ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

23 / 88
という事で23話です。
いよいよ本格的に話が進んでいきます。
直人の行く末も見てもらえると嬉しいです。


では、どうぞ!


【23】今すべき事

 

 side木綿季_

 

 

 2025年01月15日 09時00分 横浜市立大学附属病院

 

 あれから約3週間程経ち、ボクは晴れて退院の許可が下りた。

 リハビリを毎日みっちりやったおかげで日常生活で不便さが出る事はない。

 あともう少し筋肉をつけたら走る事だって可能だ。

 ボクが自分の病室で帰り支度をしていると扉からノック音が聞こえてきた。

 

 木綿季「はーい!…って姉ちゃんと先生かぁ」

 

 そこにいたのはボクの姉ちゃんと陽だまり園の森先生だった。

 

 藍子「荷物は私達が持つからいいわよ。

 まだ本調子って訳じゃないんだから」

 

 森「私が持つよ。そんなに量はないし…。

 木綿季、先生には挨拶した?」

 

 木綿季「エントランスにみんなで待っててくれてるよ!」

 

 森「じゃあ、急がなきゃだな!」

 

 ボク達は帰り支度を済ませ、エントランスへと向かった。

 そこには倉橋先生を始め、関わってきた看護婦さん達が揃っていた。

 

 倉橋「木綿季君…今日までよく頑張りましたね。

 退院おめでとうございます」

 

 木綿季「みんなが手伝ってくれたおかげですよ!

 こちらこそありがとうございました!」

 

 森「うちの子がお世話になりました」

 

 ボクがみんなに礼を言ってから、続いて森先生と姉ちゃんが礼を言う。

 外に出ようと正面玄関に振り向くとそこには直人が偶然居合わせた。

 

 直人「木綿季さん!…そっか、今日が退院でしたね。

 おめでとうございます」

 

 木綿季「ありがとう直人!

 でも、明日からも毎日ここには来るけどね!」

 

 直人「…ありがとうございます」

 

 ボクは退院してもここに訪れる理由は1つだけだ。

 それは今も尚眠りについている拓哉のお見舞いに来る事だ。

 いつ目覚めるか分からないのでどれ程月日が経とうともボクはここに行かなければならない。

 側で見守る事しか今のボクに出来る事がないからだ。

 

 木綿季「じゃあ、またねー!」

 

 藍子「失礼します」

 

 直人「体には気をつけてくださいねー!」

 

 ボク達は森先生の自家用車に乗り込み、みんなとの別れを済ませて陽だまり園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年01月20日 07時20分 紺野姉妹自室

 

 木綿季「ん…」

 

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、眩しい光を顔に受けながらボクは上半身を起き上がらせた。

 

 木綿季「朝…か…」

 

 藍子「やっと起きたわね!

 早く食堂に行かないと朝ごはん食べれないわよ」

 

 頭がまだ寝ているが、ボクはベットから降りて姉ちゃんと一緒に食堂に向かった。

 この陽だまり園はボクと姉ちゃんを合わせて10人の身寄りのない子供達がいる。

 ここに来た理由はそれぞれだが、寂しさや不安などはみんなが誰しも持っている。

 かく言うボクと姉ちゃんも最初の頃は不安の方が大きかった。

 でも、園の先生達や子供達はそんなボク達を優しく迎え入れてくれた。

 今でもその事には感謝してもし切れない。

 だが、ボクがSAOに囚われてしまったばかりにみんなには心配をかけてしまった。

 これから恩返しとしてお世話になっているみんなに何か出来たらなと思っている。

 

 森「おはよう。木綿季、藍子…」

 

 藍子「おはようございます、先生」

 

 木綿季「おはよー!」

 

 森「ははっ。木綿季は2年前とちっとも変わってないなぁ」

 

 木綿季「むっ…少しは大人っぽくなったでしょ!

