ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で18話に突入です。
SAO編は後2か3話ぐらいで完結いたします。
その後には後日談を踏まえてALO編に入りたいと思いますのでよろしくお願いします。

では、どうぞ!


【18】自分の進んだ道

 2024年08月15日 11時00分 第72層 転移門前

 

 40層のフローリアから72層に転移して来たオレ達スリーピング・ナイツは目の前の光景に呆気に取られていた。

 

 タクヤ「なんだこりゃ…」

 

 そこには有に100人以上ものプレイヤーで埋め尽くされていた。

 ちらほら攻略組の面々が見えるが半数以上は中層からやって来たであろうプレイヤーだ。

 

「あっ!拳闘士(グラディエーター)が来たぞ!!」

 

 プレイヤーの1人がオレを見つけるや否やそこにいたプレイヤー全員が歓喜の声を上げてくる。

 何がどうなっているのかわからない所にアスナとキリトが人混みの中から現れた。

 

 ユウキ「な、なんなの?この人達…」

 

 アスナ「ごめんねみんな!!

 ウチのダイゼンさんがこんな事しちゃって…」

 

 シウネー「こんな事とは?」

 

 アスナ「ダイゼンさんっていう人がウチにいてね…その人血盟騎士団の経理を担当してるんだけど、今日タクヤ君と団長が決闘(デュエル)するって聞いた途端アインクラッド中に伝達させて商売を始めちゃったの…」

 

 頭の働きが早いなとか感心してしまったが、すぐさまそんな考えは頭から捨て去る。

 なんでも利用出来るものは利用するとはまさしくこの事だな。

 

 キリト「ざっと見ても結構な売上だよな…」

 

 ノリ「てか、こんな時までお金儲けとかしなくていいだろーが!!」

 

 テッチ「こんな中でタクヤは決闘(デュエル)するのかぁ…」

 

 ジュン「すげー!!僕もやりたーい!!」

 

 タクヤ「…」

 

 ユウキ「…大丈夫?」

 

 大丈夫かと聞かれるとそうでもない。

 大体、ヒースクリフも止めるべきではないのか。

 ただでさえ今からボス戦だというのに緊張感のカケラもあったもんじゃない。

 だが、やらなければこの群衆も納得しないだろう。

 金まで支払ってこんな最前線まで足を運んでいるのだから。

 

 タクヤ「ま、まぁ…なんとか…な」

 

 ユウキ「全然大丈夫そうじゃないんだけど…」

 

 アスナ「本当にごめんね!ダイゼンさんが勝手に先走ちゃって…」

 

 タクヤ「やっちまったもんは仕方ねぇけど…ソイツには十分注意しといてくれよな」

 

 とりあえず人混みを掻き分けながらヒースクリフを探す。

 すると、1箇所だけ人が集まっていない所に出た。

 そこには王者の風格とでも言わんばかりにヒースクリフが堂々と立っていた。

 

 ヒースクリフ「やぁ…来たね。タクヤ君…」

 

 タクヤ「あぁ。アンタん所の人のせいでめちゃくちゃ疲れちまったけどな…」

 

 ヒースクリフ「こればかりは弁解の余地がないな。

 だが、汚名を晴らすなら大勢の人達の前で君の力を見せつけるという点では理にかなってると思うが?」

 

 タクヤ「…やっぱアンタの事嫌いだ」

 

 ヒースクリフ「私は君の事は気にかけているのだがね…」

 

 互いに腹の中は見せないといった具合にこれ以上の会話は無駄だと判断する。

 オレ達は分かり合えないのだから。

 

 タクヤ「…じゃあ、早速やるか。

 この後ボス戦も控えてるからな…」

 

 ヒースクリフ「あぁ。そうだね…。やろうか」

 

 ヒースクリフは盾から長剣を取り出し、戦闘態勢に入る。

 以前、ヒースクリフの戦闘を間近で見たが、あまりにも完璧すぎて正直勝てる要素がまったくない。

 だが、だからと言って負けるつもりも毛頭ない。

 

 タクヤ「…修羅スキル発動…!!」

 

 修羅スキルを発動させ、シュラへと人格を交代する。

 

 シュラ「…はっはぁ!!よぉ…クソ団長殿…!!

