ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で30話目に突入です。
活動報告にも書いたのですが、時間が空いたら1話ごとに挿絵を1枚か2枚入れようかなと考えています。
もしよかったらラフ絵を公開しているのでお返事頂けると嬉しいです。


では、どうぞ!


【30】帰ってきた世界

 2025年01月29日 12時30分 横浜市立大学附属病院

 

 拓哉達が現実に帰還して早くも1週間が過ぎた。

 拓哉とアスナが現実世界に帰ってきてから、遅れて300人以上の未帰還者が一斉に各地の病院で目覚め、政府は帰還者達の対応に追われる事となった。

 そして、拓哉の元にも総務省の仮想課と呼ばれる部署の菊岡誠二郎と言う男性が現れた。

 

 菊岡「初めまして。僕は仮想課の菊岡誠二郎という者だ。

 今日は拓哉君が面談が可能な程に回復したと聞いて訪ねた次第だ」

 

 拓哉「はぁ…。そうっすか」

 

 木綿季「ほら!拓哉も挨拶しなきゃ!」

 

 拓哉「…茅場拓哉です」

 

 拓哉の目にはどうも菊岡は怪しい雰囲気を醸し出している。

 木綿季は裏表がない性格な為、そんな事は微塵も思っていないだろう。

 

 菊岡「君が茅場晶彦を倒し、SAOを終結に導いた事は木綿季君やキリト君からも概ね聞いている。

 よくやってくれた。ありがとう…!」

 

 拓哉「たまたまっすよ。あの場で奴がオレを選んだってだけ」

 

 菊岡「…なるほど。

 茅場晶彦も最後の対決に弟である君を選んだという事か…」

 

 拓哉「で?何の用すか?

 それだけを聞きにわざわざここまで来たんじゃないんでしょ?」

 

 菊岡「…そう邪険にしないでくれ。一応仕事だからさ!」

 

 菊岡は笑いながら備え付けのソファーに腰をかける。

 そして、鞄からボイスレコーダーとPC、さらに大量のスナック菓子をテーブル一杯に広げながら口を開いた。

 

 菊岡「さぁ、好きなだけ食べてくれ。木綿季君もどうぞ?

 これなんか僕のお気に入りなんだ」

 

 木綿季「わぁ!ありがとうございます!

 …これすごく美味しいです!!」

 

 拓哉「あの…一応まだ食事制限解除されてないんすけど…」

 

 菊岡「それは残念だなぁ…まぁ、仕方ないね。

 じゃあ、いろいろ質問に答えてくれないか?」

 

 それから約2時間、拓哉は菊岡にSAO、ALOの事件の事を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく、菊岡の質問が終わると拓哉はベッドの上でため息をつく。

 いい加減早く体を回復させて外を走り回りたいものだ。

 その事を木綿季に話すと…

 

 木綿季『それボクも同じ事考えたよー!!』

 

 それを実現させる為にも、リハビリを頑張って最低でも高校の入学式にまでは歩けるようにならなくてはいけない。

 

 菊岡「質問は終わるんだけど、拓哉君はSAOの小中高生を対象とした学校を新設するのは知っているかい?」

 

 拓哉「まぁ、ある程度は木綿季に聞いてるけど…それがどうかしたんすか?」

 

 菊岡「一応僕の方からも言っておく事なんだが、君の殺人歴についてだ」

 

 木綿季「も、もしかして拓哉入学出来ないの!?

 でも、あれはボク達を救う為に…!!」

 

 木綿季が最後まで言い切る前に拓哉がそれを止める。

 確かに、殺人を犯している人間と一緒にいたくないと思うのは普通だ。

 

 菊岡「いや、木綿季君の話も聞いているよ。

 キリト君やアスナ君に聞かされている…。

 大丈夫だよ。

 適正検査で取り上げられると思うけど僕が何とかしてみせるよ」

 

 拓哉「…ありがとうございます」

 

 菊岡「じゃあ僕は行くよ。…あっと、最後にもう1つだけ…!

 君の報奨金なんだけど、弟の直人君に渡してあるから確認しておいてくれ。では、また会おう…拓哉君!」

 

 菊岡は終始笑顔のまま拓哉と木綿季の前から消えた。

 拓哉もリハビリの時間が迫っている為、担当医の倉橋にナースコールで呼び出し、リハビリステーションに向かう。

 まだ上半身もろくに力が入りづらいが全く動けない下半身よりはマシな方だ。

 車椅子に乗るにも今は誰かの手を借りなければ乗れず、毎日木綿季と倉橋の世話になっていた。

 

 拓哉「いつも悪いな…2人とも」

 

 倉橋「気にしなくていいんですよ。

 私は拓哉君の担当医なんですから」

 

 木綿季「そうそう!

