ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で55話目更新です!
セブンのコンサートは無事成功するのか。
セブンとスメラギの関係はいかほどに…。
そして1人の少年に訪れた災難とは…。


では、どうぞ!


【55】未来の設計図

 2025年08月12日13時00分 ALO央都アルン

 

「スメラギさん、この資材はどちらに?」

 

 スメラギ「その資材はこっちに回してくれ」

 

 シャムロックのメンバーにそう指示すると、用意された楽屋の中に入り1人長椅子に座りながらもどこか焦りを見せているセブンの隣に腰をかける。

 

 スメラギ「…不安か?」

 

 セブン「そりゃあ不安にもなるわよ。今回はALOで初めての大きなコンサートだもの。今までのストリートライブとは全く違うわ」

 

 スメラギ「衣装は着てみたのか?」

 

 セブン「うん…。正直、ここまでクオリティの高い衣装が出来るとは思ってなかった…。"シャムロック”のデザイナーが設計したのより精密で何より魂が宿ってるって言うのかしら?…そういうものを感じた。

 タクヤ君やみんなに感謝しなきゃね」

 

 端に掛けられたコンサート衣装に視線を移しながら、今でもこれ程の衣装を着て観客の前に立つと考えると、誇らしい反面責任感や使命感を感じてしまう。

 スメラギもそれを察したのかそこには触れなかった。

 

 スメラギ「…」

 

 これ以上ここにいてもセブンの不安は拭えないと感じたスメラギは腰を上げ、楽屋の外へと向かうが、セブンが服の裾を握って離そうとしない。

 

 スメラギ「セブン…?」

 

 セブン「お願い。もうちょっと一緒に居て…」

 

 スメラギ「…」

 

 黙って腰をかけ直し、裾を握るセブンの手を握る。セブンも少し驚いていたがどこか安心するスメラギの手の温かさに内に抱いた不安が優しく溶かされていくのを感じた。

 

 スメラギ「大丈夫だ…。セブンならやれる…。俺が…"シャムロック”のみんながついている…」

 

 セブン「うん…」

 

 会場の設営は滞りなく進んでいる。それはセブンの為であり、来てくれる観客の為でもあった。

 最初はただ仮想世界の研究の一環して始めた路上ライブが今ではいろいろな人の力を借りてALOという仮想世界で様々な人種の人が尊敬と期待、愛情を持って聴いてくれるようになった。

 VR技術の研究と並行してやってきたアイドル活動もまだセブンを知らない人にも届けられる。…そう思うとやはりやってきてよかったなと心の底から思った。

 

 セブン「私…頑張るわ。みんなの為に歌って笑顔にしてみせる!!」

 

 スメラギ「あぁ。お前ならそれが出来る…。頑張れ、セブン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月12日13時30分 ALO央都アルン 正面入口前

 

 タクヤ「はーい!チケット持ってる方はこちらに並んでくださーい」

 

「横入りしないで順番を守ってくださーい」

 

 タクヤは正面入口でシャムロックのメンバー数名と一緒にチケットを持った観客の誘導にあたっていた。

 まだ本番まで時間があるにも関わらず、正面入口には多くの人達で賑わっている。

 

 タクヤ「それにしてもすごい数だなぁ…!これ全員セブンのコンサートを観に来たのか?」

 

「えぇ、私達もこんなに大勢の人達が来て下さってとても感激してます。昔は本当に数人が聴いていただけですから余計にね」

 

 タクヤ「アイドル活動もやって、現実世界(リアル)じゃ天才科学者だからなぁ…」

 

 子供らしさが抜けきれていない少女目当てにこれだけの人数を集められるのは奇跡に近い。それもこれもこれまでのセブンの功績が実を結んだ結果であった。

 すると、後ろから肩を叩かれて振り向くとそこにはユウキとストレアを始め、タクヤの仲間達が全員揃っていた。

 

 ユウキ「来たよータクヤ!すっごい人の数だねー!!」

 

 ストレア「これみ〜んなセブンの歌を聴きに来たの〜?」

 

 タクヤ「あぁ!うちのアイドルはすごいからな!」

 

 キリト「タクヤも今じゃすっかりセブンのマネージャーだな」

 

 約1週間のマネージャー業務も今日のコンサートを機に御役御免だが、その時が来るまではタクヤも"シャムロック”同様セブンのスタッフだ。

 今にして思えば今日までいろいろあったが、時間が経つのが妙に早く感じたものだ。

 

 アスナ「アシュレイさんにもチケット渡したから多分来てるハズだよ」

 

 タクヤ「丁度さっきこっちに来たよ。やっぱり、あの人の事苦手だなぁ…」

 

 シリカ「確かにキャラが強いですもんね」

 

 カヤト「それにしても僕も呼ばれてよかったのかな…?何も手伝ったりしてないけど」

 

 タクヤ「セブンがいいって言ってんだから遠慮すんなよ。マネージャー特権だよ!」

 

 エギル「どんな特権だよ…」

 

 クライン「うぉぉぉぉっ!!!!セブンちゃぁぁぁぁん!!!!」

 

 リズベット「あーもう!!うるさいっ!!!」

 

 そんな話をしているとセブンからメッセージが入り、内容は友達と一緒に会場に来てとの事だった。

 

 タクヤ「なんかセブンからみんなと会場に来てくれってよ」

 

 ラン「何かあったんでしょうか?」

 

 リズベット「とりあえず行けば分かるでしょ!」

 

 タクヤは案内係を他のメンバーに託し、全員でコンサート会場へと向かった。

 会場に着くと設営は既に終了しており、リハーサルの中盤に差し掛かっていた時だった。

 

