ソードアート・オンライン-君と共に在るために- 作:ちぇりぶろ(休載中)
これは新章のプロローグとして書いたものなので時間の流れは早いです。
どうか、この話をお読みになられて続きを楽しみに待って頂けたらなと思います。
では、どうぞ!
【57】序章─命の灯火─
2025年09月01日 09時00分 SAO帰還者学校
1ヵ月以上にも及んだ夏休みは幕を閉じ、拓哉達学生はこの日より新学期に入る。
まだまだ夏の陽射しが差し込む中、学生達の表情は十人十色で浮かない表情や楽しげな表情まで様々だ。
「宿題やってきた?」
「いやぁ、分かんないトコは空欄のまま…」
「私、夏休みなハワイ行ったよー」
「えー!いいなぁー!」
既にここ高等部2年クラスでも夏休みの思い出や宿題を話題に久しぶりにあった学友達と談笑を楽しんでいる。
そんな所に重い瞼を擦りながら入ってきた男子学生がいた。
明日奈「あ、拓哉君おはよー」
拓哉「おーす…」
気怠げな応対で済ませたのは茅場拓哉、それを見て呆れながらも笑顔を絶やさないのは同級生の結城明日奈だ。
里香「アンタねー、新学期初日に遅刻ってどういう事なのよー!?」
と、声を荒らげながら拓哉に説教するのは同級生の篠崎里香。
欠伸をしながら自らの席に座り、里香に言い訳元い遅刻した理由を話した。
拓哉「あー…ほら、よくあるだろ?習慣になってるものは中々直らないって!夏休みの間は大抵ネットサーフィンしてて夜更かしの毎日でさ。昨日も今日の事すっかり忘れてて寝坊しましたとさ」
里香「とさ…じゃないわよ。ったく、新学期早々抜けてるわねー」
明日奈「まぁ、拓哉君らしいって言えばらしいけどね」
拓哉「そうカリカリすんなよ里香。目元にシワができるぞ?」
瞬間、ブチっと何かが切れるような音が聞こえ、里香からおぞましいものが湧き上がるような幻影を見てしまった。
里香「誰のせいでカリカリしてると思ってんのよ!!?」
明日奈「里香もその変にしなよー。拓哉君もあんまりからかわないの!」
明日奈が止めてくれたおかげで里香から鉄拳制裁が行われずに済んだ拓哉は里香に詫びを入れ、フゥっと息をつく。
すると、教室の前扉から拓哉達の担任であるシウネーこと安施恩が入ってきた。
施恩「みなさん、おはようございます。夏休みは有意義に過ごせましたか?この2学期からは授業の範囲も広くなりますのでみなさん頑張ってくださいね!」
拓哉「だとよー里香。頑張んないと成績がみるみる下がっちまうぞー」
里香「うっさいわね。アンタも人の事言えないでしょ?」
施恩「それとこの場を借りて1学期の最優秀成績賞を贈呈しようと思います。では、拓哉…ゴホン…茅場さん、前に来てください」
拓哉「うーす」
気怠げに返事をして、教壇へと歩を進める拓哉を明日奈と里香がしばらく見送り、まるで時間が止まったかのように思考が停止した。
明日奈&里香「「えぇぇっ!!?」」
ようやく事を理解した2人は人目を気にせずに大声を上げた。
クラスメイトからの視線に気づき、頬を赤くして縮こまる姿を拓哉は教壇から笑いながら眺めている。
施恩「茅場さん、受賞おめでとうございます。出来れば、授業の方も居眠りばかりじゃなくてちゃんと聞いてくださいね?」
拓哉「う…。それを言われると何も言えねぇなぁ…。まぁ、最大限努力します」
賞状を受け取るとクラスメイトからの拍手が送られ、席に戻ると明日奈と里香から信じられないと言わんばかりに顔をしかめていた。
明日奈「…拓哉君、何か賄賂でも渡したの?」
拓哉「そんな事するわけねぇだろ!?」
里香「じゃあ教師に恐喝でも働いた?」
拓哉「お前らの中でオレってそんな風に思われてんの!!?」
何とも遺憾としがたいが、施恩が注意してくれたおかげで3人は我に返った。施恩がそれを確認してさらに話を続ける。
施恩「さらに、今日から教育実習としてしばらくの間副担任としてこのクラスに就く先生を紹介します」
明日奈「この学校に教育実習って変な話だね」
拓哉「そうだな…。大体は母校とか選ぶのにな」
施恩の合図と共に前扉が開かれ、教室の中に入ってきたのは髪の毛を短髪に仕上げ、清潔感のある青年だった。
入るや否や女子生徒達がキャーキャー騒いでいるので容姿も整っているのだろう。
青柳「初めまして。今日からしばらくこのクラスで教育実習をする事になりました
「「「「よろしくお願いします」」」」
里香「へぇ…結構ちゃんとした人みたいね。…どっかの遅刻魔とは大違いだわ」
拓哉「誰が遅刻魔だコラ…」
教育実習生の青柳の自己紹介も終わった所で夏休みの宿題の提出に必要事項が書かれたプリントの配布と説明、その他諸々の決め事を済ませ、今日の授業は終了となった。
気がつけばまだ11時と少し。今日は説明だけなのでカフェテラスは開放されておらず、学校内に残る生徒も多くない。
拓哉も帰り支度をしていると、不意に肩に手が置かれた。
拓哉「ん?」
青柳「茅場さん…であってるよね?」
振り向くとそこには教育実習生である青柳新が高く積まれた書類を重たそうに持っていた。
青柳「すまないけど…これを持っていくの手伝ってくれない?」
拓哉「別に構わねぇ…構いませんけど」
青柳「ありがとう。施恩先生に格好つけたくて調子に乗ったのが悪かったかなー…。めちゃめちゃ重い…」
拓哉「…青柳先生、施恩先生の事好きなの?」
青柳「えっ!?あ、いや、それは…あぁっとっ!!?」
動揺したのが一目瞭然であり、態勢を崩した青柳はその場に倒れてしまった。案の定、書類はその場に散乱してしまっている。
拓哉「悪ぃ!!ちょっと調子に乗りすぎた!!大丈夫っスか?」
青柳「はははっ…。こちらこそ変な事言ってごめんね」
散らばった書類を集めて終わり、半分だけ持つと青柳ももう半分を持って教室を後にした。
