伝承・無限軌道   作:さがっさ

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えー本当は一週間以内に投稿するつもりでしたが用事等が重なりちょっと遅れました。これからはもう少しペースが戻ってくると思います。

では、どうぞ。


第二話 決闘、誇り高き青龍 その五

 時刻は午後一時をちょうど過ぎた頃、IS学園の第二アリーナでにて一年一組のクラス代表を賭けた決闘が行われていた。 

 英国の代表候補生、セシリア・オルコットが駆る《ブルー・ティアーズ》の猛攻を、世界で唯一の男性操縦者とされる織斑一夏が初心者ながらも実体剣で何とか弾きながらしのいでいる。

 

「どうしました?この様ではあの時の啖呵は所詮見掛け倒しだったようですわね!?」

「言ってろよ!」

 

 一夏は叫びつつ、とにかくセシリアを中心として旋回をするように動き続け、セシリアに狙いを付けさせないようにしていた。

 《ブルー・ティアーズ》は中距離射撃型のISであるらしく、全くといって距離を詰めようとせずにひたすらレーザーライフルである《スターライトmkⅢ》とその名から明らかに《ブルー・ティアーズ》の代名詞に相違ない第三世代型特殊兵装、4機の自立起動型特殊レーザー砲《ブルー・ティアーズ》―――およそビット兵器と呼ばれるものを交互に操りながらこちらに的確に打ち込んでくる。同じ形状のものが腰部にマウントされているがそちらは全くつかっていなかった。

 《ブルー・ティアーズ》の特殊レーザー砲の一発一発の威力はそこまで大きいものではないが一発でも当たればそこで足が止まり、そのまま二撃目、三撃目と立て続けに打ち込まれ、最後には威力の高いレーザーライフルで大ダメージを負ってしまう。

 起動レーザー砲に周囲を取り囲まれて逃げ場が無くなるのを避けることに集中していなければ、今頃はすでにハチの巣となって試合終了となってもおかしくは無かった。

 

(それにしたってどうなってんだよ、この推進器(スラスター)は!思うように加速できないと思ったら、今度はスピードが出すぎちまう!《一次移行(ファーストシフト)》の再設定やりながら飛ぶのは無理があったか)

 

 これだったらまだ《打鉄(うちがね)》でやったほうがましだったと若干の後悔を抱えつつも、セシリアが向ける複数の銃口をハイパーセンサーで察知した瞬間にその場から何としてでも離れる。不安定な飛行により否応なく崩れる体勢をISのPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)まかせに建て直し、飛び続ける。近づく暇などほとんど無く。隙が見えたところで、しかけようにも推進器の調子がこうも不安定であればむやみに近づいた所で打ち抜かれるだろう。

 かといって、このまま逃げ続けたところで勝つことは不可能である。なぜなら、現在一夏には遠距離で使用可能な武装が無いため、勝つためにはセシリアに接近することが最低条件であったからである。

 

 一夏の専用機となった第三世代型IS、《白式(びゃくしき)》には全くと言っていいほど武装が無く。唯一あったのは、現在手にしている実体剣のみ。その剣もどうやら一つだけ搭載されているだけはあるようで、本来の武装に使われるISの搭載領域のほとんどを占める特殊な装備であるらしいのだが、《一次移行》が完了しなければその力を発揮できないため、今はただの剣としてしか使えずにいた。それでも、飛来するレーザーを辛うじて受け止める強度はあるので、盾代わりに直撃するレーザーを薙ぎ払うようにして使っているが、いずれにせよ、この条項における攻撃手段は《白式》には無かった。

 一週間の鈴との特訓で射撃攻撃のセンスのなさが発覚していたのでもとより白兵戦に何とか持ち込むつもりであったのだが、全く使うことが出来ないというのはどう考えても不利であった。

 当初の作戦では、使えないなりにも射撃でどうにかセシリアにプレッシャーをわずかでも与えるという作戦であったのだが、最早この期に及んで使ってないことから一夏が近距離以外の攻撃手段がないことは見通されているだろう。現に、セシリアは一夏を狙いつつ、近寄らせないようにビットを展開していた。

 

(どうする。これじゃ近づけやしない!下手に攻撃に言ったところでたかが知れてる。今は避けるのに集中してるからまだ保っているだけ……攻撃に意識を移したままこの弾幕を避けるなんて俺にはまだ無理だ!被弾覚悟で突っ込んでいくにしても距離が空きすぎて気づかれるに決まってる!)

