鉄の王   作:サボ吉

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人生初めての小説です。
よければ読んでください。

小説家になろうから移転しました。
小説家になろうにも掲載しています。


一話 友と始まり

風が強く吹いている。

地平線に沈んでいく夕焼けの色をした木の葉が砂と一緒に俺の背中を撫でその風の肌寒さに秋の気配を感じながらも俺は目的の場所に向かう。

グラウンドと校舎の間の道。

入学以来ほぼ毎日のように通るから慣れたものだ。

グラウンドに響く野球部の声。

カキーンと白球が空に向かって打ち上がる。

その騒がしい放課後の中で、スーッと耳に入るフルートの音が聞こえる。

どこまでも響いていきそうなその音を目指して歩いていく。

いつもと同じあの場所だ。

名前のわからない大きな木の下、小さな影ができてグラウンドを一望できるあの場所。

彼女はその場所を好きだと言った。

そして見えてくる夕焼けの光でキラキラと光るフルートを持つ少女。

背中まで届く黒髪を風になびかせている。

少し遠くからその姿を眺め小さな満足感を得る。

 

やっぱり綺麗だ。

 

少女はすっと大きな目を細めここではないどこかを見つめるように遠くを見ていた。

その整った顔立ちの少女の容姿はまるで刃物のような鋭さと冷たさを感じさせる。

滑らかに動く細い指、メトロノームに合わせて時を音で刻み時間に美しさと鮮やかな色を残して消えていく。

彼女は、俺の幼馴染の神崎鈴香《かんざきすずか》。

俺にとって大切な存在であり片思いの相手。

そんな彼女をずっと見ていたいがそれではまるでストーカーさんだ。

風で流された木の葉は踏みつけ向かう。

すると彼女は、こちらに気づいたようでこっちを見た。

 

「何じっと見てるのよ…」

 

でもやっぱり怖いな。

その端正な顔立ちを不機嫌そうにしてこっちをみた。

 

「いやー聞こえてきたからさ。見にきただけだよ」

 

おちゃらけた雰囲気を作り毎日のように繰り返す言い訳を吐く。

俺はこの絵のような光景を眺めていたいだけなのに。

情けなくて笑えて来る。

眺めることしかできないのだから。

 

「それしか言わないじゃない。どうせ私たちと一緒に帰りたいんでしょうが」

 

答えを聞かずに呆れ顔で持っていたフルートをケースに片付け始めた。

 

「まぁね、俺友達少ないし」

「はぁ、しゅう一人なの?ゆうまは?」

「学級委員の仕事で遅れるとさ、ほら文化祭とか色々あるし」

「そうなんだ、しょうがないねいつもの場所で待てばいいの?」

「うん、すぐ来るって」

「ふふっじゃあこっちも急がないとね!」

 

鈴香は嬉しそうに笑う。

俺に向けた不機嫌そうな顔と大違いだ。

その笑顔を向けられる相手にどうしても黒い感情が生まれる。

そしてその感情を生み出す自分自身が嫌になる。

いつもだ。

近いのに果てしなく遠く、そして手には届かない。

 

「ハイハイ、急げ急げ大好きな彼が待ってるよ」

「うるさい!言われなくてもいそいでるよ」

 

そう言って照れたように声が大きくなる。

やっぱり好きなんだよな。まぁわかるけど

この鈴香と悠馬は恋人同士だ。

そして俺の大切な親友で家の近い幼馴染でもある。

この二人は学校でも有名な二人だ。

一つの理由としてその整った顔立ちそして成績優秀、スポーツ万能、

もう嫌味かっ!てほど完璧だ。

天は二物を与えずとあるが俺は信じたことはない。

それに比べ俺は、平凡もいいとこ。

少し身長は高く178㎝と少し高めだが、部活には入らず肉体労働のバイトで汗を流し灰色の青春を過ごしてきた高校3年生だ。

小説が好きだからか国語の成績はなんとか勝てるが自慢はするつもりはない。

この二人と幼馴染と他の人に言うと驚かれる事が多々ある。

何度紹介してくれとか告白に協力してくれと頼まれたか…そこそこ辛い。

完全に腰巾着状態だ。実際、影でそう言われてるらしい。

反論できないから情けなくて笑える。

 

「ないぼけっとしてるのよ。片付け終わったからいこ」

 

オレンジ色のシャイニーケースを肩にかけ自分のカバンも持って準備万端だ。

待ってくれるのだからやっぱり嬉しかったりする。

二人が付き合い始めてから別で帰ろうか?と聞くと二人とも気にするなって笑ってくれる。

本当にいい奴らだ。

しかしクラスのほか人たちには俺が邪魔してるように見えるらしく何回も怒られた。

俺もそう思うかな無効にしたらなおさらそう見えるだろう。

 

