 陽だまり園

 

 木綿季「…はぁ」

 

 カーテンの隙間から覗き見る空は濁った色をしており、時折強い風が窓を叩いている。そんな様子をベッドに横たわりながら眺めていた。

 今日は学校があったのだが、どうしても行く気になれずに森先生に嘘をついて休みにしてもらった。だって、手や足に全然力が入らないんだもん。

 体が動きたくないって言ってるんだから仕方ない。

 そんな時にスマホの中からストレアの声が聞こえてきた。

 

 ストレア『ユウキー学校行かないの?』

 

 木綿季「うん…そんな気分になれない。…ごめんね心配かけちゃって」

 

 ストレア『私は全然いいけど…みんなが心配してるよ?』

 

 木綿季「うん…。みんなにも心配かけてるよね…やっぱり」

 

 特に明日奈はボクの事を自分の事のように気遣ってくれてとても嬉しいのだが、今はその優しさに触れるだけで胸が苦しくなる。

 それもこれも全てキミのせいなんだよ。だから…早く帰ってきてよ…。

 

 ストレア『…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side明日奈_

 

 

 2025年11月16日12時10分 SAO帰還者学校 カフェテリア

 

 明日奈「木綿季は今日も休みなのね…」

 

 昼休み、いつものメンバーでカフェテリアの一角に座っていた私達に木綿季と同じクラスの珪子ちゃんが木綿季の欠席を教えてくれた。

 あの日以降、私達はよく一緒に昼食を摂って拓哉君について情報交換を行っている。情報交換と言っても拓哉君に関する情報など1つも見つかっていないのだが。

 

 里佳「ったく、どこほっつき歩いてんのかしらねーあのバカは」

 

 ひより「元気にしてるといいんだけど…」

 

 珪子「大丈夫ですよ!拓哉さんなら…大丈夫です…。でも…木綿季さんが…」

 

 明日奈「…うん」

 

 この頃の木綿季は覇気を感じず、学校も欠席しがちで見かけても空返事しか返ってこないのが多々ある。

 そんな木綿季は見たくない。木綿季はいつだって明るくて誰よりも楽しく、みんなに勇気を与えてくれる太陽のような存在だ。

 今ではその影すら見せずにただ流れる時間の中で為されるがまま生きている。

 

 和人「…ユイ、やっぱり目撃情報とかはなかったか?」

 

 ユイ『はい…。拓哉さんが映っている監視カメラなどをストレアと一緒に探してみましたが…』

 

 和人「そうか…」

 

 明日奈「本当にどこに行っちゃったんだろ…拓哉君」

 

 ユイちゃんとストレアさんに近辺の監視カメラを覗かせてはいるが、未だに拓哉の姿は捉えられていない。

 監視カメラの届かない住宅街や設置されていない場所にも足を運んでみたが結果は変わらなかった。

 そんな時、背後から肩を叩かれ、振り向くと私と里佳のクラスの副担任である青柳先生がいた。

 

 青柳「結城さん、篠崎さん、ちょっといいかな?」

 

 明日奈&里佳「「?」」

 

 青柳先生に連れられ、私と里佳はカフェテリアから近くの空き教室に向かった。中は手入れが行き届いており、高価なソファーとテーブルがある事から普段は来賓用に使われている事は容易く予想出来た。

 青柳先生にソファーに座るよう勧められ、私達はそれに従う。

 

 明日奈「青柳先生、何か私達に用でも?」

 

 青柳「実はね…3週間ほど前から()()している茅場君の事なんだけど…」

 

 里佳「!?アイツがどこにいるのか分かったのっ!!?」

 

 青柳「話は施恩先生から聞いてるよ。君達も辛かったと思う…けど、僕は教師だから茅場君の友人である君達には伝えておかなきゃいけない事がある」

 

 いつもの頼りない表情と打って変わって真剣な眼差しが私達を捉えている。生唾を飲み込み、青柳先生の話を聞く事にする。

 

 青柳「本来は教育実習生である僕が伝えるべき事じゃない。でも、施恩先生からじゃおそらく伝えられない事だと上が判断して僕に一任された。

 …今、欠席扱いになっている茅場拓哉の退学が今学期末に決まった」

 

 明日奈&里佳「「!!?」」

 

 体温がみるみる下がっていく中、私は震える唇を推して声を出した。

 退学を申し出た拓哉君がシウネーに伝えてから彼女はその事を上には知らせず、今日まで欠席扱いとして在学させていた。

 しかし、生徒達にこの事が広まるのに時間はかからず、それが他の教師の耳に入ったのだろう。今日までシウネーが伏せてきたのが露見し、このような結果を生んでしまった。

 

