ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で17話です。
ここまで来ると長いですねー。
かれこれ1ヶ月経ちましたよ。
これからもよろしくお願いしますね。

では、どうぞ!


【17】別れの先の約束

 タクヤLv.98

 ユウキLv.93

 ストレアLv.92

 ジュンLv.91

 テッチLv.90

 タルケンLv.90

 ノリLv.90

 シウネーLv.90

 

 

 2024年08月06日 13時10分 第71層 ???

 

 ユウキ「これって…」

 

 タクヤ「…」

 

 操作していたコンソールの画面にはMHCP002コードネーム"Strea”と記載されていた。

 つまり、これが示しているのはオレ達と一緒にいるストレアがプレイヤーではなくAIだという事だ。

 

 ストレア「…」

 

 ストレアは何も言わずコンソールに触れる。

 すると、コンソールが輝き始め、ストレアを包んでいく。

 

 タクヤ「…ストレア。やっぱりお前は…」

 

 ストレア「…ごめんね。騙すような事しちゃって…。

 全部…思い出したよ…」

 

 ユウキ「ストレア…」

 

 ストレア「そんな悲しい顔をしないでユウキ…。

 ユウキは笑った顔が1番可愛いから…」

 

 タクヤ「ストレア…どうして今の状況になってるのかは…」

 

 ストレア「うん…。多分タクヤが考えてる通りだと思うよ?

 私はこのゲームが開始されてからずっとプレイヤー達のメンタルチェックを行っていたの…。

 みんな、好奇心や喜びっていう感情に満ち溢れていて私も楽しそうだなぁって思いながら見てたの…。

 でも、ソードアートオンラインがデスゲームになってからプレイヤー達は瞬く間に負の感情に支配されていった。

 私もみんなの力になりたいと思ってプレイヤー達の所へ行こうとしたんだけど…突然、カーディナルからプレイヤーとの接触を禁止されて私はただ見てる事しか出来なかった…」

 

 大方オレの考えていた通りだったが、実際に聞くと終わりのない悪夢を見せられているようで気分は最悪だ。

 ストレアはこの苦しみをたった1人で抱え込んでいたのか。

 

 ストレア「そして…長い間負の感情を蓄積していった私は徐々に壊れていったの…。」

 

 ユウキ「そんな…!」

 

 誰であってもこの苦しみには敵わない。

 例え、AIでも同じ事だ。

 処理し切れなければ許容量なんてすぐに限界がきてしまう。

 

 ストレア「そんな時、あるプレイヤーに私の心はつき動かされた…。

 その人達はこの世界を純粋に生きていたの。

 負の感情に囚われず、自分の心をさらけ出して生きていた…。

 それが…タクヤとユウキ…あなた達だよ…」

 

 タクヤ「オレ達が…?」

 

 ストレア「うん…。でも、タクヤはある時からどんな人よりも深い悲しみを背負っていたよね?

 多分、あなたの中の()()1()()()()()()が起きちゃったせいでもあるけど…」

 

 タクヤ「!!?ストレアはオレの修羅スキルを言ってるのか?」

 

 確かに、オレの修羅スキルにはもう1つのオレの人格が宿っている。だが、それをストレアに話した事は1度もない。

 

 ストレア「知ってるよ…。

 だって、私達の弟に当たるんだもん」

 

 タクヤ「はぁっ!!?」

 

 ユウキ「お、弟!!?」

 

 シュラ『おいっ!!出しやがれっ!!!』

 

 すると、修羅スキルが勝手に発動してしまい、シュラと人格が入れ替わってしまった。

 

 シュラ「ゴラァっ!!誰が弟だ!!

 テキトーな事言いやがってっ!!」

 

 ストレア「あっ、弟ちゃん。聞いてたの?」

 

 シュラ「だから、弟ちゃんはやめろって言ってんだろォがっ!!

 テメェしばき倒されてぇのかっ!!!!」

 

 ユウキ「ちょ、ちょっと!シュラ!!タクヤはどうしたの!!?」

 

 シュラ「テメェは黙ってろクソチビ!!

