ソードアート・オンライン-君と共に在るために- 作:ちぇりぶろ(休載中)
では第1話をどうぞ!
【1】終わりの始まり
2022年10月31日
かつてこれ程待ち焦がれられたものがあっただろうか。
VRMMOゲーム
販売数はたったの1万個ということもあり、ゲーム屋はもちろん家電量販店、ショッピングモール等は前日から多くのゲーマーで埋め尽くされ、彼等は待ちどうしくも胸を高鳴らせ、今か今かとその瞬間を待っていた。
そして、ここにも…
2022年11月06日12:58
「.......」
手に持っていたパッケージを机の上に置き、
事前にナーヴギアにソフトをインストールし終えていた為、後はサービス開始時間の13:00を待つのみ。ベットに倒れ込み、楽な姿勢になる。
「…いよいよか…」
13:00
「…リンクスタート!!!」
少年
茅場拓哉には2人の兄弟がいた。
頭が良く周りからの信頼も厚い歳の離れた兄と、誰にでも優しくおおらかな性格をした弟。
彼にとっては自慢の兄弟だった。小さい頃はよく3人で遊び回っていたものだ。
彼にとっては2人はかけがえのない
この日進路面談があり、たまたま帰りが遅くなってしまった拓哉は急いで家に帰っていた。
だが、家に着いたが明かりが灯っていなかった。
拓哉「母さん達まだ帰ってねぇのか?」
今家にいるのは母と父だけだ。一番上の兄は今はとても重要な仕事に携わっている為、家にいることはほとんど無い。一番下の弟は部活の合宿に行っていて明日まで帰ってこない。
拓哉はカバンから鍵を取り出し、玄関を開けた。
拓哉「あれ?靴はある…」
拓哉は妙な緊張感に包まれゆっくりとリビングの扉を開け、電気をつけた。
ドサッ
拓哉「…は?」
拓哉は何が起こっているのか理解出来なかった。
そこには父と母が床に寝ていた。
それから先のことはうろ覚えだった。
救急車と警察を呼んだ後、警察の方で事情聴取を受けた。
最近この付近で窃盗目当ての空き巣が多発していたらしく、この家もその1つとして数えられるらしい。今この場にいない兄と弟にも連絡した。
弟の方はすぐに帰ってくるそうで明日の朝には戻ってこられるそうだ。
だが、兄の方は何度電話かけても出ず、最終的に会社の方に取り次いで貰った。これで兄もこっちに来られる。弟と違って兄の会社は家から車で30分程のところにある為、すぐにでも向かえるはずだ。
正直、1人でいるよりかはよっぽどマシだ。今も涙が止まらない。
何故、母と父がこんな目に合わなければいけないのか…
どうして母と父なのだろうか…
色々な事が頭の中を駆け巡っている。
だが、それはすぐにかき消された。
「申し訳ありません。今、クライアントとの会談の最中ですのでまた後日かけ直してほしいとの事です」
拓哉「…え?いや…あの…お…僕、身内の者なんですけど、今すぐにでも兄に知らせなければならない事がありまして…」
「申し訳ございませんが、茅場からの指示ですので。」
拓哉は耳を疑った。流れていた涙もあまりの事に止まっていた。
両親が死より仕事の方が大事か…
そうまでして偉くなりたいのか…
それ以来、オレは兄とは会っていない。
「…ここは…!」
そこに広がっているのは現実離れした風景、装備を身につけたプレイヤーやNPC達…
ここは完全に現実からかけ離れた世界_
「これが…ゲームの中の世界…。半信半疑だったけど、こんなにリアルなのか…」
手に触れた石や草はどれをとっても本物の感触と何ら変わらない。
ナーヴギアによって五感をすべて遮断し、脳のみでこのアバターを自在に操れる。
「
見てやろうじゃねぇか!!この世界がどれだけのすごいのかをよ!!!」
プレイヤー…タクヤが天に拳を掲げ、フィールドへ向かった。
side_タクヤ
2022年11月06日 13:25 第1層はじまりの街周辺フィールド
タクヤ「ふっ」
ザシュッ パリィィン
オレはフィールドへ出て、フレイジーボアなるモンスターを狩っていた。
タクヤ「ふぅ…ここら辺のモンスターは倒しきったな」
周辺を見渡してもどこにもリポップした様子はない。オレは場所を変えるため、先へと進んだ。