 青柳「一教師にも限界がある…。この学校は他と違って限られた時間しか経営出来ない。この学校にいる生徒が全員卒業してしまえば、当初の予定通り取り壊される。それまでに全生徒に最大限の学力を教えなきゃいけないんだ。1人に割ける時間はないって上の判断だね…」

 

 里佳「そんな…!!だって、ここに通ってる生徒は全員アイツに…!!茅場拓哉に救ってもらったのよ!!他にも報道とかされてないけど、いろんな事件だってアイツは自分の事なんか考えないで解決してきてるのよ!!退学ぐらい待ってくれても…!!」

 

 里佳は声を大にして言いたいのだろう。自分の命も拓哉君に助けられた事を。かく言う私もSAOとALOに閉じ込められていた所を和人君と拓哉君に救ってもらった身だ。感謝してもし切れないぐらいの恩がある。

 だが、SAO(あの世界)にいなかったシウネーを除く教師陣は彼の英雄譚を知らない。彼も他の生徒同様に扱っているのならこの処置は正しいのかもしれない。この学校だっていつまであるか分からないのだから。

 

 青柳「残念だけど…教師見習いの僕じゃ何を言っても聞き入れてはくれないだろう。その権利すらないんだから…」

 

 里佳「権利とかそんな話じゃない!!ここは社会復帰が目的の学校でしょ!!退学なんてさせたらそれすら叶わないじゃない!!」

 

 青柳「…こんな事言いたくないが、拓哉君の成績はもう社会に出ても十分に通用するレベルだ。もし、退学になっても彼の実力があればどこへだって…─」

 

 明日奈「…ます─」

 

 違う…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日奈「違います!!!!」

 

 

 

 

 青柳&里佳「「!!?」」

 

 目を丸くしている2人を他所に私は震える手を握り、力を込める。

 そんな事は関係ない。実力があるからもう退学でもいいいなんて横暴は認めない。

 

 明日奈「拓哉君は絶対にここに帰ってきます!!今学期末までに拓哉君が退学を取り下げればいいんですよね青柳先生!!」

 

 青柳「あぁ…その通りだが…」

 

 明日奈「分かりました。じゃあ、私達は失礼します。行きましょ里佳」

 

 里佳「えっ!?ちょ…明日奈!!?」

 

 青柳先生を残し、私と里佳は空き教室を後にカフェテリアへと戻った。

 すると、昼休み半ばになっていても和人君達が待っていてくれていたので、先程までの話を簡潔に伝えた。

 

 ひより「そんな…!!」

 

 珪子「退学…!!?」

 

 和人「…あと1ヶ月弱か。…明日奈、こんな事言うのは悪いが宛があってその条件を出したのか?」

 

 和人君の言う事は最もだ。拓哉君の居場所さえ掴めていない中でこのような強行に出るのは得策ではない。

 

 明日奈「ううん。でも…宛なんかなくてもやらなきゃいけない!!それに…嫌なの。もう…あんな…元気のない木綿季や、去っていった時の拓哉君の顔は見たくない…。だから…!!」

 

 この手で楽しかったあの時間を取り戻す。それだけで私達が動くには充分すぎる。もうこの手に細剣(レイピア)もなく、力もないけど、あの頃から培ってきた魂までは失くなったりしない。

 

 和人「…明日奈の言う通りだ!!もうごちゃごちゃ考える事はない!!オレ達で拓哉を救ってやるんだ!!」

 

 明日奈「うん!!」

 

 和人「とりあえずはユイは引き続き監視カメラのチェックを頼む!!」

 

 ユイ『了解です!!』

 

 里佳「私達は聞き込みをしましょ!!」

 

 ひより&珪子「「はいっ!!」」

 

 明日奈「私は木綿季の所に行ってくるわ…。木綿季にも協力してもらわないと…」

 

 和人「オレはそうだな…。()()()に会って何か知ってる事がないか聞いてみるよ」

 

 チャイムの予鈴がなるのと同時に私達は各々クラスへと戻り、午後の授業を受け、放課後に一度集まって今後の方針を明確にする。

 それから私達は各々散開し、私はユイちゃんのナビに従って陽だまり園へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side木綿季_

 

 

 2025年11月16日17時00分 横浜市 陽だまり園

 

