伝承・無限軌道   作:さがっさ

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何回か書いては書きなおしを繰り返して少々遅くなってしまいましたが、何とか書きあげました。
今回で二話は終了となります。

ではどうぞ


第二話 決闘、誇り高き青龍 その七

「被害の方はどうだ?」

 

 突然のトラブルにより、試合を中止し観戦していた生徒を全て学生寮へと帰らせた後の第三アリーナ、人がいなくなったアリーナで二人の人物が居た。

 片方は言わずと知れた世界最強、ブリュンヒルデ、織斑千冬。そしてもう片方は千冬が担任をしている一年一組の副担任であり、学生時代は千冬の後輩として代表候補生であった山田真耶であった。

 

「はい、襲撃を受けた織斑君とオルコットさんは大きな怪我も無く、現在保健室で横になっています。二人とも極度の疲労がたまっていたとのことです。二人のISも《ブルー・ティアーズ》が四機破損している以外はISの自己修復機能でおおよそ修復されています。中止直後に他にも少なくない生徒たちが軽いめまいと吐き気を訴えていましたが訴えていた全員の体調は回復したとのことです」

「そうか、全員無事とは言えないが……良かった。それで破られたアリーナの遮断シールドはどうだ?」

「はい、襲撃直後に荷電粒子砲と見られるものでシールドが破られ、約40秒後シールドが再展開されました。現在は再三のチェックを行っていますが問題は今のところ見つかっていないとのことです」

「それで……コードネーム《黒騎士》の行方は?」

「はい、試合決着の直前に学園内のレーダーを全て掻い潜られ、前述の通りにアリーナのシールドを破り侵入。次の瞬間には織斑君とオルコットさんの両名を即座に戦闘不能にし、離脱そこから一年二組の代表候補生の凰 鈴音さんの《甲龍(シェンロン)》が追いましたが、逃走した方向すらつかめなかったようです。凰さんには帰投と待機を命じてあります」

「ありがとう山田先生、苦労をかけてしまったかな」

「いえ、IS学園の教師として当然です。それで……襲撃者の《黒騎士》については?」

「ああ、やつは5年前、各国がISの開発を本格的に始めようかいった頃、世界各地でその姿が確認されている。その姿が最初のISとされる《白騎士》と《全身装甲(フルスキン)》である事を除き似通っていることからどこぞの国が作った《白騎士》のデッドコピーと思われたのだが……世界中に配られたISコアの総数467個と一致しないことから篠ノ之束が新たに作ったISであるというのが共通認識としているのだが……」

「自分の国のISコアの数が足りないと申告するわけにはいかないので黙秘しているというわけですね……実際には《黒騎士》が何処に所属しているのかこれまで皆目見当がつかない状態であったと」

「ああ、何しろその行動目的の多くが不明だ。各国の軍事基地に突如として現れ交戦したかと思えば、大規模災害時に人命救助を行ったともされている。所属不明機(アンノウン)に下手な名誉が付くと困る連中にもみ消されている情報もあるだろうが、何を目的として単独行動をしているのか分からないのは共通としている」

「今回も、襲撃と言えば襲撃でしたがそれにしては不意を打って織斑君とオルコットさんのシールドエネルギーをゼロにするのみで撤退しました。その力を世界に見せつけるのが目的ではとも考えられますが……」

「あの時点でほぼ決着は着いていた。あの時点で介入したところで大して性能は評価されないだろう。そうでなくともあいつはこの5年間、一度もあらゆる国や組織に拘束された記録がない。この時点でその力は証明されている」

「IS学園が誇るアリーナの遮断シールドもたやすく破られました……そのうえ、攻撃されるまでレーダーには一切映らなかった隠密性も驚異的です。これだけの力があって目的が一切分からないのは少し……不気味ですね」

「ああ……そうだな……」

「織斑先生?」

「いや、何でもない。私はこれから上に報告をしてくるが……山田先生は?」

「はい、私は生徒たちの様子を見てきます。襲撃にまだ不安を覚えてる生徒もいますし」

「分かった。頼んだぞ」

 

