前回の会議のあらずじ!
俺は全然聞いてなかったけど、要するに沖縄作戦の前提が「日本人の、日本人による、日本人のための作戦」となったらしい。
概要としては、GAIJINはこの作戦に参加できない。つまりアイオワさんが来てたのも無駄足だったのだ!
警備府の屋上。
蒼天がテーブルを熱し、太陽光と海からくる温度の下がった微風がゆらりくらりと秋の静けさを物語るこの頃。
亀甲縛りとなっている外人男性士官と、それに付き添って来た海外艦のゴトランドさんとタシュケントさん、及び警備府の構成員がドン引きした様子を見せながら、外国人イケメンチ○ポにも劣らない司令官が事の重大性を説いていた。
「という事らしいんだ。概要は改めて仲のいい第二鎮守府の参謀長さんから直接聞いた」
「ご報告ありがとうございます……でも、本当に私達に話しても良かったんですか?内容もそうですが、直接提督から話すなと言われていたのでしょう?」
「もちろんゴトランドさん達には話しておくよ。海外士官のみんなとの交友に大きなインパクトを与える出来事だし、何より君たちなら信頼できると思ったんだ」
「ありがとうね同志っ!」
「T-thank you admiral……」
ゴトランドさんやタシュケントさんはロシアとスウェーデンだからあまり関係ないとは思ったけど、特に仲の良くなったのが、いつにも増してしょんぼりしているガンビアベイと、亀甲縛りになってるべリングハム少佐の四人で、口が固そうだったからと言う理由もある。
この屋上という天然の密室でこんな事を話すからには、当然俺が呼び出した……かに思われるのだろうが、休暇なので遊びに来たらしい。
「べリングハム少佐、始末されるほどのことではないにしろ、状況はお分かりかな?」
「は、はい……というより、何故私は縛られているのですかCpt.Shishido!? 私が何か粗相を」
「黙れ、天使を誑かした悪魔め」
「宍戸さん! 違うんです!」
男性の性にこれでもかと暴悪な胸をくっつけて誤解だと説こうとする村雨ちゃんの後ろには、時雨と白露さん、それにオイゲンさんが可哀想な生き物を見る目でこちらを見ていた。
「宍戸くん! 良いから村雨ちゃんの話を聞いてあげて!」
「分かりました白露さん……村雨ちゃん30秒以内に簡潔に説明できる? 俺が聞いた会話についての説明。簡潔に説明できないと俺アタマおかしくなっちゃうから」
「もうおかしくなってる……ブフッ!」
「時雨大尉、旧知の仲であるとはいえ、そのような事を司令官に言ってはいけませんよ?」
班長さんの言うとおりだぞ。
と、俺は亀甲縛りで息を荒げているべリングハム少佐から距離を置き、聞こえないように村雨ちゃんが教えてくれた。
少佐が「ま、待ってくれ!!」と叫んでいるが、村雨ちゃんは一礼しただけだった。どうやら本当の事を話すのでごめんなさいという意味だろう。耳に甘い息がかかる。
「じ、実は……宍戸さんの好みを聞かれていたんです……」
「は? なんで俺の好み? はいあと23秒ね」
宍戸くんってヤンデレの素質あるかも、と時雨が呟いたが、これはメンヘラだぞ。あ、自分で思ってて恥ずかしくなったわ。
「そ、その……ひ、一目惚れされたらしくて、その、何が好きかとか、色々と……」
「…………」
俺は後ろを振り向いて少佐を見た。
『キャプテン……はぁ……はぁ……!』
『エイジャックスさん、彼はその……諦めた方が』
『い、いや、何を諦めるだって? べ、別に私は彼に近付こうとなど……など……』
「あのゴトランドさんが持ってるのって、多分宍戸さんへのお土産だと思います……」
F○ck。
「……分かった、俺信じるけど、もしも嘘だってバレたら、警備府にある艦船に乗って単独で沖縄に救国無双してくるから」
「できるんだったらすればいいのに……ブフッ!」
「玉砕宣言だよっ。つかさっきから何笑ってのかな時雨ちゃんは? 村雨ちゃんのオマタを今すぐにでも開いて確認したいっていうのに、紳士な俺は確実的な方法を取らずに、信じるって言ったんだよ? 俺、英国紳士に負けない超絶紳士だと思うけど?」
「紳士の定義、壊れちゃったね」
クソォ!
