伝承・無限軌道   作:さがっさ

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執筆が完了したので早速投稿しました


第三話 衝突する思いと暗躍の土塊 その四

時は既に夕暮れ、学生寮の廊下を一夏は自室へ向かっていた。

 廊下の明かりが点くには早い時間なのか、廊下を照らしているのは夕陽のみであった。

 

(何だかんだと言いつつも結局色々と教えてもらってしまった……俺としては随分と助かったから文句はないんだけど)

 

 あれから千冬に教えてもらったことを忘れないように頭の中で何回も繰り返し確認しながらも一夏は歩いている。

 姉を頼りたくはないという気持ちはまだ残っているものの、これから何をすればいいのかという道筋が曖昧であった一夏の前にもようやく明かりが灯るほどに姉からの助言は確かなものではないかと思わせるものであった。

 姉が教鞭をとるなどとIS学園に来るまで想像もしたことが無かったとはいえ、まさかあれほど教えるのが上手いとは思ってもいなかった。一夏が小学生の頃、剣道を教えてもらった時など感覚的な表現というのだろうか、所謂天才の教え方というような、およそ自身の感覚を優先したそれは影も形も無かった。

 擬音交じりで教えられては箒と揃って首を捻り、そんな様子を見た師範に珍しく苦言を呈されて、傍目には気づく人は少なかったが密かに肩を縮めていた姉の姿を思い出すものの、どこか背筋が冷たくなるものを感じるので、考えることは止めておこう。

 千冬は昔からからかわれることが嫌いで、それこそ過去の失敗を持ち出してからかおうものなら痛い目にしか合わなかった。考えるだけでも睨め付けられるので、恐ろしいものである。

 

(とりあえず、千冬姉は偉大だっていうのは変わらないという事を再確認できたということにしてこの話は考えないようにしよう――うん、そうしよう)

 

 とはいえ、気になる事があるのも事実。

 自分に分かりやすく説明するためなのか、いつもは単純明快、単刀直入に物事を言う姉にしてはいささかまわりくどい教え方だった。特にあの長ったらしい前置きなど、彼女らしくは無かった。

 そしてもう一つ、千冬は何かを隠している。

 家族だからと言って何もかも話すというわけでは無いし、実際、ISのことについてはことごとく隠されていたから今に始まったことでは無いのだが。それでも、自分に関わる何か重要なことを隠している気がする。

 それは、自分がISに乗れる理由かもしれないし、もしくは俺が《幽体》と何か関わりがあるということに関係があるのかも知れなかった。

 いずれにせよ、いつか話さなければならない事であることは確かである。

 そんなことを考えながら歩き続けていると、寮の部屋がある廊下に一人、見覚えがある人影が壁に寄りかかっていることに一夏は気が付いた。

 どうやら、誰かを待っているらしくしきりに辺りを見回しては携帯を取り出して時間を確認している。

 茶色がかった髪をツインテールで結び、口元には八重歯が映える。制服は改造していて両肩だけが出ていて、ミニスカートでその小柄な背丈に似合っている。

 鈴である。

 ただ、どうして自身の部屋の前で誰かを待っているようであるのかは一夏には分からなかった。

 一昨日の一件以来、昼休みにもろくに会わなかった鈴と待ち合わせをすることなど出来る筈も無く。

 では、どうして待っているのだろうかと考えた所で、鈴が一夏の方に顔を向けて待ち人来たりという風にこちらに体を向けた。

 

「やっと来たわね。遅かったじゃない、男子が女の子を廊下で待たせるもんじゃないわよ」

「そういうもんなのか、鈴?だいたい約束とかして無かっただろ。そこまで言われる筋合いは無いぞ」

「そういうもんなのよ!まあ、いいわ。一夏にそこらへんの男女の機微っていう奴を期待しても無駄って奴よね」

 

 ため息を吐きながらやれやれという風に両手の平を上にあげるジェスチャーまで付けて、大げさなまでに呆れている鈴。

 互いが中学時代の頃は、やれもっと女心を知れだとか、気を使えだとか言っていたのだが、どうやら完全に見捨てられたらしい。と言っても、一夏には相変わらずどうすればいいのかなどというのは分かっていないので、いつもの挨拶程度にしか感じていないのだった。