 そうしてピットを去る山田先生を見送り、改めてアリーナに目を向ける千冬。アリーナには目立った破壊痕は無く。襲撃があったとは思えないほどに傷つけられている物は無かった。

 

「一夏とオルコットを傷つけずにことを収めるとは……一体全体どんな芸当なんだか。これでは世界最強も名前負けしていると言われても仕方がないな」

「いやいや、私からすれば織斑先生も大概だと思いますけどね」

 

 いつの間にか千冬の背後に女生徒が立っていた。胸元のリボンは二年生のものであり、手には水色の装飾が施されている扇子持ち、それを口元に当ててていた。特徴的な水色の髪と赤い瞳は人目を惹き、一目で分かる美人であった。

 突然声を掛けられたにも関わらず驚きもせずに千冬が振り返る。女生徒の方も余裕そうな態度を隠さずに千冬に向き合う。

 

「一応私は引退しているのだがな。最前線で戦っているロシア代表のお前がそんな気概ではいつまでも私が世界最強と呼ばれてしまう。そこは後進には頑張ってほしいものなのだがなあ、更識」

「いやあ、私も日々研鑽を積んでるつもりですけどその度にブリュンヒルデの偉大さが分かりますよ。引退は早かったんじゃないですか?あと十年はやれそうですけど」

「はっ、言っていろ」

 

 軽く冗談を交わすやり取りをしてあいさつはここまでと気分を切り替える千冬、合わせるようにIS学園生徒会長、更識楯無の方もその取っ付きやすい雰囲気から、仕事の時のものへと移った。

 

「で、首尾の方は?」

「概ね問題ありません。織斑君とオルコットさんの両名とも《幽体》に乗っ取られていることなく織斑君の方は無事契約を完了させています。オルコットさんの方は分かりませんが《憑依》をされているわけでは無いようです。今は箒ちゃんに様子を見てもらっていますよ」

「分かった、織斑とオルコットへの説明に関しては慎重にな。全て話せるのはやはりクラス対抗戦が終了したのちだ」

「分かっています。問題はそれまでにどうやって凰さんに協力を取り付けるかですかね……」

「お前は初日の夜に接触したんだったな。あの通り警戒心が強いからな、私もどう説明したらいいものかと頭を悩ませてるよ」

「全部把握していて放置していました。なんて言われたら誰でも怒る人はいるでしょうね。とはいえ、今日の物は勘弁してほしいものですが」

「全く……!同時に覚醒する可能性が出てきた等言われたときは頭を抱えたものだ。篠ノ之が凰をとりなしたとは聞いたが途中で試合に乱入しないかと何度思ったか」

「止める事自体は自然にできますけど、後から知られたときに印象悪くしますからね……もう遅いかもしれませんが」

「全く、いつからこんな小賢しい手を使わなければならなくなったんだか。いっそのことばらしてしまえば楽なんだがなぁ」

「私も思いますけど、今はダメですよ。厄介事が全部終わらないと私が大変なんですから」

「そうだな、私も色々とやる事が多い。全くIS学園を襲撃とはどうしたものかな」

 

 語り合う二人は自分のやるべき事の多さに辟易とするものの自分の役割を全うするべく次の仕事へと取り掛かった。

 

 

 

 

 一夏は暗闇の中にいた。

 一体いつからここにいたのか分からないほど、長い時間が経っている気がする。

 まるで体が棒になったかのように力が入らず、指一本動かすことが出来ない。

 寒い、寒い、寒い。

 身じろぎすらできない体の感覚は寒さとそれからくる痛みしか感じ取ることが出来なくなっていた。

 

(このまま、俺は死ぬのか……?)