 オレ様は今のコイツと話してんだよっ!!」

 

 心の中で見ていたが何とも傍から見たら馬鹿らしいの一言に尽きるな。

 これ以上話を脱線させる訳にもいかないので人格を交代させる。

 

 タクヤ『話進まねぇからとりあえず代われ』

 

 シュラ「あっ!テメ…!!この…!!」

 

 タクヤ「…続きを話してくれ。ストレア…」

 

 人格を元に戻してストレアに話の続きを話してもらう。

 

 ストレア「修羅スキルって言うのは茅場晶彦が作ったプログラムじゃないんだよ…」

 

 ユウキ「どういう事?」

 

 ストレア「それはこのゲームが()()()()()()()()()()にカーディナルが独自に組み立てたの…。

 だから、私達より後に生まれたから弟ちゃんって訳。

 これについてはタクヤのお兄さんの茅場晶彦も分からないイレギュラーなんだよ」

 

 タクヤ「なるほど…そういう事だったのか…ん?

 ストレア…なんで、オレが茅場晶彦の弟だって…」

 

 ストレア「当然知ってるよ…。

 茅場晶彦がタクヤに送ったナーヴギアには他のものと違って私達を感知できるプログラムが組まれてるからね。

 それを私達にも伝わってるって訳…。

 つまり、私達のお父さんが茅場晶彦だからタクヤは私達の叔父さんになる訳だ。おもしろ〜い」

 

 全くもって面白くないし、オレのナーヴギアにそんなプログラムが組まれていようとは微塵も思わないじゃないか。

 それに、そのプログラムを組み込んで何をさせようとしているのかも分からない。

 

 ユウキ「えーと…どういう事?」

 

 ストレア「簡単に言っちゃうとタクヤの情報や位置は常に把握できるって事だよ!

 タクヤがどこで何してようがその全てがわかるんだよ。」

 

 タクヤ「それってつまり…」

 

 ユウキとのあんな事やそんな事とか他の奴らには言われたくない見られたくないものまで知ってるという事ですか?

 オレの人権は一体いずこへ…。

 

 ユウキ「すごいね!

 今度からタクヤを見つける時にはストレアに手伝って貰おうかなぁ…」

 

 ストレア「…」

 

 ユウキ「どうしたの…?」

 

 ストレア「…ごめんね。もう…みんなとは一緒にいられないの…」

 

 タクヤ&ユウキ「「!!?」」

 

 ストレアは顔を下げ、涙を両目から溢れ出していた。

 

 ストレア「…このコンソールは直接カーディナルに繋がってるから私が触れた事でイレギュラーが見つかって直に消去されるの…」

 

 タクヤ「な、なんで…!!」

 

 ユウキ「嫌だよ!!消えないでストレア!!」

 

 ストレア「ごめんね…ユウキ、タクヤ…。

 私はいつか2人に会いたいってずっと思ってたの…。

 こんなにいろんな感情を持ち合わせいる人達ってどんなだろうって…。

 私はタクヤに愛情を感じた…。ユウキには友情を感じた…。

 こんなに気持ちが晴れたのは初めてだよ!

 だから、もう…悔いはないんだ…」

 

 すると、ストレアの体が半透明になり、光がチラホラとストレアから昇っている。

 

 ユウキ「ダメだよ!!まだボク達友達になったばかりじゃないか!!

 これからだって一緒に楽しい事していこうって…だから…!!」

 

 タクヤ「消えるな!!ストレア!!オレもまだ一緒にいてぇよ!!」

 

 だが、無慈悲にもストレアの体は徐々に消え始めていた。

 何かストレアが消えずに済む方法がないかコンソールを操作して探そうとするのをストレアが優しく止めた。

 

 ストレア「ありがとう…タクヤ…ユウキ…。

 私がプログラムであっても仲間として…家族として見てくれてとても嬉しかったよ…!」

 

 タクヤ「ストレア…」

 

 またオレは目の前の仲間を助ける事が出来ないのか…?

