ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

35 / 88
という事で35話目になります。
決勝戦に出てくる半分の6組はオリジナルキャラになります。
本戦にも出てきますのでまだまだ出番はこれからです。


では、どうぞ!


【35】予選決勝戦①

 2025年05月11日 11時00分 央都アルン

 

 "妖精剣舞”の予選が始まる2時間前。

 タクヤは1人、アルンの中央広場へとやって来ていた。

 何故、タクヤが予選前にこんな所に来ているのかと言うと、ここで()()()()と待ち合わせをしているからである。

 

 タクヤ「…」

 

「物思いにふけって何考えてるんダ?」

 

 タクヤ「うわっ!?」

 

 突然、背後を取られ振り向くと猫耳を生やしながらも頬に描かれたヒゲのペイントは忘れようもなく印象的だ。

 

 タクヤ「…久しぶりにお前に驚かされたよ。…アルゴ!」

 

 アルゴ「久しぶりだナ…タク坊!」

 

 タクヤの目の前にいたのは"鼠”のアルゴだ。

 SAOでは情報屋を営んでおり、情報屋の中でもトップクラスの信頼性を勝ち得ていた。

 実を言うと、タクヤは先日の仲間内での特訓の最中にキリトからアルゴの事を聞いていたのだ。

 ALOでも情報屋として活動していると聞いて、早速接触を図った。

 

 タクヤ「元気だったか?」

 

 アルゴ「タク坊のおかげでナ。

 タク坊は今やSAOだけでなくALOの英雄になってるみたいだけど、あれから大丈夫だったカ?」

 

 タクヤ「キリトから聞いたのか?」

 

 アルゴ「まぁナー」

 

 流石と言うべきか。

 一般プレイヤーが知りえない事でもすぐにどこからか掴み、それを商売道具に出来る所などは昔と変わらず健在のようだ。

 

 アルゴ「ところで…今日はオレっちに何の用なんダ?

 わざわざ感動の再会をしに呼び出したんじゃないんダロ?」

 

 タクヤ「あぁ。実はアルゴに調べてほしい奴がいるんだよ…」

 

 アルゴ「フム…。それって土妖精族(ノーム)の両手剣使いカ?」

 

 タクヤ「なんだ、知ってたのか?

 なら、話は早いな…。キングの身辺調査を依頼したい」

 

 アルゴ「…何かと噂が立ってるからナ。

 チートまがいのステータスに、素行の悪さ…。

 この前は盗賊を全滅させたって話もあル…」

 

 アルゴが調べるまでもなく、世間でのキングに対しての評価は極めて低い。

 喧嘩を売られれば言い値で買っているからだとタクヤは予想する。

 

 アルゴ「ちなみに、何でそれを調べてほしいんダ?」

 

 タクヤ「うーん…キリトが言ってたように本当に何かしてるなら止めないとって言うのがみんなの意見なんだけど…。

 キングは…オレ達とは違うものを持ってるんじゃないかって思ってる…」

 

 アルゴ「違うもの…ねぇ。了解しタ!

 オレっちの情報網にかかればキングの素性や出生なんてチョチョのチョイってもんダ」

 

 タクヤ「なるべく法には触れない方向で頼むな。

 ちゃんと代金は支払うからさ」

 

 アルゴ「毎度アリ〜。じゃあ、今日から早速行動に移るとするヨ!

 タク坊も大会の方頑張れヨ!!」

 

 アルゴはそう言い残して、隠蔽(ハンティング)スキルを使い姿を消した。

 タクヤも予選会場の浮遊島へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年05月11日 12時30分 妖精剣舞予選会場

 

 会場には観客達がごった返しており、中には露店を出して商売を始めている者もいる。

 予選会場となっている浮遊島には今はもう使われていない闘技場がある。

 所々破損しているが破壊不能オブジェクトに設定されている為、大会中に舞台が壊れる事はまずありえない。

 

 ユウキ「タクヤー!!こっちだよー!!」

 

 人混みをかき分けながらタクヤを呼ぶのは手に色々な食べ物を携えたユウキだった。

 

 ユウキ「タクヤも食べる?結構おいしいよ?」

 

 タクヤ「これから予選だっていうのにそんなに食べて動けるのか?」

 

 ユウキ「大丈夫大丈夫!