 さぁやろうぜ!!ぶっ潰してやるからよォ!!!!」

 

 ヒースクリフ「私も簡単に勝ちを譲る気は無いよ…」

 

 決闘(デュエル)申請を済ませ、10カウントが刻み始める。

 2人の間に緊張が走る。

 オレの体といっても今動かしているのはシュラだ。

 そんなオレでも緊張が伝わってくる。

 アイツに果たしてシュラが通用するのかどうかも分からない。

 本当の意味でこの決闘(デュエル)から目が離せない。

 

 

 3…2…1…0

 

 

 シュラ「ふっ」

 

 ヒースクリフ「ふんっ」

 

 カウントが終わった瞬間、シュラの拳とヒースクリフの剣が激突する。

 シュラも初めから全力のようだ。

 今まで見た事ないような真剣な顔をしている。

 シュラは間髪入れずラッシュでヒースクリフを押す。

 ヒースクリフもこのラッシュには迂闊に飛び出さず、盾で丁寧にいなしていく。

 

 シュラ「オラオラオラぁ!!!!どうしたよ団長殿ぉ!!!!」

 

 シュラはさらに回転を上げて拳の雨を浴びせるが、それでもヒースクリフは顔色1つ変えない。

 

 ヒースクリフ「早いな…。だが…」

 

 ヒースクリフは後ろへステップしてシュラとの距離を取った。

 瞬間、ヒースクリフは盾をかまえシュラに突進する。

 後ろへステップして突進するまでほんの1秒足らずでシュラも流石に対応出来ず、直撃を受けてしまった。

 

 シュラ「がっ」

 

 ヒースクリフ「はぁっ!!」

 

 長剣がシュラの肩を貫かんとするが、辛うじてそれを避けると左側ががら空きなのを確認して闘拳スキル"昇天突き”を発動した。

 オレもこの攻撃は当たると確信していたが、右の盾でそれを阻んだ。

 

 タクヤ『これを捌くのかっ!!?』

 

 シュラ「クソッタレが!!」

 

 ヒースクリフは一旦距離を取ってこちらの出方をうかがう。

 

 ヒースクリフ「いやぁ、なかなか油断できないな。

 これが修羅スキルなのか。…なるほど」

 

 シュラ「ゴチャゴチャッるせぇんだよ!!」

 

 シュラは闘拳スキル"双竜拳”をヒースクリフに放った。

 だが、やはりヒースクリフは盾で防ぎ、致命傷を避けている。

 

 シュラ「かてぇな…カタツムリかよテメェは…!!」

 

 シュラがまるで子供のようにあしらわれている。

 これが噂に名高いヒースクリフの()()()()()()()"()()()”の実力か…。

 恐ろしい程の防御力だ。何度やっても勝てる見込みが皆無だ。

 

 ヒースクリフ「次はこちらから行かせてもらうぞ…」

 

 タクヤ&シュラ「「!!」」

 

 またしても盾の背後に隠れての突進攻撃に出る。

 スピードだけで言うならシュラの方が数段上だ。

 だが、ヒースクリフはそんな事は百も承知だと言わんばかりに突撃をかけた。

 案の定シュラはその攻撃を避ける。

 瞬間盾の死角から長剣が最短距離を通ってシュラに突き刺さる。

 

 シュラ「なっ!?」

 

 シュラも何が起きているか分からずにいた。

 だが、傍から間近で見ていたオレには辛うじて分かる。

 盾でシュラの視界を塞ぎ、死角となった場所からの突き攻撃を繰り出していたのだ。

 HPが数ドットしか減らせない攻撃だが、シュラの顔は苦渋を飲んだ顔に変わる。

 

 シュラ「この…!!」

 

 シュラは闘拳スキル"兜割り”を繰り出し、ヒースクリフの頭上をつくが盾で難なく防がれてしまった。

 

 ヒースクリフ「君の力はそんなものか?」

 

 シュラ「調子に乗ってんじゃねぇっ!!!!」

 

 闘拳スキル"疾風突き”で高速ラッシュをヒースクリフに繰り出した。

 ヒースクリフも盾の影に隠れて防御する。

 それでもシュラのラッシュは止まる事を知らず、さらに回転数を上げて迎え立つ。

 

 シュラ「落ちろ落ちろ落ちろぉぉぉっ!!!!」

 

 タクヤ『焦りすぎだっ!!それじゃ隙を突かれちまうぞ!!』

 

 シュラ「黙ってろ!!コイツはオレの獲物だ!!!!」

 

 どれだけ突いてもヒースクリフの"神聖剣”の防御力の前では全てが無に帰す。

 怒りにとらわれたシュラは最後の突きが大ぶりになってしまった。

 ヒースクリフはそれを見逃さない。

 カウンターに長剣の鋭い突きがシュラの右肩へと深く突き刺さった。

 

 シュラ「がっ」

 

 ヒースクリフ「…ここまでのようだね」

 

 その攻撃でシュラのHPはイエローに達し、決闘(デュエル)はヒースクリフの勝利で終了した。

 

 シュラ「まだだ!!オレはまだやれるぞ!!ぶっ殺してやる!!」

 

 ヒースクリフ「君の実力は充分に分かったよ…。

 なかなか見所がある。

 次、やればどちらが立っているか分からないだろう」

 

 シュラ「そんな事ァどうだっていいんだよっ!!

