むシノこ 作:しば
お気を付けください。
自分が元々の『父が好きな油女シノ』に戻りえないのではないか。ギンのままではないのか。
などと考えた時期もあったなぁ、と思いつつ聞くのはイルカ先生による卒業試験の説明だ。
月日が過ぎ去るのは早く、もうこんな時期になった。
いやー早かった。
自分はギンから戻れないのではなどと思ったけどそれは余計な心配だった。バリバリ油女シノに戻れた。
今の勤務形態は昔よりよっぽど楽だ。本当に、基本的にはアカデミーに通うだけで、たまにダンゾウに呼び出されて働くぐらいだ。
「大丈夫かな……」
となりに座るヒナタが言った。
その視線を探れば、クラスの問題児、うずまきナルトがいる。
分身の術なら、ヒナタは落ち着いてやればおそらく大丈夫だろう。だが、そんなヒナタの気になる人であるナルトになると話は別だ。一緒に卒業するのは難しいかもしれないな。
一人で帰宅してから、蟲を通じて呼び出しを受けたのを察知してダンゾウ様のところに顔を出す。
「ギン、来たか」
いつも通りの定期連絡かと思いきや、ダンゾウ様のとなりには一人の青年が立っている。
あちらからは仮面があるのでこちらの正体はわからないだろうが、こちらからするとそれは知っている人物だった。
「この人物に複数の蟲をつけて、明日の昼からはこの場で常時場所を探知して報告しろ」
「はっ」
「以上だ、行け」
言われたとおりに蟲を複数付けてから、帰宅する。蟲を付けるということで相手には気味悪がられたが、まあダンゾウ様の言うことには逆らわないだろう。
何も聞かされることのない自分だが、ダンゾウ様が俺の蟲を監視に使っている以上根の人物は把握しているしすでに蟲もつけてある。
根ではないものに任意で蟲を付けるのは久しぶりだった。普段は気の弱そうな顔をしているのに、まさかダンゾウ様とつながっていたとは意外だ。もちろん、ダンゾウ様のことなので逆らえない命令なのかもしれないが、あの表情を見るに無理矢理何かをやらされるようには見えなかった。
やはり人間は見た目ではわからんものなのだ。末恐ろしい。
次の日も普通に投稿して、普通に分身の術を成功させて、アカデミーを無事に卒業した。試験では、当たり前のように昨日の人物がにこにこと人当たりの良さそうな笑顔で試験要項を説明して、合格したら額当てを優しそうに渡してくれた。
下忍認定証をもらって、忍者登録も行う。すでにギンとしては登録してあるのだが、まあ油女シノとしてまた登録するだけだ。
アカデミーを出て、これからダンゾウ様の元へ向かわねばならぬしといつも通り一人で帰ろうとする。
が。
「シノ」
「トルネか」
周りの生徒よろしく、自分のところもトルネが卒業祝いに待っていたらしい。なんだか気恥ずかしい。
「何かお祝いに食べて帰るか?」
差し出された手をつないで歩く。手袋ごしだが、温かい。お昼の時間にここにいるのだし、もしかして仕事を急いで終わらせてきてくれたのだろうか。
「いや、これから用事があるんだ」
「……そうか」
俺が用事だと言えばそれはたいてい根の関わることである。周りがどうこう言える話ではない。
「じゃあ晩飯においしいものを食べに行こうか」
「いや、いつ用事が終わるかわからない」
「……そうか。無茶はするなよ」
返事はしない。無茶をするかしないか決めるのは、俺ではないからだ。
といっても、結局大した仕事ではなかった。場所の探知以外にも仕事があるかと思いきや、本当にそれだけだった。
探知対象は昼間はいつも通りにアカデミーにいて、夜から動きがあり、森の中に入り、明け方には――暗部の拷問施設にいた。
それをダンゾウ様に告げる。
「フン、仕方あるまい、蟲は外しておけ」
言われたとおりに蟲をバレないように対象から離す。身体検査で油女一族の蟲が発見されれば、色々ダンゾウ様が関わっていたことがバレかねないからだ。
「もういい。行け」
帰れと言われたので帰る。
覚悟はしていたが、徹夜をしてしまった分眠い。今日はアカデミーで班分けをするはずだし、少し寝てから行きたい。
寝ぼけ眼のまま起きる。一時間しか寝てない。まあ他の人に目を見られることもないので、眠いことには気付かれないだろうか。
「シノちゃん、おはよう」
「おはよう、ヒナタ」
「ねえねえ、ミズキ先生体調悪いとかなんとかで、今日来てないんだって」
「そうか」
だろうな、としか思えなかった。暗部の拷問施設に連れていかれたやつが、すぐに解放されるとは思えないからだ。
そしてこの後、俺はヒナタとキバとで8班に分けられた。