 

 であるならば、ここは逃げるしかない。幸い、逃げ続ければ《一次移行》が完了するだろう。推進器の不調も改善され、その上切り札となるであろう実体剣も本領を発揮してくれるはずである。

 そう一夏が考えていた時、またもやビットに周囲を囲まれる。瞬時にその四機が作り出す包囲網から抜けるために拙い加速をしようとしたところで、やけに首の後ろがチリチリとした感覚に襲われた。ハイパーセンサーが感知していなかったその何かに一夏は考えもせずに身をゆだね、瞬時に違う方向に無理やり体をねじ込ませて回避運動を取った。

 次の瞬間、一夏を包囲していたビット達はレーザーを放つ瞬間にその向きを変え、一夏が直前までに逃げようとしていた空間が打ち抜かれていた。

 

(まずい、俺の回避先が読まれ始めた!?《一次移行》を待ってたら時間が無い!)

 

 どうやら思ったよりも時間が無いことを知った一夏は《一次移行》の後に決行するべく立てていた作戦を前倒しで行うことを決め。その機会を待つべく、再びひたすらセシリアの銃口から逃げ続けた。

 

(これも避けられましたのッ!?あの様子では、偶然避けられた様子。つまりはハイパーセンサーに頼らないカンの持ち主でもある……厄介ですわ……)

 

 一方のセシリアも焦っていた。はるかに自分の方が有利であるのは確かであるのだが、それでもセシリアには余裕が失われていた。

 六十七口径レーザーライフル《スターライトmkⅢ》で照準を合わせた事、18回。その内実際に射撃したのが16回、内命中したのは13回だがそのほとんどが実体剣に阻まれるか装甲に掠っただけに終わったため、実質的にダメージを与えられたのは3発程度。尚且つ、命中したと言っても装甲の厚い手甲や足甲の部分のみ。これでは中距離の戦いが独壇場である自分の強みを全く生かし切れてはいなかった。

 なぜ、こうもセシリアの攻撃が当たらないのか、それは一夏の一週間のなけなしの特訓、《一次移行》に際しての《白式》の推進器の不調、そしてセシリア自身の不調が原因であった。

 

 一夏はこの一週間鈴による《龍砲》の攻撃を避け続ける特訓を行っていた。鈴の専用機《甲龍(シェンロン)》の特殊兵装《龍砲(りゅうほう)》は両肩に搭載されるアンロック型の衝撃砲となっており、ユニットがIS本体とは直接つながっていない事によりどの角度へも自在に動かすことが可能である上に、衝撃砲の性質上その砲身は不可視である。そのため避けるのは困難で、一夏は特訓の当初ひたすら打ち込まれ続けた。それに伴い、最終日にはある程度ではあるが《龍砲》の砲撃を回避できるようにはなっていた。これが一つ目の理由である。

 二つ目として挙げられるのが、これは不幸中の幸いというべきなのか《白式》の肩部についてる両翼の推進器の出力は≪一次移行≫による調整が入っていることで出力が一定していなかった。これにより一夏本人も予想できない程はたから見ればなんともちぐはぐな飛行となっており、セシリアがいくら先を予測しようとも急激に加速を行い、そうかと思えば加速が緩やかになるなどとても狙いを定められなかった。これを一夏本人が意図したものであるのならば未だ予測はつくのだが原因が《一次移行》にともなう推進器の再調整であるのでもはや予測は困難であった。

 そして、最後の理由は――――

 

(くぅぅ、また、痛み始めましたわ……この試合が始まってからはこれで8度目程……しかもそのたびに頭にあの瞳がこうもちらついては……!)