 今、エネルギーを蓄えている最中だから」

 

 そう言いながら手に持っていた綿アメを頬張る。

 タクヤはそれを見て呆れながらもユウキを連れて出場者専用の控え室へと歩き始めた。

 控え室には既にタクヤとユウキ以外の選手が揃っていた。

 

 アスナ「ユウキ!そんなに買っちゃったの?」

 

 リズベット「よく喉に通るわねー…」

 

 ストレア「私にも少しちょうだ〜い!」

 

 ユウキがストレアに食べかけの綿アメとリンゴ飴を差し出す。

 ストレアも初めて食べる甘味に舌づつみを打ちながら表情が緩む。

 

 ストレア「おいし〜い」

 

 キリト「オレもなんか買ってくればよかった…」

 

 リーファ「どーせキリト君は変なゲテモノ買ってくるに決まってるからやめてよね!」

 

 キリト「何言ってんだリーファ。

 ゲテモノほど食べてみないと分からないものはないんだぞ?」

 

 アスナ「リーファちゃんは味の事を言ってるんじゃないと思うけど…」

 

 キリトがユウキとストレアの食べている姿を羨ましそうに見ていると、ユウキが焼きそばとよく分からないモンスターの焼き串を差し出した。

 

 ユウキ「これおいしそうだったから買ってみたんだ。

 みんなの分もあるから遠慮しないで食べてよ!」

 

 キリト「おぉ!これこれ。オレが見たのはこれだよ!」

 

 シリカ「ゆ、ユウキさん…。このお肉って…」

 

 ユウキ「うーん…よくわかんない!」

 

 途端に恐怖を感じたのかキリト以外が焼き串をそっと元の場所に戻した。

 すると、アナウンスが流され予選出場者は武舞台まで集まるように指示を受ける。

 タクヤ達はアナウンスに従い長くカビ臭い廊下を渡っていく。

 ここにいるプレイヤーの12組だけが本戦出場の切符を手に入れることが出来る。

 タクヤは思わず生唾を飲み込んだ。

 と、同時にユウキが手を握ってきた。

 

 ユウキ「ボク達ならやれるよ…!!」

 

 タクヤ「…あぁ。オレ達なら!!」

 

 廊下が途切れ、眩しい陽の光を浴びながら武舞台に現れると観客席から惜しみない声援が雨のように降り注いでくる。

 

『これより"妖精剣舞”予選を開始しマース!!!!

 早速、昨日のトーナメント表をご覧下サイ!!!!』

 

 上空に巨大なモニターが表示され、昨日クジで決められたトーナメント表が映し出された。

 

『予選ではアイテム禁止!!

 それ以外は自由な決闘(デュエル)全損決着モードでの試合となりマース!!そして、試合数が多く長時間の観戦となる為、各ステージ事に同時で行いたいと思いマス!!』

 

 すると、アナウンサーが6人に分裂し、各ステージへと配置についた。

 

『では、各ステージの第1試合を開始しマース!!』

 

 タクヤ「よっしゃ!!初戦から飛ばしてくぜ!!」

 

 ユウキ「ボク達の相手は…」

 

 Cステージに転移させられたタクヤとユウキは1回戦の相手を探すがどこにも見当たらない。

 

 ユウキ「あれ?どこにもいないよ」

 

「「ここだっ!!!!」」

 

 突如武舞台が揺れ、地中から2人の土妖精族(ノーム)が現れた

 

 タクヤ&ユウキ「「!!」」

 

 ガン「俺の名前はガン!!」

 

 ロック「俺はロックだ!!」

 

 タクヤ「なかなか派手な登場だな…!!

 後で恥かいても知らないぜ?」

 

 ガンとロックは中指を立てながらタクヤとユウキを挑発する。

 まだ試合も始まってないというのに些かマナーの悪いペアだ。

 

『では、始めっ!!』

 

 合図と同時にガンとロックは土魔法の詠唱に入った。

 

 タクヤ「ユウキ!!魔法撃たれる前に倒すぞ!!」

 

 ユウキ「了解!!」

 

 タクヤとユウキも前へ出た。

 剣を鞘から抜き、いつでも斬れるように構えながら走る。

 だが、あと1歩という所でガンとロックの魔法が発動してしまった。

 足場が揺れ始め、タクヤとユウキは空中へ放り投げられた。

 

 ガン「空中じゃあ身動き取れまい!!」

 

 ユウキ「ざんね〜ん!翅があるもんねー!」

 

