伝承・無限軌道   作:さがっさ

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今回は区切りのいいところで切ったため少し短めです。
ようやくクラス代表決定戦決着となります。
では、どうぞ


第二話 決闘、誇り高き青龍 その六

 クラス代表決定戦、開始から三十分が経過した。

 

 セシリアの罠にまんまと引っ掛かった一夏、ここまで使用されていなかったミサイルビットの攻撃を受けシールドエネルギーがゼロとなったかに思われたが未だに自分は落ちておらず爆発により舞い上がった煙の中で自身のIS《白式(びゃくしき)》が急速に再構築されていくのを感じた。そして、

 

―――――≪白式≫、《一次移行(ファーストシフト)》完了。

―――――メインシステム再起動、……完了。

―――――Sランクユーザーの搭乗確認。

―――――ISコアネットワーク内部の《幽体領域》に接続……接続完了。

 

 初日の特訓の日《打鉄》を起動した時の、頭を引っ張られる感覚が今再び自身の身に起きている。あの時は途中で糸電話の糸をいきなり切断されたように感覚が途切れたが、今度は確実にどこかへとつながっており、まるで自分の脳内を直接観察されている気さえしてきていた。

 

―――――接続履歴を参照……該当、《武神(ぶしん)須佐之男命(スサノオノミコト)

―――――ISコア内の情報初期化……ISコア側からの初期化の拒絶を確認。

―――――≪白式≫に使用されているISコアに《武神:須佐之男命》が既にインストール済み。

―――――操縦者との再接続および契約の更新を開始します―――

 

 そして、もう自分の頭を調べ尽くしたかのように頭を引っ張る感覚が段々と途切れ、目の前が明るくなってきた。

 自身の意識の中で目覚めるとは何とも不思議な事ではあるがとにかく目を開けると、そこは無数の星の光であふれていた。

 辺りを見回してみると満天の星空がただただ広がり、およそ惑星なんて物はどこにも見えない宇宙のような空間だった。自分の手が届くだろう場所には何もなく、それどころか自分はここから動くことすらできるのか分からなかった。

 水中を泳ぐように自身の手足を動かしてみるがどうにも自分が目の前の方向に進んでいるのか、それとも別の方向に流れてしまっているのか分からなかった。

 

 なにもない空間でただ一人存在している一夏であったが、突然目の前が輝きだした。その光はこれまでに何度も感じたどこかで見覚えがあるもので、どうしてもそれがいつどこで見た物なのか思い出せずにいた輝きだった。

 その輝きに引き寄せられるように一夏は手を伸ばす、まるで手の届かない星を掴むようなものだと感じたが構わなかった。ただその光に手を伸ばすことを止めることは一夏には出来なかった。

 かすりもしそうにない指先をそれでも伸ばし続けると、輝きが増し伸ばし続けたその指先に何かが触れた。

 触れた瞬間光が爆発的に空間全体に広がった。夜空に浮かぶ星々の光を全て飲み込むかのように光が広がり、目が開けられない程の輝きが一夏を襲った。

 反射的に一夏は目を閉じようとするもののなぜか自分の意志はこの輝きの前に目を閉じることは屈するもどうぜんであると、自分はこの輝きに屈することは無いのだと訴える。もはや自分の魂や精神、肉体がバラバラに主張を訴えていた。

 一瞬の逡巡の後、一夏は目を閉じないことを決めた。

 

 自分に屈するという選択肢は存在しなかった。

 

 ただそれだけを胸に目を逸らさずに光が広がっていく中心点を、焼き付けるような閃光を、そしてどこかで見たことのあるそれを見る。

 

 どれだけ時間が経ったのだろうか、ふと気が付くと目を焼く閃光は既になく、目の前には白い人型の鎧がいた。

 その印象は初めて《白式》を見た時と同じものを感じたがよく見れば全身を覆う黒いボディースーツで下半身は袴であった。それに白い胸当て、手には白い手甲、脚には白い脛当てを付けていた。顔はのっぺりとした白い仮面で全体を覆っており、辛うじて白い背中まで伸びている髪を白い布で結んでいるのみである。そしてその背にはその背丈、およそ180cmは越えているだろうそれに等しい、六尺程の長さの大太刀を背負っていた。

