ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という訳で51話目になります。
SAOも3期&オルタナティブと2作もアニメ化するとか神すぎてヤバいです!!
来年の話とは思いますが、早くアニメでユージオやアリスが観たいですね!!
Extra Editionは今回で幕を閉じます。
次からは季節順にオリジナルを書いていってGGO編へと突入する流れですね。
おそらくですが、今年中にはGGO編に入ってると思いますのでよろしくお願いします!



では、どうぞ!


【51】Extra Edition -海底神殿での冒険-

 2025年07月26日 13時00分 ALO 風妖精族(シルフ)領 常夏エリア

 

 クライン「いやぁ…絶景かな絶景かな!!」

 

 バンダナを上げながら、クラインが目の前に広がる光景を見て興奮する。

 辺り一面には青く輝くエメラルドビーチが広がり、夏という季節をさらに主張するものだった。

 だが、クラインが絶景と称賛したのはエメラルドビーチではない。

 もちろんそれも絶景として数えられるが、クラインが言う絶景とはその海辺で水飛沫を輝かせながら遊ぶ少女達の姿だ。

 

 クライン「かぁーっ!!俺は心底ALOやっててよかったって思ったぜ!!」

 

 タクヤ「そうだなー…」

 

 クライン「見ろ!!この景色を!!」

 

 キリト「青い空…」

 

 タクヤ「白い雲…」

 

 クライン「そしてぇぇぇ…!!」

 

 瞬間、3人の前に広がったのは焦げ茶色に輝く巨漢の姿だった。

 一瞬息を呑み、面食らった脳を正常に戻して改めてその巨漢に話しかけた。

 

 タクヤ「遅かったなエギル」

 

 エギル「悪ィな。店の準備してたら遅れちまった」

 

 巨漢エギルは土妖精族(ノーム)の両手斧使いだが、現実世界(リアル)では喫茶店兼バーをエギルとその妻の2人で営んでおり、その準備で集合時間に遅れてしまったらしい。

 

 キリト「いや、オレらもさっき来たとこだから気にするな。

 それであれから情報は入ったか?」

 

 エギル「いやな…なんせフィールドマップの端っこのクエストだからその存在自体知ってる奴が少なくてよ。

 でも、クエストの途中で巨大な水生型モンスターが出るのは確からしい」

 

 そう話していると一時放心気味であったクラインが両頬を叩いてタクヤとキリトに詰め寄ってきた。

 

 クライン「タクヤ!!キリト!!マジなんだろうな?このクエストで()()()が出るのはよォっ!!

 ユイちゃんとストレアっち、マジで楽しみにしてんだぞ?

 これが巨大なイカやらクリオネとかだったらガッカリもんだぜ!!」

 

 タクヤ「巨大なクリオネだったら見てみたいけどな…」

 

 今日ここに集まったのは他でもない。

 彼らはクエスト内で出てくると噂されているクジラを観にやって来たのだ。

 何故、クジラを観に行く事になったのかというとそれは夏休み初日まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月21日 20時00分 ALO タクヤマイホーム

 

 ユウキ「ついに夏休みだねー!!」

 

 ストレア「いぇ〜い!!」

 

 多くの学生が待ち望んでいた夏休みが今日からスタートするという事で手に持っていたクラッカーを打ち鳴らし、盛大に祝おうとタクヤとユウキ、ストレアの家族3人で集まっていた。

 

 タクヤ「はしゃぎすぎだろ…」

 

 夏休みに入っただけでここまではしゃぐとなるとそれ以上に嬉しい事があったら死んでしまうんじゃないかとタクヤは内心2人に引きながらクラッカーを片付ける。

 夏休みと言っても、遊んでばかりもいられない。

 学校から出された多くの宿題を終わらせなければ夏休みが終わっても連日補習を受ける事になるのだから。

 

 ユウキ「大丈夫大丈夫!宿題なんてみんなでやれば1日で終わっちゃうよ!!」

 

 ストレア「じゃあ、みんなで集まって勉強会やろ〜よ!!私、数学なら誰にも負けないんだから!!」

 

 タクヤ「ストレアからそれ取ったらアホの部分しか残んないからな」

 

 ストレア「アホじゃないも〜ん!!それにこのおっぱいだって残るもん!!」

 

 ユウキ「おっぱいは取ってくれるとボク的にはかなり嬉しいんだけど…」

 