 

 これで何度目だろうか、死ぬかもしれないと思うのは。

 なんだかIS学園にきてから随分と死にそうになっている気がする。少なくとも、中学時代は自分の周りは死にそうになる事なんか無かったはずではある。

 姉が自分にISに関わって欲しくないと言っていたのも分かる気がした。

 

(それにしても寒い、何とか体に熱を入れないと……本当に死んじまうな)

 

 何もない暗闇、動かない体、このまま自分は死んでしまうのではないのかという不安が頭をよぎり始めた時だった。

 自分の額から暖かい光のようなものがあふれ出した。

 その光はだんだん帯の様になり、一夏の体へと流れ込み、冷え切った体を温める。

 その暖かい光からはどこか懐かしいものを感じた。その光に包まれていると心の底から安心できた。

 

『頃合いだろう。そろそろ目を覚ませ、契約者』

 

 そんな声が聞こえた所で一夏を包んでいた暗闇が晴れた。

 

 目を開けると、そこには見覚えがない天井があった。

 かすむ視界で瞬きしながら、辺りを見回すとカーテンで仕切られたべッドで寝ていたらしいことが分かった。

 そうしていると、仕切っていたカーテンが開かれ、誰かが入ってきたのが分かった。

 黄色いリボンでその長い黒髪をポニーテールにし、どこか鋭いながらも優しい目つきは自分の知っている顔だった。

 

「ッ!気づいたか、一夏」

 

 どうやら自分が起きた事に気づいたのか箒がこちらに駆け寄ってきた。

 こちらの顔を覗き込んでいるのをみるとどうやら心配をかけたようで申し訳ない気持ち一杯になっていた。

 

「ほ、箒か。心配かけたかな?」

「心配するさ、大事な幼馴染だからな。それより体調の方はどうだ?」

「大丈夫だ。このくらい、ちょっと疲れてるだけでこの通り……」

 

 一夏は体を起こそうとするも上手く力が入らなかった。それを見た箒が手を貸してくれた事で何とか体を起こすことが出来た。

 どうやら一夏の思っているよりも自身の体力が無くなっているようで、あの試合で相当消耗しているらしかった。

 ふと、自身を見てみると、その左腕には点滴のための針をさしており、右手首には白いブレスレッドを付けていた。そして額にはいつぞやの湿布のようなものが貼られており、一夏を癒していた。

 どうやら箒が処置してくれたらしい。

 

「無理をするな、今水でも持ってくる」

「え、ああ」

 

 そう言って直ぐに水を注いだコップを一夏に差し出し、いつの間にかベッドの脇に持て来ていた丸椅子に座る箒。

 コップを受け取り、水を飲み干すと少しだけ気分が良くなった。

 

「ふぅ。悪いな、処置もしてくれたのも箒だろ。おかげで何とかなったみたいだし」

「全くだ、試合の後はここに運び込まれた時は相当《心力》を消耗していて、一歩間違えば死んでしまう所だったのだぞ。あの様子では後一分も持たなかっただろうな」

「そんなに力使うのか…………ってそうだ、試合、試合はどうなったんだ!?どっちが勝ったんだ?」

「…………」

 

 一夏の質問にどこか答えにくそうにする箒であったが意を決めて、落ち着いて聞くようにと前置きをおいてこう続けた。

 

「まず一夏、お前はどこまで覚えてる?」

「どこまでって、たしか《零落白夜(れいらくびゃくや)》でセシリアに突っ込んでなんとかぎりぎりで届いたと思った時に―――」

 

 思いだそうとする一夏の脳裏にセシリアに《雪片弐型(ゆきひらにがた)》を振るった瞬間のことが思い出された。

 頭上から雷が落ち、その一撃で地上に落ちていく自分。そしてそれを見下ろす、黒い鎧。

 

「そうだ、たしかいきなり上から攻撃されて落とされて……もしかして俺負けたのか?」

「違う、お前を攻撃したのは突然現れた襲撃者だ。アリーナの遮断シールドごとお前を撃ち抜き、それに気を捕らわれている隙にセシリアも攻撃を受け落とされた。その後はこちらがろくな対応も取れずに離脱されて……鈴はお前が攻撃されたのを見た直後に飛び出して奴を追いかけたんだが……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?襲撃者?IS学園って世界有数のセキリュティが備わってるって言ってただろ。それなのに誰も気が付かなかったのか?千冬姉も?」

