むシノこ 作:しば
根が解体された。
といっても形だけだ。もちろんそれだけでダンゾウの力は結構削がれるのだろう。
だがもともと身寄りのないものを多く集めて構成された根だ。所属していた場所が解体されたからと言って仲間がいなくなったわけではない。感情を壊されながらも疑似的な家族関係を構築して、その家族の情を利用するのがダンゾウだ。
根がなくなったからといってはい、さよならダンゾウ、というわけにもいかないし、そもそも根の多くに帰る家などない。兵器のように根で教育を受けた身寄りのない忍の一部には社会性すら身についていないことが多い。突然野に放たれても困ることが多いだろう。
そのため根の多くが私兵のような形で暗部にいながらもダンゾウの影響下に置かれることとなった。
「ギン」
「はっ」
解体直後に呼ばれるということは何かの辞令だろうか、と予想を立てつつダンゾウの言葉を待つ。
「お前は根のメンバーの監視を続けつつ、油女シノとして家に戻れ」
「はっ」
「お前は暗部を抜けたことになり、アカデミーに入る。そこでうずまきナルトの友人として不自然でない距離を保ちつつ蟲を使わず監視を行え。以上だ、行け」
「はっ」
一礼してその場を去る。
もともと感知タイプとして根で活動していた自分である。任務の主な割合は親しくなった仲間の監視である。根に所属するものすべてに任意(強制)で蟲を付け、ダンゾウの要請に応じて場所を探知して報告、もしくはつけた蟲がつぶされたりした時点で裏切りだと思われることをダンゾウに報告することだ。
仲間を監視する。本当にいやな仕事だ。
もちろんダンゾウに質問することは許されておらず、一族の者を殺した裏切り者であるはずの男につけた蟲がつぶされずにいて、その男の場所の探知も時折やらされるのだから不思議である。色々と事情があるのだろうが、首を突っ込む理由もないので淡々と従うのみだ。
もちろん他の仕事もあったのだが、根を解体されたのに人員がずっとダンゾウの下にいるのもあまりよろしくはないのだろう。一応表面上は自分がずっとダンゾウのそばで働き続ける必要はなくなったらしい。
なので。
「ただいま」
4,5年ぶりになる実家へ帰ってきた。もしかしたら二度と帰ることはなかった家である。なんだか懐かしい。
夕暮れ時に帰ってきたがどうやら家に誰もいないようだ。
静かな廊下を歩いて自室へ向かいつつ、どういう理由を付けてアカデミーに戻ることになるのか考える。根の中でアカデミーを卒業して中忍にもなっている。まあそこらへんはダンゾウがうまくやるのだろうか。
自室を開けると、そこは時が止まったかのようだった。自分の私物が当たり前のように置かれている。ここに帰ってくることになるだなんて、知らなかっただろうに。
下からガラガラと音がする。誰かが帰ってきたようだ。
ガタ。ガッガタタ。
ドタドタと慌てたようにこちらへ向かってくる音がする。
「シノ!」
「ただいま、父さん」
「……おかえり」
父が抱きしめてくる。
「悪かった……」
何に対して謝罪しているのだろうか。
父は何も悪くないのだ。ダンゾウ様がよろしくないお方だっただけだ。
父の背中に腕を回す。『父が好きな油女シノ』ならそうするべきだと思ったからだ。しかしまったく父への感情が湧かない。自分はもうギンではなく油女シノなのに。そのうち慣れるだろうか。
「トルネは?」
「あいつは毒蟲の操作がうまくなってからアカデミーには通わず認定試験だけを受けて、今は暗部なんだ。今日は帰ってこないが、そのうちな。お前も暗部だし、同じ任務にも就くかもしれないな」
父は根が解体されたことを聞いたくらいで、他のことはまだ何も聞いていないらしい。
「いや、暗部は抜けた。ことになった。アカデミーに通う」
「……それは、ダンゾウ様が?」
「そうだ」
組織は解体されたが、まだまだダンゾウ様の配下なのに変わりはないのである。すまない、父さん。
蟲師ギン
今のBORUTOでのシノの独身状態が悲しくて、シノの性別やお相手を決めかねています。