ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

43 / 88
という事で43話目になります。
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
更新が不定期だった為に更新を待っていてくれた皆様には深くお詫び申し上げます。
そこで45話からは1週間に1本のペースにしようと思っています。
誠に勝手だと思われますがご了承ください。



では、どうぞ!


【43】裏切りの連鎖

 あれから2ヶ月の月日が流れた。

 キングとクイーンはサービス開始以来、様々なクエストやイベント等に積極的に取り組んで自身を強化していく事に快感を覚えていった。

 翅を駆使した空中戦闘(エアレイド)も板についてきて、これから本格的に世界樹攻略に向けて土妖精族(ノーム)のレイドに加わっていく予定であった。

 そんな事を考えながら素材集めをしていたキングとクイーンは休憩を挟んだ昼食を摂ることにした。

 

 キング「あと少しで必要分の素材は集まるな」

 

 クイーン「ごめんね。私の武器の素材集め手伝ってもらっちゃって…」

 

 キング「俺もこの素材が必要だったから別に気にしてない。

 2人の方が何かと都合がいいだろ?」

 

 あと数体狩れば2人共必要分の素材が集まる。

 そして、それを元手に武器や防具を強化すればいよいよ世界樹攻略に赴ける。

 

 キング「明後日にグランド・クエストに挑戦するんだよな?」

 

 クイーン「そうらしいよ。下見程度だけど出来るならクリアしたいね!」

 

 明後日に土妖精族(ノーム)は精鋭を集い、グランド・クエストに挑戦する。

 9つの種族の中では最初に攻略するようだが、キングはおそらくクリアは出来ないだろう事を予想している。

 理由はいろいろあるが、1番の理由はまだ平均的なスキルの熟練度が低い事だ。

 まだサービスが開始されて2ヶ月。

 この短期間に各種スキルを鍛え上げる事は物理的に不可能に近い。

 24時間ゲームをしていて現実世界にも帰らずに鍛えているなら話は別だが、それはつまり運動や食事を摂らず、全てをゲーム内で済ませるという意味だ。

 かのSAOとて囚われた人達が目覚めるその時まで現実世界の体が無事である訳がない。

 いくら科学や医学が進歩しているとは言え、栄養も必要最低限の点滴しか摂取していなければ、身体機能も日に日に衰え、最悪の場合そのまま心停止する事だって十分に考えられるからだ。

 

 キング「クイーンは参加するのか?」

 

 クイーン「うん!当たり前だよ!」

 

 ガッツポーズにとったクイーンを見れば、今日の素材集めも明後日のグランド・クエストに向けてだという事は目で見るより明らかだ。

 かく言うキングも参加するつもりで今日まで武器の強化なり熟練度上げに取り組んできた。

 だが、キングもクイーンもまだ学生な上、今年受験生である2人は受験勉強にも精を出さなければならない。

 あと1年早く生まれていればと毎日のように思う始末だ。

 

 クイーン「キングくんもだよね!頑張ろうね!」

 

 キング「それもだけど、俺ら今年受験生なの理解してる?」

 

 クイーン「う…。ゲームやってるのに勉強の話なんてしないでよ〜…」

 

 しかめっ面をされても事実は変わらない。

 クイーン/姫奈は子供の頃から勉強が苦手だった。

 得意分野は体育でそれ以外が全て苦手科目に位置づけられている彼女は前に1度家庭教師として一騎に頼み込んだが、結果はお手上げ状態。

 一騎は反対に勉学に苦手分野などないが、運動がからっきしだ。

 プレイヤーの運動能力に依存しているALOでキング/一騎はそれを技術で補い、今の強さを身につけた。

 

 キング「分かんないからってそのままにすんなよ?」

 

 クイーン「だったらキングくんが勉強教えてよ〜!」

 

 キング「1回で十分だ。…お前、10分もしたら寝てるじゃないか」

 

 クイーン「いやぁ〜…なんか先生の喋ってる言葉が子守り歌みたいでさぁ…。ついつい寝ちゃうんだよね〜」

 

 分からなくもないが、姫奈に関してだけで言えば常人の2倍ぐらいは居眠りに費やしていると言っても過言ではない。

 

 キング「何かやりたい事とか将来の夢とかあるのか?」

 

 クイーン「なんか進路相談だね…。

 そうだなぁ…特にコレといった趣味も特技もないし…。

 とりあえず大学には進学しようって思ってるけど…」

 