 今テメェをぶっ殺してやる!!」

 

 タクヤ『やめろ!!くそっ!!こうなったら…』

 

 オレは無理矢理自分の体の主導権を奪い、シュラを心の中へと追いやった。

 

 シュラ『テメェ!!邪魔すんじゃねぇよ!!』

 

 タクヤ「落ち着けって言ってんだろうが!!オレ達は負けたんだ!!

 それを受け入れろ!!」

 

 シュラ『決闘(デュエル)なんてつまらねぇ遊びなんかじゃ戦う意味なんてねぇよ!!オレの腹の虫が治まんねぇ!!』

 

 シュラは無理矢理オレの体の主導権を奪おうとするが、オレはそれを必死に止める。

 こいつの今の精神状態じゃマジでヒースクリフを殺しかねない。

 何としてでも止めねばならない。

 

 タクヤ「みんな…!!オレの体を止めてくれ!!」

 

 キリト「わ、わかった!!」

 

 ジュン「テッチ!!タルケン!!僕達も行くぞ!!」

 

 テッチ&タルケン「「おう!!!」」

 

 4人はオレをうつ伏せに倒し、上にのしかかる。

 だが、シュラはそんなのお構い無しに暴れていた。

 

 キリト「止まれ!!シュラ!!」

 

 ジュン「なんて力だ!!こっちは4人がかりなのに…!!」

 

 テッチ「前より力が増してる…!?」

 

 タルケン「…誰か!!手を貸してください!!」

 

 タルケンの呼び声にそこに居合わせたクラインとエギルもシュラを止めに入る。

 シュラも流石に振り切れずしばらくして修羅スキルは発動を停止した。

 

 タクヤ「…治まった…か。ありがとうみんな」

 

 エギル「ったく…なんて力だ。これが噂の修羅スキルか…」

 

 クライン「ふはぁぁぁ…!!

 止めてるだけでこんなに疲れるもんなのかァ!!?」

 

 改めて修羅スキルの凶暴性に驚く。

 オレの一部になったとは言え、シュラ自身はまだ殺戮衝動が残っているのだろうか。

 だが、逆に言えばオレにもそれがあるという事だ。

 アイツはオレの負の感情を代弁しているもう1人のオレなのだからだ。

 

「なんだよ…あれ…」

 

 タクヤ「!!」

 

「あんな凶暴な奴が攻略組なのかよ…」

 

「あれじゃまるで鬼じゃねぇか…」

 

 不味かったな。

 シュラを止める事で頭がいっぱいだったが、周りには攻略組を始め、一般プレイヤーも多くいる。

 公衆の面前でこんな姿を晒してしまったらオレに対する悪意が増すばかりだ。

 

 キリト「ち、違うんだ!!これは…!!」

 

「ビーターがかばってるぞ…。

 やっぱり、アイツもそういう奴だって事か…。」

 

 キリト「!!」

 

 クライン「誰だ!!今言った奴は!!出てきやがれ!!」

 

 もちろんそんな事を言ってノコノコと出て来る者などどこにもいない。

 

 クライン「キリトとタクヤを悪く言う奴はオレが許さねぇ!!

 オレが叩き斬ってやる!!」

 

 タクヤ「よせクライン!!」

 

 クライン「タクヤ…!!だがよォ…」

 

 キリト「オレもタクヤもその気持ちだけで胸いっぱいだ。

 ありがとう…」

 

 クラインもこの場の状況がわかっている為、これ以上は何も言わなかった。

 ただ事態が悪化するだけだからだ。

 だが、オレのせいでキリトにまで迷惑がかかってしまった。

 

 タクヤ「キリトも悪いな…。オレのせいで…」

 

 キリト「そんな事はない…!!

