整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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警備府の屋上でMIKKAI2

 

 警備府屋上。

 

 振り向くと、そこのはブリティッシュパイプを咥えながら煙を燻らすガングートさんがいた。女性のように叫んだ男性陣の班長、少佐、俺に反して、女性陣は、うお! と薄い反応を示した。

 なぜこんな所にいるのか? と問い詰めたい所だったが、外国人に比率が多いせいか、自然と輪に溶け込んでしまっている上、アイオワさんが驚いている様子を見せていないので、多分アイオワさんの付き添いであると仮定した。

 

「おいおい失礼な奴らだな? そんなに驚くことはないだろう。それとも、何か内緒話でも……って、そこにいるのはプリンツじゃないか! こんなところに居たとは、久しぶりだなぁ!」

 

「久しぶりだねガングート! 私の事はオイゲンって呼んでほしいんだけど……」

 

「あッ? なんだとドイツ人? では私もオクチャブリスカヤレヴォリューツィヤと呼んでもらおうか。ガングートでもオクレヴォでも私には変わりないが、一応後者が正式なんでな」

 

「おいおいオクレヴォって……自分で略しちゃってるじゃん。この際だからプリンとガングでいいじゃん」

 

「「良くないッッ!!」」

 

 名前にとことんこだわりを見せるロシア艦とドイツ艦の圧に押され負けして黙り込むが、代わりに傍観していた人が口を開いた。

 

「同志Гангут! Ураааааааа!」

 

「同志Ташкент! Ураааааааа!」

 

 誰も理解できないような挨拶(ハンドシェイク)を約20秒間に渡るコンボで交わしたタシュケントさんとガングさんは恐らく面識があるんだろう。発音もネイティブで、実にロシア的だが、なんでガングートさんここいるの?

 あと警備府禁煙なんだけど。

 

「同志ガングって名前いいと思うよ! 呼びやすくて好きだなっ」

 

「同志Ташкентにそう言われるのは悪い気はしないな。とてもХорошоだ」

 

 とてもハラショーだ……警備府の流行語にしよう。

 

「ドイツ語でも道って意味だし、日本人の名前にもいっぱい道って名前の付く人がいるんだよ! 道三とか従道とか!」

 

「その名前同列に並べないでもらえませんかね? 前者はゴミクズで後者は一応我らが栄光なる海軍元帥なんで」

 

「でもガングって確か日本語では玩具……つまり、ガングートはおもちゃって事に……ぷふっ!」

 

「何!? シシード貴様ァ!! 私を侮辱する気かァ!!?」

 

 ゴトランドさんの吹き出してしまった! と焦ったお顔が実に可愛らしかった。その反面、ガングートさんは童顔に似合わず鋭い剣幕と般若形相を浮かべている。

 昔の俺ならおしっこモノだが、ガングートさんが逆レモノに出てくる”じっくりショタの性通を指導するお姉さん教官”だと思い込めば問題ない。

 

「お、おちついてがんぐーとさん! ぼく、そんなにおこられたら、おしっこもらしちゃうよぉ……!」

 

「何を言ってるんだ貴様は気色が悪いぞ」

 

「はぁ!? 今の俺かわいいでしょッ!? 迫真の演技に、一同驚愕! 若手俳優雑誌の表紙を飾るのはなんと、現役の海軍軍人!? 可愛いおとこのこぉの演技からダンディズム溢れすぎて通り際の女に洪水を吹かす都市伝説も満載のあの人が降臨! あれ、俺って最強だった……?」

 

「うわきも、提督きも、キモっ……」

 

「なんとでも言え、暴言と妄想なしではやっていけないこの苦痛を知らない美少女め」

 

「お褒めの言葉は素直に受け取ってくけどっ」

 

 ふん、嬉しそうにしやがって。

 

「若手俳優雑誌といえば、少佐も確か載ってたような……」

 

「あはは、頼まれたのでやっただけなのですが、まさか表紙を飾られるとは……」

 

