ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

56 / 88
という訳で56話目になります。
七色達との東京案内に虹花の秘められた過去が明らかに…!
色々書いていて楽しかったです。


では、どうぞ!


【56】理想を抱いて

 拓哉「ルクス…か…?」

 

 ひよりの目の前に会いたくて会いたくない人が呆然と立ち尽くしている。

 彼もまたひよりと同じように思っていた。会いたくないとは言わないが会えないと…会う資格もないんだと心の中で完結していたのだ。

 だが、運命というものは時に慈悲深く、時に残酷であるもの。

 2人からすれば後者にあたるそれを今なお認識が追いついていなかった。

 

 ひより「…なんで…?」

 

 いち早く理解したのはひよりであった。手と脚が震える。今までで経験した事のない程にひよりは歓喜と後悔が入り交じった感情を抱かざるを得なかった。

 

 拓哉「…オレは─」

 

 声に出そうとした瞬間、ひよりが拓哉の横を過ぎ去り、そのまま外へと駆けて行ってしまった。

 その様子を見ていた虹架が止めるのを振り切り、零れ落ちる涙をそのままにただ走り続けた。

 

 虹架「ひよりちゃんっ!!?」

 

 もう虹架の声は届かない。カランカランと扉に付けられた鈴が鳴り響くばかりだ。他の客も何事かとざわつき始めたのを察知した虹架は拓哉の手を引き、外へと出た。

 

 虹架「何してるの!?早くひよりちゃんを追って!!」

 

 拓哉「アンタはルク…ひよりとは…」

 

 虹架「友達!!…最近なったばっかりだけど…でも、ひよりちゃん泣いてた!!アナタに会ってたまらず泣いちゃったんだよ!!だから、追いかけてあげて!!」

 

 拓哉「…オレにアイツを追う資格なんて─」

 

 虹架「そんなのはどうでもいい!!もし、ひよりちゃんに何かあったら私はアナタを許さない!!さぁ早く!!行って!!」

 

 虹架に背中を押されながら、拓哉はひよりを追いかけた。次第に速さが上がっていき、呼吸も乱れる。

 ひよりの影を確認した所でさらに速度を上げた。

 

 拓哉(「なんで…なんで…!!」)

 

 本心を言えば拓哉もルクス/ひよりに会いたかった。会って自分を助けてくれた事にちゃんと感謝を述べたかった。

 途方に暮れていた拓哉を世界樹まで導き、そこで木綿季や仲間達にまた巡り合わせてくれた事に…。

 だが、ひよりは突然拓哉の前から姿を消した。退院して学校に通い始めればまた会えると勝手に思い込んでいた。

 

 拓哉(「やっぱり…お前は…!!」)

 

 息が上がり、胸が苦しくなる。過ぎ去る景色がボヤけ始め、もうひよりの姿以外見えなくなっていた。

 

 七色「あれ拓哉君じゃない?」

 

 木綿季「本当だ。…すごい剣幕で走ってるけど…」

 

 七色達が次の観光名所へ向かう途中で拓哉が携帯を忘れた事を知り、一行は先に向かっていたのだが、戻ってくる拓哉はそんな事を思わせない程に汗を流し、眉間にシワを寄せて走ってくる。

 すると、拓哉が合流する前に一行の横を亜麻色のメイドが過ぎ去って行った。

 

 珪子「ひよりさん!!」

 

 里佳「じゃあ拓哉が走ってるのって…!!」

 

 直葉「ひよりさんを追いかけて?」

 

 拓哉も木綿季達に脇目も見らず通り過ぎていく。和人や直人の声を聞かずに走り去っていく拓哉の表情を木綿季は見逃さなかった。

 

 七色「ど、どうしちゃったのよ…拓哉君は?」

 

 和人「とりあえず追いかけてみよう」

 

 木綿季「ううん…。ダメだよ、和人」

 

 和人「木綿季?」

 

 和人が追いかけようとするのを木綿季は静かにとめた。

 今見た拓哉の表情は()()()()()()()()()()()()()()()から何も心配するような事はない。

 木綿季は確信している。次に戻ってきた時は、今までよりも心が軽くなった拓哉になっている事に。

 

 明日奈「…木綿季」

 

 木綿季「大丈夫だよ!拓哉なら大丈夫…。こればっかりはボク達じゃどうしようもないからね」

 

 和人「…そうだな」

 

 彼らは知っている。あの表情の拓哉を。絶望の淵に立たされ、そこから這い上がろうとする拓哉を…。

 かつて、あの世界で死に物狂いで抗い続けた1人の戦士を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひより「ハァ…ハァ…」

 