 ボクも拓哉のお嫁さんなんだから気にしなくていいの!」

 

 拓哉「()()お嫁さんじゃないけどな!

 てか、先生の前で恥ずかしいだろーがっ!!」

 

 木綿季「いいじゃん別に!!

 …それとも、拓哉はボクがお嫁さんじゃ嫌なの?」

 

 拓哉「いや、そういう事じゃなくて!!わ、悪かったよ…ごめんな…」

 

 拓哉は将来木綿季の尻に敷かれているなと少しだけ不安になった。

 

 倉橋「ほらほら…。リハビリステーションに着きましたよ?」

 

 木綿季「はーい!!」

 

 拓哉「なっ!?嘘泣きかよ!!?…心配して損した…」

 

 倉橋は見えない所で笑っていたが、こんな些細な事でも拓哉達にとっては幸せを感じる瞬間なのだろう。

 倉橋は拓哉を台に乗せるため、体を担ぎ台の上にゆっくり降ろした。

 5分程してリハビリ担当の女性看護師がやって来た。

 

「じゃあ茅場君…早速始めようか!」

 

 拓哉「うす!」

 

 木綿季は拓哉がリハビリをしている間は特にする事はない。

 倉橋も拓哉の面倒だけが仕事ではない為、自分の仕事を片付けに行ってしまった。

 

「はーい、もうちょっと伸ばそうか?」

 

 拓哉「ぐ…きっつ…!!」

 

 木綿季(「あれ、ボクも苦手だったなー…」)

 

 木綿季は拓哉の姿とかつてリハビリに勤しんでいた自分の影を重ねて見ていた。

 拓哉は汗を滲み出しながらリハビリを続ける。

 2年半も使われることがなかった筋肉を徐々に、少しずつ取り戻している。

 

 木綿季「…がんばれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年01月30日 13時00分 横浜市立大学附属病院

 

 直人「兄さん、見舞いに来たよ」

 

 拓哉「おう!」

 

 直人「あれ?まだ、木綿季さん来てないんだね…」

 

 直人が来る時、いつもと言っていい程木綿季は病室に来ている。

 今日はその木綿季の姿がどこにもない為、直人は不思議に思った。

 

 拓哉「木綿季ならさっき、逢わせたい人がいるって言って出ていったぞ?」

 

 直人「逢わせたい人…誰かな?」

 

 まぁ、とりあえずは特に危惧するようなことも無いので、直人は着替えを取り替え、拓哉と談笑していた。

 しばらくして扉がノックされ、応対すると木綿季が立っていた。

 

 直人「あ、木綿季さん。いらっしゃい」

 

 木綿季「直人!来てたんだね!ちょうど良かったよ!」

 

 直人「?」

 

 直人は木綿季の言っている意味が分からず、木綿季に問い直そうとしたが、木綿季の後ろで誰かが隠れている。

 

 直人「もしかして…藍子さん?」

 

 藍子「!!」

 

 木綿季「ほら姉ちゃん!いつまで隠れてる気だよー!」

 

 藍子「だ、だって…心の準備が…!!

 そ、それにナオさんもいるなんて聞いてないわよ…!!」

 

 直人には聞き取れないが頬を赤くして隠れている所を見ると、どうやら気恥しいようだ。

 14歳の少女のごく一般的な反応だ。

 

 直人「お久しぶりです。藍子さん」

 

 藍子「は、はいっ!お久しぶり…でしゅ…」

 

 木綿季(「噛んだ…」)

 

 直人「緊張しなくてもいいんですよ?

 顔は怖いですが根は優しいんで…。

 大丈夫ですよ。僕もついてますから」

 

 直人は木綿季の後ろに隠れていた藍子にそっと手を伸ばした。

 藍子も意を決して直人の手を取る。

 そして、3人で拓哉の前にやって来た。

 

 拓哉「遅かったな。…で、その子が木綿季がオレに逢わせたい人?」

 

 木綿季「うん!紹介するね。ボクの姉ちゃんの紺野藍子!!」

 

 藍子「こ、紺野藍子です!!初めまして拓哉しゃん!!」

 

 拓哉(「噛んだ…」)

 