 ユウキが翅を羽ばたかせようとした瞬間、先程の地盤沈下で盛り上がった岩がタクヤとユウキを襲う。

 

 タクヤ「なっ!?」

 

 岩が次々とタクヤとユウキにまとわりつき、気がつけば身動きが取れず、翅も出せなくなってしまった。

 翅が出せない為、空中にいた2人はそのまま地上に落下する。

 

 タクヤ「やべっ!!このまま落ちたらHPが吹き飛んじまう!!」

 

 ユウキ「えぇ!!ど、どうしよー!!」

 

 ロック「これが無敵のガチガチロックだぜ!!」

 

 ネーミングはともかくこの状態は非常にまずい。

 何とかしてこの岩から脱出しなければ予選1回戦負けになってしまう。

 

 タクヤ「こんなとこで…」

 

 ユウキ「タクヤ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「つまづいてられるかぁぁぁぁっ!!!!」

 

 オレは体術スキルを発動して、STR(筋力)を極限まで高めた。

 

 ガン「無駄だ!!いくらSTR(筋力)が高かろうとその岩は壊れんよ!!」

 

 タクヤ「うぅがぁぁぁぁぁっ!!」

 

 瞬間、岩に僅かだが切れ目が入った。

 

 ロック「んなバカなっ!!?」

 

 切れ目は次第に大きくなっていき、とうとう岩を粉砕した。

 すぐさま着地して岩に挟まれているユウキを救出する。

 

 ユウキ「ありがとうタクヤ!!ってHPがレッドになってるよ!!」

 

 タクヤ「くそっ!!…テメェら、覚悟は出来てんだろうなぁ…!!」

 

 タクヤが徐々に詰め寄る。ガンとロックはタクヤから放たれる威圧感によって後退してしまう。

 

 ロック「び、ビビる事はねぇ。アイツはもう死ぬ寸前なんだ!!

 後1発当てれば終わりだ!!」

 

 ガン「ロック!!オレがアイツを止めてる間に魔法を撃て!!」

 

 すると、ロックはさらに後方に下がり、魔法の詠唱を始めた。

 

 タクヤ「ユウキ!!魔法の方は任せた!!」

 

 タクヤはガンに剣を向け突進する。

 ユウキもタクヤに言われた通りロック目掛けて全速力で地を蹴った。

 

 ロック「バカめ!!ならまずテメェから片付けてやる!!」

 

 タクヤ「やらせる訳…ねぇだろぉがぁっ!!!!」

 

 タクヤはガンの攻撃を受け流し、"スターナイトウォークス”を逆手に持ち、槍投げの要領で真っ直ぐ剣を放った。

 

 ガン&ロック「「はぁっ!!?」」

 

 驚いている間にロックの心臓を"スターナイトウォークス”が貫いた。

 ロックは即死判定を食らい残り火(リメインライト)と化した。

 

 ガン「ロック!!」

 

 タクヤ「次はテメェだ…!!」

 

 ガン「武器もなしで何が…!!」

 

 タクヤは拳を強く握りガンの顔面を捉え、地面に叩きつけた。

 

 ガン「!!」

 

 ユウキ「うわぁ…」

 

 叩きつけられた反動でガンの体が弾むとそこに拳の雨を降らせ、ガンのHPをことごとく削った。

 

 ガン「ぐはぁっ!!」

 

 タクヤ「ラストォォォォォ!!!!」

 

 タクヤの拳はガンの顎を捉え、アッパーカットを決めた。

 ガンはHPも全損して残り火(リメインライト)と化した。

 

『試合終了!!勝者…タクヤユウキペア!!!!』

 

 ユウキ「ボク…また何もしてない…」

 

 タクヤ「勝ったんだからいいじゃねぇか!

 次はユウキに見せ場作ってやるからよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場は大いに盛り上がり、拍手は鳴り止まぬ事を知らなかった。

 各ブロックの1回戦も次第に事なき終えていく。

 タクヤ達はその後も順当に勝ち上がっていき、ついに予選決勝戦へと駒を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Aブロック_

 

 Aブロックの予選決勝戦。

 その舞台に立っているのはリーファストレアペアとリズベットシリカペアだ。

 この試合でどちらかが負けようとも各ブロックの上位2組が本戦へ出場出来る為、この試合は言わば消化試合である。

 

 リーファ「消化試合でも手加減しないよ!」

 

 シリカ「お、御手柔らかにお願いします…」

 

 ストレア「シリカって小さくて可愛いな〜もう〜!」

 

 今から試合をするというこの場の空気などストレアにとって無いものに等しい。

 彼女はいつも自分の世界にいる。

 その世界にいるみんなを平等に愛しているのだ。

 

 リズベット「コラ!!ストレア!!