 オレがビーターなのはタクヤのせいじゃ…」

 

 タクヤ「でも、ごめんな…」

 

 キリト「…」

 

 タクヤ「ヒースクリフも悪かった。

 シュラは頭に血が上るとすぐに暴れちまうから…」

 

 ヒースクリフ「私にも謝る必要は無いよ…。

 私こそまさか、こんな事になるとは想定していなかった。

 軽率…だったな。すまない…」

 

 ヒースクリフが頭を下げたのを見て、オレは胸に穴が空いたような気がした。

 仮にも攻略組のトップに立つ者の取る行動ではない。

 

 タクヤ「頭をあげてくれ…。なっちまったもんは仕方ねぇ…」

 

 ヒースクリフ「…そう言ってくれると助かる」

 

 ユウキ「タクヤー!!大丈夫!!?」

 

 人混みを掻き分けてユウキがオレの元へとやって来た。

 あの場にユウキがいれば間違いなく暴れてたのでそれだけは良かったと思う。

 

 タクヤ「あぁ、大丈夫大丈夫!それよりどこ行ってたんだよ?」

 

 ユウキ「えっと、アスナがギルマスを集めて作戦を再確認してたんだよ。って、そんな事より!勝ったの?」

 

 タクヤ「いや、手も足も出なかったわ!

 やっぱりヒースクリフは強ぇよ!」

 

 ユウキ「…そっか。残念だったね…。でも、次は勝てるよ!!」

 

 タクヤ「…そうだな」

 

 観客も次第に減っていき、転移門前には攻略組のみ残されていた。

 その内の何名かはオレに疑惑の目を向けている。

 

 ヒースクリフ「今日はよく集まってくれた。これより72層のボス戦を開始する。

 この回廊結晶(コリドー)はボス部屋の前にセットしてある為、もし、参加出来ない者はこの場で辞退してくれ…」

 

 だが、誰もその場から動こうとはしなかった。

 今ここにいるプレイヤーは数多の歴戦を退いてきた言わば真の攻略組だ。

 いかなる事が起ころうとも攻略組である誇りは誰にも汚させない。

 

 ヒースクリフ「…では行こう。コリドーオープン!」

 

 回廊結晶が強く輝きだし、目の前にワープホールが現れる。

 ヒースクリフを筆頭に次々とワープホールの中へと進んでいき、残すはスリーピング・ナイツだけとなった。

 

 ユウキ「いよいよだね…。みんな!!今日も頑張ろー!!」

 

 スリーピング・ナイツ「「「おぉぉぉっ!!!!」」」

 

 そして、オレ達はワープホールへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2024年08月15日 12時00分 第72層 迷宮区 ボス部屋前

 

 ヒースクリフ「行くぞ!!解放の日の為に!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」

 

 ボス部屋の扉が勢いよく開けられ、流れるように攻略組が中へと入っていった。

 初めて入った時と一緒でスカイバンデットは頭上から現れた。

 

 アスナ「作戦通りタンク隊出てください!!」

 

 アスナの指示が飛び、シュミット率いるタンク隊が竜巻攻撃に備える。

 スカイバンデットも通常通り竜巻攻撃を繰り出す。

 

 アスナ「今の内に背後に回り込んで!!…次来るわよ!!」

 

 タクヤ「行くぞテッチ!!ジュン!!」

 

 ジュン&テッチ「「おぉっ!!」」

 

 2度目の竜巻攻撃をオレ達を含めた15人で防ぎ、オレがテッチの背中を借りてスカイバンデットのいる場所まで飛ぶ。

 

 タクヤ「よぉ…!!案外小せぇんだな!!」

 

 オレは羽に捕まりスカイバンデットへと降り立った。

 スカイバンデットもオレを落とそうと縦横無尽に飛び回る。

 

 タクヤ「暴れんじゃねぇ…!!」

 

 オレは闘拳スキル"兜割り”でスカイバンデットの頭蓋に叩きつけた。

 荒々しい雄叫び声を上げながら落下する。

 落下地点にはキリトやヒースクリフといったダメージディーラー達が待ち構えていた。

 

 キリト「ナイスだタクヤ!!」

 

 タクヤ「まだまだぁ…!!」

 

 オレは落下するスカイバンデットから飛び退き、修羅スキルを発動させる。

 

 シュラ「んあ?テメェいきなり出してんじゃねぇよ!!」

 

 タクヤ『お前こそボス戦だっていうのに寝てんじゃねぇよ!!