「わかったよ」

 

俺と鞄をかつぎななおし校門近くの自販機に向かう。俺たちはいつもここで待ち合わせをして帰ってる。

二人して近くのベンチに座りお気に入りのコーヒー牛乳を飲む。

穏やかな時間だ。俺はこんななんでもない時間を愛している。

愛すべき日常。

そう愛すべきなのだ。

 

「ねぇ、きいてる?」

「ん?あぁ聞いてるきいてる、悠馬と一緒の学級委員でしょ?大丈夫だってお前が心配するようなことなんてないよ」

「そ、そうかな…でも私、気が強いし…その…お淑やかじゃないじゃないし…だから…」

 

自覚あったのかい…

そう思うならもう少し俺に優しくしてほしいもんだ。

言わないけど。

 

「はぁ……安心しろよ委員長さんよりもお前の方がかわいいし器量は上だ。」

「そう…?」

「そう」

わかってるのかわかってないのか。

ウケる。

「えっと…その…ありがと…」

「どういたしまして」

コーヒー牛乳が苦く感じた。

「あっ!ゆーま!」

少し待っているともう一人の親友がきた。

「よっ待たせたな」

そう言って綺麗な顔立ちを優しげに笑う。

夕焼けの光が後ろから差し光り輝いてるように見える。

こいつが俺の親友、佐藤悠馬《さとうゆうま》

成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗と三つ揃ったイケメンだ。

「遅かったな、そんなに大変だったのか?」

「ん?まぁそうだな。文化祭のアンケートの集計とか色々な」

「そんなんだ。お疲れゆーま」

「おう、鈴香も練習頑張ってたな。教室に聞こえてきたぞ」

「そう?ふふっありがと」

そう言って二人は微笑みあった。

「大変そうだな、二人ともお疲れ様だ。」

「ありがとさん。あっ秋也もし暇なら文化祭とか手伝ってくれない?」

そう言って悠馬はこっちを見る。

「手伝い?まぁ暇だしいいけどステージで前やった一人モノマネ大会とかやめてくれよ。」

「わかってるって考えなかったこともないけどしなくていいよ」

「考えたんかい!」

 

どこかの芸人みたいになんでやねんを繰り出す。

もうこの動きも慣れたもんだ。

 

「あははっ冗談だよ。でも俺は好きだけどな秋也のモノマネ、結構にてるよ」

「おっまじで?きいたか鈴香?似てるってさ」

「あははっ確かに数学の谷崎先生のモノマネにてたね。くだらないけど」

 

そんな感じにくだらない会話をしながら三人で歩く。ちなみに数学の谷崎とは会話するたびねぇと必ず言う中年だ。

悠馬曰く一回の授業て平均を200回近くに言うらしい。

あいつもアホなことを調べようとするもんだな。

何処かでカラスが鳴き太陽も隠れ始め段々と薄暗くなる。

空は夕焼けの燃えるような赤色と夜の暗い青色が入り混じってまるで戦争してるみたいだ。

俺はこの時間の空が好きでよく空を見上げる。

空には控えめに光る小さな星屑が見えた。

 

「大変だったんだからなー」

「ふふっそうなんだえらいえらい」

 

細い道に入りいつの間にか前で肩が触れ合うほど近くで歩きお互いに笑顔を向け合う二人の後ろ姿を見ながら歩く。

見たくもないものはどうしても俺の前を歩き続けるのだ。

全てにおいてこの二人はそういうものなのだ。

使い古し垢まみれになった嫉妬と劣等感を飲み込みこの場から去る。

お互いにとってそれが一番いいはずだ。

 

「あーあれだ。スーパー今日特売日だったんだ。だから先に帰るよ!」

 

なんでもないようにおちゃらけた雰囲気を作り明るく笑いながら二人に伝える。

 

「ん?そっかーわかったよ。じゃまた明日な!あっ前話したマンガ貸すから後でうちこいよなー」

「そう。わかったわまた明日」

「悪いな じゃあなお二人さん!イチャつくのも大概にしろよー」

 

そう言ってスーパーの方向に曲がり二人になる背を向ける。

冷たい風が頬を撫でカラカラと音を立て木の葉が踊る。

早く去りたくて早歩きで歩く。

どうしようもなく溢れ出てくるイライラを捲れたコンクリートにぶつけるために蹴ってやった。

コツコツと転がりながらぽちゃんと音を立てて溝に落ちる。

 

ははっざまぁみろ

 