 今から試合なんだから頬ずりやめなさい!!」

 

 ストレア「ぶ〜けち〜」

 

 シリカ「試合する前に疲れちゃったんですけど…」

 

 リズベット「シリカもシャキッとしなさい!!行くわよ!!」

 

 リーファ「来いっ!!」

 

 決闘(デュエル)の申請を済ませ、カウントに入る。

 

『それでは、Aブロック決勝戦…開始っ!!!!』

 

 シリカ「ピナ!!バブルブレス!!」

 

 先手をとったのはリズベットシリカペアだ。

 ピナによるバブルブレスでリーファとストレアの動きを封じる。

 

 リーファ「ストレアさん!!」

 

 ストレア「おっけ〜いっくよ〜!!」

 

 ストレアが両手剣を振り回し、その風圧で動きを封じていた泡がみるみる割れていく。

 

 シリカ「あぁっ!!」

 

 泡が消え、体の自由を取り戻した所でリーファは翅を広げ、空中へと舞った。

 

 リズベット「やばっ!?」

 

 ストレア「リーファばっかり見てると怪我しちゃうよ〜!!」

 

 空中のリーファに目を奪われた隙にストレアが両手剣を構え、リズベットとシリカに接近していた。

 両手剣の一撃がリズベットを捉えた。

 

 リズベット「ぐっ!!」

 

 辛うじて盾で直撃を避けたがHPが2割程度削られてしまった。

 だが、ストレアの表情は悔しさの類のものではない。

 むしろ、思い通りに事を運んだといった余裕の笑みを零している。

 

 シリカ「リズさん!!」

 

 ストレア「今だよっ!!リーファ!!」

 

 再度、空中に舞っているリーファに視線を移すと、リーファの周りに無数のスペルが漂っていた。

 

 シリカ「ピナ!!ファイアーブレス!!」

 

 シリカの咄嗟の判断で危険を感じ、ピナに攻撃命令を出した。

 一直線に向かわれるピナのファイアーブレスが直撃する前にリーファの詠唱が終わってしまった。

 

 リーファ「食らえぇっ!!」

 

 高密度に凝縮されたエネルギーがファイアーブレスをいとも容易く打ち消し、シリカとリズベットに放たれた。

 ストレアは直撃する寸前までその場に留まらせる為、2人を牽制しつつ攻撃を仕掛けてきている。

 

 リズベット(「どう考えたってあんなの食らったらHPが吹き飛ぶっ!!

 逃げようにもストレアが邪魔してくるせいで動けないしっ!!」)

 

 シリカ「ピナ!!あなただけでも逃げて!!」

 

 シリカの声にピナは怒り、ストレアに爪による引っ掻き攻撃に入る。

 

 ストレア「いたっいたたっ」

 

 リズベット「攻撃が鈍った…!!ナイスピナ!!」

 

 ピナの生み出した一瞬の隙にリズベットとシリカは魔法攻撃の射程範囲外まで逃げ切った。

 ピナも遅れて合流して次の手を考えている。

 

 リズベット「ここからどうやって…」

 

 瞬間、首筋に冷たい感覚がリズベットに伝わった。

 恐る恐る見てみると鈍く光らせた刃が首元にピッタリと位置づけている。

 

 リーファ「勝負…ありましたね…リズさん!!」

 

 シリカ「リズさん!!」

 

 リズベット「ど、どうやって…アンタ、魔法を撃ってたんじゃ…」

 

 リズベット「あの魔法、威力は凄いんですけど当てるには少し遅いんですよ。

 だから、ストレアさんに足止めを頼んでいたんです。

 でも、万が一に足止め出来なかった時、あの魔法は撃ったら落ちていくだけなんで私がトドメをと思ったんです!!」

 

 つまり、リーファは魔法に気を取られている間に死角を利用してリズベットとシリカの背後に回り込んでいたという訳だ。

 

 ストレア「ふぅ〜危うく巻き添え食う所だったよ〜」

 

 シリカ「リズさん…」

 

 リズベット「…やられたわね。この借りは本戦で返すからね!!」

 