 だが、ストレアの言う事にも一理ある。

 夏休みの宿題など所詮は今まで習った事を数だけ揃えたものだ。

 それを使って一学期に学んだ事を復習するようにと暗に言っている訳だが、こちらも人数さえ揃えれば1日で完遂する事も不可能ではない。

 特に明日奈は一学期の成績はオール5という完璧超人であり、和人にしても理数系に関しては明日奈以上に網羅している。

 ちなみにタクヤは授業中に寝ていて内申点がかなり引かれ、オール4というちょっとだけ凄い。

 だが、成績だけでここまで取れる事を評価してほしい。宿題については何も心配してはいなかった。

 

 ユウキ「夏休みにも入ったし、みんなで海とか行ってみたいよねー?」

 

 ストレア「あっ!私、海に行くなら見てみたいものがあるんだ〜」

 

 タクヤ「見てみたいものってなんだよ?」

 

 ストレア「え〜とね〜…こぉぉぉんなにでっかいクジラ!!」

 

 両腕をめいいっぱい広げながら大きさを表したが、クジラは人間が体を使って大きさを表そうとしてもとてもじゃないが無理があった。

 タクヤとユウキイメージで伝わるので敢えて何も言わない。

 

 タクヤ「クジラ見た事ないのか?」

 

 ストレア「もちろん写真とか知識としては知ってるけど実際には見た事ないよ〜。1度でいいから背中に乗ってみたいんだよね〜」

 

 タクヤ&ユウキ「「背中にはちょっと…」」

 

 3人でクジラの事を話しているとタクヤの元にビデオ通話が入ってきた。

 通話相手はキリトのようでタクヤは着信ボタンをタップして映像を映し出した。

 

 キリト『よぉタクヤ。今大丈夫か?』

 

 タクヤ「あぁ、ユウキとストレアと喋ってただけだから特に問題はねぇよ。それよりなんか用か?」

 

 キリト『今度、ユイを連れて風妖精族(シルフ)領の常夏エリアにクエストをしに行くんだけど、タクヤ達も一緒にどうだ?』

 

 タクヤ「クエストかぁ…。オレ達は別に構わないぜ?なぁ、2人共?」

 

 ユウキ「行く行くー!!」

 

 ストレア「オッケ〜だよ〜!常夏エリアって言うぐらいだからクジラに会えるかも〜!!」

 

 キリト『なんだ、ストレアもクジラを見に行きたいのか?実はウチのユイもクジラに会いたいって言ってたからこのクエストを受けようと思ってな。せっかくだからみんなも誘おうって事になって…』

 

 すると、キリトの横からユイがぴょんと現れた。

 

 ユイ『ストレア!!一緒にクジラの背中に乗りましょう!!』

 

 タクヤ&ユウキ(「「やっぱり姉妹だなぁ…」」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クエストに参加出来るメンバーが全員揃った為、海辺で遊んでいるユウキ達に集合を呼びかけたクラインは鼻の下を伸ばしながらこちらへやって来る彼女らを眺める。

 海辺で遊んでいた彼女らはそれに相応しい装備…言わば水着を身に纏っており、その光景は男子なら誰だって1度は振り向く神々しさを放っている。

 クラインもその1人であり、後ろでだらしなくなったクラインを見てタクヤとキリト、エギルがため息をつく。

 

 タクヤ「あんなだから彼女が出来ねぇんだろ…」

 

 クライン「何か言ったかぁっ!!?俺だって…俺だって…」

 

 エギル「マジで泣くんじゃねぇよ」

 

 

 

 アスナ「リーファちゃん大丈夫?」

 

 リーファ「へ?…はい、なんとか」

 

 タクヤ達の元へと向かっている途中にアスナがリーファの不安そうな顔を見てフォローをかけた。

 リーファは現実世界(リアル)で泳ぐ事が苦手で仮想世界でも水辺や海といった泳がなければいけない所へは極力近づかないようにしてきた。

 それを聞いたキリトがアスナやみんなに頼み、リーファを最低限泳げるようにする為、先日現実世界(リアル)で練習をしてきたのだ。

 だが、これから行くのは水深100mに聳え(そび)立つ海底神殿である為、泳げるようになったと言っても不安はかき消せない。

 さらに言えば、リーファにとって水中での戦闘は未知の領域であった。

 移動速度は大幅に低下する上に、力を抜くと体が浮いてしまってまともな戦闘が出来なくなってしまう。

 

 リーファ(「アスナさんにはあぁ言ったけど足でまといにならないようにしなきゃ…!!」)

 

 リズベット「にしても、そのクエストにこれだけの数で挑むとなるとポジションとかもちゃんと決めておかないとね」

 

 今この場には10人いるのだが、流石に神殿内でこれだけの人数を動かすとなると編成を綿密に組まないといけない。

 だが、今回のクエストの目的はクリアよりも巨大な水生型モンスター…つまりはクジラをユイとストレアに見せてやるというのがあり、ストレアにはナビゲーションに専念してもらう事になっている。

