スピーカーモードにしていたので、全員がその名前を聞いてカッチコチに固まったで? 当然この俺もだが、行動力を強みとしている俺がする事は、電話を切ることだ。
「え? ちょ、今のって……」
「あぁ、お前たちがよく知ってる人だ」
「あの、Admiral Saitoが……Cpt.Shishidoのパーソナルフォーンに……!?」
海外士官の艦娘たちや、柱島の艦娘、並びに我らが班長も驚きを隠せない様子だ。
それもそうだ、なにせ電話に掛けてきたその御名前を持つ人物は時雨が言う偉い人どころか、全海軍士官のトップであり上官に当たる偉人。オイゲンさんやゴトランドさんは可愛らしくオメメを見開いてお互いを見つめ合っているが、その反面アイオワさんやタシュケントさんは一瞬理解できなかった様子で、はてなマークを浮かべている。
多少の無礼も多めに見るダンディー中年とは彼の事だが、流石に即時切ったのはヤバイ。
だからここで俺は、必殺技をつかわせてもらう。
「……奥義」
──リダイアル。
そんなチンケな奥義僕も使えるんだけど? とか、宍戸くんアホみたーい! など、俺への貶し方を熟知している白露姉妹の面々を無視して電話を耳に当てる。
『ん? 繋がったか』
「ハッ!! 出撃所付近にて弾格納整備及び遠隔通信点検を行っていたので、電波に支障が出たのやも知れません!」
『お、おう……何をそれほど慌てているんだ? まさか疚しい行いでもしていたのか?』
「いいえッ! 小官は誇りある海軍軍人として誠心誠意、尽忠報国、碧血丹心たる志を常としております! 斎藤長官、ひいては日本海軍の栄誉に一滴の泥を塗るような真似は、この不詳な身なれど断固の意を持って致しかねますッ!!」
『あ、あぁ……勘違いしているところ悪いんだが、私は長官ではないぞ。その息子の……ん、自分で言うのは、少しばかり恥ずかしさが込み上げるのだが』
「では早々にそう申せ七光りがァ。親の威を借りる狐めッ」
『何だと貴様ァ!? 表に出ろォッ!!』
なんだよ驚かせるんじゃねぇよ本当さァ……今の間だけで俺の寿命三ヶ月ほど縮んだぞ。つかもう表に出てるし。
この場にいる全員がその会話を聞いてホッとした顔を見せているのは言わずもがな。偉い人って点では相違ないだろうが、偉い人にも天と地の差があってだな……一応同期といえば同期なので、要らぬ勘違いをさせた点でこれ以上彼を攻めるのはよそう。
「久しぶりですねェ斎藤大佐ァ!? チョーシどォ〜っスかァ〜?」
『十全だ』
「チョーシこいてんじゃねぇぞオラァ!!」
『な!?』
『みんな見たね? あの横暴な態度を。さっきとは比べ物にならないよね? 僕たちの提督は人を見て態度を変えるタイプの人なんだよ?』
『うわ、白露げんめつしちゃう〜!』
『さ、斎藤司令官は同期ですから! な、なんとか言ってあげてくださいプリンツさん!』
『え、そうだっけ?』
『貴女も同期でしょおおお!?』
白露さんと時雨が何か言ってる様子だが、人によって態度を変えるなんて当たり前だし、警備府内でも露骨に変えまくってる俺を責める者はいないだろう。
正確には気分などで対応を変えることで、あえて親しみやすさを演出しているのだが、慎重にやらないといけない上、一歩間違えばただの卑しい豚提督なので気をつけよう!