 タクヤ「セブン、リハーサルってまだ途中だろ?みんな連れて来たけどどうした?」

 

 セブン「それがね…。バックダンサーの娘の何人かが風邪で寝込んじゃって人手が足りないのよ」

 

 ユウキ「じゃあどうするの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブン「みんな…ダンスは得意かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月12日16時30分 ALO央都アルン コンサート会場

 

 リハーサルも終わり、会場の裏に設置してある楽屋の中で汗を滲ませたユウキ達がいた。

 

 ユウキ「ハァ…ハァ…思ってた以上にきつい…」

 

 アスナ「…ダンスなんて…ハァ…ハァ…生まれて初めて…」

 

 リーファ「剣道の練習よりきつあかも…ハァ…ハァ」

 

 リズベット「ハァ…ハァ…疲れた…」

 

 シリカ「メチャクチャハードですよ…ハァ…ハァ」

 

 ストレア「流石にバテたよ〜…ハァ…ハァ」

 

 ラン「少しは…ハァ…ハァ…体力をつけたつもりだったんですけど…ハァ…ハァ」

 

 女性陣全員が息を切らしながらミネラルウォーターを一気に飲み干し、体内から吹き出した水分を取り戻しているとテントに入ってきたセブンに叱咤激励された。

 

 セブン「みんなバテすぎよ!これじゃ3時間4時間もたないわ!」

 

 タクヤ「流石に無茶があるんじゃ…」

 

 キリト「1ついいか…?」

 

 セブン「何かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「なんでオレが女装させられてるんだァァァァっ!!!!?」

 

 

 一瞬、地響きでも起こったと錯覚させる程の声量で叫んだキリトを耳を塞ぎながらセブンが言った。

 

 セブン「仕方ないじゃない。ダンサーは8人必要なんだから」

 

 キリト「だったらなんで他の女性にやらせないんだよ!!?オレは男だぞ!!?」

 

 アスナ「まぁまぁ…キリト君、そんなにカッカしないの。似合ってるよ?女の子の格好」

 

 おもむろに娘のユイと一緒に記録結晶で写真を撮りながらアスナがキリトを宥める。言動と行動が噛み合っていない事をキリトにツッコまれた。

 

 タクヤ「いやぁ、いくら中性的な顔立ちって言っても傍から見たら女の子そのものだよな?」

 

 ユイ「パパ可愛いです!!」

 

 キリト「こんなパパを見ないでくれ…」

 

 どうしてか女性の格好になっても様になっているキリトに周りからの視線が妙に生暖かい。

 

 キリト「スメラギもなんでセブンを止めなかったんだ!!?」

 

 スメラギ「セブンは1度言った事は天地がひっくり返っても曲げないからな…。こればかりは俺がどうこうできる問題じゃない」

 

 タクヤ「いいじゃねぇかよ。セブンの為と思って可愛いらしく踊ってくれよキリコちゃん」

 

 キリト「バカにしてるだろ!!?絶対にそうだろ!!?」

 

 セブン「はいはい!そんな事はどうでもいいから…みんな、本番まで時間ないから最後にもう1回通してみるわよ!!」

 

「「「「おおぉっ!!」」」」

 

 キリト「どうでもよくない!!!!」

 

 アスナがキリトの首根っこを掴みながらテントを出ていくと中にはタクヤとスメラギ以外誰もいない。静寂に包まれていたがスメラギがそれを破った。

 

 スメラギ「タクヤ」

 

 タクヤ「…うおっ!?お前がオレを名前で呼ぶなんて初めてだな!!?」

 

 スメラギ「…前に言った非礼を今ここで詫びよう。すまなかった」

 

 タクヤ「ど、どうしたんだよいきなり!!そんなの気にしてねぇって…!!」

 

 深く頭を下げたスメラギに動揺しながら、普段とは違う空気を醸し出しているスメラギを不審に思った。

 

 タクヤ「とりあえず頭上げろよ!!」

 

 スメラギ「…」

 

 タクヤ「マジでどうしたよ?お前らしくない…」

 

 何も言わずただ頭を下げていたスメラギがようやく顔を上げると躊躇いながらもその言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギ「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「…は?…はぁぁぁぁっ!!?な、な、なんだお前っ!!?熱でもあるのか!!?」

 

 スメラギ「ふ、ふざけるな!!俺が礼を言う事がそんなにおかしいのか!!?」

 

 タクヤ「いや、だって…全然そんな雰囲気じゃなかっただろ…」

 

 急に恥ずかしくなったのかスメラギが顔を背けるとタクヤもやりすぎたと反省し謝罪する。

 だが、タクヤがこんな反応を示すのも無理はない。それだけスメラギという男は冷静沈着で常に状況を把握しているイメージが強いのだ。

 元々無口な性格も相まってセブンですら驚愕の色を露わにするだろう。

 

 スメラギ「言いたい事は言った!!貴様もセブン達のところに行けっ!!」

 

 タクヤ「へーい…」

 

 スメラギ「…」

 

 タクヤ「…今度オレと決闘(デュエル)してくれよ」

 

 スメラギ「…あぁ。その時は全力で応えよう!!」

 

 タクヤはその言葉だけを聞いてセブン達のいるステージへと向かった。

 1人残されたスメラギは先程の言葉を自分が何故口にしたのか今更ながら疑問に思った。普段なら絶対に言わないような一言を何故言ったのか…。

 答えなら分かっている。認めたくないがこればかりは仕方ない。

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 スメラギ「…フッ」

 

 セブン「なーんかいいことでもあったの?」

 

 スメラギ「!!?」

 

 不意に背中に飛びつかれ、一瞬心臓が泊まるかと思ったがスメラギは平静をとら戻しつつ背中におぶさっているセブンに言った。

 

