ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で41話目になります。
夏なのにそれらしい事が何も出来てません。
プール行きたい。



では、どうぞ!


【41】孤独

 俺はいつも1人だった。

 

 

 

 子供の頃から周りと合わせて生きていくのが苦手だった。

 友達と呼ばれる存在も俺は必要としなかった。

 やれる事は1人でも出来るし、自分は他より優れている自負もあった為、余計に友達と言われるコミュニティに属したいという願望もない。

 皆は1人では出来ないから、1人では寂しいから群れをなす。

 それは自分を弱い存在だと周りに公言しているようなものだ。

 俺はそうじゃない。俺は強いんだ。だから属さない。

 短い生涯生きてきて俺には必要の無いものだと切り捨てた。

 それが…自身を他より優れている…強者だと感じられる唯一の時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年05月12日 16時05分 山岳フィールド

 

 大会が開始されて2時間が経過した。

 既にフィールドに残っているプレイヤーの数も2桁を切っている。

 残り1時間でこの大会も終了し、優勝という栄誉と報酬が手に入る。

 だが、観客や運営は知らない。

 いや、運営は薄々気付いているのかもしれない。

 ()()()()()()()()

 

 

 キング「っ!!」

 

 タクヤ「くっ!!?」

 

 キングの両手剣をタクヤは片手剣で辛くも防ぐ。

 だが、戦う度に強さを増していくキングの前にタクヤは防戦一方を余儀なくされていた。

 

 キング「どうした?お前の力はその程度か?」

 

 挑発だ。分かっている。そうやって隙が出来るのを誘ってる事ぐらい。

 

 キング「あのAIの女を助けに来たのか?もう時間切れだ…」

 

 タクヤ「!!!…うがぁぁぁっ!!!!」

 

 分かっていたハズなのに…。頭では理解していたつもりなのに…。

 ストレアの…仲間の…自分の娘を傷つけたコイツが憎い。

 タクヤは声を荒らげながらキングを押し退け、片手剣を振りかぶる。

 それを待っていたキングは片手剣を弾き、タクヤに斬りかかった。

 

 タクヤ「がっ…!!!」

 

 ユウキ「タクヤっ!!!!」

 

 後ろではアスナとリーファと一緒にストレアの隣についている。

 ストレアも未だ何も反応が見受けられない。

 その姿を見て倒れそうになる体を無理矢理支えた。

 

 キング「ほう…まだやる気か?」

 

 タクヤ「当たり前だ…。まだ…何も返しちゃいねぇ…!!」

 

 仲間の痛みを、苦しみを、悲しみを、まだ何も返していない。

 仲間の痛みは自身の痛み。仲間の苦しみは自身の苦しみ。仲間の悲しみは自身の悲しみ。

 タクヤは仲間の為に立ち続ける。

 その姿にキングは苛立ちじみたものが芽生えてしまった。

 

 タクヤ「それに、お前の為に()()()()を用意してんだよ…。

 それも使わない内はまだ倒れてなんかやらねぇ…」

 

 キング「…」

 

 キングは一瞬でタクヤの前に現れた。

 

 タクヤ「!!?」

 

 下から振り上げられたキングの両手剣をタクヤは片手剣で食い止めに入る。

 だが、食い止めに入った片手剣は亀裂が入り、タクヤの目の前で粉々に砕かれてしまった。

 

 キング「…これで終わりだろ?」

 

 タクヤはキングとの距離を置く。

 先程まで優勢に運んでいたタクヤだが、今では奇しくも剣は砕かれ、残りのHPも約半分という劣勢に陥っていた。

 

 ユウキ「ボクもタクヤに加勢して…!!」

 

 アスナ「ユウキ!!あなたまで行ったら誰がストレアさんを呼びかけるの?ストレアさんにはユウキが必要なの!!」

 

 ユウキ「!!…くっ…」

 

 ユウキはその場に留まりひたすらストレアを呼びかけた。

 ストレアも大事だ。自分達の事を家族だと言ってくれる大事な一人娘だ。

 今まで家族として振舞った事はないが、心はいつだって繋がっている気がした。

 だから、呼び続ける。

 あなたの父親は今もあなたの為に戦い続けている事を。

 

 キング「…無駄な事を」

 

 タクヤ「無駄じゃねぇさ。やらなきゃ分かんないだろ?」

 

