鉄の王   作:サボ吉

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六話 復讐と渇き

 

 

「…終わった…のか…?」

キシシュウヤを包んでいた光が収まる。

中央の祭壇の上には変わらずキシシュウヤが鎖で縛り付けられ横たわっていた。

いや何も変わってない訳ではいなかった

艶のある黒髪は失われ光り輝く銀髪になっていたのだ。

「なぜ銀髪に…」

「おそらく….宝玉による魔王化が原因だろう」

「なるほど…つまり…」

「あぁ…」

魔王化…つまり神の鍵の一つの完成だ。

「やったぞっ!!」

「成功だ!」

「神に感謝を!」

「あぁぁ…神よ!」

白仮眠の信者たちがそれぞれ喜び始める。

それはクロイツも例外ではなかった。

「ふふっ……ふはははっわっははははは!遂に!遂に完成だ!感謝するぞ!キシシュウヤ!貴様のおかげで我々は神の園《アルカディア》に至ることができる!」

 

あとは勇者を召喚し殺させるだけ。

これまでの歴史の中で神の鍵を作ろうとしたのは一度ではない。

しかしならなぜ成功しないのか。

それは神の鍵の一つ魔王に至るまでに素材の体がもたないのが原因だ。

そして成功例はこの国ができてから成功したのは今回の一度だけ。自然発生する魔王もいるがそれでは圧倒的に格が足りないから神の鍵になることができない。

しかしここに完成した魂の格が高い人工の魔王。

しかも力も発揮できず隷属してあるまさに理想的な神の鍵。

そのはずだった…

 

パキャンッ

 

「ギャッ!」

「あがっ」

「ペキャッ!!」

 

キシシュウヤの近くにいた信者たちの頭が吹き飛び脳漿が飛び散り血の花が咲く。

「なんだ…!?」

「気をつけろ!!」

信者たちは慌て始める。当たり前だろう。

たった一瞬で約半分が命を散らしたのだ。

 

ヒャンッ

 

「あひゅっ」

また一つ血の花が咲く。

純白の部屋の祭壇は血で濡れて頭の無い死体が転がっている。

神の鍵を、魔王を、近づいて覗き込んでいた信者たちだ。

その折り重なった信者達の死体の上に白銀の髪を持つ男が立っている。

伸びきった白銀の髪の間に見えるルビーのような輝きを放つ瞳。

その姿は寒気がするほど美しく刃物のように鋭さと氷のような儚さをまとっていた。

自分たちが体をいじくりまわし人としての尊厳を踏みにじった相手。

神の鍵。悲劇の魔王キシシュウヤ。

ガラハットの首輪はその魔王の手の中で手が中でグシャリと音を立て握りつぶされる。

自分たちが施した地獄の改造によってもたらされた怪力に寒気を感じた。

 

すると足元を見ていたキシシュウヤは生き残り達に視線を向けクロイツに話しかけた。

「奇遇ですね。クロイツさん。僕も感謝してますよ」

丁寧な言葉だがそれが返って恐ろしさが増す。

冷たく鋭い鉄の様に感じる言葉だった。

「あなたたちのおかげです……あなた達のおかげで僕は力と機会をもらった…本当にありがとうございます」

そう言ってキシシュウヤはさらっと笑う。

生気を感じさせないほど儚い笑顔だった。

「なんの…機会だ…?神の鍵よ…」

クロイツは、警戒しながらそうたずねる。

「ふふっ決まってるじゃないですか…復讐ですよ」

そう言うとキシシュウヤを縛り付けていた鎖がクルクルと彼を中心に球体のように覆い始めた。

「僕は復讐をします。世界すべてに…僕はあなた達を許さない!」

 

ヒャンッヒャンッ

 

