伝承・無限軌道   作:さがっさ

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なんとか一週間以内にできました。
伝奇ものか現代ファンタジーか首をひねりつつなんとか書いています。ひそかに念願だった戦闘シーンを書けて、作者としては一応の満足はしています。

では、どうぞご覧ください。


第一話 入学式と再会と土蜘蛛 その三

今日は満月であったらしく、月の明かりがこの奇妙な夜を照らしていた。しかし、今宵は月明かりすら奇妙であり、夜空に登っている満月はまるで夜の太陽の様であった。

 

 そんな光に包まれて、一体の化け物と一人の少女はIS学園の学生寮の中庭で対峙していた。

 化け物の方は、体長が3メートル、鬼のような赤い顔に鋭い目と鋭い歯をもち、角を生やしていた。さらに体からは、根元は太いものの、その先端は剣のように鋭くなっている脚とされるものを八本生やしており、胴体とされる部分は昆虫の甲殻のようであった。その姿はどちらかというと蜘蛛に近い化け物であった。

 一方、少女の方は剣道の道着を見にまとい手には手甲を付け、黒い髪を後ろで結びポニーテールにしていた。そして、その手には少女の身長ほどの長さの大太刀を構え、片時も蜘蛛の化け物から眼を離さず、一心ににらめつけていた。

 

 寮の玄関から、中庭に飛び出てきた一夏は蜘蛛の化け物を見て、自身より強大なものが纏う威圧感と、化け物の非現実感に恐怖心を覚えた。しかしその一方で、胸に何か熱いものを抱え込んだような違和感が走ったのを感じた。その違和感のせいか恐怖は徐々に落ち着き、少女の方に目を向けた。

 

「おい…嘘だろ…一体、何の冗談なんだよこれは!」

 

 一夏の視界に少女がはっきりと映った瞬間、なぜ最初に気づかなかったのかという思いと妙に胴に入った姿から納得がいったという感情が一夏の中で同時に起こった。

 

 その少女は一夏の幼馴染の篠ノ之箒だった。

 

「ギャシャーーーーー」

 

 一夏が呆けていると、しびれを切らしたのか化け物が箒をめがけて、不快な叫び声をあげながら、常識ではとても歩行できそうもない脚を器用に使い、突進した。その速度は化け物の奇妙な脚と大きさからは想像できない速さで、自動車と同等の加速なのではないかと見まがう程であった。

 そのまま、箒がまともに突進を受けると感じた一夏は、もう遅いと思いながらも箒に向け走りだそうとした時。

 

「ぜぇぇああああ!!!」

 

 箒は、突進してくる化け物に対し慌てる様子もなく、直前までひきつけ、化け物の横を通りすぎるように右斜め前方に飛び込むように足を踏み込んだと同時に、化け物をその勢いのまま大太刀を振るいすれ違いざまに化け物の胴を切りつけた。

 

ギシンッ

 

 とても刃物で切り付けたと思えないような、鈍い音が鳴った。

 箒は、切りつけた勢いでそのまま化け物の横を通り過ぎるようにして後ろに回りこみ再び大太刀を構えた。

 化け物の方は、箒が突進をよけたのを見ると、八本の脚を器用に使って方向転換し、箒の方に向き直った。見れば、箒が化け物に切りつけた箇所から、白い霧のようなものが流れ出ており、血が吹き出ているというよりも、白い粉が入っている風船に穴が開きそこから粉が噴出しているといった方が近い。化け物は箒の攻撃をまともに食らったものの、戦意は増す一方であった。

 そして、再び両者は激突した。箒が避けては切り、避けては切りを繰り返すものの、化け物の勢いは止まらず、化け物の方も箒を捉えられないでいた。

 そして11回目の衝突の後、業を煮やした化け物が上体を逸らすように持ち上げ、後ろ四本脚で立ち上がった。

 

「ギャシャオオオオオオオオ」

 

 そして、後ろ四本脚で地面を蹴り、箒に向かって12度目の突進を試み、箒が自分の前脚四本が届く範囲に来た瞬間、その剣の如く鋭い足で箒に鋭い突きを繰り出した。

 

「ッツ!」

 

 それは、まるで四本の剣から同時に突きを繰り出されたと同じことであった。箒は、その突きを大太刀の背に左手を添えて盾のように裁きつつ下がるように回避した。

 

「くうっ!」

 

 化け物の鋭い突きは、箒を貫くことは無かったが、脚の先はかすったらしく、箒の左肩は道着が破かれ、白い肌が見え、そこからは血が流れていた。傷はまだ浅いらしく、箒は左肩を軽く回して動作の確認をしていた。

