むシノこ 作:しば
根は木の葉を陰から支えるためにある。
俺が根でダンゾウ様に従うのは、もちろんすでにこの身を根にささげたからというのもあるが、そもそも根はやり方が強引だとしてもこの里のために貢献できていると信じているからだ。
だが。
ダンゾウ様の思考回路はよくわからない。中忍試験が始まってから怪しいことだらけだ。木の葉の忍でない者についての経過報告も欠かさず続けてきた。中忍試験の本選が始まる前に音忍や薬師カブトなる人物につけていた蟲は潰された。それもダンゾウ様に報告したが、特に何も言われなかった。確実にダンゾウ様が何かの糸を引いていたはずなんだが。 ……もうわからん。
「計画どころじゃない!」
砂も音も何やら怪しかったが、あのテマリとかいうやつの言葉がもう怪しすぎる。今はサスケと風の我愛羅の試合中だというのに、計画という言葉が関係あるだろうか。……ない。
なんだか会場全体の様子がおかしい。羽が、ひらり、ひらりと――解。
幻術だ。手早く幻術返しをして様子を探る。ボフッと火影の観覧席のほうで煙幕が張られて完全に空気が動いた。
明らかに何かが起きている。これはもうおそらく俺からダンゾウ様に報告が行かなくても誰かが報告するだろう。いや、外からも戦いの音が聞こえる。ダンゾウ様はもうとっくに気付いていると考えるべきか。
戦闘会場から砂の忍が逃げていく。……ダンゾウ様の指令がない以上、俺はギンではなく油女シノだ。これは俺自身の判断で動いてよいということか? サスケが何かしらの命令を受けて砂の忍を追いかける。とりあえず蟲を付けておくこととしよう。
目の前ではサクラがカカシ先生から任務を与えられている。フォーマンセルでAランク任務らしい。サクラ、そして明らかに起きているシカマル、そして俺とあと誰かか? と思いきや、俺はお呼びではないらしい。
……。いや、まぁ、まぁ、俺は確かに戦闘に特化したタイプの忍ではないが。
……。
俺は必要とされていないのだな。まあ俺はダンゾウ様に必要とされてるからよいのだが。
とりあえず、俺は俺で動くとしよう。ヒナタやキバや赤丸は未だ幻術で昏倒しているが、起こすべきか。いや、やめとくか。サクラたちより出遅れたが、サスケを追う。別ルートで追ったのもあってか俺のほうが先にサスケに追いついた。
「お前……シノ!? なぜここに」
「なぜなら、お前に俺の蟲を付けさせてもらったからだ。」
敵はあのカンクロウというやつ一人でサスケを足止めしたいようだが。
「そいつは俺に任せて先に行け。10分で終わらせてやろう」
ふぅ。相手は傀儡使い。なかなか苦戦したが、まあどうにかなった。俺は確かに根では監視を行うことが多かったが、だからと言って実戦経験がないわけでもない。
傀儡使い相手は初めてだったが相手も特に洗練された忍ではなかった。だが俺が完勝したというわけでもない。
戦闘中に煙の毒を間違えて吸い込んでしまった。
……根で毒の耐性を付ける訓練も行ったし、トルネの毒蟲の毒の除去も研究してのでそこまでではないが、なかなかにつらい。
しかし平衡感覚が戻らず、仕方なく倒れたところで父が救援に来てくれた。
こうして油女シノとしての初めての「戦争」は終わる。
二日後。三代目火影の葬儀が執り行われた。
今回の木の葉崩し。里の損害は大きかった。火影だけではなく、他の多くの忍の命も失われた。俺が父と兄という家族を失わずにすんだのは不幸中の幸いか。
いや、そもそも俺が中忍試験前から音忍達に蟲を付けることができたという事実を考えれば、この一連の騒動はダンゾウ様に責任の一端があるのだ。里を襲った敵と、つながっていた。
……いや、考えるのはやめておこう。里を思うダンゾウ様のことだ。きっと何かの考えがあったに違いない。敵に付け込むことで里を守ろうとしていたのかもしれんし。
あぁ、そうだ、ダンゾウ様に定期報告に行かなくては。あの人物が、だんだん里へ近づいているのだ。