職員室に向かう道中で青柳は拓哉にいろいろな話をしていた。
安施恩に一目惚れした事や、好青年に見えて実は結構ネガティブだったり、趣味や特技と実に時間を感じさせないような時間であった。
青柳「ありがとう茅場さん。また何かあったら手伝ってもらっていいかい?」
拓哉「構いませんよ。先生と話してるとオレも楽しいし!じゃあ、連れを待たせてるから帰ります!また明日ー!!」
青柳「あっ!廊下は走っちゃダメだよー!」
拓哉「堅い事言いっこなしですよー!!」
そのまま青柳は走り去る拓哉の後ろ姿を見送り、職員室の中へと入っていった。
2025年09月01日12時30分 某ファーストフード店
木綿季「へぇー、その新しい先生の手伝いで遅れたんだね?」
和人「聞いた感じ人柄が良さそうな教育実習生だな」
放課後、拓哉と木綿季、和人に明日奈の4人は昼食を一緒にするべく学校の最寄りの駅にあるファーストフード店へと寄っていた。
明日奈「スタイルもいいし女子からすごい人気だよ」
拓哉「男子にも歳が近いから兄貴感覚で接してる奴が多いな」
和人「初日でえらい親しんでるな。…オレだったら1年あってもそこまでいけるかどうか」
明日奈「ほ、ほら!やっぱり個人差があるから…!!」
フォローになっているかどうかはさておき、これからの事を話し合わなければならない。
学校も始まり、1日中ALOにいる訳にもいかず、その間ストレアとユイが寂しがっているのを危惧した4人はどう対処するか話し合う為にここにいるのだ。
和人「まだ双方向通信プローブは完成してないしなぁ…」
拓哉「だったら、スマホのアプリとしてならイケるんじゃないか?ナーヴギアにあるストレアとユイのデータを縮小させるか、一部を切り取ってアプリに落とすのは?」
和人「そうか…。全部は無理でも一部だけなら容量もそんなに食わないな。2人で作るとしても1,2週間はかかるが…」
拓哉「そればっかりはしょうがねぇよ。9月は連休もあるし、中旬には出来てるだろ」
男2人でどんどん進めていく中で木綿季と明日奈はシェイクを飲んで話に混ざりたそうにしているが、メカニックに関しては拓哉と和人に及ばない事も理解している為、中々話に入りづらい。
木綿季「2人でどんどん進めちゃってるよ…」
明日奈「私達空気みたいだね…。でもね、木綿季」
木綿季「ん?」
明日奈「こうやって2人が真剣なのってユイちゃんやストレアさんの為だからだよね。自分達の娘と一緒に遊んだりしたいからここまで真剣になれるんだよ」
いつか2人が言っていた。これから先、VR技術が発展していけばAIであるストレアやユイが拓哉達がいる現実世界に顕現出来る日が来る。
そうなるように頑張るんだと語っていたのを思い出した。
明日奈「やっぱりカッコイイなぁ…和人君」
木綿季「拓哉の方が和人より数十倍カッコイイけどねー」
明日奈「む…、和人君の方が拓哉君より魅力的だもん!」
木綿季「そんな事ないよ!絶対に拓哉の方がカッコイイし魅力的だよ!!」
女2人がどちらも譲らない彼氏の話に火をつけて話しているのを、当事者である拓哉と和人は顔を赤くしながらシェイクを口に含む。
拓哉「おい…いつの間にか変な話してるんだけど…」
和人「い、言われてる方が恥ずかしくなってきた…」
さらに加熱していき、周りの客も初々しいものを見るような目でこちらに視線を送っている。これ以上は流石に羞恥心が限界なので止めに入ろうとすると、目をギラつかせて阻止された。
明日奈「和人君は拓哉君に
木綿季「拓哉が本気を出したら和人なんてイチコロだもんねー!!」
「あの、お客様…他のお客様のご迷惑になりますのでもう少しお静かにお願い出来ますでしょうか?」
明日奈&木綿季「「///!!?」」
我に返った明日奈と木綿季は周りに目を配りながら、頬を赤くして店員に謝罪してみるみる小さくなっていった。
その場にい続けるのが苦になり、逃げるように店を後にした。
2025年09月01日13時00分 某広場
拓哉「…はぁ、何やってんだよ」
木綿季「すみません…」
和人「明日奈もだぞ」
明日奈「ごめんなさい…」
近くの広場で休憩する事にした4人はとりあえず落ち着くまでここにいる事にした。
噴水が沸き起こり、そのおかげで多少涼しくなっているが、まだまだ夏の陽射しは形を潜めてはくれない。
拓哉「さてと…じゃあ、そろそろ帰るか」
和人「そうだな…って、今日はオレが飯当番だった…」
拓哉「あ、オレもだ。この際だからみんなでオレん家に飯食いに来いよ。家もちょうど近いからさ」
木綿季「飯って…拓哉が作るの?」
明日奈「全然想像がつかないね…」
和人「いかにも包丁なんて握った事ないって顔してるのに…」
拓哉「…お前らの遺言はそれだけか?」
なんとも納得出来ない講評に拓哉も一瞬イラッときたが、この陽射しの下起こる気力も失せ、3人を連れてスーパーで買い物を済まし、拓哉の家へと向かった。
2025年09月01日 14時50分 茅場邸
食材を買い込み、拓哉達は茅場邸へとやってきた。和人がこちらで夕食を済ませる為、一緒に和人の義妹である直葉に連絡を入れ、よかったら一緒に食べないかと誘うと即了承して部活が終わってから来るそうだ。
家の場所に関しては最寄りの駅に直人を行かせればよいだろう。
拓哉「木綿季も森先生と智美さんに連絡入れとけよ」
木綿季「もう入れたよー。そしたら、姉ちゃんが悔しそうにしてたよー」
拓哉「あー…なら、誘ってやれよ。オレと直人は人数気にしないから」
木綿季「拓哉と直人ならそう言うと思ってちゃんと誘ってあげたよ!森先生がここまで連れてきてくれるみたい」
なら、帰りは森が木綿季と藍子を迎えに来ると考えた方がいいか。
和人「それならオレは一旦帰ってバイクで来るかな。明日奈を家まで送り届けたいから」