 それとも拗ねてたのか?』

 

 シュラ「お前ェ!!いつか必ずぶっ殺してやる!!」

 

 タクヤ『後でいくらでも相手してやっから今はコイツを倒すんだ!!』

 

 シュラ「言われなくてもわかってんだよっ!!」

 

 シュラと入れ替わり、闘拳スキル"双竜拳”を発動。

 落下していくスカイバンデットにダメ押しに1発放った。

 そのせいで落下するスピードが上がり、部屋中に土煙が舞う。

 だが、彼らならこの土煙はなんの支障も受けない。

 所構わずに剣撃を浴びせていった。

 HPバーの1本が消滅し、パターンが変わるのを見計らって全員が一時退避する。

 シュラもスカイバンデットから離れて様子を伺う。

 

 ユウキ「大丈夫?タクヤ…じゃなくてシュラ!!」

 

 シュラ「あ?大丈夫に決まってんだろォが…クソチビ。

 オレ様を誰だと思ってんだよ?」

 

 キリト「相変わらず口が悪いな。お前は…」

 

 シュラ「おうおう!黒の剣士様も随分と丸くなったじゃねぇかよ!閃光様とよろしくやってるからじゃねぇのか?」

 

 キリト「なっ!?別にアスナとは何も無い!!

 変な詮索するな!!」

 

 アスナ「…」

 

 キリト(「げっ…。なんか地雷踏んだ気がする…」)

 

 エギル「お前ら!!喋ってないで集中しろっ!!」

 

 エギルからの叱責で我に返ったシュラ達は再度気合いを入れ直し、スカイバンデットに攻撃を仕掛ける。

 

 シュラ「ひゃっはぁぁぁっ!!」

 

 タクヤ『おま…作戦があるんだからそれに従えよ!!』

 

 シュラ「うるせぇってんだよ!!オレはオレで勝手にやるぁ!!」

 

 瞬く間に距離をつめたシュラはスカイバンデットの羽を闘拳スキル"疾風突き”で風穴を開けた。

 スカイバンデットの奇声を上げたのと同時に竜巻攻撃を仕掛ける。

 だが、羽にダメージがある為か先程より威力が落ちている。

 その証拠にタンク隊は半数しか割いていない。

 

 クライン「ナイス!!タクヤ!!」

 

 シュラ「タクヤじゃねぇっ!!シュラだ!!」

 

 クライン「えぇ…」

 

 ヒースクリフ「羽に弱点(ウィークポイント)が設定されているのか…。なら、攻めない訳にもいかないな…!!」

 

 ヒースクリフも羽に向かって長剣を突きつける。

 スカイバンデットはそれを上空へ逃げる事で回避した。

 

 ユウキ「あぁ!!また空に逃げた!!」

 

 アスナ「みんな!注意して!!パターンが変わるわよ!!」

 

 案の定、スカイバンデットは滑空しながら噛みつき攻撃へと躍り出た。

 すかさずタンク隊が防御するが何人かは間に合わず攻撃を食らってしまった。

 

 ユウキ「よーし…!!テッチ!!ボクも背中使うよっ!!」

 

 テッチ「了解!!」

 

 ユウキ「ほら!!シュラも行くよ!!ついてきて!!」

 

 シュラ「オレに命令すんな!!クソチビ!!」

 

 ユウキ「チビじゃないもん!!

 タクヤだったらそんな事言わないよ!!」

 

 シュラ「知るかっ!!」

 

 喧嘩していながらもユウキとシュラはテッチの背中を使って、敏捷力を最大限に活かし、スカイバンデットの上を取った。

 

 シュラ「このコウモリ落としてやっから!!

 テメェらせいぜい死なねぇように避難してるんだなぁっ!!!!」

 

 ユウキ「だから!そんな言葉遣いタクヤの体でしないでよっ!!」

 

 シュラは闘拳スキル"兜割り”をユウキは片手用直剣スキル"メテオ・ブレイク”をスカイバンデットの頭上から放つ。

 あまりの威力にスカイバンデットのHPもイエローまで落ちていった。

 地上へ叩きつけられたスカイバンデットに一時的行動不能(スタン)が発生している。

 キリトが見逃す事なく、全員でのフルアタックに入った。

 HPがレッドに差し掛かったぐらいで一時的行動不能(スタン)は無くなり、スカイバンデットが怒りに任せて暴れ始めた。

 

 ヒースクリフ「全員!!退避だ!!」

 

 スカイバンデットは所構わずに攻撃しているせいでタンク隊が防御に徹し、他のプレイヤーも攻撃できないでいる。

 

 シュラ「ちっ!好き放題暴れやがりやがって!!」

 

 アスナ「落ち着いて!!攻撃が止むまで待つのよ!!」

 

「うわぁぁぁぁっ!!」

 