 スメラギ「別に…何もない」

 

 セブン「その割にはなんかスッキリしたような表情になってるけど?」

 

 スメラギ「気のせいだ」

 

 セブン「本当に?」

 

 スメラギ「あぁ」

 

 セブン「本当の本当に?」

 

 スメラギ「しつこいぞ。セブンも本番が近いんだ。そろそろ準備に取り掛かれ」

 

 セブン「…はーい」

 

 不貞腐れながらセブンは楽屋の外へと出ていった

 スメラギも本番の為の最終調整をするべく会場へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月12日17時45分 ALO央都アルン コンサート会場

 

 入場を1時間前に済ませ、会場は多くの観客と"MMOストリーム”と言う配信動画の中継で賑わいを博し、本番が始まる前から熱狂的な声援が雨のように降り注いでいた。

 

 アスナ「すごい声援だね…」

 

 シリカ「ふ、震えが止まりません…」

 

 リズベット「まさか、アイドルのコンサートに飛び入りで参加するとは思わなかったわ…」

 

 ユウキ「本当だよ。ダンスも数時間しかしてないから不安だし…」

 

 ラン「もう1回ダンスの動画見ておこうかな…」

 

 リーファ「わ、私も見たい!!」

 

 緊張を全身から溢れ出させているアスナ達に外の観客からの声援でさらにかしこまってしまっていた。

 唯一不安を感じてないのがストレアだけだったが、普段から羞恥心というものに疎かったのが功を奏している。

 さらには、別の意味で不安を隠しきれない少女…元い、少年が頭を抱えながら青ざめた表情でずっと地面を見続けている。

 

 キリト「こんな大勢の前で女装…下手したら変態扱い…最悪学校にも噂が流れて…オレは一体どうすれば…」

 

 タクヤ「キリト…。考えてても何も変わらなねぇって!それに誰が見ても"ブラッキー”なんて分かんねぇよ」

 

 キリト「それだといいが…。くそ…下がやけにスースーする…」

 

 ユイ「パパ!!女の子がそんな事してはいけませんよ!!」

 

 キリト「オレは男だっ!!!?」

 

 だが、確かにこのままでは緊張しすぎて本来の動きが出来ない可能性がある。どうにかして全員の緊張を解せれば良いのだが。

 

 セブン「何みんなお通夜みたいな顔してんのよ?」

 

 ユウキ「セブン…」

 

 セブン「そんなに気負わなくていいわよ。あくまであなた達は臨時の助っ人なんだから。私もあなた達に本家同様に完璧に踊りなさいとは言わないし言える立場じゃないわ」

 

 アスナ「でも、セブンちゃんにとってはとても大事なものでしょ?やっぱり緊張するわ…」

 

 セブン「それが余計なお世話だって言ってるの!」

 

「「「「!!」」」」

 

 セブン「…確かにALO初となる私のコンサートが失敗しちゃったら来てくれたファンのみんなはガッカリするかもしれない。

 でも、それは私の監督不行きってだけよ。みんなはいつもみたいに笑顔でステージに上がってちょうだい!

 大丈夫!あなた達となら最高のパフォーマンスが出来るって思うの!!

 ダンスのレッスンだって初心者とはとても思えないくらいキレっキレだったわ。アイドルの私が言うんだもの…間違いない!!」

 

 失敗を恐れるな…自信を持てと言われた。この激励はダンサーであるユウキ達だけでなく、セブン本人や、コンサートに携わる全ての者に言われたものだ。

 誰だって失敗はするし不安に陥る事だってある。だがそれでいいのだ。

 それが当たり前で完璧にこなせる者など1人もいない。

 セブンは今日までの活動を通して得た経験と知識が導き出した1つの心理。1人で出来ない事も2人、3人と助け合える仲間がいるから1つの偉業が成される。

 だから、前を向け。不安を抱く必要はない。あなた達の隣にはいつだって仲間がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキ「…だよね」

 

 タクヤ「ユウキ…?」

 

 ユウキ「ボクらしくなかったね。こんなに不安になったの久しぶりだから…。でも、いつだってそれを乗り越えて進んできた。

 今日だってボク達は進めるよ!!歩く事をやめなければどこへだって行けるんだから!!」

 

 ユウキは立ち上がり、次第に他のメンバーもユウキに感化され立ち上がる。その輪にセブンが加わり、手を中央に差し出してその上から互いに手を重ね合わせた。

 

 セブン「今日限りのスペシャルステージよ!!みんな!!準備はいい?」

 

「「「「うん!!」」」」

 

 セブン「…ってスメラギ君とタクヤ君とキリコちゃんも加わりなさいよ!!」

 

 タクヤ「お、オレらもか?」

 

 スメラギ「こういうのは…少し…」

 

 キリト「キリコちゃん…ってもう変える気はないんだな…」

 

 セブン「照れてる暇があったら早くする!!」

 

 輪の中にタクヤ達を加え、再びセブンが激励を送る。

 

 セブン「今日は思いっきり楽しみましょ!!…行くわよ!!!!」

 

「「「「おぉぉぉっ!!!!」」」」

 

 時は来た。タクヤとスメラギを残し、セブン達はステージの階段を上っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブン「みんなぁぁぁっ!!!!おまたせぇぇぇっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日の事をオレは生涯忘れる事はないだろう。

 セブンの登場と共に観客達の心も最高潮に達し、それに負けない程の綺麗な歌声と華麗なダンスが織り成すステージは観る者全てに感動を与えたに違いない。縦横無尽に動く彼女達は生き生きとした表情でステージを彩り続けた。同時に与え続けた事だろう。夢を叶えようとする勇気を…。