拓哉「そうだな。今なら直人もいるから直人のバイクで連れて行ってもらえよ」
玄関の鍵を開け、ドアを開くと案の定直人の靴があり、木綿季達をリビングに案内する。
明日奈「綺麗にしてあるし、広いねー」
和人「この几帳面さ…直人が掃除してるな…!」
拓哉「そんなにオレをバカにして楽しいか?」
リビングも2人で暮らすには広すぎて、直人がいつも念入りに掃除している。使っていない部屋でも換気をしてホコリがたまらないように気をつけていた。
食材を冷蔵庫に直し終えると2階にいるハズの直人を呼びに向かった。
拓哉「ちょっと待ってろよ」
和人「あぁ…」
リビングに残された3人はソファーに座るとテレビ台に立て掛けられてある写真に目が行った。
和人「この写真…拓哉の家族か?」
明日奈「そう言えば家の人はどうしてるんだろうね?」
木綿季「あ…」
和人や明日奈…木綿季以外には拓哉の過去を話していない。
話していいのかは拓哉本人が決める事で木綿季にはその権利はない。
写真立ては他にあり、そのどれもが笑顔に溢れた家族写真。どんな家にも家族との写真が飾ってあるものだが、拓哉と直人の家にあるのはどれも昔のものばかりだ。
和人「こんなに写真があるのに最近のはないんだな」
明日奈「でも、そこにある棚にはカメラがいっぱいあるよ?」
拓哉「何やってんだよ?」
和人と明日奈が写真に夢中になっていると、リビングには直人を連れて戻ってきた拓哉がいた。
木綿季「!!」
直人「みなさん、こんにちは」
和人「おっす直人」
明日奈「お邪魔してまーす」
それぞれ挨拶を済ませると最初の拓哉の質問へと戻る。
拓哉「てか、何見てたんだ?」
和人「あぁ。テレビの横にある写真だよ」
拓哉&直人「「!!」」
明日奈「今日ご両親はいないの?夕飯ご馳走になるから挨拶しようと思って」
2人の心が波打った。和人と明日奈が悪い訳ではないと理解しているがこればかりはどうしようもなかった。誰にもこの衝動を止められない。
木綿季「えっと…あのね、2人共…」
拓哉「
木綿季&直人「「!!」」
突如、拓哉が奇妙な事を口走り、それに驚いた2人を他所に和人と明日奈は完全に信じきっている。
明日奈「へぇーそうなんだ。どこに旅行に行ってるの?」
拓哉「そ、それが行き先も告げずに言っちまったもんだから何処に行ったか分かんねぇんだよ」
和人「はははっ。そういう所、拓哉に似てるかもな」
拓哉「そ、そんな事ねぇよ!そ、それより和人は早く帰ってバイク持ってこいって!!」
和人「あぁ、そうだったな。直人、頼んでいいか?」
直人「え、えぇ…分かりました…」
直人は和人を連れてバイクを置いてある倉庫に向かった。
拓哉は先程買い忘れたものがあると言って近くにあるコンビニへと向かった。
明日奈「じゃあ、私達は何してよっか?」
木綿季「…え?う、うん…そうだね」
明日奈「どうしたの木綿季?顔色悪いよ」
木綿季「そ、そんな事ないよー!!」
無知とは残酷で浅はかなものだ。それは知らない人間が悪いのではない。知っている者がそれを抱え込むから悪いのだ。
そうしなければ癒えた傷を再び抉られる事もなかっただろうに。
拓哉は和人と明日奈に心配をかけたくないという思いからあの場で思いついた嘘を履いた。誰だって重い空気は好まない。だからそうした。
それが最良の結果だから。
明日奈「待ってるのもあれだし先に台所借りて下ごしらえしちゃおうか?」
木綿季「そ、そうだね!!」
気を紛らわせたい時は何か別のことに意識を集中させればよい。
下ごしらえをしていれば余計な事は考えなくてもいいと木綿季は思ったが、それに取り掛かっても頭の中のモヤは晴れてはくれなかった。
2025年09月01日15時30分 桐ヶ谷邸
和人「サンキュー直人。すぐ準備するから少しだけ待っててくれ」
直人「分かりました」
そう言い残して和人は自宅へと入った。その入れ違いに中から直葉が息を切らしながら直人の元へとやってくる。
直葉「ハァ…ハァ…直人君…こんにちは…!」
直人「こんにちは直葉さん。部活だって言ってましたけど大丈夫ですか?」
直葉「うん。部活の方は予定が早く終わってついさっき家に着いたんだぁ!で、駅に向かおうとしたらお兄ちゃんが帰ってきてたからバイクに乗せてもらおうと思って」
そんな話をしていると、制服から普段の服装に着替え終えた和人が家の奥からバイクを持って戻ってきた。
和人「おまたせ。待ったか?」
直人「いえ、全然。じゃあ、行きますか」
互いにバイクのエンジンをかけ、荒々しい音を撒き散らせながら茅場邸へと引き返した。
直人(「…兄さん、…何であんな嘘を…」)
2025年09時01分18時00分 茅場邸
あれから3時間と少し経ち、テーブルには人数分の食器と中央にホットプレートを設置して、拓哉と木綿季、明日奈のお好み焼きの元を配膳する。
拓哉「じゃあ、いただきまーす」
「「「「いただきまーす」」」」
ジュゥ…とお好み焼きが鉄板で焼かれ、香ばしい匂いがまだかまだかと空っぽの胃に訴えかける。
和人「へぇ…どれも美味しそうだな!」
拓哉「いろいろ種類作ったからみんな遠慮しないで食べろよ」
明日奈「…拓哉君があそこまで料理が出来るなんて思わなかったよ」
木綿季「だよね!まさに男の料理ってイメージだったのに全然上手だし…」
鉄板に3人がそれぞれ作ったお好み焼きを焼いていく。
定番の三色玉に豚玉、海鮮とどれも美味しそうに焼き色が付いてきて、拓哉がそれを流れるような手際でひっくり返していく。焼き上がる直前に鰹節、ソース、青のりを振りかけた。
拓哉「さぁ、お上がりよっ!!マヨネーズはお好みでな!!」
木綿季「はむ…ふぁっふぁっ…!!」
拓哉「焼いたばっかりだから熱いに決まってんだろ。ほら、水」