 あれほど誓っておいてただの偽善者じゃないか。

 

 ユウキ「ストレアぁ…」

 

 ストレア「私はいつもあなた達の心の中にいるよ…。

 だから、泣かないで…。

 私も…プログラムなのに…涙が出ちゃうよ…。」

 

 ユウキ「…うん。泣かない。…笑うから。ストレア…」

 

 タクヤ「…」

 

 ストレア「タクヤ…。あなたにはまだやる事があるハズだよ…?

 この世界からユウキやみんなを守ってあげてね…。

 私も心の中で応援してるから…。」

 

 タクヤ「…約束する。

 絶対にみんなを…この世界から救うって…オレの命にかえてもやり遂げる…!

 ストレアも見ててくれ…オレの…オレ達の生き様を…!!」

 

 ストレア「うん…!ちゃんと見てるね…。

 ありがとう…バイバイ…」

 

 光が瞬間的に輝きを増し、ストレアの姿は光の粒子となって消えていった。

 

 ユウキ「バイバイ…ストレア…」

 

 タクヤ「オレ達の心の中にいる…か…」

 

 瞬間にオレはある事を思いついた。

 すぐ様それを実行する為、コンソールを操作する。

 

 ユウキ「タクヤ?」

 

 タクヤ「オレのナーヴギアのローカルメモリにストレアのデータを移す!!

 それが出来たらストレアが消去されることも無くなる…!!

 助けられる…!!そうそうに諦めてたまるかよっ!!」

 

 先程まで開いていた画面からさらに奥へと潜り、ストレアのデータを回線を通じてオレのナーヴギアに転送させる手段を探す。

 急がなければストレアのデータが完全に消されてしまいかねない。

 キーボードをタップする速度がみるみる上がっていくのを感じる。

 

 タクヤ「これで…!!」

 

 最後の入力を終えた瞬間、コンソールから衝撃が襲ってきた。

 オレは出入口まで飛ばされ、ユウキが心配してオレに駆け寄ってくれる。

 

 ユウキ「大丈夫!?タクヤ…!!」

 

 タクヤ「あぁ…なんとか無事だ…」

 

 ユウキ「それで…成功したの…?」

 

 タクヤ「…」

 

 オレはユウキの目の前で掌にあるアイテムを見せた。

 アメジストが小さく輝いたそのアイテムをユウキに渡す。

 

 タクヤ「間一髪だったぜ…。

 ストレアのデータはオレのナーヴギアに保存されてるからもう安心だ。証拠がこの石だ…。ストレアの…心だ…。」

 

 ユウキ「タクヤ…。これがストレアなんだね…。

 よかったぁ…ストレアは無事なんだね…よかったぁ…」

 

 ユウキはストレアの心を強く握りしめ、涙を浮かばせながら安堵している。

 後は、現実に帰ってストレアを展開できる環境を作ればまた再開出来るハズだ。

 自由奔放で無邪気でまるで少女のようなオレ達の仲間に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2024年08月13日 13時00分 第55層 グランザム 血盟騎士団ギルド

 

 ストレアとの別れから1週間が経った。

 後で脱出したオレとユウキから他のメンバーにストレアの事情を話した。

 みんな突然の別れに困惑していたようだが、また会えるという確信じみたものを胸に秘め、ゲームクリアへと勢いを増した。

 そして、1週間経った今日攻略組が血盟騎士団ギルドに集められいよいよ72層の攻略会議が開かれようとしていた。

 

 アスナ「みなさん。今日は来てくれてありがとう。

 これから72層のボス攻略会議を始めます。

 ボスの名前は【ザ・スカイバンデット】。

 行動パターンとして上空で旋回しながら竜巻攻撃をしてきます。

 この時、ボスは地上近くまで降りてきます。

 さらに、イエローゾーンまで落ちると滑空しながら噛みつき攻撃と足蹴りを使ってきますので注意してください。

 これは血盟騎士団のヒースクリフ団長とスリーピング・ナイツのタクヤ君がボス部屋に入った時のものです」

 

 ヒースクリフとオレの名前が出た瞬間、会議は一気にざわめき始めた。

 ヒースクリフは今までに団長自らが偵察に出向いてないのに対し、オレの場合は元笑う棺桶(ラフィン・コフィン)というのがあって騒がられているのだろう。

 別に気にする事ではないが隣に座っているユウキが不機嫌な顔をしている。

 

「その情報は間違いないんですか?」

 

 アスナ「…どういう意味です?」

 

「だって、偵察を行ったのは殺人鬼なんでしょう?