 これだけ走ったのは一体何時ぶりであろう。

 元々、運動が得意だった訳ではない。どちらかと言えば図書室や静かな場所で過ごす事が多い。

 けれど、体育の授業でクラスメイト達と体を動かす事を嫌った日はない。

 汗を流し、やる気に満ち溢れ、それを他人と共有する事を否定したりはしない。

 柏坂ひよりという少女はどこにでもいる普通の女の子だった。

 友人と交流し、苦手な教科に四苦八苦し、放課後に友人とお喋りをしながら家路につく。普通に笑ったり、泣いたり、怒ったり、悲しんだり、誰もが経験してきた事を当たり前のように与えられ続けて来た。

 

 ひより(「本当は…私だって…!」)

 

 

 

 

 ひよりの人生は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 SAOに囚われ、2年もの間戦いに身を投じなければならず、あの世界でさらなる不運がひより/ルクスに降り掛かった。

 ルクスはSAOと折り合いをつけ、ゲームクリアに貢献するべく圏内であるはじまりの街を出て自身を強化していった。

 そんな生活を続けていたある日、ルクスはダンジョン内を散策中に奥で何やら怪しい密会をしているプレイヤーに偶然遭遇してしまった。

 

 ルクス(「あのカーソルの色…!!犯罪者(オレンジ)プレイヤー!?」)

 

 SAOでもルールがあり、それを破るとカーソルの色が変化する設定があった。プレイヤーに害をもたらせばカーソルはオレンジに、プレイヤーを死に至らしめればカーソルはレッドと言った具合にSAOのプレイヤー内ではこのプレイヤーあるいは集団を"犯罪者(オレンジ)”、"殺人(レッド)”と呼称されている。

 そのプレイヤーが今、壁を隔てた先で密会をしているとすればそれは犯罪の計画に違いない。

 

 ルクス(「この事を"軍”や"攻略組”に知らせないと…!!」)

 

 ルクスがその場から足音を立てずに立ち去ろうとすると、不運にも目の前にモンスターの群れが溢れかえっていた。

 

 ルクス「!!」

 

 モンスターが雄叫びを上げながらルクスへと襲いかかる。

 確実に今の雄叫びで犯罪者(オレンジ)プレイヤー達はこちらに気づいたハズだ。

 まだ、モンスター達だけに目を配れば良いが、ルクスの存在が知られればどうなるか分からない。最悪、口封じに殺されるだろう。

 モンスターを陰にして退路を切り開こうとするが、如何せん数が多すぎる。武器である片手用直剣の耐久値も限界に近かった。HPもグリーンとは言え、既に4割近く削られている。

 不安要素が次々浮かび上がってくると、底から死への恐怖心が塊となってルクスに襲い掛かった。

 途端に手脚が痺れ始め、思ったように動こうとしない。

 焦りが出始めたのを感じたルクスは生き残る為だけに全神経を注いだ。

 

 ルクス(「まだ…まだ…死にたくないっ!!」)

 

 現実世界に帰る為にこれまで戦い続けてきた時間が消えていく。

 モンスターの攻撃を浴び続け、HPはレッドに差し掛かってしまった。

 あと少しだと言うのに…、こんな場所で…、このような死に方で…、人生を終えるかと思うと涙が溢れた。

 だが、モンスターがプレイヤーの感情を読み取る事はない。

 ただ電子信号として送られた命令に忠実に遂行する人形は慈悲というものはなく、無機質に武器である棍棒を振り下ろした。

 死にたくないと思っても、後悔しか浮かんでこない。

 

 ルクス(「まだ、現実世界(あっち)でやりたい事…たくさんあったのに…」)

 

 そう願った瞬間、モンスターの攻撃は直前で止まり、次々とポリゴンとなって四散していった。

 

 ルクス「…!!」

 

 何が起きたのか理解出来なかったルクスの前に、密会をしていた犯罪者(オレンジ)プレイヤーの男達が立っていた。

 

「女ァ…さっきの話聞いてたのか?」

 

 ルクス「…」

 

 恐怖で足が竦んでいるルクスに逃げ道などない。顔だけを横に数回振ると1人の男が目の前でしゃがみ込み、目線を合わせる。

 

「嘘はいかねぇなぁ…。さっき殺ったモンスター達が何よりの証拠だ。このダンジョンは狭いからよぉ、プレイヤーの前でしかポップしねぇんだ…」

 

 ルクス「!!?」

 

「どうする?殺っちまうか?」

 

「ここで逃がして計画が漏れりゃあ俺らが殺されちまうぜ」

 

「ん〜…」

 

 もう死しかこの恐怖を拭えるものはない。涙は枯れ、震えもいつの間にか止まっている。

 

 ルクス(「そうか…。これが死ぬって事なんだ…」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや…お前は殺さねぇよ」

 

 

 

 ルクス「…え?」

 

「ちょうどウチも人手が足りなかったトコだったの思い出したよ。この女は"笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”に入れる」

 

