鉄の王   作:サボ吉

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二話 白と鎖

 

ここは…どこだろう…

まだ目は閉じたままだがまどろみの中でかすかに意識が戻り始める。

ふわふわとした感覚が全身を包み柔らかな暖かさで包まれている。

そうだった。

俺は突然の頭痛で死んだのだ

あれが噂に聞く脳卒中なのかもしれない。

俺は医者でもないし知識もないが脳卒中になるような高血圧でもないしまして高齢でもない。

ぴちぴちの16歳だ。

その上一人暮らしだったが不摂生な生活もしてない。

でも結果死んでしまったみたいだな。

16で脳卒中で死ぬとは我ながらなかなか不幸な人生だとなんだか笑える。

そんなふうに自分自身を笑う。

ここまでくると笑い話だ。

つまり死んだと言うことはここは死後の世界そしてこの暖かな感じきっと天国だ。

天国に違いない。

自分で言うのもなんだか結構真面目に生きてきたし大した悪いことはしてない。

せいぜい子供の頃のイタズラ程度ださすがに神様もイタズラで地獄に落とすなんて酷い真似はしないだろう。

死んだ後に考えるのは幼馴染の二人の事。

あいつら悲しむだろうな。

そのことが死んでしまったことで一番悲しいことだった。

俺にとってあの二人はやっぱり大切な存在だったみたいだ会えないと思うと悲しくなる。

それが唯一の後悔だ。

もっと一緒に居たかった、話したいことたくさんあった、二人に認めて欲しかった。

そんな気がする。

あの二人には幸せになってほしい、死後の世界から見守ることにしよう。

 

でもなぁ俺童貞なんですよね。はぁ…

彼女欲しかったなぁ

 

そんな事をアホな高校生らしいことを考えていると暖かな気配が薄くなっていく。

その代わりどんどん冷たく鋭い気配が強くなっていくきそのことに強い嫌悪感を抱く。

自分の魂を汚されていくような感覚。

なんだ?

何かがおかしい

すると突然漂っていた白い空間が揺らぎ始め暗い穴が開いた。

この白い空間の中で明らかに異質であってはならないもの。

その闇の穴は、まるで全てを飲み込むように大きな口を開けている。この穴に入ったらダメだと言うことがなんとなくわかる。

その場から離れようとしたそのとき、

その穴から血の色をした鎖が飛び出しおれの右腕に絡みついてきた。

明らかに普通ではない。

見ただけでわかる。

逃げなければ

逃げなければならないこの得体の知れない鎖から逃げなければならない。

俺は慌ててその鎖を解こうとするが肉を巻き込みきつく絡みついてビクともしないな

すると次は、脳卒中の時のような頭痛が襲う

 

またか!!死んだんじゃねぇのか!!

くっそっ!!

何なんだよっ!これっ!

くそっ痛てぇ!

 

この空間では助けを呼ぶ声も頭痛に苦しむ声も音にはならない。

死んでもなおあの痛みを感じさせられるとはこの世界は俺に残酷だ。

痛みのせいで対抗する気も起きない。

そうしておれは鎖に掴まれたまま黒い穴に落ちて魂は体に引っ張られていく。

そして体に魂が戻った。

祭壇の上には血の色をした鎖に縛り付けられた傷ひとつない黒髪黒目の男の体。

しかしその体に行われているのは人類の負の遺産による禁忌。

魂縛の禁呪。

それによる副作用としての激痛が俺の魂と体を襲われ身体中に焼けるような熱と絶え間なく続く頭痛が走る。

 

「ががあぁぁぁぉあぁ!!!」

 

獣のような絶叫。

目玉が飛び出るほど見開き唾液を垂らす。

白い空間の倍は激しい痛みが体を襲い魂を汚す。

俺を痛めつけるために1秒が引き伸ばされたような感覚。

時間まで俺の敵になったようだ。

さっきまでの幸せな感情が嘘のように黒くドロドロとした感情に塗りつぶされていく。

だめだ。

これはいけない。

痛みと恐怖に耐え切れず逃れようとするがガチャガチャと金属の音どうやら手足や体を拘束されているようだ

痛みに耐えきれず暴れることも許されずただ痛みと禁呪による絶え間ない蹂躙。

涙と鼻水や失禁て身体は汚れている。

正に地獄とはこうゆうものなのだろう。

あぁ犯されていく。

あの暖かな白い空間にもどりたい。

 

「がぁぁ!!ゃめで!だずげぇぇで!!!アアァァァァ!!」

 

魂を縛られるその感覚が俺を襲う。

ガチャンッ

 

そんな音とともに俺はまた意識を手放し魂の安寧を失った。

 

 

・・・・・

 

 