 キング「まぁ、聞いといてなんだけどまだ時間はあるんだ。

 焦らず決めていけばいいさ。よしっ!素材集め再開するぞ!」

 

 キングは腰を上げ、再び素材を揃える為モンスターを狩りに向かった。

 クイーンもその後を追い、自分の分を集めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日_

 

 

 土妖精族(ノーム)の領主館の前には総勢118名の土妖精族(ノーム)プレイヤーが集まっていた。

 その顔ぶれの中には当然キングとクイーンも連なっている。

 

 クイーン「みんな強そうだねぇ…」

 

 キング「俺達も負けてないさ。気遅れする必要はない…」

 

 クイーン「…うん!そうだね!」

 

 すると、領主館の扉が開かれ中から土妖精族(ノーム)の領主とその護衛数名が姿を現した。

 2人は領主を見て驚きを隠せないでいる。

 背が高く、程よい筋肉を備え持ち、髪の毛は後ろで三つ編みに結んだアスリート選手のような女性のプレイヤーだった。

 

 クイーン「領主って女の人だったんだね〜?」

 

 キング「俺はもっと筋骨隆々の男かと思った…。

 あの人が土妖精族(ノーム)で1番偉い人…」

 

 各種族の領主はその種族のプレイヤーの投票により選出される。

 現実世界で言う所の選挙に近いだろう。

 半年に1回の周期で行われ、それに合わせて領主に名乗りを上げるプレイヤーがマニフェストや演説を行い、プレイヤーからの票を集めているのだ。

 今、目の前の人物こそが初代土妖精族(ノーム)領領主という事になる。

 

「みんな、今日は集まってもらいありがとう。

 私達はこれより"グランド・クエスト”の偵察を兼ねて世界樹のある央都アルンに向かう。

 私達土妖精族(ノーム)がどの種族よりも先に世界樹の頂上に辿り着き、自由の翼を手に入れるのだ!!」

 

「「おぉぉぉぉっ!!!!」」

 

 世界樹の頂上に辿り着き、空中都市で妖精王オベイロンに謁見した種族は高位種族"光妖精族(アルフ)”に転生出来るらしい。

 光妖精族(アルフ)になれば翅の時間制限は取り払われ、永遠と空を飛び続ける事が出来る。

 

 クイーン「永遠にかぁ…」

 

 キング「俺はそこまでなりたいって訳じゃないけど」

 

 クイーン「でも、1度でいいから自由に飛び回っていたいよねー」

 

 キング「今のままでも十分自由に飛んでるだろ…」

 

「では、隊列を乱さずアルンへ向かう!」

 

 隊列はどの場所から攻撃されてもそれを対処出来るように領主を中心に置いたものだった。

 キングとクイーンは領主の後方右翼側に位置して術師(メイジ)のサポートの任についていた。

 土妖精族(ノーム)が央都アルンに行くにはそれなりの時間と体力、物資が必要になってくる。

 隣接している鍛冶妖精族(レプラコーン)領を越え、影妖精族(スプリガン)領に位置する山脈の名前のない洞窟からしかアルンへの行き道はない。

 さらに進めばルグルー回廊という鉱山もあるのだが、そこへ行くには火妖精族(サラマンダー)風妖精族(シルフ)の領地を跨がなくてはいけないのだ。

 特に火妖精族(サラマンダー)のプレイヤーは領主の指示の元、数々の横暴なプレイを行っており、出来るなら関わりたくない種族と認識されてしまっている。

 名無しの洞窟は途中に休憩を挟めるような街はないので大人数で洞窟を進んでいくしかないのだ。

 そうすれば、物資を運ぶプレイヤーとそれらをサポートする護衛が追加されるのも納得である。

 洞窟に入るや否やモンスターが次々ポップする。

 

 

「総員戦闘準備!!」

 

 

 先頭では既に戦闘が始まっているが、モンスターが後方まで襲ってくる事はまずないだろう。

 先頭には領主自らが選出された熟練プレイヤーが配置されており、"グランド・クエスト”におけるキーパーソンと言っても過言ではない。

 彼らに突破できないのはつまり、ここにいるプレイヤー全員が"グランド・クエスト”を攻略出来ない事を意味していた。

 

 クイーン「…暇だねー」

 