 

 「ギャシャシャシャシャシャ」

 

 化け物は血が滴っている自身の脚の先を舌でなめとると、嗜虐の笑みを浮かべていた。

 一夏はこれまでの箒と化け物の攻防を見ているだけしか出来なかったが、肩に傷をつけた箒とそれを見て嗤っている化け物を見た瞬間、胸に抱えていた熱いものが燃え上がった。それは、一夏の全身に行き渡り、頭に到達した瞬間、一夏は駆けだしていた。

 

「ォォオオオオオオ!!!」

 

 雄たけびを上げながら、手にしていた竹刀を振り上げ、真っすぐに化け物に向かって駆けていく。

 

「!?な、一夏!?」

 

 箒は一夏にようやく気付いたようだが、すでに一夏は化け物に接近いていて、止めるにも逃げるように言うのも遅かった。

 化け物も、一夏の雄たけびに反応し、無造作に前四脚の内の二本を無造作に振るった。

 

「オオオオオオオ!!ッハア!!」

 

 一夏は、振るわれた脚をくぐるように身を屈め、化け物が振るった二本の脚を躱し、化け物に竹刀を渾身の力で叩き込んだ。

 

バッキィィ

 

「くそっ!」

 

 一夏が振るった竹刀は、化け物の側面に当たったものの、竹刀が途中から折れ、その切っ先は一夏の後方に回転しながら飛んで行った。

 一夏の一撃は、化け物の甲殻に傷をつけることは無く、身じろぎさえ起こさなかった。化け物は、一夏が回避した脚を往復する形で一夏に叩きつけた。

 

パリィィイン―ボゴッ

「がっあああああ!!、あぐぅぅ…」

「一夏!!」

 

 何か分厚いガラスのようなものが割れる音同時に重く鈍い音がした。

 一夏は、化け物の振るった脚により吹き飛ばされた。腹部に命中したその一撃は、一夏がわき目もふらずにのたうちまわるには十二分に重いものであった。先端から折れた竹刀は手から離れ、口からは血が滲み出ていた。奥歯を噛みしめ、激痛に耐えようとするものの、一夏は直ぐには立ち上がれずにいた。

 

「ギャシャ!ギャシャ!ギャシャシャシャ!」

 

 嗤っていた。化け物は、のたうちまわる一夏を見て嗤っていた。その鬼のような顔を歪ませ、嗤っていた。人をなぶって遊ぶことを心底楽しんでいた。化け物が一夏の弱ってる様子を眺めながら、さらにいたぶろうと考えたのだろう、ジワリジワリともてあそぶ様に、わざと恐怖を煽るように一夏に近づいていった。一夏はのたうちまわりながらも化け物から目を逸らさずに睨め返していた。

 

「忘れるな!貴様の相手は私だ!!」

 

 箒が化け物に向かってドッヂボール大の火の塊を化け物にめがけて投げつけていた。

 

 箒は、一夏が化け物に向かって攻撃した時、化け物の一夏への反撃に備えようとしたが出来なかった。最低の防護の術を遠隔でかけるには時間と距離の問題があったからだ。一夏は無謀にも化け物に挑み、返り討ちに合うだろう。少なくとものたうちまわる余裕もない程の重傷を負うであろうことは容易に予想できた。

 しかし、反撃を食らう瞬間、何故か一夏のポケットが発光し、一瞬で、尚且つ薄くではあるが、防護の障壁が展開され、瞬時に破られたものの一夏を守った。

 箒は、障壁が貼られた理由に疑問を持ったものの、その手を緩めることはしなかった。防護の障壁を描こうとしていた手元を即座に切り替え、この距離でも化け物に通じる攻撃の術式を編み出し始めた。

 見たところ、一夏はのたうちまわり、すぐに動けはしないものの気絶や完全に動けない重症を負ったわけでは無いようであった。

 

(そうとなれば、やることは奴の注意をこちらに逸らす事のみ!時間は…ない!)

 

 編み出した術式は、中距離の攻撃用術式。師に教わった日から欠かさず修練を重ねてきた一撃は、この緊迫した状況でもよどみなく編み出され、形を成した。

 それは、箒の手の平に光が集まったかと思えばその光を糧とするかのように、燃え上がりはじめついには火球となった。ここまで2秒とはかからず、箒は火球が完成したと同時に化け物にめがけ、放った。

 

バシュゥゥゥウ!!