今現在俺のレベルは3。ログインして30分足らずでここまでいければ大したものだと思う。
事前に取説やチュートリアルもやったし、これなら最上階である100層もそう遠くないだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前に森が広がっていた。
タクヤ「街からも結構離れてんな。今のレベルでいけるか微妙だよなぁ…まぁなんとかなるか」
オレは単身、森の中へと入っていった。
2022年11月06日 14:51 第1層はじまりの街周辺 古森内
タクヤ「ゼェ…ゼェ…はぁぁぁっ!!」
ザン ブゥゥン キシャァァァ パァァァン
オレが斬ったモンスターがポリゴンへとかわり四散した。
森に入って1時間くらい経ったんじゃないだろうか。
あれから植物型モンスターとの連戦に次ぐ連戦でつい今しがた落ち着きだしたところだ。
タクヤ「ハァ…ハァ…いやいやいやいや、何これ?モンスターハウスにでも入ってたの?」
初っ端からこんな鬼畜めいた難易度聞いたことないんだけど…と口からこぼれる程にここでの戦闘は熾烈を究めた。
当然、最初は真っ先に逃げようと思った。だが、既に背後にもモンスターはポップしており、完全に逃げ場を失った状況だったのだ。
タクヤ「でも、おかげでレベルは7まで上がったし、良しとするか」
オレはポーションを飲みながら森を抜けた。
タクヤ「そういえば、コル(お金)も結構溜まったし、街に戻って身なりを揃えねぇとな」
今使っているのは、いわゆる初期装備のスモールソードにアーマープレート…流石にここから先のフィールドやダンジョンをこの装備のまま進むのは難しいだろう。
「キャァァァァァァッ!!!」
タクヤ「!?」
森の奥から悲鳴を聞こえた。オレはすぐに森の中へと入った。
悲鳴が聞こえた所に来てみると、1人の女性プレイヤーがさっきの植物型モンスターの触手に捕まっていた。
「この〜!!離してよぉ!!!」
タクヤ「おい!!早くその触手を斬ろっ!!」
オレは女性プレイヤーに指示するが、焦っているのか俺の声がまるで届いていない。
タクヤ「ちぃっ!!」
あんな状態じゃ死ぬだけだ…。オレは背中のスモールソードで触手を斬り払った。
ザシュッ キシャァァァ
「!!」
触手が斬られた事で女性プレイヤーは落ちた。
タクヤ「今のうちに…!!」
ガシッ
「うわっ!?」
すかさず女性プレイヤーを抱えてモンスターから逃げ、森の外の安全エリアまで全力疾走した。
2022年11月06日 15:45 第1層はじまりの街周辺フィールド 安全エリア
タクヤ「ここまで来ればもう大丈夫だな。…おい、お前…大丈夫か?」
「うん!ありがとうお兄さん!!お兄さん強いんだね!!」
そう言って笑顔で立ち上がってきたのは、オレよりも背が低く、歳も恐らく下であろう長髪の少女はオレに礼を言ってきた。
タクヤ「お前…大してレベルも高くないくせにあんな所に1人で入るんじゃねぇよ」
「いや〜…なんとかなると思ったんだよね〜」
タクヤ「これに懲りたらもうあんな無茶しない事だな…じゃあな」
グイ
タクヤ「…あ?」
街に戻ろうとする俺の袖を少女が掴んで離さない。
「ボク、助けてもらったし何かお礼がしたいんだけどどうかな?」
タクヤ「いや、オレはそんなことを期待してやったんじゃねぇから…」
「それでもボクはお礼がしたいの!!」
なんとなくこういうタイプの人間は有言実行しないと気が済まないともう面倒くさくなったので勝手に結論づけた。
タクヤ「あーわかったわかった。もう勝手にしてくれ」
ユウキ「おっけー!!あっボクの名前はユウキって言うんだ!!よろしくね!!」
タクヤ「オレはか…じゃなかった。…タクヤって言うんだ。とりあえずよろしく」
こうして何の因果かユウキとオレは2人で街へと戻っていた。
2022年11月06日 16:15 第1層はじまりの街 主街区
タクヤ「ごちそうさま」
オレはモンスターから助けた少女 ユウキからお礼という名の食事を振る舞われていた。振る舞ったと言っても街にあるNPCレストランでご馳走になっただけなのだが…。
ユウキ「お粗末様!」
タクヤ「さて…俺はそろそろ行くよ。装備とかも新調したいし」