 その場にいるだけで感じる、すさまじい存在感はまるで自分の存在と比べることがおこがましいとさえ思えるほどであるがそれよりもその鎧が背負う大太刀から感じる恐怖が勝った。

 大太刀は全く抜かれておらず、刀身も一切見えぬはずであるにも関わらず、大太刀から剣先を常に突きつけられているんじゃないかと錯覚するほどの威圧感が大太刀から漏れ出ているかの様に感じ、実際に動けるかは分からないが、一夏は体が反射的に行う身じろぎ一つ出来なかった。

 一夏はこの鎧に恐怖を感じると同時に、これまで襲われてきた懐かしい感覚がすべてこの鎧由来のものであり、自分はこの鎧に何時かの何処かで会ったことがあると確信していた。

 

 そしていつもどこかで思い浮かべる約束を誓ったのは、この鎧に対してだということも思い出した。

 

 その一見、物言わぬ鎧に対して誓うとはおかしな話ではあるが、確かに誓いを交わしたことを思い出した。そこから考えると何時からか聞こえてきたあの声は―――――

 

『ふん、ようやく来たか。まあいい我がこれまで過ごしてきた時間に比べればそこまで長い時間では無かったからな』

 

 その鎧が言葉を発した。通常、人間が言葉を交わすように待機を震わせるのではなく直接対象の人物にその声を届ける。そしてその男か女かもわからない声は確かに聞き覚えがあるものだった。

 

『その様子では、やはり我との契約を忘れているようだな……いかに資格があろうとも我のような《神格》を相手に契約を結ぶなど無理がある。なにかしらの弊害は起きるとあの時の貴様には言っていたが……断片的にでも覚えていようとはな』

『まあいい、我のことはスサノオとでも呼べ』

 

 どこか感心したように腕を胸の前で組み頷く鎧に対し、何とか返事をしようにも声が出なかった。口を開き、必死で喉を震わせるも、それはどこにも届かなかった。

 もしや空気がないのではないかと思うもしたが、息苦しさはまるでなく。試しに深呼吸をしてみても空気を吸い込むようなことは無かった。

 

『何をやっている。ここは貴様の内的宇宙。理解できるように言えば貴様の心のさらに奥底の意識が及ばない空間だ。そんな場所で空気を震わせる会話など意味があるものか。伝えたいのなら思考を集中させ、伝えたい対象に放つのだ。そらいかに忘れようとも貴様の魂は覚えているはずだぞ』

 

 そう鎧が伝えるのを信じ、二回三回と試した四回目。

 

(おい、おおい。これでいいか?)

『よかろう、相変わらず上達が早いな、貴様は。では改めて契約を結ぶとしよう。以前に結んだものは有効であるが、貴様が覚えていないというのも我の気がすまん。貴様が知らずに契約を今まで破らずに履行し続けているt言うのもな』

 

 呆れたように肩をすくめる鎧。こうしてみると尊大な言葉遣いに反して中々話がわかるような奴ではあると思うがあふれでている存在感が親近感を毛ほどもわかせず。気を付けねば、いつの間にか訳もなく服従してしまいそうになっていた。

 一夏は改めて気合を入れなおし、鎧からくる無自覚な圧力に耐える。

 

『では改めて契約の内容を確認する。織斑一夏、お前が我と交わしたのは我の力を貸す代わりに、その力で何をなすのか見せてみよというものだった』

(何をなすのか見せてみろとは、随分と簡単な契約じゃないのか?それでお前はいいのかよ)

『そもそも我らのような《神格》と契約するという時点で相応の危険を背負うことになる。我の力を使うたびにお前の《心力》即ち、生命力と精神力を混ぜ合わせた我ら《幽体》の力の源となるものを我に注ぎ込むが、その量は並みの人間では欠片も引き出すことが出来ずに出涸らしとなるであろう。このISというシステムがある程度緩和しているとはいえ、その時点で十分に代価を支払うことになる。契約というのは我が貴様個人に対して力を貸す条件としてのものだ。要するにお前が我が気に入っているその精神を貫き続ける限り力を貸す。そう言う契約だ』

(じゃあ、俺は自分を貫き通せばいいってか、そうとなったら好き勝手にやらせてもらうけどそれでいいんだな?)