 ほら…ここら辺とかこことか!」

 

 森「はいはい。さぁ、朝ごはんにしよう。

 2人も席についてくれ…。みんな、2人を待ってたんだぞ?」

 

 どうやら食堂へ最後に来たのはボク達だけだったようだ。

 急いで席につき、みんなで合掌してから朝ごはんを食べた。

 

 藍子「木綿季は今日どうするの?」

 

 木綿季「んー?いろいろ準備したら病院に行くよ」

 

 森「私が送っていってやるよ」

 

 木綿季「ううん。

 今日は直人が一緒に連れて行ってくれる事になってるから大丈夫だよ?」

 

 藍子「ナオさんと…」

 

 姉ちゃんが何やらブツブツ独り言を言っていたがそこは聞かないのが仏だ。

 

 木綿季「あ、そうだ。智美さーん!

 今日の夕飯はボクも一緒に作っていい?」

 

 智美と呼ばれた女性は陽だまり園でみんなの料理を作ってくれている森先生の奥さんにあたる人だ。

 

 智美「えぇ…いいけど、木綿季ちゃん料理出来たっけ?」

 

 木綿季「SAO(アッチ)じゃいろいろ作ってたんだよ!

 多分、出来るよ!」

 

 智美「あら、頼もしいわね!じゃあ、頼もうかしら?」

 

 智美さんの了解も得て、早々と朝食を済ませて自分の部屋で身支度を済ませて待ち合わせ場所に向かおうとすると、部屋に置いてあるPCにメールが届いていた。

 

 木綿季「誰だろ…?」

 

 ボクは使い慣れていないPCのマウスを操作しながらメールを開くと、どうやら差出人はキリトのようだ。

 SAOがクリアされ現実世界に帰還したボクの所へSAO対策チームの菊岡誠二郎という役人さんが現れた。

 菊岡さんはキリト…現実世界では桐々谷和人と言うらしいが彼からの伝言とPCアドレスを言い渡されたのだ。

 それ以来、連絡などは取っていなかった。

 

 木綿季「久しぶりだなー…。っと内容は…」

 

 メールの内容は実にシンプルで記載されている住所に来て欲しいとの事だった。

 

 木綿季「どうしよ…直人なら多分連れて行ってくれると思うけど…。まず、直人に連絡しなきゃだね…!」

 

 事前に直人から携帯番号を聞いていたのですぐ様、固定電話で直人と連絡を取った。

 

 直人『もしもし、茅場ですが』

 

 木綿季「あっ!直人?ボク、木綿季だよ!」

 

 直人『木綿季さん?どうしたんですか?』

 

 木綿季「あのね…病院に行く前に連れて行って欲しい所があるんだけど…」

 

 直人『別にかまいませんよ。

 じゃあ、今から直接園の所に行きますね』

 

 木綿季「ありがとう直人!」

 

 電話を切り、自室へ戻ってキリトに返信してから園を出た。

 10分後、直人はバイクで園まで来てくれた。

 

 直人「待ちましたか?」

 

 木綿季「ううん。それで行きたいのがここなんだけど…」

 

 直人「ちょっと遠いですけど…分かりました。

じゃあ、乗ってください」

 

 ボクは直人からヘルメットを渡され、直人の後ろに跨り、目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年01月20日 10時30分 東京都 御徒町

 

 かれこれ2時間は経ったであろうか。

 時折休憩を挟みながら来た為、それ以上かかっているかも知れないがようやく指定された住所へとやって来た。

 

 木綿季「ここ…だよね」

 

 直人「住所はここで合ってます…」

 

 目の前には小洒落たアンティーク感が漂ってくるバーがあった。

 店の名前は"ダイシー・カフェ”。

 とにかく入ってみない事には始まらず、扉に手を掛けた。

 

 直人「あ、僕は外で待ってますよ」

 

 木綿季「なんで?一緒に入ろーよ。外寒いよ…」

 

 直人「いや、せっかく知り合いに会うのにボクは邪魔じゃないかと…」

 

 木綿季「そんな事ないよ?さっ!早く入ろっ!」

 

 半ば無理矢理直人の手を引っ張って店内へと足を踏み入れた。

 店内も外見に劣らず大人の雰囲気を漂わせている。

 今更ながらまだ未成年のボク達が入っていいような店ではないと思った。

 

「よっ!いらっしゃい!」

 

「待ってたぜ…」

 

 すると、カウンターには見慣れた2人がいた。

 

 木綿季「キリト!エギル!わぁぁ…久しぶりだね!!」

 

 エギル「相変わらず元気だなユウキは…!」

 

 キリト「全くだ…。元気そうでよかったよ。

 …とそっちの人は?」

 

 木綿季「あっ、そうだった!」

 

 直人「初めまして。茅場直人と言います…。茅場拓哉の弟です」

 

 直人が自己紹介を済ませると2人は驚いた顔をしていた。

 

 キリト「タクヤの…弟?」

 

 エギル「こりゃ驚いたぜ…。オレはエギルだ、よろしく!」

 

 キリト「オレは桐々谷和人…まぁ、みんなからはキリトって呼ばれてるよ。よろしくな直人」

 

 直人「よろしくお願いします。…それと、すみません!