 

「それで、何の用なんだ。一昨日の話の続きでいいのか?」

「う、うん。まあ、その、あれよ、あれ。一昨日は、その悪かったわね、急に押しかけちゃって」

「うん?」

 

 鈴は頬をかきつつもしっかりと一夏に謝罪をしていた。

 その普通に考えれば親しき相手でもなければあまり謝罪とも取れないような態度ではあるのだが、幼馴染の中であるのならば問題は無い。

 というか、一夏からすればこうも素直に鈴が謝ってくるとは思ってもいなかったので、そちらに対する驚愕が大きかった。

 

(おかしい、確かに決して謝らない奴という訳では無かったけど、さんざん口喧嘩した後にようやく謝るというのがいつもの流れだったハズ……)

 

 大した事のない口喧嘩が一、二週間続いたことも珍しくなく。長い時には一ヶ月も口喧嘩していたこともあったのだが、今回は二日で謝りに来たというのはこれまでで最短の記録である。

 加えて、いつもは一夏に謝らせようと躍起になって、主旨がずれることが大半であったにも関わらず、鈴の方からなどというのも珍しかった。

 

「けど」

 

 しかし、鈴のどこかしおらしいとも言える態度はたちまちに消えた。

 その目には、確固たる決意が感じ取れる。一方でどこか諦観のような、悲しみを一瞬感じたが、直ぐに鈴自身の硬い決意により名残もなく消え失せていた。

 

「期待させてたら悪いけど、私の意見は変わらないわ。今すぐにでも契約を切って、《幽体》のことなんて忘れて、普通の学園生活に戻んなさいよ」

 

 IS学園で普通の学園生活を送れるかは知らないけど、と冗談を付け加える鈴だが、変わらずその目は冗談を言っているというには全く笑っていなかった。

 目を細め、一夏を睨みつけていた。

 だが、その程度でひるむ一夏では無かった。

 

「断る。これは俺の問題だ。いくら幼馴染でも軽々と頷く訳にはいかない」

「はは、何言ってんのよ。アンタの契約してるそれは軽々なんて表現で表せるもんじゃないわ。素人が銃の扱いを知らずに持ってる……その程度だと思ってるなら尚更よ。危険すぎる」

「だとしても、俺は今この力を手放すわけにはいかない」

 

 強く、要求を突っぱねる。

 流石にその強情さをおかしいと感じたのか、鈴は一夏を向けていたその表情を疑問が入ったものに変えた。

 

「……どうして、どうして手放すわけにはいかないのよ。そいつに何か脅されでもしたの?それとも契約の条件がとても良いものだったっていう話?どちらにせよ、私が納得できる内容だとは思えないし、納得できるものだとして、信用できないわね」

「そういう訳じゃないさ。こいつも、《スサノオ》も俺が強くなること以外を特に望んでいるという訳じゃなさそうだしな。だから、契約がどうこうって訳じゃない」

「じゃあ、なによ。もしかしてその力があれば戦えるって?誰か助けられるかもって思ってるの?――そんな簡単に行くわけないじゃない!」

 

 吐き捨てるように鈴が言う。

 その目が初めて俯くように一夏から逸らされる。それは何かから目を逸らすようであった。

 

「力が手に入ったからって、いい気になって人助け?そう簡単にいったら誰も苦労しないわよ。現実は、あいつらはそんな簡単にはいかない。一度始めたら、終わりは無いわ。ただひたすら奴らと戦い続けなきゃいけなくなる。例え、戦うのを止めたって、奴らがそこに居ることを知れば、夜も眠れなくなる。それでもいいの!?」

 

 俯きながら、鈴は叫び続ける。

 その小さい手は、硬く握りしめられていて、今にも血が滲み出そうになっていた。

 

「じゃあ、お前はいいのかよ。そこまで言う茨の道を歩いてるお前のことは放っといて!俺はISに勤しんで過ごしてくれって、そう言ってんのかよ!」

「ええ、そうよ。いいじゃない、放っとけば」

「鈴……!」

 