 キング「たかがAIだ。人間の道具として作られたプログラムに本当の感情などありはしない。

 プログラムによって命令された動きしか出来ない奴を捕まえて仲間ごっこのつもりか?…反吐が出る!!」

 

 タクヤ「…確かに、ストレアはAIだ。人間じゃねぇ…」

 

 タクヤはそう語りながらメニューウィンドウを操作する。

 

 タクヤ「でもな…アイツが笑ったり、泣いたりするのはプログラムが命令してるだけじゃねぇ…。

 AIだろうが人間だろうが、笑いたい時には笑うし、泣きたい時にはめいいっぱい泣く。

 理屈じゃねぇんだよ…。ストレアはオレの家族だ。大事な一人娘だ。

 娘を泣かした奴をこらしめてやるのが父親の役目だ。

 友達を傷つけた奴をこらしめてやるのが友達の役目だ」

 

 装備欄に入り、両拳にある武器を装備する。

 

 

 

 タクヤ「傷つけられた分はきっちり支払ってもらうぜ…王様!!」

 

 

 

「「「!!!!」」」

 

 

 

 タクヤの拳にはアルンに店を構えているリズベット武具店のエンブレムが刻まれたグローブがハメられている。

 

 アスナ「あれって…まさか…」

 

 キリト「闘拳…スキル…」

 

 ユウキ「…タクヤ」

 

 

 

 

 

 

 SAOの世界で唯一剣を振るわず、自らの拳で戦い続けたプレイヤーがいた。

 後にそのプレイヤーに周りはコロッセオで強敵達に勇敢に戦う姿を連想させたと言う。

 それに基づきプレイヤーにある二つ名が付けられた。

 

 

 

 

 

 "拳闘士(グラディエーター)”と…

 

 

 

 

 

 キング「…そんなものが秘密兵器だと?俺も随分舐められたようだな」

 

 タクヤ「言っただろ?やって見なくちゃ分からないって…」

 

 瞬間、タクヤがキングの前から姿を消した。

 

 キング「!!!」

 

 カストロ「は、速いっ!!?」

 

 アストラ「み、見えないです!!」

 

 ほんの1秒で30mもの距離を詰めたタクヤは反応出来ていないキングのボディを左拳で抉った。

 

 キング「がっ!!」

 

 タクヤ「まだまだぁ!!!!」

 

 続けざまにボディへのラッシュがキングの顔を歪ませる。

 キングも痛みに耐えながらも両手剣の剣先をタクヤに向けた。

 力を振り絞って両手剣を一気に引き下ろす。

 完全に捉えたと思った。あの狭いスペースから逃げれないだろうと。

 だが、両手剣は虚しくも地に突き刺さっていた。

 タクヤの姿がどこにもないのだ。

 

 ユウキ「た、タクヤは?」

 

 キリト「き、消えた…?」

 

 すると、キングは背中に痛みが生じた。

 後ろを振り向きざまに両手剣を振るうも空を切るのみ。

 そして、またしても次は左腕に痛みが生じる。

 だが、そこにタクヤの姿はない。

 矢で射たれた訳でもない。

 投擲された訳でもない。

 けれど、確実にキングにダメージを与え続けている。

 

 キング「調子に…乗るなぁぁ!!!!」

 

 キングはSTR(筋力)をフルに使って両手剣で砂嵐を発生させた。

 これで例え、どこから攻撃してこようともキングには届かない。

 

 リーファ「あんなの反則でしょ!!?」

 

 当然近くにいたユウキ達も砂嵐に巻き込まれるがアスナとアストラの魔法で防御壁を張った為、負傷者のカヤトとキリト、ストレアを匿い岩陰に身を寄せていた。

 

 ユウキ「ありがとう2人共!!」

 

 アストラ「それよりもあの人は大丈夫なんですか!?」

 

 キリト「大丈夫…だと思いたいな…イテテ…」

 

 リーファ「今、回復魔法かけるから横になって!」

 

 防御壁の外側では今も尚砂嵐が山岳フィールド全体で巻き起こっている。

 この防御壁が無ければHP全損は免れないだろう。

 その中、タクヤとキングが戦っているとなるとユウキはいても経ってもいられない。

 だが、ユウキにはまだやるべきことが残っている。

 それはストレアを目覚めさせる事だ。

 この場へ到着する直前にタクヤに頼まれた事だ。

 

 

 

『ユウキはストレアを呼びかけ続けてくれ。オレはキングの相手をする』

 