口の中が緊急事態の木綿季に水をやると、それを一気に飲み干し口内の沈静化に成功する。再度、ひと口サイズに切り取り、息を数回かけてお好み焼きを冷やす。程よい熱さになるのを見計らって口の中へと頬張った。
木綿季「…美味しい!!美味しいよ拓哉!!」
拓哉「そうかそうか!そりゃよかった!!」
木綿季の反応を見て、全員が生唾を飲むと拓哉のお好み焼きをひと口ずつ頬張る。
直葉「何コレ!?すごく美味しい!!」
藍子「お好み焼きって誰が作っても同じだと思ってました…!!」
明日奈「本当に料理上手かったんだね!?」
和人「こ、これは…意外すぎる…!!?」
食べた全員が満場一致で拓哉の料理の腕前を認めてた。
聞いていた拓哉も感想に呆れながらも礼を言った。
拓哉「食べるならやっぱり美味しい物食べたいだろ?あれこれ試してみて使えそうな調理法は覚える事にしてるんだ。ちなみに、お好み焼きをヘラで潰して焼く奴もいるけどそうすると表面だけ焼けて中が生焼けになるから今度作る時気を付けておいて損はないぞ?」
藍子「もしかして…ナオさんも料理が得意なんですか?」
直人「まぁ、一般的にですよ?1人の時の方が長いですし」
藍子「今度私に料理を教えてくれますか?」
藍子はこれまで料理というものを作った事がない為、料理上手の直人にお願いすると、直人は笑顔でこう応えた。
直人「僕に出来る範囲でなら喜んで」
直葉「わ、私も教えて欲しい!!」
その後からの食事は茅場邸を賑やかな声が支配していき、拓哉と直人はまるで昔に戻ったような錯覚に陥った。
2025年09月01日19時40分 茅場邸
お好み焼きも全て食べ終わり、食器などを拓哉と木綿季の2人で洗っていた。和人達も手伝うと言ってくれたのだが、台所はそれ程広くないし大丈夫だと拓哉が言ったのだ。
1人で洗っている所にスっと木綿季が来て今に至る。
拓哉「木綿季、その皿は角の棚に直してくれ」
木綿季「分かった」
洗い物も残りわずかでリビングでは和人達が賑やかに談笑している。
久々に楽しい食卓だったなと拓哉はつい笑みを零してしまう。
木綿季「どうしたの拓哉?」
拓哉「あ、いや…こういう風に家の中が賑やかになったのって何時ぶりだろうと思ってさ。それでつい笑っちまったんだよ」
木綿季「…」
茅場邸がここまで賑やかなのは実に3年ぶりであった。
3年前はいつも笑い声が絶えず、賑やかだったのに今ではリビングも食事を摂るだけの場所になってしまった。
つい暗くなっていくのを拓哉は頭を数回振って払拭する。
拓哉(「あれはもう終わったんだ…。いつまでも引きずる訳にはいかない…」)
冷蔵庫からお茶やジュース類を取り出し、食材と共に買った菓子も一緒にみんなが待つリビングへと運ぶ。
その後ろ姿を木綿季はただジッと見つめる事しか出来なかった。
あれから時が経つのは早く、中旬に迎えた中間テストも全員無事に赤点を回避し、補修を受ける事はなかった。
夏の陽射しが形を潜め、次第に少し肌寒い風が吹き出した10月。
学生たちの服装も夏服から冬服、ブレザーへと衣替えをし始めている中、拓哉は1人中庭のベンチで缶コーヒーを片手に呆然と空を見上げていた。
拓哉「もう10月か…」
今日は10月05日。拓哉は
拓哉「…」
コーヒーの苦味が口の中で広がるのを感じていると、予鈴が鳴る。
重い腰を持ち上げ、拓哉は自らの教室に戻っていった。
2025年10月06日12時45分 SAO帰還者学校 カフェテリア
拓哉「…」
昼休みに木綿季に案内されてカフェテリアまで出向くと、偶然時を同じくして和人と明日奈に出くわした。席も満席に近かったので和人と明日奈の隣の席に腰をかけた。拓哉は素っ気ない挨拶を済まして、ただひたすらに窓から空を眺めている。
10月に入ってから拓哉の様子がおかしいのは拓哉を知る人間なら誰だって知っている事だ。
最初はすぐに元気になるだろうとそっとしておいたのだが、約1週間この調子のままなのである。
和人「…どうしたんだ?」
明日奈「さぁ?木綿季は何か知ってる?拓哉君がボーっとしてる理由」
木綿季「ボクもさっぱり分からないんだよ。拓哉に聞いてもいつも通りの一点張りだし…」
和人「…拓哉ーどうしたんだよ?」
拓哉「…え?あれ…和人いたの?」
和人「さっきからいたよ!!?挨拶もしたじゃないか!!」
拓哉「あー…そうだったな…。忘れてた…」
かなり重症だという事だけが確認されてこれ以上は何も出ては来ないだろう。木綿季もそんなに拓哉を見て心配になるが、別に病気などではない。
食欲だって普段通りだし、変と言えば授業も今まで居眠りだったのがこの1週間は1回も寝ていないと明日奈と里香が話していた。
木綿季「拓哉…」
明日奈「直人君は?直人君なら拓哉君の事、何か知ってるんじゃない?」
和人「それもそうだな!」
木綿季「それが…」
和人&明日奈「「?」」
2025年10月06日18時00分 陽だまり園 紺野姉妹自室
直人「…」
藍子「ナオさん」
直人「…」
藍子「ナオさん!」
直人「!!?…は、はいっ!!?」
耳元で自分の名前が大声で叫ばれ、驚いた直人が肩をビクつかせて返事をした。
藍子「最近様子がおかしくないですか?もしかして、どこか体の具合が悪いんじゃ…!!」
直人「あぁ…大丈夫です大丈夫です!!ちょっとボーっとしてただけですから。…で、どこが分からないんですか?」
藍子「あ、いえ…今日の分はもう終わりましたけど…」
直人「あ…あぁ!そ、そうでしたか…!!あは…あはははっ」
いつもとはあまりにも違う直人の態度に藍子も違和感を感じている。
普段しないような簡単なミスをしたり、話を聞かずに上の空になってたりと挙げるとキリがないが兎にも角にも今の直人はどこか元気がない。
