鉄の王   作:サボ吉

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三話 黒と開始

 

 

真っ暗な所。

上も下も曖昧でまるで宙に浮いているようだ。

どこを見ても黒の視界の真ん中に輪郭が曖昧な黒い人型のモザイクが立っている。

身長は子供ほどの高さだ。

 

「やぁやぁこんにちは」

 

まるで小さな女の子の声にエコーがかかったように間延びして聞こえる。

不気味な存在。

 

「ここに人が来るなんて久しぶりだよ」

顔はモザイクで見えないが笑っているのは分かる。

 

「君も災難だねぇー。こんなところに閉じ込められちゃうなんてさ」

モザイクの少年はやれやれといった風に肩を上げる。

 

「ここに閉じ込められた理由は大体想像つくよ。かわいそうに」

そう言ってため息をついた。

何と人間味のあるモザイクだろう。

 

「あっそうだねそうだねまだ閉じ込められてないね」

声をあげてバカにするようにパチパチと拍手をする。

 

「ふふっふふふっよかったね。よかったね。まだ助かるかもしれないよ」

 

モザイクの少女は何を言っているのだろう。

もうろうとして起きているのかあいまいな感覚

まるで夢の中にいるようだ。

 

「違うよ。夢じゃないよ。」

 

返事が帰ってきたことに驚く。

喋ってないはずだけどわかるのか?

 

「そりゃあねここは魂だけしか来られないから肉体がないのから直接伝わってくるんだよ」

 

「不思議空間の不思議な法則さ」

 

お前は喋ってるじゃないか…

 

「僕は特別なんだよ」

 

ふーん…ところでお前はなんだ?

真っ黒なモザイクしかわからないんだけど

名前とかないのか?

 

「ん?ぼく?ぼくのなまえかー」

 

うんうんと唸りながら考えている。

そして見えないのにニヤリと笑ったのがわかる。

 

「ふふっまぁいいよ。クロってよんで」

 

黒い空間だから黒…

単純な名前だなぁ……

 

「まぁいいじゃん」

 

いいけど…取り敢えずここはどこなんだ。

 

「ここはね。んーなんといったらいいか…魂の牢獄って言ったらわかりやすいかなぁ」

 

魂の牢獄…俺は死んだのだろうか…

 

「ううん、かろうじてまだ大丈夫だよ。良かったね。でもね死んじゃうとね。ずーーーーっと中に閉じ込められちゃうんだよ。君は捕まってしまったからね血の鎖にさ」

 

あの鎖か…

あの白い空間の中で襲いかかってきた血の色をした禍々しい鎖が脳裏に浮かぶ。

 

「多分それだね。アティアの売女が作った禁忌の一つさ。まぁあれはここに閉じ込めるため一つの鍵でまだ他にもあの鎖のような鍵はあるけどとんでもないもんだよねぇ」

 

アティアの売女…

つまり…出られないとゆうことか?…

 

「そうだなぁ、魂だけの存在つまり死んだあとなら出られないけど君はまだしんでないからねぇ。向こうで目が覚めたら向こうに戻れるよー。それがいいことなのかは、知らないけどさー。あと売女は気にしない気にしない」

 

おちゃらけた様子でニヤニヤしながらこっちをみる。

 

俺はどうなったんだ?

 

「うーんなんてゆうか雌豚のアティアのクソ傀儡どもにこの世界に連れ去られちゃったんだよーいわゆる召喚てやつだねーかわいそかわいそ」

 

クスクスと口を隠しながら笑う。

 

召喚…?異世界に?

 

「そそっ君を呼び出したんだよー。あっ、まだ言ってなかったね」

 

モザイクの少年はこっちを向き直していった。

 

「ようこそ我が家へ、ようこそ異世界オゼへ、歓迎するよ異界の旅人キシシュウヤくん♪」

 

そう言って嫌味ったらしいニヤニヤを浮かべながら両手を広げる。

なんだか腹立つ…

 

「ふふっもっとおしゃべりしてたいけど…残念、どうやら君にお迎えがきたようだねぇ。きてしまったと言うべきかなぁ」

 

そうモザイクが言った途端、意識が引っ張られる感覚が襲ってくる。

 

なんだ!?どうなってる!?