 

 セシリア自信の謎の不調、突如として現れる頭痛とそれに伴い現れる強大なプレッシャーをセシリアに向ける爬虫類のような青い目玉のイメージ。それらにセシリアの集中は著しく散らされていた。

 いくらセシリアが代表候補生だからと言って、彼女は自分で公言出来る程には完璧では無くもちろん調子が悪く狙いが定まりづらいという日もある。彼女は日々訓練を重ねているとはいえまだ経験不足であり、常に百発百中を維持できる集中力や精神性を持つには至っていない。それでも、ただの頭痛程度で狙いが外れるようになる程度の実力では代表候補生にはなれはしない。ましていついかなる場合でも対処できるように訓練を積んでいた。

 しかし、この頭痛は訳が違った。痛みを無視しようにもイメージと共に直接脳内を揺さぶられる錯覚が生じ、まるで心に直接干渉しているかのようにその瞳はセシリアをにらみ続けていた。常に脳裏にそのイメージが浮かび続け、もはや逃れることはできなかった。

 二つ目までの理由、一夏の射撃攻撃に対する初心者離れした回避能力と《白式》の推進器不調によるランダムな加減速は普段のセシリアであれば十分対応可能であるのだが、これほど集中を乱されてはどうしようもない。むしろ、ここまでに関しては集中を乱されていても尚一夏へ絶えず警戒を払い近づけさせずにいるというだけで大したものであった。

 しかし、それも時間の問題であった。たとえ回避する際の加減速が分からずとも回避パターンはおおよそ予測することができる。

 

(加減速が分からないのであれば、分かる逃げ道にそって幾重にも弾幕を敷けば当たるはず……!先ほどはどうやってか察知したようですが、これ以上は好きにさせませんわ!)

 

 《一次移行》が完了すれば不規則な加減速が無くなる上に一夏のほうも攻撃しようと隙を積極的に伺いにくる。それならセシリアの射撃も十分命中するようにはなるが、仮に《白式》に《一次移行》完了後に今まで見せていない武装が使用可能となれば厄介である。《ブルー・ティアーズ》が知らせた限り、《白式》も第三世代型ISである。ならばそれにふさわしい特殊装備が搭載されてしかるべきである。よって、一夏が《一次移行》が完了と同時にその武装を使ってくるに違いないだろう。

 いずれにせよこの状況が大きく変わることに違いはない。《ブルー・ティアーズ》が予測した《白式》の《一次移行》完了まで残りわずか、いくら回避パターンが読めたと言えどこのままでは完了するまでに一夏を倒すのは難しい。

 

(であれば、少しでもシールドエネルギーを削り《一次移行》が完了した瞬間を狙いすましての集中砲火。何もさせないまま終わらせれ、ば、特殊兵装がどんなもので、あろうと関係ありませ、ん。ぐぅう、段々と頭痛がおきる間隔が短くなっている気さえしてきましたわ……!)

 

 続く頭痛と脳裏に浮かび続ける青い瞳のプレッシャーに耐えながらどうにか作戦を考えるセシリア、このままこの症状が続けばいずれ接近を許しかねない。そうなれば白兵戦が苦手なセシリアでは分が悪い上に、白兵戦用の装備である近接ブレード、《インターセプター》を呼び出す必要があった。通常、ISの武装は操縦者が確かなイメージのもとに強く念じることでISの武装を量子に変換し収納しているデータ領域からその武装を取り出すシステムとなっている。しかし、セシリアは未だに近接装備に関しては初心者が行うコールサインによるイメージ強化がどうしても必要となっていた。

 接近されてから呼び出しては、すでに武器を取り出している一夏よりもセシリアの反応が遅れるのは必然、となれば丸腰同然で対処しなければならないだろう。手にしている《スターライトmkⅢ》では近接ブレードをどうにか出来るような設計はされていない。一応セシリア自身もその欠点については対処している。とはいえ、それが使えるのも一度限りであれば尚更近づけるわけにはいかなかった。

 

 セシリアは状況分析を終え、再び一夏が回避するルートを予測した上で誘いをかけようとした時だった。ピットが先ほどまでと同様に一夏を取り囲むが一夏はその場で急停止した。

 

「あら、もう鬼ごっこは終わり……ということでよろしいかしら?」

「ああそうだな。もう鬼ごっこは終わりだ!」

 

 これを待っていたと言わんばかりに、これまではビットの包囲網を抜けるように飛び続けていたが今度はうってかわってセシリアに空中で静止した状態から急加速をかけて突っ込んでいく。

 