 1番上の兄がみなさんの人生を狂わせてしまった事…お謝りいたします!!」

 

 キリト「い、いいよ!?もう終わった事だし…なぁ?」

 

 エギル「あぁ。顔を上げてくれ…直人。

 ここにいる3人はアンタの兄貴に助けられたんだ。

 感謝するのは寧ろこちらだ…」

 

 直人の事を直接本人の口から聞いた事がある。

 直人が1人で現実世界に取り残されてから2年間周りの大人には同情の目で見られ、中学の時はみんなから避けられていたらしい。

 最も、事件を起こしたのは茅場晶彦であって茅場直人には何の罪もないのだ。

 だが、現実はそう上手く行く事はなく、直人は今までずっと戦い続けてきた。

 直人が顔を上げて、ボク達もカウンター席に腰を下ろし、ボクはココアで直人がジンジャーエールを頼んだ。

 

 木綿季「それでキリト…話って…?」

 

 キリト「いや、実はオレもエギルからメール貰ってきたから詳しい事は何も…」

 

 エギル「…ちょっとこれを見てくれ」

 

 そう言ってエギルは胸ポケットから数枚の写真を取り出し、テーブルに広げた。

 

 木綿季「写真?エギル、これ何なの?」

 

 エギル「…ここに鳥籠があるだろ?

 それを拡大させたのがこれだ」

 

 キリト&木綿季「「!!?」」

 

 その写真を見て驚いた。

 そこにはボクの親友のアスナが写し出されていたからだ。

 

 キリト「アスナ…!?」

 

 木綿季「な、なんでアスナが…!?

 アスナもSAOから脱出してるんでしょ?」

 

 キリト「…アスナは未だに眠り続けている」

 

 木綿季「そ、そんな…」

 

 キリト「これはどこなんだ?エギル」

 

 エギル「ゲームの中だ…。

 "アルヴヘイム・オンライン”…通称ALOと呼ぶらしい…。

 この写真はそこで撮られたものだ」

 

 入院している時、テレビのニュースなどで取り上げられていたのを思い出した。

 "SAO事件”の後、VRMMOゲーム全体に完全撤廃の呼び声も上がっていたが、そんな最中に突如として発表されたのが"アルヴヘイム・オンライン”だ。

 舞台は妖精の世界でここの9つの種族の中から好きなものを選び、遊ぶというものだ。

 種族によって性能こそ違えどレベルが存在せず、スキルの反復練習で熟練度が上がり、HPなどは大して上がらないというプレイヤーの身体能力重視の結構ヘビーなゲームだったりする。

 

 キリト「これって人気出るのか?」

 

 直人「あのー…それ今、社会現象にもなってる大人気ゲームらしいです。

理由は()()()()()からですね」

 

 木綿季「空を飛べるの!!?」

 

 エギル「妖精だから翅がある…。

 フライトエンジン機能を搭載してて慣れれば自由に空を飛べるみたいだな…。」

 

 木綿季「すごいね…。

 でも、それがこの写真とどんな関係があるの?」

 

 キリト「レクト…。

 アスナの父親がCEOを務めてる大手家電メーカーだ。

 そして…ALOは()()()のいる部署で扱っている…」

 

 キリトの言うあの男とはアスナの現婚約者の須卿伸之だそうだ。

 須卿伸之はアスナの昏睡状態を利用して結城家…つまりアスナの家に婿養子として入り、レクトを乗っ取ろうと企てているらしい。

 

 エギル「…で、どうするんだ?」

 

 キリト「決まっている…!ここにアスナがいるのなら行くぜ」

 

 木綿季「…ボクも行くよ!!」

 