藍子(「そう言えば拓哉さんも元気がないって木綿季が言ってたけど…それと何か関係あるのかな…?」)
そう考えているとスマホの着信が鳴った。直人に断りを入れて着信を取ると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
木綿季『もしもし?姉ちゃん?今そこに直人っている?』
藍子「え、えぇ…。勉強を見てもらってたからいるにはいるけど…」
木綿季『じゃあ、ちょうどいいや。園の近くにある喫茶店にいるから直人を連れてきてくれる?』
藍子「え?ちょっと、木綿季…!!」
状況が読めていない藍子が木綿季に説明を求めようとすると、その前に電話は切られ仕方なく言われた通りにする他ない。
藍子「あのー…ナオさん?」
直人「あ、藍子さん。電話誰からだったんです?」
藍子「木綿季からでしたけど…今から少し時間ありますか?」
直人「そうですね…。特に問題はないですけど…」
藍子「今から園の近くにある喫茶店に一緒に来ていただけませんか?なんだか木綿季からナオさんを呼んできてって…」
直人「別に構いませんけど…」
2人は陽だまり園を後にして近くにある喫茶店へと向かった。
店内に入り、木綿季を探していると窓際のテーブル席に木綿季と和人、明日奈の3人がいた。
木綿季「姉ちゃん、直人遅ーい!!」
藍子「まだ10分ぐらいしか経ってないじゃない」
直人「それで、今日は何の用で僕をここに?」
席に腰をかけると、木綿季からその事についての話を始めた。
木綿季「1週間前から拓哉の調子が悪いっていうか元気がないんだけど…直人なら何か知ってるんじゃないかなぁって思って…」
直人「…」
知っている。拓哉がどうして元気がないのか…そして、同じように直人も元気がないのかを。
だが、それを言った所でおそらく何も変わらないだろう。
直人「…もう…10月ですか…」
和人「10月に何かあるのか?」
直人「そうですね…。10月21日は拓哉兄さんの誕生日なんです」
木綿季「え!!そ、そうだったの!!?」
明日奈「そう言えばSAOでも拓哉君の誕生会はしなかったね」
もちろんSAOに囚われていた時にも木綿季は拓哉に言った事がある。
だが、頑なに誕生日を教えてはくれなかった。それと今の状況に何の関連性があるのかはまだ分からないが、直人の表情を見る限りそれは喜ばしい事ではないようだ。
和人「誕生日ならみんなで盛大に祝ってやろうぜ?オレや明日奈、珪子も祝ってもらったし」
直人「いや、出来ればプレゼントを渡す所まででいいですよ」
明日奈「どうして?誕生日なんだからみんなで賑やかにした方が楽しいよ?」
直人「…賑やかになれないですよ
その日は…僕達の両親の殺された日ですから…」
木綿季&藍子&明日奈&和人「「「「!!?」」」」
顔を俯かせた直人が発した言葉はその場を静寂に包ませるには充分な効果を発揮した。だが、そこでさらに驚いているのは和人と明日奈だ。
2人は先月の初めに拓哉の口から"両親は旅行に行っている”と聞かされていた為だ。それが嘘だと疑う余地すらないし、そこで嘘を言うメリットやデメリットを考える事すらしないだろう。
当然かのように和人が口を開いた。
和人「だって、この前…旅行に行ってるって…」
直人「それはあの場で兄さんが言った嘘です。実際には3年前に死んでいるんです…」
明日奈「そんな…!!じゃあ…私達はそうとは知らずに…拓哉君や直人君に…!!」
直人「知らなかったんだから仕方ないですよ…。それに僕は実際には両親の遺体に会っていません。第一発見者は…兄さんですから」
木綿季「!!」
目の前で両親が殺された…?そんなの…誰だって受け入れたくないし、心にどれだけの傷を残すのか分かりもしない。
藍子「そんな…!!」
直人「兄さんは後悔してました。あの日、もっと早く帰っていればこんな事にはならなかったんじゃないかって…。父さんや母さんは死なずに済んだんじゃないかって…。当時は荒れてました。木綿季さんにも話しましたけど警察沙汰はザラで度々銭形さんって警察官に補導を受けたりしてました」
木綿季「あの時の…警察の人?」
それは入学式の日の事だった。式を終え、いつものメンバーでアーケード街を散策していると前からガラの悪い輩に絡まれ、それを拓哉が撃退して警察に通報した時に銭形平八巡査部長がいたのだ。
和人「…拓哉」
直人「晶彦兄さんも両親が死んだって言うのに1度も家には帰らないはおろか葬式にすら顔を出していません。多分、拓哉兄さんが荒れたのはそれが1番の原因になったんじゃないかと思います」
明日奈「拓哉君…あなたは…」
茅場拓哉という男は全て背負って生きようとする。
それがどれだけつらく、憎く、妬ましく、疎ましかろうとそれら全てを背負って仲間を導いていく。だから、それが壊れてしまった時の絶望は計り知れないだろう。常に綱渡り状態で着実に前と進んでいくのが茅場拓哉という男なのだ。
木綿季「…みんな!1つ、提案があるんだけど…!!」
2025年10月21日 17時30分 某神社 墓地
拓哉「久しぶり…父さん、母さん」
拓哉と直人は両親の墓が建っている墓地へとやって来ていた。毎年直人が手入れをしているが、1年経てば苔や土汚れが目立ち、周りには雑草が無造作に生えきってしまっている。
2人でそれを丁寧に根っこから抜き取り、墓石も綺麗に磨いて2人が好きな煙草と饅頭を備え、線香をたいた。
拓哉「父さんと母さんが死んでもう3年も経っちまったんだな…」
直人「晶彦兄さんの遺骨もここに埋めたんだよ。兄さんは断ったけど」
拓哉「オレがしてやるのは介錯までだ。それ以上してやる義理はねぇけど…」
その先の言葉が見つからない。憎いハズなのに茅場晶彦の全てを憎み切れない自分がいた。
拓哉「父さん、母さん。2年も来れないでごめんな…?