 自室で布団にくるまり続け、気づけばもう夕方になっていた。

 時間が経つのがこんなに早く感じたのは久しぶりだった。だが、今はもうそんな事はどうでもいい。

 ボクにはやりたい事なんてないし、何かをしようとする気力すらないのだから。

 すると、部屋の外から慌ただしい音が聞こえ、それは次第にボクの部屋へと近づいてくる。

 そして、その音が部屋の前で止まると閉ざされていた扉が勢いよく開いた。

 

 木綿季「!!」

 

 明日奈「木綿季っ!!」

 

 木綿季「あ、明日奈…?」

 

 そこにはいつも優しく大らかな彼女とは正反対の剣幕な表情をした彼女がいた。来て早々布団から引きずり出されたボクは明日奈の前に立つ。

 

 明日奈「木綿季!!早く着替えて!!里佳達と一緒に聞き込みに行こ!!」

 

 木綿季「聞き込みって…何を?」

 

 明日奈「拓哉君だよ!!この付近で目撃情報を集めるの!!ほら早く支度して!!」

 

 木綿季「…無理だよ。拓哉の事はボクが1番知ってるもん。自分がいる痕跡なんて残してない…」

 

 そうだ。どこにも拓哉に繋がる情報などない。決めた事はどんな些細な事でも完璧にやり遂げる。…ボク達と会う気がないのなら尚更だ。

 それでも明日奈は引かなかった。あれやこれやと理由をつけてはボクを連れていこうとする。

 

 木綿季「無理だよ…。行っても悲しくなるだ─」

 

 瞬間、明日奈が目の前から消えた。後に左頬から強い痛みが生じ始め、この時になってやっと頬を叩かれた事に気づいた。

 向き直ると涙を滲ませている明日奈が目の前にいた。

 

 明日奈「そんな事言わないでよ…木綿季!!誰よりも木綿季がそんな事言わないでよ…!!ずっと、拓哉君と一緒にいた木綿季がなんで…誰よりも先に諦めようとするの?私はそんな木綿季が嫌い!!大嫌い!!」

 

 木綿季「…もう…昔みたいにはいかないよ…。あの頃は、ボクの手に剣があって強かったけど…今はそれすらないただの子供だから…」

 

 明日奈「…そんな事ない。例え、剣や力がなくてもあの頃から培ってきた魂までは失くなったりしない。それは木綿季もでしょ?」

 

 木綿季「…見くびりすぎだよ。何だって出来る気がした。それに見合った力もつけたつもりだった。だけど…今のボクはSAOのユウキじゃない。拓哉に守られてばかりの木綿季なんだよ…。もう守ってくれる人はボクの前からいなくなっちゃったけど…」

 

 ここが仮想世界でこの手に剣があれば、ボクだって立ち上がれたさ。

 でも、ここは現実世界でボクはどこにでもいるような普通の子供だ。

 子供にはどうしようもない事が多々あり、拓哉を見つける事がそれだ。

 だから、諦めるしか道がないじゃないか。

 

 明日奈「…分かった。今日はこれで帰る。…でも、来て欲しい場所があるの。21時に新生アインクラッド第1層のトールバーナの劇場に来て」

 

 木綿季「…」

 

 明日奈はそれだけを言い残して部屋を後にした。1人取り残されたボクはベッドに戻り、明日奈が来る前の状態に戻る。

 誰もいない部屋の一角でボクは何度目か知らない涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side拓哉_

 

 

 2025年11月16日18時10分 東京都文京区湯島 某アパート

 

 キッチンで夕飯を作っていると不意にチャイムが鳴った。IHの電源を消し、玄関の扉を開けるとそこには筆記用具とノートを携えた詩乃がいた。

 

 拓哉「…どうかしたか?」

 

 詩乃「その…よかったらでいいんだけど、宿題を見て欲しいの。今日出された宿題でどうしても分からない所があったから…」

 

 拓哉「…はぁ…分かった。とりあえず上がれよ。飯食ってからでもいいか?」

 

 詩乃を部屋へと案内して、作りかけの料理を仕上げて部屋に戻ると、詩乃が立ったままオレの部屋を見渡している。

 

 拓哉「なんだよ?物珍しいもんなんてねぇよ」

 

 詩乃「そ、そんなの探してないわよ!あっ、これ…」

 

 ベッドの脇に置かれていたアミュスフィアに気づいた詩乃がゆっくりと持ち上げた。

 

 拓哉「アミュスフィアなんて今時珍しくもなんともないだろ」

 

 詩乃「拓哉は何かゲームとかしてるの?」

 

 拓哉「…昔な。それも引っ越してくる時にうっかり持ってきちまったもんだ」

 