 キング「ぼやくなよ。まだ洞窟は長いんだから、今からそれじゃ持たねぇだろ…」

 

 すると、騒音は静まりどうやら戦闘は無事に終了したようだ。

 

 キング「…はぁぁぁあぁっ…」

 

 クイーン「すごいあくびだね」

 

 キング「あ?あぁ…ちょっとな…」

 

 クイーン「ふーん…」

 

 それからモンスターとの戦闘を何度かやっていくうちに広いスペースがある場所に出た。

 地図を見る限り洞窟のハーフポイント…つまりは折り返し地点とでも言おうか。

 洞窟を抜けるまでにはあと半分を残し、ここで休憩を取る事になった。

 補給物資担当のプレイヤーが全員に黒パンとエールを手渡していく。

 店売で合計100ユルドそこらしかしない質素な食事だ。

 味覚エンジンはこういう細かい所までリアルに再現している。

 水分が完全に抜けたパサパサの食感、口の中に広がるカビのような味、全然冷えていない生ぬるい飲み水。

 口に運ぶのが億劫になるぐらい食欲が進まない。

 まぁ、食べなくてもそこまで支障はないと思われるがいつ何が起きてもおかしくないのがこの仮想世界だ。

 いざという時に空腹で動けませんでした…と、口が裂けても言えない。

 だが、やはり食欲がそそらない。せめてあと一工夫あれば…。

 

 クイーン「キングくん。これ使ってみて?」

 

 キング「これは…?」

 

 クイーンがキングに差し出したのは小さな小瓶。

 タップしてみると、指が微かに輝き始めた。

 

 クイーン「黒パンに塗ってみて」

 

 言われた通りに黒パンに輝く指をなぞると、そこからキラキラと光る赤色のジャムが現れた。

 

 クイーン「それ私が作ったイチゴジャム。美味しいから食べてみて」

 

 キング「あむ…。…ん…うまい」

 

 苺の微かな酸味と口に広がる爽やかな甘みが黒パンの短所をことごとく打ち砕いていった。

 

 キング「すげぇな…いつの間に料理スキルなんて取ってたんだ?」

 

 クイーン「ちょっと興味あったから先月くらいから少しずつ熟練度上げてたんだ…。

 まだ始めたばっかりだから簡単なものしか出来ないけどね」

 

 キング「へぇ…じゃあ、今度何か作ってくれよ?」

 

 クイーン「うん!いいよ!…でも、お代はちゃんと貰うから」

 

 キング「タダじゃないのかよっ!?」

 

 クイーン「世の中タダで貰えるほどあまくないのだよ!」

 

 ジャムを塗った黒パンを頬張りながら呆れ顔でクイーンを眺める。

 美味しそうに黒パンを食べる彼女の姿に目を奪われていた。

 

 キング「…」

 

 クイーン「?…どうしたの?」

 

 キング「えっ!?いや、な、なんでもないっ!!

 そ、それより、早く食べないとみんな行っちまうぞ!!」

 

 クイーン「あっ!!そうだった!!」

 

 黒パンを全て頬張りキングとクイーンは隊列に戻り、アルンへと再び歩き始めた。

 しばらく進むと洞窟内は歪に道を別れさせ、さながら迷路のように入り組んでいた。

 もし、地図が無ければと考えてもゾッとしてしまう。

 足場も悪く、暗視魔法をかけてるとは言うものの視界は悪い。

 死角も多く、待ち伏せされている可能性も拭えない。

 領主は皆に注意を呼びかけると共に一層警戒心を強めた。

 だが、いくら襲われようともこの人数でなら簡単に撃退出来る。

 肩に力を入れすぎても空回りするだけと悟ったキングは平常運転を心掛ける。

 しかし、クイーンはそうでもないようだ。

 表情は強張り明らかに力を入れすぎている。

 心配になったキングはクイーンに声をかけた。

 

 キング「クイーン、あんまり肩に力入れるな。

 この人数がいれば待ち伏せも意味をなくす。

 いつも通りにしていれば失敗なんてしないよ」

 

 クイーン「う、うん…。でも、やっぱり怖くてさ…。

 私、対人戦闘ってした事ないから…」

 