「また、随分と無謀な突撃ですわね!」

 

 セシリアは、一夏の一見無謀な突撃に驚きと共に失望を覚えた。これまでの立ち回りは素人とは思えないほどのもので、この一週間での特訓の成果が多少なりとも伺い知れるものであった。しかし、ここで痺れを切らして突撃をしかけるようではまだ素人の域を出たとは言えないだろう。

 

(ここまで、戦うことができるとは思っても見ませんでしたが、同時にあそこまで気圧される程でも有りませんでしたわ。これで勝負を決するには足りませんが……勝負を左右するには十分。この手で直接狙い打ちそのまま、ビットで追撃……!)

 

 セシリアは一夏の不意を付いた突撃に反応が遅れることを装い、一夏が先ほどまでのように直前で気づかれたとしても撃ち抜ける位置まで引き付けるための偽装を行う。

 一夏は、それが罠などと考えもしないと言った表情で愚直に突っ込んでいく。

 回避不可能な距離まであと三メートル、セシリアはおよそ0.5秒と判断し、接近された時にための武装を動かそうとした瞬間。

 

「ぐぅぉおおおお!!」

 

 一夏は先ほど、セシリアの誘いの攻撃を咄嗟に避けた際よりも無理矢理機体に制動をかけ急停止を行う。急激に掛かるGが一夏を襲い、思わず声を上げるがそれでも安定しない推進機に無理をきかけせて方向転換まで図る。

 ただでさえ強烈なGがさらに掛かり気を失いそうになるが、歯を食い縛りこらえてその方向を完全に変えた。

 そして、Gが消えたことで気が緩みそうになるのを奮い起こし、自身を囲いこんだビットに狙いを抜け再度加速。推進機の不調を考えずに最大出力での突進、剣で切りつけるのではなく、突くように構え最高加速を生かした刺突を繰り出す。

 

「な、しまっ」

 

 そのあまりの無理がある方向転換と突撃を予測できなかったセシリアは一夏の突撃に合わせた射撃に意識を割きすぎていてビット操作の反応が遅れる。

 そして、セシリアは何もできずにビットに剣先が到達し、そのままビットを貫通し爆発。

 

 セシリアは、慌ててライフルでビットがあった空間を撃ち抜くがすでにそこに一夏はいなかった。

 

 ハイパーセンサーの警告が鳴った時には既に時は遅く。再度、何かが衝突した音の後に爆発が起こり、その方向をセシリアが振り向きながら、ビットを自分の近くまで急ぎ引き寄せる。そして、もう一度ライフルで打ち抜くがまたもやその空間にはおらず。しかし、直ぐにその位置を特定した。

 一夏はセシリアが引き寄せたピットの内の一機がいた空間に静止していた。無理矢理の方向転換と急激な加速により、未だ《一次移行》を終えていない《白式》の装甲はところどころ欠けており、中には内部の機構が露出いているものもあったが最適化による再構築によりそれら破損も修復と同時により一夏に合ったものに作り変えられ続けていた。

 

「やられましたわ……パターンを見切られたのはこちらだけでは無かったということのようですわね」

「ああ、俺もいつまでも逃げてばかりじゃいられないからな、いつでも反撃の機会は伺ってたさ。そのためにもお前のビットを破壊する必要があったからな。最も、本当は四機全部破壊するつもりだったんだけど」

 

 さすが代表候補生だと首をすくめる一夏に対して、セシリアは余裕の表情を保とうとするが汗が頬を伝うのを止めることは出来なかった。

 

(確かに今の今まででわたくしの《ブルー・ティアーズ》の包囲網を読み切ることは不可能ではないですわ……ですが、素人がそうやすやすと出来ることではないのも事実。全く、我ながら評価を決めるのが早すぎますわ)

 

 最初のセシリアへの突撃はフェイク。真っすぐ突っ込むことでセシリアのライフルでの狙撃を誘いその隙に包囲しているビットの位置をパターンから読み取り、セシリアが対応できない程の速度で破壊。セシリアが混乱している内にそのまま全てのビットを全速力で破壊して回るという作戦。