SAOでの墓場と言えば第1層にある黒鉄宮…その中にある生命の碑にあたる。そこには蘇生手段が失われ、命半ばで死んでしまったプレイヤーの名前に線が引かれる事で死亡と判断される。
名前に線が引かれればどんなに願ってもその人間の死は確定されてしまう。
毎年、この日に拓哉は1人で生命の碑にいた。
誰にも…木綿季にも告げる事なく、1人でそれを眺め続けていた。
直人「犯人は兄さんがSAOにいる間に捕まって、死刑判決を食らっていたよ。捕まるまでに父さんと母さんを加えて12人殺したらしい…」
拓哉「…最低のクズ野郎だな。…いや、オレがそんな事言えた義理じゃないな」
両親を殺した最低のクズ野郎とオレは同種だ。
オレはあの世界で…
拓哉「父さん、母さん…。オレ、今日で18歳になったよ。まだ再来年まで学校に通わねぇといけないけどそれなりに楽しくやってる。こんなオレにも彼女が出来たんだぜ?母さんはお前はモテないから結婚も出来ないって言ってたけど…、オレを好きだって…一緒にいたいって言ってくれたんだ。今度、紹介するよ。オレには勿体ないぐらい可愛いからよ」
直人「…」
拓哉「父さんはオレが20歳になって早く酒を一緒に飲みたいって言ってたっけ?オレはまだ2年は無理だから父さんが好きだった酒も供えて帰るよ。酒豪だった父さんからしたら足りないって言うかもしれないけど、これでも買うのに苦労したんだぜ?知り合いに頼んで買ってもらったけど…」
供え物の横に新たに酒をおいた。この酒はエギルとクラインに頼んで買ってもらったものだ。父さんが好きだったのは珍しい物で手に入れるのに苦労したと2人に言われたものだ。
直人「僕は母さんが好きだった饅頭を買ってきたよ。天国で2人で…もしかしたら3人で食べて…」
拓哉「オレさ…将来の夢も決まったんだ。中学の頃は宙ぶらりんで将来が心配だって2人はよく零してたけど、SAOでの2年間…そして、仲間達と過ごしてきてやっとやりたい事が見つかったんだ。まぁ、それがアイツと一緒のゲームデザイナーなのは目をつぶってくれ。オレはアイツよりも凄いの作るからさ…。だから…オレは…もう…」
次第に視界が歪み始め、涙を流している事に気づいた。何度拭っても涙は止まる事を知らずに、袖を濡らし続けた。
拓哉「くそっ…!なんで…!もう泣かないって…決めてたのにな…」
直人「兄さん…」
直人の目にも熱いものが滲み出てくる。それだけ、この兄弟にとって両親はかけがえのないものであった。どんな時も笑って、怒って、背中を押してくれる。いつでも元気づけてくれた両親…。
けれど、もうそんな両親はこの世にはいない。
拓哉「本当は…!!もっと…生きていてほしかった!!大人になって…オレが活躍するのを見てほしかった…!!木綿季と結婚して、孫の姿を見てもらいたかった…!!」
直人「くっ…!!」
堪えきれずに直人も両目から涙を流す。
彼にも成し遂げたい事…将来の自分の姿を見てほしかった。
まだ2人は子供で両親に自分達の成長する姿を見てほしかった。
溢れ出る涙は言葉を遮り、想いを吐き出させる。
拓哉「くそっ!!なんで…なんで死んじまったんだよ!!オレはまだ…!!」
後悔している。そう口に出すハズだった。
だが、瞬間でその言葉を飲み込み、涙を拭う。いつまでも泣いていられないのだ。もう自分達を見てくれる両親はこの世にはいない。
だが、支えてくれる仲間がこの世にはいる。
悲しい事も、辛い事も、楽しい事も、その者達と一緒に感じていける。
孤独じゃない…、仲間が…友達がオレ達にはいるんだから…
拓哉「まだ話したい事あるけど…今日は帰るよ…。また来るから」
日が沈み、夜空が顔を出し始め出した頃、拓哉と直人は両親の墓を後にしようとした。
_頑張れよ
_アナタ達なら出来るわ
拓哉&直人「「!!!」」
振り向いてもそこには誰もいない。だが、確かに聞こえたし肩に手が置かれたような感触もある。幻聴だとしてもいい。
拓哉と直人は何かが吹っ切れたようにその場から去った。
2025年10月21日 20時30分 茅場邸
家に帰り着く頃には外はすっかり暗くなり、秋の冷たい風ですっかり冷えきってしまった体を風呂に入って温める。
風呂から上がって早めに寝ようとした拓哉を直人が止めた。
直人「兄さん、今ちょっと時間ある?」
拓哉「なんだよ…?」
直人「気が向いたらでいいんだけど、ALOでもしない?」
拓哉「いきなりなんだよ。気持ち悪ぃなぁ…」
直人「いいからいいから。じゃあ、先に待ってるから!」
そう言い残して直人は自室へと足早に戻っていってしまった。
拓哉「なんだ?アイツ…」
拓哉も自室へと戻り、明日の準備をしてベッドに横になった。
拓哉「…まだ21時だし、少しぐらい付き合ってやるか」
ベッドの脇に置いていたアミュスフィアを頭に被り、音声コマンドを入力した。
拓哉「リンクスタート!!」
2025年10月21日21時05分 ALO イグシティ プレイヤーホーム
視界がクリアになり、そっと目を開けるとそこはイグシティにあるタクヤのプレイヤーホームの寝室であった。
タクヤ「そう言えば、ALOも1ヶ月ぐらいしてなかったな…。ストレア辺りが文句でも言いそうだな」
タクヤは胸ポケットを2回叩き、寝ているハズのストレアを起こそうとしたが、中はものけの空でストレアの姿はない。
タクヤ「あれ?いない…。どこか出かけてるのか?」
ストレアがどこに行ったかは不明だが、無事である事を確信すると寝室の扉を開けた。
すると、開けた瞬間にパァンと数回甲高い音が鳴り響いて思わず構えてしまう。徐々に目を開けてみるとそこに木綿季を始め、SAOとALOで知り合った仲間が仲間が全員揃っていた。