 一夏が声を荒げて言うも、鈴は取り合わない。

 むしろ余計に頑なな態度を強めるだけになった。こうなっては簡単に意見を変えることは無いだろう。一夏はそのことを知っていた。幼馴染で、何回も喧嘩をした仲であるのだから当然だ。

 いつもは時間が解決してくれた。しかし、今回ばかりはそうもいかない。どちらも自分の主張を曲げはしないだろう。

 これ以上言い争ったとして、どちらかが折れるなどということは無いだろう。それは二人とも既に分かっていることだった。

 

「だから……最初から言ってるでしょう。次はアタシと決闘しなさいって。買った方が負けた方の言い分を聞く、そうじゃなきゃ結論先の伸ばしで時間だけが過ぎちゃって、それで、そのせいでアンタが死ぬかもしれないなら、直ぐにでも止めさせる」

「…………」

「それでも――アンタは契約を解除しないの?」

「ああ、断る」

 

 一夏の答えは決まっている。

 言うまでも無かったのだろう、鈴は心底無念そうに肩を落としてはいるものの結局はこうなるであろうことは予想していたのだろう。直ぐにこちらに厳しい目線を送りながら向き直っていた。

 

「バカよね、本当に。アタシの言ってることが嘘だとは思ってないんでしょう?」

「ああ、鈴がこれだけ言うんならその通りなんだろうな。本当に死ぬかもしれない、そんなのは、入学して初日で思い知ってるよ」

「そう……それでも分かんないっていうなら力づくでいくしかないわ」

 

 鈴がなぜこうも《幽体》から引き離そうとしているかは一夏には分からなかった。

 一夏が知らないこの一年間の間に鈴はIS操縦者となり、そして何らかの形で《幽体》と関わることになったのだろう。

 箒もそうである。全く会えないまま過ぎた六年間で、彼女は大太刀を手に生身で《幽体》と戦うようにまでなっていた。

 幼馴染二人が関わっていて、自分だけ関わらないでいられる程、一夏は薄情でもそして利口でも無かった。

 

 だから、例え相手が中国の代表候補生である鈴であったとしても、今度も逃げる訳にはいかないのだ。

 

「それじゃあ、決着を付けるのは三週間後のクラス対抗戦ってことでいいかしら?」

「ああ、俺は構わないぜ。もちろんハンデはいらない、お互いに本気でやる」

「いいわ。でも、《幽体》を使うのは禁止。あれは人目にさらせるもんじゃないわ、だから《スサノオ》にも頼れないわよ」

「そうだな、分かった。まあ初めから頼る気は無かったけど」

「後―――あたしたちが互いに当たる前に負けた場合は……」

 

「その場合を考える必要は無いぞ」

 

 不意に第三者の声がしたと同時、ガラスをハンマーで砕いたような音が廊下に響いた。

 それまで互いのことしか頭に無く、いきなり話しかけられた二人は慌てて声を掛けられた方向、ちょうど鈴の真後ろへと向き直ると、そこに居たのは、箒だった。

 どうやら、放課後の部活動を終えた帰りであるらしく。竹刀袋や、剣道着などを包んだ一式を手に持ち、そこにたたずんでいた。

 箒の普段から、ただでさえ人を寄せ付けにくい鋭い目つきがより鋭くなっていて、主に一夏の方を射抜いていた。

 とはいえ、付き合いがある人にしか分からない程度の変化であり、現に今この場では、鋭く射抜かれている一夏しか感じ取れるものでは無かったのではあるのだが。

 

 

「ちょっと、箒。いつからいたのよ、まさか全部聞いてたの!? ていうか、どうやってここに!? 私全然気が付かなかったわよ!?」 

 

 箒がいたことがよっぽど予想外であったのだろう。鈴は驚きを隠せないまま、箒へと詰め寄って問いただした。

 一方の箒は、一夏への苛立ちを一旦納めると鈴に向き直り、なんとでもない風に話す。

 