 ルクス(「"笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”って…あの殺人(レッド)ギルドの…!!?」)

 

 "笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”はSAOの中で最も残虐で、人を人とも思わないようなやり方でこれまで数多くのプレイヤーがその被害にあってきた。中でもあの手この手とルールの抜け道を見つけ、非道な手段を次々と生み出した事もあり、攻略組ですら手を出しにくい存在へとのし上がってしまっていた。

 

 ルクス「…─だ」

 

「あ?」

 

 ルクス「…やだ…やだやだやだやだ…!!」

 

 恐怖に完全に支配されたルクスは我を忘れ、その場で暴れ始めた。

 それを2人がかりで止め、1人が懐からあるものを取り出した。

 

 ルクス「やだ…やだ…!!帰らせて…帰らせて…!!」

 

「ダーメ…。お前も今日から我が同志だ。仲良くしよォや…」

 

 スカートの裾を手繰りあげ、左脚の太ももに烙印を植え付ける。

 ジュウ…とアバターが焼かれる音と共に棺桶と髑髏がなぞられた紋章が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ…笑う棺桶(ラフィン・コフィン)へ!!」

 

 

 

 

 

 ルクス「…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「ルクスっ!!!」

 

 

 ひより「っ!!?」

 

 過去の映像が拓哉に手を掴まれた事で遮断し、フッと我に返る。

 恐る恐る振り向くとそこにいたのは息を荒くした拓哉であった。

 

 拓哉「ハァ…ハァ…ルクス…」

 

 ひより「…」

 

 言葉が浮かんでこない。何を言えばいいのか分からない。目も合わせられず俯くひよりの手を拓哉はそっと離した。

 

 拓哉「久しぶり…だな」

 

 ひより「…うん」

 

 拓哉「えっと…」

 

 蝉の鳴き声が響き渡る中、2人は広場の片隅で途方に暮れていた。

 何と言えばいい?何を話せばいい?何て感謝すればいい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何と謝ればいい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひより「…こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ」

 

 拓哉「!」

 

 言い淀んでいる内にひよりが初めて拓哉に口を開いた。

 

 ひより「もう…私の役目は終わったから…会わないつもりだった…」

 

 拓哉「…」

 

 ひより「私が…拓哉に会っちゃったら…また…辛い事を思い出しちゃうから…って…。もう…拓哉に辛い思い…は…して欲しくないからって…」

 

 溢れ出る涙のせいで上手く言葉が繋がらない。ひよりはただ思っている事を言っているだけだ。仲間を捨てなければそれを消される恐さ。地獄を終わらせたと思えばまた新たな地獄が待っている恐さ。

 誰も経験した事のない…少なくてもひよりはそれを知らない。

 拓哉の苦痛に比べればまだ自分の地獄など可愛げがあり、まだ助かる見込みがある。

 

 ひより「私は…私は…拓哉に助けてもらったけど…拓哉は…助けてもらったの?」

 

 聞きたくない。知りたくない。そう思っていたのに、不意に口から出てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「…あぁ。救ってもらった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひより「!!」

 

 拓哉「木綿季や仲間達…そして、ルクス…ひよりにオレは助けられた。助けてくれたから今オレはこうして生きている」

 

 ひよりを気遣った言葉でも…ましてや同情の言葉でもない。

 これが拓哉の本心だった。

 

 ひより「私は…何もしてない…。木綿季さんだから…みんなだから…。私には何もない…。ただ一緒にいただけの…私…」

 

 拓哉「…ひよりがオレに会おうとしない理由も分かってた。お前はとことん優しいからオレを気遣ってくれてた事も知ってる。だから、オレも自分からは会いにいかなかった。ひよりの気持ちを優先したいって…そう考えてたから…」

 

 里香や珪子、直葉からひよりが元気にしているという事を聞かされただけでも安心した。オレといるよりもその方がいいと勝手に思い込んだ。

 いや、思い込もうと自分に言い聞かせた。そうしなくてはとても耐えられなかったから。

 

 拓哉「…でも、それは違うんだ。そうじゃないんだ。オレと会ってお前がそうなる事も分かってたハズなのに…追いかけてる内に会いたいって…ちゃんと会って話したいって…思うようになって…自分を我慢し切れなくなった…」

 

 ひより「拓哉…」

 

 拓哉「オレはあの時、お前が隣にいてくれたから…仲間と再会出来た。お前が背中を押してくれたから…木綿季と恋人になれた。

 感謝してもし切れない程…。だから、自分と会ったらなんて言わないでくれよ…!!自分には何もないなんて言うなよ…!!オレはまた…ルクスと一緒にいたいんだ…!!」

 

 零れ落ちていく。鍍金に包まれた本当の想いが音を立てて零れ落ちていく。涙が頬を伝わり、気づけば拓哉はひよりを抱きしめていた。

 