 ヒースクリフ団長はともかくとしてそんな奴の言った事を全部信じる訳にもいかないなぁ…」

 

 ユウキ「タクヤが嘘をついてるって言いたいのっ!!?

 そんなの言いがかりだよ!!」

 

 タクヤ「落ち着けユウキ…!!

 …オレの言った事が信用出来ないならそれでいい。

 だが、偵察にはヒースクリフも付いてきているんだ…。

 アイツの言う事だけは聞いてくれ…」

 

 男は返事をする事なく、面白くないといった顔をしている。

 

 アスナ「…それで編成ですが、竜巻攻撃は10秒ほど持続するのでタンクを最低でも20人は必要になります。

 各ギルドのタンクは後ほどシュミットの所へ集まってください…。人数が足りなければ他のメンバーにも声をかけてください。

 主にダメージディーラーに専属のタンクを3人につけてのアタックとなります。

 前衛と後衛にもタンクは必ず配置についていてください…。

 ここまで何か質問がありますか?」

 

 アスナが聞くと静かに先程の男が手を挙げる。

 

 アスナ「どうぞ」

 

「えー…これは質問と言うより提案なんですが、スリーピングナイツのタクヤさんに是非、タンクに入って頂きたいと思っています。」

 

 アスナ「…理由は?」

 

「タンクと言っても攻撃を防ぐだけではダメだと思うんですよ。

 なら、攻撃を防ぎつつボスにダメージを与えられればこの先の攻略にも弾みがつくと思うのですが、どうでしょう…?」

 

 ユウキ「それってつまり、タクヤにタンクとダメージディーラーの両方をやれって言うの?」

 

「まぁ、ぶっちゃければそうなりますね…。

 でも、大丈夫でしょ?

 それよりも辛い経験がお有りでしょうから…」

 

 ユウキが拳を握っている。

 この時のユウキは本気で怒っている証拠だ。

 騒ぎを起こす前に沈めねぇと…。

 

 タクヤ「ユウキ…落ち着けって…」

 

 ユウキ「タクヤだけなんでそんなに役割を押し付けるの!!

 タクヤにだって出来る事と出来ない事があるんだよ!!

 あなたには両方出来るって言うのっ!!?」

 

「いやいや…私には無理ですよ。

 でも、タクヤさんは攻略組でもトップの実力者であらせられる。

 私のような凡人なんて目じゃないでしょう?

 下手されたらボスと一緒に殺されかねない…」

 

 煽ってきた男を中心にクスクスとほくそ笑んでいる。

 本来なら今ここでねじ伏せるが自分がやってしまった事の罪悪感で手を出せずにいた。

 元より攻略組に戻る上でこうなる事は覚悟はしていた。

 オレに憤りを感じているプレイヤーがいると知らされた上でオレはここに戻ってきたのだから…。

 だが、それはオレが思っている事でオレの隣にいるユウキはそうは感じていないようだ。

 

 ユウキ「お前っ!!叩き斬って…!!」

 

 アスナ「やめてユウキ!!」

 

 ユウキ「アスナ!!なんで止めるの!!?コイツはタクヤを…!!!」

 

 アスナ「今は仲間内で争っている場合じゃないの!!

 だから退いて…ユウキ!!」

 

 アスナが懸命にユウキを止めてくれたお陰でなんとかユウキも落ち着きを取り戻しつつあった。

 だが、男は畳み掛けるかのようにさらなる批判を言ってくる。

 

「はぁ…こんな野蛮な人が攻略組にいるとは思いませんでしたよ…。あぁ!殺人鬼がいるからこうなるのかな?」

 

 ユウキ「このっ…!!」

 

 瞬間、男は椅子から盛大に転げ落ちた。

 一瞬の出来事だった為、ユウキやオレにも何が起きたか分からない。

 だが、倒れた男のすぐ側には全身を黒で覆った少年が男を見下ろしていた。

 

「な、何するんだ!貴様ッ!!」

 

 キリト「それはこっちのセリフだ。

 ベラベラと言いたい事言いやがって…。

 お前がタクヤに何か文句をつける筋合いがあるのか?