「!?ギャシャォォッォオオ!?」

 

 一夏に気を取られている内に背後から箒の火球が放たれ、見事に化け物に命中した。

 化け物の甲殻は、火球によって燃え始め、今度は化け物がのたうちまわり始めた。転がりながら、背に燃えがる火を消そうとしたが中々消えずにいた。

 一夏は膝をつきながらも何とか体を起こすことが出来た。化け物がのたうちまわる様子が目に移り、化け物に箒の放った火球が通じていることが分かった。

 

「ギャシャォォォォオオオオオオ!!!」

 

 化け物は何とか背に燃え移った火を消したが、これまでの攻撃に比べ明らかに火球が効いており心なしか脚がふらついている。しかし、未だに戦意が衰えていないどころか、こちらを鬼のような顔を憎悪の色で染め、箒の方に向けた。

 

「遅かったな。それだけ隙が出来れば、未熟な私でもお前を倒すには十分だ、土蜘蛛!!」

 

 そう箒が叫んだ時には、すでに大太刀の間合いに化け物が入る距離まで踏み込んでいた。その姿勢は低く、大太刀を居合切りを放つように左の腰辺りで構え、尚且つ大太刀には、先ほどの火球と同等かそれ以上の炎を纏わせていた。

 

「ギ、ギギ、ギシャア!ギシャァア!」

 

 箒が宣言した通り、化け物は箒を認識し、攻撃をここにきて初めて回避しようとしたが、度重なる斬撃と火球による一撃で、すでに化け物の脚には箒の攻撃が届くまでに回避できるほどの力は無かった。それでも、本能からか、叫びながら必死に回避しようともがくものの脚がもたつくばかりであった。

 

「ハァアアアアアア!ゼィアアアアア!!ゼリャァアアアア!!!」

ズバァアン ズバァァアン  ズバァン!

 箒は叫び声を上げながら、大太刀を居合の姿勢から化け物に飛び込んで行く勢いのまま抜刀。炎を纏った大太刀は、箒がつけた斬撃の傷跡めがけ正確に放たれ、一閃。

 続いて、箒は大太刀を体全体で引くようにして、化け物を炎で焦がしながら、引き抜きさらに腰を落とすように今度は右に構え、振り子のように勢いをつけ右下から左上に切り上げるように大太刀を振るい、二閃目。

 最後に流れに逆らわず、上体を逸らしつつも、頂点となる位置で大太刀を完全に静止させ大上段に構えると、そのまま、重力とともに足を踏み込み、体全体の体重を乗せ、倒れ込むようにしながらも、大太刀を渾身の力で振り下ろし、三閃目。

 合計三太刀をもって化け物の体を四つに切断した。

 

「す、すげえ」

 

 一夏は、すでに腹部の痛みを忘れて、箒の纏った炎も相まって、鮮やかな斬撃にただ打ち震えていた。記憶にある幼馴染の少女とはまるで見違えたように力強くそして美しい剣だった。これほど感激したのはいつ以来であろうか、もしかすれば姉の千冬の居合による一閃以来ではないだろうか。

 化け物は、断末魔を上げる暇もなくこと切れたようだった。

 

 箒は、肩で息をしているものの特に目立った傷は無くしいて挙げるなら化け物からもらった右肩の傷だが、傷は浅かったらしくもう血は出ていなかった。

 一夏は箒の無事に安堵しつつ再度化け物の亡骸が視界に入った。

 その時、化け物の四つに分かれた物の腹部に当たる部分が動いた気がした。

 嫌な予感がした。一夏は、何とか立ち上がろうとし、箒は再び大太刀を構えようとした時だった。

 亡骸の腹部の部分が弾けたと思いきや、そこから何かが這い出してきた。その大きさは20cmほどであるが、数は30程であった。その姿は、亡骸となった化け物と同様に、蜘蛛の体に鬼のような顔をしていた。

 這い出てきた小型の化け物は、数を二手にに分けると一夏と箒の方にそれぞれ襲い掛かった。

 箒は、とびかかるように来た20程の化け物に対し、後ろに下がることで何とか交わしたものの、一夏はそれも出来ず、10程の化け物たちが群がることとなった。一夏は何とかもがくように小型の化け物を払おうとするが、一匹二匹払ったところで効果は無く、次々とまとわりついている。そして、小型の化け物たちは一夏にまとわりつきながら糸を吐き出し始めた。小型の化け物たちが紡ぐ糸により両手両足の自由が利かなくなり、雁字搦めに縛り上げられていく。このままでは、蚕の繭のように縛り上げられることが容易に想像できた一夏は、必死にもがくものの、糸の強度は、すでにそこらの縄よりもあるのかゆるみもせずただただ巻き上げられていくばかりであった。