タクヤ「は?」
「「「「タクヤ!!誕生日おめでとう!!!!」」」」
しばらく頭で理解出来ないでいるとユウキが前に出てタクヤの腕を掴んだ。
ユウキ「ほらほら!!主役がボーっとしてちゃダメだよ!!コッチコッチ!!」
タクヤ「え?おい…ユウキ?…それにみんなも」
キリト「今日はお前の誕生日だろ?誕生日なら誕生会を開くのは当たり前だ」
アスナ「タクヤ君誕生日おめでとう!!」
クライン「おぉ!!今日はめでてぇ日だから飯や酒もいろいろ持ってきたぜぇっ!!」
エギル「あんまり飲みすぎるなよ?介抱すんのは俺なんだからな」
リズベット「早く来なさいって!!」
シリカ「プレゼントだって用意しましたよ!!」
リーファ「はーい!!どいてどいてー!!」
ユウキに連れられ上座の席に座らされたタクヤの目の前にリーファとルクスが巨大なホールケーキを運んできた。その上にはチョコのプレートに"Happy Birthday!”の文字が刻まれている。
タクヤ「…そうか、今日オレの誕生日だったっけ…」
ストレア「本人がそんな大事な事を忘れちゃダメだよ〜」
ルクス「ユウキさんが腕によりをかけて作ったから味は保証済みだ」
ユウキ「材料はみんなに頼んで取ってきてもらったんだぁ!!他の料理はアスナとルクスが手伝ってくれたんだよ?」
テーブルには所狭しと料理が並べられ、この人数でも全部食べ切れるか心配になる量であった。
ホーク「何を辛気臭い顔しとるんじゃ!!タクヤの為に領主様も来てくれとるっちゅうのに!!」
サクヤ「やぁタクヤ君、久しぶりだね」
アリシャ「やっほー!タクヤ君の誕生日だと聞いてすっ飛んで来ちゃったよー」
ユージーン「…」
そこには
タクヤ「サクヤさん達も来てくれたのか!?でも、いいのか?領主の仕事は…」
サクヤ「それならリーファとルクスが手伝ってくれたから問題ないよ」
アリシャ「そんな事より早くパーティーを始めよーよー!!私、おなかペコペコー」
ユウキ「じゃあ、乾杯の音頭をタクヤが!!」
葡萄酒の入ったグラスを渡され、照れながら腰を上げた。
全員にグラスが回った事を確認して咳を1つ吐いて言った。
タクヤ「えーと、みんな…今日はオレの為に集まってくれてありがとう!!まさか、こんなサプライズが用意されてるなんて思ってなかったからとても嬉しい!!このお礼はいつか必ず精神的に!!かんぱーい!!」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」
全員が料理に舌ずつみを打っている中、ユージーンがタクヤの前まで赴いた。
タクヤ「アンタとは初めましてだな。タクヤだ、よろしく」
ユージーン「あぁ。俺はユージーンだ。お前の噂はホークやクラインから聞いている。妖精剣舞の試合も見た。いつか、俺とも手合わせしてくれ」
右手を差し出されたタクヤは笑顔で右手で握り返した。
クライン「ジンさん!!こっちで飲み比べしましょー!!」
ホーク「おう!!どっちが多く飲めるか勝負じゃあぁっ!!」
ユージーン「悪いが俺は下戸だ…。飲み比べならお前達だけでやれ」
サクヤ「ならば、その勝負、私が受けて立とう!!」
クラインとホークと一緒になってサクヤが樽ごと葡萄酒を持っていき、それを3人だけで飲み切ろうとしていた。
2樽空けた所でホークが倒れ、3樽目を飲み切る寸前でクラインがギブアップ。余裕の表情でサクヤが圧勝した。
ユウキ(「もしかしてノリより飲むんじゃ…?」)
エギル「あーあ…だから言ったんだ。ほら、クライン。起きろよ」
クライン「世界が回る〜」
タクヤ「はははっ!!」
傍から見ていてこれ程楽しいものはない。クラインとホークはエギルに連れられ部屋の隅に運ばれた。
料理を食べていたタクヤの所にリズベットとシリカ、リーファにルクスがやってきた。
リズベット「料理もいいけど誕生日と言ったらやっぱりプレゼントでしょ!はい、これは私から!!」
そう言って渡した箱の中には初めて見るナックル型の武器であった。
リズベット「私と言ったら鍛冶師!だからプレゼントは武具よ!前に作った"
形状は獣の皮で表面を纏い、無造作に抜き出た爪がいかにも
タクヤ「サンキューなリズ!!大事にするよ!!」
シリカ「私はリーファさんと一緒にモンスタードロップを贈ります!!」
そう言って手渡されたのはタクヤのステータスにピッタリなブレスレットだ。シンプルなデザインで銀色の狼のエンブレムが施されている。
タクヤ「サンキュー!!シリカ!!リーファ!!」
リーファ「これ取ってくるのに4時間もかかりましたよー」
シリカ「でも、タクヤさんが喜んでくれてよかったです!!」
ルクス「じゃあ次は私だね。これは誕生日プレゼントとこれまでの感謝も込めて作ったんだ」
ルクスが贈ったのは手編みのマフラーであった。赤と黒のチェック柄でとても暖かい。
タクヤ「これ…ルクスが作ったのか?」
ルクス「あぁ。前から裁縫スキルも少しずつ上げてたから…」
タクヤ「…サンキュー。大事に使わさせてもらうよ」
ルクス「タクヤ…」
キリト「今度はオレとアスナからだぞ」
2人が贈ったのはペアリングであった。真ん中に小さなルビーは埋め込まている。アスナがユウキを連れてきて一緒にそのリングを贈った。
アスナ「ユウキとお揃いだよ」
ユウキ「ボクもいいの?」
アスナ「うん!これは結婚しているプレイヤーにしか
タクヤ「…なんか照れるな」
ユウキ「うん…。でもとっても嬉しいよ!!」
2人でお互いの左手の薬指にリングをはめ込み、その出来前をキリトとアスナに見せた。
アスナ「やっぱりとっても似合ってるよ!!」
ユウキ「なんだか婚約指輪みたいだね」
タクヤ「そうだな…。でも、オレは嬉しいよユウキ」