 そして、タクヤ達男性陣の所に集まると女性陣はメニューを開き、通常装備へと換装させた。

 

 クライン「え?…み、みなさん、その格好でクエストをするん…です?」

 

 リズベット「当たり前じゃない。水着のまま戦える訳ないでしょ?」

 

 ユウキ「水着にそれなりのステータスがあればよかったんだけどね」

 

 それを聞いたクラインは2度目の放心状態となったが、タクヤ達はそれを無視してみんなにクエストの作戦会議へと入った。

 

 キリト「今回オレが一応パーティーリーダーになりました。

 オレとエギル、クラインが(タンク)で、アタッカーにタクヤとユウキ、リズ、シリカ、後衛の回復(ヒール)役にアスナとリーファが入ってくれ。場合によってはシリカはピナのブレスに回復(ヒール)、リーファにはアタッカーを頼むけど問題ないか?」

 

「「「「意義なーし」」」」

 

 キリト「じゃあ、今日は頑張ろう!このお礼はいつか必ず精神的に!」

 

 作戦会議も済ませ、タクヤ達は翅を出現させて目的地まで羽ばたいていった。遅れて正気に戻ったクラインがその後を追いかける。

 

 ストレア「はぁ〜楽チン楽チン」

 

 タクヤの胸ポケットに小妖精(ピクシー)姿のストレアが入り込む。

 

 タクヤ「あんまり顔出してると落ちちまうぞ」

 

 と、言いながらもストレアが落ちないように気をつけて飛行している訳だが、ストレアはそれを意に返さず、海で飛び跳ねている魚に手を伸ばしたりしている。

 

 ユウキ「クジラかぁ…。実はボクも実物は見た事ないんだよねー」

 

 タクヤ「オレ達も実物を見る機会とかあんまりないもんな」

 

 アスナ「水族館にもクジラはいないしね」

 

 ユイ「楽しみです!!」

 

 談笑を重ねている内に目的地のポイントに到着した。

 ここから先は水中を移動する事になるので、アスナに水中呼吸(ブラッシング)の魔法をかけてもらう。

 そして、キリトを筆頭に次々と水中の中へと飛び込んでいった。

 リーファも魔法がかけられているのに、大きく息を吸って水中へと飛び込んだ。

 

 リーファ「!!」

 

 水中で目を開けるとそこには多くの魚が自由に泳いでおり、それを見て気持ちを緩めたのか吸い込んだ息を全て吐き出してしまった。

 水中でも呼吸が出来るようになったのを忘れたのか、その場でパニックを起こし、キリト達もそれに気づかないまま先へと進んでいく。

 

 リーファ(「ヤバっ!!?」)

 

 必死に教えてもらったフォームを実行に移すが、中々前には進んでくれない。リーファが四苦八苦していると前方からアスナが戻ってきてリーファの手を引っ張りみんなの元へと急いで泳いだ。

 冷静になったリーファは息が出来る事を思い出し、軽く息を整えた。

 

 アスナ「大丈夫リーファちゃん?」

 

 リーファ「…やっぱり慣れてないから遅れちゃいました」

 

 アスナ「大丈夫だよ。私が引っ張って行くし、キリト君達も少しスピードを落としてくれるから」

 

 リーファ「すみません…ありがとうございます」

 

 キリト達に合流したアスナとリーファは最後尾に位置づけ、目的地である海底神殿へと無事たどり着いた。

 

 タクヤ「ここは水が入ってこないのか」

 

 タクヤ達が降り立ったのは海底神殿の手前にあるちょっとした広場であった。そこにはクエストNPCらしき老人の姿もある。

 早速キリトがその老人に話かけると、クエストが発生した。

 

 ネラク『我が宝が姑息な盗賊によって盗まれ、この海底神殿に隠されてしまったのじゃ。儂では此処に住まう魔物に太刀打ち出来んでのぉ…。

 妖精の剣士達よ、どうか我が宝を盗賊から奪い返してはくれまいか?』

 

 内容は海底神殿の奥に隠されている盗賊から奪われた宝を持ってくるという所謂お使い系のクエストのだった。

 

 キリト「早速、神殿内に入るか。ユイとストレアはマッピングとサーチを頼んだぞ」

 

 ユイ&ストレア「「了解!!」」

 

 リーファ(「あのNPC…ネラク…。どっかで聞いた事があるんだけど…思い出せないなぁ…」)

 