 ひより「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「オレと支えてくれて…オレを助けてくれて…ありがとう…ルクス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 抱きしめる力が強くなる。だが、決して苦しいものではない。

 拓哉の優しさ、頼もしさ、不安や悲しみがひよりに流れ込んでいく。

 もうずっと忘れていたのかもしれない。こうやって抱きしめられる気持ちよさも…安心も…全てが懐かしい。

 

 ひより「拓哉は…本当に…いいの…?私なんかがいても…一緒にいてもいいいの…?」

 

 拓哉「当たり前だ。ひよりはもうオレの仲間だ。離れたくないって思える大事な友達だ…。お前がオレを思って辛い思いをする必要はないんだ。オレはひよりのおかげでここにいるんだから…。だから…会わないとか言わないでくれ。もう悲しい思いをしないでくれ…」

 

 

 ひより「私…私は…う…うわぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだったんだ…。拓哉は救われていたんだね…。拓哉は私といてももう辛くないんだね…。強いなぁ…。私もいつか…そうなれるかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日14時20分 東京都 某広場

 

 拓哉「…さっきは抱きしめてごめん」

 

 ひより「ううん…。私の方こそ泣いたりしてごめんなさい…」

 

 木陰にあるベンチに腰掛け、照れくさそうにしていると遠くから里香と珪子、直葉が走ってきた。

 

 里香「ひより!!」

 

 珪子&直葉「「ひよりさん!!」」

 

 ひより「里香、珪子、直葉…!!」

 

 目の前まで来たと思ったら、すぐさまひよりを抱きしめる。状況が理解出来ていないひよりは慌てて3人を宥めた。

 

 ひより「ど、どうしたの!?」

 

 珪子「だって…!!ひよりさんが泣きながら走って行ってたから私…!!」

 

 直葉「そうだよ!!…ちゃんと仲直り出来たの?」

 

 ひより「!!…うん。おかげさまで…。みんなには色々迷惑かけてたよね?ごめんね」

 

 珪子&直葉「「ひよりさぁぁぁん…!!」」

 

 涙を抑えられずひよりの胸で泣き始めるのを拓哉は隣で優しく見守っていた。すると、後頭部に物凄い衝撃が加えられ、振り向くと涙を滲ませている里香が立っていた。

 

 拓哉「里香…」

 

 里香「何ひより困らせてんのよアンタは!!私達がどれだけ…どれだけぇぇぇ…」

 

 拓哉「…3人にも迷惑かけちまったよな。悪かった…ありがとう」

 

 里香「グスッ…もういいわよ。ひよりとも解決したみたいだから…!!この貸しはレア鉱石1つじゃ足りないからね!!」

 

 拓哉「りょーかい…」

 

 そんな事をしていると、木綿季達も到着し、七色に至っては何故号泣を必死に止めようとハンカチを濡らしていた。

 

 七色「だぐやぐぅぅん〜よがっだぁねぇ〜!!!!」

 

 拓哉「七色になんて説明したんだよ…?」

 

 木綿季「いろいろと大雑把に説明したんだけど…途中から号泣しちゃって…」

 

 住良木「七色は感情豊かなんだ」

 

 拓哉「そういうもんか。…ひより、バイト先まで送るよ。その格好じゃ何かと目立つだろ?」

 

 その場の勢いだけで飛び出してしまった為、ひよりの格好はメイド姿とここでは少し目立つのもあり、拓哉はひよりをバイト先まで送る事にした。

 …と思いきや、珪子と直葉が間に割って入り、それを防ぐ。

 

 直葉「帰りは私達が付き添います!!」

 

 珪子「こればかりはいくら拓哉さんでも引けません!!」

 

 拓哉「えぇ…」

 

 明日奈「まぁまぁ…。みんなで戻ろうよ。店の人達にも事情を話さなきゃいけないだろうし…」

 

 七色「ぞうどぎまっだらいぐわよぉぉ!!」

 

 和人「いい加減泣きやめよ…」

 

 拓哉達は来た道を戻り、ひよりのバイト先であるメイドカフェへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日14時00分 東京都 秋葉原 某メイドカフェ

 

 虹架「まだかなぁ…」

 

 虹架は空を見上げながら店の前でひよりと彼女を追いかけていった青年の帰りを待っていた。

 勢いで見ず知らずの青年に言わなくてもいいような事を口走った事に多少の罪悪感を感じていると、向こうの通りからひよりと青年、そして一緒にいた友人達が歩いてきているのが見えた。

 すぐ様ひより達の元に駆けつけるとひよりも気づいたようで小走りで向かってきた。

 

 虹架「ひよりちゃん!!」

 

 ひより「虹架!!」

 

 距離が縮まるや否や虹架の涙腺が膨張し、涙が頬を流れる。

 ひよりも虹架の泣き顔を見てすごく心配させてしまったと涙を滲ませながら感じた。

 