 ランチャーにはALOが入っているが、もう3週間程ログインはしていない。今となってはそんな事どうでもいいのだが、詩乃が妙に食いつき、何のゲームをしてたの?とか、どんなジャンル?など聞いてきた事に驚いた。

 

 拓哉「それより宿題を見るんだろ?早くしろ」

 

 詩乃「あっ、うん…」

 

 宿題も終わり、詩乃を自宅へ帰すと息を1つ吐いてベッドに横たわった。

 

 拓哉(「またやっちまったな…」)

 

 天井に手を伸ばす。時々オレにはその手が血にまみれて見える事がある。この手で人を殺した。現実世界の肉体ではないにしろ、この手で人の命を刈り取った。仲間の命と他人の命を天秤にかけてしまった。もっと考えれば他の方法があったかもしれないと、今更になってまだ引きずる。

 刈り取ってしまった命の裏で救った命がある事を諭されて少しは気が楽になったが、そのせいで今度は仲間に迷惑が降り掛かった。

 オレの選択は間違いでオレの行動は軽率だった事を意味している。

 だから、もう誰にも迷惑をかけない。1人で陰に隠れながら生きていく。

 そう決めたんだ…。だから、別れを告げたんだ。もう2度と後悔しない為に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideout_

 

 

 2025年11月16日21時00分 新生アインクラッド第1層トールバーナ

 

 雲の切れ間を掻い潜り、ユウキは久々にログインしたALOの空を飛んでいた。目の前にALO全土を浮遊しているアインクラッドが見え始め、ユウキはその第1層へと外周から侵入する。

 トールバーナの街が見えると広場に着陸し、アスナが指定した劇場へと徒歩で目指す。

 

 ユウキ(「ここで初めて攻略会議をしたんだよね…」)

 

 ここは旧アインクラッドの構造に酷似しており、街並みや路地裏の構造まで瓜二つだった。ここで初めてディアベル指揮の元、攻略会議を開き、ここで初めてキリトとアスナ…タクヤと一緒にボスに挑んだ場所。

 

 ユウキ「…」

 

 タクヤの事を思い出す度に胸が締め付けられ、気持ちが沈んでしまう。

 思い出は宝石のようにキラキラ輝き、ユウキにとっては宝物のように大事なものだ。

 だが、今はそれがユウキ自身の気持ちを沈ませている要因になってしまっている。

 顔を俯かせながら目的の場所まで歩を進めていると、前方から異様な気迫を感じ、瞬時に顔を上げる。

 

 

 ユウキ「…アスナ」

 

 

 アスナ「来てくれてありがとう…ユウキ…」

 

 空色の腰近くまで伸びた髪は夜空の星々の光によってキラキラと輝いている。それに見合う容姿がアスナの美貌をさらに引き立てる要因にもなっていた。

 

 アスナ「…憶えてる?ここで初めてボス攻略会議に参加した事」

 

 ユウキ「うん…。あの時のアスナは今よりもツンツンしてたけどね」

 

 アスナ「あれは忘れて…」

 

 当時のアスナは周りに頼らず、一匹狼のようにただひたすらにモンスターを狩っていく毎日だった。そして、そんな所をレベリングしていたユウキ達に助けられ、一時的なパーティを組む事になったのだ。

 

 アスナ「…あの時の私はただあの世界に負けたくなくて、死ぬ時は自分らしく死のうって思って生きてた。突然放り込まれた世界は命の重さや人との関係を曖昧させるには十分で…。でも、そんな私をキリト君やタクヤ君、そして…ユウキ、アナタ達と出会ってから変われた」

 

 人の命がただのデータの残骸として削除され、現実世界の見えない場所で死んでいくものだと悟った時のアスナはただ純粋に死にたくないと思った。

 自分にはまだやらなければいけない事、やりたい事がたくさんある。こんなふざけた場所で死ぬなんてありえない。

 そう考えれば後は自身を強化する以外に選択肢はなく、迷宮区に3日間潜り続け、右手に握られた細剣(レイピア)でモンスターを屠り続けた。

 だが、そんな事は()()()()()()()()()()()()だから出来る事である。疲れや痛みはなくとも、戦闘を幾千も重ねていけば精神力が削られて当たり前で、VRMMOゲームはSAOが初めてだったアスナはそれを見誤ったのだ。HPもまだ十分にあるハズなのに、体が全く言う事を聞いてくれない。モンスターも好機と感じたように一斉に襲いかかってきた。

 

 アスナ(『…私はもう十分に戦った。…最後まで自分らしく戦った。…悔いは…ない─』)