「冗談です斎藤大佐、お久しぶりですねぇ」
『あぁ、貴様も相変わらず元気そうだな……早速に連絡を入れた理由について話させてもらうが、実はそちらの陸軍の動向が怪しくてな』
「陸軍ッスか?」
『そうだ……そこに誰かいるのか? できればこの事は内緒にしてほしいのだが……』
「え? あ、了解です、はい」
少しその言葉に困惑しながらみんなとの距離を離す。後ろに誰もいない事を確認するために、壁際に背を付け皆のいるテーブルの方を向くが……みんなもこっち向いてる。なんか落ち着かないけど、近寄ってくる気配は無さそうだ。
なんか村雨ちゃんか白露さんのどっちが胸が大きいか乳比べしている。男もいるんだからそんなアホな事やってないでそのWパイパイで俺の主砲をズリズリしなさい! とそれ以上にアホな妄想でリラックス感を得た所で本題に入る。
「離れました」
『応……実は知り合いの陸軍将校から、何やら九州方面の一部から不穏な空気があると聞いてな』
「そりゃそうでしょ。こっちの佐世保では前代未聞の超大作戦が繰り広げられようとしているんだから、陸軍の方も緊張が伝染してケツ締まってるでしょ」
『まぁ聞け。その作戦には反対派がいる事は知ってるな』
「もちろんです。まぁみんなも、多少なりとも抵抗を感じている人がいるとは思いますが……現段階では、表立って異議をブチかます人はいませんね」
『そうだろうな。まぁそちらの陸軍、そして保守派が何の弁論を用意した所で──』
「ちょっと待ってもらってイイっすか? え? 保守派ってなんスカ? え、もう終わったとか、今の政府も落ち着いたとか、俺が頑張ってプロパガンダ用の武勇伝を命がけで持ってきたとか、え? まだアイツら息があるンすか?」
『当然だろう。別に血を流したわけでもなく、事実上不発に終わったようなモノじゃないか。というか何時にも増して過激だな貴様は』
粛清したわけじゃないし、現連合艦隊司令長官や大湊の加賀提督など、今まで黙ってたからもう諦めたのかと思ってたけど、え、諦めていらっしゃらない?
思想がどうであれ、足並みを崩す輩は粛清しなきゃ。
『別に何が起こると言うわけでもないが、もしも、と言うときがある』
「というと……」
『…………』
「「「…………」」」
早く本題に入れメガネ後ろで時雨達が聞き耳立ててるじゃねぇか。
距離を離して電話の音声を耳に近づけて塞いだ。
『少しばかり世迷事とも取れるかもしれないが、私がいた頃より陸軍では隠し財産があると噂されているんだ』
「……え、斎藤大佐って、徳川埋蔵金ブームでガチになったタイプなンすか? 何世紀前の人ですか?」
『なんだと貴様ァ!? ン、コホンッ、まぁ聞け。私も確証があるわけではないが、その頃聞いた話では、その隠し財産は海軍を経済的にコントロールできる……と、噂程度ではあるが、明らかに表沙汰となっていない噂だ。信憑性はともかく、私も幾許かの興味は唆られた』
隠し……財産?
俺は斎藤長官のご子息であり、あの親潮の兄と言われ、なおかつ俺の提督育成プログラムの同期として、彼を人間として尊敬していたつもりだ。
斎藤大佐のメルヘン的なYOMAIGOTOを聞いて、あ、提督になってだめになっちゃうタイプの人か、と頭を頷かせた。
『もちろんここで会話が終われば頭のおかしい奴だと思われるだろう』
「お、俺の心が読めるッスか!? いやぁ〜一心同体じゃないッスかァ!!」
『やめろ気色の悪い。でもこれを聞いたらどうだ? 陸軍内部では、今その財産の在り処を移そうとしているらしい……が、その噂が上がった理由が、信憑性を増しているらしい』
「ま、マジっすか……」
聞いている内にヤリスギな都市伝説みたいになってきている俺は、最初はつまらないと思っていた話にドンドン耳を傾けていた。
後ろにはもう村雨ちゃんと白露さんのおっぱいが当たるほど接近されており、そのまた後ろにはガイコクジンがわんさかわんさか。見せモンじゃねぇぞお前ら。
追い払う前に、大佐はその真相に迫ってしまった。
『陸軍が隠している財産の在り処が、何者かに攻撃を受けたから……という理由だ』
「「「ええええええ!!?」」」
驚いた時の愚民が放つお決まりの叫び声が耳元で鳴ったせいで鼓膜が破けそうになった。
つかガングートさんタバコクセェッ!! 禁煙だぞオラァ!!