「そのようだな、アリーナの遮断シールドを攻撃されるまで学園に備わっているレーダーにも監視カメラにも引っ掛からなかったらしい。私も詳しくはそこまで聞かされていないが、いつの間にかそこに居て、いつの間にか去っていったのは確かだ」

「そんな奴を鈴が追いかけて行ったって!?大丈夫なのか?アイツ今どこに居るんだ!?」

 

 慌てて、動かない体を無理やり動かし今にでも飛び出そうとする一夏をその肩を掴んでベッドに押し戻す箒。

 体力を消耗している一夏では箒を振り払うことが出来ず。あえなくベッドまで押し戻された。

 それでも何とかベッドから這い出ようとする一夏にため息をつきながら箒が諭し始めた。

 

「落ち着け、一夏。鈴はもう織斑先生の指示で学園まで戻ってきている。今は自分の部屋に待機していろと言われているから大丈夫だ」

「そ、そうか。良かった、早とちりする所だった……いたたた」

「ほら、無理して体を動かすからだ。とりあえず、襲撃者のせいで試合は中止、お前とセシリアは保健室まで運ばれてお前は今の今まで眠っていたというわけだ。ここまでで何か聞きたいことは?」

「えっと、そうだセシリアは?アイツも運ばれたんだろ、無事なのか?」

「ああ、パーテーションで区切ったあるがお前の隣でまだ眠っているよ。あちらも目立った外傷も無く、まあ無事問えば無事だな」

「そうか……それで、箒……俺、その……」

「分かっている一夏。スサノオ様、本人もとりあえずこういっているのでもうよろしいかと」

『やっとか』

 

 箒が一夏では無く何故か右手首にはめてある白いブレスレッドに話しかけたかと思ったら、あの声が再び響いた。

 一夏が慌てて、白いブレスレッドに目をやると薄く発光しており、そこからはスサノオが発していた。恐ろしくもどこか頼もしい気配がしていた。

 

「お前、スサノオか!やっぱり俺の勘違いじゃなかったんだな!」

『我を勘違い扱いするとはやはりどこか抜けているな、貴様は。まあいい、とりあえずは無事なようだな、契約者よ』

「ああ、何とかな。って箒やっぱり気づいて……」

「ああ………実はその方の存在に気づいたのは一週間前、初めてお前が《打鉄》に乗った時に巨大な気配がお前から感じ取れたのだ」

 

 なんと、驚愕の事実が箒の口からもたらされた。どうやらスサノオが一夏に憑いていたことは箒に知られていたらしい。

 それならそうと、一週間前から気づいてたなら知らせてくれれば良かったのにと不平の表情を浮かべながら箒に続きを促す。

 

「最もお前が乗った瞬間、気を失っていた時にしか感知出来なかった上その後何度も調べても音沙汰がまるで無く。気配一つも感じ取れなかったのでお前の集中を乱すのも良くないと試合が終わるまで黙って居ようと思っていたのだが……まさかこんな事になっていようとは……正直、《一次移行(ファーストシフト)》が完了した時には、良く声を上げなかったと思わず自画自賛してしまいそうであった」

「そうだったのか……いやそれならしょうがないか。俺もその時聞いていたらどうしたらいいか分からないし。それで、何かこれ問題あるのか?」

「……問題というか、なんというか。実は申し訳ない事に私はあまりお前の状況についてそこまで把握できていないのだ。出来ればことの経緯をお前の口から説明してほしい。スサノオ様にも聞いたのだが……一夏が起きてからお前から話すとしか言ってくれなくてな……」

『生憎我が全て話してしまうのは契約に反するからな、貴様が話せ』

「契約って、そんな契約だったか?」

『我がことの経緯を話すと貴様との契約に反してしまうのだ。全て知りたいのなら精々自身の手で思い出す事だな』

 