 誰だって夢を持ち、何度も挫折する。だが、その度に折れなかった者だけに夢という報酬が得られるのだ。

 セブンやユウキ達のステージは心が折れかけている者に勇気や希望を与え、優しく支えるような力があるような気がする。

 観客の中に塞ぎ込んでいる者は誰もいない。全員、セブン達の夢の形を目の当たりにしているからだ。

 それだけ印象強く、心に響くような歌はとても難しい事で、誰であっても出来るものじゃない。

 セブンだからこそ…ここにいるメンバーだからこそ、ここにいる全員を癒せるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 "VRの歌姫”とはよく言ったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月12日22時00分 ALO央都アルン コンサート会場

 

 観客達は既に帰り、先程まで賑わっていたコンサート会場は嘘のように静寂に包まれていた。

 

 セブン「みんなお疲れ様!!!!」

 

「「「「お疲れ様でしたぁぁっ!!!!」」」」

 

 楽屋に入り、全員が着替えも済ませないままソファーへと誘われる。

 仮想世界で肉体的には疲れないと言っても、精神的には多大な疲労が見て取れる。会場の撤去は"シャムロック”のめんばーが全員で取り掛かってくれている。

 

 ユウキ「楽しかったぁっ!!あそこのダンスキレっキレだったでしょ?」

 

 リズベット「それを言うなら私だってサビの部分メチャメチャキレてたわよ!!」

 

 シリカ「わ、私も頑張りましたよ!!ど、どうでしたかタクヤさん?」

 

 タクヤ「あぁ、シリカもみんなも凄かったよ!!正直、ぶっつけ本番とは思えないぐらいだよ!!」

 

 ストレア「えへへ〜…それほどでも〜…」

 

 アスナ「キリコちゃんもとっても良かったよ!!」

 

 キリト「そういうアスナもな…。てか、コンサート終わったんだからキリコちゃんはよしてくれ…」

 

 誰もが全力を出し、誰もがそれを超える力を出した。結果は言わずとも分かるだろうが大盛況だった。

 拍手喝采を浴び、アンコールの雨も浴びて、観客全員が魅了された。

 セブンも最後に涙を流していたが、それが嬉し涙だとすぐに分かった。

 

 リーファ「ランもちゃんと踊れてたよね!!」

 

 ラン「みなさんには及びませんが出来る限り頑張りました!」

 

 ユウキ「そんな事言ってーカヤトにアピールしてたんじゃないのー?」

 

 ラン「ゆ、ゆ、ユウキっ!!!!な、なな、何言ってるのよ!!!?」

 

 顔を真っ赤にしながらユウキの口を抑え込むがそれは遅く、楽屋の中に通されたカヤトに聞こえ、誰にも気づかれないように頬を染めている。

 

 アスナ「あれ?そう言えばセブンちゃんは?」

 

 タクヤ「あぁ…さっきスメラギと一緒に出ていったぜ?」

 

 ストレア「じゃあ私呼んでくるね〜」

 

 テントから出ようとするストレアの首根っこを咄嗟に掴んでセブンとスメラギを探しに行くのを止めた。

 

 タクヤ「今は行かなくていい」

 

 ストレア「え〜!こういう時って打ち上げってものをするもんじゃないの〜?」

 

 タクヤ「だから、少し待ってろって言ってんの。オレ達は今日で終わりだけど2人にとってこれから先もあるんだ…」

 

 ストレア「ぶ〜…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブン「今日は星が綺麗ねスメラギ君」

 

 スメラギ「そうだな」

 

 中央広場から少し離れた湖畔通りにやって来たセブンとスメラギは近くのベンチに腰を下ろし、夜空を眺めていた。

 空は幾千万の星が散りばめられ、雲と一緒に鋼鉄の城"アインクラッド”が流れていく。

 

 スメラギ「セブン、今日はよく頑張ったな」

 

 セブン「ありがとう。みんなのおかげでコンサートは大成功に終わったわ。みんながいなきゃこれ程の充実感に浸れる事もなかった…」

 

 スメラギ「あぁ…そうだな。後で礼を言わないとな」

 

 セブン「もちろんよ!…でも」

 

 スメラギ「?」

 

 暗がりのせいでセブンの表情の細部までは見えないが不意に月明かりに照らされたセブンの頬は少しばかり赤かった。

 

 セブン「でも…やっぱり、いつも私を支えてくれる人がいたから…私は今日も頑張れたの…」

 

 スメラギ「…」

 

 セブン「その人はぶっきらぼうだし、愛想はないし、何考えてるかイマイチ分からないけど…けど、それでも私の為に何でも手伝ってくれた。

 研究も、アイドル活動も、文句を言わずに私を支えてくれた…!!」

 

 スメラギ「セブン…」

 

 セブン「…私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギ君が好き…!!」

 

 

 

 スメラギ「!!」

 

 セブン「このコンサートが納得出来るものになったら言おうって決めてた…。だから…」

 

 スメラギ「セブン…俺は…」

 

 心がざわつく。もう決めた事なのに。もう覚悟した事なのに。

 ()()()()()()()()()とそう思っていたのに。

 心がざわつく。セブンの一言で決意が揺らぐ。

 

 セブン「…私、知ってるよ?…スメラギ君が私の助手になった理由…」

 

 スメラギ「!!」

 

 セブン「総務省の菊岡さん…だっけ?その人に言われたんでしょ?私をあの人の計画に誘ってこいって…」

 

 スメラギ「どうしてそれを…」

 

 セブン「偶然よ…。スメラギ君の部屋を通りかかった時にその人と喋ってるのが聞こえて…」

 

 知らなかった。スメラギが思ったのは単純にそれだった。

 だが、同時にある疑問も浮かび上がってきた。それを知った上でどうして自分を手元に置いていたのか。

 

 セブン「でも、別にそれほど気にはしなかったわ。スメラギ君がその事を私に伝えて興味があったら参加しようかなぁって程度だよ?