 リズベットとシリカは降参(リザイン)してAブロックを制覇したのはリーファストレアペアとなった。

 

 キリト「なかなかやるじゃないか…。

 まぁほとんどリーファの案だろうけど…」

 

 タクヤ「能天気なストレアにはあんな作戦考えつかないからな」

 

 ユウキ「ひ、ひどい…」

 

 アスナ「ど、どっちも頑張ったんだからいいじゃない!」

 

 などと控え室で試合を見ていたタクヤ達が語っていた。

 決勝戦にかぎり、1ブロックずつでの試合となり、タクヤ達は控え室にある特設モニターで試合の観戦をしていたのだ。

 そんな話をしていると試合を終えた4人が戻ってきた。

 

 アスナ「お疲れみんな!」

 

 リズベット「はぁー!!負けた負けた!!巨乳組に負けた!!」

 

 リーファ「り、リズさん!!?それセクハラですよっ!!?」

 

 ストレア「あはは〜楽しかった〜。

 でも、なんか肩こっちゃった…」

 

 タクヤ「なんで仮想世界で肩が凝るんだよ…」

 

 そんな話をしていると、タクヤの背後に巨大な影が現れた。

 

 タクヤ「…なんか用か?」

 

 タクヤは振り向きもせず、その影に質問した。

 すると、気配を感じさせる事なく控え室を出ていった。

 

 クライン「なんだありゃ…?」

 

 タクヤ「カヤトとホークの対戦相手だ。気をつけろよ?2人共…」

 

 カヤト「分かってる。最善を尽くすよ」

 

 ホーク「よっしゃあ!!いっちょかましたるわぁっ!!!!」

 

 カヤトとホークも控え室を出て、会場へと向かった。

 

 キリト「…嫌な予感がするな」

 

 タクヤ「…あぁ」

 

 ユウキ「大丈夫かな…?」

 

 タクヤ達はモニターに視線を移し、今は2人を信じる事しか出来る事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Bブロック決勝戦_

 

 武舞台に現れる2組の選手。

 カヤトとホークの前に立ちはだかるのは控え室で不気味な空気を纏わせていた2人だ。

 

『では、Bブロック決勝戦を始めマス!!』

 

 ホーク「よろしゅうな!」

 

 ホークが2人に握手を求めたがそれを払い除け不敵な笑みを零しながら宣言した。

 

「お前らに死よりもつらい地獄を味あわせてあげるよ…」

 

「ふっふっふっ…」

 

 カヤト「…宣戦布告と言う事ですか」

 

 そして、相手から決闘(デュエル)申請があった。

 あの巨体の名前はズームと言うらしいが、今そんな事はどうでもいいとホークは淡白なまでに作業を進める。

 彼にも事の善し悪しという物を判断する力がある。

 それは誰でも持っているようで実はそうではない。

 仮にもし世界中の人間がそれを持っているのなら犯罪や差別など起こりえないからだ。

 ホークは目の前の2人を睨む。

 握手を拒否されたからとかそういう小さな話からではなかった。

 あの世界ではプレイヤーの死は罪になる。

 だが、あの世界は消滅し、仮想世界に平和が生まれた。

 最低でもここでの死が現実世界に及ぶ事はなくなった。

 だから、ズームが死よりもつらい地獄を味あわせると言った瞬間、ホークの中で小さな怒りの火が灯った。

 

 ホーク(「死よりもつらい地獄…。

 お主らは()()()()()()()()()()()()()

 この平和な世界でそれを経験した事があるんか?」)

 

 彼らにはない。

 そう振る舞うプレイヤーがいるのも否定出来ないし、ましてや、それを止めろとも言えない。

 これはあくまでゲーム。

 ゲームの中ならいつもと違う自分になれる。

 それは当たり前の事で、誰かに兎や角言われる筋合いもない。

 

 カヤト「ホークさん。始まりますよ」

 

 ホーク「カヤト…」

 

 カヤト「はい?」

 

 ホーク「この試合…ワシ1人に戦らせてくれんかの?」

 

 カヤトはホークの頼みに驚いて抗議しようとしたが、ホークの表情を見てその考えを取り下げた。

 

 カヤト「…分かりました。

 でも、危なくなったら助太刀します。それでいいですね?」

 

 ホーク「すまんの」

 