 この2ヶ月間の間、他のパーティに加わってもプレイヤーとの接触はなく、今日まで2人は対人戦闘をした事がないのだ。

 決闘(デュエル)ならした事があるがあれはルールという見えない檻の中で自身の腕を磨く為のものだ。

 だが、PvPはルールなど存在しない。

 何をしても許されてしまう。

 殺してアイテムを奪っても、弱みを見つけて相手を嬲っても、どんな非道もこの世界では平然と起きてしまう。

 ALOはPvP推奨のゲームなのでその行為を全ては否定出来ない。

 ここは仮想世界であって現実世界ではないのだから。

 

 キング「大丈夫だ…。俺がついてるから…」

 

 クイーンの震えている手をそっと握る。

 

 クイーン「!」

 

 キングの掌の温もりを感じながら、徐々に震えが治まっていく。

 

 クイーン「…ありがとう」

 

 キング「べ、別に…足でまといになられたら困るだけだ…」

 

 クイーンもキングの手を握り返し、温もりを求めた。

 この温もりがあるなら怖いものはない。

 今なら何だって出来る気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが淡い幻想だと知るまでは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、先頭集団が今まで以上の戦闘を繰り広げていた。

 伝達係の報告によれば大多数の火妖精族(サラマンダー)が行く手を阻んでいるようだ。

 領主はすかさず術師(メイジ)に指示を出して遠距離からの魔法攻撃を放たせる。

 だが、後方にも火妖精族(サラマンダー)が12人程待ち構えており、完全に土妖精族(ノーム)火妖精族(サラマンダー)に囲まれてしまった。

 

「さぁ!命が惜しかったら金とアイテムを置いていけ!!」

 

 キング「そんなの…お断りだっ!!」

 

 両手剣を抜き、火妖精族(サラマンダー)の1人に斬りかかる。

 だが、それを他の火妖精族(サラマンダー)が盾できっちり防いで見せた。

 

 キング「っ!!?」

 

「おらぁぁっ!!」

 

 仰け反った所を両手長柄がキングの懐に潜り込む。

 すかさず上体を逸らし、致命傷にはならなかったがHPが3割程一気に削られてしまった。

 

 クイーン「キングくん!!」

 

「おっ!女もいるのかよ?こりゃあ楽しみが増えたなぁ…」

 

 クイーン「ひっ…!!」

 

 キング「くっ…!うぉぉぉぉっ!!」

 

 クイーンの前に立ち火妖精族(サラマンダー)を薙ぎ払う。

 HPはまだ2割も削れていないが、ここから先には通す訳にはいかない。

 後方では術師(メイジ)も詠唱を済ませ、魔法攻撃によるサポートもある。まだ行ける…。まだやれる…。

 この調子なら火妖精族(サラマンダー)を撃退する事も夢ではない。

 震える足を殴り、痛みで強制的に震えを止める。

 キングは両手剣を構え、前に出た。

 

 キング「うぉぉぉぉっ!!」

 

 1人、2人と次々火妖精族(サラマンダー)を屠っていくが、数は減っていかない。

 それもそのハズだ。さらに後方からは待機していたであろう火妖精族(サラマンダー)が合流していっているからだ。

 

 キング(「俺とクイーンじゃいくらなんでも無茶だ…。

 術師(メイジ)はもう半分以上やられた…!!

 前も気になるっていうのに!!」)

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 キング&クイーン「「!!!」」

 

 後方支援部隊もキングとクイーン以外はこれで全て倒されてしまった。

 戦力差はもはや絶望的だ。

 

「こ、こんなの勝てる訳ねぇよ…!!」

 

「に、逃げろぉぉぉぉっ!!!!」

 

 とうとう恐怖に負けた術師(メイジ)はその場から逃走を図り辺りにかまわず魔法を放った。

 それを見ていた火妖精族(サラマンダー)は笑いながらも術師(メイジ)を倒していき、ついに、残ったのはキングとクイーンだけとなった。

 

 キング「くそ…」

 

 クイーン「キングくん…」

 

「俺は好きなモンは最後に取っておきたい派なんだよなぁ…。

 久々の女だ。楽しまねぇと損だろ…」

 

 あまりに不快な声にクイーンはたまらず腰が落ちてしまった。

 それを見てキングはさらにクイーンに近づき両手剣を構える。

 

 キング「ゲス野郎がぁっ!!コイツには指1本触れさせねぇ!!」

 

「あー…お前はいらねぇや」

 

 すると、2人の火妖精族(サラマンダー)がキングに襲いかかった。

 射たれた両手長柄を両手剣で弾き、反撃に入る。

 