 木綿季「見ての通り、姉ちゃんって人見知りが激しくてさ。

 でも、拓哉に姉ちゃんを会わせたかったから無理矢理引っ張ってきちゃった!」

 

 木綿季の原動力は実の姉さえも標的にするのかと拓哉の背筋が急にゾッとした。

 見た目は木綿季に似ているが性格は真逆のようで落ち着きがあって、大人しめの女の子だ。図書館などが似合う。

 

 拓哉「オレは茅場拓哉。直人の兄貴だ!よろしくな!」

 

 藍子「こ、こちらこそよろしゅく…!!」

 

 直人「だ、大丈夫ですか?藍子さん!」

 

 拓哉&木綿季(「何回噛むんだろう…」)

 

 こうして拓哉と藍子の初めての出会いは藍子曰く散々な結果に終わってしまったようだ。

 

 拓哉「あ、そういえば…ナオー、オレの報奨金ってどれだけ入ってたんだ?」

 

 直人「ん?報奨金?

 …あぁ、確かその書類が入った封筒を持ってきてるハズ…あったよ」

 

 直人はショルダーバッグから1通の封筒を拓哉の前に置いた。

 

 拓哉「ちなみに、木綿季は貰ったのか?」

 

 木綿季「うん!えーとたしか…300万円貰ったよ」

 

 拓哉「さ、300万っ!!?」

 

 直人「やっぱり驚くよね…」

 

 危うくベッドから転がり落ちそうになったが、なんとか堪えて息を整える。

 

 拓哉「じゃあ、オレもそれぐらいあるって事か…」

 

 拓哉は恐る恐る封筒を開け、中の書類に目を通した。

 すると、拓哉は書類を一旦、裏向きにしてテーブルに置いた。

 

 木綿季「どうしたの?」

 

 拓哉「…いや、オレ…こんなに貰っていいのかなって思ってな…」

 

 直人「…いくらだったんだよ?」

 

 拓哉「…見てみろよ」

 

 拓哉から書類を渡された直人は木綿季と藍子の3人で目を通した。

 

 直人&木綿季&藍子「「「…」」」

 

 拓哉「どうだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直人&木綿季&藍子「「「3000万んんんんんっ!!!?」」」

 

 そこには拓哉の報奨金として3000万円を進呈するという1文が記載されていた。

 

 木綿季「え?え?え?ボクやキリトの10倍!!?」

 

 藍子「こ、こんな大金見た事ないですっ!!!!」

 

 直人「…マジか。一軒家建てられるレベルじゃないか…!!!!」

 

 拓哉「いや、ナオ!お前の発想サラリーマンすぎるだろっ!!?」

 

 そんなこんなで拓哉は17歳にして一気にお金持ちとなった。

 

 

 毎日毎日来る日も来る日もリハビリに明け暮れた。

 1ヶ月で上半身はある程度回復し、4月に入る頃には下半身も回復して、もう日常生活には支障が出ない程になった。

 そして、退院の日がやってきた。

 

 倉橋「拓哉君、よく頑張りましたね!」

 

 拓哉「皆さんのお陰っすよ!今までありがとうございました!」

 

 拓哉は倉橋らと別れの挨拶を済ませ、病院の外に出ると、直人がバイクで迎えに来てくれていた。

 

 直人「やっと退院だね」

 

 拓哉「入学式にはギリギリ間に合ったわ!

 一時はどうなるかと思ったけど…」

 

 明日はSAO帰還者の入学式となっている。

 SAOで出会った仲間達にまた会えるのは拓哉にとっても嬉しいの一言に尽きる。

 

 直人「じゃあ、帰ろうか?しっかり掴まってないと落ちるからね」

 

 拓哉「大丈夫だって!ちゃんと鍛えてあるからな!」

 

 拓哉は直人に力こぶを見せるが、平均的に言ったら拓哉の筋肉はまだまだ足りない。

 日常生活を送れるというだけでこれからもジムに行ったり、体を鍛え続けなければならないのだ。

 

 直人「…まぁ、ゆっくり帰ろう。ここら辺も2年半前とは変わってるから」

 

 拓哉は直人からヘルメットを受け取り、バイクに跨る。

 直人の後ろに跨りながら、帰り道の風景を楽しんでいた。

 

 拓哉(「やっぱり…いろいろ変わってるなぁ…」)

 