「いや、私が部活を終えて部屋に帰ろうと寮まで来ると私と一夏の部屋周辺で何やら怪しい結界が貼られてるのが分かったので、警戒しながら急いで向かえば、鈴が結界を張っていてその中で一夏と何やら話しているのが見えたからな。結界を張ってまで何を話しているのか気になった私はこっそりと結界侵入の術で鈴に悟られずに入ったということなのだが」

「いやいや、どういう技量してんのよアンタ!? アタシの結界は《白虎》謹製の特別仕様なのよ!? 一般人は愚か、力持ってるやつにも結界の存在は分かんないし、ましてアタシに気づかれずに入れるとか、無理よ!」

「ああ、そうだな。あれほどの隠蔽結界なら滅多に破られるものでは無いのだろうが、隠れた《幽体》を見つけ、倒すすべに長けている私にとってはそう難しいものでは無かったぞ」

 

 と、そのように言っている箒の手の中にはいつか見たような、達筆な漢字が書かれた札があった。鈴の結界を破ったのだろう、その札には既に力は込められてなく、一夏にも辛うじてだがその札が力を使い果たした後の残滓のようなものを感じ取ることができた。

 

「って、そうじゃない! 何で結界なんて貼ってたんだよ、鈴!俺が逃げ出すとでも思ってたのかよ!?」

「そういうんじゃないわよ。ただ単に邪魔が入らないように人払いの結界を張ってたのよ。そりゃ、そこまで本腰入れた作ったわけじゃないとはいえ、あっさりと破られるとは思っていなかったけど……」

 

 微妙に目を逸らしながら答える鈴に懐疑的な視線を投げかける一夏、鈴が言う人払いをするというのは間違いでは無いのだろうが、それ以外の意図もあったのだろうことは簡単に感じ取れた。

 しかし、一夏自身への害意を感じ取ることが出来なかった。

 

(ま、いいか。後で聞くことにしよう。それよりも箒が何か言ってたし、それが優先だな)

 

「それで、俺と鈴が当たる前にどっちかが負けるかもしれないとか考える必要は無いってどういうことなんだ、箒?」

「ああ、先ほど道場の帰りに掲示板にクラス対抗戦の対戦表が貼られていてな。それによると、一回戦での一夏の相手は――二組、つまり鈴ということだ」

「あら、アタシが一回戦の相手って随分と運が無いじゃない」

「そうか? 俺としちゃ話が早くて助かる。万が一にでもお前と決着がつかないのは後味が悪いからな」

「まあ、それについては同感よ」

 

 好戦的な笑みを浮かべつつもその瞳は真剣そのものであり、戦意をむき出しにしていた。

 一夏も鈴の気迫に応じるように一歩踏み出す。

 もちろん、決闘を行うに至ったいきさつである互いの主張を忘れた訳ではないが、それでも、互いに負けられないという思いは変わらなかっただろう。

 共にいた時から一夏と鈴は何かに付けては争うと言ったことも少なくは無かったみである。いざ勝負となれば互いを意識してしまうのは道理である。

 

「それじゃあこの三週間でアタシに勝てるように精々頑張りなさいよ。一応、こちらは代表候補生なんだから、生半可な実力じゃ、一方的な試合になるでしょうから。いくら大事な試合だからって、アンタとの勝負がつまんないものになるのは、アタシも御免よ」

「ああ、首を洗って待ってろよ、鈴」

 

 一夏の返事に満足げに頷き、踵を返すと、鈴は寮の自室へと去っていく。

 完全にその後ろ姿が見えなくなった所で、緊張が解け、ようやく一夏は肩の力を抜くことが出来た。その掌は緊張でずっと握りしめられていたためなのか、汗ばんでいた。

 途中、箒の乱入があったものの、一夏と鈴の決闘は決まった。

 鈴はセシリアとの決闘の際の特訓相手であった。一夏の実力や手の打ちは大体が把握されているだろう。

 クラス対抗戦まで残り三週間、それまでに何としてでも強くならなければならない。

 少なくとも、鈴を倒しうる何か――決定打を生み出すことができなければ、一夏の勝利は遥か遠いものとなるであろう。

 