「ぐおっ」

 

「がっ」

 

 キング「ハァ…ハァ…うらぁぁぁっ!!!」

 

 さらに突撃をかけてリーダー格であろう火妖精族(サラマンダー)と刃を交えた。

 

「お前、あの女の連れか?」

 

 キング「だったらなんだ!!」

 

「うはぁ…いい事思いついちった」

 

 キング「テメェ!!ぶっ殺…」

 

 瞬間、キングの左肩が矢で射抜かれた。

 だが、この程度なら致命傷以外は無視できると思い、トドメの一撃に入ろうとするが、何故か体が言う事を聞いてくれない。

 

 キング「!!」

 

 そのまま態勢を崩し、地面にひれ伏していた。

 

 クイーン「キングくん!!」

 

「心配すんな。ただの麻痺矢で5分もすりゃあ動けるようになるからよ。まぁ、切れる度に麻痺矢を刺すけどな!」

 

 キング「この…!!」

 

「さぁて…お楽しみはぁーと…」

 

 火妖精族(サラマンダー)は数人を連れてクイーンに近づいていく。

 

 キング「やめろぉ!!」

 

 クイーン「来ないでぇっ!!」

 

 2人の声は空に消え、クイーンにも麻痺矢が刺されてしまった。

 体が動かなくなったクイーンはその場に倒れてしまう。

 

 クイーン「あ…ぐ…」

 

「久しぶりだなぁ…やべっ、テンション上がってきたわぁ!!」

 

「早く!!早くやろうぜ!!」

 

 火妖精族(サラマンダー)の手がゆっくりとクイーンの腕を掴み、クイーンの指を使ってメニューウィンドウを開いた。

 

 クイーン「や…やめて!!何するの!!?」

 

 キング「やめろぉぉぉ!!!!」

 

 メニューウィンドウの奥の奥まで進むとそこには倫理コード解除設定という項目が映し出された。

 

「これをこうしてっと…」

 

 クイーン「やめて…お願い…何でも…しますから…やめて…」

 

 だが、火妖精族(サラマンダー)が止まる事はなかった。

 倫理コードを解除して、火妖精族(サラマンダー)の歪んだ劣情がクイーンに襲いかかった。

 

 クイーン「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!助けて!!キングくん…助け…!!」

 

「うるせぇなぁ…おい、口になんか突っ込んどけ」

 

 クイーンの装備は全て引きちぎられ、あられもない姿をさらけ出された。

 恥ずかしくて、悔しくて、何より辛くてクイーンは涙が溢れた。

 それでも火妖精族(サラマンダー)達は治まらない。

 猛り狂ったものを沈ませる為にクイーンの体を慰め物にし続ける。

 口を塞がれ篭った声のみが洞窟内に響き渡る。

 キングは喉がやられ、声が出せない。

 

 キング「や…めろ…!!やめ…て…くれ…!!」

 

 クイーン「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

 麻痺が切れる度にさらに麻痺を盛られ、キングはクイーンの惨めな姿を見ている事しか出来なかった。

 何も出来ない自分が悔しくて、口だけの自分が憎くて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにも弱い自分を殺したくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの出来事があった日の夜、一騎はすぐにログアウトして姫奈の家へと向かった。

 

「あら、一騎君。姫奈なら2階に…」

 

 姫奈の母の言葉を聞かずして姫奈の部屋の前まで辿り着いた。

 ドアノブに手をかけようとすると、先程の事がフラッシュバックして、手を震わせた。

 

 一騎「…姫奈。俺だ…一騎だ…」

 

 ドア越しにそこにいるハズの姫奈に話しかける。

 だが、中からは一切反応はない。

 姫奈はアミュスフィアによる強制ログアウトによりあの場から姿を消したが、彼女には大きな傷が心に抉られてしまった。

 

 一騎「…入るぞ?」

 

 ドアをゆっくり開き中を覗くと、部屋は暗く、ベッドの上で布団に身を縮こませている姫奈の姿があった。

 

 一騎「姫…奈…?」

 

 姫奈「…」

 

 何度声をかけても反応がない。

 近づいてみると、姫奈は途端に体を震わせて部屋の角に身を寄せてしまった。

 

 一騎「姫奈…」

 

 姫奈「こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい」

 

 何度も怖いと言葉に出し続け腕を自ら締めつけている。

 