 リーファは多少の疑問を抱えたまま海底神殿へと足を踏み入れた。

 神殿内には海水で満たされ、普段通りに歩けるのだが一度動き出すとなれば足取りが重くなってしまっている。

 これには流石にリーファ以外の者達も苦戦を強いられていた。

 さらにここでポップするモンスターは当たり前だが水生型でタクヤ達よりも速く動ける。中々先に進めないのを見兼ねたリーダーであるキリトが()()()()()()の使用許可を出した。

 新生アインクラッドが実装されてその数ヶ月後にALOに()()()()()()()()()()()()()()()()が新たに実装されたのだ。

 SAOのソードスキルとは違い、物理攻撃であるソードスキルにプラスして魔法攻撃にあたる属性が付与されたのだ。

 比率はソードスキル毎に異なるがこの実装を経て、新生アインクラッドを攻略するプレイヤーが増えていった。

 タクヤ達もソードスキルが実装されたと知って、その日は1日中ソードスキルを発動したりして懐かしんだりもしていた。

 だが、"二刀流”や"神聖剣”、"修羅”と言ったユニークスキルの名はなかった。

 あれは茅場晶彦自らが作り上げたスキルである事とユニークスキル自体がゲームバランスを崩壊させかねない為、実装には至らなかったというのがキリトとタクヤの見解である。

 キリトの使用許可が下りた事でクラインが満面の笑みで刀を握り直し、刀身に力を込める。

 すると、刀身は赤色のライトエフェクトを放ち、それが最高潮に達した瞬間、クラインはモンスター目掛けて突進した。

 

 クライン「おりゃぁぁぁっ!!これでもくらいやがれぇぇっ!!」

 

 刀ソードスキル"緋扇”

 

 繰り出されたソードスキルは赤いライトエフェクトを次第に炎に姿を変えながらモンスターの横腹を貫いた。

 

 クライン「へっ!!決まったぜ…!!」

 

 タクヤ「バカっ!?水中で炎系のソードスキルを使っても意味ねぇだろっ!!」

 

 クライン「へ?」

 

 相手は水属性を有するモンスターでさらにここは水中の中だ。炎属性のソードスキルの威力が4分の1になる事をタクヤに指摘されるまで気にも留めてなかったクラインに逆上したモンスターが尾を振ってクラインを弾き飛ばした。

 

 クライン「ぐへっ!?」

 

 リズベット「ホント…期待裏切んないわねーアンタって…」

 

 アスナから回復魔法を施されながら、クラインが抜けた穴をキリトが受け持ち、アタッカーのタクヤとユウキがモンスターの両サイドから挟み込む。

 

 タクヤ「オレがタゲ取るからラストは任せた!!」

 

 ユウキ「分かった!!」

 

 タクヤはモンスターの正面に立ち、眉間に拳を連打する。

 仰け反りながらもモンスターはタクヤにターゲットを絞り、荒々しい叫び声を上げながら突進を仕掛けた。

 それを両腕で受け止め、モンスターの動きを制限する。

 

 タクヤ「今だ!!」

 

 ユウキ「はぁぁぁっ!!」

 

 片手用直剣スキル"バーチカル・アーク”

 

 Vの字に斬られたモンスターはうめき声をあげながらポリゴンへと四散した。

 

 タクヤ「ナイスアタック!ユウキ!」

 

 ユウキ「タクヤも流石だね!」

 

 シリカ「あ〜…すごいですね〜…」

 

 リーファ「ソードスキルも完璧に決まったもんね…」

 

 キリト「まぁ、あの2人は特別だからな。ってそれよりクライン大丈夫かよ?」

 

 パーティーの最後尾には回復魔法をかけ終えたクラインが肩を落としながら前へと戻ってきた。

 

 クライン「面目ねぇ…」

 

 ユウキ「大丈夫だよ!みんなでカバーしていくから!!」

 

 タクヤ「まぁ同じ失敗だけはしないようにな」

 

 とりあえず障害物は排除したので奥へと進んでいくとキリトの元にクラインが耳打ちを始めた。

 

 クライン「キリトよぉ、いいのかよ?」

 

 キリト「いいって…何が?」

 

 クライン「リーファっちだよ。水中戦闘はこれが初めてなんだろ?