 スカイバンデットの攻撃が運悪く1人のプレイヤーを直撃した。

 そのプレイヤーとは先日の攻略会議の時に、オレを執拗に陥れようとした男だった。

 男のHPがイエローにまで落ちてしまっている。

 

 キリト「そこのお前!!早く退いて回復するんだ!!」

 

「あ…あぁ…」

 

 タクヤ『足がすくんでやがる…!!』

 

 シュラ「あんなのほっとけよ。弱いヤツは淘汰される…。

 それがここの掟だ」

 

 弱い者は強い者に淘汰される…といった自然界、人間界に於いて限りなく真実に近いのだろう。

 そして、今襲われているのはオレを陥れようとした男だ。

 シュラもその事を知っている為、助けに行こうとはしない。

 他のプレイヤーも自分の事で手一杯だ。

 助けに行く余裕なんてない。

 そう…()()()()()…。

 

 タクヤ『代われっ!!』

 

 シュラ「のわっ!?」

 

 オレは修羅スキルを解除して敏捷力を極限まで高め、駆ける。

 スカイバンデットと男の距離が徐々に近づく。

 鋭い牙をチラつかせながら男に恐怖心を抱かせた。

 

「うわぁぁぁぁっ!!!!」

 

 男の叫び声と同時にスカイバンデットの牙が獲物を捕らえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかァァァァっ!!!!」

 

 鈍い残響音が部屋中に響き渡る。

 オレは瞬時に装備した盾を身代わりにスカイバンデットの牙を受け止めた。

 

「あ…あぁ…?」

 

 タクヤ「さっさと逃げろっ!!!!いつまでももたねぇぞ!!!!」

 

 男は我に返ったのかその場を離脱する。

 それを確認してから目の前のスカイバンデットを睨んだ。

 

 タクヤ「いつまで噛み付いてんだよ…!!」

 

 スカイバンデットはなかなかオレの左腕を離そうとはしない。

 HPもみるみる減少していき、イエローにまで落ちてきている。

 

 タクヤ「くそっ!!離しやがれ!!!!」

 

 ユウキ「タクヤ!!」

 

 ユウキがオレの元に駆けつけようとした瞬間、無数の竜巻が攻略組に襲いかかった。

 

 ヒースクリフ「タンク隊!!全員を1箇所に集めて防御だ!!」

 

 エギル「お、おい!!タクヤが…!!」

 

 ユウキ「タクヤ!!」

 

 ヒースクリフ「行ってはならん!!

 この状況じゃ君が死んでしまうぞ!!」

 

 竜巻はみるみる大きくなり、オレとスカイバンデットを囲むかの様に形を変えていった。

 

 キリト「くっ…!!剣じゃビクともしない…!!」

 

 アスナ「キリト君!!一旦さがって!!」

 

 クライン「クソォ!!これじゃタクヤを助けに行けねぇ!!」

 

 竜巻の影響でほとんど雑音しか聞こえてこないがみんなは無事のようだ。

 後は、スカイバンデットをオレがどうにかするしかない。

 だが、スカイバンデットは相変わらずオレの腕を噛み付いたままだ。

 この状態じゃどうする事も出来ない。

 

 シュラ『…大変な目にあってんな』

 

 タクヤ「悪ィけど…今、呑気に会話してる場合じゃないんだ…!!

 話なら後でしてくれ…!!」

 

 全力で腕から引き剥がそうとするが強靭な牙がそれを邪魔する。

 

 シュラ『お前がアソコでアイツを助けに行かなければこんな状況にはならなかった。お前はアイツを助けて何を得た?

 何も得てないだろう?

 自分は今この瞬間にどんどん死に近づいてるんだからよぉ…』

 

 タクヤ「…」

 

 シュラ『自分の事より他人の命の方が大事なのか?違うな…。

 お前はそうやって自分の価値を周りに見せつけているだけだ…』

 

 タクヤ「…今日はいつもより話しかけてくるじゃねぇか。

 構ってほしいのかよ?」

 

 シュラ『オレには理解出来ねぇ…。

 そこまでしてお前は何を望んでいるんだ…?』

 

 スカイバンデットは腕を離す素振りなどこれっぽっちも見せない。

 HPも最早レッドに突入した。

 いよいよ、終わりの時が近づいてきたのが分かる。

 

 タクヤ「…お前は知ってるだろ?

 オレの両親が殺されてるのを…。それからかな…。

 オレは傷つけようとする奴らを片っ端から潰して来た。

 どんな事があっても傷つけていい理由なんてない…!