 これまで、逃げの一手のみで全く反撃に移る様子が見られなかったのもセシリアの行動を観察するためであった。もちろん、《一次移行》中で下手に攻撃が出来なかったのもあるのは確かであろうが。いずれにせよ、この不利な状況で反撃の糸口をひたすら見出そうとしていたのは確かであり、それが多少なりとも結実したのだった。

 

(……やはり、あの時点で突撃を敢行したのは私の包囲網を見破っただけではない……どうやらあちらの方も見破っていると見ておいたほうがよろしいですわね。全く、自分の練度不足がこうも露わになってはふがいないにも程がありますわ)

 

(始めは、何度かビットに囲まれて幾つか掠っちまった時だった)

 

 一夏は再びの機会を伺いながら、セシリアの周囲を旋回し続けている。残りのビットはそうやすやすと展開されずライフルと合わせるかのように散発的にこちらを近づけさせないようにレーザーを放っている。

 

(急いで離脱したから追撃のライフルの射撃は当たらなかったけど今思い返してみるとその時点で変だった。どうせ四機一斉に攻撃するならライフルの射撃も同時に行えばいいはずだ。もちろん、誘いの攻撃や、避けた後に打ち込むといったような運用だってあるだろうし、実際やってきていた。でも、それが一度も無いのはおかしかった)

 

 それに気づいたのはほとんど偶然であった。追撃の攻撃を躱した時にビットが目の端に映った。正確に言えばハイパーセンサーによる360度に拡張した視界の内、自身が集中して見ることが出来る視界の範囲内の端だった。その時は、受けもままならなかったので機体をバレルロールの要領で無理矢理動かしたためにようやく自身の視界に入れることができた。

 そのビットはおよそ一夏が意識して見ていなかったいわゆる意識の内の死角とも言うべき位置に存在しており。その後も、一夏を一旦包囲したビットは四機の内、二機か三機でもって一夏の意識を誘導し、残るビットが一夏の死角となる位置まで動くのを上手く隠していた。これに気づいた事により一夏はおおよそのビットの位置を掴むことができた。そして、包囲している間、セシリアからは一度もライフルによる射撃は無かった。

 

(セシリアは多分、ビットを動かすのが難しいのかビットとライフルを同時に使うことはできない!つまりライフルによる攻撃の時にはビットはどうしても動かせないから包囲したらそのままの位置にある。だったら、後は逃げ回って機会を待ち、ビットの位置が全機把握出来たと同時にライフルの攻撃を誘えばビットは手薄になる。こうなれば後はそこを突くだけ……何とか上手くいった)

 

 急激な方向転換と推進器の出力不足が不安ではあったがそれも何とか無理を押し通すことができ、ようやくセシリアにも損傷らしきものを与えることができた。

 しかし、その分代償は多少なりともあった。

 

(無理に起動を変えたにしてもあの二機目や三機目の位置まであの速度を保ちながら行くのは無理がありますわ……とすればもしかしたら、あちらもそれなりの損傷は被っている……)

 

 一夏は改めて自身のシールドエネルギーを確認する。見たところ残りは6割ほどで、セシリアとの差は依然開くばかりであった。

 

(くっそ!方向転換する時に爆風を利用したのは良かったけど……やっぱり《絶対防御》が働かなかったとはいえダメージは避けられないか……)

 

残りのシールドエネルギーは三分の一まで減っており、後2、3発ほどライフルの射撃攻撃を受ければ負ける。そうでなかったとしても、攻撃が絣続けるだけでもシールドエネルギーは減っていくことを考えるともはや余裕はない。

 ここで、ビットを全て落とせていたのなら後は容易に接近戦に持ち込めたのだがビットは二機残っている。《一次移行》完了まで一分を切った、逃げ続けて時間を稼ぐことは十分可能であるがかといってビットを落としたのみでセシリアのシールドエネルギーにダメージを与えられたわけでは無い。

 

(でもペースは俺が掴んでる。ここはこのペースに乗って攻めるのみ!このまま押し切る!)