 なんかアドバイスなりフォローなんなりしてよぉ。お前兄ちゃんだろーが」

 

 キリト「いやぁ…オレも気は使ってるんだが、こんな多勢でクエスト行くなんて中々ないだろ?なんか上手くいかないんだよなぁ…」

 

 パーティーメンバーにはそれぞれ役割が振られており、リーダーとなった者は全体の状況を常に把握しないといけない為、1人だけ注意して見てあげる事など不可能に近かった。

 

 キリト「だからこういうリーダーの役は本来アスナかタクヤが受け持った方が効率が上がると思うんだけど…。オレ、ソロだったし」

 

 タクヤ「嫌だよ」

 

 アスナ「私も正直このメンバーを上手に回していく自信はないかなぁ…」

 

 ユウキ「ボクが代わりにやってあげようか?なんて言ったってボクも元ギルマスだったし!」

 

 キリト「ユウキは…ギルマスって言ってもほとんどタクヤにやらせてたし、SAOの時には自分が先行してたじゃないか。

 ユウキは人にあれこれ言う タイプじゃないんだよなぁ…。子供っぽいし…」

 

 瞬間、キリトの左頬が深くめり込みながらユウキの鉄拳制裁を食らったのは仕方のない事だ。

 

 タクヤ「と、とにかくリーダーはキリトで決まり!」

 

 エギル「キリト…、ポーション飲むか?」

 

 キリト「…頂きます…」

 

 思いがけない所でダメージを受けたキリトはエギルからポーションを受け取り、ちびちび飲みながら先へと進む。

 

 クライン「話は戻るけどよ…お前ぇ兄ちゃんなら妹に優しくしてやってもいいんじゃねぇか?」

 

 キリト「優しくするって言ってもどうすればいいかわか─」

 

 瞬間、タクヤ達の目の前からキリトとクラインが突然姿を消した。

 驚く一同であったが、すぐ様呆れ顔になり足元を覗き込んだ。

 

 キリト&クライン「「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!?」」

 

 エギル「見えてる落とし穴に落ちる奴があるか」

 

 クライン「呆れてないで助けろぉぉぉぉっ!!?」

 

 仕方ないのでタクヤとエギル、リーファの力を借りて何とか落とし穴から救出された2人は肩で息を切らしながら、心臓の鼓動を落ち着かせる。

 そんな事をしているとキリトとクラインが落ちた落とし穴からまたしても先程と同じタイプのモンスターが現れた。

 

 タクヤ「クライン、炎系とあと雷系のソードスキルは使うなよ。感電死しちまうぞ?」

 

 クライン「わかってらぁっ!!」

 

 リズベット「私達も行くわよシリカ!!」

 

 シリカ「はいっ!!」

 

 まずはキリトとエギルでヘイトを稼ぎつつ、(タンク)として攻撃を受け流していく。

 その後ろからモンスターの死角に回り込んだアタッカーのリズベットとシリカが2点同時攻撃を放ってダメージを与えていく。

 だが…。

 

 リズベット「かった…!!?」

 

 シリカ「全然ダメージ入りませんよ!!?」

 

 リズベットとシリカの攻撃は甲高い音を響きかせながらモンスターの鱗に弾かれた。

 先程のモンスターと違い、骨のような鱗を体中に纏って弱点となる場所が見当たらない。

 さらに、凶暴性も増して縦横無尽に神殿内の通路を暴れ回っていた。

 

 エギル「キリト!!クライン!!3人でコイツの動き止めるぞ!!」

 

 そう言ってモンスターを囲み、ジリジリと詰め寄りながらモンスターの行動範囲を狭めていく。

 その間に受けるダメージはアスナとリーファの回復役(ヒーラー)に任せている為、まだ幾ばくか余裕がある。

 

 リーファ(「でも、攻撃が通らないんじゃ根本的な問題は解決しない…」)

 

 リーファの思う通り、ダメージが与えられない事には先に進む事など出来ない。

 だが、キリトやタクヤの事だ。何か考えあるのかもしれないとリーファは考えてしまう。

 なら自分にも何か出来る事はないだろうかと思い、回復をアスナに任せてリーファは鞘から長刀を抜いた。

 

 アスナ「リーファちゃん!!」

 

 キリト「リーファ…!!来たらダメだ!!」

 

 リーファ「私だって…戦えるんだからぁっ!!」

 

 瞬間、モンスターは頭上に飛び上がったリーファを捉え、竜巻攻撃で迎撃に入った。陽の光が届かない海底神殿では翅を使って回避する事は不可能の為、案の定あっさりと竜巻の中心に飲み込まれ、先程キリトとクラインが落ちた落とし穴へと吹き飛ばされてしまった。

 

 キリト「…スグ!!!」

 

 リーファ(「あ…」)

 

 

 この時、ふとリーファの中である思い出が蘇った。

 あれはまだ小学校に上がる前の頃、家の庭にある池の中を覗き込んでいると、水の上を優雅に渡っているアメンボに興味本位で手を伸ばした。

 すると、体を支えていた左腕が岩に滑らされ、そのまま池の中へと落ちてしまったのだ。

 今思い返せばこの時から水が苦手になり、泳げなくなったのかもしれない。

 池の深さは小さい子供にはあまりにも深く、水中から外から差す陽の光がキラキラと輝きを放って幻想的だったのを今でも憶えている。

 子供ながらに死を直感した直葉はゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

「スグ!!」

 