 虹架「もうじんばいじだんだがらぁぁ〜!!」

 

 ひより「ごめんね虹架…。ありがとう」

 

 そんな光景に感動しながら、ひとしきり泣いた虹架が拓哉の前に出て頭を下げた。

 

 虹架「ひよりちゃんを…ありがとうございます。…それと、さっきはちょっと言い過ぎました…ごめんなさい」

 

 拓哉「いいんだ。オレはあれぐらい言われないと分かんない馬鹿なヤツだからさ。それに…君のおかげでひよりとも仲直り出来たし礼を言うのはコッチだ。ありがとう…」

 

 虹架の手を取り、心から感謝の意を送った拓哉に虹架は一瞬ドキッとしてしまい頬を赤く染める。

 すると、それに気づいた木綿季が2人の間に入って距離を開けさせた。

 

 木綿季「と、とにかくさ!一件落着だよね!あ…お店に迷惑かけちゃったよね。ごめんね」

 

 虹架「ううん。私が上手く言ってあるから心配しないで。ほら…ひよりちゃんもいつまでもメイド服来てないで着替えてきなよ。一緒に帰ろ?」

 

 ひより「うん。すぐ着替えてくるから少し待ってて!」

 

 そう言い残してひよりは駆け足で店内へと入っていった。

 

 和人「じゃあ、オレ達も行くか」

 

 明日奈「そうだね。次はスカイツリーだっけ?」

 

 七色「そうそう!1度あそこの展望台に行ってみたかったのよ!…あ、アナタ達も一緒にどう?日本じゃこういう時"旅は道連れ”って言うんでしょ?」

 

 虹架「え!?えっと…ひよりちゃんに聞いてみないと分からないなぁ…なんて」

 

 ひより「私は全然大丈夫だよ」

 

 虹架「わっ!!?い、いつの間に…!!?」

 

 悲鳴にも似た声を出しながら私服に着替えてきたひよりが七色の誘いを受けた。虹架は驚きながらもひよりに同行する形で拓哉達について行く事にした。

 

 拓哉「じゃあ、軽く自己紹介しとくな。オレは拓哉。んで、隣のアホ毛の娘が木綿季に弟の直人、木綿季の双子の姉の藍子、その隣の黒ずくめが和人、隣から明日奈、里香、珪子、直葉…。そして、このツリ目のすませてるのが住良木で、隣の小学生が七色だ」

 

「「「「ちょっと待て」」」」

 

 拓哉「え?」

 

 自己紹介を済ませて出発しようとする拓哉を他の全員が殺気を放ちながら拓哉を取り囲んだ。

 

 木綿季「拓哉…あんな紹介の仕方はないんじゃないかな?」

 

 和人「今日のオレはそこまで黒くないぞ!?」

 

 住良木「ツリ目はお前も似たようなものだろうが」

 

 七色「小学生って何よ!!これでも飛び級で大学出てるのよ!!」

 

 拓哉「は、はい…。みなさんのおっしゃる通りで…」

 

 その光景を見て虹架は目を丸くしていたが、隣で見ていたひよりは懐かしいものを見るような暖かい目で見ている。

 

 虹架「ひよりちゃんの友達って面白いね…」

 

 ひより「うん…。でも、いざとなったら頼りになるんだよ」

 

 虹架「へ、へぇ…」

 

 七色「ちょっとそこの貴方!!」

 

 虹架「!!?」

 

 七色に指を刺され、動揺してしまった虹架を畳み掛けるかのように話し始めた。

 

 七色「お店にいた時からチラチラ見てたけど…もしかして私の事、知ってるのかしら?」

 

 虹架「え!?え、えっとですねぇ…それは…」

 

 和人「七色は最近テレビに出ずっぱりだったからそこで知ったんじゃないか?」

 

 虹架「そ、そうなんですよぉ!!ニュースとかで見た事あるなぁって思ってて…」

 

 ナイス!とみんなに気づかれないように和人に合図を送る。

 ここはそれに乗る事にした虹架は持ち前の饒舌でこの場を乗り切った。

 

 七色「そうだったのね。いやね、ずっと虹架…でいいのよね?すごい視線を感じたから…」

 

 虹架「す、すみません!!私、そんなつもりじゃあ…」

 

 確かに、七色の方にずっと意識を向けていた事は事実である。

 それに気づかれていたとは知らなかったが場が収まり思わず息を1つ吐く。

 

 七色「まぁいいわ!それよりも早く行きましょ!!」

 

 拓哉「そうだな。2人共、行こうぜ!」

 

 ひより「うん!」

 

 虹架「…」

 