 でも、スメラギ君はそれをしなかった。私の事を心配してくれたんでしょ?()()()()()()()()()()()()()()()()()って…」

 

 スメラギ「…」

 

 セブン「当たりか…。あの人を初めて見た時は胡散臭そうだなーって思ってたけど、根はそんな残虐非道だったのね」

 

 その計画の内容をセブンは知らない。スメラギも大まかな内容しか伝えられていないので、残虐非道かどうか問われると答える事が出来ない。

 だが、菊岡誠二郎という人物の全てを信用してはいけないという事だけは的確に言い当てた。

 

 スメラギ「…セブンの言う通りだ。俺は菊岡の命令でセブンの助手となった。セブンが卒業した大学の講師の1人が菊岡と繋がっていたらしい」

 

 セブン「うん。私も当時の先生に言われてスメラギ君を雇った…」

 

 スメラギ「それからはセブンの研究に携わり、いろんな技術を学ぶ事が出来た。これがあれば、日本もアメリカに劣らないVR技術が完成すると…当時の俺はそう思った」

 

 スメラギが助手としてセブンの元へ訪れた時は日本で"SAO事件”が勃発する少し前だった。

 当時、茅場晶彦や須卿伸之を輩出した重村研究室にいた住良木に重村教授を通して菊岡からコンタクトがあり、それを承諾した。

 

 スメラギ「俺はもっと上に行きたい…。もっと高い場所から世界を見たいと大学生ながら高すぎる理想をかかげていた。そのせいか周りとも疎遠になり、気づけば誰も俺の周りにはいなかった。だから、そいつ等を見返す為に菊岡の話に乗った…」

 

 周りの者に見せつける為、周りの者との差を広げる為、スメラギは菊岡の誘いを受け、VR技術の申し子とまで謳われたセブンに接触した。

 その時、まだ10にも満たない少女とは知らなかったスメラギは本人を前にして膝から崩れ落ちたのを今でも覚えている。

 

 セブン「あの時のスメラギ君って結構負けず嫌いだったものね。…それは今でも同じか」

 

 スメラギ「年下…しかも10も離れた少女が俺より権威があるとは誰も思いはしないだろう?」

 

 セブン「まぁ、私は天才の上に努力を惜しまなかったから仕方ない事だわ」

 

 スメラギ「態度は年相応だがな…」

 

 それから今日までスメラギは屈辱ながらもセブンの元で研究を重ねる事になった。想定外なのは研究だけでなく、身の回りの世話までさせられた事だろうか。両親はセブンが赤ん坊の頃に離婚し、今は父と共にアメリカへと移住している。

 セブンの口から母親の事や、母国のロシアの事は1度も聞いていないし、聞ける事も多くはなかった。

 だが、セブンが口癖によく使う"プリヴィエート”と"ダズヴィダーニャ”というのはロシア語での挨拶らしい。

 赤ん坊の頃に誰だが忘れている様だがそれを聞いた事があり、頭の中に残っていたらしい。

 

 セブン「あまりロシアの事は憶えてないのよ。私、まだ赤ちゃんだったから」

 

 スメラギ「それは別にいいのだが…自分の部屋の掃除ぐらいしたらどうだ?」

 

 セブン「あ、あれはどこにどれがあるか簡単に尚且つ正確に分かるように配置してるのよ!!」

 

 そして、セブンの元にいるようになって2年と少し過ぎた頃、日本でセブンと並ぶVR技術の研究者…茅場晶彦が作り上げた"ソードアート・オンライン”がクリアされたとニュースで知った。その時にスメラギ は思った。

 

 

『俺は…何をしているんだ…?』

 

 

 この時には菊岡から計画の内容の一部を聞いていたし、セブンから学んだ技術を使いその計画を進める手筈だった。

 だが、スメラギがやっている事は間違っているのではないか。

 計画の一部を聞かされ、正直吐き気がする程の惨さがあったが、日本の為、何より自分の為にと言い聞かせ、セブンの助手を続けた。

 

 スメラギ「…」

 

 セブン「スメラギ君は何で…私をその計画に誘わなかったの?」

 

 スメラギ「それは…」

 

 言うのは簡単だ。だが、スメラギも研究者の前に1人の男性である。

 羞恥心もまだ不安定で例え少女を前にしてもそれは変わらない。

 だが、言わなければ何も伝わらない。

 

 スメラギ「…昔、計画の内容を知ってからの俺は自分の為にと理由をこじつけてセブンの研究を手伝ったせそんなある日の事だ…。もう夜も更けて誰もが寝静まっている時に、研究室で1人黙々と作業をしていたのを偶然見かけた。あの時は既に2日も徹夜して他のスタッフも仮眠なり休憩を取っている中、最年少のセブンだけが研究を中断させなかった…」

 

 疲労もとうに限界を超え、精神面すら危うい極限状態にも関わらずセブンだけが手を止める事はなかった。

 それは大人ですら音をあげてしまう事で、ましてや少女にこの所業は無理だと誰もが思うだろう。

 実際スメラギですら眠気に負けてセブンより先に仮眠を取った程だ。

 それでもセブンは止まらなかった。その時、セブンに聞いた事がある。

 

 住良木『七色、いい加減休め。このまま続けても体を壊すだけだ…。1度仮眠を取って─』

 

 七色『まだダメよ。今、いい所なんだから。…それに寝ている暇なんかないわ。発表会が近いっていうのもあるけど、私は今が1番楽しいの!