 

 リーファ「!!?」

 

 自分は確か落とし穴に落ちたハズだが、下を見ればまだ落ちてはおらずリーファの手をキリトが支え、何とか引き上げようと力を入れている所だった。

 

 リーファ「お兄ちゃん…」

 

 キリト「今…助けてやるからな…!!」

 

 リーファ(「そう言えば…あの時も…」)

 

 

 池で溺れたあの時も自分の愛称を呼ぶ声がした。

 声のする方へ手を差し出すと、不意に力強く握られたその手によって直葉は水の中から地上へと戻ってこられた。

 セミの鳴き声が聞こえない程、飲んでしまった水を吐き出しながら目の前にいる汗まみれの少年の顔を見上げた。

 

 

 和人『…大丈夫かスグ?』

 

 

 些細な出来事だった。でも、子供はそんな些細な出来事でも心が大きく揺れ動くものだ。

 その時の姿が素敵だった訳でもない。

 ただ、自分の為に自らの命を懸けてまで助け出してくれたその強さに直葉は引き込まれていった。

 

 

 

 

 

 キリト「…大丈夫かスグ?」

 

 リーファ「ありがとう…また、助けられちゃったね」

 

 キリト「当たり前だろ。スグはオレの妹なんだから」

 

 みんなにも迷惑をかけてしまった。

 後に聞けばリーファが竜巻に吹き飛ばされた時、キリトが瞬時に骨と骨の間にソードスキルを叩き込み、そこが弱点だったらしくモンスターは跡形もなく四散したようだ。

 

 アスナ「キリト君久しぶりに真剣な顔つきになってたよ」

 

 ユウキ「流石は黒の剣士って感じだったよ」

 

 ユイ「やっぱりパパは最高のパパです!!」

 

 それを聞いたらなんだか嬉しくなり、先程までの不安もどこかへと消え失せていた。

 それからは自分のスタイルを取り戻し、道中も滞りなく進んで行った。

 そして、ついに神殿の最奥へとたどり着き、祭壇に置いてある巨大な真珠を見つける事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月26日 16時30分 ALO 風妖精族(シルフ)領 海底神殿

 

 無事に目的の物を手に入れ、帰り道も慎重に進んでいき、最初に訪れた広場まで戻って来た。

 

 タクヤ「これをあのじいさんに渡したらクエストは終わりだよな?」

 

 キリト「結局、クジラには会えなかったな」

 

 ストレア「え〜!!クジラいないの〜!!」

 

 ユイ「残念です…」

 

 ユウキとアスナの肩に座っていたストレアとユイが残念がるのをあやしているとクエストNPCである老人が話しかけてきた。

 

 ネラク『おぉ!よくぞ、我が宝を取り戻してくれた!礼を言うぞ妖精の剣士達』

 

 リズベット「てか、その盗賊って奴らも出てこなかったわね」

 

 ユウキ「変な話だよねー」

 

 アスナ「…」

 

 キリトが老人に持ち帰ってきた巨大な真珠を渡そうとすると、アスナが駆け足でキリトに迫り、キリトを老人から遠ざけた。

 

 キリト「ど、どうしたんだよアスナ…!?」

 

 アスナ「キリト君…これ宝なんかじゃないわ!!」

 

 タクヤ「どういう事だ?」

 

 そう聞くとアスナは真珠を空へと掲げ、地上から差す陽光に真珠を照らした。

 すると、真珠が透け、中には何やら入ってるようだ時々、動いたりもしている。よく目を凝らすと、これは何かの幼体だという事に気がついた。

 

 アスナ「生きてる…!!」

 

 キリト「じゃあ、これは真珠じゃなくて…卵か!?」

 

 ネラク『どうした?早くそれをこちらに…』

 

 ネラクがキリトとアスナに近づこうとするのを、タクヤとユウキが前に出てネラクを静止させる。

 

 タクヤ「という事は…オレ達がアンタの言う盗賊って事かよ」

 

 ユウキ「これはボク達が責任を持って元あった祭壇に返すからね!!」

 

 ネラク『どうしても…渡さないと言うのか…』

 

 突如、ネラクから異様な衝撃が放たれタクヤとユウキ、キリト、アスナはそのせいで後方まで飛ばされてしまった。

 そして、ネラクと言うネームスペルが入れ替わり、新しくネームスペルが並び変えられ、そこにはKraken(クラーケン)という名前が浮かび上がった。

 