『でも、もしボクが呼びかけても目を覚まさなかったら…?』

 

『大丈夫だよ。早くケリつけてオレもストレアとユウキの元へ向かう。

 2人でならストレアだって目を覚ます。

 だから、それまではユウキ…頼んだぜ?』

 

 

 

 ユウキ「ストレア…。早く起きてよ…。

 またみんなで…3人で一緒にいようよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キング「…」

 

 砂嵐の中心、キングが立っている場所から半径20mは砂嵐の影響下ではない。

 だが、そこから1歩でも足を踏み出せば瞬く間に四肢はもげ砕かれるだろう。

 

 キング「…」

 

 砂嵐内には何もいない。

 恐らくは外側にいるのだろう。

 だとすれば、タクヤはまず生きてはいないだろう。

 HPを全損させて今頃は現実世界のベッドの上であろう事を予想する。

 いや、今や確信と言った方が正しいかもしれない。

 確実に生きてはいまい。

 キングの頬が緩み、盛大に笑い始めた。

 次の瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「何笑ってんだよ?」

 

 

 

 

 

 どこからともなく声が聞こえてきた。

 周りには誰もいない。砂利すら残されていない空間に声が響き渡る。

 

 

 タクヤ「危うく死ぬ所だったぜ…。とんでもねぇ事しやがって…」

 

 キングは上空に顔ごと向けるとそこには翅で羽ばたいているタクヤの姿があった。

 

 キング「貴様…!!どうやって…!!」

 

 タクヤ「砂嵐も別にどこにも出入口がねぇ訳じゃねぇ。

 常に中心は穴が開いてるんだよ!そこさえ見つけりゃあ入るのは楽だ」

 

 翅をしまい、地上へと降りてきたタクヤをキングが両手剣で斬りかかる。

 だが、タクヤは両拳でそれを防いで見せた。

 

 キング「!!」

 

 タクヤ「お前の…この両手剣…()()()()()()()()()()()?」

 

 キング「…」

 

 タクヤ「当ててやろうか…?

 この武器は…S()A()O()()()()()()()()()()()()()だろ?」

 

 瞬間、キングの表情は驚きに満ち溢れた。

 タクヤはニィと笑い両手剣を掴み、そのままキングを放り投げた。

 キングは翅を羽ばたかせてバランスを保つが、タクヤには接近して来ない。

 

 キング「…どうして分かった?」

 

 タクヤ「知り合いにSAOの事後処理をしてる役人がいるんだけど、そいつからSAOに関する()()()()()が盗まれた…」

 

 

 

 

 

 

 

 それは先月の4月下旬、ALOにフルダイブしようとした時に不意に携帯の着信が鳴り響いた。

 着信相手を見るとそこには菊岡誠二郎というタクヤにとって信用し切れないきな臭い男からだった。

 無視しようとも考えたが、そうすれば着信履歴は菊岡の名前で埋め尽くされかねない。

 仕方なく、電話に出ると陽気な声で菊岡が出た。

 

 菊岡『あっ、もしもし?タクヤ君?もぉ、電話に出るのが遅いよぉ…』

 

 拓哉「…ふざけるなら切る」

 

 菊岡『わー!!待って待って!!ちゃ、ちゃんと用件があるんだって!!

 だから切らないで!!』

 

 拓哉「…はぁ…で、何の用だよ?」

 

 本当にこのまま切ってしまいたかったが、後でネチネチ言われても不愉快だ。

 ここは潔く菊岡の話を聞く事にするとしよう。

 

 菊岡『これは結構ヤバイ事なんだが、SAOに関するデータの1部が何者かに盗まれた…』

 

 拓哉「なっ!!?ど、どうして!!?

 SAOに関する物は全部アンタが持っていっただろうがっ!!!!」

 

 菊岡『いやぁ、まさか総務省のセキュリティホールをとっぱしてSAOのデータを盗むなんて誰も思わないじゃないかぁ!!

 僕だって忙しくてなかなか部にも顔を出せていなかったんだ』

 

 拓哉「のんびり構えてる場合かっ!!」

 

 SAOのデータが盗まれたのは非常にまずい。

 あれは天才茅場晶彦が作り上げたもの…言わば、茅場晶彦の分身だ。

 つまりは、あのデータにはありとあらゆる情報が凝縮されており、悪用されればまたデスゲームなどが起こりうる危険なものだ。

 その為、そのデータは総務省が責任を持って公開できる情報とは別に厳重に保管していたハズなのだが。

 

 菊岡『そこでタクヤ君。君にお願いがあってね…。

 データを盗み出した犯人を捕まえてほしいんだよ』

 

 拓哉「待てコラ。なんで一高校生が犯人を捕まえなきゃいけねぇんだ!