 一騎「やめろ!!姫奈!!」

 

 一騎は姫奈の腕を持ち、そのまま抱き締めた。

 姫奈は拒絶し、一騎を殴りつける。

 何度も何度も 殴り続け、一騎の体はアザが出来ていた。

 

 姫奈「いや…いや…!!」

 

 一騎「ごめんな…俺が…もっと強かったら…こんな事には…」

 

 姫奈「いや…いや…いや…!!」

 

 2人は涙を流しながら抱きしめ合っていた。

 姫奈は大きな心の傷が生まれ、しばらくの間学校には登校出来ずにいた。

 最初の頃は部屋からは1歩も出ず、食事も摂ってはくれなかった。

 姫奈の両親も心配していたが、一騎の説得も相まって深くは聞いては来なかった。

 一騎はそれから毎日姫奈の元へ赴き、いろいろな事を語りかけ続けた。

 今日あった事や、面白かった事、一騎の1日を全て語った。

 姫奈もそれに心を動かされたのか最初は無関心だったが、今ではある程度反応を示してくれている。

 そして、一騎の懸命な献身のおかげで前のようにとはいかないまでもある程度まで回復し、1ヶ月ぶりの学校へと出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時気づいていればよかったのだ。

 姫奈はもう以前の姫奈ではない事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫奈と一緒に登校し、最初に疑問に思ったのが姫奈の態度だ。

 周りにずっと気にしており、落ち着かない様子を見せていた。

 もちろんクラスメイトや姫奈の友達があの出来事を知っている訳ではないのだが、姫奈自身、周りが信用出来なくなってしまっていた。

 それでも、学校に登校させたのは一騎1人の力ではどうしようもない事を一騎自身が理解してしまった為だった。

 姫奈の友達となら自分が見い出せなかった姫奈の心を取り戻させてくれると感じたからだ。

 ゲームの中以外で人に頼るのは一騎にとってこれが初めてだった。

 だが、今は自分の事より姫奈の心が回復するのが先決だ。

 そうと決まれば実行に移すのは早かった。

 姫奈自身に学校に行きたいと思わせ、それを支える事が一騎の使命と言えよう。

 しかし、学校に着くや否や挙動不審に陥り、とりあえず保健室で休ませる事にした。

 

「じゃあ、体調がよくなるまでここで休んでなさい。

 あなたも彼女に付いてやっていて」

 

 一騎「分かりました…」

 

 保健室の先生が職員室に向かい、保健室には一騎と姫奈だけが取り残された。

 

 姫奈「ごめんね…私のせいで…」

 

 一騎「姫奈のせいじゃない…。元はと言えば俺が…」

 

 姫奈「ううん…ナイトくんのせいじゃないよ…。

 私が弱かったから…」

 

 一騎「…姫奈、俺が…今度こそ守ってやるから!!

 絶対にお前を傷つかせたりはしない!!安心しろ!!」

 

 姫奈「…ありがとうナイトくん。

 …じゃあ、少しの間…こうさせててね」

 

 姫奈は一騎の肩に体を預けた。

 それは今まで見た事のなかった姫奈の辛そうな顔だった。

 もうこんな辛い事は思わせてはいけない。

 もうこれ以上姫奈が苦しむ姿は見たくない。

 

 一騎「絶対に…守ってみせるから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一騎「本当に大丈夫か?」

 

 姫奈「うん。…それにいつまでもこのままじゃいけないから…」

 

 教室の前までやって来たのは2限目が終わった頃だった。

 姫奈がドアに手をかけ、ゆっくりと開ける。

 クラスメイトがそれに気づき、2人に視線を送る。

 すると、姫奈の友達が数人声をかけてきてくれた。

 

「姫奈!!大丈夫?1ヶ月も休んでどうしたのよ?」

 

 姫奈「ちょっと…具合が悪くて…」

 

「心配したんだから!!メッセぐらい返しなさいよ!!