 

 もう細剣(レイピア)を手放そうとした瞬間、モンスターを斬り伏せる一閃が描かれ、モンスターが次々と四散していったのだ。

 アスナが地に伏している中、見えたのは黒衣の剣士と紫色のロングヘアーの少女に片腕を晒した礼装の少年が立っていたのだ。

 その時に初めてアスナは自分の命はまだ終わってない事を知った。

 それからボス戦まで4人で、それからはキリトと共にコンビを組み、ヒースクリフからギルドに勧誘されるまでの半年間、行動を共にしていた。

 

 アスナ「血盟騎士団に入ってからも3人の事は気にかけてたけど、タクヤ君とユウキに関しては何も心配しなかった。2人が一緒ならどんな困難だって乗り越えられる。…そう信じてたから」

 

 ユウキ「…ボクは…」

 

 アスナ「でも、今のユウキには昔感じたものを全く感じない!ただ、現実を受け止められなくて、殻に閉じこもってる。気持ちはわかるよ…。1番辛いのがユウキだって事も分かる…。でも、昔の…SAOで戦っていた"絶剣”なら地に膝をついても、自分を鼓舞して守りたい者の為に剣を振るってた!!」

 

 例え、何度壁にぶつかっても悉くそれを砕き前に進んでいた。

 アスナはそんな姿を尊敬していたし、支えてあげたいと思った。

 だが、今のユウキはただの臆病者だ。傷つく事を恐れ、拒絶される事に怯えている。

 

 ユウキ「…買いかぶりすぎだよ。さっきも言ったでしょ?現実世界の紺野木綿季には何の力もないって…。だから─」

 

 アスナ「そんなの私が知ってるユウキじゃない!」

 

 メニューウィンドウを操作し始め、ユウキの元に1通の申告メッセージが来た。それはアスナからの決闘(デュエル)申請だった。

 

 アスナ「ユウキ、私が勝ったら拓哉君を一緒に探して。ユウキが勝ったら私はもう何も言わない。ユウキの好きなようにしてていい」

 

 ユウキ「…アスナ」

 

 アスナの瞳は本気であった。何を言ってもこの決闘(デュエル)を降ろす気がないのは明確だ。受けても今のユウキに果たして本気のアスナに勝つ事が出来るだろうか。拓哉を失い、悲しみの胸中にいるユウキにアスナに勝つ為の実力を出せるのか分からない。

 ユウキは震えながらやむなくYesボタンをクリックした。

 

 アスナ「劇場の舞台に上がって!」

 

 劇場の舞台に速やかに移動して、互いに鞘から抜剣する。カウントが刻まれる中、ユウキはただ困惑していた。

 アスナがここまで剣幕になった事もないのに、こんな時にアスナと初めての決闘(デュエル)はある種の緊張を生む。

 出来る事ならこんな形でやりたくなかったとユウキが思う裏でアスナはこの時だけ自身の高揚を感じずにはいられなかった。

 SAOでトッププレイヤーだった"黒の剣士”や"神聖剣”、"拳闘士”、"絶剣”とユニークスキルを所持していたプレイヤーはそれだけで他プレイヤーから崇められ、同時に畏怖されていた。

 アスナ自身も"閃光”という異名を付けられていたが、それは技術面で評価されているだけで、前に挙げられた者達は真の意味でトッププレイヤーだったのだ。その1人が今、アスナの目の前に剣を構えて立っている。

 真のゲーマーならこの状況に歓喜するなという方が無理な話で、キリトなら絶対に羨ましがるハズだろう。

 

 アスナ(「ユウキ…。この決闘(デュエル)であの時の想い…魂を思い出して!!その為なら私はなんだってやるよ!!アナタは私の親友だから!!」)

 

 ユウキ(「ボクはまた…迷惑をかけてるのかな…。アスナが決闘(デュエル)を挑む理由が分からない…。ボクは一体どうすれば…」)

 

 刹那だった。カウントが0を刻んだ瞬間にアスナが地を蹴り、ユウキへと一直線に駆けた。虚をつかれたユウキは行動がワンテンポ遅れる。

 その隙を歴戦の戦士に立ち戻っているアスナが見逃す訳もなく、ユウキの下腹部に細剣(レイピア)の鋭利な切っ先が刻まれる。

 

 ユウキ「っ!!?」

 

 アスナ「はぁぁぁぁっ!!!」

 

 すかさず細剣(レイピア)の軌道をさらに急所…心臓に向かって放たれる。だが、ユウキも右手に握られた片手剣でこれを躱し、アスナとの距離を取ろうと横に飛んだ。

 