 警察とかに頼めよ!!てか、お前でもいいわっ!!」

 

 菊岡『データが盗まれたと知られれば総務省は大打撃を受けて、仮想課は撤去されるだろう。

 そうなったらVR反対派を止める抑止力を失って仮想世界はなくなってしまうハズだ。

 だから、これを大事には出来ないんだ。分かってくれるね?』

 

 拓哉「…で、犯人を捕まえるにしてもヒントもなしじゃ無理だ。

 どーせアンタの事だ。何かしら尻尾は掴んでんじゃないか?」

 

 菊岡『さすがにいい読みしてるね!

 実は、データが盗まれたその日にALOである事件が起きたんだ…』

 

 菊岡の話では、事件があった日の夜にゲーム内で大量にPKをしていたプレイヤーがいたらしい。

 そのプレイヤーはPKした全てのプレイヤーを一撃で倒し、見た事もないような魔法を使っていたようだ。

 

 拓哉「それだけじゃ、SAOのデータを盗んだかどうか分かんねぇな…」

 

 菊岡『あともう1つあるんだ。…そのプレイヤーはこう言ったらしい。

 "俺もあの血に染まった世界に行きたかった”…とね』

 

 拓哉「!!」

 

 その言葉の意味はタクヤには分かってしまった。

 血に染まったあの世界…人が血を流す事が当たり前だった世界…つまりはソードアート・オンラインの中という事になる。

 もう二度とあのような悲劇が起こさせてはいけない。

 

 拓哉「分かった…。後はこっちでなんとかしてみる…」

 

 菊岡『悪いねタクヤ君…。では、僕はこれで失礼するよ』

 

 菊岡との通話を切ってタクヤは1人ベッドに項垂れた。

 しばらくして、心を決めたのかタクヤはALOへとフルダイブした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「どうやって盗んだか知らねぇが返してもらうぜ…。

 あれは誰の手にも渡しちゃいけねぇ代物だ」

 

 キング「…そう素直に言う事を聞くとでも思っているのか?」

 

 タクヤ「だろぉなぁっ!!」

 

 両拳でキングを弾き、さらに左頬に拳をめり込ませた。

 勢いよく飛ばされたキングは両手剣を地面に刺して勢いを殺す。

 

 キング「…このっ…!!」

 

 システム上無敵であるハズの両手剣がたかがナックル系の武器に押されれている事実にキングは舌打ちを打ちながら立ち上がる。

 

 

 

 キングが盗み出したのはSAOで構想段階の武具のデータだった。

 その中にはゲームバランスを大きく変動させてしまう物もあり、茅場晶彦を始め、当時のアーガスのスタッフはそのデータをカーディナルに託し、それを元にしたゲームバランスに適した武具を自動生成してくれるものだと()()()()()()()()()()()

 カーディナルが影響を及ぼすのはあくまでゲームの中だけの話だ。

 バグの修正や、クエストの自動生成、ゲーム世界の維持等がカーディナルに課せられた使命だった。

 結果的に、アーガススタッフが考案した武具はSAOで陽の光に浴びる事なく、ブラックボックスの中に封印されていた。

 

 タクヤ「キング…お前はどうやってそのデータを…?」

 

 キング「答える必要はない…。

 俺が最強になるにはこの力が必要だった…」

 

 タクヤ「最強…?」

 

 キング「…」

 

 そう…彼は最強であり続けなければならない…。

 そうでなければ彼に生きている意味がないからだ。

 それが全ての行動理念に繋がっている。

 誰にも頼らず、自分の力のみを信じ、他からの影響を受けず、他を統べる為に彼は深い闇の中…孤独を選んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ?サッカーしねぇ?」

 

「しない」

 

 放課後、とある小学校のとあるクラスであったお話。

 少年の誘いを断り、ランドセルを背負ってクラスを後にする。

 クラスでは、これからの予定決めや他愛もない談笑に更けている。

 少年は視線だけでその様子を見てくだらないと感じた。

 下駄箱から靴を取り出し校門前まで歩いていると、突然背中に衝撃が走る。

 