 エギル「…実はもう1つ見てもらいたい動画があるんだが、これを見てくれ」

 

 エギルはさらある動画をボク達に見せる。

 動画が再生されるとひどいノイズとピントがあっていないものが映し出された。

 

 キリト「ぼやけててよくわからないな…」

 

 撮影する際、通信状況が悪かったのか、ぼやけていたがボクにはこの動画に映っているものが分かった。

 見るからに周りにはモンスターが円を描くかのように出現していて戦っているようだ。

 だが、おそらくプレイヤーであろうこの人物は背中の武器を使わず、素手で戦っている。

 

 木綿季「もしかして…」

 

 エギル「確証はない…。だが、オレの知るかぎりこんな戦い方が出来るのは1人だけだ…」

 

 木綿季「…」

 

 その動画の中で、プレイヤーは一騎当千が如く次々モンスターを屠っていく。

 その戦闘スタイルはSAOで攻略組だった者なら誰だって知っているハズだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木綿季「拓哉にそっくりだ…」

 

 直人「え?…これが兄さん…ですか?」

 

 木綿季「うん。SAOで拓哉は唯一素手で戦っていたんだよ…。

 その時のスキル…技にそっくりなんだ…。

 特にこことか…」

 

 ボクは動画を巻き戻し、問題の場面を直人とキリトに見せた。

 

 木綿季「…ここ!拓哉は右拳を前に出す時左腕がぎっしり体の内側にしまい込むんだ」

 

 キリト「おい!ちょっと待てよ!タクヤは…生きてるのか?」

 

 木綿季「うん…生きてるよ。

 でも、アスナと一緒で今も寝たきりなんだ…」

 

 キリト「そんな…!!」

 

 キリトはまるで苦汁を飲んだ顔をしている。

 いや、キリトだけではない。

 エギルやボクだって同じ事が言える。

 

 直人「じゃあ兄もこのALOの中にいるって事ですか?」

 

 エギル「それはまだ何とも言えないな。

 戦い方が似てるだけで別人とも考えられる…。

 タクヤの戦闘スタイルはスポーツでいうボクシングに近い動きだからな…。

 もしかしたら、現実世界(リアル)でボクシングをやっている奴かもしれない」

 

 木綿季「…それでも確かめなくちゃ!!

 そこに拓哉がいる可能性があるなら…!!

 今度はボク達が拓哉を助ける番なんだ!!」

 

 キリト「よし…!!早速、ソフトとハードを揃えなくちゃな」

 

 キリトはバックを肩に担いで店を後にしようとする。

 

 エギル「ソフトならここに3本ある。

 ハードはナーヴギアで動くぞ」

 

 木綿季「どうしよ…。ナーヴギアもう回収されてないんだった」

 

 直人「なら、()()()()()()()を使ったらどうですか?」

 

 木綿季「アミュスフィア?何それ?」

 

 聞き慣れない単語が出てきて直人にそれが何なのか聞いた所、いわゆるナーヴギアの後継機だそうだ。

 アミュスフィアはナーヴギアと違って脳を焼き切る程の出力は出せず、何重ものセキュリティが施されており安全を第一に考えられたものらしい。

 

 木綿季「でも、ボク…お金が…」

 

 キリト「お金ならあるだろ?

 攻略組だった奴らはゲームクリアの貢献に応じて報奨金が振り込まれてるハズだ。ざっと、これぐらいな」

 

 そう言ってキリトは3本の指をボク達に突き立てる。

 

 直人「そ、そんなにですか…!!?」

 

 木綿季「え?いくらなの?3万円?」

 

 直人「いや、多分3百万円じゃ…」

 

 木綿季「えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 そんなに貰っていた事などつゆ知らずにいたボクは目が飛び出そうな程驚いた。

 ボクは1万円ですら滅多に見た事なかったのに。

 

 キリト「ちゃんと説明されてるハズだけど…。

 とにかく、金銭面には困らないな」

 

 直人「じゃあ、見舞いを済ませてから買いに行きましょうか?

 僕が連れていきますから」

 

 木綿季「わぁ!ありがとう!!