 ユウキ「ハァ…ハァ…」

 

 アスナ「…昔のユウキならこんな初歩的なミスはしなかったよ」

 

 ユウキ「…」

 

 決闘(デュエル)の際はカウントが0を刻んだ瞬間に、より集中していた者が先手を取る事が出来る。だが、ユウキはカウントが刻まれている間や、カウントが0になった瞬間すら、集中力を乱したままであった。

 ここがSAOであったならば、その一撃で命を落とす事も起きうる事はユウキも知っているハズなのにと、アスナは歯噛みをしながらユウキを睨みつける。

 

 アスナ「次は逃がさない…!!」

 

 カチャと金属特有の音を鳴らせながら剣先をユウキに定める。

 気が引き締まったのか集中力を引き出し、片手剣を構える。互いの間に木の葉がヒラヒラと舞い落ちていき、それが舞台に落ちた。

 瞬間、2人の足が土煙を払いながら前へと出た。ギィンと金属がぶつかり合う反響音が夜の劇場に谺響(こだま)する。

 

 ユウキ「はあぁぁぁっ!!」

 

 アスナ「やぁぁぁぁっ!!」

 

 気合を声と共に外へと吐き出し、互いに急所を狙ってそれを防ぎ続ける。

 だが、この決闘(デュエル)で優勢に立っているのはアスナであった。

 

 アスナ「ふっ!!」

 

 ユウキ「!!」

 

 撃ち合う度にアスナの剣閃がより磨かれ、より的確に急所へと伸びてくる。ユウキはいつしか防御に全神経を注ぎ込んでいた。

 

 ユウキ(「まさかアスナがここまでやるなんて思わなかった…!!きっとみんなが見てない所で1人で特訓してたんだ…。キリトの為に…」)

 

 アスナが認め、尊敬し、そして…愛しているキリトを支える為。それがアスナが強さを求める理由であり、そうあろうとする行動理念なのだ。

 あの世界で互いに背中を預け、共に成長し、支えあってきたからこそ為せる偉業と言っても過言ではない。

 

 ユウキ(「大好きだから…守りたいから…強くなろうって思えるんだ。…ボクもそうだった」)

 

 撃ち合うだけでアスナの気持ちが流れ込んでくるようだ。それぐらいの気迫と覚悟が今のアスナにあり、今のユウキにないもの。

 それがこの結果を生んでいる最大の理由。"絶剣”と謳われ、SAO最速を誇った剣技は今は見る影もなく廃れてしまった。

 アスナの剣先が頬を掠め、HPがイエローに差し掛かったのを確認して隙を窺う。

 

 ユウキ「そこっ!!」

 

 アスナ「なっ!!?」

 

 アスナが細剣(レイピア)を手元に戻した瞬間を狙ってユウキの片手剣がガラ空きとなった左肩を大きく抉った。

 素早く状況を確認し、距離を取るアスナ。ユウキも距離を詰める事なく、刀身に残った感触を忘れないよう剣を握り直す。

 

 アスナ(「やっぱりユウキはすごい…!!あの状況でカウンターすら警戒するのに躊躇わず剣を振り下ろした…。分かっていたよ。ユウキに勝つにはまだまだ私は実力不足…。互いに愛した人の為に剣を振るい、ユウキにはユニークスキルが…私には何もなかった。それがどんな意味を持っているのかは分からない…けど、やっぱり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想いの強さだよ…ユウキ」)

 

 

 互いに条件は同じだったハズだ。どこでそれが別れたのか…。アスナは1つの答えに辿り着いた。それは2人で過ごしてきた時間…、互いに乗り越えた壁の数…。そして、どんなに離れていても2人の心が密接に繋がっている事。

 誰よりも壁に遮られ、誰よりもそれを乗り越えてきたからこそ、ユウキに"絶剣”スキルが出現したのだと悟った。

 

 アスナ(「でも、嫌な気分はしなかった。ユウキにはそれだけの力が…、決意があったから…。私も自分のように嬉しく思えたの…」)

 

 だから、今のユウキは見ていられないと立ち上がった。それはユウキの本当の姿じゃないと知っているから。

 

 アスナ「行くよ!!ユウキ!!」

 

 ユウキ「…来い!!」

 

 アスナの細剣(レイピア)がさらに加速してユウキに襲いかかってきた。それをいなし続けるユウキだが、息付く暇もない程の速度がユウキの集中力を削り続けていく。

 

 アスナ(「確かにユウキは私より速いけど…SAOの頃から攻撃が直線的だった…。なら…!!」)