「!?」

 

 振り向くとそこには黒のショートカットの少女が立っていた。

 その少女の事を少年は昔からよく知っている。

 昔と言っても今は小学5年生で初めて会ったのが小学校の入学式の時だからそれほどでもないが、家が隣同士で親同士も友達という事がでかいだろう。

 いわゆる幼馴染みという関係になる。

 

「まーた1人で帰ってるー!帰るなら誘ってよ!」

 

「…」

 

 少年は向き直り再度家の帰路につく。

 

「待ってって言ってるじゃん!!」

 

 少年の隣についた少女は同じペースで家へと帰る。

 

「ねぇ…」

 

「…何?」

 

 ようやく口を開いた少年は面倒くさそうに少女に聞いた。

 

「なんで友達作らないの?」

 

「…何回言わせるんだよ。…俺にはそんなの要らねぇんだ」

 

「じゃあ…私も要らない?」

 

「いや…その…」

 

 突然口ごもったのが可笑しかったのか少女は口を大きく開け笑った。

 少年もその笑い声を聞いて早足になる。

 

「速いよー!待ってったらっ!!」

 

 少女の静止を聞かず少年は速さを緩めたりはしない。

 今の頬がリンゴのように赤くなっている顔など見せられないからだ。

 

 

「きゃっ」

 

 

 少年の後ろで何かが擦れた音がした。

 少年は溜息をつきながら、音がした場所まで戻った。

 

「何やってんだよ…。立てるか?」

 

「な、なんとか…。でも、こけたのはナイトくんのせいじゃん!」

 

 ナイトと呼ばれた少年はまたも溜息をついてランドセルから持参していたティッシュと消毒液、絆創膏を取り出した。

 

 一騎「ナイトって呼ぶなって言ったろ?俺は一騎(かずき)だ。

 こけたのも無理して俺に付いてこようとした姫奈(ひな)が悪い」

 

 姫奈「だからナイトくんが速いからこうなって…ってしみるぅ〜!!」

 

 一騎「我慢しろよ」

 

 消毒液を姫奈の右膝に垂らし、それをティッシュで綺麗に拭き取って上から絆創膏を貼る。

 一騎は1人で何でもこなせるように必要最低限のものはランドセルの中にしまってある。

 そのせいもあって何をしても誰の手も借りない為、周りから敬遠されていた。

 だが、一騎にとってそれは好都合だ。

 向こうから声をかけてこないのなら変に気を張る必要もない。

 一騎は昔からそうやって生きてきた。

 

 姫奈「ありがとうナイトくん!」

 

 一騎「だからナイトって…あー…もういい。…疲れた」

 

 何度言っても直す素振りがない為、これ以上言い続けていても意味がない。

 姫奈もそれをわかってやっているのでなおさらタチが悪い。

 

 姫奈「じゃあ、怪我のお礼に姫奈ちゃんが手を握ってあげるよー」

 

 一騎「別にいい」

 

 姫奈「だから待ってよー!照れなくていいんだよー?」

 

 一騎「照れてないし待ってやらない」

 

 夕焼けが2人を照らしながらもゆっくりと沈んでいき、空には星々がキラキラと輝き始めた。

 2人は結局手を繋いで…半ば姫奈が握ってきたのがそんなのは関係ない。

 一騎は初めて会った時から姫奈には冷たい態度を取り続けてきた。

 1人の方が楽だし、親同士が友達だからと言ってその子供が友達にならなければいけない訳じゃない。

 だから、これでいい。このまま冷たくすれば離れていくだろうと一騎は小学生ながらに思った。

 だが、いくら冷たくしようと姫奈は一騎から離れようとはしなかった。

 これには一騎も驚き、次にどうすれば1人になれるか2週間かけて考えたが、まったく良い案は出てこなかった。

 だから、今唯一…一騎と正面から話が出来るのは姫奈だけとなる。

 

 

 姫奈「じゃあまた明日ね!」

 

 一騎「じゃあな…」

 

 

 互いの玄関の扉を開いた。

 

 

 一騎は自室へと向かいランドセルを机の上に乗せて、備え付けのテレビの電源を入れて、次は昔懐かしいハードの電源を入れた。

 これは一騎の父親の私物を一騎が父方の祖父母の家で譲ってもらったものだ。

 