 やっぱり、拓哉の弟だけに優しいね!!」

 

 キリト「むしろ、タクヤより大人っぽいぞ」

 

 エギル「確かに…」

 

 直人「ははは…」

 

 そうしてボク達はダイシー・カフェを後にして別れた。

 キリトとエギルの携帯番号を教えてもらい、ボクと直人は病院へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideout_

 

 

 2025年01月20日 12時30分 桐ヶ谷邸

 

 庭にある池には枯葉がちらほらと落ちていき、波紋がいくつも重なり、収束していく。

 それをただ呆然と見ながら手作りのマフィンサンドを頬張り、桐ヶ谷直葉はベランダで眺めていた。

 

 直葉「はぁ…」

 

 ため息をつき、側にあったミネラルウォーターを手に取ると、マフィンで乾いた喉を潤す。

 大体いつもならこの時間は学校で授業を受けているハズだが、彼女は今年卒業する中学3年生だ。

 高校にもスポーツ推薦で内定を貰っていて、学校も3年生だけは自由登校になっている。

 

 直葉「なんで私…」

 

 直葉は昨日の出来事を思い出していた。

 昨晩、兄の桐々谷和人に風呂に入るよう部屋まで行くと兄は部屋の暖房もつけず薄着のままただ項垂れていた。

 急に心配になり駆け寄ると初めて兄の弱い姿を見た気がした。

 普段は落ち着いていて優しい兄だが、その時だけはまるで絶望したかのような表情でただ1点を見つめていたのだ。

 聞くと、兄の大事な人が遠くへ行ってしまうと言う。

 直葉の心内は複雑だった。直葉と兄、和人は本当の兄弟ではない。

 和人は小さい頃、両親を自己で亡くし、叔母夫婦である母、桐ヶ谷翠が引き取って今に至る。

 直葉はそれを和人がSAOに囚われた後に翠の口から聞かされていた。

 和人は兄ではなく従兄弟にあたると…。

 それを聞いた時、直葉の中の奥深い所に隠していたものが不意に出てきた。

 血が繋がっていないのなら私がお兄ちゃんを好きになってもいいんじゃないか?

 それからの直葉は毎日和人のお見舞いに来ては早く帰って来て欲しいと強く願った。

 和人はある時から直葉や両親と距離を置くようになり、自室で自分が組み立てたPCを使ってネットゲームに夢中になっていった。

 だから、目覚めたら出来てしまった溝を埋めたいと…また小さい頃のように仲良くなりたいと思い続けていたのだ。

 その思いは2ヶ月前に唐突に叶ってしまった。

 それからというもの直葉は和人の面倒やリハビリを積極的に手伝い年が明ける前に晴れて退院する事が出来た。

 これからだと直葉も涙ながらに喜んだが和人の口から最愛の人の話を聞いた時、目の前が真っ暗になるような感覚に陥った。

 なら、諦めるしかない…。

 直葉は自分の中にある感情を隠し、和人との溝を埋める事だけを考えて今日までやって来た。

 だが、それは昨日の出来事をきっかけに揺れ動いていた。

 

 直葉(「なんで私…あんな事言っちゃったんだろう…?」)

 

 直葉は絶望の淵にいた和人に最後まで諦めるなと言ってしまった。

 その言葉はある意味今の直葉にも同じ事が言えた。

 だから、今こうして迷っている。

 このまま仲良し兄妹であり続けるのかそれとも異性として和人を好きになるかの2択であった。

 昨日の事を思い出す度、全身の体温が上がるを感じ頭の中の煩悩を取り払おうとする。

 体を冷やすべくミネラルウォーターを飲み、再度マフィンサンドを頬張った時、突然起きた。

 

 和人「ただいまスグ」

 

 直葉「お、お兄ちゃん!!?んぐっ…!!」

 

 和人「お、おい!大丈夫かよ?」

 

 和人は喉にマフィンサンドを詰まらせた直葉に急いでミネラルウォーターを渡す。

 ペットボトルの中身を全て飲み干し、ようやく喉の異物感を取り払えた直葉はホッと胸を下ろす。

 

 和人「ったく…せっかちだなぁ…」

 

 直葉「お、お兄ちゃんがいきなり声をかけてくるからでしょ!!」

 

 和人「はいはい。悪かったよ…」

 

 直葉「もう…!!」

 