 非難の目を白いブレスレッドに向けるものの、スサノオは意も解せずにそれきり黙ってしまった。

 しょうがないので、箒に事の経緯を自身の理解している範囲ではなす事にした。

 自分は過去にスサノオと出会ってその時に契約した事。何故かその時の記憶はまるで覚えておらず、いつ契約したのかもまるで見当が付かない事。時々、頭痛が起きてはそれを思い出させるようなことが今まであった事。試合中に《一次移行》が完了したときになぜだか知らないが、スサノオと契約した事は思い出すことが出来て、契約しセシリアと戦った事。自分でも何を言っているか分からないながらも何とか伝えた。

 話している途中で、こんなに気軽に話してよいものなのかと思ったが、箒はこういうことの専門家であり自身の幼馴染として信用できる。スサノオも何一つ文句を言ってこないので大丈夫であろうと判断した。

 

「というわけなんだけど」

「なるほど、どうしてお前が《幽鏡界(ゆうきょうかい)》までこれたのか不思議であったがこれなら納得がいく。《土蜘蛛》の子グモどもを一掃出来たのもそのおかげだろうなしかし、肝心の契約した状況が分からないままではどうにも言えんな」

「そうは言っても本当に何にも覚えてないんだ。スサノオは何か知ってるらしいんだけど……」

『我は教えんぞ、自力で思いだせ』

「この通りだからな、どうしたらいいか分かったもんじゃないぜ」

「……一夏はどうしたいんだ?自ら契約を解く気はないようだが?」

「ああ、俺はこれもいい機会だと思ってる。理由は分かんないけど、俺には世界唯一の男性IS操縦者なだけじゃなくて、スサノオと契約したっていう過去もあるらしい。こうなったら一つも二つも変わんないさ。それに、《一次移行》完了と同時にまた契約したって偶然とは思えないし、何か関係があるんだと思う」

「それは私も考えてはいる。もしかしたら姉さんは何か知ってるかもしれない。だがお前は世界の本当の秘密について深く知ることになる。それでもいいのか?前にも言ったかもしれないが相当な危険が伴う。力が無いものにはとてもやっていけない世界だ」

「それでもだ。俺はどんな内容でスサノオと契約したか、あんまり覚えてないけどさ」

 

 そうして、一夏は目を閉じる。自分がこれまで抱えてきていた力不足、ここISを動かしてしまったことでこうも自分の人生はだいぶ流されるように物事が起きてきていた。まだ一週間しかたっていないのにこの密度である。これからの人生でどれほどの困難があるか分かったものでは無かった。

 そんな中で自分の大事なものが危険に陥らないとは口が裂けても言えなかった。この分ではあの無類の強さを誇る千冬でさえ、危ないかもしれなかった。

 

「俺は、多分こういうことを見越して契約したんじゃないかって勝手に思うことにした。困難が立ちはだかっても切り伏せられるくらいに。だから、やっていくさどんなに危険でもな」

「…………どうやら言葉でいっても無駄の様だな。そして私はお前が、織斑一夏が一度宣言したならそう簡単に曲げない男だと、私の思い出はそう言っている。私はそれを信じるよ」

 

 そうして微笑むその顔は、幼い頃に見たものよりも女性らしいものであり美しさが感じ取れるもので、一夏は思わず見とれてしまった。

 

「一夏、顔が赤いぞ。まだ熱でもあるのではないか?」

「え、あ、いや大丈夫、大丈夫だから」

 

 顔が赤くなった一夏の顔をおかしそうにのぞき込む箒に一夏はごまかすように話題を変えることにした。

 

「えっと、箒……それじゃあ、俺が《幽体》と戦うのを認めるってことでいいんだよな」

「ああ、スサノオ様程の《神格》を有する《幽体》と契約してしまったのだ。今後厄介事が多くなる事は違いない。また、契約したことである程度の力を身に着けてしまった以上、放っておくことも出来ん。であれば、必要な知識を教えるのはその道の先人として当然ということだ。少なくとも足手まといになる事はないだろう」