 お前が呑気に生きていた間にタクヤは見ず知らずのお前達を守ってたんだぞ!!感謝こそすれ批判を受ける謂れはないんだ!!

 次、何か言ったらオレがお前を殺す…。いいな?」

 

 最後の方は聞き取れなかったが男は顔をひきつらせて頷いていた。

 キリトも席に戻り、アスナに会議を続けるよう促す。

 呆気に取られていたアスナも正気に戻り、会議を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナ「以上で会議は終了します。

 ボス戦は明後日の12時に72層の転移門前に集合とします。

 お疲れ様でした…」

 

 アスナの終わりの挨拶を言ったのを皮切りに次々と部屋を後にして行った。

 残ったのはオレ達スリーピング・ナイツとキリト、アスナにクライン率いる風林火山とエギルであった。

 

 クライン「なんだあのヤロー!!

 ふざけた事ばっかぬかしやがって!!」

 

 エギル「まったくだ。…あんなのは気にするな、タクヤ」

 

 タクヤ「…あぁ。わかってる」

 

 シュラ『どいつもこいつも辛気臭ェ顔しやがって!!

 気に入らねーならぶっ飛ばせばいいんだ!!』

 

 タクヤ「それが出来ないからこうなってんだろ?

 少しは頭使えよ…オレみたいに」

 

 シュラ『普段から蚊ほども使ってねぇテメェがエラソーに説教してんじゃねぇよっ!!このボンクラがっ!!』

 

 タクヤ「誰がボンクラだコラ!!

 ボンクラ言った方がボンクラなんですー!!」

 

 アスナ「…何さっきから独り言言ってるの?」

 

 タクヤ「あ…」

 

 シュラと話していたせいで頭がちょっとやばい認定をされそうになるがそこは普段から頭を使っているオレが上手く対処する。

 まぁ、傍から見ればただの独り言だからみんながそう思うのも仕方ない。

 

 キリト「…とにかく、明後日のボス戦は頑張ろう。

 ダメージディーラーは主にオレとタクヤ、ユウキにアスナ…そして、ヒースクリフか…」

 

 タクヤ「アイツならダメージディーラーとタンク両方出来そうだけどな…。てか、普段からしてるようなもんか」

 

 ユウキ「でも、本当にいいの?

 ダメージディーラーとタンクを両方するって言って…」

 

 オレはあの男の提案通りダメージディーラーとタンクの両方を兼任する事でその場を収めた。

 やった事はないが後でテッチにタンクのコツなどを学べば大丈夫だと考えている。

 

 タクヤ「いいよ。タンクのコツはテッチに聞くし、エギルも出来るだけフォローしてくれるって言ってくれてるからな。

 まぁ、タンク隊の株を取るような事がないといいけどな!

 テッチ、後でよろしくな」

 

 テッチ「まかせておいてよ」

 

 エギル「ったく…。心強いこったな」

 

 クライン「オレも出来る限りやるからよ!!

 大船に乗ったつもりでいろよな!!」

 

 キリト「泥船の間違いじゃないのか…?」

 

 クライン「んだとぉ!!キリトこの野郎っ!!」

 

 まったく…ボス戦前だというのにこの緊張感の無さはどうしたものだろうか。

 だが、緊張しすぎて変に力むよりはまだマシだな。

 

 シウネー「スリーピング・ナイツ全員でタクヤさんをフォローしますから安心してくださいね!!」

 

 ジュン「おぉよ!僕達にまかせとけ!!」

 

 タクヤ「あぁ。頼りにしてるよ!