 箒の方は、未だに捕まってはいないものの、大太刀では、間合いが広すぎて一匹ずつしか切れず、一夏を助けれないでいた。

 一夏はすでに体の半分は縛り上げられていた。

 

「くうっ、放しやがれ!くそっ!」

 

 一夏には何もできなかった。箒の足を引っ張るだけであった。これでは、今までと変わらないではないか。姉の千冬に守られていた今までと変わらないではないか。

 

(もう千冬姉に守られてばかりじゃいられないって……あれ…何だったっけ……何か……約束があった……ような…)

 

 確かに誓ったことがあるのだ。誰かに、何かに、確かに。それから再び竹刀を取った。その意味はもはや無くなってしまうのだろうか。

 

 そんなことが一夏の頭によぎっている内に一夏の口元まで糸で覆い尽くされてしまい、もはや声を上げるどころか呼吸をすることすら困難になりつつあった。

 箒は、必死になりつつ一夏の方に分け目も降らずに一夏の方に向かうが、化け物達の数の多さに対応しきれずほとんど前進できていない。箒が一夏に向かって叫んでいるが、一夏はもはやその内容さえ聞こえなくなっていた。

 

(畜生…畜生…畜生!これで…終わるのか…俺はここまでなのか……)

 

 力は入らず、意識も刻々と薄れいていく中で一夏の中には悔しさが渦巻いていた。もはや何もできずに死んでいくだけのこの状況。力が無かった。その言葉が浮かび続けていた。少なくとも、化け物に対して最低限立ち回れる力があったのなら、箒の足を引っ張ることもなかった。力が無かった。力があればあの無謀な突撃にも意味は少なからず生まれたはずだった。力が無かった。ただそれだけがここで無意味のように死んでいく理由なのではないだろうか。一夏はそう考えると、ついに意識がとだえ始めた、その時だった。

 

『――――――kい―――rこう―――』

『みt――――tkら――――――――』

 

 一夏の耳に何かが聞こえた。そして、胸の内から熱いものが膨れ上がり、弾きでると思った瞬間。

 

ヴィィィイイイイイイイ

 

 一夏の体が不思議な音をかなでながら青白く発光し、それは一夏を完全に包んでいる繭でさえも明るく照らしていた。だんだんその光が強くなっていく、一夏に群がっていた小型の化け物たちはその光が強くなるにつれていくにつれて、はがれそうになっていった。

 一夏はその力を抑えようとせず、体から力が流れ出ている感覚に身をまかせた。

 

「遠慮はいらねぇ!全部もっていきやがれぇぇっぇええ!!」

 

 そう叫んだ後、力が流れ出る感覚が強くなったと感じたのが、一夏が意識を保っていることが出来た最後の瞬間であった。

 そして、一夏が叫んだ後に光は加速度的に強くなっていき、その光が月の明かりよりも輝き始めた時、一気に繭の中が爆発が起きたといわんばかりの閃光があふれ出た。

 その光は、小型の化け物だけを焦がしていき、その光を小型の化け物に手足を取られながらも死にもの狂いで一夏を助けようとしていた箒には効かず、箒にまとわりついていた化け物達だけがその閃光に悶え苦しみながら焼き払われた。

 青白い閃光が過ぎ去った後には小型の化け物は一匹も見当たらず、体の一部も残らず消し飛んでいた。閃光の発生幻だと思われる一夏はその場所に立っていた。閃光は繭も完全に消し飛ばしていたらしく糸くず一つもまとわりついていなかった。

 

「一夏!?」

 

 閃光に目をつぶっていた箒は、一夏の姿を確認するとすかさず一夏に駆け寄った。しかし、近づいても一夏の反応が薄かった。箒が一夏の肩を掴んだ瞬間、一夏が箒に倒れ込んできていた。

 

「お、おい一夏まていくら何でも急に―――気絶してる……?」

「すーすー」

「………本当に気絶している……それだけあの閃光を発したことで消耗したのか…?」

 

 急にもたれかかってきた一夏に対して慌てる箒であったが、箒の肩で寝息を立てながら見事に意識を失い気絶している一夏を見てあきれつつも、さすがに幼馴染とはいえ同い年の異性に肩を貸し続けることに気恥ずかしさを感じたのか、起こさないようにそっと地面に下した。

 

「しかし、いくら何でも地べたに寝かせるのは……よし……!」

 

 箒は呟くと、腰を下ろして正座で座り膝の上に一夏の頭を乗せた。

 箒は、ようやく一息がつけたと肩の力を抜くことができた。そして顔を寝ている一夏に向け、寝ていることを再度確認すると、一夏の前髪を撫で付けながら、化け物と戦っている間中常に険しかった顔を緩めて静かに微笑んでいた。