「同志は明日も撮影に呼ばれてるんだよねっ! いいなぁ〜」

 

 こいつ殴りたい。というかタシュケントさんにとっては全人類同志なのか。

 

「まぁ茶番はそれぐらいにして……どうしたんだこんな所で? アイオワも参加している催しには参加するようにと提督から言われているんだが……」

 

「は、はい、実は」

 

「Okinawaの作戦について話していたのよ!」

 

「「「ッ!?」」」

 

 秘密にしておけと言ったのに口を饒舌になるアイオワさんに、驚きを隠せないみんな。

 なるほど、アイオワさんは、ここだけの、秘密、という、明確に、発言された、ルールを、理解していなかった、様子だ。

 正しい時に、正しい言葉を、正しく使おう。

 

 ファ○クッッ!!!

 

 彼女の所属する柱島の提督である荒木提督にこっそりと教えてもらおうかと思ったのだが、彼女が帰り次第、海軍全域に広まりそう。俺終わった。

 

「あの小さな島のか?」

 

「そう! みんながそこの作戦について考えてたから、私も情報交換していたのよ!」

 

「なるほど」

 

 と思ったが、アイオワさんはある程度の常識を弁えている様子だ。後にオイゲンさんから聞く話では、あの爆乳米人は一応彼女の所属である柱島泊地の中でも常識人に当たるらしい。

 俺が思ってた以上に柱島泊地はヤバイ状況になってるんだな……戦力的な意味で作戦に参加させるべきなんだろうけど、どうすっかなアイオワ軍。と、丁度思考を巡らせている間に、ポケットにあるケータイが振動したので、少し席を外す。

 

「……それにしても、出撃で本土より遠くに出るなんてこれで二度目だよもう……」

 

「あのOperation八号の時の、ですか……Lt.Shigure、並びにSLt.MurasameとLCdr.Shiratsuyuは今でも名高いです。この作戦では、名誉ある先鋒を任される事でしょう……まぁ、私が参加するかは分からないのですが、参加できないと明記された場合は、陰ながら武運を祈っております」

 

「ありがとう! まぁ大規模作戦なんて白露パンチでチョチョイのチョイ!」

 

「白露のパンチって海とか割るの?」

 

「え? さ、流石にそれはないかな〜あはは〜! あ、でもなんかできそうな気がしてきたっ! 私にかかれば島を沈めちゃうかもね!」

 

「ムー大陸みたいになっちゃうんだね同志!」

 

「よ、なんの話?」

 

「白露姉さんが拳一つで島を奪還するんだって」

 

「そうか、じゃあ頑張ってください」

 

「はぁ!? もっとWOW! みたいなリアクションあってもいいでしょ!? 髪の毛引きちぎるよ!?」

 

 リアクションを取らなかっただけでハゲにされる俺を誰か可哀想と思え。

 

「そっちは誰からだったの?」

 

「陸軍の連隊長さん。支援への礼と、挨拶したいから基地に寄って行って、ってな」

 

「僭越ながら宍戸司令官。陸軍へ支離的な感情を抱いているわけでありませんが、曲がりなりにも援助を施した我々に対し挨拶がしたいから足を運べと言うのは、些か礼に欠く言い様かと……」

 

「い、いいえ班長! 俺の方が年下ですし、俺もあんな太っちょ豚に尻的な感情なんて抱いていませんっ!」

 

 仮にも、そして軍が違うとはいえ同格の連隊長さんに対して豚という言葉を使う俺はさぞかし異様に見えたんだろう。俺をあまり知らないガイジンは目を見開いてる。

 

「それで宍戸くん、そのイベリコ豚さんの所にはいつ行くの?」

 

「難聴なのかワザトなのか知らねぇけど、ただでさえ酷い俺の発言を更に酷くするのやめろ。外回りが必要になった時にでも行く」

 

「え、日にちは指定されなかったんですか?」

 