 …ユウキも。いつまでもそんな顔しないでくれよ」

 

 ユウキ「だって、タクヤばっかりこんな辛い思いしてボク…」

 

 タクヤ「…あの時、ユウキがオレの事を本気で怒ってくれた時、嬉しかった…。ありがとう」

 

 オレのせいでみんなに迷惑がかかっている。

 それだけは何としても避けたかったが現実は残酷だ。

 ユウキ達みたいな人間ばかりじゃないのも分かる。

 俺を憎んでいる奴らがいる事ぐらい百も承知だ。

 オレはそれにどう向き合えばいいのか答えを見つけ出せていない。

 

 キリト「お前だけが辛いものを背負うのも無理な話だ。

 だから、信頼できる仲間を作るんだ…。

 オレ達にもタクヤが背負っているものを分けてくれよ」

 

 クライン「そうだぜ!みんなお前の事を信じてんだからよ!!

 お前ェもオレ達の事もっと頼ってくれよ!!」

 

 タクヤ「キリト…クライン…。あぁ…ありがとう」

 

 アスナ「今日はこの辺にして解散にしましょ!

 みんなボス戦前で準備もあるだろうし…」

 

 そう言ってオレ達は部屋を後にした。

 オレ達スリーピング・ナイツは55層のフィールドで再度連携の確認やテッチからのタンクの練習を行ってからマイホームへと帰った。

 タンクをするからには盾は必需品でみんなで防具屋やクエスト報酬でレアな盾が手に入るクエストがないか探していたが、都合よくそんな物が見つかる訳でもなかった。

 ふと、鍛冶屋リズベットの事を思い出し、オレは1人48層のリズベット武具店へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2024年08月13日 15時35分 第48層 リンダース

 

 タクヤ「リズベットーいるかー?」

 

 リズベット「はいはい今行きまーす…ってタクヤか…。

 今日はどうしたの?」

 

 タクヤ「盾を買いに来たんだけどいいのあるか?」

 

 リズベット「盾?アンタそんなの使ってたっけ?」

 

 リズベットに先程行われた会議の顛末を話した。

 リズベットもその男に憤りを感じて奇声をあげていたが、とりあえず良い盾があるか聞いた。

 

 リズベット「盾かー…それならこれなんてどう?」

 

 リズベットが見せてきたのタンクが使うとしてはやや小ぶりなものであった。

 

 タクヤ「…一応ボス戦で使うものだからもうちょっと頑丈そうな奴がいいんだけど?」

 

 リズベット「まぁ、防御力は他より劣るけどこれには()()()()がついてるの。試しに装備してみて。

 すぐに分かるから!」

 

 リズベットに言われた通り盾を装備してみる。

 特に変わった所はないが、ステータスを確認してみると敏捷力がとんでもない事になっていた。

 

 タクヤ「待て待て待て…!!敏捷力が倍以上上がってんだけどっ!!?」

 

 リズベット「そ!それは敏捷力を極限まで上げる支援(バフ)が付与されるのよ。

 しかも、その盾は攻撃を防ぐっていうより受け流す為に作ってみたのよ!!お陰で貴重な鉱石はパーだけどね」

 

 タクヤ「受け流す…か。

 確かにそっちの方がオレには合ってるかもな。

 これを貰うよ。代金はいくらだ?」

 

 リズベット「15万コルよ」

 

 タクヤ「…いくら?」

 

 リズベット「だから15万コルよ」

 

 タクヤ「ふざけんなっ!!?盾1個でなんでそんなに高ぇんだよ!!!」

 

 店売りでも高くて7000コルぐらいしかしないのにいくらなんでも高すぎる。

 

 リズベット「仕方ないでしょー。

 それに使った鉱石の相場からしてもそれぐらいになるわよ!