「箒、そういうことだから。ちょっと協力してほしい」

「構わないぞ、一夏。元よりそのつもりだったからな。とは言え、何とかなるのか? 私もISについては詳しいわけではない。知識面に置いては多少聞きかじってはいるが、鈴に通用する何かを知っているとは言えないぞ」

「そこらへんは大丈夫だ。実はさっき千冬姉からアドバイスを貰ってきててな。とりあえず言われた事をやってみようと思う」

「千冬さんから……? 大丈夫だったのか、一夏?」

「?ああ、問題は無かったぜ。千冬姉が珍しく丁寧に教えてくれたしな」

 

 箒の心配をよそに、自室の鍵を取りだしながら答える一夏。

 再会してから感じていた、一夏の千冬に対する何か含みのある視線を心配してのことではあったのだが、受け答えにはおかしい所は見られなかった。

 やはり杞憂であったのだろうか、と思う一方でなぜだかそう簡単に片づけてしまってもよいのだろうかとも箒は思っていた。

 といった所で、一夏に伝えることがあるのを箒は思い出した。

 

「ああ、そうだ一夏。さっき寮の受付にお前宛ての荷物が届いていたぞ。多分あれは注文した竹刀じゃないか?」

「え? 竹刀? …………箒、宛名とかは見たのか?」

「いや?ちらりと見えただけで、荷物の包みの大きさ程度しか分からなかった。形状から竹刀なんじゃないかと思ったのだが……違うのか?」

「……いや、多分、頼んだ竹刀だ。ちょっと取ってくる」

 

 そう言い残し、抱えていた荷物を自身のベッドに放ると、そのまま寮の受付の方まで走って向かっていった。

 最初は心当りがなさそうに首を傾げていたことから、一夏自身が注文した訳では無さそうなのだが。それでも送ってくる人物に心辺りがあったのは確かなようだ。

 

(本当は私が注文しようとしていたのだが……どうやら誰かに先を越されてしまったらしいな。恐らく、千冬さん辺りだろう)

 

 弟に内緒で送りつける辺りがそれらしいなと思うと同時に、一夏の竹刀がダメになってしまった原因は自分にあるため申し訳なさが募るばかりである。

 箒も部屋に戻り部活帰りでもあることから先に自室のシャワーを浴びて出た所で、ちょうど一夏が戻ってきた。

 ここから寮の受付までそう遠くないので、やや遅い帰りである。

 その手には、既に包みをはがし、竹刀袋に入れられた竹刀があった。

 一夏の額に汗が浮かんでいるのを見ると、どうやら早速竹刀で素振りをしてきたようであった。

 

「早速素振りとは、精がでるな。そこまでだと、随分と真剣にやっていたのが伺えるぞ」

「まあな。よっぽどの事情が無ければ毎日振ってたし。もうすっかり習慣になってて、正直ちょっと落ち着かない位だったんだ」

「大げさ、とは私も言えないな。素振りをしていると落ち着くのは分かるな」

「流石に、箒の竹刀を借りてばかりいるのは流石に悪いからな。それに、千冬姉の助言を生かすにもちょうど良かった。後は……何とか戦闘機動を教えてくれる奴がいればいいんだけど……」

「戦闘機動か……私が教えても構わないのだが……いかんせん鈴に通用する程のものを知っているかと言えば自身が無いな、代表候補生は伊達ではないだろう。勿論私も知っていることは教えたいが……こればかりはどうしようもないな」

「ああ、だから……背に腹は代えられぬと言うし、思い切ってセシリアに頼もうかと思ってる。同じ一組だからな、クラス対抗戦の一環となれば協力はしてくれるとは思う……いきなり頼るのはどうなのかとも思うけど……こっちは時間も無いしな」

「……そうだな、例えば山田先生に教えを頼むという方法もあるが、一人の生徒に付きっ切りとはいかないだろう。なら、オルコットに頼むのが最善ではあるな。引き受けてくれるならだが」

「問題はそこなんだよなー」

 

 一夏は腕を組みつつ、頭の中でセシリアとのやりとりを考える。

 今日のやりとりを踏まえて、頼みに行くとすると……まあ、多分いけなくはないとは思う。

 

(一応、強敵と書いてともと呼ぶみたいな感じで行けば――いや、イギリス人のセシリアにそこらへんが伝わるのか?)