とやりようのない咆哮を発しながら、戻ってべリングハム少佐を開放する。
「こほんッ……Ms.Murasame。Commaderには」
「え? あ、はい、大丈夫です、全然何も言ってないです。ひゅ〜ひゅひゅ〜」
明らかに怪しさ満点のまま口笛を吹く村雨ちゃん。
「いやごめんね少佐。俺てっきり村雨ちゃんとお近づきになったと思って嫉妬しちゃってね」
「い、いいえ、誤解が解けたようで何よりです。あぁそうそう、これは私からのお土産です……Mr.Shishido個人への、ね」
と、ゴトランドさんが持ってた袋を俺に渡して来た少佐。
中身は……何かの映画のようだ。
タイトルは、Mother F○cker! 〜母と子のヒトトキのアヤマチ〜。なるほど、シリーズ物なのか……あと、巨乳秘書との禁断会議ってのも入ってる。
なるほどなるほど。
「村雨ちゃん? 少佐になんて言ったの? 確かに俺が好きそうなモノは入ってはいる。でも普通に聞かれて話すような内容じゃないよね?」
「なァ!? やっぱりあの事を話したんですか!? Ms.Murasame!?」
「ご、ごめんなさい……」
しょぼんとする村雨ちゃんとべリングハム少佐の秘めたる想いを辱めないために「俺や警備府との交流を深めたいんだな」と付け加えた。
ゴトランドさんは分かっているような素振りを見せ微笑んでいるが、タシュケントさんは頭を傾げる辺り、あまりに複雑なこの状況が理解できていない様子だ。
とりあえず、と言わんばかりに手を叩いて、イケメンホモとのオチカズキ♂云々よりも、より重大な課題である海外士官の参加規制についての話題を始める時雨。
「宍戸提督の話を聞いて分かったことは二つ。一つは沖縄なんちゃらはとってもレイシストな作戦で、もう一つは周知されたくない秘密を宍戸くんには絶対に話しちゃいけない事かな。他言無用とか言われてすぐに話す宍戸くんは信用ならないからね」
「少なくてもオイゲンさんには話しとく必要あるだろうがァ!? 逆に話さなかったらオイゲンさんの事を信用していないってェ事になるだろうがよォ!?」
「話してくれてありがとうシシード……」
何時もながら可愛らしい笑顔を見せるオイゲンさんが、それに反して今日はどんよりした気分になっていた事を知り、時雨と白露さんは押し黙った。ガンビアベイと同じような立ち位置にはいないものの、やはりショックを受けている様子だ。
「まぁでも、丁度話すタイミングが良くて助かったよみんな……と言いたいところだけど、なでみんなここにいるの?」
「ガンビアベイの様子を見に来たんですっ」
「そうそう! Gambier Bayはオドオドしてるからどうしてるのかと思ったけど、貴方のunderにいるなら安全ねっ!」
「まだ九州にいるんですかアイオワさん……」
「ひどい言われようね!? Meのこと嫌い!?」
「いや、そういうわけじゃなくてですね? ハァ……勝手に入ってきたり出ていったりどいつもこいつもォ……軍の規律をなんだと思ってるんだ?」
「宍戸くんに、今世紀いっちばーん! のブーメラーン!」
「まぁまぁ……無論、見に来たのはガンビアだけじゃなく、Captainの様子もですが♂」
「お、おう、流石だな少佐。こんな大事に対してもドッシリと構えている」
「もちろんですよ。しかし素敵な人を見つけると、少しだけ体勢が緩くなってしまうんですよ♂?」
熱帯光線並に熱いイケメンの視線に、つい目を逸らしてしまうノーマルな俺。
屋上への見張りをしていた班長が白露さんと入れ替わりながら、輪に入ってくる。
「班長さん、この海外士官らの状況についてはどう思いますか?」
「ふむ……一組織を過分ながら束ねさせて頂いているとはいえ、整工班からこのような知恵勝負への具申意見などは、司令官のご一考の妨げにしかならないと思いますが……」
「と、とんでもありません!! い、色々と妨げているのは俺の性別です!」
「ん?」
べリングハム少佐が何かに気付き、恨めしそうな顔で班長を睨みつけた。おい、班長はオレのものだぞ。
その異様な空気を嗅ぎつけた時雨がハンドサインで、
三角 関係 やめろ
だってよ。
は? 三角関係? おいおい俺たちは男だぞ何言ってんだ時雨。
もちろんこの空気に気づくのは俺たちだけでなく、アイオワさんやゴトランドさん、ベイまでもがジト目を向けてくる。この視線はアレだ、こんな男のドコがいいんだ?みたいな目だ。