 拓哉は2年半振りに外の景色を見た。

 よく通っていたパン屋は閉まっていたり、空き地になっていた所にはビルが建っていたりと自分が生まれ育った街ではないように錯覚してしまう。

 でも、街がいくら変わろうとそこに住む人達の心は変わらない。

 冷たい風を受け、今まさに生きていると実感している。

 拓哉の体はデータの集合体ではない。

 血と肉と骨で構成された人間なのだ。

 SAOやALOの世界では感じる事の出来なかった喜びが拓哉に降り注ぐ。

 

 

 拓哉(「…ただいま!!」)

 

 

 今日の空は春らしく太陽がサンサンと照った素晴らしい程に快晴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年04月09日 13時30分 茅場邸

 

 拓哉達は2時間程バイクで走り、ようやく我が家へと帰ってきた。

 我が家はSAOに囚われる前と変わらなかった。

 

 直人「何ボケーとしてんの?早く中に入りなよ」

 

 拓哉「分かってるよ!」

 

 玄関をくぐり、懐かしい光景を眺め、リビングへと足を運んだ。

 

 拓哉「…やっぱり2人じゃ広いな」

 

 直人「兄さんが帰ってくる前はここに僕1人で住んでたんだけど…やっぱり広いかな」

 

 元々は、両親と茅場晶彦と拓哉、直人の5人でこの家で生活していた。

 だが、両親は通り魔事件に巻き込まれ他界。

 茅場晶彦は自身の脳をスキャニングして死んでしまった。

 今、この家には拓哉と直人以外誰もいないのだ。

 

 拓哉「そう言えばオレの部屋って使える?」

 

 直人「いつ帰ってきてもいいようにちゃんと掃除してあるから使えるよ」

 

 拓哉「さっすがー!気が利くねー!」

 

 拓哉は階段を上り、自室へと向かった。

 ドアを開けると最後に見た時とさほど変わっていない部屋があった。

 

 拓哉「…やっと、帰ってきた」

 

 拓哉はベッドにダイブして顔を埋める。

 しばらくそうしていると1階から直人の声が聞こえてきた。

 

 直人「兄さん!電話だよー!」

 

 拓哉「すぐ行くー」

 

 拓哉は自分の荷物を自室に置き、直人から受話器を受け取る。

 

 拓哉「はいもしもし…」

 

 木綿季『あっ!拓哉?』

 

 拓哉「なんだ、木綿季か…。で、どうしたんだ?」

 

 木綿季『えっと…まずは退院おめでとう!

 で、そのお祝いに森先生が夕飯に招待しなさいって!!

 直人と一緒に来てよ!!』

 

 拓哉「場所はナオが知ってんだよな?…うん、18時な。

 分かった。じゃあ、また後で…」

 

 受話器を置き、直人がいるリビングに行った。

 

 拓哉「ナオー、木綿季が夕飯招待してくれたぞー」

 

 直人「木綿季さんが?それはよかったね…。

 じゃあ、そこまで送るよ」

 

 拓哉「いや、ナオも招待されてんだけど…」

 

 直人「え?僕も?」

 

 直人は呆気に取られながらも快く承諾し、軽めに昼食を済ませ、各自自室へと戻っていった。

 

 拓哉「えーと…おめぇな、コレ」

 

 拓哉はバックから黒いヘルメットを取り出し、棚の上に置いた。

 それは数多の戦いを壊れる事なく、共に生きていきた戦友とも言える拓哉のナーヴギアだった。

 

 拓哉「回収されちまうのはなんか勿体なかったしな。

 記念として飾っておこう!」

 

 まだ、家を出るには多少時間があるのでベッドで仮眠を取る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年04月09日 17時05分 茅場邸

 

 直人「兄さん!そろそろ出ないと遅れちゃうよ!」

 

 拓哉「んあ?…もうそんな時間か」

 

 窓の外を見れば、太陽は半分程沈んでおり、空には星がちらほら輝いている。

 

 拓哉「よしっ…じゃあ、行くか!」

 

 直人「寝てた兄さんがそれを言う?」

 

 直人のバイクで2人は陽だまり園へと向かった。

 1時間程走っただろうか拓哉と直人は無事、陽だまり園へと到着した。

 

 拓哉「ここって…孤児院か?」

 

 直人「木綿季さんから聞かされてないの?」

 

 拓哉「…あんまり暗い話は苦手だからな」

 

 木綿季「あ!2人ともー!こっちこっちー!」

 

 木綿季が玄関から2人を呼び、園の中を案内した。

 

 木綿季「ここが食堂だよ!」

 

 食堂に案内された2人を待っていたのはクラッカーでのお出迎えだ。

 

「「たくや兄ちゃん退院おめでとー!!!!」」

 