 

 これが、箒や鈴であるならば申し訳なさがありつつも、引き受けてもらえるだろうという気はするのだが、いかんせんセシリアとの交友は少なく、特訓相手を引き受けてもらえるかどうか分からない。

 しかし、独学では、試合までに身に付けるべきISの戦闘機動を習得できるかは怪しいものとなる。

 

 

「とりあえず、悩んでてもしょうがない。明日、朝一番に頼むことにしよう」

「それがいい。断わられれば、山田先生に頼む。それでいいだろう」

「よし! そうと決まれば早速……素振りするか!」

 

 流石に今日のところは出来ることは無いと判断した一夏は、IS学園に来てから中々こなせなかった日課の素振りをするべく、寮の中庭へと行くことにした。

 

「ハア、それでは結局いつも通りだろう」

 

 呆れながら、そう言いつつ自身も竹刀を手に取りながら、寮の中庭に向かう一夏の後を追う箒であった。

 

 

 ◆

 

 

『結局、鈴の言ってた通りになったね』

 

 自室への帰り道、鈴のIS、《甲龍》の待機形態である黒いブレスレッドがしきりに発光しながらも言葉を発していた。その主は、鈴と契約し共に戦う《四聖:白虎》である。

 

「仕方ないわよ、アイツこうなったら頑固だし。だからこうするしかなかったのは最初から分かってたことだし」

『頑固なのは鈴もだろう? 確かに彼は危険ではあるけど、今のところは何故か安定している。《スサノオ》に操られている兆候も特には感じられなかった。それならいっそ――』

「正しい知識を教えて協力してもらえって? 冗談! 一夏を私の事情に巻き込むわけには行かないって、何回言わせるのよ」

『そうは言っても、君の手に余るのは事実だろう? 現に日本まで来たのは奴らの追跡を一時的にでも逃れるためだ。代表候補生となれば、一時的に帰国する必要も出てくるだろう。その時までに出来ることはしておかないと』

「それでもよ。一夏を巻き込まなきゃいけないなら、アタシだけでやる。大事な幼馴染を自分の都合で戦いに巻き込みたくは無いのは、古今東西よく聞く話でしょう?」

『そういうのは大抵、男の立場な気がするけどね。彼もそんな柄じゃないだろうし。何にせよ、鈴一人でどうこう出来る問題じゃないのは確かだ』

 

 その《白虎》の強い主張に応じて黒いブレスレッドの発光も強くなる。

 それを横目で見た、鈴は思わず笑みがこぼれてしまった。

 

「アンタも大概頑固で契約者思いよね。そこまで、言われなくても分かってるわよ」

『契約者の身を案じるのも契約を交わしたものとしての義務だからね、何よりキミを巻き込んだのはボクだからね。ボクには責任がある』

「それは言わない約束だったはずでしょ。契約を受けたアタシにも責任はあるんだから、勝手に思い込まれても困るわよ」

『……分かった。でもボクたちが不利な事には変わらない。ただでさえボクの力が弱まっているんだ。協力者がいる。さしあたっては彼女、篠ノ之箒ちゃんにちゃんとこちらの事情を話すべきだと思うけど。彼女の力は強力だ、弱体化したとはいえ、ボクが貼った結界を見つけ軽く破ったからね。あれで契約していないんだからたいしたものだよ』

「それは私も考えてたわ。でも箒は今一夏の味方をするだろうし、後回し。セシリア・オルコットも……後回しね、一夏の特訓に付き合うかも。だから、当初の予定通りこの学園にいるはずの契約者を探した方がいいわね」

『八方ふさがりのボクたちを呼びつけた手紙、その主の手がかりも欲しいところだからね』

 

 一人と一体は歩いていく、確実に味方となってくれるであろう者の手を払いながらもその信念を貫くために。頼れるものは無く、それでも譲れないものが彼女にはあるのだから。

 




次は多分クラス対抗戦となるはず……
早く書きたいことがあるのに……モチベーションは難しい

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