 

 その箒の言葉に思わずガッツポーズを取ってしまいそうになる一夏であったが、喜ぶのはまだ早いと何とかこらえて聞きたい事を優先することにした。

 

「分かった。じゃあ早速聞きたいんだけど………」

「いや話すとなると長くなってしまうし、保健室で話す事ではないだろう。話すのははまた今度だ」

「そうか……俺は大丈夫なんだが、箒がそう言うならそうだな……」

 

 そう言った所で、一夏は自分が何か聞き忘れているような気がした。結構重要だと思うのだが……箒からは自分がこうなった原因は聞いたし、試合の結果も――――

 

「そうだ、セシリア!箒、セシリア・オルコットは大丈夫なのか?あいつも《幽体》が付いてるってスサノオが」

「ああ、私も試合が始まってから気づいたのだが……確かに《幽体》が《憑依》していた。現在もその状態が続いている」

「それって大丈夫なのか?追い出すことが出来ないとかあるのか?」

「《幽体》を追い出すこと自体は可能ではあるのだが……今回の場合は少々事情が特殊であるらしく、一応現状でも危険はないとのことだ」

「危険が無いって、それ誰が決めたんだよ。俺が言うのもなんだけど得体のしれないものに取り憑かれているんだろ」

「確かにお前が言うべきではないのだが……そのオルコットに《憑依》した《幽体》はいわゆるいわくつきというやつで、お前に分かりやすく言えばスサノオ様の様に積極的に人に危害を加える《幽体》では無かった。そればかりか何でも、オルコットと契約を結ぶと言っているらしくてな、結果オルコットが目覚めて判断を任す事にしたらしい」

「アイツと契約を……?どういう風の吹き回しなんだ?」

「詳しい事は彼女が起きてから話を聞かないことには分からない……ともかくオルコットに関してはこれくらいのものだ」

「そうか……分かった。ありがとう箒」

「この程度、気にすることでは無いのだが……ああ、あとお前も想像がついていると思うが一応伝えておくとその右手首のブレスレッドがお前のIS、《白式》の待機状態だ。織斑先生からくれぐれも大事に扱うようにと伝えろと言われていた。部屋に専用機を所有する上での注意事項や規則を記載した書物を送ったそうだから後で持ってくる。目を隅々まで通しておけとのことだ」

「やっぱりそう言うのあるよな……まさかまた電話帳サイズとか言わないよな……?」

「さて……どうだったかな?」

 

 そう言って、にやりと笑った箒から冗談交じりの予想が当たってしまった事を察してうなだれる地下をしり目に座っていた丸椅子から箒は立ち上がった。

 

「では私はここで失礼させてもらおう。一夏にはまだ休息が必要だからな、今日のところは保健室で寝ているといい」

「そうか?俺はもう随分いいんだけど……」

「いいや、まだ寝ておけ。どうせ明日からまた授業があるのだ、今日ぐらいは休んでも文句は言われまい。後でまた夕食でも持ってくる」

 

 ではまたあとでと言って箒は踵を返すと、保健室を去っていった。

 それを見送った一夏はぼうっとしながらもふと窓の方に目をやった。

 保険室に運ばれてからだいぶ時間が経っていたようで、外はもう夕暮れに差し掛かろうとしていた時だった。

 起きていてもやることも無く、スサノオもこちらから話しかけないことには反応もないらしいのかあれから黙りこくっていた。

 じっとしているのは性に合わないのだが、箒の言うことも最もだったので。おとなしく寝る事にし、ベッドに転がり目を閉じた。

 

 

 

 

 物音がした。

 それに反応して一夏は目を覚ました。

 まだ寝ぼけていて瞼が開かないでいるが、辺りの暗さからどうやら現座はすっかり夜になっているらしかった。

 目をこすりながら体を起こす。どうやら体の調子も眠った事で大分戻っているらしく、これなら明日以降の授業も何とかこなせそうである。

 そんな事をぼんやりと考えているとひたひたと足音が続く。

 その足音の主はだんだんこちらの方に近づいてきていた。

 

(箒か……?そういや夕飯持ってきてくれるっていってたっけ?)