 カウントが徐々に開始の瞬間に迫ってくる。

 ズームと相方のワードロンは短剣を構え、臨戦態勢に入っている。

 

 

 3…2…1…0

 

 

『試合開始っ!!』

 

 合図と共に、カヤトを置き去りにホークが一足飛びで2人に切り込む。

 

 ワードロン「へっへっ…獲物があっちから来やがったぜ…!」

 

 ズーム「手筈通りに行くぞ…」

 

 ズームとワードロンは両側へと別れ、ホークの横へと移動した。

 ホークはまずズームへと軌道を変え、右拳を強く握る。

 ホークもSAOのキャラデータをコンバートした為、ステータスはかなり強化されている。

 SAOでの戦闘スタイルをALOでさらに磨きをかけ、今では素手でもユージーン将軍と渡り合えるだけの力を手にしていた。

 

 ズーム「!!」

 

 ホーク「のろいんじゃよ!!」

 

 渾身の右ストレートがズームの右頬を捉えた。

 勢いの乗った拳をモロに受け、ズームは地面へと叩きつけられた。

 

 ホーク「よっしゃっ!!次…」

 

 瞬間、ホークの視界が歪み始めた。ホークの思考回路が原因を追求する。

 すると、右腕に短剣が刺さっていた。

 だが、短剣を刺されただけでこのような倦怠感は発生しない。

 短剣を抜き去り目を凝らして見てみると、微かにだが緑色の液体が付着していた。

 

 ホーク「こりゃあ…!!」

 

 ズーム「へっへっへっ。まんまと引っかかったな…。

 まさか、ここまで上手く行くとは思わなかったぜ」

 

 ホーク「…毒か」

 

 ホークがズームに気を取られている隙に背後から無数の斬撃を浴びせられた。

 

 ホーク「ぐぉっ!!?」

 

 HPは早くもイエローまで減少し、HPバーの下には猛毒のアイコンが付与されていた。

 

 ワードロン「ご心配なく。これはアイテムではなく、この短剣に元々備わっていた特殊効果ですから…」

 

 ホーク「そんな武器…聞いた事ないんじゃがなぁ…」

 

 猛毒の影響で視界がおぼつかないホークは1度、2人から距離を取る為後退する。

 だが、それをズームとワードロンは阻み、前後に囲まれてしまった。

 

 カヤト「ホークさん!!」

 

 カヤトは両手長柄を構え、ホークの助太刀に入ろうとした。

 

 ホーク「来るな!!」

 

 ホークの一声でカヤトの足が止まる。

 毒の影響でHPはみるみる減少していき、あと数分もしたらHPが全損してしまう。

 

 ズーム「まずは確実に1匹ずつ…」

 

 ワードロン「じわじわとなぶり殺してやるよ…!!」

 

 ホークに残された道は2つ。

 1つ、カヤトに援軍に来てもらい2人を倒すか。

 もう1つはHPが全損する前に2人を倒すか。

 当然、普通なら前者を選ぶ所だが、ホークの頭にはそのような考えはハナからない。

 

 ホーク「これが…お主らの言う…死よりもつらい地獄…か?」

 

 ズーム「あぁ。まだまだ手はあるんだぜ。

 死なせてくれと言われてもじわじわとゆっくり殺していくのが最高にテンションが上がるんだよ…!」

 

 ワードロン「俺らはそうやって他のプレイヤー達を殺していった!

 ある者は泣き喚き、ある者は許しを懇願する…。

 だが、俺らが求めているのは死への恐怖で震え上がったその表情なんだよ!!そんな楽しい事誰がみすみす手放すかってんだ!!」

 

 カヤト「このっ…」

 

 ホーク「…そうか。…それがお主らの掲げる信念なんじゃな?」

 

 瞬間、ホークの姿は2人の前から消えた。

 ズームとワードロンは背中を向け合い、四方からの攻撃に備える。

 だが、いくら待ってもホークが攻撃してくる様子はない。

 

 ズーム「どこだ…?」

 

 ワードロン「毒で動きは鈍ってんだ…。

 いくら不意をつこうとも俺らならいくらでも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワードロンが言い終わる前にズームの背後で轟音が会場を包み込んだ。

 

 ズーム「っ!!?」

 

 距離を取って土煙から目を離さず短剣を構える。

 すると、中から1つの人影が晒された。

 

 カヤト「…!!」

 

 ズーム「貴様…!!」

 