 一騎(「これ結構はまる…。

 レトロゲーは名作がおおいからやめれねぇ…」)

 

 一騎の部屋にはパソコンや教材に参考書、冷蔵庫にレンジまである。

 小学生にしてほぼ部屋の中で生活環境が整ってしまう。

 

 一騎「ふぅ…ジュースジュース…」

 

 姫奈「はい!」

 

 一騎「おうサンキュー…って…」

 

 姫奈「遊びに来たよー」

 

 姫奈はいつだって神出鬼没だ。

 鍵をかけたハズなのにどうやって入ってきたんだと普段なら問答を繰り返すが一騎は今姫奈にかまっているほど暇はない。

 

 姫奈「うへー…これボロボロだね。昔のゲーム?

 ナイトくんゲーム好きなの?」

 

 一騎「…」

 

 姫奈「無視はよくないと思いまーす。

 姫奈ちゃんな心は傷ついちゃったよ」

 

 一騎「じゃあ帰ってくれ」

 

 姫奈「なんでそうなるのよ!!」

 

 

 

 

 

 

 こうして2人は毎日一騎の部屋でゲームに更けていた。

 次第に一騎はオンラインゲームにも手をつけ、全国には一騎よりゲームが上手い人は五万といる。

 一騎もこれには自分だけじゃクリア出来ないと知ったのだ。

 姫奈もそれなりにゲームが得意になり、一騎とたまに格闘ゲームで対戦してはいつも勝つまでやり続けた為、一騎との勝敗は五分になった。

 

 

 

 それから月日は流れ中学、高校まで2人のゲーム生活は続き、そして…高校生最後の春がやってきた。

 

 

 

 姫奈「ねぇねぇ!これ知ってる!?」

 

 放課後、学校近くの喫茶店にいた一騎と姫奈は1冊のゲーム雑誌に注目していた。

 

 一騎「知ってるよ。もう既に手に入れてる」

 

 姫奈「さすがナイト君!私もこれ楽しみなんだァ…!!」

 

 そこに載っていたのは"アルヴヘイム・オンライン”、通称ALOと呼ばれるVRMMOゲームだ。

 

 一騎「でも、よくおばさんが許してくれたな。

 あんな事があったばっかりに…」

 

 世間では同じVRMMOゲーム"ソードアート・オンライン”、通称SAOの事件でVRMMOゲーム自体を撤廃させようという運動が行われていたが、そんな最中発表されたのがこのALOとナーヴギアの後継機アミュスフィアだ。

 アミュスフィアはナーヴギアと違い、脳に送る電子信号を必要最低限にまで落とし、いくつものセーフティープログラムが組み込まれており、これを使う事で現実の体に害を及ぼすという事は完全になくなった。

 だが、それでもまたSAOのような事が起きるとも限らない。

 安全性についてはクリアしている為、購入は可能だが、学生や家族と暮らしている人達はそれらの説得が必須条件になっている。

 かく言う一騎も両親に説得を試みたが、門前払いを食らってしまい、アルバイトをしてこつこつ資金を貯めてこっそり購入した口だ。

 

 姫奈「家は結構放任主義だからねー。

 私も貯金全部出してギリ足りたって感じなんだよ」

 

 一騎「へぇ…。まぁとりあえず、サービスは明日の13時だからそれまではのんびりするさ…」

 

 一騎と姫奈は喫茶店を後にして家路へとつく。

 一騎は相変わらず学校では友達を全く作らなかったが、前ほどの嫌悪感は持ち合わせていなかった。

 だが、今まで他人と接して来なかった一騎の周りには当然誰も寄り付かない。

 アルバイトなどでそれなりに慣れたつもりだが、あれは仕事上の関係であってプライベートの部分には一切触れていない。

 

 姫奈「まーた3年間棒に振るの?」

 

 一騎「い、いいんだよ。別に…。それに…」

 

 姫奈「それに?」

 

 一騎「な、何でもないっ!!早く帰るぞ!!」

 

 一騎は姫奈の手を引っ張り、自宅へと向かった。

 自宅につくや否や自室にこもり、制服をクローゼットの中にしまい、楽なスウェットに着替える。

 冷蔵庫からジュースを取り出し、雑誌を読みながら口に入れる。

 炭酸が口の中で弾け、イタ気持ちいい感覚に包まれながら一騎は先程の事を思い出していた。

 

 一騎「…はぁ」

 