「いつでも気軽に来ていいって言われたから、俺の都合にあわせていく。スケジュールが滞る場合は休日使って行くしかないけどさ……」

 

「ニポーンのArmyはSo niceね! 仲が悪いって聞いたけど、やっぱりただの噂だったようね!」

 

「いや、今でも悪いらしいだぞ。この前に立ち寄ったタバコの店で偶然鉢合わせしたんだが、私が艦娘だと分かると”ベッピンなのにガンナエ”らしい」

 

「あ、私もそんなのあった! ほら、呉鎮守府で提督と一緒におつかいした時に、なんかナンパしてきた人を追っ払ったら、海軍ガー! ってなったの」

 

 柱島組のオイゲンさん達の話題を耳にするに、海軍と陸軍の仲は地域でも差が出るらしい。話を聞く限り呉鎮守府辺りのナカヨシ指数は低そう。提督の話をしているっぽいんだが、提督とはもちろん俺ではなく柱島提督の事である。

 

 そういえばもう俺、あの人と同格なんだっけ? 昇進してなかったらの話だけど、今度あったら柱島にいた時の文句全部ぶつけてやる。権力者のご子息だからってチョーシ乗ってる奴にはオシオキピーポーマックスだぜ。

 

「そんな状況で、実は腕力面では有能だった柱島提督が、一発おみまい! ってか?」

 

「あのときはたしかmeが倒したわね! Cheesy bastards なんてコテンパンよ!」

 

 さらっと国際問題事案だが、アイオワさんみたいな美人に殴られるなんて光栄だと解釈できれば悪くないか。俺は絶対に嫌だけど。そういえば戦艦のパンチって受けたことないな……絶対死ぬ。 

 

「女の子を守れなかったのか……じゃあ無能なんだな」

 

「「「なんだと殺すぞニホンジンッ!!!」」」

 

 柱島三外人が一斉に口を揃えて俺に剣幕を浴びせた。殺気が尿意を掻き立てる中、尿路と肛門を必死に締め付けて漏らすのを防ぐ俺。

 やっぱり人望はあるんだな……と楽観視してはだめだ、軍閥化の恐れがあるぞ柱島。つかこんなエロい三人に懐かれてるとか羨ま死。それほどイケメンでもねぇくせによォあの野郎ッ。

 

 外人率の高いこの場では、なんだかんだで作戦についての立ち回りを話し合っている人が多い。特に外国艦の参戦を拒否する件については、別に問題はないと思っている。

 正直、長い目で考えれば島の利権なんてのは歴史的に見ても立地的に見ても俺たちの物なんだし、どうこう焦る必要性は皆無である……というのが、俺の解釈だが、もちろんそれで作戦と総司令官こと佐世保鎮守府司令長官の意向が変わるわけでもないんだし。

 一応海外士官には重要なことなのでまだまだ話し合いは続きそうだが、そんな中でまた電話が鳴る。

 

 時雨達を含めて、みんな俺の電話に気づいてない様子だったので、今度は席を立たずに応えた。

 

「はいもしもし」

 

『私だ』

 

「あッ? 誰だよ?」

 

「え、また電話掛かってきたの? 宍戸くんはモテるな〜っ! 主に男の人に!」

 

「そういう冗談やめてもらえませんかね白露さん。世の中にはガチで俺のケツ狙ってる人だっているんですよ? 本来出すモノにイレタイとかやばいでしょ」

 

「べ、別に、小官はそのような事♂」

 

「少佐、貴様の話題を出した覚えはない。慎めェッ!!」

 

「は、はいいい♂!」

 

「いいの? もし偉い人だったら今すごく失礼なことしてるけど」

 

「ハァ!? どんな偉い人が俺のパーソナル番号にかけてくるってんだよ? そんな偉い人とお知り合いな

覚えないんですけどぉ〜?」

 

『こちら斉藤だ。返事を頼む』

 

 

 


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