 だって、これが世界に広がればVRはもっと先へと進めて、それによって今よりもっと多くの人達が笑顔になるんだから!!

 おこがましいのを承知で言うけど、私が寝た分だけVR技術の進歩は遅くなる…。だから、まだやる。頭の中に思い浮かべている事を全部出し切るまで私はこの手を止めないわ!!』

 

 その気概はとても少女のものとは思えなかった。普通なら同年代の友人と交流を深めていく時期に七色はそれを全て投げ打ってVR技術の為、何よりそれがもたらすであろう人々の笑顔の為に骨身を削っていたのだ。

 その姿を見て住良木は自分の愚かさを痛感した。

 自身の名誉と誇りの為だけに動いてきた住良木には決して届かないであろう領域にこの少女は立っている。いや、今なお進み続けている。

 それからというもの、住良木は自分の全てを七色の為、人々の笑顔の為に捧げてきた。菊岡との定期連絡も嘘を含め、七色の技術を守り続けてきた。七色がアイドル活動を実行したのも最終的にはVR技術の要である仮想世界の調査だったし、それならそこにいるプレイヤーにも笑顔にしたいという思いもあった。

 路上ライブから始まり、今ではメディアに取り上げられる程になったのもセブンのこれまでの努力を第三者が認めてくれたものだとセブンは語った。

 全ては人々の笑顔の為…。VR技術の推進はその為の手段だ。

 七色・アルシャービンにとってVRとは人々が笑顔になれる場所なのだから。

 

 住良木「だが、それも今日までだ…。俺は俺自身を許せないし、これ以上セブンといても後悔ばかりが募るからな。

 これを機に俺はお前の元から消える…」

 

 セブン「…」

 

 ベンチから腰を上げ、月明かりを背に立ち去ろうとするとガタッという音と共にセブンが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブン「ふざけないでよ!!!!」

 

 

 スメラギ「!!?」

 

 

 突然の激昂に驚いたスメラギにゆっくりとセブンが近づく。

 

 セブン「私は…最初にそんな事気にしてないって言った!!私は、隣にスメラギ君がいたからここまで頑張ってこれたの!!スメラギ君がいなきゃここまで上っては来れなかった!!スメラギ君がいつも私を勇気づけてくれたから今の私がここにいるの!!きっかけなんてなんだっていいじゃない!!

 私にはスメラギ君が必要なの!!スメラギ君じゃなきゃ嫌なの!!

 ずっと…ずっと私を支えていてよ!!!!一緒にいてよ!!!!」

 

 息を切らしながら、涙を流しながら、そこには天才科学者などおらず、1人の駄々をこねる少女が立っているだけだった。

 

 スメラギ「…」

 

 ゆっくりとセブンに近づき、彼女と同じ目線まで腰を下げる。

 

 スメラギ「…俺が憎くないのか?」

 

 セブン「憎いわけない…大好きだもん!!」

 

 スメラギ「…俺を許してくれるのか?」

 

 セブン「許すも何も…私には何も危害はない。スメラギ君と一緒になりたいよ!!」

 

 もう何を言っても曲げる事はない。それが1番身近で見てきたスメラギがよく知っている事だ。

 

 スメラギ「…本当に俺でいいのか…?…七色」

 

 セブン「当たり前でしょ…。私は住良木君だからいいの…」

 

 心の奥底から込み上げてくる熱い何かを堪え、スメラギはそっとセブンを抱きしめた。

 

 スメラギ「…お前は本当に…何を言っても曲げないな…」

 

 涙を流しながらセブンもスメラギの大きな背中へと腕を伸ばした。

 

 セブン「そんな事…スメラギ君が1番良く分かってるじゃない…」

 

 スメラギ「もう後戻りは出来ないぞ…」

 

 セブン「何度もしつこいわよ…。でも、その度に言ってあげる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大好きだよ…スメラギ君…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スメラギ「俺も…セブンが好きだ…。お前の為に俺は俺の全てをセブンに…七色に捧げる…」

 

 

 月明かりに照らされながら2人はしばしの間、互いの温かさに包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日11時00分 東京都秋葉原駅前

 

 七色「さぁ行くわよみんな!!今日1日は完全オフだからみんなで遊ぶわよ!!」

 

 コンサートの翌日、七色は拓哉との約束通り東京観光へと踏み切った。

 今日からお盆という事もあり、駅には普段よりも少ない駅に拓哉と木綿季、和人、明日奈、直葉、直人、藍子、里佳に珪子といったいつものメンバーが集められていた。

 

 拓哉「なんか妙にテンションが高いんだけど昨日何かあったのか?」

 

 住良木「…俺にも分からん」

 

 木綿季「そういう風には見えないけどねー」

 

 住良木「…」

 

 七色のテンションもそうだが、住良木の態度も妙に落ち着きがない。

 元々、半日しかなかった休暇も丸1日に伸びた事もあり、何とも異様な空気が流れている。

 

 里佳「絶対昨日何かあったわよね…」

 

 珪子「私もそう思います…」

 

 和人「それにしても秋葉原か…。久しぶりに来たな」

 

 明日奈「キリト君もメイドカフェとかに行ったりするの?」

 

 和人「違うって!秋葉原は元々電気街で賑わってるんだぞ?中学生の頃はPCのパーツとか漁りに来てたんだ。ここなら何でも揃うからな」

 

 秋葉原にいわゆるヲタク文化が根付いたのはつい数年前からで外国人が日本の秋葉原に抱く印象も電気街でなくヲタクの聖地としてしか知られていないようだ。秋葉原自体もそれを見越してそういう趣向の店を増やしたのも事実だが。

 

 直人「初めて来ましたけど、いろいろな店がありますね」

 

 直葉「…直人君も興味あるの?…メイドに」

 

 藍子「そうなんですかっ!!?」

 

 直人「えっ?あ、いや…そういう訳では…ははは…」

 

 下手なこと言えばすぐ様捕まってしまう事に気づいた直人はこれからの発言に最大限の注意をかける事にした。

 

 七色「まずはそうね…。やっぱり最初は何と言ってもメイドカフェでしょ!!日本は…特に男性はこういうものにすごく興味を示すらしいわ!