 

 右手で突き続けている細剣(レイピア)の速度を固定してユウキに気づかれないように左手を強く握る。

 そして、ユウキが攻撃を防ぎ、攻撃へと転じようと瞬間にアスナの左拳がユウキの左脇腹を捉えた。

 

 ユウキ「ぐっ…」

 

 堪らず体内の酸素を吐き出し、動きが一瞬だけ遅れる。

 だが、アスナはその一瞬を逃さなかった。右手に握られた細剣(レイピア)の刀身にライトエフェクトが鮮やかに輝き始めた。

 

 

 細剣ソードスキル"カドラプル・ペイン”

 

 

 0距離からのソードスキルによる五連撃はユウキのHPを削り切るのには十分の威力を発揮する。後数cmでこの決闘(デュエル)に決着がつく。アスナはシステムに体を委ねながら勝利を確信した。

 

 ユウキ「まだ…」

 

 アスナ「!!?」

 

 それはまさに刹那だった。気づけばユウキのHPは削られておらず、カドラプル・ペインの五連撃を片手剣で綺麗にいなされていた。

 直後、アスナの体をソードスキル発動後に発生する硬直(ディレイ)で動きを封じられてしまった。こうなってしまってはユウキにとってアスナはただの動かない的となってしまい、ユウキはもちろんこの機を逃すまいとソードスキルを発動させた。

 アスナの体に高速の四連撃が貫き、アスナのHPをレッドゾーンまで削る。五連撃目に移行しようとする瞬間、硬直(ディレイ)から解放され、ほぼ同時にアスナは新たなソードスキルを発動させる。

 

 アスナ(「これで…!!」)

 

 

 細剣OSS(オリジナルソードスキル)"スターリィ・ティアー”

 

 

 ALOにソードスキルとOSSが導入された時から1人で毎日自身のソードスキルを編み出す為に特訓してきたアスナの隠し球だ。

 スターリィ・ティアーは六連撃でユウキのソードスキルを相殺するにはこれしかないと直感したアスナは迷わずライトエフェクトを帯びた細剣(レイピア)を片手剣の切っ先に合わせるように放つ。

 

 アスナ(「これが私の全力全霊の攻撃…!!」)

 

 ユウキ(「アスナは凄いな…。一瞬の判断力がズバ抜けてる。ボクのソードスキルに対してソードスキルで相殺しようなんて思いつかないよ…。…そうか…。アスナはいつも全力で、SAOの頃から何も変わらずその魂を引き継いでいるんだね…」)

 

 アスナと目が合うと心做しか笑みを浮かべているように見える。

 それを見てユウキは確信した。アスナにとって仮想世界だろうと現実世界であろうと関係ないのだ。例え、剣があろうとなかろうと決意と誇りが消える事はない。キリトが前に言っていた事をそのまま受け継いでいるのだ。だから、曲がる事はない。自身が定めた道を信じて歩き続けている。

 

 アスナ「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 そんな決意を秘めた相手に何も持ってないと()()()()()()()()()()()()()

 

 ユウキ(「ありがとう…アスナ。ボクは大事な事を忘れていたんだね…」)

 

 アスナのスターリィ・ティアーが六連撃を終えて硬直(ディレイ)が発生している。ソードスキルのぶつかり合いで互いに姿を視認出来ずにいたのが功を奏している。

 

 アスナ(「この間にユウキの位置を確認して硬直(ディレイ)が解けたら一気に…」)

 

 細剣(レイピア)を握り直し、臨戦態勢に入る。

 だが、アスナは気づいていない。ユウキの本当の力を…。本気のソードスキルを…。

 土煙が次第に晴れ始め、アスナは目を見開いた。まだユウキが動いているのだ。それはすなわちユウキのソードスキルがまだ終わっていない事を示している。

 ユウキのソードスキルは初回の四連撃に加え、スターリィ・ティアーで相殺した六連撃、そして…おそらくこれが最後の一撃であろうと予想出来たのはアスナがこのソードスキルを知っていた事を表している。

 SAOの世界でも"絶剣”の異名と共にこのソードスキルを知れ渡っているのだから。

 

 

 アスナ(「私の…完敗だよ。…ユウキ」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片手剣OSS"マザーズ・ロザリオ”

 

 

 

 

 土煙を全て払い除けユウキのマザーズ・ロザリオがアスナを捉えた。

 ライトエフェクトが翼の形に変わっていき、その威力とユウキの想いの力を肌でピリピリ感じた。もう何も心配する事はないと、アスナは敗北するというのに気持ちは落ち着いたままだ。