 ましてや、殺していい理由なんてどこにもない…!!」

 

 シュラ『だが、その反面…お前は怒りや憎しみを心の奥底に貯めていった。

 その集合体がこの世界で自我を持ち生まれたのがオレだ…。

 お前は前に言ったな…?

 オレがお前の負の感情を代弁している…って。

 それは少し違うな…。

 オレは元々あったものを吐き出しているにすぎねぇ…。

 お前の中の泥を掬い上げてるだけだ…。

 その証拠にお前は自分の意思で人を殺した。

 守りたい奴らの為に殺した…。

 さっき言ってた事と真逆だな…』

 

 タクヤ「…確かに、オレは綺麗事ばっかりで約束すら守れないクズだ。偽善者だ。

 …オレがどれだけ頑張ろうが関係ねぇ。

 周りの態度が変わるわけでもねぇ。

 でも、だからどうした?

 オレは周りからなんて思われようがどうだっていいんだよ…!!

 ただ、オレの手の届く範囲だけは何がなんでも奪わせねぇ…!!

 絶対ェにオレが救ってみせる!!!!」

 

 瞬間、オレは右腕で左腕を切り落とした。

 HPバーの下に部位欠損アイコンが出ているがそんな事はどうでもいい。

 ポーションを素早く飲み、右腕に闘拳スキル"双竜拳”を繰り出す。

 スカイバンデットの顔面を捉えた右拳を思い切り振り切った。

 竜巻の壁を破壊し、壁へと激突する。

 その影響で竜巻は止み、障壁も消え去った。

 

 タクヤ「…修羅スキル…解放…!!」

 

 オレの全身から赤黒いエフェクトが立ち込め、半径5m程エフェクトに満ちていた。

 

 シュラ『…()()をやるのか?』

 

 タクヤ「あぁ…やる…!!」

 

 ユウキ「タクヤ!!無事…!!」

 

 ユウキの声が聞こえた気がしたが、オレは構わず右腕に立ち込めているエフェクトを集中させた。

 地響きと共にエフェクトは形を変え、禍々しい拳へと作られていく。

 

 キリト「な、なんだ…あれは…!!」

 

 ヒースクリフ「…!!」

 

 ユウキ「すごい…」

 

 タクヤ「行くぞ…!!」

 

 シュラ『おう!!』

 

 オレは全速力でスカイバンデット目掛けて地を蹴った。

 スカイバンデットもオレに対抗すべく空へと上がり、急降下しながらオレに突撃してくる。

 

 タクヤ&シュラ「「うぉぉぉぉっ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修羅スキル奥義"孤軍奮闘”

 

 

 目にも留まらぬ神速に重ねて何者も寄せ付けない圧倒的な破壊力を右拳に集中させ、貫通力までも兼ね備えた修羅スキルの奥義である。

 スカイバンデットの体は縦に真っ二つに裂け、ポリゴンとなって弾け飛んだ。

 

 

 Congratulation

 

 

 キリト「倒した…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」

 

 ボスを倒した喜びと達成感で攻略組は雄叫びを上げた。

 今回も死者を1人も出さずに終わる事が出来た安心感でオレはその場に座り込んだ。

 

 ユウキ「タクヤ!!腕が…」

 

 タクヤ「大丈夫大丈夫…。しばらくしたら治るから。

 今回もやったな!お疲れ様!」

 

 ユウキ「ボクはほとんど何もしてないよ…。

 タクヤこそお疲れ様!カッコよかったよ!!」

 

 ユウキの笑顔はどんなに疲れていても元気を貰える。

 オレはこれだけあれば充分だ。

 

 アスナ「お疲れ様2人共!タクヤ君大丈夫?」

 

 キリト「最後何が起きたのか分からなかったよ。

 お前はどれだけ強くなれば気が済むんだ?」

 

 タクヤ「…誰にも負けなくなるまで…かな?」

 

 キリトも失笑していたがオレも内心そんな事を考えている訳ではない。

 オレの手の届く範囲で守れる力があればそれでいい。

 

 エギル「Congratulation!!やったな!!」

 

 クライン「すごかったぜ!!最後のスキル!!」

 

 タクヤ「みんなもお疲れ。タンクってやっぱキツイな…」

 

 エギル「ほとんどシュラが勝手にやってたみたいだがな」

 

 オレはその場に立ち上がり、先程助けた男を心配して探してみたら他の仲間と喜びを分かちあっていた。

 

 タクヤ(「無事みたいだな…。よかった…」)

 

 オレの視線に気付いたのか男がゆっくりとオレに近付いてくる。

 