 食堂にいたのはまだ小学生の子供達だ。

 

 拓哉「え?ちょ、待て…!いてっ!」

 

 10人くらいの子供に囲まれ、拓哉もどうしたらいいか分からなくなっていた。

 

 智美「はいはい!拓哉君が困ってるから離れようねー」

 

「兄ちゃん!後でゲームしよ?」

 

「あたし、お人形さんごっこがいいー!」

 

「先にトランプしよーよ!」

 

 拓哉「ちょ、ちょっと待った!!分かったから!!全部やってやるよ!!」

 

 拓哉の一言で納得した子供達は各々自分の席へと移動していった。

 拓哉と直人も案内された席に腰をかける。

 

 森「子供達がすまないね。

 私はここでこの子達の先生をしている森だ。

 よろしく頼むよ拓哉君」

 

 拓哉「こ、こちらこそ!茅場拓哉です!よろしくっす!」

 

 智美「私は妻の智美です。会いたかったわ拓哉君!

 じゃんじゃん食べていってね!」

 

 拓哉「あざっす!」

 

 森「じゃあ、みんな!手を合わせて…頂きます」

 

「「いただきます!!」」

 

 食卓には豪勢な品が所狭しと並べられていた。

 拓哉と直人の席を中心に両サイドに木綿季と藍子、向かいの席に森と智美が座っている。

 後は周りに子供達が料理を好きなだけ取り皿によそっている。

 

 拓哉「こんなにぎやかな飯は久しぶりだな…!」

 

 直人「そうだね…!」

 

 森「君達ならいつでも歓迎するよ?

 木綿季と藍子を助けてくれたお礼だ」

 

 拓哉「あぁ、そういやナオがチンピラに絡まれてた藍子を助けたんだったな」

 

 直人「まぁ、偶然だったんだけどね…」

 

 あれは拓哉がまだ目覚めていない時の事だった。

 病院への行き方が分からなくなった所に藍子は運悪くチンピラに絡まれた。

 そこに偶然居合わせた直人が藍子を助けたのだ。

 今にして思えば、偶然が偶然を呼んでこれ程親密な関係になるとは直人も藍子も夢にも思わなかったハズだ。

 

 藍子「あの時、ナオさんに出会えてよかったです。

 ありがとうございました!」

 

 直人「そんな大袈裟ですよ!でも…仲良くなれて嬉しいです」

 

 藍子は顔を赤くしながらも直人の顔を見つめていた。

 それを拓哉の横で見ていた木綿季が冷やかしを入れる。

 

 木綿季「あれれ〜…やっぱり、姉ちゃん…直人の事…」

 

 藍子「こ、こら!木綿季!!」

 

 拓哉「ん?顔がリンゴみたいになってるけどどうした?風邪か?」

 

 藍子「な、何でもないです!!」

 

 直人「ははは…」

 

 藍子は顔を真っ赤にして料理を食べるどころの騒ぎじゃなかった。

 木綿季も森に叱られながらも笑顔を絶やす事なかった。

 

 智美「拓哉君、これ全部木綿季が作ったのよ?」

 

 拓哉「あぁ!やっぱり!通りで食い慣れた味だと思ったぜ!」

 

 木綿季「えへへ…SAOの料理を再現してみたんだけど…美味しい?」

 

 拓哉「当たり前だろ!!やっぱり木綿季の飯は1番美味いな!!」

 

 木綿季「えへへへっ…そうかな?」

 

 木綿季も頬を緩ませながら照れている。

 それを見た子供達がとんでもない事を口にした。

 

「お兄ちゃんと木綿季姉ちゃんはいつ結婚するの?」

 

 拓哉&木綿季「「ぶふっ!!?」」

 

 拓哉と木綿季は思わず口の中の物が出そうになるが、なんとか最悪の事態を避ける事が出来た。

 

 智美「そうねー…早くても木綿季が16になったらじゃないかしら?」

 

 森「おぉ!それはいい!拓哉君、木綿季の事は任せたよ!!」

 

 木綿季「ちょ、ちょっと先生!!

 まだ先の話なんだから言わなくていいよー!!」

 

 拓哉「…もちろんすよ。

 木綿季はどんな事があってもオレが幸せにして見せます!!