 !…後々の事も考慮して研究…元い遊びに行きましょ!!」

 

 拓哉「最後…何か聞き捨てならない事が聞こえたが…まぁいっか」

 

 和人「メイド喫茶ならあっちの通りにあったハズだ」

 

 明日奈「やっぱり行ってるんじゃ…」

 

 和人「行ってない!!」

 

 一向は和人の案内で近くにあるメイド喫茶へと足を運ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日11時10分 東京都秋葉原 某メイドカフェ

 

 駅から歩いて10分の所に雑誌やテレビでよく見るメイドカフェがあった。店内に入るには多少の覚悟が必要で七色を筆頭に中へと入っていく。

 

「「お帰りなさいませ!!お嬢様!!ご主人様!!」」

 

 七色「お帰り?まだ私達来たばかりだけど?」

 

 和人「メイドカフェはこういう接客をするんだよ…ってテレビで見たぞ?」

 

 背後から突き刺さる明日奈の視線を察知し、すぐ様防衛に入る和人を横目に大所帯という事もあり、オープンテラスへと案内された。

 

 木綿季「うわー…本当にメイドの衣装着てるんだね!可愛いなー」

 

 拓哉「あーいうの見ると緊張するよな?」

 

 直人「確かに…普段なら滅多に見ないからね」

 

 木綿季&藍子&直葉「「「…」」」

 

 3人の視線が拓哉と直人を捉え、それに気づいた2人がメニュー表で顔を隠す。そんな事をしているとお冷を持った七色と同じ銀髪の店員がやって来た。

 

「お帰りなさいませー。ご注文はお決まりですかご主人様?」

 

 拓哉「え?いや、まだ!!」

 

「お決まりになりましたらいつでもお呼びくださいませぇー」

 

 テキパキとお冷を人数分置いていくが、ふと七色の前でその手が止まった。

 

 七色「どうかしたのかしら?」

 

「えっ!?あ、いやぁ…なんでもありません。お決まりになりましたらお呼びくださいませぇ…」

 

 七色を見て動揺したのか駆け足で厨房へと戻っていく。

 七色も不思議そうに見送るが、気にせずメニュー表へと視線を戻す。

 

 里佳「げっ…。ここのメニュー…すっごく高いわね」

 

 明日奈「本当だ。こんなに高いのね…」

 

 七色「あー、お金の事は気にしなくていいわ。今日はみんなのお礼も兼ねてるから全部私が支払うわ」

 

 直葉「い、いいの!?」

 

 七色「えぇ。私、普段からあまりお金使わないし億とか持ってても勿体無いしね」

 

 藍子「億…!!?」

 

 木綿季「拓哉!!億って1万円が何枚だっけ!!?」

 

 拓哉「1万枚だ」

 

 それを聞いた瞬間、紺野姉妹は頭から湯気が吹き出し、ガタガタと肩を震わせている。

 

 和人「流石はアメリカの天才科学者だな…」

 

 直人「僕達とは次元が違いますね…」

 

 住良木「支払うとは言ったが限度は弁えろ」

 

 拓哉「分かってるよ。七色もありがとな」

 

 七色「これぐらいじゃ恩は返しきれないけど喜んでくれて嬉しいわ」

 

 テラスで楽しげに会話を弾ませているのを厨房の影からこっそり覗いている2人の少女がいた。

 

「な、な、なんで…拓哉達が…」

 

「ど、どうしよ〜…まだ心の準備が…」

 

「どうしたの?ひよりちゃん、虹架ちゃん」

 

 店員の女性から呼ばれたのは同じく店員の柏坂(かしわざか)ひよりと枳殻虹架(からたちにじか)であった。

 

 ひより「あの…実はあそこの団体様、私の学校の友達で…」

 

 虹架「わ、私は銀髪の娘と知り合いで…」

 

「そうだったんだ。じゃあ、あちらには2人が配膳してくれる?」

 

 ひより&虹架「「えぇっ!!?」」

 

「ランチタイムに団体様入るなんて思ってなかったからねー。他のお客様もいるしお願いよー」

 

 確かに少しずつであるが店内も賑わいを見せ始めている。

 拓哉達の団体を2人だけに回せば、他の場所も回しやすいという事だ。

 

「じゃあお願いねー」

 

 虹架「あぁっ!?ちょっと…!!」

 

 虹架が止める前にはその店員は他の客の注文を取りにホールへと出ていた。

 明らかにピンチである2人は崖っぷちへと立たされていた。

 

 虹架(「あの娘は私の事憶えてないっぽいし…いけるかな…」)

 

 ひより(「拓哉は私の現実の姿を知ってるし…どうすれば…」)

 

 ひよりが頭を抱えているとタイミングよく拓哉達が呼んでいる。

 すると、隣で覚悟を決めた虹架が立ち上がり拓哉達の所へ注文を取りに行った。

 

 ひより(「虹架!!」)

 

 虹架(「大丈夫だよひよりちゃん…!!」)

 

 アイコンタクトで意思疎通を交わした2人はこの状況を打開する為に前へと進んだ。

 