 つい昔にはこんな会話がまた出来るとは思っていなかった為、直葉は和人と話す時は常に楽しい気分になれた。

 

 和人「スグ…昨日の事なんだけど…」

 

 直葉「へっ!?う、うん…」

 

 和人「オレ…諦めないよ。必ずアスナを助けてみせるから…」

 

 直葉「…うん。頑張って!私もアスナさんに会いたいもん!」

 

 和人「きっとすぐに仲良くなれるよ…。じゃあ、また後でな」

 

 そう言い残して和人は玄関口に行き、自室へと戻って行った。

 

 直葉「…諦めたら…ダメ…か」

 

 今日も1段と冷える中、直葉は用事を思い出し、慌てて自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年01月20日 12時10分 横浜市立大学附属病院

 

 木綿季と直人は拓哉の病室にいた。

 毎日来ているが何も変わった事はない。

 今も尚いつ目覚めるのかわからないまま時間だけが過ぎ去っていく。

 

 木綿季「…拓哉。

 今度はボクが拓哉を救い出してあげるからね…。

 だから、もうちょっとだけ待っててね…」

 

 直人「…木綿季さん。1つお願いがあるんですが」

 

 木綿季「ん?どうしたの?」

 

 直人「僕も一緒に兄を助けに連れていってくれませんか?」

 

 木綿季「えっ?」

 

 木綿季は思わず声が裏返ってしまう。

 それだけ、直人が放った一言が印象的だったからだ。

 

 直人「足でまといなのは分かっています…。

 でも、僕はまた何もしないで兄が助け出されるのをじっと見ているだけなんて出来ません!!どうか…お願いします!!」

 

 木綿季「うん!じゃあ、一緒に拓哉を助けに行こうよ!」

 

 直人「え?」

 

 今度は直人の声が裏返ってしまった。

 まさか、こんな2つ返事で了承して貰えるとは思っていなかった為、緊張が一気に解けてしまったのだろう。

 

 直人「い、いいんですか?」

 

 木綿季「だって、拓哉を助けたいんでしょ?

 その気持ちはよくわかるもん…。ボクも同じだから…。

 ボクの立場が逆だったら直人みたいに言うと思う。

 だから、一緒に助けに行こう!」

 

 直人「…ありがとうございます!!」

 

 木綿季「よーし!じゃあ、早速買いに…行く前に先生に話さなきゃ…」

 

 キリトのいい通りであればおそらく木綿季の通帳は保護者である森が持っているハズだ。

 何とか説得してアミュスフィアをゲットしなければ助けにすら行かれない。

 

 直人「じゃあ、僕もついていきます!」

 

 木綿季「ありがとう!…じゃあ、拓哉。また来るね…」

 

 拓哉に別れの挨拶を済ませ、すぐ様2人はバイクで陽だまり園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side木綿季_

 

 

 2025年01月20日 12時45分 陽だまり園

 

 木綿季「お願いします!!」

 

 直人「僕からもお願いします!!」

 

 森「…」

 

 ボク達は今、アミュスフィアを手に入れる為、森先生にボクのお金を使わせてもらう許可を得ようと陽だまり園の応接にいた。

 

 木綿季「どうしてもアミュスフィアが必要なんです!!」

 

 森「…木綿季の言っている事は概ね分かった。

 もしかしたらその拓哉君が木綿季の言うゲームの中にいるかもしれないとそう言うんだね?それでアミュスフィアが欲しいと…」

 

 木綿季「はい!!」

 

 森「…そちらは拓哉君の弟さんでよろしいかな?」

 

 直人「は、はい!茅場直人と言います…」

 

 森「藍子から話は聞いているよ。助けてくださったみたいで…」

 

 直人「え?あ、いや…そんな…」

 

 今はそんな事を話している時間なんかない。もしかしたら今こうしている間に拓哉の身に何か起きているかもしれないのだ。

 今はとにかく時間が惜しい。

 

 森「…分かった。そういう理由なら仕方ないね…」

 

 木綿季「っ!!ありがとうございます先生!!」

 

 森「でも、これだけは約束してくれ。

 絶対に危ない事だけはするんじゃないぞ?」

 

 木綿季&直人「「はい!!」」

 