 でも…よかったぁ…。姫奈が無事で」

 

 姫奈「ごめんね…心配かけちゃって…」

 

 一騎は姫奈から離れ、自分の席へ座る。

 これでいいのだと自身に語りかけながら遠くから姫奈を見る。

 そこにはぎこちないものの笑顔の姫奈がいた。

 

 一騎(「俺に出来るのはこれぐらいだ…。

 後は姫奈の友達が姫奈の心を癒してあげられるだろう…」)

 

 チャイムが鳴り、3限目の担当の先生が来るや否や生徒達は自らの席へと座る。

 

「では、始めるぞー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになり、一騎は売店へと行くべく教室を出ようとすると、姫奈に止められた。

 

 一騎「どうした?」

 

 姫奈「あの…一緒にごはん…食べない?」

 

 一騎「え?」

 

 いつもなら姫奈は友達と一緒に食べるのだが、何故か今日に限ってその友達がいない。

 

 一騎「と、友達は?」

 

 姫奈「2人共…委員会の仕事があるとかで…今日は1人だから…ナイ…一騎くんと食べたくて…だから…その…」

 

 一騎「…俺、弁当ないから…パン買ってどっかで…一緒に食うか?」

 

 姫奈「…うん!!」

 

 2人はそうして一緒に売店に向かった。

 このまま姫奈がゆっくりでも前みたいに元気な姿になってくれると心から信じていた。

 だが、現実というものは時に無慈悲にも彼らに試練を与えてくる。

 それがどれだけ残酷な結末になろうとも関係ない。

 それを乗り越えるのはあくまで彼らなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、姫奈は一騎と帰ろうと一騎を探すがどこにも姿がない。

 

 姫奈「どこいったんだろ…」

 

「姫奈〜ちょっといい?」

 

 姫奈の前に現れたのは2人の友達である女生徒だった。

 

 姫奈「え?う、うん…」

 

 言われるがままに姫奈は2人について行ってしまった。

 屋上前の階段に連れてこられた姫奈はさすがに不安に感じてしまう。

 

 姫奈「どう…したの?2人共…」

 

「姫奈〜私達って友達だよね〜」

 

 姫奈「え?う、うん…そうだよ…」

 

「だったらさ〜…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コイツらの相手してやってくんない?」

 

 

 

 姫奈「え?」

 

 

 すると、屋上から4、5人の男子生徒がぞろぞろとやってきた。

 そして、来るや否や姫奈の腕を壁に押さえつけた。

 

 姫奈「ちょ…!!2人共!!…どういう事!!」

 

「いや〜姫奈って美人で気さくだし男子から人気あるじゃ〜ん?

 それがさ〜うちの好きな先輩もそうなんだよね〜」

 

「私もそうだし。先輩に聞いたら姫奈の事が気になるって…」

 

 姫奈2人の表情に恐怖を感じた。

 その姿は今まで接してきた2人とは全くの別物だったからだ。

 

 姫奈「ふ、2人共…何言って…」

 

「正直面倒くさかったんだよ。何でうちらがアンタの引き立て役にならなきゃいけないのよ?そうでしょ?おかしいでしょ?」

 

「だからね、アンタが誰にでも股を開く女だってみんなにばらまいてアンタの人生終わらせてやろうって考えたんだ〜」

 

 何を言っているのか分からなかった。冗談だと思った。

 だが、この痛みも…不快感も…全て現実だ。

 そして、1ヶ月前に起きた事が姫奈の中でフラッシュバックした。

 

 姫奈「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 姫奈の叫び声と同時に男子生徒が姫奈の制服に指をかける。

 制服はいとも簡単にはだけ、中から白い肌が顔を覗かせている。

 

「わぁ〜さすが姫奈〜肌ツヤツヤじゃ〜ん!

 ムカつくわ〜!!そういうのっ!!」

 

 姫奈「お願い…やめて…!!やめて…!!」

 

「うわ〜何泣いてんの〜?もしかして初めて?

 アイツにまだやってなかったんだぁ!!」

 

「傑作だし!ほらほらぁ!!姫奈処女だってさ!!

 早い者勝ちだよ〜!!」

 

 姫奈「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐごっ!?」

 

 

「「「!!?」」」

 

 姫奈に跨っていた男子生徒は勢いよく飛ばされ、その衝撃で気を失ってしまった。

 

 姫奈「う…ひぐ…うう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一騎「全員…殺す…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは見る限り悲惨な状況だった。

 男子生徒は全員が病院送りにされ、姫奈の友達の女生徒2人も警察に連行されていった。

 姫奈も事情聴取を取られるが今の精神状態では何を聞いても口を閉ざしたままという事になり、姫奈も病院に搬送された。

 

「一騎君!!」

 

 一騎「おばさん…おじさん…」

 