我ながら器の小さい男だ。

二人の歩く方より大きく遠回りしてマンションに向かった。

ボロい二階建てのアパートの一部屋が俺の家だ。六畳一間風呂なしアパート

 

「たーだいまー」

 

返してくれる人はないが小さい頃からの癖でそう言った。

しんとした静かさが冷たさを感じる。

昨日の晩飯の茶碗を水につけたまま放置してあり蛇口からぽちゃんと水滴が落ちる。

少し臭ったから電気といっしょにグオングオンと耳障りな音を立てる換気扇をつけ冷蔵庫をあさる。

カンカンと音を立てて蛍光灯が 途切れ途切れに光る。

少し前からこの状態だ。

そろそろうざくなってきた。

 

「もやしもやしっと…」

 

冷蔵庫の中は結構寂しい状態になっている。

ほとんど調味料だけだ。

あと腐りかけの牛乳。

 

「あれーこれは本当にスーパーに行った方が良かったんじゃ」

 

その場を去るための言い訳に使ったわけだがもやしと調味料だけの状態をみてそんなふうに思ってしまう。

どうしよ。

今日使った言い訳のせいで明日スーパーに行きにくくなってしまってなんだか心が沈む。

冷たいドアノブをひねり散らかった部屋の中に入る。さっきまで着ていた学ランの上着を床に脱ぎ捨て、別にみたくもないテレビのプロ野球をBGMにしながらベットに転がり天井を見上げる。

俺は、高校に入った時から一人暮らしをしている。

慣れない料理も自分でしてるし結構寂しいけどあの家よりましだ。

ちゃんとバイトもしてるし多分大丈夫。

これ以上あまり迷惑はかけられない。

一応あの家族にも感謝してるんだ。

 

そう思いながら目を閉じる。

 

あの二人が付き合い始めたのは高校入学して少し経ってからだ。

親友と好きな相手の恋愛相談をしてあの二人をくっつけるのには結構貢献したと思う。

幸せそうな二人を見てると嬉しかったり悲しかったりする。

どれが一番だ大きな気持ちなのか自分でもわからない。

でも、やっぱり小さい頃から一緒に遊んでた大切な幼馴染たちだ。

きっと嬉しいのだと思う。

昔は二人とも俺の後ろをついてきていた。

その三人でいろんなことをした。

たくさんイタズラをした。

鬼ごっこで近所を走り回り虫を捕まえ海に行き秘密基地を作ったりした。

今思えばあの時が一番輝いていたかもしれない。

いつも三人で遊んで俺がリーダーみたいで中心になっていた。

鈴香と結婚の約束とかも小さい頃はした。

あいつは覚えてないけど。

そして小さな小学校を卒業して中学に入ると思い知らされた。少しずつ大人になるにつれ二人と俺の差は広がっていって俺はおちゃらけたように誤魔化すのが上手くなった。

今では近くにいるけどとても遠い、そんな感じが拭えない。

二人の場所は俺には高すぎる

そんなくだらない暗い感情を抱える俺を二人は変わらず仲良くしてくれる。

俺にとっても二人はかけがえのない大切な存在だ。

 

「はぁ…何食べよ」

 

夜からバイトが入っているからしっかり食べないと体が動かない。

面倒くささを感じながらもスーパーに向かう準備をする。

水を含んだ真綿に包まれているような息苦しい毎日これが俺の日常だ。

すると遠くから6時を知らせる放送と音楽が流れるかあちゃんが小さい頃よく歌ってくれた歌だ。

その時だった。

 

「あがぁっっっ!!!」

 

突然とてつもない激痛が頭の中で暴れまわる。

目の前が弾けたように真っ白になった。

頭の真ん中に焼けた石をいきなり入れられたような痛み。

今までの人生で一度も感じたことはないし感じるとしたら死ぬ時だけだろう

目の前も世界全体がひっくり返されたようにグオングオンと回る。

頭痛とかそんなレベルの問題でないことは考えなくてもわかった。

このままじゃ死ぬ。

それだけは確かだ。

生物としての生存本能が大きな音を立てて警鐘を鳴らす。

耳鳴りや目眩のせいで平衡感覚が奪われ床に崩れ落ちる。

目の前が赤く染まる。

はたから見れば目や耳から血が流れる泣いているよに見えただろう。

ただそんなことは今の俺にはどうでもいいことだった。

永遠とも思える時間が流れていく。

次第に体の感覚も薄れ痛みも弱まる

 

「だ…れっか…」

 