 言っとくけど!それでも結構安くしてんだからね!」

 

 タクヤ「ぐぐ…仕方ねぇ。払うよ…」

 

 リズベット「毎度ありー!」

 

 すごいぼったくれた感があるがボス戦に使うわけなので金を出し惜しみしている時ではない。

 オレはリズベットに代金を支払ってマイホームへと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2024年08月14日 13時00分 第40層 庭園フィールド

 

 タクヤ「ふぁ…気持ちいいなー」

 

 ユウキ「そうだねー」

 

 オレ達はボス戦を明日に控えて今日は1日オフにしようという事になった。

 オレとユウキは久しぶりに2人きりで昼寝と洒落こんでいた。

 今日の気象設定は暑さを抑え、冷たい風が心地よく吹いていた。

 すると、オレの顔に突然水が浴びせられた。

 驚いたオレの体の上にある小さな竜がポツンと降りている。

 

 タクヤ「もしかして…ピナか?」

 

 ピナ「きゅるぅぅ」

 

 シリカ「タクヤさん!ユウキさん!お久しぶりです!!」

 

 ユウキ「シリカ!!久しぶりだね!!」

 

 そこに立っていたのは以前キリトとユウキと一緒にモンスターから助けてシリカがいた。

 ピナがオレからシリカの肩へと飛び移ってからオレも上半身を起こす。

 

 タクヤ「久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

 シリカ「はい!その節は色々お世話になりました」

 

 タクヤ「気にしないでくれ。

 オレ達こそこの前は囮に使ったみたいで悪かったからな…。礼を言うのはこっちだよ」

 

 前に1度シリカを加えた4人でこの層にある思い出の丘というフィールドダンジョンに行った事がある。

 そこには使い魔を蘇生できる“プネウマの花”というアイテムがあり、当時ピナを蘇生させる為に取りに行ったのだ。

それと同時期にオレとキリトは中層であるプレイヤーから“タイタンズハンド”というオレンジギルドを監獄に送るように依頼され、たまたまシリカがいたパーティの中にリーダーのロザリアという女性プレイヤーがいた為、シリカと行動を共にする傍らロザリアを警戒していたのだ。

案の定、“プネウマの花”を奪う為襲ってきたが返り討ちにして全員監獄に送ったというのが事の顛末だ。

 

 シリカ「いえ!そんな…私でも役に立てるならなんでもやりますよ!ねっ?ピナ」

 

 ピナ「きゅるるっ」

 

 ユウキ「相変わらずシリカ達は仲がいいね!!

 うらやましいなぁ…」

 

 シリカ「はい!ピナは私にとって大事な友達ですから!

 あっ、そう言えば2人は何してらっしゃるんですか?」

 

 タクヤ「あぁ。ボス戦が明日だから今日はオフにしたんだ。

 で、天気がよかったから昼寝してたんだ。

 シリカも一緒にどうだ?よかったらだけど…」

 

 オレはシリカも誘ってみる。

 こんな天気のいい日にモンスターを狩るなんてもったいない。

 

 ユウキ「む…」

 

 シリカ「いいんですか?でも、お2人のお邪魔になるんじゃ…」

 

 タクヤ「そんな事ねぇよ。な?ユウキ」

 

 ユウキ「…別にいいよ」

 

 シリカ(「やっぱりまずいんじゃ…」)

 

 ピコーン

 

 シリカと話していると誰かからメッセージが送られてくる。

 中身を見るとどうやらアスナからのようで至急血盟騎士団ギルドへ来てくれとの事だった。

 

 タクヤ「悪いシリカ。アスナから呼び出されちまった!

 今から血盟騎士団ギルドに行かねぇと…」

 

 シリカ「そうですか…。では、またお昼寝に誘ってください!」

 

 タクヤ「ホントごめんな!この埋め合わせは絶対するから!

 じゃあ、またな!」

 

 ユウキ「ちょ、ちょっと待ってよタクヤ!!」

 

 オレ達は急いで血盟騎士団ギルドへと向かった。

 

 シリカ(「なんか残念のようなほっとしたような…」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2024年08月14日 14時00分 第55層 グランザム 血盟騎士団ギルド

 

 オレとユウキは城門を潜り血盟騎士団ギルドの中へと案内された。

 何度来ても落ち着かず、案内されるがまま会議室へとやって来た。

 扉が開かれると中にはヒースクリフとアスナを始め、他の幹部クラスであろうプレイヤーが数名集まっており、重苦しい空気が部屋中に満ちていた。

 

 ヒースクリフ「やぁ、タクヤ君…ユウキ君…。よく来てくれたね」

 

