鉄の王   作:サボ吉

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七話 鉄と旅

 

 

「あぁ…情けない…情けなさすぎる…こんな小さな女の子に慰められるなんて…」

俺は目が覚めてから賢者タイムに陥っていた。

クロに慰められたあと二十分程泣いた。どうやらその後俺は泣き疲れたのかそのまま寝てしまっていたらしい。

なぜ魂だけの存在のクロに触れられるのかはよくわからないが、膝枕までしてもらって…情けない…

そうだ死のう…

「おいおいっなに物騒な事を考えてるんだ!いいじゃないか泣いたって…よしよしかわいかったぞーまるで子供のようだった」

綺麗な顔をニヤニヤと歪めながら俺の顔を覗き込んできた。

「………」

死のう

「あーごめんごめん死ぬな。死んじゃダメ!そもそも僕は幼女じゃないんだからな。この姿は本来の姿ではないんだよほんとならナイスバディーの美人お姉さんなんだからな!君の何倍生きて…生きてはないな…とにかく僕は幼女ではないんよ!」

そんなことをわちゃわちゃ手を振り回しながら言っている。この性格で大人になっても中身が幼女なんじゃ…

「クロォブレッドォォ!」

クロの拳が唸りを上げる。

「ごふっ!…わかったごめん…クロはお姉さんだ」

「わかったらいい」

はたから見たら瓦礫と死体の山の上でじゃれ合う二人は不気味に見えただろう。

「で?これからどうしようか…?」

クロがコテンッと首を傾げながらたずねてくる。

あの死闘から一時間程度、時が流れた。

魔王の特別製の身体に傷の跡はあるがもう痛みはない。

今の自分には何もかもがたりない。

復讐するためにも幸せななるためにも力が知識が必要になる。

ならばするべきことは決まっていた。

「逃げよう…」

「…」

「次も今回のような搦め手が効くとは思えない。奴らにとって俺はもう逃がしてはいけない敵になってしまったからな…それが生きていてるか死んでいるかはもう関係ないだろう…最善はもう支配できない俺は殺した方がいいだろう…力をつけるまえに…」

感覚を確かめるように手を開く。

強く…強くならなくてはいけない

「そして必ず…復讐を果たす…俺の幸せの糧になってもらう」

魔王の宝玉の中で誓った。

俺は許さない…

血を感じさせないほど白い手を握りこんだ。

「そうだね…そうと決まったら早速動こうか!」

座っていた瓦礫から立ち上がり瓦礫と死体の丘を降りる。

「まぁまずは服だな」

そう言ってボロボロになった白い服を引っ張る。

「じゃあいくか。クロ」

「あっその前に…」

クロはクロイツだったものに近づく。

「こいつが持ってたこれずっと気になってたんだよね。」

そう言って指から小さな指輪を取り出した。

白いガラス玉のような小さな水晶を金の台座に埋め込んだ美しい指輪。

「これは…」

「ふっふっふ。こいつはこの砦の宝物庫の鍵だよ。こっそりつけて見ていたんだ僕は魂だけだから見えないしね」

と言ってニヤリと悪そうな笑みを浮かべている。

「なかなか面白いものもあったしね…持てるだけ拝借させてもらおう」

「…そうだね。先立つものは必要だし」

「よし!ならこっちだよ」

そう言って俺たちは出口を目指して歩いた。

 

 

・・・・・・

 

 