 リーファ「!!…やっぱり、あの名前はクラーケンのアナグラムだったんだ!!」

 

 クラーケン『妖精の剣士達よ!!それを我に渡せぇぇぇっ!!!!』

 

 瞬間、ネラク元いクラーケンにHPバーが12本も出現し、強制的に戦闘に入らされた。

 

 シリカ「どうやって倒せばいいんですか…?」

 

 アスナ「みんな!!回復と支援はまかせて!!」

 

 アスナは卵を抱えて最後尾まで下がると、魔法の詠唱を次々と唱え始める。1分経った頃には全員の全てのステータスが底上げされていた。

 

 キリト「オレとエギル、タクヤで注意を逸らす!!みんなは側面から攻撃してくれ!!」

 

 タクヤ「久しぶりに強そうな奴が来たなぁっ!!!」

 

 ユウキ「タクヤ!!あんまり無理しちゃダメだからね!!」

 

 ユウキの警告を聞く前にタクヤはクラーケンの脚を駆け上り、頭上へとたどり着いた。

 

 タクヤ「食らえっ!!」

 

 体術スキル"正拳突き”

 

 "闘拳”スキルもこのALOでは引き継げなかった為、体術スキルだけでは分が悪いが、リズベットに鍛えてもらった愛刀"烈火刃”と腕に装備された"無限迅(インフィニティ)”があれば、どんな敵とも渡り合えると自負しているタクヤは剣と拳を使ったスタイルを確立している。

 だが、正拳突きでクラーケンの頭蓋を叩くもクラーケンはびくともせず、数本の脚でタクヤを払い除けた。

 

 タクヤ「ぎゃっ」

 

 ユウキ「タクヤ!!」

 

 キリト「なんて威力だ…!!みんな、タイミングを見計らってソードスキルを叩き込め!!」

 

 エギル「オレ達もこれ以上もたんぞ!!」

 

 クライン「よっしゃ!!みんな行くぜぇぇ!!」

 

 キリトとエギルが抑えている間に側面へと移動したユウキ達はそれぞれソードスキルを叩けるだけ叩き込んだ。

 

 リズベット「全然ダメージ通らないじゃない!!」

 

 ユウキ「強いねこのイカ!!…タコ?」

 

 アスナ「ユウキ!!危ない!!」

 

 クラーケン『妖精共!!目障りじゃァァァっ!!!!』

 

 複数の脚による範囲攻撃をまともに食らってしまい、ステータスが強化されたキリト達もHPがレッドゾーンにまで減少してしまっている。

 

 キリト(「たった一撃で…!!どうすれば…!!」)

 

 勝てない…。キリトの頭にはこの言葉が真っ先に浮かんだ。

 HPバーは脅威の12本。ステータスも格上。こちらは一撃を凌ぐで精一杯の状況だ。とてもじゃないが勝算はどこにもない。

 

 ユイ「パパ!あのモンスターのステータスは新生アインクラッドのフロアボスより何倍も上です!!」

 

 キリト「はは…やっぱりな…」

 

 新生アインクラッドのフロアボスはSAOに存在したフロアボスよりも強力になってアップデートされている。

 そのフロアボスより何倍も強いとなるとレイドを組んだとしても勝ち目はないだろう。

 ふと、誰かが立ち上がる音がした。

 視線だけをそちらに向けるとそこにはタクヤの姿があった。

 

 タクヤ「…行くぞぉぉぉっ!!!!」

 

 地を思い切り蹴り、クラーケンの真正面から豪快に突き進んで行った。

 

 クラーケン『羽虫風情がぁぁぁ!!我の邪魔をするなぁぁぁ!!』

 

 タクヤ「イカだかタコだか分かんねぇ奴がオレ達の邪魔をするなぁぁぁ!!」

 

 1本の脚がタクヤ目掛けて放たれ、それに対抗するかのようにタクヤも烈火刃にライトエフェクトを纏わせながらその切っ先をクラーケンに向けた。

 

 片手用直剣スキル"ヴォーパル・ストライク”

 

 2つの攻撃が激突し、周囲に衝撃の余波が降りかかる。飛ばされないように踏ん張りながらその戦いの結末を見ていると、やはり、タクヤの攻撃はクラーケンの攻撃よりも劣っていた。

 勢いよく後方まで吹き飛ばされたタクヤだったが、剣を杖代わりにしてなんとかその場に立ち上がり、あろう事かまた勝負を挑みに行った。

 

 ユウキ「タクヤ…無理だよ…」

 

 キリト「タクヤ…」

 

 タクヤ「まだ…終わってねぇ…まだ…オレは…」

 