『構わん。これまでの戦い、そしてこの場における振る舞いで貴様がまるで変わっていないのは感じ取ることができた。とりあえずは良しとする。いずれにしろ本番は今この時から始まる。難癖をつけるのもつまらん、お前の真価はこれからの戦いで見定めてもらおう』

(これからの戦い?これから何かあるのか?)

『それは追々話すとしよう。まずはこの戦いを終わらせるのが先だろう?』

(……分かったよ。じゃあ契約成立だな)

『ああ、我《武神:須佐之男命》が汝、織斑一夏の信念と誓いが折れぬ限り力を貸す事を約束しよう』

 

 そう鎧が宣言した瞬間、一夏と鎧を繋ぐかのように光の帯が両者を結び付けるように現れ、互いの手首がその光のおいで結ばれたのを一夏は見た。これが契約した証であるとでも示すように鎧は軽く手首を振った。その光の帯でできた繋がりは容易に解けるものではないようで、その見た目に反して地kら強さを感じた。

 

『では行くとしよう契約者よ。戦いの続きが我々を待っている』

(ああ、行くぞ。スサノオ!)

 

 そうして、両者は一夏自身の心の中、人間の心の中に存在するとされる内的宇宙から戦うために飛び出った。

 

 

 

 

 母は立派なお方でした。

 まだISが生まれておらず、男尊女卑とは言わないまでも未だに何かしら女性が社会で働くには色々とハンデを強いられた頃、そんな中でも会社をいくつも経営しそして成功を収めていたわたくしにとっての自慢で憧れの母でした。

 父は情けない人でした。

 元々名家の生まれで成功続けている母と婿入りの形で結婚した父はどこか母に対して引け目を感じていたのでしょう、子供のわたくしの目からみても分かるほどにいつも母の顔色を窺うような人でした。

 わたくしから見ても、仲が良いとは言えない両親はもういない。

 三年前に事故で二人とも死んでしまいました。

 いつも別々に過ごしていた両親がなぜ事故の時一緒にいたのか、今となってはもう分かりません。

 わたくしに残されたのはとても小娘では守り切れないような莫大な財産、オルコット家の縁者の大人たちは誰も守ってはくれませんでした。自分で母が残したものを守らなければとそれはもう必死でした。そんな中で受けたISの適正試験でA判定となり、そこから自らを鍛えることで代表候補生になり、そして第三世代型兵装《ブルー・ティアーズ》の第一次運用者として選ばれました。

 

 わたくしが残されたものを守るには母のようになる必要がありました。

 社会に屈せず、強く誇り高く生きる、それが母の生き方でした。

 なので、こんな所で負ける訳にはいかないのです。

 ISの素人に負けては代表候補生としての面目が立たないばかりか祖国に恥をかかせたことになりわたくしの立場が危うい事になるでしょう。

 両親から受け継いだオルコット家を守るためにも、わたくしは戦い勝ち続けるなければなりません。

 

『それがあなたの戦う理由ですか?』

 

 その通りだ、わたくしは自身の誇りである母が守ってきたものを守りたい。母が守ってきたものを守ることで自分もそんな誇れる母に近づける気がするから。

 だからわたくしは負ける訳にはいかない

 

『では、私を相手に屈せずに拒絶する程のあなたの誇りを見せてもらいましょう。それ次第では対話も拒んでいたあなたにチャンスを与えることもやぶさかではありません』

 