 

 そう思い、声を掛けようとした時おかしな点に気がついた。

 なぜ保健室の明かりも点けずに入ってきたのか。箒にはこちらを脅かすような茶目っ気など持ち合わせていないだろう。普通に明かりを点けて入るだろう。

 となると、誰が入ってきたのか。先生の誰かだとしても箒と同じように明かりを点けるだろうことから違う。

 だとすれば生徒の誰かなのだろうか。それにしては、忍び寄るように見舞いに来るような知り合い等あまり心当りが無かった。

 では、誰がこの部屋に来たのだろうか?―――――

 考えている内にもすぐそこまで足音は近づいてきていた。窓の外の街灯の光が入ってきてその人影がベッドを囲むカーテン越しに見える。 

 その人影は女生徒のものとしても小さいものに入り、少なくとも箒の物では無かった。というよりも―――

 という所で、カーテンがその人影の手で開かれた。

 思わず身構えそうになった一夏であるが、その顔を見て肩の力を抜いた。

 

「なんだ、脅かせるなよ、鈴」

「ごめん、起こした?一夏。お見舞い遅くなってごめんね」

 

 そこに居たのはもう一人の幼馴染の鈴だった。

 

「どうしたんだよ、こんな時間に。しかも部屋が真っ暗にして忍び寄るなんて、一応俺けが人だぞ?そこらへん気遣ってくれよ」

「ゴメン、ちょっと明かりを点けないでそっと忍び込むつもりではあったんだけど。一夏が先に起きてたらさすがに意味なかったわ」

 

 はははは、と笑ってはいるが一夏には鈴の様子が気になった。どこか様子がおかしい。

 

「ホントは昼間の内にお見舞いしたかったんだけど、箒から聞いた通りにアンタを襲った奴を追いかけてたら見失っちゃって、そのあと学園に戻されてからずっと待機してたのよね。ようやくさっき開放された所でさ」

 

 口調に変わった所は見られないが何故か鈴からは幼馴染として過ごしてきた間には決して無かった冷たいものをどこか感じていた。

 鈴はこちらに敵意を向けている。

 しかし、どうやら一夏自身に向けているわけでは無いらしい。その証拠に鈴が冷たい目線を向けるのは一夏の右手首のブレスレッド、スサノオに対してのみ向けてるようだ。

 

「…………一体どうした、何の用だよ、鈴。そんなに殺気立って保健室のけが人のところまで来るもんじゃないぜ」

「……やっぱり、一夏にもばれるか……ま、当然と言えば当然かもね。私結構きちゃってるから」

 

 肩をすくめるジェスチャーを交えながらも今度は一切の敵意を隠そうとしなくなった。

 それを直接受けているにも関わらず先ほどから黙り通しているスサノオ。気配から聞いていないというわけでは無いということは何故か分かってはるのだが、鈴を無視している。

 そして、戸惑っている一夏の方へと向き直り鈴はこう告げた。

 

「前置きもなしに言わしてもらうわ。一夏、今度はあたしと戦いなさい。アンタが負けたらその右手首にひっついてる奴との契約を切るっていう条件でね」  

 

 

 

第二話、了

 

第三話、衝突する思いと暗躍の土塊 に続く…

 




いかがだったでしょうか。
色々とキナ臭い感じが出て来ていますがまだこれからといったところです。

セシリアとの決着は次の話に一応つけます。

それにしてもようやく第三話に入るとは……話数を大分分けてしまったのかと思うところもありますがこんな感じで一先ず行きたいと思います。

ではまた次回。

ご意見、感想等よろしくお願いします。

(そういやこれで10話書いたのか……完結まで大変だなぁ……

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