 

 

「あいつは肝心な時に調子に乗るのをやめられないのか。全く」

「でも織斑先生。織斑君初心者とは言えないほど先ほどから冷静に立ち回っていると思うのですが……?」 

 

 ピットのモニターから試合を観戦している千冬はあきれたように声を漏らした。それを初心者とは思えない程の動きを見せる一夏に感心していた山田先生が千冬の言葉に反応する。

 その後ろで同様に観戦している箒と鈴の二人も片や忌々し気に眉間を寄せ、片や額に手を当ててやってしまったと言わんばかりのポーズを取っていた。

 

「全く、鈴も気づいたようだが、あいつは本当に肝心な所は変わらないのだな……」

「まあ、あたしとの特訓で攻撃を調子良く避けれた時もやってたしね。本番では気を付けろってちゃんと言ったのに」

「えっと、篠ノ之さんも凰さんも何か分かってるんですか?」

「二人とも奴の幼馴染だからな。分かりやすい癖ではあるのだが……織斑は物事がちょっと上手く行ってると決まって調子に乗り出す悪癖があってな。しかもそれが分かりやすいのが始末に負えん」

「癖……ですか。それも分かりやすいとは……一見そんな癖があるとも思えませんけれど」

「ああ、それはあれです山田先生。あいつ空いてる左手を開いたり閉じたりしてるじゃないですか。あれがそうです」

「ああ!言われてみるとそうですね!でもそんな所まで見ているなんて、やっぱり長い間一緒にいたという……ひぃ!」

「山田先生。私はからかわれるのが嫌いだ。何回か言ったと思うが念のためにな」

「で、でもまだからかっていな、いえ、すいませんでした織斑先生!」

「分かればいい、オホン話を戻すとつまりあの癖が出ている時はたいてい凡ミスを多発する傾向がある。私も直せと言っているのだがな。いい機会だ、これを機に今度徹底的に矯正せねばな」

 

 なんだかやる気があふれている千冬とからかおうとした流れを察知した千冬によりきつい釘を刺された山田先生を横に、モニターを見つめ続ける箒と鈴。箒は表情には出していないが組んでいる腕が傍から見れば分からない程ではあるが震えていた。鈴も表情には出さないものの手に汗を握っていた。そこへ、鈴の脳内にちょくせつ声が響いてきた。

 

『鈴、試合開始から調査を初めて何度か確認したけどやはりあの娘からなにかの気配がする。どこか懐かしい気配だからもしかしたら僕たちの内の一体の可能性が高いね』

(そう……どうしたものかしら、私が乱入して試合を中止させる訳にはいかないし、やっぱりこの試合が終わるのをまって接触するしかないわね)

『ああ、それがいいと思うよ。けど問題があってね、だんだんその気配が強くなっているこの調子だと試合中に覚醒する可能性だってありうる。安全を考慮するなら今すぐ中止させたほうがいいと僕は思う』

(でも、なんて千冬さんを説得すればいいのよ。今のところ一夏にもあっちのイギリスの代表候補生のほうにも異常は見つかってない。こんなのどうやって止められるっていうのよ!)

『じゃあ仕方ない。異変が起こり次第僕たちで対処するしかないね。とりあえずいつでも出られるように準備はしておこう』

(そうね……全く、一夏の方はあれから一週間なんの音沙汰もないから安心していたのがこれよ)

『まあまあ、彼には何も無かったんだから良しとしようじゃないか』

 

 鈴は肩を落としつつもいつでも《甲龍》をいつでも展開できるように怪しまれないようにそっと待機状態であるブレスレッドを構え、モニターをじっと見つめていた。モニターでは一夏がセシリアの攻撃を躱しながらじりじりと距離を詰め始めていた。

 

 セシリアがこれまで通りにビットを広く展開できないでいる隙を突くように、一夏はセシリアに接近を試みる。先ほどまで回避に集中していたのを、接近を意識し始めたためかセシリアの攻撃が一夏に命中し始めていた。ビットの数の減少とセシリアが警戒して広くビットを展開せず自身の周囲に置き浮遊砲台のように用いているためか未だにまともに命中はしておらず。ほとんどが一夏の手にする実体剣で防がれるか装甲に掠るかといった結果に終わっていた。

 そして、段々と追い込まれていくセシリアがライフルによる攻撃に移る瞬間。先ほどと同様に最大出力で飛び出し、逃げ遅れたビットを破壊。次いで爆風を利用するように方向転換と再加速を行うが今度はビットでは無くセシリア自身への突撃を行う。ビットを遊園して攻撃するだろうという先入観を利用した奇襲。上手く行けばこのままシールドにダメージ与えるだけでなく。そのまま逃がさないように接近戦に持ち込めれば一夏の勝利も同然。