ユウキ「武器屋行くの?僕も付いていっていい?」
タクヤ「…別に構わないけど」
俺としては早く済まして
ソードスキル…この世界には魔法は存在せず、剣1本でどこまでも行けると言ったコンセプトをもとにして作られている。
その為、ソードスキルといういわば必殺技などが武器ごとに多数存在していた。
まだこのゲームのサービスが開始して数時間だけしか経っていない為、初歩のソードスキルしか使えないが、それを使いこなせればこの先の戦闘でも役に立つ。
ユウキ「そうと決まれば早速しゅっぱーつ!!」
ユウキがオレの手を引っ張りながら武器屋へと歩き出した。
武器屋につくとやはり初期装備よりも性能のいい物が揃っている。
今、俺が使っている片手用直剣で良い物がないか物色しているとなかなかピンとくるものが見当たらなかった。
タクヤ(「んー…今ここで買わなくてもいいのか?多分次の街とかにも武器屋とかありそうだし、もしかしたらクエストの報酬とかで良いのあるかもだし…」)
タクヤ「ユウキ、何かいいのあったか?」
ユウキ「うーん…特にこれと言ったものはないかなぁ…」
ユウキもお目当てのものには巡り会えなかったようだ。
ここに来てからずっとしかめっ面してたからな。
ユウキ「そうだタクヤ。もしよかったらだけどさボクとパーティ組まない?」
タクヤ「え?なんで?」
ユウキ「なんでって…そっちの方が効率もいいだろうし何かあったら対処とかもしやすいでしょ?あっ、もしかしてもう先約とかいたりする?」
タクヤ「いや…そんなのはいねぇけど。オレVRMMOはこれが初めてだから攻略法とかしらねぇけどいいのか?」
ユウキ「そんな事別に気にしないよ。ボクも初心者だし…タクヤ強いから大丈夫でしょ?」
まぁ、2人の方が効率とかいいのはたしかだし、そっちの方が早く進めていいかもな。
タクヤ「わかった。じゃあしばらくの間よろしくな」
ユウキ「うん!!こちらこそよろしく!!」
オレとユウキはパーティ申請を済ませ、再度フィールドへ出かけた。
今回はソードスキルを練習するためだけなのではじまりの街から近くの狩場へ来ていた。
タクヤ「あ…」
ユウキ「どうしたの?」
オレは肝心な事を忘れていた。
タクヤ「…ソードスキルってどうやって出すんだ?」
ユウキ「…もしかして知らなかったの?」
さすがに発動の仕方を知らないのでは練習するどころの事じゃない。
キィィィィン スパァァァァン
頭を抱えていると、近くでどこかのパーティが戦闘を行っていた。
1人の男性プレイヤーはもう1人の男性プレイヤーに指導しているようだった。
すると、長髪のバンダナをした男の武器が青白いエフェクトを発しながら敵を屠った。
「おぉ!出来たじゃないか」
「これがソードスキルかぁ!すげぇ!!」
タクヤ(「ソードスキル!?」)
確かに、あの猪型モンスターを一撃で倒すとは、しかも見た限りバンダナの男が使っている武器も初期装備のようだ。
タクヤ「ユウキ、オレ達もアイツらに教えてもらおうぜ」
ユウキ「そうだね!仕方がわからないんじゃ練習のしようがないしね」
タクヤ「そうと決まれば…おーい!!」
「ん?」
オレが呼びかけてみると向こうも手を振ってくれた。
2人のところまで行って諸々の事情を説明すると2人は快く承諾してくれた。
「そんな事ならいいよ。今更1人も2人も変わらないからな」
タクヤ「助かったよ。オレの名前はタクヤ…んで、こっちがユウキだ」
ユウキ「よろしくね!」
キリト「オレはキリト。こっちのバンダナがクラインだ」
クライン「クラインだ!2人ともよろしくな!」
2人とも人柄が良さそうだ。これならオレも気が楽できそうだ。
キリト「じゃあ、ソードスキルについて教えるからな。とりあえずはオレがやってみせるから見ててくれ」
キリトはそう言ってリポップしたモンスターに剣を構えた。
すると、先程のクラインと同じく剣に青白いエフェクトを発生させ、
そのままモンスターに向けて振りかざした。
モンスターは抵抗もできず、ポリゴンへと四散した。
キリト「コツはタメを作る感覚で構えてシステムが起動すると同時に振りかざす。そうすれば後はシステムが勝手に敵に当ててくれる」