 クラーケン『しつこいぞぉぉ!!羽虫がぁぁぁっ!!』

 

 タクヤ「う…らぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこまでだ!!』

 

 

 

 

 

 瞬間、タクヤの目の前に巨大な掌が姿を見せ、クラーケンを掴み、タクヤとの距離を開けた。

 

 クラーケン『!!…貴様ぁぁぁ…!!』

 

『久しぶりだな…深淵の王よ。まだこんな事をしているのか?』

 

 タクヤは唖然としながら見上げると今まで見た事がない程巨大な人間がクラーケンをいとも容易く払い除けたのだ。

 

 クラーケン『…貴様こそアース神族などに加担しおってぇ!!ポセイドンが聞いて呆れるぞ!!』

 

 リーファ「ポセイドンって言ったら…海の神…!?」

 

 ポセイドン『深淵の王よ。主がここで決着をつけたいと言うのも吝かではないが、ここは神聖な場所だ。今日の所はおとなしく深淵の底へと帰るがよい。…もし、それでも引き下がらぬと申すなら…』

 

 クラーケン『…』

 

 その異様なプレッシャーを至近距離で浴びせられているタクヤ達は思わず生唾を飲み込み、事の顛末を見届ける。

 

 クラーケン『…次こそはこの屈辱、晴らしに参るぞぉ。妖精共!!彼奴等アース神族を信じてはならぬ…。痛い目にあいたくなければなぁ…』

 

 クラーケンは意味深な一言を残してさらに海底へと姿を消していった。

 ポセイドンと名乗った巨人は先程までのプレッシャーが形を潜め、アスナから卵を受け取る。

 

 ポセイドン『これはこの世界の王であられる方のものだ。私があるべき場所へ送り届けよう。礼を言うぞ、妖精の剣士達よ。これは幾らばかりかの褒美だ。受け取るがいい』

 

 それと同じタイミングでクエストクリアを知らせるウィンドウが表示され、そこに記されている豪華な報酬に全員が驚きを隠せないでいた。

 そして、ポセイドンは立ち去る前にタクヤ達にあるものを遣わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月26日 17時00分 ALO 風妖精族(シルフ)領 常夏エリア

 

 ストレア&ユイ「「すっごーい!!!!」」

 

 タクヤ「こりゃ絶景だな…」

 

 ユウキ「いやぁでもまさか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クジラの上に乗れるなんて思わなかったよー」

 

 タクヤ達は海底神殿からポセイドンの呼び寄せた巨大なクジラの背中へと乗り移り、今は風妖精族(シルフ)領の海岸へと送迎されている最中なのだ。

 

 キリト「まぁ、当初の目的は達成したし結果的にはよかったのかな」

 

 アスナ「うん!!ユイちゃんもストレアさんもすごく嬉しいそうだよ!!」

 

 リズベット「現実世界(リアル)じゃ出来ない経験だよねー!!」

 

 シリカ「お、落ちちゃったらどうしよう…」

 

 リーファ「ここは地上だから翅が出せるようになってるから安心して」

 

 向こうの空にはALOを照らす擬似太陽が沈みかけ、緋色に染まった空にクジラの潮吹きの水飛沫が宝石のように輝いていた。

 

 タクヤ「よかったなストレア。クジラも見れたし、乗れたし」

 

 ストレア「うん!!ありがとうみんな!!」

 

 ストレアは元の戦闘用のアバターへと変わり、みんなにハグをして回った。

 クラインにはしなくてもいいとタクヤから言われたストレアはクラインだけ通り過ぎてエギルへと回る。

 

 クライン「なんで俺だけ仲間はずれなんだよぉぉぉっ!!!!」

 

 タクヤ「いや、お前にはストレアの魅力は耐えられないと思ってな。何…感謝なんかすんなよ?

 お前の為を思っての事だ。気にするな」

 

 クライン「絶対ぇそんな事ぁこれっぽっちも思ってねぇだろぉがぁっ!!!?」

 

「「「「あはははっ」」」」

 

 こうしてタクヤ達の夏休み最初の思い出はクジラに乗るという少し規格外なものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストレア「クラインだけ可哀想だもんね〜。よしよし」

 

 クライン「!!!!?」

 

 タクヤ&ユウキ「「あーあ…」」

 




いかがだったでしょうか?
後半では久しぶりにバトル描写も書けて私的には満足のいくものだったです。
でも、書いてると時間が経つのが早いですね。
気づいたら3時間や4時間経ってるなんて当たり前ですもんね。
書き手のみなさんはそう思った事はありますでしょうか?

評価、感想などありましたらどしどし送ってきてください!


では、また次回!

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