 

「取ったぁ!」

 

 故に一夏は臆することなくセシリアの懐まで飛び込み、実体剣を振り上げてそのまま切りつけようとしたところで

 

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 その目元はどこか苦し気ではあるがその口元はつりあがっており確かに笑っているのが見える。同時に、自分の剣の振り下ろしがいやに遅く感じる。背筋に冷たいものが走ると同時に早く、早く、早くと念じ力を籠めようともその速度は変わらず。まるで時間がゆっくりと進んでいるようであった。もしかしたらこのような状況を走馬燈というのだろうかと馬鹿な考えが浮かんだとき一夏の目にもそれが見えた。

 《ブルー・ティアーズ》の左右の腰部ユニットが展開されており、こちらにその先を向けていた。そう言えば、腰部にマウントされていたものがあったなと一夏が思った時には既に手遅れであった。

 

「生憎ですが、接近された時の対策が無いとも《ブルー・ティアーズ》がレーザーの四機のみとも言っておりませんわ」

 

 セシリアが言い放つと同時に腰部にマウントされていた《ブルー・ティアーズ》のミサイルビットが攻撃のために無防備な一夏の懐にめがけて斬撃よりも早く発射され命中した。

 

 発射と同時に、スラスターとしても使えるビットを用いて素早く後方に下がるセシリア、見事に命中し爆風を上げるのを確認しながら右手でライフルを保持しながら、左手で自身の額を抑えた。

 

(なんとか、間に合いました……。これ以上、長引けば私の言式が持ちこたえられるか分かりませんでしたわ。痛っ)

 

 激しさを増す頭痛と強固にこびりついてくる青い瞳のイメージ。あと少しでも続いていたのならばましてや、《一次移行》が完了したとなればセシリアは意識を失ったかもしれなかった。それでも、相手が焦って勝負にでたことが幸いし、こちらの罠にはめることが出来た。

 続く痛みとプレッシャーに耐えながら何とかピットに行くまで意識を保つことに専念するセシリアだが、その目の端の表示ウィンドウの表記が変わった。崩れそうな意識を何とかそこへ向けた。

 

―――――第三世代型《白式》、《一次移行》完了。

 

 それは、相手が健在である事を意味しており、急いでライフルを爆発の中心へと向けようとするが今までよりも強い痛みがセシリアの脳を襲った。

 

―――――Sランクユーザーの接続による影響大、ISコアネットワークからの情報の逆流現状発生。

―――――防壁展開、1,2,3番防壁突破されました。最終防壁展開。突破されるまでおよそ、カウント2.0986

―――――操縦者、セシリア・オルコットへの被害甚大と予想。保護のため自閉モードに突入……自閉モードになりました。

 

 突然自分の感覚が遮断されたのを感じた。なにも無い暗闇の世界に突然放り出され。思考が完全に止まってしまった。

 そして間もなく、突然いつからいたのか、目の前には自身の身の丈よりもはるかに巨大な東洋のドラゴンが現れ、どこかでみたその青い瞳と目が合ったと思った時には、セシリアはなんの抵抗も出来ずにそのドラゴンに意識も何もかもを呑み込まれた。

 




いかがだったでしょうか。まともなIS戦闘は初でしたが何とか描写しました。
脳内にある映像を文章にするのはほんと難しいです。
次回かその次でようやく二話が終わって、そのあとは三話でとりあえず原作一巻の内容は終えると思います。
原作のイベントはある程度消化しつつ、加えた要素による変更点を考えながらの執筆となるので省くイベントがあるかもしれませんがご了承ください。
ISのせいだーが幽体のせいだーとなってどこぞの妖怪〇ォッチみたいになると思います。とりあえず自分の頭の中ではそうなってます。(被害が少ないとはいっていない

これからは多少更新も安定すると思いますので、とりあえず一週間以内には投稿が出来ると思ういます。
なにはともあれこれからもよろしくお願いします。

ご意見、感想等があればよろしくお願いします。

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