 こうして無事アミュスフィアを手に入れてエギルから貰ったALOのソフトをアミュスフィアにインストールする。

 今頃直人も自分で買ったアミュスフィアにインストールしている頃だろう。

 インストールする時間すら気が気でないボクは若干の焦りを感じながらインストールが完了するのを待つ。

 そして、インストールが終了した瞬間、アミュスフィアを頭にかぶり、ベットに寝転ぶ。

 約2年ぶりにいう音声コマンドを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木綿季「リンクスタート!!」

 

 瞬間、目の前がクリアになり、ゲームのタイトル場面へと移った。

 

 木綿季「さて…と。早く設定とか決めないとね…!」

 

 コンソールを操作しながら9つの種族の中で気に入った闇妖精族(インプ)を選択して名前を決める。

 ここはSAOでも使っていたYuukiの名前を入力する。

 アナウンスと共にボクは空に放り出され、真下にある薄暗い街へと降り立った。

 

 ユウキ「…また来ちゃったなぁ。あんな目にあったのに」

 

 姉ちゃんが聞いたら何て言うだろうか?

 多分怒るだろうなぁ、と考えながらも本来の目的を忘れてはならない。

 

 ユウキ「そうだ…!!えーと…あった!!」

 

 ボクはメニューの1番下にあるログアウトボタンがあるか確認する。

 やはりそこはSAOと違う為、ちゃんとログアウトボタンは存在していた。

 

 ユウキ「ふぅ…。まぁ、ない訳ないよね…。

 次はアイテムだけど…うわっ!?なんじゃこりゃ!!」

 

 アイテムウィンドウを開くと何やら文字化けしているみたく、すぐ様消去する。

 そして、ステータスを確認すると奇妙な事にほとんどの戦闘スキル並びに料理スキルが初心者(ニュービー)にしては高すぎる事に気づいた。

 

 木綿季「この数値って…まさか、SAOの時の…!!

 そうだ間違いない!!絶剣スキルはないけど他のはみんなそうだ!!」

 

 何故こんな事が起きているのかは分からないが早くタクヤを見つけるには強いに越した事はない。

 

 ユウキ「あっ!そういえば…待ち合わせ場所とか決めてなかった…」

 

 仕方ないので一旦ログアウトして、直人とキリトに連絡を取ってから再度ログインしようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideout_

 

 

 タクヤはあれからずっと森を彷徨っていた。

 訳もわからない所にやって来てはモンスターとの戦闘で今の状況などを考えている余裕がなかった。

 だが、ここへ来て分かった事がある。

 1つはここはSAOではなく、別のVRMMOゲームの世界だと言う事。

 その証拠に今まで見た事のないモンスターが出現している。

 なんとか、倒せているがここがどこでどの方角に向かえばいいのか分からないのだ。

 もう1つはステータスだ。

 どうやらSAOの時のままみたいだが、修羅スキルなどのユニークスキルは消滅してしまっている。

 おそらく、このゲームで共通するスキルはSAOのデータをそのまま使えるようだ。

 それだけでもまだマシな方だと思う。

 森の中をひたすら彷徨いながらモンスターを狩る毎日。

 このユルドというこのゲームの通貨は増えていく一方だ。

 

 タクヤ「そう言えば、アイテムとか確認してねぇな…」

 

 この世界に来てタクヤは真っ先にログアウトボタンがあるか確認するが、やはりそのような脱出できるものは存在しなかった。

 アイテムを確認するが文字化けが酷く、使えるアイテムは全くなかった。

 そんな時、背後から微かだが草むらを掻き分ける音がした。

 

 タクヤ「誰だっ!!」

 

 すぐ様臨戦態勢に入り、警戒する。

 いい加減モンスターとの戦闘は後免被りたいのでプレイヤーだったらいいなぁと淡い期待と緊張を纏いながら姿を現すのを待つ。

 タクヤの声に反応したのか音は徐々に大きくなっていき、やがて、タクヤの目の前にあるプレイヤーが現れた。

 

「!!?…君は…!!」

 

 タクヤ「…お、お前はもしかして…!!」

 

 そこには思いがけなかった再会が待っていた。

 

 

 

 

 




どうだったでしょうか?
タクヤが再会した人物とは一体誰なのか…。
それは次の話で明らかになります。


では、また次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。