神聖アティア教国

聖都アズーロから南東に向かって馬車で一週間の位置にその場所はあった。

テラーサの丘

そこは、聖人アティアが神敵バルバトスの首を槍で突き刺し神に捧げたと言う聖地だ。

そして今現在は神聖アティア教国の国教アティア教から見た邪教徒や神の敵として判決を下された罪人たちが処刑される場所となっている。

ここで邪教徒や罪人を殺すことはアティア教の最大の誉れであり神の信徒の証明とされている。

そして同時に最も恐れられている場所だ。

テラーサの丘は辺り一面血と土の色が混ざったような赤銅色の土が多いつくし草木一本生えない不毛の地となっている。

アティア教が誕生してから約千年間、三日と開けず神敵バルバトスのように頭を槍で突き刺すという方法で処刑されている流れた血のせいで生命を全く感じない聖地。

その呪われた死の聖地テラーサの丘に大きな砦が立っている。

その名はストラ砦。

そこには常に罪人が集められているが今は違う。

今ここでは処刑など生温い唯の救いの方法にしか見えないほどのことが行われていた。

 

ガチャンッ

魂が縛られる音がする。

絶望の音だ。

 

目がさめるほど冷たい沈黙がその純白の部屋を押しつぶす。

 

「…クロデリアの血鎖…による魂縛…成功……」

 

聖人アティアが魔女クロデリアの腸を使い魔王を縛り封印したとされる聖遺物だ。

その聖遺物は長い時間と信仰で禁呪の効果を持った物。

それがクロデリアの血鎖だ。

その神話級《ミソロジー》のアーティファクトによる魂縛の禁呪の成功。

つまりこのキシシュウヤは死してなお、神の御許に至らず永遠に救われない無限を味わうことになる。

目の前で自分たちが行なった悪魔の所業。

白衣の男たちは目を背けずにはいられなかった。

神の御許に至れないとゆうことは、この敬遠なアティア教徒達にとってこれ以上ないほど恐ろしい事だ。

しかも、このキシシュウヤにはまだやらなければならないことがある。

魂を広げ魔力を増やし肉体を人族のものより伝説の魔族に近付けなければならない。

 

全ては神の園《アルカディア》へと至る鍵にするため。

 

そのことを思うと白衣の男たちはこの異界の少年に対して同情を抑えられなかった。

それと同時に自分たちがこの息子ほどの年齢の子供に対して行わなければいけない処理のことを思うと途端に恐ろしくなら始める。

その場で紙に祈りを捧げ許しをこうアティア教徒たち。

どうかこの少年に救いがあるようにと無責任なことを願うのだった。

 

「ふふっふはは!!成功か!よし!よくやった。明日の明朝に鍵の製造を再開する!」

 

豊かなヒゲを蓄えた老人が大声で指示する。

おそらくキシシュウヤの世界の者が見るとサンタクロースのように見えるはずだ。

しかしその優しい風貌とは真逆の所業をキシシュウヤに与え続けるアティア教の狂信者だ。

 

「クロイツ枢機卿!お待ちください!!この状態の少年に明日は早すぎます!せめて3日後からでないと少年がキシシュウヤの体がもちません!」

 

慌てて祈りを捧げていた白衣の男の一人がクロイツという老人に意見を申し立てる。

しかし少年の体が持たないと言っているがキシシュウヤに施された魂縛の禁呪は身体的にはなんのダメージも与えてはいない。

与えるのは禁呪に対しての膨大な恐怖と仮想の激痛だけだ。

この男は禁呪を見て少年に同情をしだいていた。

しかし、結局この少年に処理を行うのだからこのクロイツと同じ穴の狢だ。

信者としても人としても未熟さを見せてしまう。

 

「何を言っているのだ?禁呪による肉体的なダメージはないはずだあるのは精神的苦痛だけだろう。神の鍵はまだ未完成だ。何より聖都では勇者召喚の準備が始まっておるのだぞ。むしろ早くしなければ召喚までに間に合わん。そもそも少年ではない。神の鍵だ。愚か者!」

 

そう言ってクロイツ枢機卿はその男を叱咤する。

 

「しっ、しかし」

「そもそもこれはアティア様の神託だぞ!!!我々は神の敬遠な使徒としてこの試練を乗り越えねばならぬのだ!!」

 

そう言ってクロイツ枢機卿は目を大きく見開き血走らせながら大声で叫ぶ。

そのクロイツ枢機卿の試練という言葉により神に祈りを捧げていた白衣の男たちははっとする。

そうなのだこの少年に対する同情や自分の行う所業への恐怖は試練なのだ。

これは悪魔の試練。

この《鍵》は私たちを貶めようとしていると、すると男たちの顔からは同情や恐怖は消え失せ神の信徒はとしての責務を果たそうと固く心に誓うのだった。

 

そうしなければ人間性を保てない。

どこの世界も人は信じることで救われる。

なんとも無情な事実がそこにはあった。

 

「いいなぁ!!アティア教の敬遠な信者たちよ!!これは試練なのだ!お前達の神への忠誠を示せ!」

「「「「はっ」」」」

 

この偉大なる神に捧げる忠誠は異界の者のキシシュウヤにとって悪夢でしかなかった。

 


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