 虹架「お待たせしましたご主人様、お嬢様」

 

 拓哉「七色達から決めていいぞ」

 

 七色「じゃあお言葉に甘えて…、この"ラブラブオムライス”を1つと"愛情たっぷりシーザーサラダ”をお願いするわ」

 

 虹架「"ラブラブオムライス”と"愛情たっぷりシーザーサラダ”ですね?」

 

 木綿季「そう言えばお姉さん…七色と同じ髪色だね?」

 

 虹架(「ギクッ…!!?」)

 

 早くも確信へと迫られた虹架は背中から冷や汗が流れ始める。

 

 七色「本当ね。もしかしてロシアの方じゃないかしら?」

 

 虹架「こ、これはですねぇ…染めたんですよぉー」

 

 和人「なんかなまってないか?」

 

 さらに冷や汗が背中を流れる。いきなりこの状況は不味いと思い、全速力で全員分の注文を取っていった。

 

 虹架「そ、それでは少々お待ちくださいませぇー…」

 

 厨房へと帰ってきた虹架をひよりは優しく受け止めた。

 

 ひより「すごいよ虹架!!」

 

 虹架「ハァ…ハァ…ヤバかったよぉ…」

 

 ひより「私も準備はしたから配膳はまかせて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日11時30分 東京都秋葉原 某メイドカフェ

 

「これ向こうの団体様によろしくー」

 

 厨房から料理が出され、それをトレイに乗せて拓哉達が待つテラスへと向かう。心臓がいつも以上に鼓動しながらも丁寧に拓哉の前に料理が配膳された。

 

 ひより「こ、こちら"愛のナポリタン”になります…!!」

 

 拓哉「おーありがとう!!」

 

 ひより(「よかった…バレてない」)

 

 拓哉「ん?メイドさん…もしかしてどっかで会った事あるか?」

 

 ひより「!!?」

 

 顔が赤くなるのを感じたひよりに助け舟を出したのは里佳だった。

 

 里佳「何よー。木綿季の前でナンパしてんのー?」

 

 拓哉「そんなんじゃねぇよ!!?」

 

 木綿季「本当なの…?」

 

 拓哉「違う違う!!ただどっかで見た事あるかなーって思っただけだ!!?」

 

 木綿季「ふーん…ならいいけどね…」

 

 ひより「で、ではこれで…」

 

 ひよりは去り際に里佳にアイコンタクトを取り、里佳もそれに気づいて片目をウィンクさせた。

 実はひよりが配膳に向かう前に携帯で里佳と珪子、直葉にメッセージを送り、自分が拓哉にバレないようにしてほしいと頼んでおいたのだ。

 

 ひより(「助かったよ里佳!!それにこの変装にも気づいていない!!」)

 

 里佳(「まぁ今回は心の準備が出来てなかったし仕方ないわよね…」)

 

 何故、柏坂ひよりが拓哉との接触を避けるのにはもちろん理由がある。先程、拓哉が言った事は実は的を得ており、ALOで一緒に冒険にも行った事があるのだ。

 彼女のALOでの名前は"ルクス”

 SAOで拓哉が"笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”に所属していた時にルクスと出会ったのがきっかけだ。彼女もまた強制的に所属させられており、拓哉と交流を深める事で勇気を与えてもらった恩人である。

 そして、拓哉がALOに閉じ込められていた時に一緒に世界樹がある央都アルンまで案内した事があるのだ。

 だが、拓哉が解放されてひよりは自分といるとまた辛い過去を思い出させてしまうという思いから今日までの間、拓哉との接触を自ら禁じた。学校でも拓哉と出くわさない為に周りを警戒しながら学校生活を送っている。

 そんな訳で柏坂ひよりはいきなりの拓哉の来訪に驚きながらも臨機応変に対応して事を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年08月13日12時30分 東京都秋葉原 某メイドカフェ

 

 七色「支払いはカードで頼むわ。後、ここの料理とても美味しかったわ!!また日本に来たら寄らせてもらうわね!!」

 

 虹架「あ、ありがとうございますぅー!!行ってらっしゃいませぇ!!」

 

 昼食を食べ終え、拓哉達はメイドカフェを後にして次の目的地へと向かった。

 

 虹架「…な、なんとか乗り切ったぁー」

 

 ひより「いつもより疲れたよ…」

 

「お疲れ様!!突然ヘルプに呼んでごめんね!あそこの下げ膳終わったら今日はもう上がっていいよ」

 

 虹架&ひより「「あ、ありがとうございます…」」

 

 虹架とひよりは拓哉達が使った皿を下げながらふと我に返った。

 

 虹架(「私、何してるんだろ…。ちゃんと七色に言わなきゃいけないのに…」)

 

 ひより(「拓哉…やっぱり木綿季さん達と一緒の方が楽しそうだったな…。私といるよりその方が…」)

 

 虹架「私、こっち下げるからそっちはまかせていい?」

 

 ひより「あ、うん。大丈夫だよ」

 

 1人残されたひよりは下げ膳を続け、テーブルを布巾で綺麗に拭いていく。すると椅子の上に1つの携帯が落ちていた。

 

 ひより「これ…忘れ物かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「ルクス…か…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひより「!!?」

 

 

 

 

 真夏の太陽がサンサンと輝き、2人の影を伸ばしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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いかがだったでしょうか?
キリコちゃんもキレっキレのダンス踊ってますけど、やれば出来る子なんです!
セブンとスメラギのカップリングも出来て、終盤に拓哉とひよりが現実世界で初めて邂逅を果たしましたが次回からどう進展するのかご期待ください!

評価、感想などお待ちしております!


では、また次回!

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