モテる漢は辛いぜぇ……モテる対象がズレてると地獄だぜ。
と心で呟きながら、屋上に設置されたプラスチック製の安いが広いテーブルに腰掛けた。太陽光と光合成しながら優雅なティータイムとはこの事か、と言わしめる状況。美男美女の立ち振る舞いは絵になり、俺の場違い感が半端ない。
用意されたお茶は自動販売機産で紙コップすらないが、それでも絵になる外国人の皆様。
「オイゲンさんビスケット食べる?」
「うん、食べる!」
「私のもいかがですか?」
「うん!食べ……あ、やっぱりいいや」
「なんでですかぁ!? スウェーデンでは好評なんですよッ!?」
ゴトランドさんの手の平には缶詰が……スウェーデン……缶詰……あ、やばいヤツだ。
「シュールストレミングじゃないですよ!! 普通の缶詰です!!」
そう言って細い手で缶詰を勢いよく開ける缶詰に、全員が退避行動を取ったが、地に伏せてから数十秒、悪臭はない。よく缶をみるとブッレンス・ピルスネルなんちゃらかんちゃらと書いてあり、中身はただのソーセージのようだ。
流石にソーセージを否定できる血統に生まれていないオイゲンさんは、小さいお口でカプリとソーセージを咥えた。
美味しいものを食べて笑顔を取り戻すと、オイゲンさんは早速本題に入る。
「改めて総括すると、私みたいな外国人は絶対に参加できないんだよね?私、どうなっちゃうんだろ……?」
「いいじゃん別に、仕事が楽で」
「Eugenがそうでも、私達は……」
言いにくそうに少佐とアイオワさんを見るガンビアベイ。
アイオワさんはあまり気にしている様子はなくコーラの三本目を開けていたが、べリングハム少佐は飲んでいた缶コーヒーを一気飲みし、覚悟を決めたような表情を浮かべて口を開いた。
「実は……我々の方でも、沖縄作戦を支援するようにと言われているのです」
「それってアメリカでの上官的なヤツ? 海外士官とはいえ、日本の管轄に入っている以上は日本のオフィサーとして、現地の上官の人事に従わなきゃいけないんじゃないの?」
「だから驚いているのです」
なるほど、言質を取って論理的に考えるとつまり、コイツ等が沖縄作戦に参加できるようにアメリカ本国側から日本海軍の上層部への根回しを行っていた事が予想できる。
でも状況を考えるにそれは成功しなかったのか、日本海軍の謀略ディフェンダーが効いているのか、アメリカ側の単なるミスなのか、あるいは……何れにしても、俺は陰謀とか謀略とか策謀とかを好むタイプではないので、そういう汚い事にはノータッチな公明正大系提督を貫こう。
「うん、まぁでもね、その……色々と、頑張ってね?」
「え、ここまで話しておいて丸投げなの!? 同志としてそれはどうかと思うなっ!」
「す、すいませんタシュケントさん……でもですね、話した理由そのものは、提供した情報を利用してうまく立ち回れるようにさせる為なんです」
「そうですよタシュケント? こんな事を我が身顧みず話してくださった宍戸提督に感謝しなくては」
「うぅ、そうだったね……ごめんね、同志っ?」
申し訳なさそうに上目遣いで謝ってくるエチエチボディー外国人美女を見ると「オラァ許さねぇぞ孕めェッ!!」ってしたくなるのはなぜだろうか?
「それに、Cpt.Shishidoは素晴らしい方です。話してくれたからには、我々は同じ秘密を共有するナカマ♂……できる限りのサポートは、して頂けるのでしょう?」
妙に厚くて、暑くて、熱いクリスタルブルー色の目線を除けば、自分と仲間の保身の為にちゃんと逃げ口、及び協力者の存在を確認する辺りは流石だ。
「あぁもちろんだ、俺のできる限りはしてやる」
「助かります……Captain♂」
べリングハム少佐は腰を上げ、男のくせに艶がかった肌と髪をこれでもかと寄せてくる。
ウホッ、いい男。
流石にこの行動が異様に見えたのか、村雨ちゃんが膨れ面をしている。時雨と白露さん以外の全員はHuh?と口を揃えて男子同士の見つめあいに意義を見いだせていない様子だ。
手に触られようとした瞬間、咄嗟に時雨の後ろに隠れる。時雨の甘いシャンプーの匂いを堪能しながら、会話を繋げようと口から言葉を絞り出した。
「ま、まぁ流石に!? 提督に直談判して口論を広げたり、上官部下の間にある言質の不平等性がムカつくからって、10月革命を起こしたりはできないけどさ!? うん!」
「呼んだか?」
「「「うわぉ!」」」
「「「きゃああああああああっ!!!」」」