ユウキ「へぇ、意外に簡単なんだね」
クライン「ちっちっ…ところがどっこいそう簡単じゃねぇんだよユウキちゃん!」
ユウキ「え?そうなの?」
クラインが我が物顔で諭してきた。なんかイラッとしたがここはあえて何も言わなかった。
クライン「ソードスキルにはすんげぇ集中力が必要でよ!しかもそれが途中で切れちゃあ発動しねぇと来た!オレ様も最初こそ出来なかったが今じゃちょちょいのちょいだぜ!!」
キリト「へぇ…さっきはあんなにギャーギャー言ってたのに随分成長したなクライン…」
クライン「え…いや…そんなギャーギャー言ってねぇよ!!何言ってんだキリト!!」
キリト「ははっ…まぁ確かに、クラインが言ってたこともあながち間違いじゃない。集中力を切らさないように心がけながら撃てばいいだけだ。2人ともとりあえず武器を構えてくれ。オレがモンスターを引き連れてくるから」
タクヤ「よし…!!」
ユウキ「わかった!!」
武器を構えるとキリトが2匹のモンスターを誘導して戻ってきた。
タクヤ(「集中…」)
オレとユウキは集中を高め、モンスターに視線を固定する。
すると、握っている剣から熱いものを感じた。これがキリトの言っていた感覚というものか。
ユウキ(「なるほど…。この熱を爆発させる感じで剣を振りかざせばいいんだね…!!」)
キィィィィン
剣から甲高い音を発しながらモンスターが射程距離まで近づいてくるの待つ。
ブモォォォォオッ
2匹のモンスターはオレ達の存在に気づき、突進してきた。
タクヤ(「まだ…まだ…」)
ユウキ(「あと…少し…」)
キィィィィン
タクヤ&ユウキ「「ここだっ!!!!」」
剣を振りかざし、システムがそれを読み取ったのか勝手に体が動いた。
モンスターの目の前まで接近し、凄まじいスピードで剣をモンスターに斬りつけた。
ブモォォォォオッ パァァァン
2匹のモンスターは縦真っ二つに斬られ、ポリゴンへと四散した。
ユウキ「これが…」
タクヤ「ソードスキル…」
まるで自分の体じゃないみたいにスムーズに動けた。キリト曰くこれがシステムが勝手に当ててくれると言うやつであろう。
ユウキ「すごいよタクヤ!!モンスターを一撃で倒しちゃった!!」
タクヤ「って言っても、さっきのモンスターは某ゲームでいうとこのスライムだけどな」
ユウキ「もう!!せっかく感動してたに水刺さないでよっ!!」
キリト「まぁまぁ2人とも。それにしてもすごいじゃないか!1発で成功させるなんて。クラインなんか何回も失敗してたのに」
クライン「今それ言うのちがくねぇか!?」
キリトとクラインが盛り上がっている。こういう雰囲気も悪くないなとオレは内心穏やかになっていた。
俺の周りはそういう奴いなかったし、いるのは血が登った不良ばっかりだった。それも相まってか、この雰囲気に自分が浸っていたいと思ったのはいつぶりだろう。
少なくても
ユウキ「どうしたの?タクヤ」
タクヤ「!…いや別に…とりあえずあと何回かして切り上げようぜ!」
キリト「そうだな!オレもこの後1度落ちるつもりだし」
クライン「あっ、ならよう…3人ともフレンド登録しとこうぜ」
ユウキ「そうだね!なんかあったら連絡するよ」
クラインの提案でオレ達4人はフレンド登録を行った。
2022年11月06日 17:20 第1層はじまりの街付近安全エリア
あれからしばらくソードスキルの練習を繰り返していた。
キリト「2人とも、もうすっかりソードスキルはマスターしたようだな」
タクヤ「あぁ、おかげさまでな。サンキューキリト」
ユウキ「ありがとう!キリト」
キリト「大した事してないよ。困ってたらお互い様だ」
時刻はもうすぐ17時を回っていた。この世界の夕日も傾き綺麗な緋色が空を美しく彩っていた。
クライン「そうだ3人とも。この後他のゲームの仲間と落ち合うんだけどよ…一緒にどうだ?」
キリト「!…いや…オレは…」
クライン「いや、無理にとは言わねぇんだ…」
キリト「悪いな…」
クライン「いいって事よ!じゃあオレは一旦落ちるわ。17時30分にピザとジンジャーエール注文してっからよ!」
タクヤ「ずいぶん用意がいいな」