「…さっきはありがとう。助かった…」

 

 タクヤ「お、おう…」

 

 それだけを言い残し、男は仲間達の所へと引き返して行った。

 

 クライン「なんだよ!!もうちょっという事ぐれぇあるぉに…!!」

 

 タクヤ「別にイイじゃねぇか…。

 礼を言ってきただけでも嬉しいよ」

 

 オレ達が話していると別の所からヒースクリフが現れた。

 

 ヒースクリフ「おめでとうタクヤ君。

 君がいなければボスは倒せなかっただろう」

 

 タクヤ「大袈裟だよ…。

 オレがいなくてもアンタならもっと楽に勝てたんじゃないか?」

 

 ヒースクリフ「それこそ大袈裟だというものだ…。

 私の力などたかが知れてる」

 

 タクヤ「よく言うぜ…。シュラに勝っておきながら」

 

 ヒースクリフ「フッ…。では、私はこれで失礼するよ」

 

 マントを翻しながらヒースクリフは血盟騎士団を連れて73層に通じる螺旋階段を上がって行った。

 

 タクヤ「みんなもお疲れ!ナイスファイトだったぜ!」

 

 ジュン「それほどでもあるけどさー…って!?」

 

 ノリ「調子に乗るな!」

 

 テッチ「いやぁ…やっぱりボス戦は緊張したなぁ…」

 

 シウネー「その割には落ち着いていましたよ?テッチ」

 

 タルケン「さぁ!ワタクシ達も早く帰りましょう。

 アクティベートは血盟騎士団の方で済ませるみたいですし」

 

 ユウキ「そうだね!そうと決まれば早速帰るよー!!

 家に帰り着くまでがボス戦だからねー!!」

 

 タクヤ「遠足じゃあるまいし…ってすみません何でもないです…」

 

 ユウキのジト目を見てしまった日には後で何されるか分からないので逆らう事をやめる。

 

 キリト「じゃあなみんな。今日はお疲れ」

 

 クライン「またな!」

 

 エギル「今日は互いにゆっくり休むとしよう…」

 

 オレ達は各々自分のホームへと帰っていく。

 オレも帰ろうと足を進めようとするが、つまづいてしまった。

 

 タクヤ「あ、あれ?」

 

 ユウキ「大丈夫?」

 

 タクヤ「大丈夫だって。これくらい…」

 

 だが、足はオレの言葉とは裏腹に全く動こうとしない。

 

 シュラ『最後の奥義の反動が今更来たか…』

 

 タクヤ「どういう事だ?」

 

 シュラ『…お前のHPバーをよく見るんだな』

 

 オレはシュラに言われた通りHPバーに目を移してみるとHPは後1ドットしか残っておらず麻痺状態になっていた。

 

 ユウキ「タクヤ!!どうしたのそれ!!」

 

 タクヤ「な、なんでこんな事に…?」

 

 シュラ『"孤軍奮闘”は一撃必殺の奥義だが、そのリスクとして使用すれば一時的に状態異常になっちまうんだよ。

 麻痺でよかったな。毒だったら今頃あの世に行ってたぜ』

 

 タクヤ「な、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 全く知らなかった。あの奥義にこんなリスクがあるなんて。

 

 タクヤ「それなら最初っから教えてくれてもいいだろぉが!!!!」

 

 シュラ『聞かれてねぇし。

 あの時はそんなの考えてる余裕なんかなかったんでな。

 あっ、後それ…アイテムじゃ回復しねぇから自然治癒するの待つんだな。オレは寝る…』

 

 なんて勝手な奴であろうか。

 これがもう1人のオレだなんて思いたくない。

 仕方ないのでしばらくこの場にいる事にして、みんなには先に帰ってもらおうとした時、ユウキが右腕で掴み肩に回して来る。

 

 タクヤ「ユウキ?」

 

 ユウキ「一緒に帰ろ?ボク達恋人同士でしょ?

 帰る時も一緒だよっ!」

 

 タクヤ「…あぁぁぁっ!!可愛いなお前はっ!!」

 

 ユウキ「ふえっ!!?そ、そうかな…?」

 

 タクヤ「ありがとよ…!じゃあ、少しの間頼んだ」

 

 ユウキ「まかせて!タクヤはボクがずっと支えるからね!!」

 

 オレはユウキに担がれながらボス部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 残り…27層…

 

 

 




という事でここら辺で終了です。
驚いてはにかむユウキも可愛いなとか考えながら最後書いちゃいました。

では、また次回!

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