 一騎は姫奈に好意を寄せている。

 昔からの幼馴染みと言ってもここ数年で姫奈は魅力的な女性へと成長した。

 学校内じゃ男子達の視線を集めており、度々一緒にいる一騎に男子達が寄ってたかって泣き始めたのを一騎はまだ憶えている。

 

 一騎「どこまですすめるかな…」

 

 明日は土曜日。つまりは1日中ゲームをしても日曜の休みもある為、何の気兼ねもなく満喫出来る。

 一騎はALOの攻略本に手を伸ばし、子供のようにサービスを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫奈「…」

 

 姫奈は自室で濡れた髪の毛をタオルで拭きながら先程の事を考えていた。

 

 姫奈「あの続きって…」

 

 一騎が言い淀んで結局聞けなかったあの言葉。

 あれが一体何と言おうとしたのか姫奈は気になって仕方がない。

 今から聞きに行こうかとも考えたが今の自分の格好は流石に恥ずかしい年頃だ。

 姫奈は一騎に好意を寄せていた。

 いつも姫奈と一緒にいてくれて、ぶっきらぼうに見えて優しくて、そんな彼をもう10年以上見続けていた。

 高校で出来た友達とそんな話になった時、姫奈が口を滑らせて一騎の名前を出した時、みんなはあんなののどこがいいの?と言うが、みんなは学校で見せる一騎しか知らない。

 姫奈だけが本当の一騎を知っていると感じた時にある衝撃が走った。

 自分しか知らない一騎の素顔。そう考えただけで胸が張り裂けそうになる。

 

 姫奈「ナイト君…」

 

 子供の頃、一騎の名前を見た時に姫奈が付けたあだ名だ。

 今でも2人の時だけこう呼んでいるが、一騎は子供の頃のようにあだ名について何も言わなくなった。

 単に慣れてしまったかは分からないが、姫奈は嬉しかった。

 

 姫奈「そろそろ寝よっと…」

 

 電気を消してまだ肌寒い春の夜、布団を頭までかぶって眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キング「…」

 

 

 

 

 タクヤ「何ボケっとしてんだっ!!」

 

 

 キング「!!?」

 

 突然、目の前に右拳が降り注ぐ。

 キングは間一髪の所で躱すが、2撃目の攻撃を躱せず、地面に叩きつけられた。

 

 キング「がっ…!!」

 

 俺は一体何をしていたんだ?

 キングは今の状況が理解出来なかった。

 この砂嵐の中で目の前のナックル使いと戦っている最中だった?

 さっきまで見ていた映像が思い浮かばないまま両手剣を振り続ける。

 

 タクヤ「ぐっ!」

 

 やはり、間合い(リーチ)の差がかなり激しい。

 タクヤが腕約1mに対し、キングは+両手剣の長さが備わっている為、物理的に懐に入るのが極めて困難になる。

 

 タクヤ(「だが、もう時間もHPも…ねぇ…!!」)

 

 ペインアブソーバー機能はキングの手で停止させられている。

 つまりは仮想世界(ここ)で受けたダメージが現実こものになり、蓄積していけば、現実世界の体にも影響が出てしまう。

 タクヤは後ろへ下がろうとする足を腕で必死に抑える。

 チート武具を使ってる上にステータスも何かいじってあるのがわかる。

 

 タクヤ(「管理者権限に比べれば融通は効かないんだろうが…」)

 

 それでも今対峙しているのはプログラムだと言って仕方ない。

 どんな方法も自身を上げる事でそれを長所にしてしまうような奴相手にどう戦えば…。

 

 タクヤ(「SAOのデータがまだあったら…いやいや!!ダメだダメだ…!!あれの役目は…もう終わったんだ…」)

 

 キングも様子を伺っているのかタクヤに好きに手出しがでも、がないようだ。

 

 タクヤ(くそ…!!ストレアも心配だっていうのに…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ暗だった。

 ふと、目を開けたり閉じたりしても景色は常に黒一色である。

 

「ここは…」

 

 

 とりあえず前を歩いてみる事にする。

 ひたすら前だけを歩くが、途方にもある道のりを感じながらストレアは立ち止まった。

 ゴールは無かったが、そこには1人の青年が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
キングの過去ですがあと2,3話でこの物語も終われると思うのでそれまでに全部書いちゃいますのでご心配なく!


評価してくれたら嬉しい…

では、また次回!

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