 

 

 

 アリーナのピットでモニターを通して観戦していた四人はそれぞれ違った表情を浮かべていた。

 山田先生はあわや撃墜されたかと思えた一夏が《白式》の《一次移行》をミサイルビットによる攻撃の直前に完了させ機体の装甲が一新されたことで防いだことに驚いていた。

 千冬は《白式》の《一次移行》完了の直後、それまでモニター越しであっても冴えわたる観察眼で見破っていたセシリア不調が突然消え、変わってその瞳がどこかうつろであるものの対戦者の一夏を睨め付けているのを受け、意外そうな表情をしたいた。

 そして、箒と鈴は焦っていた。

 

「ちょっとどういうことよ、あれは!」

「どうした凰?何か不都合な事でも起こったか?いや我が弟ながら何ともタイミングよく《一次移行》を完了させたものだと驚いているのだが……まあ試合でそういうことが起きないわけではない。今後の参考にしておけ」

「えっ、あ、いや、ああはい参考にします」

 

 思わず驚いてしまったと一瞬後悔した鈴であったが千冬はどうやあ勘違いしてくれたようだと内心、安堵の息をもらす。

 そしてちらりと箒の方を見ると箒とちょうど目が合い。アイコンタクトのように互いに状況が理解できていることを確認した。

 

『全く想定外だ。彼女、セシリア・オルコットにも《幽体》が《憑依》していたのは分かってはいたけどまさか一気にここまで覚醒するなんてね』

(それもそうだけど一夏よ、一夏!何で!?あの時から一回も検知できなかったのに《一次移行》と同時に一気に《契約》まで完了してるなんて!《憑依》されてるんじゃなかったの!)

『やはりISには僕たちの知らない何かがあると見てもよさそうだ。全く、少しばかりISコアの中にいさせてもらってるからと高をくくっていたよ。鈴とりあえず次に何をするか考えよう。とりあえず一夏君は暴走してはいないみたいだ。というか逆にあれほどの強さを持つ《幽体》と契約してなお戦闘ができるという時点で中々驚愕に値するよ。一方、セシリア・オルコットの方は完全に《憑依》されているね』

(《幽体》に《憑依》されてるのよ、問題しかないじゃない!《幽体》と《契約》もなしに《憑依》されたら《幽体》のやりたい放題じゃない!?)

『そうだね、そこらへんの《幽体》が《憑依》したなら僕ももうちょっと焦るんだけど、《憑依》したのが《青龍》となれば様子を見た方がいいと思うよ』

(《青龍》ってアンタのご同輩でしょ。もしかしてそれなら安全とか?)

『ああ、《青龍》は乱暴な性格はしていないから大丈夫だよ。最も暴れ出したらしゃれにならないけどね』

(あれ確実に暴走してない?ホントに大丈夫なの?)

『多分ね』

(多分ねってどういうことよ!もういいわ!あたしが直接止めに――)

『だめだ鈴、今ここでキミが飛びだしてはその後の立場はどうなる?ただでさえ中国からの追手を振り切ってきたって言うのに目立ちすぎるし、ここで無理矢理止めるとそれこそ二人とも暴走を引き起こしかねないぞ。だからここは一夏君を信じて我慢してくれ』

(そんな……!一夏……!)

 

 とりあえず鈴は白虎との相談の結果、渋々様子を見ることに決めた。一方の箒も鈴がアリーナに突入しない事と今どちらかを刺激しえしまえばどうなるか分からず、最悪の場合、両者の第暴走を引き起こしかねないので解決のための駆動に移れないでいた。

 

(それに力を使ってISの試合に介入したことがこれをきっかけとして世間にばれてしまうのは非常にまずい。むしろ私は隠蔽の方向に動けるようにしておいた方がよさそうだな。一夏は心配ではあるが……いざとなれば鈴に頼るいかないのが歯がゆい、一夏頑張れ……!)