ふわふわと浮いていた鎖を作っていた鉄の輪の一つ一つがものすごいスピードで突っ込んでくる。

「ふぁっ」

「ギャッ」

次々と頭が吹き飛ぶ。

しかしクロイツはアティア教の枢機卿の一人だ。

危なげなく飛んできた鉄の輪を避け魔法を放った。

「光《ライト》の矢《アロー》!!」

光魔法第二階位の光《ライト》の矢《アロー》。

眩い光を放ちながら突き進む。鎖の輪と同じほどの速度を出しながらキシシュウヤ心臓に向かい。

貫いた。

キシの白い服に血が広がる。心臓を貫かれたのだ。

普通の人間なら致命的な傷だろう。

しかしそれで死ぬようならとっくに改造で死んでいるだろう。

「やったか!?」

「いや…まだだ」

そんな訳がない。

白仮面の信者が声を上げるがクロイツは冷静だったら。

これほどの力を持つ魔王が避けられないはずがない。避ける必要がないだけだ。

それはとても正しい答えだった。

「ふふっ痛いじゃないですか…クロアツさん…これ以上僕をためつけて何がしたいんですか?」

ジュルジュルと音をたてて傷が治る。

キシはその間ニコッと笑いながらクロイツを見つめていた

「…そう思うなら大人しくしていろ」

「あはっ!無理ですよっ!!」

そうキシが言った瞬間通常こっちに走り出してきた。

加速した衝撃に耐えられず足元の死体が弾け飛ぶ。爛々と血のような目を輝かせて突っ込んできた。

「くそっ!」

しかしクロイツも唯の人ではない。

即座に魔力を練り始めた。

すると白い古代魔法文字が魔法陣を作り上げられそこに魔力を通し魔法が発現させる。

「聖《ホーリー》なる輪《サークル》!!」

キシの拳が届く前になんとか魔法を完成させる。

しかしキシは構わず拳を振り下ろした。

 

グシャっ!

 

「ちっ…」

しかし流石にただの拳で第三階位の魔法は砕けない。

結界の外に血と肉がつく。

とんでもない力で殴ったからかキシの手は潰れて血だらけになっていた。

本来ならもう痛みで動けないはずだが彼は違う。

視線を腕に向けた途端またジュルジュルと音を立てながら色素の薄い手に戻る。

「…硬いですね」

キシは赤い双眸でクロイツを睨みつける。

「当たり前だろうが…ただの筋力で第三階位の結界にヒビを入れるとは…全くとんでもない化け物を作ったものだ…その上その鎖はただの鉄…くそっ魔王の力か…なぜ使える!?」

「あはっ友人のおかげです。まだ慣れてませんが…彼女曰く鉄の王というらしいです」

「鉄の王…八王の一つか…厄介だな」

「まだ使い慣れていないので未熟なものです」

くるくると瓦礫を弄びながらさらっと笑う。

そう彼はまだ力を正しく使えていない。

鉄の王の本来の使い方は鉄をはじめとするすべての金属を支配する力。形を変える事や平温での液状化や固形化極めれば気体に変えることもできる。

「そのようだな…ならば今が最大のチャンスとゆうことか…くくっならもう一度捕まえ逆らう気力がなくなるほどいじめてやろう」

「あはっこわいなぁ」

クロイツは練り上げておいた魔力を使い魔法陣をつくり右手を向ける。

まずは牽制のための魔法

「聖《ホーリー》なる雨《レイン》!!」

百発を超えるほどの光の雨がキシに向かって降り注ぐ。

「ちっ容赦ないな…」

しかしキシも大人しく食らうはずもない。

鎖を地面に突き刺し右足をあげ地面を踏みつける。

その途端めくれ上がった大岩を何本もの鎖で釣り上げ攻撃を岩を傘のようにして防いだ。

クロイツはその隙に近づいて斬り付けようとするがキシは白仮面の信者たちを殺した鉄の輪をクロイツに叩き付けようとする。

それに気付いたクロイツは近づくのを諦め右手の指にはめてある結界を込めたマジックアイテムに魔力をこめマジックアイテムを発動させた。

直後に光の四角形が生まれ鉄の輪を防ぎ切り指輪は役目を終え砕け散る。

その瞬間を狙ったキシが土埃を抜け右手を振り上げている。

しかしクロイツはすでに魔法陣に魔力を通していた。

「聖《ホーリー》なる恵《グレース》み!!」

幾多の光の玉が唸りを上げてキシに向かっていく。

「あはっ痛そうだっ…!」

近づくのを諦めそれを寸前のところでかわし続ける。

しかしその中の一つがまるでスタングレネードのようなものすごい光と音を出し爆発した。

 

バキィィィィンッ!!