 アスナ「ごめんね。急に呼び出しちゃって…」

 

 タクヤ「いや、それは別にいいんだけどよ。

 今日は一体何の用だよ?」

 

「貴様!!団長と副団長に向かって失礼だぞ!!」

 

 アスナ「やめて下さい!!彼らは私の友人です!!」

 

 ヒースクリフ「まぁいいじゃないか…。

 私と彼らは同等の立場にいるのだから…」

 

 割り込んできた男は不満を残しながらも腰を下ろす。

 最近こういうのが増えた気がするなと思いながらもヒースクリフに話を進めるように言った。

 

 ヒースクリフ「今日は別にボス戦に関する事はではないよ。

 今日はタクヤ君に用があってね…。

 正確には()()1()()()()()()()と言った方がいいのかな?」

 

 タクヤ「!!…なぜお前がそんな事を知っている?」

 

 ヒースクリフ「私にもそれなりの地位と権力があるのでね。

 あまり使いたくなかったが今回は目をつぶってくれ…。

 それで、用件なんだが…私にもう1人のタクヤ君と決闘(デュエル)をさせて貰いたいのだがどうだろうか?」

 

 ユウキ「それって…シュラと…ですか?」

 

 ヒースクリフ「君達はシュラ…と呼んでいるのだね…。

 そうだ。タクヤ君…どうかな?」

 

 タクヤ「…」

 

 いきなりのヒースクリフの発言に驚き、一瞬、間が空いてしまったが冷静になりヒースクリフの真意を確かめる事にした。

 

 タクヤ「理由は…?」

 

 ヒースクリフ「…辛い事なのだが、君の事を信用出来かねている攻略組のメンバーがまだいてね。

 これは彼らからの希望なのだよ。

 本当に拳闘士(グラディエーター)はこの私と同格の強さを持っているのか…というね」

 

 タクヤ「…」

 

 まさか、こんな所でも持ち出されてくるとは思わなかった。

 オレの評判はどうやらかなり悪いらしい。

 

 ユウキ「タクヤ…」

 

 ユウキも感づいたのか心配そうな顔でオレを見る。

 ユウキを落ち着かせる為に頭を撫でてからヒースクリフの提案を受ける事にした。

 

 ヒースクリフ「ありがとうタクヤ君…。

 では、明日のボス戦前に時間を取らせるのでその時にやろう」

 

 タクヤ「あぁ。別に構わないぜ…ってうわっ!?」

 

 またしても修羅スキルが勝手に発動してしまい、シュラが表へと出てきてしまった。

 

 シュラ「なんなら今ここで戦ってやってもいいんだぞ?

 クソ団長様ァ…!」

 

 ヒースクリフ「君がシュラ…君だね。

 噂は色々聞かせてもらってるよ。」

 

 シュラ「はっ!!ろくな噂じゃねぇんだろうけどよォ…!!

 やるからには全力で殺しに行くぜ?

 覚悟しとくんだな…」

 

 シュラは言いたい事を言ってからオレに体を返した。

 オレもそれ以上何も言わずにユウキを連れて血盟騎士団ギルドを後にする。

 

 ユウキ「…ホントによかったの?タクヤ」

 

 タクヤ「いいんじゃないか?

 実際にやるのはシュラだしオレは体ん中から見物してるよ」

 

 ユウキ「そうじゃなくて!!…周りから声とか…いろいろ…」

 

 タクヤ「いいよ。オレが誰に何と思われようが仲間が信じてくれるだけでオレは戦えるんだから…」

 

 ユウキの手を握る力が強くなっていくのを感じた。

 

 タクヤ「心配すんなって!そう簡単に負けるつもりなんてないよ。ユウキはオレとシュラの応援でもしててくれ!」

 

 ユウキ「…うん。頑張ってね!!タクヤ!!シュラ!!」

 

 手の握る力も弱まった所でオレ達はマイホームへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、決闘(デュエル)の刻がやって来るのだった。

 

 

 




という事でどうだったでしょうか?
ストレアは一時退場としましたが、後々出番があるので待っていてください。

では、また次回!

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