 

 箒は組んだ腕の力を強くしながら祈り始めた。

 

 そうこうしている内に一夏は実体剣を握り直し、セシリアが一夏から視線を一切逸らさないままビットを動かし始め、両者が決闘を再開した。

 

 

 

 

 セシリアは残った一機のビットとライフルで攻撃を始める。しかし、その攻撃は今までの攻撃がまるで嘘のように一発一発の射撃の精度が増していて、撃つ時には完全に一夏を捉えており、ほとんど外していなかった。一方の一夏はその正確な攻撃を適切に実体剣――――≪一次移行≫により判明した銘は《雪片弐型(ゆきひらにがた)》――――を盾に用いて弾く、今までよりもレーザーの出力が上がっているのか、一発の攻撃が重くなっているが一夏にも良く理解できない力がみなぎっており、攻撃を全て正確に捉えて切り捨てていた。

 推進器も《一次移行》以前のものと比較にならない程の安定性と出力を出しておりこれまでよりも自由にアリーナ中を飛び回ることが出来た。そして、それ以上に一夏の反応速度が向上しており、明らかにセシリアの攻撃が見えるようになっていた。

 

「ああもう、《一次移行》が完了すればもう少し楽になるんじゃなかったのかよ!」

『たわけ、《幽体》が《憑依》するならまだしも契約を交わすだけでそう簡単に強くなるものではないわ。結局その体を動かす貴様が我の力についていけていないだけのことだ』

「でもあいつの攻撃が強くなってるのは別だろ!さっきまでとは別人だ、ぜ!」

 

 セシリアの猛攻をひたすら弾くことでしのいでいる一夏であるが状況は《一次移行》前と変わらず、むしろ悪化しているのではないかと思う程であった。いかに機体の性能が向上したとしても結局は近接武器である《雪片弐型》のみ、セシリアの攻撃をかいくぐりながら近づき攻撃を加えなければならなかった。

 

「どうやって近づけばいいんだよ!攻撃が段々激しくなってるぞ!ビットは残り一機だろ、どうなってんだ!」

『もしかして貴様、奴が《憑依》されていることに気づいていないのか?』

「はぁ!?憑依?え、アイツにも《幽体》が付いてるのかよ?道理で有利になった気がしないと思ったら!もしかして契約したの失敗かとも思ったけど、それは差が出ねえよ!」

『鈍いわ、馬鹿者。そこらへんも今後鍛えていかなければな……おい、次は気を付けた方がいいぞ』

 

 セシリアは少し考え込むように自身の武装に目を走らせた後、軽く取りまわしたのち高速で飛び回る一夏に狙いを定め、撃った。

 スサノオからの警告に従い、最大の警戒をもって対処するべくセシリアの挙動から一切目を離さなかったのだが。これまでの攻撃と変わらないビットからの射撃の合間から撃たれる一撃、多少の拍子抜けを感じながらも完全に見極め回避した。

 

『後ろだ、契約者!』

「ッ!?」

 

 スサノオの再びの警告と背筋を伝わった悪寒を受け、振り向きもせずにがむしゃらに《雪片弐型》を背にむけ振り回す。

 直後、背後からの攻撃に《雪片弐型》が辛うじて間に合ったが、衝撃を受け流し切れずに一夏はそのまま吹き飛ばされる。

 すかさずPICを全力で稼働させ態勢を立て直しつつ、続くセシリアからの攻撃にその場に留まることを許されずに離脱する。

 

「どうしてだ、完全にレーザーは避けたはずだ!ビットの位置もあそこから背後に攻撃が出来る訳……」

『よく見てみろ、契約者よ。あのレーザー曲がるぞ』

「レーザーが曲がるって嘘だろ、今まで一回もそんなそぶりも見せなかったぞ!」

 

 しかし、離脱後の攻撃を見ると確かにレーザーは一夏を追尾するようにその軌道を曲げていた。さらに悪い事にビットからの攻撃も同様に軌道が曲がるようになっていた。ビットが一機であるために対応が出来ているが数を減らしていなければ撃ち落とされていたことは容易に想像が出来る。