 

「全く……お前というやつは……本当に仕方ない奴だな………」

「そうよねぇ、まさかあの場面で飛び出して行っちゃうなんて勇気を通り越して蛮勇だものねぇ」

「!?!?」

 

 箒が急いで声がした方向に振り向くと、青い髪に、赤い瞳をしており、手には扇子を持った少女が立っていた。

 

「せっ生徒会長!?」

「はっはっはー箒ちゃんすっかり私が見張っていたの忘れてたわねー」

「いっいや、こっこれはその―――」

「まっいいわ、とりあえず私からは最後のとどめを刺した後に油断してたとこはあったけど、織斑一夏君が急に現れて対応がおくれたのも加味するとそうね、今後の期待も込めてぎりぎり及第点ってところかしら」

「うっはい……」

「でも…織斑一夏君のことに関しては私が()()()()()()()ところもあるからそこまで攻めはしないけど、いくら幼馴染が出てきたところで動揺しないように。後、≪幽体(ゆうたい)≫には単純にとどめをさしても何か仕掛けがある奴もいるわ。そこも反省点ね………」

「ちょっと、待ってください!一夏をわざと見逃したって何ですか?」

 

 突然、箒の背後に現れた生徒会長と呼ばれた少女は、箒に対し次々と反省点を上げていたが、箒には聞き逃せない言葉があった。箒が少女の言葉を遮りながら詰め寄ると、少女は申し訳ない顔をして言葉をつづけた。

 

「うん、それなんだけどね。箒ちゃんも当然気になっていると思うんだけど、一夏君が何故か≪心力(しんりょく)≫を、それも飛び切り強力なものを持っていて、それなのに≪幽体≫を知らないどころか≪心力≫の使い方もまるで分かっていなかったことと関係があるのよね」

「つまり、初めから知っていたと……」

「うん、それで飛び出してきて、本当に危なくなるまでは見ているつもりだったの。もちろん、あの繭に完全になった時点で助太刀に入るつもりだったんだけどね……彼、何とか自力で打破しちゃったし」

「……………」

「それで、まあ色々説明しなきゃいけないところなんだけどちょっと待ってほしいのよね」

「!?どうしてですか!?」

「理由としては織斑一夏君にも、一緒に説明したいからに尽きるの」

「どうしても……ですか…?」

 

 箒は一向に納得がいっていない顔をしていた。その顔を見て、少女は申し訳なさそうにするものの飄々とした態度は崩さなかった。

 

「ええ、あの様子では記憶操作も効かないでしょうしね。よって、最低でも一週間は待ってもらうことになるわね」

「一週間もですか……」

「ええ、聞いたところによると代表候補生とクラス代表を掛けて決闘するらしいじゃない。で、それでクラス代表に選ばれるとお次はクラス対抗戦でしょ、さすがに集中してほしいからね。だから、ある程度の説明は箒ちゃんにしてちょうだい」

「………分かりました。更識 楯無(さらしき たてなし)生徒会長」

「ええ、お願いね」

 

 そうして、伝えるべきことは伝えたといわんばかりに楯無と呼ばれた少女は、箒とその膝で呑気に寝ている一夏から目線を外して夜空の月を見上げた。

 

「それにしても………」

「何でしょうか?」

「ホントに今日は激動の一日だったでしょうね。織斑一夏君は」

 

 そういって少女は微笑む。

 

 その夜空に浮かんでいる太陽のように輝く白い月は3人を照らし続けていた。

 

 こうして、織斑一夏の波乱万丈、奇奇怪怪の学園生活の初日は幕を下ろした。

 

 第一話了

 

 

 第二話 決闘、誇り高き青龍 に続く…

 




これで第一話は終了となります。
いかがだったでしょうか。ちゃんと伝奇ものらしくなっていればいいと思います。

いきなり出てきた単語とかは次話から解説していきたいと考えています。
初めて戦闘シーンを書いたためか、戦闘の描写のバランスが難しかったです。
ここから、インフレしていくと考えると戦々恐々としています。
あと一夏、ヒロインズ、千冬さんとあと≪黒騎士≫に関してはある程度の戦闘スタイルはすでに固めています。ここら辺の描写にも力を入れていきたいと考えています。
出てくる敵に関しても、原作と織り交ぜつつ完全にオリジナルと化していきます。
次はとりあえずセシリアが中心となったお話ですね。

では、また次回。たぶん一週間後位に投稿していきたいと思います。

ご意見、感想等よろしくお願いします。

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