ユウキ「…ボクも!タクヤとお揃いなんて嬉しすぎて死んじゃいそうだよ!!」
おもむろにタクヤに抱きついたユウキを見ていた全員がアスナにブラックコーヒーを注文する。頬を赤くしながらもとても幸せな気持ちになれた。
その後もカヤトとランがプレゼントを贈り、エギルが自分の分と泥酔しているクラインとホークの分のプレゼントを贈った。
サクヤとアリシャからは各種族のレジャースポットの無期限フリーパスを手渡された。
すると、そっと背後から忍び寄るストレアに気づいたタクヤは咄嗟に振り向き、慌てるストレアを落ち着かせながらストレアからのプレゼントを受け取る。
ストレア「私は記録結晶にハッピーバースデーの歌を録音したの!!受け取って!!」
記録結晶を受け取り、中の録音ボイスを再生する。
そこにはストレアの優しさが詰まった歌声が入っていた。
タクヤ「サンキューな…ストレア」
頭を撫でてやると頬を赤くしながらも幸せに満ち溢れた表情をしている。
ユウキからのプレゼントは今食べている料理とケーキだそうでユウキの頭も撫でた。
2025年10月21日 22時20分 ALO イグシティプレイヤーホーム
テラスへ出てきたタクヤは葡萄酒で火照った体を冷やす為、テラスへと出てきた。見上げれば現実世界より幻想的な夜空が広がり、遥か彼方には浮遊城アインクラッドがある。
そんな所に同じく体を涼みにユウキもやって来た。
ユウキ「タクヤー…ボクも酔っちゃったよー」
タクヤ「酒強くないのに飲み過ぎなんだよ…ったく。いいからここに座ってじっとしてろ」
テラスに設置したカントリーチェアに座らせ、2人で夜空を見ている。
タクヤ「…あの時もこんな風に夜空が綺麗だったな」
ユウキ「それってSAOでやったボクの誕生会だよね…?ホントだ…あの時と一緒だね」
タクヤ「オレ…今日久しぶりに泣いたんだ」
ユウキ「…うん」
タクヤは今日、両親の命日で墓参りに行った事…その時に涙を流した事を赤裸々にユウキに語った。ユウキはただ相づちを打ってタクヤの言葉を聞いている。
タクヤ「今度、父さんと母さんにユウキの事紹介するよ…」
ユウキ「うん…。ボクもタクヤのお父さんとお母さんに会えるの楽しみだよ…!」
墓の前に行ってもタクヤの両親に会える訳ではない。そこにはただこの世に両親がいないという証明が叩きつけられるだけだ。
だが、ユウキはそんな風に思わない。そこには必ずいると信じている。
信じる心は何ものをも覆す無限の力があると確信しているからだ。
だから、楽しみだ。早く会ってみたいなと心の底から願った。
ユウキ「…ねぇ、タクヤ」
タクヤ「ん?」
ユウキ「実はね…料理の他にもう1つプレゼントがあるんだ…」
ユウキはアイテムストレージから1つのラッピングされた箱を取り出し、タクヤに贈った。
タクヤ「…開けていいか?」
ユウキ「どうぞ…」
テーピングを解き、包み紙から箱をさらけ出し蓋を開ける。
そこにあったのは昔、SAOでタクヤがユウキに贈った物と似ているロケットペンダントだった。
タクヤ「これって…」
ユウキ「タクヤがボクにくれたのはもう失くなっちゃったけど、アルンやイグシティで探し回ってやっと同じようなロケットを見つけたんだ…。
今度はタクヤにボクが贈ろうと思って…」
ペンダントの中を開くとそこにはALOに来て撮ってきた思い出の写真が入っていた。途端に目頭が熱くなるが泣くのを堪えてユウキに向き直った。
タクヤ「ありがとうユウキ…!今までで1番嬉しいぜ…!!」
ユウキ「よかったぁ…!!気に入られるか不安だったけど…やっぱりそれを選んでよかったよ」
タクヤ「…ユウキ」
ユウキ「タクヤ?っ!?」
突然、視界がブラックアウトしたと思いきやユウキの唇はタクヤの唇で塞がっている。驚いたがそれは一瞬でタクヤの体温を感じたユウキはそっと腰に手を回す。長い口付けから解放されたユウキは物欲しそうにタクヤを上目遣いで見る。
ユウキ「…もっと…ほしいよ…」
タクヤ「…あぁ」
今度は互いに近づいていき唇が重なり合う。体を冷ましに来たハズの2人だが、2度のキスで先程より体が熱くなっていく。
だがそれは幸せが溢れている証拠でもあり、それが熱くなるのは幸せに満たされている証明でもある。
そんな様子を物陰から見ているキリト達も途端に頬を赤くした。
キリト「おぉ…」
アスナ(「ユウキぃぃぃ!!!!」)
ストレア「やっぱり2人はお似合いだね〜…」
シリカ&ルクス(「「いいなぁ…」」)
リズベット「見せつけてくれるわねぇ…」
リーファ&ラン(「「私もいつか…!」」)
サクヤ「おやおや…」
アリシャ「妬けるねー」
エギル「…今日は本当にめでたいな」
全員に見られている事などつゆ知らずタクヤとユウキはいつまでも互いの体を話す事はなかった。
とある者がいた。
その者は家族を殺され、殺した者に憎しみを抱いていた。
その家族は
普段からその毛はあったがその者にとって家族は
だから、決行しようと思う。殺人者が社会にいてはならない。
誰だってそう思うし、願いもする。
だから、決行しようと思う。次の犠牲者が出る前に。
殺人者はどんなに罪を感じようと本性は死ぬまで変わらない。
殺した味を覚え、また同じ事を繰り返すに違いないのだから。
のうのうと生きる社会に紛れた殺人者に制裁を下すのだ。
それが、憎しみから生まれた俺の正義だ。
count_0
如何だったでしょうか?
短くなるとか言っておきながら詰め込みすぎて長くなっちゃいました。
けれど、その分読み応えがあったんじゃないだろうかと思っています。
次回から新章に入ります!お楽しみに!
評価、感想お待ちしております!
では、また次回!