クライン「あったりめーよ!!てか、このゲームが買えたから急いでハードも揃えたって感じだけどよ…この世界を作った茅場晶彦は天才だぜ…」
タクヤ「……」
そう…このソードアートオンラインを作ったのは茅場晶彦…。
オレ、茅場拓哉の年の離れた兄貴だ。オレは今でも
あれ以来兄貴は家に帰ってこず、オレと弟は身寄りもなく2人であの家で暮らしていた。
両親の保険金や貯蓄でしばらく金銭面では何不自由なく、兄貴からも毎月お金が振り込まれていた。
だが、オレは納得いかなかった。
自分の両親が死んだにも関わらずアイツはずっと仕事をし続けていた。通夜や葬儀にも顔を出さず周りからは同情の目で見られた。
そんな奴からしばらくして1つの荷物が送られてきた。
中身はナーヴギアとアイツが作ったソードアートオンラインのソフトが1つずつ入っていた。
最初、弟とどっちが先に遊ぶか話し合ったが、オレはアイツが作ったゲームなんて誰が遊ぶかと意地を張って弟に譲った。
だが、弟は運悪くサービス当日から練習試合が組み込まれていた為、半ば強引に弟がオレに渡してきた。使わねぇとなんかもったいないし、それにVRMMOゲームはこれが初めてだったのもあり、どんなものかという好奇心に負けてしまった。そして今日、オレはこの世界にやってきた。
クライン「じゃあおめぇら、またな!!」
タクヤ「ああ、またな」
ユウキ「バイバーイ」
キリト「またな」
クラインは挨拶を済ませるとメインメニューを開き、ログアウトボタンに指を向ける。
クライン「…あれ?」
タクヤ「?…どうしたんだよ?」
クラインがなかなかログアウトしないのでどうしたのだろうかと思い話しかけてみた。
クライン「いや、ログアウトボタンがねぇんだよ」
キリト「そんなバカな事ある訳ないだろ…」
キリトは呆れてメインメニューを開き慣れた手つきで一番下のログアウトボタンを…
キリト「!!」
クライン「な!ないだろ?どうなってんだ…バグか?」
タクヤ「ユウキ、お前の方にはあるか?」
ユウキ「ううん…ボクの所にもやっぱりないよ」
クラインやキリトだけでなくオレとユウキにもないって事は、おそらく全プレイヤーからログアウトボタンが消失してると思っていいだろう。
タクヤ(「くそがっ…!!バグとか事前に直しとけってんだ!!あのやろう…」)
キリト「おかしいな…もしこの現象が全プレイヤーに起きているんならGM側からゲームを強制終了するか、一斉ログアウトさせるなりして対処するはずだ。しかも、不具合のアナウンスすらないなんて…」
ユウキ「…サービス当日からこんな事起きるって、これからの運営にも差し支えるんじゃないかな…?」
すると、オレの体が青白い光に包まれて出した。
ユウキたちも同様の現象が起きている。
キリト「これは強制転移…!!?」
キュゥゥゥゥゥン
そしてオレ達は光に包まれ、フィールドを後にした。
2022年11月06日 17:30 第1層はじまりの街中央広場
キュゥゥゥゥゥン
タクヤ「…ここは…」
オレはあたりを見渡したが、そこははじまりの街の中央広場だった。
周りでもどうやら同じ現象が起きてるらしく、おそらく全プレイヤーが一度に集められているのだろう。
タクヤ「!そうだ、あいつらは…!」
ユウキ「おーい!タクヤー!」
タクヤ「ユウキ!!それにキリト!!クライン!!」
キリト「ここにいたのかタクヤ!」
クライン「はぁ〜ひどい目にあったぜ…ったく」
ユウキ「ここにみんな集められてるって事はさっきの不具合の説明をするのかな?」
確かに、その可能性もある。でもなんだ…この妙に緊迫した空気は…。
「おい!空からなんか出てくるぞ!」
タクヤ「!?…なんだ、あれ…」
空を見上げると、先程まで美しかった緋色の夕焼けはどこにも無く、代わりにドス黒い真っ赤な空が広がっていた。
あの時と同じ色の空に…。
そして、空に亀裂が入り、そこから粘着質な液体が溢れ、次第に纏まってまっかなローブが現れた。
ローブの中身には何もなく、ただ黒い影がそこにはあった。
『ようこそ…ソードアートオンラインの世界へ…』
ローブが語り出した。何かの演出?イベントか?