 SAOでの約束ですから!!」

 

 木綿季「た、拓哉…あうぅぅぅぅ///」

 

 木綿季は許容量をオーバーしてテーブルに顔を突っ伏した。

 

 智美「これで木綿季は安泰ね!…所で直人君?」

 

 直人「は、はい!」

 

 智美「直人君には藍子を貰ってほしいんだけど…どうかな?」

 

 すると、藍子の顔はまたしても赤くなり智美に言った。

 

 藍子「と、智美さん!!?私とナオさんはそんな関係じゃ…!!!」

 

 智美「もちろんすぐに答えが聞きたいんじゃないのよ?

 でも、もしお目当ての娘がいないんなら考えてくれててもいいでしょ?」

 

 直人「あ…えっと、はい…」

 

 半ば強引に押し切られた直人は智美に返す言葉など持ち合わせていない為、その場ははいと言ってしまった。

 

 藍子「な、ナオさん…!!あぅぅぅぅ///」

 

 これで紺野姉妹は揃ってテーブルに顔を突っ伏す事になった。

 

 森「智美…いい加減にしなさい…」

 

 智美「だってぇ楽しいじゃないの!」

 

 拓哉&直人(「「この人には逆らえない気がする…」」)

 

 こうして、茅場兄弟を含めた陽だまり園の食事会は幕を閉じた。

 その後、子供達の希望通り、ゲームをしたりお人形さんごっこをしたりトランプなどをしてその日は終わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年04月09日 22時20分 陽だまり園玄関前

 

 直人「じゃあ、僕達はここで失礼します。

 夕飯美味しかったです。ありがとうございました」

 

 拓哉「また呼んでください!

 お前らもゲームなりトランプなり強くなってろよ?」

 

「今度は負けないもん!」

 

 拓哉は子供相手に少々大人気ないと言われんばかりに手を抜かなかった。

 だがそれは、子供達が真剣になっている事を拓哉が気づいた為だ。

 拓哉の中ではどんな事でも真剣にやっている人の気持ちを無視する事なんて出来ない。

 例え、それが子供であってもだ。

 

 木綿季「じゃあ、また明日ね!遅刻しちゃダメだよ!!」

 

 拓哉「分かってるよ!お前こそ遅刻してもしらないからな!」

 

 藍子「ナオさんも今日はありがとうございました。

 …ちゃんと約束も守ってくださって」

 

 直人「…約束はちゃんと守らないと男が廃るというものですよ」

 

 直人と藍子が交わした約束とはALOの世界で木綿季の事を守って欲しいというものだった。

 当然、木綿季本人には伝えられていない事だった為、木綿季には何の事だかさっぱり分からなかった。

 

 森「またいつでもおいで。待ってるよ」

 

 智美「今度来た時は私の料理も食べていってね!」

 

 拓哉「はい!じゃあ、おやすみなさい」

 

 そう言い残して拓哉と直人はバイクで自宅へと帰っていった。

 

 森「不思議な兄弟だ…。子供達が初対面であんなに懐くなんて…」

 

 智美「そうね。木綿季と藍子はいい男を捕まえたわね!」

 

 藍子「だ、だからそんなんじゃないってさっきから…!!!!」

 

 木綿季「…拓哉はどんなに塞ぎ込んでても諦めたりなんかしない。

 どんな事にも立ち向かって…ボク達を救い出してくれたんだ…。

 ボクはそんな拓哉だから好きになれたし、好きになって貰えるように頑張った…」

 

 木綿季は明るく天真爛漫な性格の裏に、学校などでは友達と呼べる人はいなかった。

 それは、周りの人達が悪いのではない。

 木綿季は心の中で線を引いて、周りとの距離を取っていたのだ。

 それは姉の藍子も同じだった。

 親しくなればなるほど、別れが辛くなってしまう。

 それならいっその事親しくならなければいいだけの話だ。

 両親を病気で亡くし、孤児院で生きてきた姉妹は互いに方を寄り添って生きていく事に決めていた。

 だが、それをあの兄弟が容易く叩き壊してくれたのだ。

 どんなに厚く、硬い壁でもあの2人はそんなもの関係ないと言わんばかりにずっと走り続けている。

 

 森「…本当に不思議な子達だ。

 将来、彼らが何を為すのか…楽しみだよ」

 

 木綿季「ボクはどんな所にだって拓哉と一緒に生きていくもんね!」

 

 春風に吹かれながら互いの気持ちが交差する。

 帰ってきた世界はこんな美しく、儚くて、生きていると実感出来る素晴らしい世界なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
ほのぼのした回になりましたが、次の話から学校編になります。
初回は入学式から!
まだいろいろ書きたいネタがありますのでよろしくお願いします。


ではまた次回!

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