 中から現れたのはホークであった。

 土煙が晴れ、砕かれた武舞台の下にワードロンの残り火(リメインライト)が音もなく消滅した。

 

 ズーム「…た、たったの…一撃で…?」

 

 ホーク「お主らがどれだけ喚こうが何しようがワシには関係のない事じゃ。

 だがのぉ…死よりもつらい地獄を経験もした事ない輩が吠えるんはちと関心せんのぉ!!」

 

 ホークは地を蹴り、今までよりも速くズームの間合いに入った。

 

 ズーム「なっ!!?」

 

 ホーク「ワシは経験した事ある…。

 死よりもつらい地獄っちゅうヤツをな…」

 

 ホークは両の拳を強く握り締め、そのままズームの腹へと拳を突いた。

 その姿、技はSAOでのホークとタクヤのみが使用していたスキルをこのALOの世界で再現してみせたものであった。

 

 

 "闘拳”スキル"双竜拳”

 

 

 システムアシストなど存在しない為、単なる両拳での突きなのだが、ズームを倒すには事足りた攻撃だ。

 ズームは場外まで飛ばされ、HPが全損した。

 

 

 

『Bブロック決勝戦、勝者はカヤトホークペア!!!!』

 

 

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」

 

 

 カヤト「やりましたね。一時はどうなるかと思いましたけど…」

 

 ホーク「アホ抜かせ!ワシがあげなん奴らに負ける訳ないやろぉが!!

 それに…ワシはお主ら兄弟には負けとるからのぉ。

 ワシが主らに勝つまで誰にも負けはせんっ!!」

 

 ホークは笑いながら控え室へと向かっていき、その後をカヤトは苦笑しながらついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「お疲れ…ってカヤトは何もしてねぇか」

 

 控え室に戻ってきた2人にタクヤは労いの言葉をかけるが、先の試合ではカヤトは何もしていない為、疲れる事はないのだ。

 

 タクヤ「ホークすげぇじゃん!!最後の"双竜拳”だろ?

 よくシステムアシストなしであそこまで近づかせたな!!」

 

 ホーク「ワシもただゲームばっかやってた訳じゃないんじゃ!!

 ALOじゃプレイヤーの運動神経がデカイとこ持っていきよる。

 それなら、現実世界で鍛えた方が健康的やし、効率もいい!!」

 

 カヤト「効率とか考えてたんですか…」

 

 キリト「健康的っていうのもイメージが湧かないな…」

 

 ホーク「やかましいわっ!!!」

 

 次はCブロックの決勝戦。

 つまりはタクヤとユウキの出番だという事になる。

 タクヤは意気揚々と控え室を出ようとしたが直前にアナウンスが流れた。

 

『えー次のCブロック決勝戦なんですが、ゴーギャンフロストペアの諸事情により、スケジュールをずらして1番最後になりまシタ。

 ご了承くだサイ!!』

 

 タクヤ&ユウキ「「えぇっ!!?」」

 

 アスナ「残念だったね2人共…」

 

 シリカ「で、でも!最後って事は予選の大トリですからむしろ良かったと思いますよ!!」

 

 ユウキ「大トリかぁ…」

 

 リズベット「立ち直り早っ!!?」

 

 という事は次の決勝戦はDブロック…クラインエギルペアとなる。

 

 クライン「よっしゃあ!やっと俺達の出番だぜっ!!」

 

 エギル「相手はどいつだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キング「俺だ…」

 

 

「「「!!?」」」

 

 クラインとエギルの背後にキングが立っていた。

 キングは2人を睨みつけこう宣言した。

 

 キング「貴様らは30秒で沈めてやる…。

 せいぜい俺を楽しませてみろ…」

 

 クライン「んだとコラァっ!!誰を誰が30秒で倒すってぇっ?」

 

 エギル「落ち着けクライン!!」

 

 キングは一瞥をする事もなく、控え室を後にした。

 

 キリト「相当自分の力に自信があるんだろうな…」

 

 タクヤ「それもあるだろうけど…もっと別のモンがある気がする…」

 

 ユウキ「別のものって?」

 

 タクヤ「んー…うまく説明できねぇけど、少なくても…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツは…SAOの頃のオレらと似た経験をしてる…」

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
アルゴの再登場に仲間内のバトル…最後はホークの完全勝利を書いてみましたが、引き続き予選決勝戦をやっていきますのでよろしくお願いします。


では、また次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。