 姫奈の病室の前で立ち尽くしていた一騎の所に姫奈の両親が到着した。

 

「一騎君…姫奈を…娘を救ってくれてありがとう…!!」

 

 一騎「いえ…俺は何も…」

 

 何も救えなかった。

 姫奈を守ると誓ったハズなのに…結局は姫奈の心の傷は取り返しのつかない程深く抉られてしまった。

 

「…一騎君、あまり自分を責めないで…。

 あなたが来てくれなかったら姫奈は今頃…」

 

 一騎「…はい」

 

 そう言い残して一騎は病院を後にしようとする。

 もうこれ以上ここにいる訳にはいかないからだ。

 

「一騎君、姫奈には会わないの?」

 

 一騎「俺に…会う資格なんてありませんから…」

 

 会ってはならない…。

 弱い自分が姫奈に会ってはならない…。

 だから…強くなるまで…俺が最強になるまで…姫奈には会わない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫奈の両親が来る少し前、一騎は姫奈と少しだけ話した。

 いや、話したと言うより一方的に罵られたという方が良いだろう。

 姫奈にはその権利があるのだから。

 

 一騎「姫奈…ごめん…」

 

 姫奈「…」

 

 一騎「絶対に守るって…約束したのに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫奈「…とだよ…」

 

 

 一騎「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫奈「本当だよ!!あなたは!!私を助けてはくれない!!

 1度だって!!私を助けてくれた事なんてない!!

 何が絶対に守るからよ!!口だけならいくらだって言えるよ!!!!

 私はもう…誰も信用出来ないよ!!!!」

 

 

 一騎「…」

 

 姫奈「もう…出ていって…。

 一騎くんとは…もう会いたくない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院からの帰り道、一騎は行き場を失くした子犬のように街を彷徨い続けた。

 何もかも手からこぼれ落ちてしまった。

 唯一握っていたものさえ滑り落ちてしまった。

 何もない。俺には何も残っていない。

 弱いせいで何もかも失ってしまった。

 もう取り返しなんてつかない。

 落ちてしまったものはもう二度と戻っては来ない。

 

 一騎「…」

 

「っで…」

 

 すると、一騎の胸ぐらを掴み罵声を浴びせる男がいた。

 

「痛てぇだろぉがよぉ!!

 どこに目ぇつけて歩いてやがんだあっ!!あぁっ!!」

 

 一騎「…」

 

 一騎はしばらくして今の状況を知った。

 知らない男から胸ぐらを掴まれているという事は見て分かったが、そこに至る経緯がまるで分からない。

 

「なんとか言えよこの糞ガキ!!!」

 

 左頬に鈍い音が響く。

 殴られたと気づいたのは地面に倒れてしばらくだった。

 

 一騎(「何で俺は…地面に倒れてるんだ?

 何でこの男は満足した顔をしてるんだ?

 分からない…分からない…。

 でも、俺が倒れているのは…俺が弱いせいだ…。

 弱ければ何も出来ない。何も…守れない…」)

 

「けっ!!このカスがっ…!!」

 

 男はつばを吐き捨てその場を後にしようとするが、ふと立ち止まり元いた場所に顔を向けた。

 すると、男の顔面を硬いパイプのようなものでめり込ませ、男を吹き飛ばす。

 

「がっ…あが…!!」

 

 一騎「俺は強くなる…。どんな奴よりも強く…。

 だから、こんな所で…負けられない…」

 

 さらにパイプで男を殴り、男も許しを乞うが一騎の耳には一切入って来なかった。

 一騎の気が済んだ頃には男は涙を流しながら気絶していた。

 血に濡れたパイプを捨て去り、一騎は再度歩き始める。

 

 一騎(「最強にならなきゃ…最強にならなきゃ…誰も救えない…。

 どんな奴も俺に逆らえないぐらいに…強く…ならなきゃ…」)

 

 これを機に一騎は街中の不良を潰していき、不良の間で噂されるようになった。

 そして、一騎は復讐の場を仮想世界へと移し、(キング)の名の元にALOを蹂躙していくのだった。

 

 




いかがだったでしょうか?
今回はキングの過去編という事で今に至る経緯を書いたつもりですが、内容はあまりにも暗くて楽しくなかったと思っています。
次の話からまた楽しく呼んでもらえるような物語にしますのでよろしくお願いします。



では、また次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。