 一行は再び東京スカイツリーに向けて出発した。道中では和人が七色と住良木からVR関連の話を聞いたり、今度発表される新作VRMMOゲームについて話していた。木綿季達女性陣は今度このメンバーで遊びに行く計画を練っているらしく、直人は何故だか何処がいいか女性陣に助言していた。

 

 拓哉「…」

 

 虹架「…」

 

 2人だけ取り残されるとは思っていなかった為、全然会話が弾まない。

 何より会って数分で何を話せばいいかも分からなかった。

 拓哉がこの空気に気まずさを感じている中、虹架はただジッと七色に視線をあてている。

 それに気づいた拓哉が何気なしに虹架に聞いてみた。

 

 拓哉「えっと…虹架、七色の事本当にテレビで見ただけか?」

 

 虹架「え!!あ、当たり前じゃないですかぁ…。七色・アルシャービン博士って言ったらVR業界じゃ超有名人ですもぉん…!!」

 

 拓哉「確かに有名だけどさ…。なんか似てんだよなぁ…虹架と七色って。髪の色とか目の色だったり…もしかしてロシアの血入ってる?」

 

 虹架「ま、まさかぁ〜!!そんな訳ないですよぉ〜」

 

 痛い所ばかりついてくる拓哉に虹架も誤魔化し続けるのが限界になってくる。

 

 拓哉「ふーん…。まぁ、いいけどさ」

 

 ひより「何話してるの?」

 

 木綿季「もしかして…ボクって彼女がいるにも関わらずナンパしてたんじゃ…」

 

 拓哉「そんな訳ねぇだろっ!!?…ごめんな、騒がしい奴らばっかりで」

 

 虹架「ううん…こういうの久しぶりだから楽しいですよ。私、小さい頃に両親が離婚して母に引き取られて日本に来たんです。それからはまぁいろいろとありまして…バイトして少しでもお母さんに楽させたいなぁって…えへへ…」

 

 木綿季「虹架…なんて良い娘なんだろー!!ボク達!!もう友達だからね!!何か困った事あったら何でも相談していいからね!!」

 

 虹架「あ、ありがとう…!」

 

 木綿季と仲良くなった所でそろそろスカイツリーへと到着する頃だろう。

 バスから降りた一行はスカイツリーの真下までやってきて空を貫かんばかりにそびえ立っているのがスカイツリーを見上げた。

 

 七色「高ーい!!これが本物のスカイツリーなのね!!」

 

 住良木「七色、そんなに仰け反ると転ぶぞ」

 

 七色「大丈夫大丈夫…─」

 

 後退しながらスカイツリーの全貌を見ようとしていると、足がもつれてしまいそのまま態勢を崩してしまった。

 

 虹架「だ、大丈夫!?」

 

 住良木「だから言ったんだ。…立てるか?」

 

 七色「えへへ…ちょっと調子に乗りすぎたみたいね…っ痛!!」

 

 立ち上がろうとすると足首から血が流れており、転んだ拍子に石か何かで切ってしまったんだろう。

 すると、住良木の横から虹架が来て、ポーチの中から消毒駅と絆創膏を取り出した。慣れた手つきで七色の足を処置していく。

 

 七色「ありがとう虹架」

 

 虹架「七色はおっちょこちょいなんだからちゃんと気をつけないと…」

 

 七色「え?」

 

 虹架「え?…あっ!!いや、おっちょこちょいっていうのは言い過ぎだったよね!?ごめんね!!」

 

 七色「ううん…。確かにあなたの言う通りかもね。私、貴方みたいな人がお姉ちゃんだと嬉しいわ」

 

 虹架「!!…な、何言ってるのよ。…はい、終わったよ」

 

 立ち上がって痛みがあるか確認していると虹架は慌てた様子で七色から離れた。七色は再度礼を言って住良木に連れられながら中へと入っていく。

 後を追うように拓哉達もも入っていき、最後尾に虹架が俯きながらついてきているのを住良木が横目で様子を伺っていた。

 

 住良木「…」

 

 七色「どうしたの住良木君?虹架がどうかしたの?」

 

 住良木「いや…なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日15時50分 東京都浅草区 雷門前

 

 スカイツリーを後にした一行が次に向かったのは巨大な提灯が飾られている雷門だ。他の国からの観光者達も大勢いて中の本堂までの道も観光者で埋め尽くされていた。

 

 七色「すごい人の数ね。歩くだけでも疲れちゃうわ」

 

 住良木「はぐれないように手を繋いでおこう」

 

 七色「あら?住良木君も男の子らしい所あるじゃない。でも、疲れたから抱っこして!!」

 

 住良木「っ!?」

 

 勢いよく住良木の背中へと飛んだ七色を驚きながらもしっかり捕まえ、そのまま雷門を歩いた。

 

 ひより「虹架、さっきから元気ないね?」

 

 直人「どうかしましたか?」

 

 虹架「…ううん。人が多くてちょっと疲れただけ」

 