「…ここ?」

「ここ」

あれから歩き回りようやく目的の場所に着いた。

長い時間をかけて…

「クロ…絶対に俺とはぐれないでね…」

「うっうるさいな!ちょっと調子が悪かったんだ!」

クロはあの部屋を出てからあれ?こっちだよね?ん?と不安になる言葉をぽつぽつとこぼしながら右へ左へ歩き続けようやくついた。

「迷子になったら致命的だ…今生の別れになりそう…やめてよ俺にはクロしかいないんだから…」

「しっ失礼なこと言うな!砦とは敵に攻め込まれてもいいように分かりにくく作られているんだよ!つまりこの砦は素晴らしい!と言うわけだ!」

「いや…同じとこ何度も…」

「さぁ!お楽しみのお宝を見てみようじゃないか!しゅう!」

「…」

ごまかしたな

クロはふわふわと浮きながら扉に向かい俺もそれを追った。目の前には黒く大きな扉。

その真ん中には小さな穴が空いている

「ここに指輪をはめて魔力を流して」

「…わかった」

俺は穴に指輪をはめ慣れない魔力を困る。

すると扉はすーっと開き始めた。

長細い部屋には沢山の棚が並んでいた。

その棚の中には見覚えのある魔道具や薬が並んでいる。

禍々しい黒い兜。どぎつい色をした何かも薬品。

見覚えどころ効果までわかる。

わかってしまう。

思考が冷めていく

「…いや…そんなつもりじゃ」

クロは、黙ってしまった俺を申し訳なさそうに見ながらワタワタしている。

なんだか面白くて笑ってしまう。

「あははっいやいいんだ。これはもらっていこう…あいつらのことだ、また繰り返すかもしれないしな。俺一人で十分だ…」

「…そうか…そうだね…まだ先があるんだ。後で取りに来よう…」

「りょうかい」

奥に進むと今度は、光り輝く宝飾品や魔力を感じる武器や防具、そして大量の金貨だった。

「おおぉ〜これはすごい…お金持ちだな」

「そりゃ世界最大の宗教なんだからこれくらいあるよ。」

「でもこんなに持ってけないな…選ばなきゃな最低でも金とあの薬と魔道具は持ってかないと…」

それだけは譲れなかった。

壊すこともできるが…あれはいつか使うつもりだ。

「ふっふっふっー。その心配はいらないよ!入口の扉があったでしょ?あの大きな黒いやつ。この部屋はあの扉の魔法で作られた不思議空間だからね!選ぶ必要はないんだ。あとはあの扉は大きさを変えられるからね持ち運び可能な空間ってことだね。クロデイルの扉って言うんだ」

「どこ○もドアみたいだな…」

「そんな感じだね〜どっちかと言うとど○でも部屋って感じかな」

つまり持ち運び可能な宝物庫か…

人前じゃ使えないな

「まぁ先ずはお金だね適当にとっておいて。金貨五枚があれば十分だよ。あと銀貨持ってね。あとはこれと、これと、うーんローブもいるしあとはこのブーツに……」

クロはそう言いながら俺に服や装備を着せていく。

そうして俺は、一丁前の旅人のような格好になった。

薄い黒のマントに何かの皮で作られたブーツに使えない普通の鉄剣を二本差している。

「おぉなんかかっこいいな…」

「ふふっクロちゃんコーディネートだからね。任せてよ!ささっ一番欲しいのはこれじゃないんだよ。こっちだ」

そう言ってクロが指差したところはインゴットの積まれた小さな山だった。

「インゴット?」

「そうさ!ここにあるのは鋼鉄のインゴット二十本と魔鉄のインゴット八本だよ」

ニコニコと笑いながらクロは浮いている

「これをどうしろって言うのさ…あっちのかっこいい剣とか槍の方がいいんじゃない…」

魔力を感じる赤い剣や大きな盾、綺麗な宝石がついた槍….ではなくクロはインゴットを指している。

そんな俺をやれやれといった風に見ているクロ

「はぁ…君は一体なんの王様なんだい?君には宝玉にもらった力があるでしょうが」

「あっそうだった!金属を自在に操れる…だったよな」

「はぁ…さっき初めてにしては上手く使ってたじゃないか…」

「ごっごめんって。さっきのことはよく覚えてないんだよ必死で…それでこれを持ってけばいいのか?」

「違うよ!ほらっ手をかざして魔力を流してみてそしたら支配できるから」

「支配って…」

俺はインゴットの中の一つを手にとった。

冷たく硬い鉄の塊

手の中で鈍い光を放ちながら佇んでいる。

トクンっ鉄の鼓動が聞こえてなぜか力の使い方が本能的にわかった。

肉体を超え魂に刻まれた力。

俺はその感覚に従った。

「…」

すると鉄は溶け出し手の中に沈んでいった。

「出来たね。それが八王の力の一つ…鉄の王だよ」

「おおぉぉ……すごいな…」

ある。体の中に確かに金属の気配がする。俺はその感覚を確かめるように次々とインゴットを吸収していった。

「ふふっ嬉しそうだね…鉄の王の能力の長所は大きな破壊力や速さとかではなく圧倒的なまでの自由だ。自身の想像力によって創造する…これが君の力だ」

「想像と創造の力…」

「そうだよ。口にするとややこしいけどね」

黒はふわふわと浮き俺の背中から首に手を回し抱きしめる。

「シュウ…強くなって君は生きるんだ」

「うん…わかってる」

俺は世界に確かにあった小さなそれを奪われた。

耐え続けて手に入れたちっぽけなそれ

思考が冷めていく

俺は俺を守り世界を壊す…絶対に

パンと手を叩きクロが喋り始めた。

「よし!じゃあ扉を回収しておいてよ」

「わかった」

「でどこに逃げようか…この砦の奴らは全滅したみたいだし仮面達の親玉が気づくのは少し先だけど早く逃げるのに越したことはないからね」

「聖都はどっちにあるの?」

「ここから西にあるから東に向かった方が無難だね。そうするかい?」

「…わかった。できるだけ徒歩で行こう足と情報を遺したくない」

「決まりだね。でもその前に掃除だ」

そう言ってクロはニコッと笑った

 


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