『私の名前は茅場晶彦…このゲームの創始者だ…』
タクヤ「!!!」
あれが…茅場晶彦…オレの…兄貴か…!!
オレはそうわかった瞬間に怒りが立ち込めてきた。
今すぐにでもアイツをぶん殴りたい…
父さんと母さんの前で土下座させてやりたい…
怒りが俺の中で大きくなっていくのがわかる。
グイ
タクヤ「!!」
ユウキ「どうしたの…?タクヤ、怖い顔してるよ…」
タクヤ「…いや、なんでもない…悪ぃ…」
ユウキのおかげでとりあえずは落ち着けてきた。
冷静になって再度、空の巨大なローブに目を向けた。
『君たちの中には既にログアウトボタンが消滅しているのに気づいている者もいるようだが…これは不具合ではない
繰り返す…これは不具合などではなく、ソードアートオンライン本来の仕様である…』
何を言っているんだ?そんな馬鹿な話…あるわけないだろ…
「な…何訳わかんないこと言ってんだ!!」
「ふざけるのも大概にしろ!!」
周りのプレイヤーも怒りを巨大ローブにぶつける。
それもそうだ。ログアウトできないゲームなど聞いたことがない。
『君達がログアウトするにはこのゲームをクリアしなければならない。この第1層の迷宮区でフロアボスを倒す事で次の階層に進める。それをアインクラッド第100層まで繰り返し、最上階の紅玉宮でボスを倒せばこのゲームはクリアとなる』
フロアボス…?
第100層…?
クライン「…出来っこねぇよ…βテストじゃろくに上がれなかったんだろっ!!!」
キリト「……」
ユウキ「でもさ…モンスターに負けてHPを全損したらログアウトできるんじゃ…」
『それと、今後一切あらゆる蘇生方法は不能となる』
タクヤ「なっ…」
『HPがその場で0になった瞬間…アバターは消滅し、この世界と
クライン「現実世界で永久退場ってどういう事だよ…」
『君たちのアバターが消滅した際、ナーヴギアが脳に直接高出力マイクロウェーブを送り、脳を焼き切る…』
タクヤ「そんな事…できる訳…」
キリト「…できる。要は電子レンジと一緒さ…人間の脳なんて簡単に破壊できる…」
『そして今現在、外から強制的にナーヴギアを外そうとしても高出力マイクロウェーブは発生し、死に至る。
そして、残念な事に200数名がこれにより二つの世界から永久退場している。この事メディアに広めた為、外からの妨害工作は無くなるだろう。君達は安心してゲームクリアに励んでくれたまえ…最後に君達のアイテムストレージに私からのプレゼントを贈ってある…確認してみてくれ…』
すると、全プレイヤーはアイテムストレージを確認する。オレも確認してみると中に1つのアイテムが追加されていた。
タクヤ「手鏡…?」
手鏡で自分を写し出すとそこにはゲームを始める際に作った自身のアバターが写し出されていた。
タクヤ「これが何だって…」
ユウキ「うわぁぁぁっ」
タクヤ「ユウキっ!!?」
ユウキな体が光に包まれていく。他でも同じ現象が起きていた。そして、オレにも…
タクヤ「うわぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」
一体何が起きたのか…自分の体にはどこにも異常はない。
ユウキ「大丈夫?タクヤ」
タクヤ「あぁ…どこも異常はない…よう…だ…」
ユウキから声を掛けられ、振り向くとそこには少し顔つきや体つきが違った少女が立っていた。
タクヤ「…誰?」
ユウキ「誰って…ボクだよ!!ユウキだよ!!失礼しちゃうな!!」
タクヤ「ユウキ…?いや、だって全然顔違ぇんじゃん!!鏡見てみろ!!」
ユウキ「えっ…?…うわっホントだっ!!?」
タクヤ「…!もしかしてみんなも…!!」
案の定そうだった。周りにいた奴らしか分からないが顔も体もさっきまでと別人だ。
オレはアバターを作る際に面倒くさくなって現実世界の茅場拓哉なままにしたから何の影響も受けなかったのか。
キリト「タクヤ!!」
タクヤ「!もしかしてキリトか!!?」
キリト「あぁ…じゃあ横の子がユウキか…でも何でタクヤは顔が変わってないんだ?」
タクヤ「これは自前だ…って、もしかしてキリトの横にいる奴は…」