 住良木「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虹架は拓哉達と一旦別れ、休憩所で缶ジュースを飲んでいた。1人じゃ何かと大変だという事で住良木も一緒に来ている。

 

 虹架「ありがとうございます。わざわざついて来てもらっちゃって…」

 

 住良木「気にするな。七色の方は拓哉達がいれば安全だろう」

 

 虹架「…住良木さんって七色…さんに優しいんですね?」

 

 住良木「…()()()()()()()()

 

 虹架「え?」

 

 住良木「七色には昔、両親が離婚するまで姉がいたそうだ。ロシアでの生活に母親が耐えられなかったんだろう。日本人にはロシアの極寒は応えるからな…」

 

 いきなり七色の過去について語り始めた住良木にとまどいながらも虹架は黙ってそれを聞き続けた。

 

 住良木「七色は父親に連れられ、幼い頃にアメリカへと渡った。そこで英才教育を施され今の七色がいる。母親は姉を連れ、母国である日本の東京に渡っていた…。七色の父親から聞かされた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだろ?虹架・()()()()()()()

 

 虹架「!!?」

 

 住良木「”枳殻"は母方の姓で離婚した際に君の苗字も変わった。アルシャービンさんが日本に発つ前に俺にだけ伝えてくれた。『日本に七色の姉がいるから出来る事なら探し出して会わせてほしい』とな…」

 

 虹架「…」

 

 もう誤魔化しは聞かないようだ。そこまで分かっているのなら何を言っても意味はないだろう。覚悟を決めた虹架は缶ジュースを横に置いて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虹架「…そうです。私が七色の姉です」

 

 住良木「…やはりな」

 

 虹架「でも、どうして分かったんですか?私が七色の姉だって…」

 

 住良木「もしやと思ったのは君がその髪を染めたと言った時だ。その髪の色は人間の髪じゃ出しにくい…。それこそ、地毛じゃないと無理だ。ならば、何故そのような嘘をついたのかを考えていた時、君の七色に対する接し方で大方予想は固まった」

 

 まるで探偵のようにスラスラと疑問点を挙げていった住良木に素直に驚き、同時に怖くなった。

 それだけの情報で的確に当てられると思ってもみなかったし、勘づかれるような仕草もとった覚えがない。

 

 虹架「…住良木さんは最初から私に目をつけていたんですね」

 

 住良木「…あぁ。君の事は七色のマネジメントの間を縫って探していたんだが、今日あの店に寄ったのは偶然だ。…七色のコンサート成功記念に天が与えた機会かもしれないな」

 

 虹架「住良木さんってお堅いイメージでしたけど、そういうロマンチックな事も言えたんですね。そりゃあ七色が信頼する訳だ…」

 

 住良木「…そんな事はない。以前…いや、つい昨日までならこんな事言わなかっただろう」

 

 昨日の晩に七色と結ばれ、七色の為にこの命を使うと決めてから住良木の見る世界が変わった。それは七色のおかげであり、それに気づかせてくれ拓哉のおかげでもある。日本に来て七色も住良木も人間として一皮剥けたような気がする。

 

 住良木「それで…どうするんだ?七色に君の事を伝えるのか?」

 

 虹架「…いいえ。今はその時じゃないと思うんです。だって、これからまた忙しくなるんですよね?だったら、七色が落ち着いた時に私の口から直接言おうと思います。現実世界(リアル)がダメでも仮想世界がありますから。七色もALOをやってるみたいですし、その時が来るまで私は待ちます…」

 

 住良木「…そうか。七色が聞いたら驚くだろう。七色はあんな風に振舞っているがまだ幼い少女だ。支えはいくらあってもいい。その時が来るのを陰ながら楽しみにしている」

 

 虹架「…ありがとうございます。今日はこれで失礼します。みんなにも言っておいてください。…じゃあ、()()()()()()()()!!」

 

 住良木「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _『"プリヴィエート”と"ダスヴィダーニャ”は誰かから教えて貰った気がするんだけど小さかったから忘れちゃったわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 住良木「…フッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日19時00分 東京都 羽田空港

 

 東京観光が終わり、拓哉達は七色と住良木を見送る為に羽田空港へとやって来ていた。

 

 拓哉「今日まで楽しかったぜ、七色、住良木」

 

 木綿季「今から飛行機って事はアメリカに着くのは明日の朝ぐらいかな」

 

 七色「そうね。まだアメリカ(あっち)での仕事が残ってるから早く戻らないと」

 

 こう見えてもVR業界を背負っている立場の身だ。研究を進めてよりよい環境を整えなくてはいけない。

 

 拓哉「新作のゲームが出来たらすぐに連絡してくれよ?」

 

 和人「オレにも是非…!」

 