と叫びながら室内に逃げる。
「あ、逃げた。みんな宍戸くん追いかけて! 私達を差し置いておもしろいこと話してるなんていっちばーん許せない事だよね!?」
「はい。話の内容はともかく、話しているカレはCaptainとどのような関係なのか詳しく♂尻たいです」
「あ、もうこのような時間に……では、私は艤装整備に戻らなくてはならないので、これで失礼します」
「あ、うん! 班長さんまたね!」
一部が離脱する中、白露さんを筆頭に警備府内部まで追いかけてくる。
士官や艦娘が行き来する廊下で全力疾走するのは緊急事態なのかと誤解を招くため、俺は小走りを心がける……が、それじゃあ当然追いつかれる。
小さい頃から建物内でのおいかけっこは得意であり、俺は曲がり角を曲がったら次の曲がり角まで全力でダッシュしたり、ドアを無造作に開けてフェイントをかけたりと思考を巡らせながら走り、しぶとく巻こうとする。
が、さすがの白露さんは足が早く、そして何より時雨が俺の行動を熟知しているので、そう簡単には巻くことができない。
「クソウゼェ!! 大事な話があるんだから追いかけてくるなァ!! めっッッッ!!」
『めっ! とか子供に言うことでしょ!?』
『じゃあ合ってるじゃん……あ』
『あッ?』
『し、白露姉さん! ここでジャーマンスープレックスはまずいわ!』
よし、自爆してくれたお陰で白露時雨ペアと、白露さんの暴挙を止めようとする村雨ちゃんの三人は消えた。
残る外国人勢を軽々と巻きたどり着いたのは使われていない倉庫……の中にあるロッカー。警備府の提督ともあろう者がこんな姿になるなんて……と、言っている場合じゃないが、誰も見ていない状況なら何したっていいんだよね。これは経験上の人生教訓である。
『ど、どこに行ったのシシード!? なんであんなに逃げ足早いの!? いつも私と一緒に執務ばっかりしてるのにぃ!』
『Ms.Eugenはなんと羨まけしらかん事を……いいえ、今はそれよりもCaptinを追わなくては。Captain!どこにいるんですかcaptain!? Captain!? 俺のCAPTAINェェェ──ンッッッ!!!』
『今日はもう諦めてもいいんじゃないですか? また後日伺えばいいことですし……』
『私も同志ゴトランドに賛成かなっ。それでも話さないようだったらソ連式で尋問すればいいし』
『ん……そうだったな』
あれほど熱狂していたホモ少佐落ち着きを取り戻す声がロッカー越しに聞こえてきて、その話し声は徐々に遠ざかっていく。彼が仲間の制止で我に帰れるほど理性的な思考の持ち主なのか、あるいはタシュケントさんの言ってた”ソ連式”が彼を一瞬で安心させられるほどヤバイのかは分からないが、今のところは助かった。
絶対に話そう。ソ連式尋問は絶ッッ対に受けたくない。
遠ざかった話声の中には、アイオワさん達が自分たちの提督の話をしているような言葉も聞き取れた。数秒前まで俺を憲法違反者を追いかける憲兵みたいに俺を追い詰めていたくせに、マイペースなのは流石GAIJINだと思った。
『だ、大丈夫か? ま、まさか敵襲か!?』
「いいえ、大したことはないです……はぁ……はぁ……!!!」
『息が上がってるじゃないか……まぁいい、話の続きなんだが』
この人もマイペースだわ。
『陸軍隠し財産が襲撃によって移動させようとしていることはもう言ったな? それからの情報は陸軍に居た時の上官から聞いた話であり、これ以上は知らないそうだが……私の推測からするに、この話題が上がったということは、近い時期に何処かで何かが起こったということだ』
「大佐にしては珍しくアバウトッスね……」
『当然だ、この類の話には確証がないからこそ都市伝説と呼ばれているのだからな。しかし、これはオカルトではなく、都市伝説のようなモノだ。世の中に蔓延るリアリティーを孕んだ話には、その規模が大きければ大きいほど、それが真実である可能性が高いと聞く』
「へ、へぇ〜……え、その、イルミナティーとかローゼンクロイツァーとかオーダーオブイースターンスターとかカンムスナンデジョセイダケナンダとか、そういうのが全部本当ってそれマジ!?」
『少なくても最後のは本当だぞ。まぁいい、それで実は……宝に辿り着くための鍵なのだが』
俺は斎藤大佐の言葉を聞いて、ケツが震えた。