 

「またねぇキシシュウヤ」

 

そうしておれは消えた。

 

・・・・・・

 

「ふふっあははっ」

 

久しぶりに来た魂

彼の魂はいびつに見えた。

僕はそれが面白くて笑いが止まらない。

 

「ふぅーまたアティアの後継者はまたとんでもないのを呼んだなぁ」

 

彼には言ってないし言う必要もないがこの場は魂そのものの形で現れる。

僕はこの牢獄そのものだから、僕はモザイクとして現れるが。

まぁそれはいいでしょ

 

「何とまっすぐでねじれていびつな形だ」

どうしたらあぁなるのかわからない。

さして巡ってきた最高のチャンス

 

「ふふっこれは面白くなりそうだ。」

 

かつて勇者と言われた者と一人の魔王の記憶

忌まわしき血の記憶

 

僕は彼が歩むこれからの物語に思いをはせた。

悲劇となるか喜劇となるか

 

どちらもハッピーエンドとは程遠い

 

・・・・・・

 

 

光が目に差し眩しさで顔を歪める。

 

ここはっ…確か俺は…

 

なんとか目をひらく。

眩しさで目の奥がツンとなる。

そこは純白の部屋。

清潔感よりも不気味さを感じさせられる。

 

ここはどこ…

 

理解の追いつかない状況と不安で頭が働かない。

目を刺していた光を隠すように黒い影が伸びてきた。

 

「おおぉ、目覚めたか!神の鍵よ!!」

 

そして飛び込んできたのは白ひげの男

目尻にはシワが何本も刻まれ男がそれなりの年齢を重ねてきたことがわかる。

何より特徴なのはその豊かな髭だ。

胸元まで伸びた白い髭はひかりで反射してキラキラと光る。

高級そうな白色の法衣をまといそれなりの地位になる人物だとわかる。

まるでサンタクロースのように優しそうな顔だ。

それだけならまだましだ。

しかし、今俺の体は何本もない革ベルトで手足や首、腰、胸そして口までも固定されている。

冷たい恐怖を感じた。

 

「初めまして神の鍵よ。私の名前はクロイツ・リ・ウォーレンという。アティア教では枢機卿として神にお仕えるさせていただいている者だ」

 

アティア教…あのモザイクが言ってたのはこいつらか。

つまり召喚したのは…

 

老人は節くれだった指で俺の顔を撫でる。

 

「あぁ愛しい我らの救世主…!我らを神の園《アルカディア》まで導いてください!」

 

クロイツといった老人が目を血走らせ興奮しているように息を荒げている

俺はその様子に不気味さをを感じ逃げ出したくなる。

 

「んんーっっんんー」

 

俺は暴れるがガチャガチャとベルトが音を出すだけだ

猿轡のせいだ声も出ない。

老人は振り返り後ろに控えている白衣と白仮面をつけた男たちを見た。

 

「アティアの愛子よ。これより鍵の製造を再開する!!アティアの名の下に!」

「「「アティアの名の下に!」」」

 

信者たちが一斉に跪く。

そしてクロイツがこちらを向き話し始める。

 

「神の鍵よ。まずは、魔力を増やすことから始める。異界の者には魔力、つまり魂の器を満たす力がない。なぜなら魂の器が小さ過ぎるからだ、そなたの世界には魔法がないのであろう?

本来ならば魔法を使いながら少しずつ増やすのが常識だが…しかし我々には時間がない。無理やり魂の器を広げさせてもらう。大丈夫だ。安心しろ。バルハバルの祭壇の効果でお前は死なない。痛みはあるがな…」

 

目を細めながらクロイツはそういった

その言葉に俺の背中はツーっ冷たくなる。

魔法や魔力の存在を知らない素人だが魂や魂の器を無理やり広げる事の恐ろしさは伝わる。そしてそれが自分に行われるのだ。

突然異世界に召喚され魂を縛られこの純白の祭壇の上に拘束される。

そのことだけで岸秋也の心は恐怖で埋め尽くされていたが聞くだけで恐ろしくおぞましいことを今から始める。

そう思うと自然と涙が出てくる。

そのことを誰も笑うことは許されない。

なんで俺なんだ。

俺が何をした。

悪いことなんかしてないのに。

降りかかる理不尽に幼稚な疑問が溢れ出る。

頭が働かない。

動悸が止まらない。

涙が止まらない。

足音が近づいてくる。

唯一動く目を動かす

すると黒い兜のようなものを被せようとしているのが見えた。

兜の中は墨をぶちまけたような闇で満たされている。白仮面の男の一人がゆっくりとそれを丁寧におろし頭にはまり目もいっしょに隠される。

 

やめろ…

「っんん!んんん!っー」

 

カチャリ

 

やめてくれ、やめてくださいお願いお願いします

 

「……始めるぞ」

 

悲劇は止まらない

あとは底のない崖を転がり落ちるだけ

 


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