多分死ぬのだろう。

今思えばいいことはあまりなかった。

たった一人の家族を失い劣等感にまみれて腫れ物のように過ごす日々だった。

あの柔らかさと優しい微笑み愛されていたという事実が嬉しかったあの時。

光に満ち溢れ希望に満ちたあの時。

 

あぁ死ぬのか。

 

「かあ……ちゃ…ん」

 

意識せずにそんな言葉が出る。

最後の言葉がそれではあまりに閉まらないだろうに。

そんなことを思いながら薄れる痛みの中俺は意識を手放した。

 

 

・・・・

 

 

どこかの世界の

どこかの星の

どこかの大陸の

どこかの国の地下には

純白の部屋があった。

 

四方を継ぎ目のない部屋は清潔感より不気味さを感じさせるほど神経質なまでも白さだ。

その部屋の中央にある手術台のように人一人が寝られるほどの祭壇がある。

その祭壇もまるで穢れを知らない初雪を固めたように白くまるで奇跡から生まれたような美しさ持っている。

その祭壇の上で光が白く輝き白の部屋ひかりで満たしていた。

 

「はじめろ」

 

どこからかそんな声が聞こえる。

年老いた老人の男の声だ。

その男白く豊かな髭をたくわえ白い法衣をまとっている。

顔を隠している仮面も白だ。

この白だらけの空間では目立たないはずがどこか目が離せないほどの存在感を放ち細身の体が大男のように大きく見える。

 

「はっ」

 

まわりにいる男たちも同じように白の法衣に白の帽子に仮面と明らかに普通の雰囲気ではない。

それぞれ法衣の背中には円を一本の棒が貫いている金色の印をつけている。

男達が動き出した。

 

「魔力供給異常なし」

「次元固定完了」

「座標軸の固定完了」

「対象補足並び身体固定、精神固定完了」

「バルハバルの祭壇魔力充填完了まで残り10%」

「対象の身体に異常を感知このままでは死亡します!」

「充填いそげぇぇ!!!この機会を逃してはならん!」

 

老人が叫ぶように男たちを叱咤する。

 

「充填完了!バルハバルの祭壇発動!!!」

 

キュィィィィィィィィィィン

 

甲高い音が次第に大きくなっていく。

白い部屋を満たしていた光がさらに輝きを増し男達は皆顔を隠してその光に耐える。

バンッッ

大きな音と共に光が消えまわりが見えるようになる。

祭壇の上には先ほどまでなかった物が横たわっていた。

黒髪黒目の男だ。

身長は高く180㎝近く手足も筋肉質、顔は平たくそれ以外は特徴のない平凡な男だった。

しかし、右足は時空を超えるのに耐えられなかったように赤く潰れてもはや足かどうかもわからない。

顔も血で濡れている。

目や耳から血を流しているようだ。

どこからどう見てももう助からない命にしか見えない。そもそも今生きているかも怪しい。

しかし、この世界の常識は違う。

 

「召喚成功…!」

「回復魔法いそげ!」

 

中央に佇んでいた大きな存在感を放つ老人の横にいた少女が無表情に黒髪黒目の男に手を向けた。

すると手のひらを中心にして白色の古代魔法文字《ルーン》で作られた魔法陣が広がる。

 

「極大回復《エクストラヒール》」

 

光が体を包み時空転移のせいで潰れていた足が時間が巻き戻るかのように治る。

これほどの回復魔法となると人族の選ばれた天才のみに許された第4階位になる。

しんっと沈黙が訪れる。

 

「あぁあぁぁぁ」

 

老人はヨレヨレと歩きながら横たわる男の元へと向かう。

まるで誰よりも愛しい女が生き返ったかのようにほうけている。

そしてポツリと

 

「素晴らしい……」

と言った。

 

「素晴らしい素晴らしいっ!素晴らしいぃぃっ!!

素晴らしいぃぃぃぃ!!!」

 

老人は魂が震えるような叫び声を天井にむかってあげる

法衣の老人が大きな声を上げて笑う。

その目は大きく見開き血走って大きな欲望でその男を見つめていた。

 

「ふふっ…神の園《アルカディア》に至る鍵になってもらうぞ岸秋也《きししゅうや》…愛しい神の鍵よ…そして…」

 

男は神の鍵と呼んだ黒髪の男を見つめて大きく顔を歪め狂気を感じされる笑みを浮かべ骨と皮の老人らしい手で艶やかな男の髪を愛おしそうに撫でた。

 

「我らの魔王よ…」

 

その日この世界に一人の少年が現れた。

のちに、魔王、厄災の鎖、溶岩と硫黄の同胞、七王の王、錆び山の主、と呼ばれ恐れられる男。

 

又の名を

 

鉄の王 シキ

 


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