 七色「分かってるわよ。どうせ、近々βテストをしなくちゃいけないから開発者権限でみんなを招待してあげる」

 

 明日奈「本当に?ありがとう七色ちゃん!!」

 

 里香「今から楽しみね!」

 

 まだ見ぬ世界への好奇心がゲーマー魂に火をつけた。

 七色も時間を見つけてプレイするようなのでそれまでにレベリングに勤しむつもりである。

 

 七色「まぁ、()()()()()()()()()()()()かもしれないけどね…」

 

 拓哉「どういう意味だ?」

 

 意味深めいた七色の発言に疑問を持ったが七色は笑顔で言った。

 

 七色「まだ内緒!そう言えば…拓哉君と和人君は高校卒業したらウチで働く気はある?」

 

 和人「将来の事は分からないけど…考えておくよ」

 

 拓哉「オレも…でも、七色の所に行ったら雑用とかでこき使われそうだけど」

 

 七色「そんな事しないわよ!!…と、そろそろ時間だわ。じゃあ、みんな!!ダスヴィダーニャ!!また会いましょ!!」

 

 住良木「世話になった。次に会った時はお前達の腕を確かめさせてもらう」

 

 拓哉「あぁ!鍛えて待ってるぜ」

 

 和人「元気でな!」

 

 木綿季「またねー!!」

 

 搭乗口に入るまで手を振り続けていた七色が次第に姿を消して、拓哉達は七色と住良木を乗せた飛行機が飛び立ちのを見送ってから空港を後にした。

 すると、拓哉の元に1本の着信が届いた。

 

 拓哉「もしもし?」

 

 菊岡『やぁ、拓哉君。仕事お疲れ様』

 

 拓哉「なんだ、菊岡さんか…」

 

 菊岡『僕の声を聞いただけでえらくテンションが下がったね。君の姿を見なくても肩を落としているのが分かるよ』

 

 菊岡の言う通り、拓哉は菊岡からの着信と知るや否や肩を落とし、テンションが下がった。近くで見られているんじゃないかと周囲を見渡したがそれらしいものは何もない。

 

 菊岡『今日は仕事の労をねぎらうだけの電話だよ。そんなに警戒しないでくれ』

 

 拓哉「そりゃあどーも…」

 

 菊岡『まぁ、今後も何かあり次第君に仕事として依頼するつもりだけどね。もちろん今回だって報酬も出るから今後の将来資金を貯めると思えばいいさ』

 

 拓哉「その言い草だとまた変な仕事押し付けるつもりだろ?」

 

 菊岡「はははっ!そんな事僕が拓哉君に押し付ける訳ないじゃないかぁ!」

 

 何とも胡散臭いセリフを恥ずかしげもなく吐いたものだと拓哉は思ったが、今に始まった事でもないので聞き流す。

 

 菊岡「じゃあ、そういう事だから…お疲れ。残りの夏休みを満喫したまえ!」

 

 そう言い残して菊岡との通話を切ると、隣で木綿季が訝しい表情で拓哉を見つめていた。

 

 木綿季「…また菊岡さんから?」

 

 拓哉「あぁ。七色の助手の仕事が終わったからお疲れ様の連絡だった」

 

 和人「あまりあの人の事信用しない方がいいぞ?何考えてるか分からないからな」

 

 拓哉「分かってるよ。危ない仕事が来たら断るさ」

 

 木綿季「…本当にちゃんと断ってね。ボク、心配したくないよ…」

 

 拓哉「分かってる…無茶な事はしないよ」

 

 そうだ…。危険な事は出来ない。今、目の前にある幸せを自分から手放す気がない。みんなと木綿季の笑顔は絶対に守ると誓ったのだから。

 

 里香「ちょっとー何してんのよ!早く来ないと電車来ちゃうわよー!!」

 

 ひより「早くー!!」

 

 珪子「みんなで何話してたんですか?」

 

 拓哉「ん?もう夏休みも終わるなぁって話をしてたんだよ」

 

 直葉「そうですねー。その前に大会があるけど優勝目指して頑張らないと!!」

 

 明日奈「じゃあ、みんなで応援に行くよ!ねっ?和人君!」

 

 和人「そうだな。妹の活躍っぷりを拝見しに行こうかな」

 

 直人「僕も剣道の試合観に行きたいです」

 

 直葉「!!…よぉしっ!!絶対に優勝するからね!!」

 

 帰り道でこれからの予定を組み始める一行は夏の夜空の下、まだ見ぬ未来の話で持ち切りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 count_1




いかがだったでしょうか?
七色と虹架の姉妹設定に悪戦苦闘してましたが形に出来て心底ホッとしてます。
そして、次回はオリジナル章のプロローグみたいなものを更新したいと思います。もしかしたら、いつもより短いかも…?
乞うご期待下さい!

評価、感想お待ちしております!



では、次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。