キリトの横に三十手前だろうか野武士ヅラの男が並んで立っていた。
キリト「あぁ…クラインだ…」
クライン「クソー!!せっかくイケメンに作ったのによぉ!!」
『これによりソードアートオンラインの正式チュートリアルを終了する…』
そう言い残しローブは亀裂の中へ戻り、空も元の姿に戻っていた。
「キャアァァァァァアァァァッ」
ワァァァ ワァァァ ワァァァ
キリト「くっ…!!3人ともこっちに来い!!」
オレ達はキリトに連れられ人目のつかない路地に入った。
キリト「いいか?もし茅場の言ってた事が本当ならこの周辺の狩場はすぐに狩り尽くされる…オレは次の街に向かう。オレはβテスターだからレベル1でも安全に行ける!!俺と一緒に来い!!」
クライン「…すまねぇが…一緒には行けない…」
キリト「!!どうして…!!」
クライン「さっき言ったろ…他のゲームの仲間と落ち合う約束してるって…近くにいるはずなんだ…あいつらを放って行けねぇ!!!」
キリト「…タクヤたちは…?」
ユウキ「えっと…」
タクヤ「キリト…クラインたちの仲間も一緒に行けねぇのか?」
キリト「!…今のレベルじゃ俺の届かない部分も出てくる…」
タクヤ「今オレのレベルは7だ!次の町ぐらいまでならオレがカバーする!!だから…!!」
クライン「タクヤ…」
確かに、無理難題を吹っかけているのは分かってる。
でも、オレは後悔したくなかった。
オレがあの時、もっと早く帰っていたらオレの両親は殺されずに済んだかもしれない。
オレが兄貴の事を分かっていればこんな事にもならなかったかもしれない。
キリト「……」
タクヤ「キリトっ!!」
クライン「もういい…タクヤ」
クラインはそっとオレの肩に手をかけた。
タクヤ「クライン…」
キリト「…すまない」
クライン「いいって事よ!お前に教わったテクで焦らず前に進むさ!!これでも他のゲームじゃギルマス張ってたんだからよ!!」
ユウキ「クラインさん…」
クライン「その代わり…2人でユウキちゃんの事助けてやれよ!!男が2人もいて出来ねぇなんて言わせねぇからな!!」
キリト「あぁ…!!」
タクヤ「…お前に言われなくてもそのつもりだよっ!!!」
クライン「じゃあ、またどっかでな!!ぜってぇ追いついてやっからな!!」
クラインは1度も振り返らず中央広場へと戻って行った。
タクヤ「…キリト…さっきはその…すまねぇ…」
キリト「気にするな…オレにもっと力があれば良かったんだが…」
タクヤ「…いや、お前にばかり負担はかける訳にはいかねぇ…前衛はオレが引き受けるからキリトはナビ役、ユウキは後衛にまわってくれ」
ユウキ「そんな…!!ボクも前衛やるよ!!次の街まで結構距離あるよ!!」
キリト「そうだ!!いくらお前のレベルが高いからって無茶はするな」
タクヤ「大丈夫だって。キリトな言った通りレベルはオレが1番高いっぽいし、それにこの世界の戦い方も分かってる。なら、誰が先頭切ったらいいのか一目瞭然だろ?」
キリト「タクヤ…お前…」
ユウキ「…わかった。でも…無理だと思ったら交代させてね?」
タクヤ「あぁ!その時は頼りにするぜ。…よし、そろそろ出発するか!!」
キリト&ユウキ「おぉっ!!」
2022年11月06日 17:45 第1層はじまりの街周辺フィールド
オレとキリト、ユウキは他のプレイヤーよりも先にフィールドに出て次の町に向けて走っていた。
すると、目の前に狼型モンスターが行く手を阻む。
キィン
オレは背中のスモールソードを抜き、モンスター目掛けて突進する。
スモールソードからエフェクトを出現させ、飽きる程練習したソードスキル“スラント”を発動させた。
タクヤ「ウオォォォォォっ!!!!」
キィィィィィン ザシュッ
スモールソードは一直線にモンスターを貫く。
グモォォォォッ パァァァン
タクヤ(「絶対ェ許さねぇ…!!アイツだけはオレが…
殺す!!!!」)
こうしてオレの終わりの見えない戦いが始まった。
いかがだったでしょうか?
1話は3人がはじまりの街から次の町に向かったところで締めさせていただきました。
第2話おなじみあの方が登場です!