 

キシは光と音の爆発で視界と聴覚を奪われクロイツを見失う。

「くそっどこに…」

その隙を見逃すクロイツではない。

即座に補助魔法と光魔法の結界をかけながらキシに突っ込んでいく。土埃を切り裂き見えたのはキシの背中。莫大な魔力と筋力を持っていても戦闘経験が皆無のキシなど百戦錬磨のクロイツには伝説の剣を持った小さな子供と老練の騎士に大差なかった。

どちらが強いかなんて聞かずともわかるだろう。

「そっちかよ!!…」

「もう遅い!!神《ゴッズ》の御髪《フェルゼ》!」

両手に光魔法でできた魔力の刃が発現する。

第四階位の魔法だ。

クロイツも神に選ばれた一握りの天才。

クロイツの両手が唸りを上げ両足を切り落とした。

 

ヒュンッヒュンッ

 

鋭い神の刃は魔を狩る。

「あがっっ!!」

聞こえてきたのはよく聞いた痛みによる悲鳴。

キシの支えを失った体は瓦礫と死体の山に倒れる。

「聖の磔《ホーリーバインド》!!」

その隙にクロイツは素早く光属性で縛り上げ頭を踏みつけ宝玉のある背中の位置に刃を少しねじ込む。

「ぎあゃっっ」

魂そのものを攻撃されたような痛みが走る。

「……残念だったなキシシュウヤ。調子に乗りすぎだ、あの時お前は直ぐに逃げるのが…正解だ」

「……」

爛々とした赤い目がクロイツを睨みつける。怨みが渦巻く血の目、絶望的な状況でもその目は揺るがなかった。

「ふん….忌々しい目だ。しかしこれでお前は終わりだ。勇者に殺されるその日まで生え続ける手足を切り落とし続けてやる。」

クロイツはキシを睨みつけてそう言った。

恐怖で歪むのを見てやろうと思っていたがキシが浮かべたのは口が裂けた壮絶な笑みだった。

「…何が面白い…」

「クロアツさん…何で僕があの首輪から逃げられたかわかりますか?」

「……魔王を隷属するには格が足りなかったのだろう」

「いえ、充分でしたよ。最初は確かに動けませんでしたしね」

おちゃらけた雰囲気を出しながらクイズのような気軽さで答える。

「だったらなんだ。もうお前の運命は決まった。あと陵辱され痛みと血の中で死ぬだけだ」

「わからないなら教えてあげます。ここだけの話実は、僕に味方がいたからですよ」

神の信徒の中に裏切り者がいた。

その言葉にクロイツは無意識に魔力を放つ。

「あっ違いますよ。クソ信者ではないから安心してください彼らは忠実に神様に従ってました」

「……では誰だと言うんだ」

キシの態度にイライラし始めたクロイツは左手を切り落とす。

「ぐっあっっ!!…ふっーふっー…すぐ怒る。

なら教えてあげますよ。ここから俺の番だ!」

そうキシが言った途端右手の鎖の火傷から血の色をした鎖が飛び出してきた。

「なっなんだと!!」」

クロイツは素早く逃げようとしたがクロデイルの血鎖が縛り付けて簀巻きにする。

「っこれはっクロデイルの血鎖!!なぜこいつが!」

「形勢逆転ですねクロイツさん」

手足が生えた白い魔王が立っている。

クロイツにとって絶望的な状況。

周りに人はおらずいるのはキシとクロイツのみで逃げられる手段もない。

「貴様っ!最初からこれを!」

クロイツはキシを睨みつける。

「まぁクロイツさんは俺を殺さないことはわかってたましたしね。あとは僕が痛みに耐えるだけ…近くに近づき油断さえしてくれればこっちのものです。その鎖は別格ですからね。逃げられないでしょ?」

「くそっ…貴様ぁっこれを外せ!」

クロイツは暴れるがカチャカチャと金属の音が響くだけ。キシはそれを見ず中央に視線を向け

「どうせだから同じシチュエーションにしましょうか」そう言って簀巻きになったクロイツを部屋の中央の祭壇の上に引きずりあげる。

「くそがっ!何かする気だ小僧!」

「いえなに、ちょっとした味付けですよ…」

「何を訳の分からんことを!自分が何をしてるのかわかってるのか!?私は世界最大の宗教、アティア教の!「五月蝿いジジイですねー。あはっ…もしかしてクロアツさぁん…この鎖の効果。忘れちゃいましたか?」

それを聞いた途端血の鎖を見てクロイツは顔を真っ青にしながら震え始めた。

クロデイルの血鎖の効果…

それは魂縛の禁呪。

永遠に魂を魂の牢獄に囚われ続ける事になる。

敬遠なアティア教徒のクロイツにとってあまりに残酷な仕打ち。

さして目の前の男に掛けた禁呪。

「思い出してきたみたいですねぇぇ!クロイツさぁぁぁん!!!今から行うことの先輩として経験談を語ってあげましょかぁぁ!嬉しいよなぁぁ?クロイツぅぅぅ!!!では!まずは、頭が割れるような劇痛がおそってきます!それと全身を焼かれるような痛み。とっておきはぁ魂を縛られる冷たい感覚と壮絶な恐怖ですよぉぁ!たのしみだぁなぁぁぁ!クロイツぅぅぅ」