 

『これは《憑依》している《幽体》の能力では無いな。《心力》が攻撃に込められていない。あの機体の元々の仕様なのだろう』

「じゃあ今までなんでやってこなかったんだ?さすがに曲がるレーザーとか俺じゃ避けられないのはあっちだって分かってるだろ」

『我が知るか、それよりもどうする?このまま逃げ切れるとは思えんが』

「とはいっても、ろくに突っ込めるきがしない!威力が上がってるレーザーに特攻したってこのシールドエネルギーの残量だと撃ち落とされるのが関の山だ!」

『なら方法は一つだな。契約者よ、《白式》の《単一仕様能力》を使え』

「確か≪単一仕様能力≫ってISが操縦経験を十分蓄積して初めて使えるトンでも能力だ、ろ!乗って一時間もしてないのに使えんのかよ!」

『どうやら《白式》はその仕様上使えるらしいな、能力は自身のシールドエネルギーを消費してのバリア無効化《零落白夜(れいらくびゃくや)》か。使えば残り少ないシールドエネルギー直ぐに尽きる。がその前に切りつけて倒すことは可能ではあるが……どうする?』

「一撃で終わるのはありがたいけどあの曲がるレーザーの猛攻はどうすりゃいいんだよ。それこそハチの巣だろ」

『《零落白夜》を発動した《雪片弐型》であるならばあれらの攻撃を切り裂くなどたやすいそれで十分だろう?』

「ああもうそれで十分だ!全部切り裂いてやる!」

 

 やけくそ気味に叫び返すと、迫りくるレーザーの中を突っ切る軌道に体の向きを変え最後の特攻攻撃に移った。

突撃を開始するとともに《雪片弐型》を変型させる。刀身が二つに割れその中から青い光でできた刀身が生成される。

 直撃する軌道を取ったレーザーに合わせるように《雪片弐型》で叩き切る。

 形成された刃がレーザーに触れた瞬間、手ごたえを感じたと共にこれまで感じていたその威力が嘘のようにレーザーが霧散した。

 

「これならぁぁぁあ!」

 

 セシリアの続けざまの攻撃を切り裂き前進していく。シールドエネルギーの残りはもはや猶予は無い。推進機を全開にし、懐に真っすぐに飛び込む。

 残り5メートル、ビットがこちらの進路を阻害するように躍り出てきてレーザーを放ったが構わずさらに急加速して発射直前のビット毎切り捨てる。

 

 残り2メートル、ライフルでの攻撃をあきらめたのかその長い銃身でこちらを打ち据えようとするももう遅い、直前でスピードを緩めやり過ごす。

 至近距離に突入、スピードを緩めた反動を生かして、《雪片弐型》を上段に構える。後はいつものように降りぬくのみ――――――

 

「『ここでとどめというところで悪いが、この試合はお終いだ。すまんな』」

『契約者、頭上だ!』

 

 突如として第三者の声が聞こえ、スサノオの警告と自分の直観が働いた所で既に腕は振り下ろし後だった。

 

 本日二度目となる走馬燈の中、もはや防御も回避も間に合わない中で自身にめがけてに雷光が落ちてきたのが見えた。それはアリーナの遮断シールドを突き破り、一夏に直撃した。

 

「く、そう」

 

 《白式》と共に落ちていく一夏、見るとセシリアも同じように行動不能となっていて、傍らには黒い《全身装甲(フルスキン)》のまるで騎士のようないでたちのISがいた。

 

 そして一夏の意識はそこで途絶えた。

 

 

 




いかがだったでしょうか。
中途半端と感じる方もいるかもしれませんが今回はここまでということです。
あともう一回の更新で二話は終わりとなります。
一応、三話の内容も決まってはいるので引き続き更新していきます、書き起こすのが大変ですが何とか頑張りたいと思います。

ご意見、感想の程よろしくお願いします。

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