 アスナもこの一撃で死に戻りする事を覚悟していたのだが、いくら待ってもその時は訪れない。

 

 アスナ「…?」

 

 ユウキ「…ボクの勝ち…だよね?」

 

 ライトエフェクトが消え始め、片手剣の切っ先はアスナの体を貫く一歩前で止められていた。ユウキが態勢を直し鞘に片手剣を納めるとアスナも降参(リザイン)を申告して決闘(デュエル)は幕を閉じた。

 

 アスナ「…私の負けね。約束通り好きに─」

 

 ユウキ「うん。じゃあタクヤを探すのを手伝うよ!」

 

 アスナ「え?」

 

 ユウキ「なんでそんなキョトンとした顔してるの?」

 

 アスナ「だって、ユウキは…」

 

 ユウキ「…アスナのおかげで目が覚めたんだ。あの世界で培ってきたものは力や技術だけじゃないって…。ボクはあの世界で生きてきたからこそ今のボクがあるんだって…。大事な事を忘れてたよ」

 

 力も技術も所詮は何かを成す時に使われる手段であって目的ではない。

 本当に大事なのはそうやりたい、成し遂げたいと思う心なのだと、ユウキはアスナから思い出させてもらった。

 それを初めて実感したのは他でもないタクヤといた時間なのだと思いながら…。

 

 ユウキ「アスナには迷惑ばっかりかけちゃってゴメンね。こんなボクでも友達って…親友って言ってくれるアスナに甘えてばかりで…。でも、もう迷ったり、くじけたりしないよ!ここまでアスナがしてくれたんだもん。ボクは絶対にタクヤを見つけてみせるよ!!」

 

 アスナ「ユウキ…!!」

 

 大切なのは心の強さ。拓哉はそれを知り、考えた末に仲間と決別する道を選んだ。決してそれが間違いとは言えない。仲間を大切に思うからこそ辿り着いた答えだ。

 だが、ユウキは違う。どんなに突き放されても、どんなに拒絶されても追い続ける。繋がれた1本の糸を手繰り寄せ、拓哉の元に辿り着く。

 それがユウキが出した答え。ユウキの進むべき道だ。

 

 ユウキ「みんなにも謝らなきゃだね…」

 

 アスナ「私が一緒に行ってあげるよ。だから、頑張ろうユウキ!!」

 

 ユウキ「うん!!…それと、アスナにボクから贈り物をしたいんだ。ここまでしてくれたお礼に…」

 

 アスナ「そんなのいいよー!?私は私がやりたいようにやって…」

 

 ユウキ「持ってて損はしないよ。だから、少し待ってて」

 

 そう告げるとアスナに背を向け、鞘から抜剣し一息入れる。

 片手剣に全神経を巡らせ、集中力を極限に高めると、刀身にライトエフェクトが発生し、システムが起動してユウキが何もない空間に剣閃を描いた。

 

 ユウキ「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 雄叫びと共に空を斬り裂かんばかりに十一連撃を繰り出した。

 ゴォォンという衝撃音が劇場…いや、第1層全体に響きながら最後の一撃を貫いた。

 最後の一撃を終えた刀身はライトエフェクトを消滅させ、切っ先には古びた羊紙が現れ、そこに闇妖精族(インプ)の紋章が浮かび上がった。

 

 ユウキ「ふぅ…。これでよしっ!」

 

 羊紙を丸めると、アスナに向き直ってそれを差し出した。

 

 アスナ「これ…」

 

 ユウキ「アスナに…アスナだから貰ってほしい。ボクの気持ちを…。アスナにも守りたい人がいるんならボクがいない時にきっとアスナを助けてくれるよ」

 

 アスナ「…ありがとうユウキ。私にとってユウキは太陽みたいな存在だから…これに相応しい人になるように頑張るよ!!」

 

 ユウキ「固いなー。でも、そんなアスナがボクは大好きだよ!」

 

 互いに励まし、時には研鑽し合える友と交わした剣は、これから先どんな事があろうと忘れたりはしないだろう。

 それだけ互いの心に残る大事な時間であった事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 OSS"マザーズ・ロザリオ”を受け継いだアスナは、ユウキと共に夜のALOの空へと羽ばたいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
ユウキとアスナの戦闘シーンは書いてていいものになったんじゃないかと思います。
そして、原作と時期は違いますがマザーズ・ロザリオを継承したアスナがどんな風に成長していくかお楽しみに!


評価、感想などお待ちしております!


では、また次回!

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