キシにとって最高の復讐の舞台。

「やっ…やめてくれ……お願いだ!おへがいします!どうか…どうか!!」

人生のほとんどを神のために捧げてきた老人にとって魂縛により神の元に行けないと言うことは、激痛や死よりも恐ろしく残酷なことだ。

「ふふっふははっあはははっあはははっっ!面白いこといいますねぇ…やめるはずがないでしょ。大丈夫ですよぉ俺にした事に比べればまだマシな部類でしょうぅ。大丈夫死にはしません。そんなつまらない事はしませんよ。俺が殺してあげますから」

「やめろぉぉ!!やめろぉぉっ!!それだけは!せめてこのまま殺してくれ!!!」

クロイツは涙を流しながら懇願する。しかしキシが取り合うはずもない。ニヤッと笑いながら

「クロ…やれ…」

「やめろぉぉぉぉぉおおっっ!!!」

そう言った。

 

血と瓦礫と白の部屋に男の絶叫と狂気を孕んだ笑い声

が響く。

 

 

・・・・・・

 

 

「足りないな」

目を見開き白目を剥いた壮絶な表情を浮かべる老人の頭が転がって落ちたいく。

「足りない…足りなさすぎる…俺が奪われた物に対して死にかけのじじいとその他もろもろの有象無象の命なんかじゃ。俺は満たされない…奪われた幸せには足りない…」

瓦礫と屍の上に腰を下ろしながら頭を抱える。

血を流しながら望んだ結果、俺はクロイツを殺し一つの復讐を果たした。

しかし満たされない。

どうしても渇く。渇いてしまう。

あれほど復讐を渇望したはずなのに満たさなかった。

甘い復讐をしている時の万能感とそれをを終えた後の喪失感はまるで麻薬のようだった。

彼は世界を許さない。

殺したいほど憎んでいる。

しかしそれと同時にどうしても

……幸せになりたかった。

もうどんなものかも忘れてしまったが全て満たされていた時に戻りたかった。

かつて確かにあって世界に奪われた愛を…どうしても…

(シュウ…)

「…クロか?」

顔を上げるとふわふわと浮かぶ黒のゴシックロリータを着た十歳ほどの黒髪の少女がいた。吸い込まれそんなほど黒い髪と瞳。幼さとともに妖艶な雰囲気持っている。そして皮肉なことに少し…鈴香に似ていた。

「その姿は…本当にクロ?」

「…ふふっびっくりした?そうさっ愛しのクロちゃんだよ!」

腰に手を当て胸を張り、ババーンっ!と自分の口で言っている。

「ババーンって…その格好…一体どうしたんだ?いつもモザイクだったじゃないか」

「それはねーシュウが魔王になった時に漏れた魔王の力とクロイツの魂を食べたら少しだけ本来の力が戻ったんだよ!私からならシュウだけに触れられるようになったんだ。所でどうだい?けっこう、いやかなりかわいいだろ?」

うっふーんのポーズをとったクロ。

その可愛らしさに少し癒される。

「うん…かわいいよ。こっちの方がモザイクの数千倍

いい。」

暗い雰囲気を焼き飛ばそうと明るい声で喋る

「ふっふっふー。そんなに褒めないでくれよ〜もっと魂を喰えばクロちゃん大人バージョンになれるよ。ボンッキュンボンのないすばでぃーなんだからなー……それに…」

優しくふわっクロは笑った。優しい笑顔。

そしてクロは俺に近づいてぎゅっと頭を抱きしめてくれる。

「こうして…触れられる…」

ずっと忘れていたから、ずっと前に失ってしまったから、何をされたのかわからなかった。

久しぶりに感じる人の温もり。

いつ以来だろう…。

クロは静かに優しく悲しい銀髪を撫でる。

血の色をした瞳が涙で揺らぐ。

「君は幸せなならなければならない…」

「……クロ…ずっと気になってたんだ」

「ん?」

「どうしてクロは、俺に優しくしてくれるんだ?」

そう聞くとクロはバツの悪そうな顔をしながら頬をかきながら言った。

「そうだな…バカな不器用さがなんだか愛おしくてね…これが理由さ…」

「あはは…変な理由だ…変な…」

そして頬が濡れていたらことに気づいた。

すると涙と嗚咽は止まらなくなった

 

 


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